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火の国の地底で蠢くもの

#ケルベロスディバイド #黄道神ゾディアック

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●熊本:決戦都市
「撃て!!」
 指揮官の号令に、壁の上に設置された砲台から、砲弾が飛び、一拍遅れ別の場所から魔力砲が放たれる。
 無数の砲撃が、都市の壁にとりつこうとしていたハイドラホーラー数体を吹き飛ばす。だが、吹き飛ばされた仲間を気にもせず、敵はひたすらに攻撃を仕掛けてくる。
「次弾急げ! うおっ!?」
 突然の、短く、しかし激しい揺れに、あちらこちらで悲鳴が上がる。だが、この国の人間にとって地震など日常茶飯事。すぐさま体勢を立て直し攻撃を再開する。
 指揮官もまた、すぐに指示を飛ばす。彼は、そもそもこの熊本の出身だ。動揺などしない、のだが。
「……くそ、急がねえと駄目だっていうのに」
 彼は苛立った目を、狂った様子で襲い来るハイドラホーラーの群れへと向ける。
 頻発する地震の原因は、普通ならば阿蘇山であるはずだ。だが、阿蘇山は不気味なほど静かで、噴煙一つ上がっていないのだ。
 長く住んでいるからこそ気になる不自然な現象に、調査をしなければという声が彼以外からも多く上がっている。
 そして、同じく長く戦いに関わっている彼の勘が、ハイドラホーラーたちの動きが奇妙だと伝えてくる。
 だが調査したくても、敵の襲撃を防ぐのに手一杯。
 そのことに、男は舌打ちしながらも、今やるべきことをやるために、声を張り上げるのであった。

●グリモアベース
「まずは集まってくれたことに感謝を」
 プレケス・ファートゥム(森を去りし者・f02469)が、猟兵たちに軽く頭を下げる。
「新たに見つかった世界『ケルベロスディバイド』。その世界の日本国の九州地方にある、熊本市へと向かってもらいたい」
 熊本市もまた、決戦都市としてデウスエクスとの戦いに備えている。
 その都市に数日前より、『ハイドラホーラー』――|多頭竜《ハイドラ》の属性を己に宿したドラグナー――の襲撃があり、都市はその対応に追われていた。
 勢力は拮抗。いや、じりじりと人類側が押している。
 ハイドラホーラーだけが相手ならば、数日で押し切りることができるだろう。
 だが、それでは遅いのだ。
「阿蘇山の地下深くに、ハイドラホーラーに命令をしているものがいる。通称『地底潜航竜』と呼ばれるデウスエクスだ」
 そのドラゴンは、名にふさわしく地中活動に特化する形で進化したドラゴンだ。ワーム状の肉体と鋭い牙で地中を掘り進む。そして、今回は阿蘇山の溶岩だまりの近くへと潜り込んでいた。
「ドラゴンの目的は、阿蘇山の噴火だ」
 無論、決戦都市は物理的にも魔術的にも守りを固めている。だが、火山の猛威にさらされてはただでは済まない。その被害は甚大なものとなる。
「火山を使い大量の人々を殺し、一気にグラビティ・チェインを手に入れようと画策しているのだ……十二剣神『黄道神ゾディアック』は」
 噴火が起こる前に、なんとしても地底潜航竜を排除しなければならないと、プレケスが強い言葉で告げる。
「本来なら、阿蘇山が噴火しても、ほとんどの場合北側へと流れるはず、なのだが……現在、外輪山の外側に火口が作られている」
 それは、敵である地底潜航竜が潜り込んだ穴でもあった。ハイドラホーラーたちは、噴火までの時間稼ぎと、穴の隠蔽のために、捨て駒として戦っているのだ。
 その穴を突き進めば、地下に潜む潜航竜の元へとたどり着ける。
「潜航竜は断続的に、周辺に小さな地震を起こすことで、溶岩だまりに刺激を与えている。今ならば、その動きを止めれば火山は沈静状態へと移行するだろう」
 だからこそ、できる限り早く潜航竜を排除しなければならない。
「潜航竜の眼前とはいかないが、その穴のできる限り近いところへ転移を行う。目の前は穴の入り口を守るハイドラホーラーだらけだが、それに構っている暇はない。奴らを倒し、振り切って、地底潜航竜が潜む地下へと向かってほしい」
 説明を終わらせようとしたプレケスが、忘れていたとばかりに言葉を続ける。
「ああ、決戦都市へは、私が連絡を入れておくから、何か支援が欲しいなら、あらかじめ伝えておいてくれ。ハイドラホーラーは、君たちを追うだろうから、あちら側にもその程度の余裕はできるだろう」
 そう言うとプレケスは自身の肩に留まっていたグリモアを指でつつく。
 つつかれたグリモアは出番だなと言わんばかりに、プレケスの頭の上をクルリクルリと旋回したあと、猟兵たちのほうへと飛んでいく。
「君たちの無事の帰還を待っている」
 その言葉を合図に、プレケスのグリモアがきらきらと光を放ち、猟兵たちを戦場へと送り出した。


白月 昴
 目を通していただきありがとうございます。白月・昴です。
 今回は、ケルベロスディバイド世界の熊本へ飛んでいただきます。

●転移先
 地底潜航竜のあけた穴の前です。守っているハイドラホーラーと、即戦闘になります。

●シナリオについて
 第1章は集団戦です。ハイドラホーラーたちはわらわらと湧いてくるので、全滅させるのは不可能です。道を切り開くつもりで戦ってください。
 第2章はボス戦です。地底潜航竜は火山の地下に大きな空洞を作って待機しています。その空洞で暴れることによって地震を起こしています。
 第3章は日常です。温泉です。ハイドラホーラーたちの狙いが、時間稼ぎと穴の隠蔽であったためか、思ったほど都市に被害は出ませんでした。
 勝利の決め手となった猟兵たちに、街の人々が是非にと温泉に案内してくれます。どうぞ温かいお風呂で、疲れを取ってください。
 大型の施設なので、いろんなお風呂や遊戯施設があります。
 なお温泉は公共の場ですので、あまり羽目を外しすぎるのは禁物です。

●技能について
 技能は、技能名だけを並べるのではなく、その技能で何をするかを書いていただけると、より参加者様の思ったものに近い描写ができると思いますので、よろしくお願いします。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ハイドラホーラー』

POW   :    ハイドラファング
自身の身体部位ひとつを【ドラゴン】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ハイドラブレス
【多頭竜の首】から【毒のブレス】を放ち、レベルm半径内の敵全員を攻撃する。発動前の【詠唱】時間に応じて威力アップ。
WIZ   :    竜首再構築
【より混沌化した姿】に変身する。変身の度に自身の【肉体から生える竜首】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。

イラスト:ろま

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シルヴィ・フォーアンサー
決戦配備のスナイパーを要請:長距離ミサイルの着弾に合わせて自分の攻撃で吹っ飛ばします。

……火山を噴火させるとか凄い事考えるね。
『手間がかかる分効果は抜群というわけだな、それだけに阻止しなくてはならん』

シルエット・ミラージュからのロケットパンチを誘導弾としてコントロールして毒ブレスを吐こうとしてた口を殴って塞ぐね。

次に決戦配備の要請でミサイルを着弾、その間に飛ばした両腕を呼び戻し。
止めに分身とギガント・プレッシャーで識別する必要ないので巨大化した武装の一斉発射で三回攻撃するよ。 目の前が綺麗に何もいなくなったら増援が来る前に地底潜航竜のあけた穴に向かってスラスター吹かして突入するね。



「……火山を噴火させるとか凄い事考えるね」
 愛機であるクロムキャバリア《ミドガルズ》のコックピットで、シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)が、ぽつりと言葉を零す。
 その視線の先に見えるのは、外輪山の側面に開けられた巨大な穴。潜航竜が新たなる火口になる様にと掘ったものだ。
『手間がかかる分効果は抜群というわけだな。それだけに阻止しなくてはならん』
 サポートAIユニット『ヨルムンガンド』――ヨルが、シルヴィの言葉を受け、重々しい声で答える。
「うん」 
 シルヴィはビーム砲で襲い来るハイドラホーラーたちを打ち抜いていく。
 だが仲間の死も、味方の損害も、全く気にせずハイドラホーラーたちはミドガルズへと押し寄せる。
『これは確かに、全滅など狙ってられないな』
「その間に、噴火が起こっちゃうね」
 とはいえ、ある程度削らなければ、彼らの後方にある潜航竜の作り出した穴の中へ飛び込むこともできない。
 ふと、数体のハイドラホーラーが、ミドガルズから距離を取ったことにシルヴィが気づいた。それらは口々に詠唱を始め、それにこたえるかのように背後の多頭竜たちが蠢き始める。
「させないよ」
 シルヴィが、詠唱を行っている敵に向け、ミドガルズの腕を伸ばす。
 どう考えても届く距離ではない。
 だが、その腕が突然分離し、詠唱を続けるハイドラホーラーへと飛んでいく。つまりロケットパンチである。
 ぎょっとした敵の詠唱が、一瞬止まる。
 そんなことはどうでもいいとばかりに、ロケットパンチはヨルの制御を受け、次々と蠢く竜たちを殴り飛ばし、強制的にその口を閉じさせていく。
 勿論シルヴィもミドガルズを操り、迫るハイドラホーラーたちを倒す。だが、押し寄せる波のように現れる増援に、穴のある方へと進むことができずにいた。
 そんな、膠着状態が暫し続く。
『シルヴィ、もうすぐ決戦都市からの遠距離支援用ミサイルが届く。それに合わせ動くぞ』
「え?」
 唐突なヨルからの報告に、シルヴィが目を白黒させる。
『こうなる可能性を考慮して、要請をしておいた』
「ありがとう。さすがヨル」
 いつも自分を助けてくれるヨルへ向けられるシルヴィの感謝の声。それには、全幅の信頼が宿っていた。
『任せておきたまえ。それよりも、シルヴィ』
「うん!」
 シルヴィが機体を操り、ハイドラホーラーたちを、ヨルの示す着弾地点へと集めていく。
『3、2、1、今だ!』
 スラスターを吹かし、着弾地点から離脱する。
 ――ドガガガガン!
 その一瞬後、決戦都市より放たれた遠距離ミサイルが着弾し、ミドガルズに追いすがろうとした、ハイドラホーラーたちを吹き飛ばす。
 一瞬できた、敵の攻撃の隙間。それを見逃さず、ヨルは切り離していた腕を本体へ戻した。
『シルヴィ。続けていくぞ』
「うん、ボコボコにする」
 シルヴィが頷くと同時に、14体のミドガルズが突如として現れる。
 シルエット・ミラージュにより生み出された精巧な分身たちは、その精巧さそのままに、オリジナルたるミドガルズの動きを模倣する。
 つまり。
「……ぷちっと潰すよ」
 ミドガルズが、巨大化した武装から、周囲に蠢くハイドラホーラーに向け一斉射撃を放つ。それに続くように、14体の分身たちも同じように、周囲へと攻撃を放っていく。何しろここにいるのはシルヴィと敵だけ。敵味方を識別する必要もない。
 15の機体の、その巨大武装がもたらす砲撃は、三度、その地に破壊の嵐を巻き起こした。
 吹き荒れた攻撃が終了した後には、シルヴィの騎乗するミドガルズ以外の姿はない。
『殲滅完了。だが、おそらくすぐさま増援が来る。急ごう』
「わかった」
 ヨルの指示に従い、シルヴィはミドガルズのスラスターの出量を最大まで上げ、地底へと続く穴へと突入した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御堂・伽藍
アドリブ、即席連携歓迎

どらごん すれいやー
竜を猟するは、兵の誉故に

キャスター要請
雷属性魔力を強化
地形を利用し魔力を増幅

残像陽動フェイント忍び足でゆるゆると接敵

射程に入り次第念動怪力雷属性衝撃波UC
フェイント二回攻撃追撃を交え範囲ごと薙ぎ払う
マヒ捕縛目潰し結界術
雷撃の状態異常にて敵を止める

敵の攻撃を落ち着いて見切り
残像陽動フェイント忍び足で躱し
さもなくば念動怪力衝撃波敵を盾にするオーラ防御等で受け流す

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃追撃
動けない敵を盾に敵を阻止する

いそげ いそげ
時は値千金なれば!
それでは しつれいします



「どらごん すれいやー」
 それは小さな声だった。
 だが、ここは狂った竜の信奉者のひしめく戦場。
 許されてはならない言葉に、ハイドラホーラーたちが怒りの表情を浮かべ周囲を見渡した。
 そして、一つの影を見つけた。
 黒い長髪の、小さな子供。
 あふれかえるほどにいるハイドラホーラーたちからの、憎悪の眼差しに、子供――御堂・伽藍(がらんどう・f33020)は、けれど怯えた様子も見せない。 
「竜を猟するは、兵の誉故に」
 まるで宣言するかのような言葉と共に、彼女の足元を中心とした地面に、巨大な光、いや雷による魔法陣が描かれていく。
 決戦都市・熊本の防衛設備の一つだ。伽藍の支援用にと、雷属性の魔力が回されているのだ。
 その魔力を受け取り、彼女自身もばちりとその身から雷を弾かせ、長い黒髪がふわりと舞う。
 魔法陣に満ちる雷を恐れる様子もなく、ハイドラホーラーたちは伽藍へと襲い掛かる。
 だが、それは雷の見せた幻だ。
 伽藍自身はすでに移動している。
 静かに、けれど素早く敵の懐に潜り込んだ伽藍は、その身に纏う雷撃を周囲に放ち、ハイドラホーラーたちを麻痺させていく。
 麻痺が回復する前に、|刃《ふんしん》で、蠢く竜首ごと斬り倒す。
 雷を弾けさせ、視力を奪い、慌てる敵の喉を|短刃《じしん》で掻き切った。
 食らいついてくる竜首を避け、逆に伸び切った首を掴み、引き寄せ盾にして、同士討ちを演じさせ。
 だが、周囲を埋め尽くすハイドラホーラーたちは、減る様子を見せない。
 急がなければ。
 ハイドラホーラーを倒すことが役目ならば、この場で戦って戦って、戦おう。
 けれど、がらんどうのすべきことは、そうではない。
 一刻も早く、潜航竜の元へたどり着き、噴火を止める事。
 だが、敵の数がそれを許してくれない。
 ならばと、伽藍は雷を集める。
 伽藍の様子に気づいた一体のハイドラホーラーが、苦悶と歓喜の入り混じった声をあげる。
 ハイドラホーラーの声が止まる。途端、その体は、まるで膨れ上がる様に倍ほども背が伸び、体から生えた竜首の数もまた、増えていた。そして、その頭部には、先ほどまでなかったはずの黒い巨大な角がはやされている。
 それが呼び水になったかのように、周囲のハイドラホーラーたちも、次々と巨大化し、竜首を増やし、その体を歪に変化させた。
 先ほど以上に狂った目たちが、伽藍を見つめた。獲物として。
 だが、それでも、伽藍は怯まない。
「八柱の死神、我等の守護に降り臨む! やくもたつ、いずも……」
 ハイドラホーラーたちの攻撃を時に躱し、時に流しながら、伽藍は朗々と、謳うかのように言葉を紡ぐ。
 紡がれた言葉は、彼女の体、がらんどうの中に蓄えられた雷を束ね、編み、八つの紫電の剣を生み出した。
「どいて」
 伽藍の進行方向、潜航竜の開けた穴を塞ぐように立つハイドラホーラーに向け、紫電を放つ剣が放たれる。
 剣を追い、伽藍も走る。
 ――いそげ いそげ 時は値千金なれば!
 伽藍の前に立ち塞がる敵は、剣に穿たれ跡形もなく雷に焼かれていく。
 だが、一本の剣だけは、ただ地面に突き立った。
 外れた、のではない。外したのだ。
 剣を中心に、地面に浮かび上がるのは巨大な九曜紋。
 その中心で立ち止まり、伽藍は背後を向く。
 伽藍を追ってきた敵に、九曜紋により高められた魔力で練られた、特大の雷撃が降り注ぐ。
「それでは しつれいします」
 伽藍は、軽やかな声でそう告げて、潜航竜の潜む穴へと駆けていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・紗綾
火山の噴火とかふざけたコト企みやがりますねトカゲ野郎共。
何としてもこの企みはブチ壊してやりませんと。

|決戦配備《ポジション》:スナイパーを要請、転移地点付近への遠距離攻撃支援をお願いしておきます。

私は転移完了直後から穴目掛け一目散に【ダッシュ】。
前方の敵へスティンガーグレネードを投げつけ纏めて【爆破】、生き残ってる敵を月蝕・参式の単射モードで【レーザー射撃】して仕留めていきます。

とはいえ、そのうち包囲はされるでしょう。
その時はUC発動、周りに機雷をバラ撒きその爆発で撹乱しつつ麻痺させます。
後は遠距離攻撃支援も併せて、進攻に邪魔な敵を仕留めつつ穴を目指しましょう。



「火山の噴火とか、ふざけたコト企みやがりますね、トカゲ野郎共」
 叢雲・紗綾(嘲り詰る兇弾・f40836)の声が響くと同時に、スティンガーグレネードがハイドラホーラーたちへと放たれた。
 ――ドンッ!
 重い爆発音とともに、この地を埋め尽くしていたハイドラホーラーたちの体が吹き飛び、宙に舞い、そして、地面に叩きつけられる。
 それによりできた隙間を、紗綾はダッシュで駆け抜ける。
 目指すのは、外輪山に穿たれた巨大な穴。
 正確には、その先に巣食う地底潜航竜だ。
 もしここから溶岩が流れ込めば、その被害は甚大だ。
 多くの人が戦うために集まる決戦都市は、それゆえに大量の人々が住んでいるのだ。
 必死に明日を夢見て戦う人々を守るためにも。 
「何としてもこの企みはブチ壊してやりませんと」
 スティンガーグレネードの被害が軽微だったハイドラホーラーたちが、紗綾の前に立ちふさがる。
 だが、紗綾は立ち止まることはない。代わりとばかりに、弐拾壱式電光小銃『月蝕・参式』を構えて。
「遠慮なく食らいなさいませ!」
 月蝕・参式から放たれた、高威力の光弾がハイドラホーラーの胴を、頭を撃ち抜いて、屠っていく。
 襲い来る竜首を、父譲りの身捌きで避ける。即座に竜の頭の側面を撃ち抜いて、続けて本体ともいえるハイドラホーラーの首筋を狙い、引鉄を引く。
 だが、それでも。
「無駄に群れていますね、このトカゲ野郎共」
 倒しても倒しても、どこからともなく湧き出てくるハイドラホーラーたちに、さすがに紗綾の足が止まる。
 それを好機と見たのだろう。
 紗綾を取り囲むハイドラホーラーたちの、後衛に当たる者たちが、ぶつぶつと聞き取れない言葉で詠唱を始める。
 聞き触りの悪い、しかも、確実をこちらを害するために紡がれるそれを、黙って許す紗綾ではない。
「ちょっと黙ってて貰いましょうか」
 優雅な仕草で、ひらりと服の裾を翻せば、そこから現れたのは、高電圧パルス放出式浮遊機雷。
 100個を軽く上回る浮遊機雷が、高電圧パルスを振りまきながら、紗綾を取り囲んでいたハイドラホーラーへとぶつかっていく。
 ――っ!!
 機雷の爆破および電撃ダメージに上がりかけた悲鳴は、しかし続く麻痺により音となりはしなかった。
 ハイドラホーラーたちの動きが止まった隙を逃さず、紗綾は再び走り出す。
 だが、影響の少なかったハイドラホーラーたちが、行かせまいと、紗綾の進路を妨害する。
 ハイドラホーラーたちを避けるように、複雑な移動をする紗綾。
 穴の元へ行かせまいとすることに必死で、ハイドラホーラーたちは、自分たちがある地点に集められていることに気づかない。
 紗綾が、足を止める。
 振り返った紗綾の顔に、優美な笑みが浮かんだ直後。
 ――ドンドゴンッ!
 支援要求により、決戦都市から放たれたミサイルが、ハイドラホーラーが集められた場所へ、正確に着弾する。
 多くのハイドラホーラーが、その爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。
 機雷とミサイルにより、大きく数を減らしたハイドラホーラーたち。
 いずれ再び増援が来るにしても、今、この場で立っているのは、穴の近くにいたために、無事であった者たちのみ。
 爆風が収まると同時に、穴に向かい駆けだす紗綾。
 当然、それに気づいたハイドラホーラーが動こうとするが。
「邪魔者は皆、撃ち抜いてやりますよ」 
 残りのハイドラホーラーたちの額を、紗綾の光弾が撃ち抜いていくほうがはるかに速い。
「雑魚に構ってる暇はありませんので」
 もはや動かぬ敵の脇を抜け、地底に潜む竜を屠らんと、紗綾は穴へと飛び込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暗都・魎夜
【心情】
あっちこっちの侵略者が襲ってくる世界ってのは伊達じゃねえな
人間の襲い方もバリエーションに富んでいやがる
そこについてはマジに感心するぜ

もっとも、それを自由にさせてやる義理なんざ、こっちにねえけどな

【決戦配備】
ジャマー:こちらの隠密がやりやすいよう隠ぺいをしてもらう

【戦闘】
ドラゴンを崇める狂信者種族で、自身もドラゴンに変わるわけか
戦闘力もまあ脅威だが、この場は耐久力の方が面倒な相手だ
後で相手してやるから、この場は無視させてもらうぜ

UCを用いて「闇に紛れる」
「索敵」しつつ火山の地下を目指す

戦闘が避けられないようなら遠距離から「先制攻撃」「斬撃波」で攻撃

なんだって、ドラゴンに従っているんだか



(あっちこっちの侵略者が襲ってくる世界ってのは伊達じゃねえな)
 暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)は身を潜めながらそんなことを思っていた。
 魎夜の視線の先には、この地を埋め尽くさんばかりのハイドラホーラーがたむろっている。そしてその奥には、外輪山に穿たれた巨大な穴が見てとれた。
 このままであれば、その穴は阿蘇山の新たな火口となる。吹き出る溶岩は、決戦都市に襲いかかり、多くの人々の命を奪うこととなる。
(人間の襲い方もバリエーションに富んでいやがる。そこについてはマジに感心するぜ)
 もちろん嬉しくもなんともないが。 
(もっとも、それを自由にさせてやる義理なんざ、こっちにねえけどな)
 獰猛な目で、魎夜は敵を睨む。
 無数の竜首をその身に宿すハイドラホーラー。
 ドラゴンをあがめる狂信者であり、竜語魔術の修練の末に、|多頭竜《ハイドラ》の属性を己に宿したデウスエクスだ。
 今回の任務の、最終目的は決戦都市を守ること。その為には地底潜航竜を撃破し、火山の噴火を止めることが必須だ。
 つまりは、ハイドラホーラーが守るこの場を抜け、あの大穴の奥に進まねばならない。
 この場合、問題となるのは、ハイドラホーラーの戦闘力よりも、耐久力である。
 それでなくても、この数だ。囲まれてしまえば、抜け出すことは至難となるだろう。
(後で相手してやるから、この場は無視させてもらうぜ)
 魎夜の体が、闇のオーラに包まれた。これにより、視覚嗅覚による感知が不能となった。
 そして、それに合わせるかのように、戦場にうっすらと霧が広がる。あらかじめ要請していた、決戦都市からの魔術支援だ。
 異常を感じたハイドラホーラーたちが、周囲を探索するためか、ばらけ始める。
(よっし、いくか)
 敵の層の薄いところを慎重に索敵しながら、歩を進める。
 見えず、聞こえず、匂わず。
 それでも、触れられれば気づかれるし、何より相手は竜の力を持つデウスエクス。どんな感知器官を持っているか分かったものではない。蛇などは熱源を感知して獲物を追う種類もいるぐらいだ。
 それでも、支援魔術の効果もあってか、穴のほど近くまでたどり着くことができた、のだが。
(あー、やはりいるか)
 近くの茂みに身を隠し、舌打ちする。
 さすがに、穴の直前の守りまでは手薄にさせられなかったようだ。数体のハイドラホーラーが動くことなく、周囲に目を配っていた。
 だがまあ、いたものはしょうがないと意識を切り替える。
(一撃は、さすがに無理だろうな)
 高い耐久力を危惧し、戦闘を避けてきたのだから。
 だが、それでも、奇襲で先制できれば、かなりこちらが有利になる。
 周囲を索敵し、極力ほかのハイドラホーラーが穴から離れているタイミングを伺い。
 ――っ!!
 魎夜が放った遠距離からの衝撃波が、ハイドラホーラーたちを吹き飛ばし、山肌へと叩きつける。
 その音にほかのハイドラホーラーが反応し、押し寄せてくる気配を感じながら、魎夜は穴へと向かい駆ける。
 衝撃にふらつきながらも立ちふさがるハイドラホーラーを切り捨てる。止めまでさす必要はない。今は時間こそが最大の敵になる。
 そのまま駆け抜けようとして、一瞬、もはや動けぬハイドラホーラーを、竜の狂信者をちらりと見て。
「なんだって、ドラゴンに従っているんだか」
 つまらなさそうに一言こぼし、魎夜は穴へと入り、ひたすらに地下を目指すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
【ドヴェルグ】

決戦配備:スナイパー
精密誘導弾でドラグナーの陣形を切り崩してもらう。

これが|竜属崇拝者《ドラグナー》か。物理で相対するには攻防共にかなり強力そうね。
とはいえ無力化すればすむ。
天威千里法の「範囲攻撃」重力千倍で押し潰す。顔を上げる事も出来ないでしょ?
効果が切れる前にポーラが作った氷結領域を越えましょ。
機甲式式神『GPD-331|迦利《カーリー》』召喚。その上面に乗って、潜航竜が空けた穴の場所へ空中を移動する。下を見れば、高重力に負けて地面に這いつくばってる連中の多いこと。まともに相手したくないわね。
奥ほどあたしの術が浸透してないから、『迦利』の「レーザー射撃」で撃退する。

さて現着。


イクシア・レイブラント
了【ドヴェルグ】
敵戦力の制圧を確認。
ゆかりさんの超重力、日野さんの大気干渉、ポーラさんの凍結効果。さすがね。
でも、奥に進むほど天威千里法の効果は鈍くなるのね。了解、ここから先は任せて。

前方に敵を見つけ次第、機体各部を発光させて[存在感、陽動、おびき寄せ、推力移動、滑空]。
敵の攻撃を私自身に向けさせて[武器受け、盾受け、空中機動]、大型フォースブレイドで[なぎ払い、鎧無視攻撃]。
【ウイング・オブ・フリーダム】で仲間を鼓舞し、みんなと連携して進路を切り開く。
とどめに決戦配備クラッシャーによる弾幕を要請。後方の憂いを断つ。

みんな怪我はない? さあ、ここからが本番ね。


日野・尚人
【ドヴェルグ】
決戦配備:スナイパー(長距離ミサイルで敵の撹乱を要請)

おー?うじゃうじゃ居るな?
こんなのを一々相手にしてたら切りが無いし、それじゃ作戦通り・・・
|頼むぜ!大空を覆うもの!《UCを発動》
酸素欠乏状態ならブレスを吐く事も、ましてや長々と詠唱なんて事も困難だろ♪
まあ根性でやり遂げても|俺たちに毒は効かないからな?《状態異常の無効化》ご愁傷さん?

敵を無力化したら≪シルフィードボード≫で空中<サーフィン>だ。
目的の穴まで|一気に飛ばすぞ!《<空中浮遊+空中機動+ダッシュ>》
ポーラ、あんまり(ポケットから)顔出して吹っ飛ばされるなよ♪

楽勝楽勝♪この調子で地底潜航竜もパパっと片付けてやろうぜ♪


ポーラリア・ベル
【ドヴェルグ】
ポジション:ジャマー

火山かー。噴火するとあちこち大変なの。
でも冬はそういうマグマも眠らせる雪を降らせるのです。
ポーラもお役目果たすの。雪山にしてあげる!

UCで辺り一面の地形を凍らせて、ツルツル滑る中を突破するよ!
毒のブレスは【天候操作】の吹雪で押しのけてみるー!
ハイドラさんの口も凍り付けば、もう詠唱もできないしブレスも吐けないね。

更にあらかじめ配備した戦闘ヘリにスタン系の電磁ミサイルを撃ち込んでもらう支援もらって、麻痺させてもらうの!

なおなお(尚人)のポケットの中に入るから、移動はお願い!
わぁい、ゆかゆか(ゆかり)の重力でへばり付いたまま凍ってく!氷河期で眠るマンモスみたい!



「おー? うじゃうじゃ居るな?」
 日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)が、呆れと感心の入り混じった声を上げる。
 外輪山の穴の存在に気づかれたことが通達でもされたのか、異常な数のハイドラホーラーが防衛のための陣を築いていた。
「火山かー。噴火するとあちこち大変なの」
 尚人の肩にちょこんと腰かけたポーラリア・ベル(冬告精・f06947)が、ハイドラホーラーの守る穴を見て、しょんぼりとした声を出す。
 人の住む街の被害もさることながら、周囲の山も森も焼け、そこに住まう生き物たちもただでは済まない。自然に噴火するのならばそれも仕方がないのかもしれないが、今回は違うのだ。
「でも冬はそういうマグマも眠らせる雪を降らせるのです」
「ああ。ポーラの雪で、マグマを眠らせてやろうぜ♪」
「はいなの!」
 元気になったポーラリアに、尚人がほっとした顔をする。ポーラリアにはやっぱり笑っていてほしいのだ。
「これが|竜属崇拝者《ドラグナー》か。物理で相対するには攻防共にかなり強力そうね」
 村崎・ゆかり(|“紫蘭”《パープリッシュ・オーキッド》/黒鴉遣い・f01658)の言葉に反応して、傍らの人物が、じっとハイドラホーラーを見つめる。
「攻撃力・耐久値ともに高水準。物理での対応は難易度が高いと判断します」
 イクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)が解析結果を上げてくる。
「なるほど。とはいえ無力化すればすむ」
 恐れ一つないゆかりの言葉に、一瞬広がりかけた緊張した気配が消え去っていく。
 だが、ハイドラホーラーたちはそうはいかない。敵の出現にいきり立ち、四人を排除しようと動き出す。
 大群で押し寄せてくるハイドラホーラーに、尚人がうんざりといった表情を浮かべた。
「こんなのを一々相手にしてたら切りが無いし、それじゃ作戦通り……」
 ふっと尚人が空を見る。
 ゆかりが耳を澄ます。
 ――ドドドン!!
 数発のミサイルが、ハイドラホーラーの陣形のど真ん中に打ち込まれる。
 ――!!!
 爆発に巻き込まれたハイドラホーラーたちが、音なき悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、周囲を巻き込み地に叩きつけられる。
 陣形に大穴を開けられ、混乱するハイドラホーラー。
 それを好機とみなし、尚人が高らかに呼ぶ。
「頼むぜ! 大空を覆うもの! 悪いな、ちょっと力を貸してくれ!  守りは頼んだぜ!」
 尚人を覆い隠すように霧が発生する。霧は寄り集まり、濃密な大気を凝縮して形作られた巨大な魔竜を生み出した。それは、かつての戦場で、尚人が拾った一かけら。
 途端、詠唱を唱えていたハイドラホーラーたちが喉を詰まらせ、体をふらつかせる。
「酸素欠乏状態ならブレスを吐く事も、ましてや長々と詠唱なんて事も困難だろ♪」
 尚人の願いにこたえ、大気の竜はハイドラホーラーの周囲から酸素を奪い取ったのだ。
 急激な酸素不足の影響で、体をふらつかせるハイドラホーラーは、尚人の言う通り、長い詠唱ができる状況ではない。ブレスの毒の強さは、詠唱の長さに依存する。これだけでも、ハイドラホーラーは攻撃力の大部分を削られたことになる。
 そのうえ。
「まあ根性でやり遂げても|俺たちに毒は効かないからな?《状態異常の無効化》 ご愁傷さん?」
 大気の竜は、味方には優しき守護を与えていた。これで、毒ブレスは意味をなさなくなった。
 だが、これで終わりではない。
 続けて、ゆかりが周囲に告げる。 
「頭が高い! 天の威の前に跪け。額を地面に擦り付けて、汝の犯した罪業に思い巡らせ悔いるがよい。疾!」
 ダンっとゆかりは足を踏み鳴らす。その地点を中心に、地面に、輝く多重の同心円状の波紋が広がっていく。
 途端、ハイドラホーラーたちが押しつぶされ、地面へと這いつくばる。
「ふふ、顔を上げる事も出来ないでしょ?」 
 酸欠と超重力に悶えるハイドラホーラーたち。だが、それでも気を抜いてはいけない。相手は、ドラゴンを宿した狂信者なのだ。 
「ポーラもお役目果たすの。雪山にしてあげる!」
 ポーラリアが元気な声を上げ、尚人の肩からふわりと飛び上がる。
「雪兎さんの力の想起! 無限に続く滑走地獄、コキュートス! セット! だよ!」
 歌うように唱えられた言葉が広がるとともに、辺り一面の地面が一気に凍り付く。いや、よく見れば、ハイドラホーラーたちの体の一部も凍り付いている。
「敵戦力の制圧を確認」
 冷静なイクシアの声が、現状を的確に説明する。
 そう。制圧しただけで、殲滅したわけではない。
 だがそれでいいのだ。この依頼の真の目的は、彼らの殲滅ではない。
「ゆかりさんの超重力、日野さんの大気干渉、ポーラさんの凍結効果。さすがね」
「おう!」
「当然ね」
「がんばったよ!」
 目指すのは、地底潜航竜があけた穴。
「天威千里法の効果が切れる前に、ポーラが作った氷結領域を越えましょ」
 ゆかりが、紫と白を基調とした逆三角形型の機甲式式神『GPD-331|迦利《カーリー》』を召喚しつつ、注意を飛ばす。
「それと、奥ほどあたしの術が浸透してないから。そこは気を付けて。じゃあ、行きましょう」
 逆三角形の上辺に乗り、ゆかりが迦利を上へと飛ばす。
「了解、ここから先は任せて」
 続けてイクシアが舞う。
「了解だ! ポーラ、行くぞ!」
「はーい、移動はお願いね!」
 ひょいっと尚人のポケットに潜り込むポーラリア。
「よっし、出発だ!」
 風の加護を持ったシルフィードボードに飛び乗って、尚人たちは空中サーフィンで進む。
「わぁい、|ゆかゆか《ゆかり》の重力でへばり付いたまま凍ってく! 氷河期で眠るマンモスみたい!」
「ポーラ、あんまり顔出して吹っ飛ばされるなよ♪」
 ポケットから顔を出し、きゃあきゃあと騒ぐポーラリアに、軽く注意をする尚人。実際、かなりの速度を出して穴に向かっているので、結構危険である。
 けれど、ポーラリアは高速移動が気に入って、顔を出したままだった。
 そんなポーラリアは視界の中で、動く影を見つけた。どうやら、敵は諦めずにこちらに攻撃を仕掛けようとしているらしい。
 同じく、尚人もその存在に気づく。
「しぶといな」
 これだけの個体がいるのだ。耐久力が飛びぬけて高い個体がいてもおかしくない。そして、毒ブレスに関しても何か特殊なものである可能性もゼロではない。万が一を考え、尚人は確実な排除へ向かおうとした。
 だが、尚人が動くより早く、吹雪が吹き荒れた。
「え?」
 吐き出された毒ブレスは吹雪に吹き飛ばされ、四人には届かない。
「ハイドラさんの口も凍り付けば、もう詠唱もできないしブレスも吐けないね」
 視線を向ければ、ポケットの中のポーラリアがにこりと笑う。
 ――バババババババ!
 なるほど、と言いかけた尚人の言葉を、突如聞こえた轟音が止める。
「……無人ヘリ?」
 音の正体はヘリコプターであった。
「ポーラがお願いしておいたのよ。あのヘリさんに、麻痺させてもらうの!」
 ポーラリアの言葉が合図になったかのように、無人戦闘ヘリから、電磁ミサイルが地を這うハイドラホーラーへと放たれた。
「すごいでしょ!」
「ああ、さすがポーラだな」
 えっへんと胸を張るポーラリアを、尚人はにこにことした顔で褒めると、再び穴に向け、ボードを操り進む。
 ポーラリアの声につられるように、迦利の上から覗き込んだゆかり。その視界に広がるのは、高重力に押しつぶされ、地面に這いつくばりながらも、こちらに向けて腕を伸ばしているハイドラホーラーたち。
 その姿に、ゆかりは眉を顰める。
「まともに相手はしたくないわね……」
 はあとため息一つ、ゆかりは迦利を進めるのであった。
「敵影発見」
 安全確保のため、先行していたイクシアは、三人より一足早く、穿たれた穴近くの上空にたどり着いていた。
 穴の近く、つまりは天威千里法の影響が薄い場所には、まだ多くのハイドラホーラーがいた。
 せめて重力の影響だけでも軽減しようと、動ける範囲のハイドラホーラーが移動してきたようだ。
 イクシアの機体各部が、光を放つ。その背に背負う翼も、きらきらと光を放つ。
「敵勢力の鎮圧を行う」
 向かい来るイクシアの存在に気づき、ハイドラホーラーが、詠唱を始める。ひどく短い、だがそれでも一矢報いんと紡がれたそれに応え、竜首が口を開く。
 吐き出される毒ブレスを、旋回し、上昇し、急下降し、イクシアは軽やかに回避していく。
 実のところ、尚人に付与された加護はまだ残っているため、毒ブレスの直撃を受けたとてダメージはないだろう。
 だが、イクシアは毒ブレスをいっそ優雅に空を舞いながら避けて見せた。それが、ハイドラホーラーを怒らせると予想して。
 そして、予想は当たっていた。
 ハイドラホーラーたちは縦横無尽に飛び回るイクシアを何としても落とそうと、躍起になっていく。ついには、穴の中にいたハイドラホーラーたちもが、外にでてイクシアを撃ち落とさんと、毒ブレスを放ってくる。
 そうこうしているうちに、後方の三人が追い付いてくる。
「おや、やってるな」
「すごーい! キラキラきれー!」
 感心する尚人のポケットの中で、ポーラリアが両手を上げ大喜びする。
「このまま見てるだけにはいかないわね」
 どこか楽し気に、ゆかりが己の乗る迦利を操ると、攻撃の照準をハイドラホーラーたちに合わせた。
 イクシアが、ハイドラホーラーたちの視線を釘付けにしたまま、急上昇した瞬間を狙い、迦利からビームを照射した。
 ――っ!!
 イクシアに集中していたハイドラホーラーたちは、避けることも防ぐこともできず、ビームの雨を食らい混乱を起こす。
 それに合わせ、今度はイクシアが急降下する。
 光り輝く流星と化したイクシアの手には、決戦装備である大型フォースブレイドがあった。
「ターゲットロック!」
 光の軌跡を描きながら、刃が穴の入り口付近のハイドラホーラーを薙ぎ払い、その存在を消し飛ばした。
「第一目的地、外輪山の穴の周辺、殲滅完了です」
 ふわりと着陸したイクシアは、上空で待機していた三人へと声をかける。
「さすがだな」
 ボードから尚人が降り、イクシアに声をかける。
「すごかったよー」
 尚人のポケットから飛び出したポーラリアは、くるくるとイクシアの周囲を飛び回った。
「さて現着」
 万が一を考え、上空からしっかりと確認作業を行っていたゆかりもまた、迦利から降り立った。
「みんな怪我はない?」
 もちろんという答えが返る中、イクシアのセンサーが捉えた。遠くから、新たに迫りくる一群の存在を。
 だが、イクシアは動かない。
 センサーは、同時に、空からくる存在を伝えていたからだ。 
 ――ドドドドン!
 突然起こる爆発音に、三人が驚き振り返る。
「後方の憂いは断ちました。さあ、ここからが本番ね」
 そんな三人に、イクシアは落ち着き払った様子で言った。
 敵が何かやらかしたのではないなら、まあいいか、そんな考えで、尚人は穴を下り始める。
「楽勝楽勝♪ この調子で地底潜航竜もパパっと片付けてやろうぜ♪」
「がんばろー!」
 ちゃっかり尚人の肩に座っているポーラリアもやる気満々だ。
「そうね、地底竜の元へ向かいましょうか」
「はい」
 全員が穴を下り始めたのを確認し、イクシアも皆の後に続くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『地底潜航竜』

POW   :    削岩牙
自身の【竜気】を籠めた【牙】を用い、通常移動と同速度で地中を掘り進む事ができる。装甲破壊にも使用可能。
SPD   :    溶解小顎群
【全身から生える小さな首】を向けた対象に、【吐き出した溶解液】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    硬化液噴出
【硬化液】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【自身への恐怖もしくは憎悪】を誘発する効果」を付与する。

イラスト:佐々木なの

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 外輪山に穿たれた穴を下って下って下って、そしてたどり着くのは、巨大なホール状の空間。
 その中央に、それはいた。
 手足を持たず、とぐろを巻いたその姿は、一見すれば蛇に見えた。もっとも、もしそうなら人を一口で飲み込めるような巨大な蛇ということになるが。
 だが、それは確かに竜なのだ。
 猟兵たちの気配に気づいた竜が、鎌首をもたげる。
 ――ギョオオオオオオオンン!
 異形の口から放たれる声は怒気に満ち、弱い者ならばそれだけで戦意を喪失するだろう威圧感を放っていた。
 ――ゴゴゴゴゴゴッ!
 まるで声に共鳴するがごとく大地が揺れる。
 噴火まで、もう時間がない。
シルヴィ・フォーアンサー
……おっきいね。
『山を噴火させようという相手だからな、時間がないさっさと仕留めよう』

パラライズ・ミサイルで麻痺させて溶解液を阻止して
シルエット・ミラージュからのガトリング・クラッシャー
分身と取り囲んで一斉発射。

瞬間思考力で跳弾を計算して巻き込まれないよう相手に多数当たるよう撃ちながら操縦。
ヨルにも戦闘演算で補佐してもらう、必要だったら思考力をドーピングで強化。

決戦配備は地底奥深くで届くか不確定なのでパス。



「……おっきいね」
 シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)の、クロムキャバリア《ミドガルズ》のコックピットからでも、仰ぎ見る程の巨体の主、それこそが倒すべき敵『地底潜航竜』。
『山を噴火させようという相手だからな』
 応えたのはサポートAIユニット『ヨルムンガンド』――ヨルだ。
『ふむ、さすがにこの地下に、支援は無理だな』
「ヨルがいるなら、大丈夫」
『ああ、任せろ』
 ――ギョオオオオオオオンン!
 敵の姿を認識し、潜航竜が吠え周囲を威圧する。
 無論シルヴィやヨルには通じない。せいぜいがうるさいと思うぐらいだ。
 だが、大地がまるで怯えるように、轟音を響かせ揺れる。
『時間がないさっさと仕留めよう』
「うん」
 ミドガルズのバーニアを吹かせ、シルヴィが潜航竜との距離を詰める。
 ――ギャアアアンッ!
 潜航竜の体に生える小顎群が一斉にシルヴィたちへ向け口を開く。
『シルヴィ!』
「わかった……ビリビリってするよ」
 ヨルの指示に、シルヴィが両肩部のミサイルポッドから、パラライズ・ミサイルを数発、続けざまに放つ。
 ――ドンドドン!
 着弾したミサイルが周囲に高圧電流を撒き散らす。
 だが。
『小賢しい真似をするな』
「しびれればいいのに」
 ヨルは忌々し気に呟き、シルヴィはすねた声を出す。
 狙い通り小顎群を麻痺させ、溶解液による攻撃を止めることはできた。
 だが、回避できないと判断した潜航竜が、小顎群をミサイルの盾とし、本体へのダメージを最小限にしたのだ。
 痺れ、だらりとたれ落ちた小顎群を引きずって、潜航竜がミドガルズを食らわんと大口を開く。
 その攻撃を後方に下がることで回避するシルヴィ。
『一気に決めるか』
「うん、ボコボコにするよ」
 シルヴィが答えると同時に、ミドガルズの周りに、14体の精巧な残像分身が現れた。
「……蜂の巣にしてあげる」 
 二挺のRSガトリングキャノンから大量の弾丸が吐き出される。ほぼ同時に、14体の分身たちも、威力は劣れど同じように、無数の弾丸を放つ。
 弾丸を、体をくねらせ、小顎群を振り回し防ごうとする潜航竜。だが、無論それで、襲い来る弾丸すべてを避けられるはずはない。
 しかし、土中を潜る潜航竜の肌は堅く、致命傷には至らない。
 弾丸は、潜航竜の肌に僅かな傷を与え、弾かれた。だが、その弾丸は落ちることなく跳弾、その先の壁に当たりさらに跳ぶ。
 大量の弾丸が、何度も何度も跳弾し、幾度となく潜航竜の皮膚を傷つけていく。
 上から、下から、斜めから、ありとあらゆる角度からの弾丸が、潜航竜の巣と化したこの空間を切り裂いていく。
 雨ではない、これは嵐だ。
 跳弾の嵐の中を、ミドガルズで駆け抜けながら、シルヴィはさらに弾丸を放っていく。
 シルヴィの瞬間思考力により、跳弾の動きを計算し、回避。それでも間に合わず、ヨルが回避演算のサポートに回る。
 それほどの嵐を起こしてなお、シルヴィは弾丸を撃つのをやめなかった。
『シルヴィ! これ以上はこちらの処理能力を上回る、発砲は中止だ!』
 ヨルが警告を飛ばす。
 ヨルはシルヴィの愛機《ミドガルズ》専用のサポートAIユニットだ。故に、シルヴィの安全は何よりも優先されるのだ。
「だめ」
『シルヴィ?』
「まだいける。そうでしょう?」
 声に宿るのは途切れぬ信頼。
 自分とヨルならできるという揺るがない自信。
 それに応えない、という選択はヨルにはなかった。
『……そうだな――思考力強化剤の投与、開始……行くぞ、シルヴィ』
「うん!」
 ドーピングで無理やり思考力を強化して、シルヴィは再び、ヨルとともに、弾丸の嵐の中に飛び込んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・紗綾
地面を這いずり回ってまるでミミズですね。
とっとと火山諸共静かにさせてやりましょう。

ただでさえ噴火が迫ってる上に、敵は着実な攻撃が可能なユーベルコードの持ち主。
出来るだけ速攻で勝負をつけたい処ですね。

なら、此処は雀蜂を構えて懐へ飛び込み、接近戦を挑みましょう。
狙撃銃で接近戦なんて、って思うかもですが。
今時の狙撃手は接近戦もお手の物なんですよ?

剣式近接狙撃術。
敵に雀蜂の零距離射撃を撃ち込み、その身体をねじ切ってやります。
小さな首の生えてる部分を狙えば、反撃も抑えられそうですかね?

敵の巨体に押し潰されたり消化液を浴びせられたりしないよう適宜距離を取り直しつつ攻撃を継続。
いい加減くたばれです!



「地面を這いずり回ってまるでミミズですね」
 叢雲・紗綾(嘲り詰る兇弾・f40836)の声が、土のホール、地底潜航竜の巣の中に響く。
 色違いの美しい瞳が捉えるのは、異形の竜。
 ――ギョオオオオオオオンン!
 咆哮が竜の巣の中に響き渡る。 
 その声に合わせるかのように、轟音を立て大地が揺れた。それとともに、じわりとホール内の気温が上がったように、紗綾には感じられた。
「とっとと火山諸共静かにさせてやりましょう」
 状況として、火山が噴火するまで時間はないのは確実だ。
 そのうえ、敵は着実な攻撃が可能なユーベルコードの持ち主。そして体力的にも、かなりのものだろうことが窺える。
(出来るだけ速攻で勝負をつけたい処ですね)
 紗綾の手には、身の丈ほどもある銃――弐拾参式光線狙撃銃『雀蜂』が握られていた。
 その名称通り狙撃に適した銃だ。射程も長くかつ大出力のレーザーを放つこともできるものなのだが。
「ならばやることは一つですね」
 紗綾は銃を握りしめ、走り出す。
 狙撃に適した場所を探して距離をとった、のではない。その逆だ。紗綾は荒れた土の上などものともせず、潜航竜に向かっていく。
 ――ギョオオン!
 潜航竜が再び咆哮を上げる。紗綾の存在を威嚇するその声を合図に、小顎群が頭を伸ばし、紗綾へ襲い掛かる。
 だが、紗綾は足を止めるどころか、速度を上げて、小顎群に向け逆に距離を詰めていく。
 獲物が飛び込んできたとばかりに、溶解液を吐き出そうと小顎が口を開く。
「近づけば無害、なワケねーでしょうよ」
 その小顎の口の中に、紗綾は雀蜂の銃口を突っ込み、躊躇なく引鉄を引いた。
 弾丸が触れた途端、小顎の体がねじ切れ、一拍を置き爆発した。同時に襲い掛かってきた数体が、その爆発に怯んだ隙に、紗綾は次の小顎の、その付け根へと銃口を向ける。
「今時の狙撃手は接近戦もお手の物なんですよ?」
 言い放ちながら、紗綾は弾丸を放つ。
 根本が弾け、ねじ切られ、本体より切り離された小顎は、それでもなお紗綾へとかみつかんと牙を鳴らす。
 それを勢いよく蹴り飛ばし、紗綾は次の小顎を打ち抜く。
 ――グウウウウウウッ!!
 少顎を次々と落とされ、怒りを抱いたのか、恐れを感じたのか、潜航竜が唸り声をあげる。
「ミミズがうるさいですね」
 声の放つ威圧感など、どこ吹く風と無視し、紗綾は新たな小顎を撃ち抜き、ねじ切り、葬り去る。
 そんな紗綾の猛攻に、潜航竜が動く。
 巨体に相応しい巨大な尻尾が伸び、紗綾を叩き潰さんと振り下ろされた。
「そんな大振り、当たるわけないでしょう」
 動きを見切り、回避した紗綾は、にっと笑みを浮かべ、潜航竜の胴体に飛び乗ると、そのまま竜の体の上を走り出す。
 その行動は予想外だったのか、紗綾を振り落とさんと潜航竜が暴れ出す。
 だが、その程度で紗綾を落とせるわけもない。見事な体捌きで、揺れを受け流す。
 当然、体に生える小顎群が紗綾に襲い掛かってくるが。
「邪魔です」
 それらを時に避け、時に滅し、紗綾は潜航竜の頭部を目指し駆けあがる。
 そして。
「いい加減くたばれです!」
 その言葉とともに、紗綾は潜航竜の後頭部に、雀蜂の銃口を突きつけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暗都・魎夜
連携歓迎
【心情】
たしかにこいつは大物だ
とても友好求めてきてますって面じゃねえ
こんなんが襲ってくるんじゃ、そりゃ決戦支援なんてシステムも作られるわな

【決戦配備】
ジャマー:地底潜航竜が地中移動で移動する位置を探ってもらう

【戦闘】
あのナリにふさわしい無茶苦茶な移動でどこもかしこもぶっ壊す竜
シンプルなパワーと巨体ってのは、それだけで脅威って思い知らされるぜ

地面に潜られちゃ手出しは出来ねえが、それは向こうも同じ
出てきた瞬間が勝負だな

「心眼」で「索敵」し出てきたところへ「リミッター解除」した「グラップル」でUCの蹴りを叩き込む

「行くぜ、イグニッション!」

早いところ終わらせて、ひとっ風呂浴びるとするか



「たしかにこいつは大物だ」
 暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)が、地底潜航竜の巨体を目にし、納得するように呟いた。
 ――ギョオオオオオオオンン!
 その視線に気づいたのだろう。潜航竜が、魎夜を食らわんと大口を開き、威嚇の声を上げる。
「とても友好求めてきてますって面じゃねえ」
 もちろん、そんなことを許すつもりはない。
「行くぜ、イグニッション!」
 高らかに叫んだ魎夜の全身が、カードの力で現れた装備に覆われていく。
「さあ、始めようか!」
 潜航竜を真正面に捉え、魎夜が拳を構える。
 怯まぬ相手を明確な敵と認識したのか、牙の並ぶ巨大な口を開けたまま、潜航竜が魎夜を食らわんと飛び掛かってくる。
「おおっと」
 余裕をもって回避する魎夜。
 攻撃手段の一つである口を、地面にめり込ませたことにより、潜航竜の動きが封じられたかのように見えた。
 だが、それは違った。
 ――ゴリゴリガリガリ!
 すさまじい音をさせて、潜航竜の牙が大地を食らい大穴を開けていく。
 見る間に地面の中に潜り込んでいく潜航竜に、さすがの魎夜も驚く。
「こんなんが襲ってくるんじゃ、そりゃ決戦支援なんてシステムも作られるわな」
 こんな敵たちを相手に、この世界の人々は戦っているのだ。人類が、明日も朝日を迎える為に、力を振り絞って。
「その力、ちょいと貸してくれよ」
 地底にいるという敵を相手に、あらかじめ依頼していた支援。
 魎夜の手元に現れた、魔法陣が刻まれた小さな板を地面に置けば、周囲に光が広がっていく。だがすぐに光は地面に染み渡るように消えていく。
 代わりに、光の輪郭を纏った巨大なものが、地面の中を移動しているのが見て取れた。その移動速度は驚くほど速い。もともと穴があるわけではなく、あの牙で食い荒らしながら進んでいてその速度を出しているのだ。
「地面に潜られちゃ手出しは出来ねえが、それは向こうも同じ……なに!」
 地面を掘りながら移動していた潜航竜が、突如真上へと向かってくることに気づき、慌てて魎夜がその場を離れる。
 ――ドガアアアアンン!
 岩盤を食い破り、周辺に岩をまき散らしながら、潜航竜が魎夜を食らわんと、大口を開けたまま地上へ飛び出してくる。そして、しくじったとなるとすぐさま大地へと潜る。
「あのなりに相応しく、滅茶苦茶な移動をしてくれるぜ」
 大地を破壊する竜の力に、さしもの魎夜も冷や汗を流す。
「シンプルなパワーと巨体ってのは、それだけで脅威って思い知らされるぜ」
 だが、二度目はない。
 支援により大まかな動きはわかる。あとは、飛び出してくるタイミングを自分が見逃さなければいいだけだ。
「出てきた瞬間が勝負だな」
 支援魔術により浮かび上がる潜航竜の姿に、魎夜は心眼を集中させる。
「早いところ終わらせて、ひとっ風呂浴びるとするか」
 勝利を疑わない、強い言葉を口にして、魎夜は待つ。
 そしてその時が来た。
 潜航竜の動きが変わり、土中を急速に上昇してくるのを、今度はしっかりと捉える。
「同じ手は食わねえんだよ!」
 己の拳を覆うガントレットに、|重力《グラビティ》の因子を注ぎ込む。変形していくガントレットは、その中に超重力を宿す。
「見せてやるぜ、これが死を超越した力!」
 ――ドン!
 潜航竜の口の先端が、地表に現れる瞬間、魎夜は渾身の力を込めてガントレットを叩きつけた。 
 ――キュオオオオオオオンン!
 衝撃に潜航竜が悲鳴を上げ、暴れまわろうとする。
 だが。
「逃がさねえぜ!」
 重い重い拳が生み出した超重力によって、潜航竜の体は地面に縫い留められるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
【ドヴェルグ】
よくまあ掘り進んだものね。灯りが無いと何も見えない。
熱が流れてくる。そろそろ?

イクシアの言葉で、先手必勝の「高速詠唱」不動明王火界咒! 相手の身体が炎に包まれれば灯りの問題も解決よ。
同道してきた『|迦利《カーリー》』に「オーラ防御」を張ってポーラと共に上に乗り、天井付近から「全力魔法」炎の「属性攻撃」「破魔」「衝撃波」の火界咒を降らせる。皆、巻き込まれないでね。
併せて、『迦利』は「レーザー射撃」。
飛行すれば地下からの攻撃も溶解液も届かないでしょ。

地底潜航竜を倒したら、「竜脈使い」炎の「属性攻撃」「封印術」で火山活動を鎮めよう。
炎を噴き上げる時は今じゃない。それまでしばし眠ってて。


イクシア・レイブラント
【ドヴェルグ】※4名
大丈夫。私からは見えている。
[暗視、視力]で地底潜航竜の位置を確認、ゆかりさんの迦利に座標を[情報伝達]。
火界咒の発動にあわせて、全身各部を発光させ[存在感、陽動、おびき寄せ、推力移動、滑空]。
溶解液をシールドビットで[盾受け]しながら近づき【決戦武装、解放】。
日野さんと挟撃する形で、大型フォースブレイドで首から袈裟懸けに[空中戦、なぎ払い、鎧無視攻撃]。

地中に潜航されても[戦闘知識、戦術演算、気配感知]で襲撃地点を予測、決戦配備:キャスターでライトアップする。
…5秒後に来る。みんな、迎撃するよ。

ゆかりさんとポーラさんの鎮めの儀…うん、楽しみね。


日野・尚人
【ドヴェルグ】
こいつが地底潜航竜・・・時間も残り僅かっぽいし一丁やるか!
へへ、ポーラは見ない方が良いかもな?

俺は|暗くても問題無しだ《<暗視+気配感知>》。
|大地の揺れや凸凹も利用《<足場習熟+地形の利用>》して左右へ不規則な動きを加えた<ダッシュ>!
|溶解液や地中からの攻撃を躱し《<見切り+心眼+軽業>》、地底潜航竜を<挑発>で<陽動>して<おびき寄せ>る。
俺が囮になって引き付ければみんな安全に戦えるからな!
ほらほら♪何処狙ってんだよ♪

隙を突いてイクシアが斬り込んだら俺もUCで一気に接近!
<切断>力が大幅強化された斬撃を放って挟撃!これで終わりだぜ!

へぇ?村崎は流石・・・ポーラ、程々にだぞ?


ポーラリア・ベル
【ドヴェルグ】
尚人:なおなお イクシア:イっちゃん ゆかり:ゆかゆか

暗い洞窟だけど大丈夫?何か対策…みんなしてるのね
わ、灯りがともっ……きゃぁー!洞窟デスワームううぅぅ!たっ食べないでー!!

わあ、ゆかゆかごめん!(近いから)くっつく!
一緒に迦利とか言うのに乗って【空中戦】しよう!

天井付近でUC発動!
作り出した巨大な氷手で洞窟の岩をもぎ取り、【投擲】【怪力】で
ワームさんのお口にどかどか岩を投げて怯ませるよ!

地中に潜られたら、合図と同時に迦利から飛び降り、巨大氷手で叩きつけ!モグラたたきだーっ!

倒し終わったら、封印、ポーラもお手伝いするよ。
【天候操作】【凍結攻撃】で、この山を雪山に変えてあげるの。



「よくまあ掘り進んだものね。灯りが無いと何も見えない」
 村崎・ゆかり(|“紫蘭”《パープリッシュ・オーキッド》/黒鴉遣い・f01658)が、呆れたように呟いた。
「暗い洞窟だけど大丈夫? 何か対策……」
 ポーラリア・ベル(冬告精・f06947)が、尚人の肩に座り、きょろきょろと周囲を見渡し、不安げな声を上げた。日の光は全くなく、ポーラリアの目には、何も見えていないのだ。
「大丈夫。私からは見えている」
 イクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)がそういいながら、周囲に警戒の目を飛ばす。
「俺は暗くても問題無しだ」
 暗視もちの日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)も、荒いトンネルでも問題なく歩いていた。
「まあ、ついたら大きな灯りをともすから問題ないわ」
 イクシアに手を借りながら洞窟を歩くゆかりが、白紙のトランプを手に持ち、ポーラリアに声をかける。
「みんな対策してるのね」
 尚人の肩ですごいと、目をキラキラさせるポーラリアの様子に、周囲に穏やかな空気が流れるのだが。
「熱が流れてくる。そろそろ?」
 ゆかりが警戒を声に宿し、足を止めてイクシアに問いかける。
「ええ。……敵はまだ、こちらに気づいてないね」
「それは好都合」
 ゆかりがにっと笑みを浮かべる。
「こいつが地底潜航竜……」
 一方、暗視もあり、気配感知能力も優れている尚人には、潜航竜の姿がばっちりと捉えられていた。
 思わず目を奪われた尚人の頬に、ポーラリアの羽が触れる。
「どんなドラゴンさん?」
 どこかワクワクした様子で問いかけるポーラリアに、尚人は少々困り顔をする。
「へへ、ポーラは見ない方が良いかもな?」
「え? なんで?」
 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!
 尚人がポーラリアの問いに答える前に、大地が揺れる。それと同時に、ホール内の気温がぐっと上昇した。
 四人誰もが感じ取る。
 噴火まで時間がないと。
「時間も残り僅かっぽいし一丁やるか!」
「ええ、そうしましょう。イクシア、正確な距離と方角を教えて」
「わかった」
 イクシアだからこそできる精密な観測結果が、ゆかりへと伝えられる。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 ゆかりが高速で真言を唱え、|不動明王火界咒《フドウミョウオウカカイジュ》を組み立てていく。
「先手必勝!」 
 ゆかりの投げつけた白紙のトランプは、狙い過たず潜航竜へと到達する。
 ――ゴウッ!
 途端、白紙のトランプから、炎が噴き出した。不浄を灼く炎は逃がすまいと、潜航竜の体に絡みついていく。
 ――グギャアアアアアン!
 炎に包まれた潜航竜が、咆哮を上げる。
 さすがに、巨体の潜航竜に、一撃だけで致命傷を与えることはできなかったが、狙い通り、闇に閉ざされていたホールは、煌々と燃える炎に照らされた。
「わ、灯りがともっ……きゃぁー! 洞窟デスワームううぅぅ! たっ食べないでー!!」
 周りが見えるようになり、ポーラリアが喜んだのは一瞬。すぐさま悲鳴を上げた。
 ゆかりの火界咒発動と同時に、潜航竜に向け飛び出していたイクシアが、ポーラリアの上げた声に、一瞬、空中で停止する。 
 だが、潜航竜の体表に生える小顎群が、蠢き始めたことに気づき、すぐさま意識を切り替える。
 心配だが、ポーラリアのそばには二人がいる。ならば自分は自分のできることをすべきだ。
 イクシアは機体の各部位を発光させ、小顎群の前を横切っていく。
 キラキラと光を放ち、自分の周囲を飛び回るイクシアに苛立ったらしい小顎が大きく口を開ける。
 途端吐き出される溶解液を、シールドビットで受け流しながら、イクシアは敵の注意を引き付け続ける。
 イクシアが潜航竜を引き付けてくれていることを確認し、ゆかりと尚人はポーラリアを落ち着かせようとしていた。
「落ち着つけ、ポーラ。大丈夫だから」
「う、うううう、こわいよう」
 震えるポーラリアに、ゆかりがそっと手を伸ばす。
「それなら、あたしと上から行きましょう」
 ここまで同道してきた、紫と白を基調とした逆三角形型の機甲式『GPD-331|迦利《カーリー》』を指さし、ゆかりが提案すると、ぶんぶんとポーラリアが首を縦に振った。
「ゆかゆかといく!」
 すいっとゆかりの元へポーラリアが飛んでいくと、尚人がほっと笑った。
「じゃあ、ポーラを頼んだ!」
「わかったわ」
「ポーラはあまり無理するんじゃないぞ!」
 それだけ言うと、尚人は潜航竜へと向かい駆けだしていく。
 背後からイクシアを狙っていた小顎の一体をハンドガンで打ち抜き、そのままイクシアに呼びかける。
「イクシア、お待たせ!」
「大丈夫。ポーラさんは?」
「村崎と一緒にいる」
 イクシアが視線を向ければ、二人はそろって迦利に乗り、うえに上がっていくのが見えた。
 ――ギョオオオオオオン
 潜航竜が再び咆哮を上げる。邪魔ものが増えたことへの苛立ちなのだろう。 
 周囲に響き渡るその声に、ポーラリアが驚き飛び上がり、傍にいたゆかりにしがみついた。
「わあ、ゆかゆかごめん!」
 ぎゅうぎゅうとしがみついて、邪魔だと思うのに手が離せなくて、申し訳なさそうに、ポーラリアはゆかりに謝る。
「謝らなくてもいいわ。なにも困ったことなんてないんだから」
 ぎゅうとしがみついてくるポーラリアに、ゆかりは優しく笑いかける。二人を乗せた迦利はそのまま上昇し、天井近くで止まる。 
「ここなら地下からの攻撃も溶解液も届かないでしょ」
 そういうと、ゆかりは再び白いトランプを取り出した。
「皆、巻き込まれないでね」
 注意を飛ばした後、ゆかりが全力を込めた不動明王火界咒を降らせる。魔を打ち破る炎は、ぐるりぐるりと潜航竜に巻き付いていく。
 そんな潜航竜に、さらに迦利からレーザーが撃ち込まれる。
 ――ギュウウウウ!
 潜航竜が唸り声をあげながら、ゆかりたちの乗る迦利へと攻撃をしようと小顎群を伸ばす。だが、それはイクシアと尚人が許さない。
「させない」
 イクシアが光を放ちながら周囲を旋回し、小顎群の注意を引き付ける。
「お前の相手は俺だぞ」
 合わせて、尚人が潜航竜の体に弾丸を打ち込み、敵はここにいるのだと知らしめた。
 飛び回るイクシアよりも、直接攻撃を当ててきた尚人のほうがより潜航竜に怒りを抱かせたのだろう。小顎群が一斉に、尚人に向かって溶解液を吐き出した。
「ほらほら♪ 何処狙ってんだよ♪」
 だが、尚人は溶解液を歌交じりで踊るように避けていく。もちろん、わざとである。
(俺が囮になって引き付ければ、みんな安全に戦えるからな!)
 尚人に食いつかんと、潜航竜が大口を開く。
 ――ドガン!
 その口の中に、岩が投げ込まれた。
 飛んできたのは上空からだ。
「捕まえて、ぎゅってして、かちーん! だよ!」
 元気なポーラリアの声。
 見れば、その近くに、見えないほどに透明な氷で作られた、冷気を纏う巨大な手があった。手は、洞窟の岩をもぎ取ると、エイッとばかりに潜航竜をめがけて投げつけていたのだ。
「どんどん投げるよ!」
 その言葉通り、氷手は岩をもぎ取っては投げ、もぎ取っては投げを繰り返す。
 攪乱する尚人とイクシア。
 遠方から攻撃を仕掛けてくるゆかりとポーラリア。
 それらが組み合わさり、じりじりと潜航竜の体力を削っていく。
 その状況に苛立った潜航竜の尻尾が、尚人に向け叩きつけられる。
「へったくそ~♪」
 だが、尚人は尻尾を軽々よけ、衝撃に揺れる地面に戸惑うことなく走り回る。それどころか、衝撃で盛り上がった大地を足場として、迫りくる小顎を飛び越えて見せる。
 ――ギュウオオオオオオン! 
 尚人の挑発にカチンときたのだろう。潜航竜が尚人に飛びついてくる。
「おおっと! ……おお!?」
 潜航竜の攻撃を難なくかわした尚人。
 だが、潜航竜がそのまま地面を食い破り、土中に潜り込む様に、思わず驚きの声を上げる。
「あーーー、潜っちゃった!!」
 ポーラリアが声を上げる。何しろ地下に潜られては、攻撃を当てられないのだ。
「地中を移動しているわ」
 すぐさま索敵を行ったイクシアが、全員に情報を伝達する。
「……出てくるのを待つしかないわね」
 大がかりな攻撃を地下に放つのは、下手をすれば噴火を誘発しかねない。
 ゆかりの言葉に全員が頷いた。
「囮は任せてくれ」
「わかった」
 尚人の言葉に、イクシアは高度を上げ、天井付近にいる二人の元へと移動する。
 イクシアには、尚人を狙う潜航竜の動きが、はっきりと分かった。
 センサーからもたらされる情報から、急ぎ、その行動の予測を行う。
「……五秒後に来る。みんな、迎撃するよ」
 弾きだされた演算結果を、イクシアが全員に伝える。
「わかったわ」
「うん!」
「おう!」
 きっかり五秒後、すさまじい破壊音を立てながら、潜航竜が地表へと現れる。
 もちろん場所は、尚人の真下だ。
「おおっと!」
 潜航竜の食いつきを躱し、飛び散った岩を足場に移動する尚人。逃がすまいと潜航竜が尚人を追おうとする。
 ――ピカンッ!
 突如、強力な光が潜航竜を照らす。イクシアが手配していた照明用ドローンによるものだ。
 光に照らされる潜航竜に向け、ポーラリアが迦利から飛び降りる。
「モグラたたきだーっ!」
 ――びたん!
 巨大な氷手が潜航竜に叩きつけられる。それはポーラリアの言う通り、大きささえ気にしなければ、まさしくモグラたたきにも見えた。
 飛び出そうとしていたところを叩かれた潜航竜は、体の半分を埋めたまま、停止する。ふらふらと体を揺らしているところを見ると、眩暈を起こしているようだ。
 その隙を、イクシアは逃さない。 
「……リミッター解除。決戦武装、ファイナル・モード」
 イクシアの両手に握られた、大型フォースブレイドの刃が光を増し、形を変えていく。それこそは、フォースブレイドの最終形態。
 今まで以上の光を放ちながら、潜航竜へ迫るイクシア。
 その手に握られた巨大な光の刃は、潜航竜の体を袈裟懸けに切り裂いた。
 そして。 
「へへ、速さには結構自信あるんだぜ!」
 潜航竜を挟んだ反対側にいるのは、風の魔力を纏い、目にも止まらぬ速度で駆け寄る尚人。
「これで終わりだぜ!」
 一気に間合いを詰めた尚人が、反対側から斬撃を放つ。
 一撃、立ちふさがった小顎群を切り裂き。
 二撃、固い皮膚を切り裂き。
 三撃、傷をさらにえぐり。
 そして。
 ―――オオオオン……
 四撃目、空気の抜けるような断末魔を上げ、ずるりと潜航竜の頭が切れ落ちた。
 落ちた頭は、地面につくや否や塵となり、消えていく。
 残る胴体はしばし暴れ、悶え、痙攣し、そしてやはり塵となりその姿を消した。
「よし、潜航竜討伐完了ね」
 いつの間にやら降りてきていたゆかりが、ホールの中央へと移動する。
「火山を鎮めるわ」
 鈍い大地の鳴動がひっきりなしに続く。いずれ落ち着くのかもしれないが、都市の人々のことを考えれば、早めに抑えるほうが良いだろう。
「封印、ポーラもお手伝いするよ」
 すっかり元気を取り戻したポーラリアが、すいっとゆかりの元へと飛ぶ。
「この山を雪山に変えてあげるの」
「おお、がんばれ、ポーラ」
 楽し気に笑うポーラリアに、尚人が声援を送る。
「ゆかりさんとポーラさんの鎮めの儀か……うん、楽しみね」
 戦闘態勢を解いたイクシアが、尚人のそばに降り立ち、ゆかりとポーラリアへと視線を向ける。
 ゆかりは目を閉じ、意識を地下へと伸ばす。
 感じるのは、荒れ狂う竜脈の流れ。
 それを己の炎で整え、時に焼き抑え、封じていく。
 意識を集中させるゆかりの傍らで、ポーラリアが物理的に火山を鎮静化させていく。つまりは雪を降らせ、凍らせ、大地の温度を低下させているのだ。
「へぇ? 村崎は流石……ポーラ、程々にだぞ?」
 見る間に雪が積もっていく周囲に、さすがに尚人の注意が飛ぶ。
「はーい」
 よい返事のわりに、周囲には雪が吹き荒れる。だが、さすがに先ほどよりは雪の積もり方が緩やかになっていた。
 ゆかりの目が開く。 
「炎を噴き上げる時は今じゃない。それまでしばし眠ってて」
 静かな、けれど威厳に満ちたゆかりの言葉に応えるように、大地の揺れが止まる。
 かくして、阿蘇山噴火の危機は去ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『貸し切り温泉に行こう』

POW   :    熱い湯舟やサウナを楽しむ

SPD   :    お風呂上がりのドリンクやゲームを楽しむ

WIZ   :    薬湯や打たせ湯で身体を癒す

イラスト:del

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 襲撃が終わり、決戦都市には明るい空気が広がっている。
 幸い、ハイドラホーラーたちの狙いが、火山噴火作戦の陽動であったこともあり、決戦都市の被害は軽微ですんでいた。
「それもこれも、皆様のおかげです」
 防衛主任の男が、頭を下げる。
 その顔には、疲労の色は確かにあれど、それ以上の喜びが満ちていた。
「せっかく熊本に来てくださったのですから、どうぞ自慢の温泉を味わっていってください」
 そういって男が猟兵たちを案内したのは、最近できたばかりの宿だった。
 露店風呂やサウナはもちろんのこと、それ以外にも疲労回復用の薬湯などもあるという。また、ゲームコーナーなども整っている。
 当然、風呂上がりの各種牛乳も完備である。
 そんな宿が丸まる貸し切りになっているとのことだ。
 せっかくなので、ゆっくりと過ごさせてもらおう。
シルヴィ・フォーアンサー
POW判定。

……温泉。
『初めてだな、まぁのんびりしたまえ、隠すのも忘れずに』

ヨルに言われたから湯着を着て露天風呂でまったり。
……満足してあがろうかとしてたら後から来たおねーさんとかおばちゃんに綺麗なお人形さんみたいと構い倒されてぐったり。

隙を見てそそくさと退場……別の意味で疲れたよ。
『悪意はないからな……まぁお疲れ様だ』
後は部屋でのんびり休んで美味しいご飯食べさせてもらってお休みなさい。



「……温泉」
 シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)が、期待と困惑の入り混じった声で、小さく呟いた。
 犯罪組織の奴隷として生み出されたシルヴィは、圧倒的に普通の日常の経験が少ないのだ。
『初めてだな、まぁのんびりしたまえ』
 それをわかっているからこそ、ヨルが優しくシルヴィに声をかける。
 なお現在ヨルは、外部端末の優男な人間型ボディを使用中である。
『ああ、隠すのも忘れずに』
 穏やかに、だがはっきりとした口調で言うと、ヨルはシルヴィに湯着を差し出した。
「わかった」
 ヨルが言うならそうなのだろうと、シルヴィは素直に湯着へと着替える。それに合わせ、ヨルも湯着へときちりと着替える。必要性はないのだが、やはり雰囲気も大事だろうという判断だ。
『では行こうか』
「うん」
 ヨルの手を取り、脱衣所から出たシルヴィが、最初に感じたのは石畳の床のひやりとした感触。
 視界の先には、二、三人用の小さめの、石造りの湯船があり、周囲は常緑の木々により目隠しが作られている。
 ヨルが調べた温泉での作法に従い、二人はかけ湯をして、露天風呂の湯船の中へと浸かる。
『どうかな、初の露天風呂は』
「うん……きもちいい」
 じわりと温まっていく体に、シルヴィは気持ちよさそうに息を吐く。もっとも、シルヴィの表情はあまり変わらないのだが。
 シルヴィはゆっくりと視線を空へとむけた。
 空は晴れ渡り、鳥が遠くに飛んでいるのが見える。
 争いの気配などなく、穏やかに過ぎる時間はとても良いのだが。
「……なんだか、ちょっとくらくらする?」
『まずいな。のぼせ始めている』
 こてりと首を傾げて、自分の変化を伝えるシルヴィに、ヨルが焦った声を出す。温泉に慣れていないシルヴィは、のぼせるのが早かったようだ。
『上がるぞ、シルヴィ』
「……うん?」
 よくわからないまでも、ヨルに手を引かれ、シルヴィは風呂を上がった。
「まあ、もうおあがりでしたか?」
 服を着替え、脱衣所から出た二人に、三人のスタッフが話しかけてくる。今回の戦いの立役者たる二人に、スタッフは好意的であり、そして興味津々であったようだ。
 そして、その興味はシルヴィの外見へと移る。
「それにしても、お客様はお綺麗ですねえ」
 一人のスタッフがそう言えば、他の二人もうんうんと頷く。
「本当に、肌も白くて、まるでお人形さんのようにつるつるで」 
「よろしければ、お化粧などもいかがですか?」
 スタッフたちに押されるシルヴィが、目でヨルにどうにかしてと訴えてくる。
 これが敵ならばヨルは即座に排除に動いた。
 だが、相手は守るべき対象である一般人。しかも好意的な相手となると、さすがに力任せに振り払うことも出来ない。
 その時だ。
「あなたたち、何をしてるんです」
 別のスタッフ、三人に比べれば年かさの女性が声をかけてくる。その瞬間、三人の視線がシルヴィたちから逸れる。
『では、我々はこれで』
「じゃ」
 この隙を逃すまいと、二人は走る一歩手前の速度で、その場を後にする。
 最短距離を移動し、部屋へと帰還すると、二人はどちらからともなく、ほうっと安堵の声を零した。
「戦闘より疲れたよ」
 シルヴィはぐったりと、畳の上に転がった。
『悪意はないからな……まぁお疲れ様だ』
 苦笑を浮かべたヨルが、横になったシルヴィの頭を撫でる。
 そんなトラブルがありはしたが、その後は畳の香りのする部屋でゆっくりと休み、おいしいご飯を食べ、そして。
『おやすみ、シルヴィ』
「おやすみ、ヨル」
 シルヴィはヨルに見守られる中、柔らかい布団に包まれ眠りにつく。
 ゆるゆると眠りに落ちる中、遠くから、平和な街の喧騒が聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・紗綾
【叢雲家】
折角の温泉ですし、旦那様の蓮くんを呼びました!
戦ってないコトは気にせずにですよ、折角二人で温泉を楽しむ機会なんですし♪

家族風呂等の混浴可能なお風呂に二人で入りましょう。
最近冷えてきましたし、熱い温泉が気持ちいいです。

それに何より、こうして蓮くんと一緒に過ごす時間はとても嬉しいモノですから。
ぴったり身体を密着させて、温泉と一緒に互いの温もりと感触を感じあいながらゆっくり漬かります。

…蓮くん、愛してます♪

お風呂を上がったら、ご飯を食べに行くとしましょう。
蓮くんが私の好みに合いそうなお店をリサーチしてきたとの事なので、期待しながら連れてってもらうコトに。
ふふ、楽しみです♪


叢雲・蓮
【叢雲家】
紗綾姉に呼んで貰ったんだけれども、遊びに来ただけで何か悪いな…。
今度は、逆に俺が呼べるよう頑張らないと。

混浴できる温泉に2人で、ね。
確かに寒くなって来たし、熱いお湯が染みるよね。ちょっと鈍って来た分、更に身に染みてる感が…いや、本当だよ?

ん~…後ろからぎゅ~、ってするくらいは許されるかな?
ぎゅ~ってすると、紗綾姉とお湯、どっちの方が俺に熱を与えてくれるのか分からなくなる、なんてね?

俺も、世界で一番愛してるよ…紗綾。

折角の温泉だし、ゆっくりした後は美味しい物を食べないと。
ちゃんと紗綾姉の好みに合う、魚の美味しい店は予約して来たから期待してて。絶対に後悔はさせないからさ♪



「温泉、楽しみです」
 叢雲・紗綾(嘲り詰る兇弾・f40836)はだれが見てもわかるぐらいに、上機嫌だった。特徴的な蒼紅異彩の瞳も、彼女の喜びにキラキラと輝いて見えた。
 その理由は、何よりも大切な存在、叢雲・蓮(機如掣電・f40835)がいるからである。
 温泉宿を堪能できるというのを聞き、せっかくだからと紗綾が呼び寄せたのだ。
「遊びに来ただけで、何か悪いな……」
 だが蓮は、紗綾と同じ蒼紅異彩の瞳を曇らせて、周囲を見回す。
 勝利の立役者になった猟兵を見るスタッフたちは、感謝のまなざしを向けていたが、それが何もしていない自分にも向いているのが、蓮としては少々申し訳なく思うのだ。 
「戦ってないコトは気にせずにですよ。折角二人で温泉を楽しむ機会なんですし♪」
 だが、紗綾はそんな蓮の思いを、明るく笑い飛ばす。二人で過ごせる時間が本当に楽しいのだと、その笑顔が告げていた。
「……うん。そうしよう。せっかく紗綾姉が呼んでくれたんだしね」
 そういって蓮もまた紗綾に笑顔を返す。いろいろ思うことはあるけれど、紗綾の笑顔を曇らせたくはない。
 何より、紗綾とともにゆっくりとした時間が取れるのは、蓮だって嬉しいのだ。 
(今度は、逆に俺が呼べるよう頑張らないと)
 内心では新たな目標を抱く蓮であった。
「そうそう。楽しみましょう」
 笑う紗綾が愛しくて、蓮はきゅっと紗綾を抱き寄せる。
「そうだね……混浴できる温泉に二人で、ね」
「え!? あ、うん」
 蓮の言葉に、顔を赤くする紗綾。
 仲睦まじい二人のやり取りを、宿のスタッフたちがほほえまし気に見守っていた。

「どうぞごゆっくり」
 そんな言葉とともに、二人が通されたのは、希望通りの家族風呂付の部屋であった。併設された風呂は総ヒノキで作られており、落ち着いた雰囲気が漂っている。
 つまりはまあ、夫婦向けの部屋ということだ。
「最近冷えてきましたし、熱い温泉が気持ちいいです」
 湯に浸かった紗綾が、ほうっと息を吐く。息を吸えば、ヒノキの良い香りがするのがわかる。
「確かに寒くなって来たし、熱いお湯が染みるよね」
 蓮もまた、気持ちよさげに湯を堪能する。
「ちょっと鈍って来た分、更に身に染みてる感が……」
 温かさに気が緩み、ついうっかりと言葉が零れ落ちた蓮。
「ん? なにか言いました、蓮くん?」
「え、えっといい湯だなって。いや、本当だよ?」
 疑うまなざしの紗綾に、蓮が慌てたように言葉を紡ぐ。
「せっかくの温泉なんだから、楽しみましょう。なかなかこんな風に使わせてもらえるタイミングはないんですし。それに」
 紗綾は蓮にもたれかかるようにして、体をぴったりと密着させる。
「え、紗綾姉!?」
「それに何より、こうして蓮くんと一緒に過ごす時間はとても嬉しいモノですから」
 温泉の温かさとはまた違う、お互いの温もりに、そして邪魔する物のない肌の触れ合いに、紗綾の心の中が温かくなる。
 蓮のほうも、触れ合う肌に体温が上がるのがわかった。だが、少し物足りないとも思うのだ。だって、隣にいるのは最愛の姉であり、最愛の妻なのだ。
 とはいえ、貸し切りではあるが、昼間の公共の場所で、あまりなことはさすがにできない。
(ん~……後ろからぎゅ~、ってするくらいは許されるかな?)
 もたれかかってくる紗綾が倒れないように気を配りつつ、蓮は紗綾の背後に回る。そして、ぎゅっと締め付けないように、けれどしっかりと、その体を抱きしめた。
「蓮くん!?」
 急に抱きしめてきた蓮の行動に驚いて、声を上げる紗綾。だが、その腕を振り払ったりはしない。ただ今まで以上の密着に、体の熱が上がっていく。
「こうやってぎゅ~ってすると、紗綾姉とお湯、どっちの方が俺に熱を与えてくれるのか分からなくなる、なんてね?」
 耳もとに蓮が囁く。
「……蓮くん、愛してます♪」 
 自分を抱きしめる蓮の腕を、紗綾はそっと包むように抱きしめる。言葉だけでは足りないほどの思いが、伝わればいいと。
「俺も、世界で一番愛してるよ……紗綾」
 蓮もまたほんの少しだけ、紗綾を抱きしめる力を強くした。
 思いがもっともっと伝わりますようにと。
 そして二人は、何よりも大切な存在と触れ合えるという幸福を、深く深くかみしめるのであった。

 風呂を上がり、着替えた紗綾と蓮は街へと繰り出す。
 まだ少し防衛戦の余韻が残っているとはいえ、ほぼ日常を取り戻している都市のなかを、二人は寄り添いながら歩いていく。
 紗綾と蓮の目的は、食事である。
 宿で済ませてもよかったのだが、蓮が『折角の温泉だし、ゆっくりした後は美味しい物を食べないと』と主張したことで、外食と相成ったのだ。
「ちゃんと紗綾姉の好みに合う、魚の美味しい店は予約して来たから期待してて」
 得意満面にそう告げる蓮は、その外見の大人びた印象とは違い、どこか子犬を彷彿とさせる愛らしさがあった。
 嬉し気に案内する蓮の様子を見た紗綾が、幸せに笑みをこぼす。
「リサーチしてくれたんですね。じゃあ、期待しちゃいますね」
 言いながら、ぎゅっと紗綾が蓮の腕にしがみつく。
 熊本とはいえ、やはり夕方になればひやりとはするものだ。だが、こうしてくっついていれば、二人ともずっと温かいだろう。 
「絶対に後悔はさせないからさ♪」
「ふふ、楽しみです♪」
 幸せな夫婦は、平和が守られた街を楽し気に歩いていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

暗都・魎夜
SPD
防衛主任と軽く話す
【心情】
こっちの世界の熊本も景色は似たような感じなんだな
決戦配備やら元デウスエクスなんかのおかげで、細部に結構違いはあるみたいだけど
こういう場所を見ると、改めて世界にもいろいろあるって思わされるな

※ケルベロスディバイド以外の現代地球風世界へはあまり行っていない

【行動】
一っ風呂浴びた後、防衛主任と会話
こうして一緒の相手と戦ったのも何かの縁だ
交流深めて悪いこともないだろ

「良い温泉だったぜ。堪能させてもらった」
「主任さんはこの仕事長いのかい?」

俺も戦いを始めたのは中学生位の頃だったっけか
どの世界でも子供が戦いに巻き込まれるような時代は終わらせたいもんだ



「ふう、いい湯だったぜ」
 暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)は夕闇迫る熊本の街を、ぶらりぶらりと歩いていた。
 温泉により火照った体に、ひやりとした空気が気持ちよかった。
「こっちの世界の熊本も景色は似たような感じなんだな」
 脳裏に浮かぶのは、銀の雨が降る、魎夜の世界の熊本だ。
(配備やら元デウスエクスなんかのおかげで、細部に結構違いはあるみたいだけど)
 魎夜の知る熊本は、当然のことながら、街の周囲に防壁が築かれたり、巨大な砲塔や魔術増幅装置が設置されたりしていない。
 だが、それでも、人は明日を望んで精いっぱい生きている。
(こういう場所を見ると、改めて世界にもいろいろあるって思わされるな)
 猟兵に覚醒し、生まれ故郷以外の世界の存在を知って以来、様々な世界を見た。だが、ここのようによく似た世界へと赴くことはあまりなかった。
 そのせいなのか、自分の世界とここの熊本の差を知るほど、世界の広がりを感じる。
「ん?」
 ふと見覚えのある顔を見つけ、魎夜は足を止める。
「あれは……おーい!」
 声を上げ、大きく手を振れば、目的の人物が立ち止まり振り返った。
「おや、これは暗都さん。どうかなさいましたか?」
 呼ばれた防衛主任は、一瞬驚いた顔をしたが、魎夜に気づきすぐさま笑みを浮かべる。その顔は、別れた時に見た疲れが取れて、晴れ晴れとしていた。
「いや、風呂上がり、ちょいと街をうろついてただけだ。そっちは……あー、そういえば、名前も聞いてなかったな」
 呼びかけようとして、魎夜は自分が相手の名前を知らないことに気づく。
「おや、そうでしたか。これは失礼しました。私は本田・進といいます」
 ぺこりと頭を下げ、防衛主任もとい本田が、名を告げてくる。
「こっちの名前は……知ってるな。ふむ、ところで、本田はちょいと時間あるか?」
「私ですか? ええ、それはありますが」
「それならちょいと話さないか?」
「私と、ですか?」
 予想外のことを言われ、面食らった顔をする相手に、魎夜は気のいい笑みを浮かべる。
「こうして一緒の相手と戦ったのも何かの縁だ。交流深めて悪いこともないだろ」
 どうだ、と問いかける魎夜に、本田も相好を崩して頷いた。
「大した話も出来ませんが、それでよければ」
「おう、よろしくな! そうそう、良い温泉だったぜ。堪能させてもらった」
「おお、それはよかったです。自信はありましたが、あくまで私のお勧めでしたから、少々不安だったのですよ」
 肩の荷が下りたといわんばかりにほっとする本田の様子に、魎夜が笑う。
 サウナもなかなか良かった。
 宿の料理はうまかった。
 街ならあそこがおいしいですよ。
 そんなたわいもない、けれど平和だからできる会話をしながら、二人は街をうろつく。
 どこかの店に腰を落ち着けてもよかったのだが、どちらともなく『街を見て回ろう』となったのだ。 
 一人は様々な世界を目に焼き付けるために。
 一人は守りきれた大切な営みを見るために。
「本田はこの仕事長いのかい?」
「そうですね……長いといえば長いのでしょうか。高校三年の時に襲撃が始まって、そこからずっとこの街で防衛にかかわっていますね。あいにく私はケルベロスではないので、前線には出られませんが」
「そうか。俺も戦いを始めたのは中学生位の頃だったっけか」
 魎夜の言葉に、本田がぎょっとした顔をする。
「そんなに幼いころからですか。それは、頑張られたんですね」
 本田の言葉に、魎夜が何かを返そうとした瞬間、子供の歓声が、彼らの耳に届いた。
 二人して声の元へ視線を向ければ、子供が父親に肩車をされて、楽し気に笑っていた。
「どの世界でも、子供が戦いに巻き込まれるような時代は終わらせたいもんだ」
「ええ、本当に」
 魎夜の言葉に、本田も強く強く頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイシャ・ソルラフィス
【ドヴェルグ】

みんなと温泉だなんてずるい!
ボクも遅れて合流するー!

急いでたからスク水しか用意できなかったけど尚くんと混浴を希望!
尚くんとポーラちゃん、今回も大活躍だったんだって?(尚くんにぴとっ)

ポーラちゃんのフルーツ牛乳飲むー
ユッカ、火山を鎮めるのご苦労さま!
イクちゃん今回も高機動戦闘がすごかったって聞いたよ~

尚くんへの『トドメ』は何かの拍子でボクの浴衣がはだけちゃったとか、そんな感じの展開が起きたとかでMSさんにお任せ!

尚くんを除くみんなでローテーションを組んでエアホッケー対戦
最初弱かったイクちゃんが学習して徐々に強くなっていく~!
ユッカとポーラちゃんも手加減して~!
(POWが一番低い子)


ポーラリア・ベル
【ドヴェルグ】
ほわあ、温泉、混浴だって!ポーラ、雪見温泉にしてくるー!

実はこっそりスク水着てたんだー
身体にお湯かけて(温泉のたまった風呂桶に入ってぱちゃぱちゃした後)
ふぇあーっと浸かるのー!

なおなお~♪って甘い声で
潜水してなおなお(尚人)のお腹にくっつき頬ずりを。
でも次第に息が続かなくなって溺れそうに…ほわぁ!つ、つままないでー!

わ、のぼせたの!?
実はこっそり冷気で冷やしてあった、ドリンク各種の出番だわ!
おひとつなおなおのおでこにあててー みんなもよければー!
はい、イっちゃん、コーヒー牛乳がいいかしら!
(笑顔でほっぺに瓶をくっつけようと)

エアホッケーにも参加するの!台詞はおまかせ。


村崎・ゆかり
【ドヴェルグ】

貸し切りねぇ。まあ気楽でいいわ。

温泉か。火山の恵みね。水着で入浴して、イクシア、隣いい?
尚人たちは相変わらずねぇ。ていうか、アイシャはいつの間に? などと言いつつイクシアの太腿に手を這わせて。
どう、気持ちいいかな、イクシア? イクシアの手も温かいよ。

湯上がりは牛乳飲んでからゲームコーナーで遊びましょ。
尚人以外の皆でレーシングゲームしたり、エアホッケーで対戦したり。
なかなか楽しめるわね。勝ちに行きたいって気持ちが大きくなるわ。
ん、動きすぎて浴衣がはだけてきちゃったか。直さなきゃ。
うん、ここは順番にね。あたしの番が終われば審判役。どっちが勝つかな?

さて、そろそろご飯の時間。


イクシア・レイブラント
【ドヴェルグ】
ゆかりさんに肩を寄せて、日野さんたちの様子を眺める。
そうね。見慣れたやり取りだけど、あの3人には笑顔が似合う。

さて、平静を装いたいけれど、実は緊張しているし頬も赤い。
お湯の中で手を重ねて、気持ちいい?という言葉には、えっと…なんて答えよう?
ひゃっ…コーヒー牛乳? もう、ポーラさんったら。

エアホッケーは初めて。
アイシャさんの教え通りにやってみる。
今は日常モードで動きが鈍いから
逆をつかれると間に合わない。
でも、正確な動きと演算能力を武器にペースを上げる。
えっと、その、夢中になり過ぎたね。
みんなの浴衣の乱れを指摘して私も整える。

うん、みんなと一緒に過ごせてよかった。
いつもありがとうね。


日野・尚人
【ドヴェルグ】
あ、ありのまま今起こってる事を話すぜ?
俺は防衛主任のおっさんの勧めで露天風呂に入ってたと思ったらいつの間にかみんなと混浴してた。
何を言ってるのか分からないと思うが俺も何でこうなったのか分からない・・・
(何の試練だよっ!?)
(背中にはあーちゃんの・・・感触が・・・腹の辺りにはポーラの・・・ん?)
って、溺れてるしっ!?
ポーラを慌てて摘まみ上げるぞ!

ふと視線を感じ、見ないようにしてた村崎とイクシアの方をチラッ。
あ、村崎っ!ドサクサに紛れてお触りすんの禁止なっ!

湯上りはもう無理・・・俺、まだ色々と若いんだよ;
湯より脳裏に焼き付いた彼是にのぼせてダウンしてるぜ;
ぶっ!?トドメ刺す気かっ!?



(あ、ありのまま今起こってる事を話すぜ?)
 心の中で日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)は、誰とも知れない相手に語っていた。
 その目は、光を失っている。
 ここは防衛主任から勧められた温泉宿。この広さの宿を貸し切りというのはなかなかに贅沢だ。
 土の中で戦っていたため、泥まみれになった自分たちにとって、とてもありがたい。
 スタッフたちも、勝利の立役者である自分たちに親切で、人数が多いからと温泉付きの離れへと案内してくれた。
 その時気づけばよかったかもしれない。
 スタッフの目が、なんというか、『若い子はいいですねえ』的な目をしていたことに。
「ほわあ、温泉、混浴だって!」
 尚人の耳に、上機嫌なポーラリア・ベル(冬告精・f06947)の声が届く。
 くるくると尚人の周囲を旋回するポーラリア。なお装いはスクール水着である。
「やったー! 尚くんと一緒だね!」
 アイシャ・ソルラフィス(隣ん家の尚くんを毎朝起こす当番終身名誉顧問(願望)・f06524)が尚人のすぐ横で、嬉しげな声を上げる。
 こちらもスクール水着である。
 潜航竜退治に同行しなかったアイシャがいるのは、とても単純な理由で。
 宿の部屋に案内され、一息ついた尚人が、心配してるかもとアイシャに連絡を取った。そこで温泉宿の話を聞いたアイシャが『みんなと温泉だなんてずるい! ボクも合流するー!』と騒ぎだし、それならばと招いたのだ。
 宿のほうにはもちろん説明済みである。
「ポーラ、雪見温泉にしてくるー!」
「わー、ストップストップ!」
 ふわりと飛んでいこうとしたポーラリアを慌てて尚人が引き留める。
「えーだめー?」
「突然雪見温泉になってたら、宿の人がびっくりするだろう?」
「そっかー、わかったー」
 納得したポーラリアがふわりと、尚人の肩に座りなおす。
 その事実にほっと息を吐きかける尚人だが、すぐに思い直す。事態は全くよくなっていないのだと。
 しかも、だ。
 アイシャとポーラリアだけではないのだ。
 こちらからは少し離れているが、ともに戦った二人も当然いる。
 そうなのだ。
 尚人からすれば『防衛主任のおっさんの勧めで露天風呂に入ってたと思ったらいつの間にかみんなと混浴してた』のである。
(何を言ってるのか分からないと思うが俺も何でこうなったのか分からない……)
 ぐったりと疲れた顔する尚人。
 だが、その嘆きを聞くものは誰一人いない。

「イクシア、隣いい?」
 ささっとかけ湯をした村崎・ゆかり(|“紫蘭”《パープリッシュ・オーキッド》/黒鴉遣い・f01658)は、一人離れて湯につかっているイクシアの姿に気づき、声をかける。
「ええ、もちろん」
 いつも通り平静な返事をしたイクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)だが、実はかなり緊張していた。表情はいつも通りを保てているが、頬はしっかり赤くなっていた。
「ふふ、ありがと」
 イクシアの様子に、ゆかりは小さく笑うと湯に浸かる。途端、体を包むのは、湯の温もり。
「火山の恵みね」
 潜航竜が暴れさせようとした阿蘇山。
 けれど、猟兵の活躍により、今はこうやって人々に恵みを与えてくれる。
「けど、貸し切りねぇ。まあ気楽でいいわ」
 ゆかりは、戦いの緊張で凝り固まった体をぐっと伸ばす。
「そうね。落ち着けていいと思う」
 イクシアも、少し緊張が取れたようで、固まっていた表情が少し柔らかくなっていた。
「ほんとにね、静か……でもないわね」
 きゃあきゃあと騒がしい声に、二人して視線を向ければ、連れの三人がはしゃいでいた。一人、尚人の目が遠くを見ているようにも見えはしたが、全体的には楽しそうだ。
「尚人たちは相変わらずねぇ」
「そうね。見慣れたやり取りだけど、あの三人には笑顔が似合う」
 ゆかりに肩を寄せて、イクシアは尚人たちの様子を眺める。 
「ていうか、アイシャはいつの間に?」
 たった今、アイシャの存在に気づいたゆかりが驚きの声を上げる。傍にいるのが自然すぎて、違和感を抱いていなかったのだ。
「それは……!」
 その疑問に答えようとしたイクシアだったが、自分の太腿に伸びてきたゆかりの手の感触に、言葉を詰まらせた。
 びくりと肩を震わせ、イクシアはゆかりに驚きの顔を向ける。その頬は真っ赤に染まっていた。
「どう、気持ちいいかな、イクシア?」
 にこりと微笑みながら問いかけてくるゆかり。その間も、ゆかりの手はイクシアの太腿の上にあった。
「あ、あ、あのえっと……」
 何と答えればいいのかわからず、戸惑うイクシアの姿に少し笑って、ゆかりは太腿に手を這わせ続ける。
 その手をなんとか止めたくて、伸ばしたイクシアの手がゆかりの手に触れる。温泉の熱を移して、温かくなった手に。
「……あったかいね」
「イクシアの手も温かいよ」
 そっと手を重ねてくるイクシアの手を、ゆかりはキュッと握る。
「そう、かな」
「ええ。それはそれとして、こっちはどうかしら?」
 握った手を放し、再びゆかりの手がイクシアの太腿を撫で始める。その感触に、収まりかけた頬の赤みが、またぶり返すイクシアであった。 

 一方、三人もゆかりやイクシアに続いて、湯船の中に入る。
 体の大きさの問題で、かけ湯は危険と判断されたポーラリアだけは、風呂桶に汲んだお湯でぱちゃぱちゃしたのだが。
「ふぇあー」
 気持ちよさそうな声を上げて、ポーラリアが温泉に浸かる。もちろん、溺れないように浅いところにだ。
 尚人のほうも、湯につかったことでほっと一息つく。浸かってしまえば、視覚的なものはかなり遮断されるからだ。
「尚くんとポーラちゃん、今回も大活躍だったんだって?」
 アイシャが尚人の背後からぎゅっとしがみつき、二人の体がぴったりと密着する。
「そうなのよ、ポーラもなおなおも、大活躍! ポーラ、おっきな手で、岩をえいってしたのよ! あ、ゆかゆかとイっちゃんも大活躍!」
 ポーラリアが全身の動きで、皆の活躍をアイシャに伝え、尚人がそれに補足を入れていく。
「いいな~。ボクも参加すればよかった」
 拗ねた口調で、さらにぎゅぎゅと体を押し付けるアイシャ。それに伴いうつむく尚人。理由は聞かないのが情けというものだ。
「なおなお~♪」
 それを見ていたポーラリアが、甘い声で尚人を呼びながら、ぽいっとお湯の中に飛び込んだ。すいすいとお湯の中を泳ぎ、尚人のお腹にしがみつく。
 そのまま、すりすりと頬ずりをするポーラリア。
 そして、背後ではやはりアイシャがぎゅぎゅと密着してくる。
(背中にはあーちゃんの……感触が……腹の辺りにはポーラの……ん?)
 温泉の熱以外で体温が上がり、いろいろ困ったことになりそうな尚人。だが、それでも、ポーラリアの異変に気付かないことはない。
「って、溺れてるしっ!?」
 慌てて尚人は、ポーラリアを摘み上げる。
「ほわぁ! つ、つままないでー!」
「いやいや、おぼれかけてたら摘むよ!」
 言いながらも、尚人は自分の掌の上に、ポーラリアをそっと降ろす。
 そこに視線が飛んでくる。方向は、意識して、見ないようにしていたゆかりとイクシアがいるほうからだ。
 何事かと見ればイクシアがじっとこちらを見ていた。
 睨んでいるというより、困惑して救いを求めているように感じられて、尚人はそらしていた意識を二人に向ける。
「あ、村崎っ! ドサクサに紛れてお触りすんの禁止なっ!」
 ゆかりは楽し気だが、イクシアのほうは耳まで真っ赤にしている状況に、何が行われているかを正確に理解した尚人は、慌てて声を上げる。
 尚人の声に、ゆかりは残念そうにし、イクシアはほっと息を吐いたのだった。

 示し合わせたように全員が、温泉を上がり、脱衣所へと集まる。
 女性四人が疲れを癒し、ほっこりとしている中、尚人は押し黙り、死んだ目をしていた。
 風呂場の中で起こったアレコレに、キャパオーバーギリギリだというのに、さらに尚人の前には試練があった。
 湯上りというだけでも、思春期の男にはいろいろと辛いものなのに、全員が浴衣なのである。
 まあ、温泉の湯上りに浴衣を着るのは普通なのだが。実際尚人も浴衣姿であった。
 ただ、理解していても、実感してはいなかったわけで。
(無理……俺、いろいろと若いんだよ)
 歩くたびにちらりと見える足とか、ゆるい合わせから見える胸元とかに、目を奪われそうになるのを、顔を伏せ、必死でこらえる。
 そんな尚人の様子に気づいて、ポーラリアがふわふわと飛んで、伏せられた顔を覗き込む。
「わ、のぼせたの!?」
 真っ赤になった尚人の顔にびっくりして、思わず声を上げるポーラリア。温泉上がりに顔を赤くしていれば、そう思うのは当然だろう。
「あ、いや……」
 だが、事実はもちろん違う。
 いやある意味のぼせているというのは当たっている。温泉の中での出来事と、今のこの状況に。
「うん、ちょっとね」
 それをどう説明していいのか、いや、そもそも説明していいのかさえ分からない尚人は、ポーラリアの誤解に乗ることにした。
「こういうときは、実はこっそり冷気で冷やしてあった、ドリンク各種の出番だわ!」
 その様子に、やっぱり温泉でのぼせたのだと受け取ったポーラリアが、任せてとばかりに、すいっと脱衣所の一角に置かれたクーラーボックスの元へと飛んでいく。
「宿の人にお願いしたの!」
 クーラーボックスの中には、ポーラリアの雪により冷やされた飲み物が詰められていた。
 勿論種類は、湯上りにぴったりの各種牛乳シリーズである。
 その中から、牛乳の瓶を取り出したポーラリアは、尚人のおでこにピタリと当てる。
「わっ……ありがとう、ポーラ」
 牛乳瓶の伝えてくる、ひやりとした温度に、尚人の思考がほんの少しだけクリアになる。
「どういたしまして!」
 尚人からの感謝に、ポーラリアは嬉し気にくるくると舞う。
「みんなもよければー!」
「ポーラちゃんのフルーツ牛乳飲むー」
 真っ先に手を上げたのはアイシャだ。ボックスの中からフルーツ牛乳を一つ取ってご機嫌に笑う。
「じゃあ、私も牛乳にしようかしら」
 ゆかりもひょいっと冷えた瓶をクーラーボックスから取り出した。
「イクシアはどうする?」
 ゆかりからの問いかけに、どうしようか悩んでいたイクシアの頬に突然、ひやりと冷気がお見舞いされる。
「ひゃっ……コーヒー牛乳?」
 驚き横を見れば、まず目に入ったのはコーヒー牛乳の瓶だった。
「はい、イっちゃん、コーヒー牛乳がいいかしら!」
 ポーラリアがにこにこ笑顔で、イクシアの頬にひえひえの瓶を押し付けてきたのである。
「もう、ポーラさんったら」
「あれ、ほかのが良かった?」
 驚かされたことに、多少の文句を言ってみるのだが、ポーラリアは不思議そうに首を傾げるだけだった。どうやら悪気はなかったらしい。
「いえ。……ありがとう、ポーラさん」
「どういたしまして!」
 イクシアに喜んでもらえて、ポーラリアはご機嫌だ。 
「そういえば、ユッカとイクちゃんも大活躍だったんでしょ?」
 フルーツ牛乳を飲み終わったアイシャが、思い出したように二人に声をかける。
「ユッカ、火山を鎮めるのご苦労さま!」
「ふふ、ありがとう」
 悠然とした態度でその称賛を受け止めるゆかり。
「イクちゃん今回も高機動戦闘がすごかったって聞いたよ~」
「私は、いつも通りにやっていただけ」
 少しだけ照れたように、けれど平静に返すイクシアに、むうとアイシャがほほを膨らませる。
「もう、イクちゃんはいつもそんな感じなん……わわあ!」
 イクシアへ絡みに行こうとしたアイシャは、慣れない浴衣を捌ききれず、つんのめる。
「危ない!」
 とっさに手を伸ばす尚人。
 だが、浴衣に慣れておらず、そのうえ精神に特大ダメージを負っていたため、常の動きが取れなかった尚人はアイシャを支えきれず、そのまま二人合わせて転倒する。
 ――ゴインッ!
 盛大な音が響く。
「ぶっ!? トドメ刺す気かっ!?」
 受け身も取れず後頭部を強打した尚人が、痛みにうめく。それでも、アイシャを守るため、下敷きになって倒れた尚人はさすがであった。
「ご、ごめんね、尚くん!」
 慌てた様子で、アイシャが両手を床につき、体を起こす。無論、アイシャに他意はなかった。尚人にかかる負担を少しでも軽くしようとしただけだった。
 結果、転倒しあおむけの尚人の上に、腕立てをしている状態のアイシャという状況が生み出された。
 尚人の目の前、至近距離に広がるのは、着付けが緩み、大きく広がったアイシャの胸元だ。
 かあっと頭に血が上る。
(何の試練だよっ!?)
 声にならぬ叫びをあげながら、尚人の意識は綺麗にブラックアウトするのであった。

 脱衣所を出てすぐの、ゲームコーナーのソファーに尚人を寝かせる。
 医者を呼ぶかという話にもなったが、仮にも猟兵である。そうそうどうにかなることなどない。
 何よりも。
「まあ、大丈夫でしょう。のぼせてるところに、頭を打って目を回しただけだもの」
 ゆかりのこの言葉により、尚人はしばらく休ませておこうということになった。もちろん、ゆかりは尚人が意識を失った理由をきちんと理解している。
 そして、尚人が目覚めるまで、ゲームコーナーで遊ぶことになったのだが。
「わー、エアホッケーだよ」
「あら、ほんと」
 ポーラリアの声にゆかりが反応する。
 だが、イクシアは不思議そうに首を傾げるだけだ。
「あれ、イクちゃん、エアホッケー初めて?」
 イクシアの反応に気づいて、アイシャが声をかけてくる。
「うん、したことない」
「任せて、イクちゃん、ボクが教えてあげる!」
 こくりと頷くイクシアに、自信満々のアイシャが、満面の笑みを浮かべ先生役を買って出る。
「じゃあ、みんなでやりましょう。まず最初は誰がする?」
 ゆかりの言葉を合図にし、簡易なエアホッケー大会が開催されることとなった。
 
 ――カン、カカン、カーン!
 甲高い音が鳴り響く。
 今、戦っているのは、先生のアイシャと生徒のイクシアである。
 イクシアは最初は全員に負けていた。日常モードのイクシアは、そこまでの瞬発力がなく、逆を突かれるとあっさりとシュートを決められていたのだ。
 だが、正確なショットと、持ち前の演算能力を使用したパックの軌道計算により、めきめきと腕を上げていく。
「うわ、イクちゃんが学習して徐々に強くなっていく~!」
 余裕を見せていたアイシャは、だんだん追い詰められ悲鳴を上げる。
「アイシャさんに教わった通りにやってるだけ」
 今ではすっかり慣れた動きで、イクシアがパックを打ち返す。
 ――カーン!
 ひときわ高い音を立て、イクシアの打ったパックが、アイシャの守るゴールへと打ち込まれた。
「勝負あり。勝者、イクシア」
「まけたー!」
 審判を務めていたゆかりが宣言すると、がっくりとアイシャが項垂れる。
「次、ポーラとやる?」
 はいはいと立候補するポーラリアに、しかしアイシャは手を上げない。
「ううー、ユッカとポーラちゃんも手加減して~!」
 ほかの二人にも、すでに負けこんでいるアイシャは、しょんぼりとして、スマッシャーから手を放す。
「次は私とやりましょう」
 立候補したのはゆかりだった。
「じゃあ、ポーラが審判ね!」
 はいはいとポーラリアが手を上げて、そして、ゆかり対イクシアの戦いが開始される。
 ――カンッ! カンッ! カンッ! 
「なかなか楽しめるわね。勝ちに行きたいって気持ちが大きくなるわ」
 イクシアの鋭い攻撃を防いだゆかりがにっと笑い、イクシアに負けない打ち込みを仕掛ける。それを受け、イクシアもまたゆかりの守りの死角を狙う。
「うわー、イっちゃんもゆかゆかもすごーい!」
 凄まじい速さで往復するパックの様子に、ポーラリアが歓声を上げる。その姿は、とても楽し気だ。
「イクシアは楽しい?」
「うん、楽しい」
 イクシアが微笑んでいることに気づいたゆかりが、問いかければ、パックを打ち返しながら、イクシアが頷く。
「みんなと一緒に来てよかった。いつもありがとうね」
 その言葉に、審判を務めていたポーラリアが、しょんぼりしていたアイシャが、そして今目の前で打ち合っているゆかりが、異口同音で答えた。
「「「どういたしまして」」」
 温かい空気が流れるが、それはそれとして、ゆかりとイクシアの勝負は続いていく。
「あ……」
 突然、イクシアが戸惑いの声を上げ、顔を赤らめる。その状態で打ち返されたパックは、ひどく甘いコースでゆかりの元へと向かう。
 突然のイクシアの変調に、ゆかりが怪訝な顔をする。だが、すぐにその原因に気づき、ゆかりは口の端に笑みを浮かべる。
 原因、それはゆかりの胸元だ。
 しっかりと着付けてはいたが、イクシアとのラリーの激しさに、ゆかりの胸元は大きくはだけ、なかなか際どいことになっていた。
 尚人が起きていたら、顔を真っ赤にしてゲームのストップを宣言していただろう。
「ごめん、イクシア、ちょっと直したいから、止めてくれる?」
「わ、わかった」
 隠しきれなかった動揺で口調を乱しつつ、手は見事にぱちんとスマッシャーでパックを抑え込み、イクシアがゲームに中断をかける。
「ふふ、ごめんね、動揺させちゃった?」
「え、その……」
 笑み交じりのゆかりの問いかけに、図星を突かれたイクシアが、さらに頬を赤くする。
 それに気をよくしたゆかりが、笑みを深くしてイクシアへ歩み寄ろうとしたとき。
「ん? ……あれ?」
 意識が戻った尚人が、小さく声を上げながら、体を起こした。
「尚くん!」
「なおなお!」
「わわわ!」
 途端、アイシャとポーラリアに飛びつかれ、再びソファーへ沈み込む。
「え、ちょっと、いや、まって」
 二人にぎゅうぎゅうとしがみつかれ、またしても色々とまずい感触に尚人が慌てる。再び尚人の意識が危なくなってきたとき、救いの声がもたらされた。
「さて、そろそろご飯の時間。部屋に戻りましょう」
 ゆかりの一言は効果覿面、尚人を押し倒していた二人が、ひょいっと起き上がる。
「ごはんごは~ん!」
 ポーラリアは嬉しげにくるくると宙を舞い。
「たのしみ~!」
 言葉の通り、楽し気にアイシャが歩き出し。
「そうね、私も楽しみ」
 平静を取り戻したイクシアは、しっかりエアホッケーの道具を片付け、二人の後に続く。
「ほら、尚人もいくわよ」
 最後に尚人に声をかけ、ゆかりが立ち去れば、賑やかだったゲームコーナーには、ゲーム機の機械音だけが響いている。
「え、うわ! ま、待ってくれよ!」
 さんざん翻弄された尚人が、ようやっと立ち直り、慌てて四人の後を追うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年10月22日


挿絵イラスト