#UDCアース
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●背景 5歳の私へ
お元気ですか?私は21歳のあなたです。
私は4年前に5歳からの夢を叶え、アイドルになりました。
あなたが毎日テレビで見ているような、人気アイドルに私はなりました。
アイドルの仕事は大変です。
4年前に都会に出てきて、それから実家に1度も帰っていません。
毎日朝早くに起きて仕事に行って、日が変わっても仕事をしている日もあります。
どんなに嫌な人の前でも笑顔でいなければいけません。
可愛くて少し頭の足りない様な事しかみんなの前で話せません。
恋愛は偉い人から禁止されてます。
5歳のあなたに宛てた手紙に書くのは酷かもしれません。
だけど、私は。
大好きな家族の待つ家に帰ることが出来る。
辛いことがあったら共に泣いてくれる友達が当たり前にそばにいてくれる。
好きな人を思い悶々とする甘酸っぱい日々を送れる。
そんな『普通の女の子』に戻りたい。
●普遍という幸福
「『普通』…って、一体なんでしょうね」
しん、と静まり返ったグリモアベース。
アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は猟兵達に問いかけるようにそう呟いた。
例えば、家に帰れば優しい家族が出迎えてくれることだろうか。
美味しいご飯が食卓に並ぶことだろうか。
共に笑い励ましあえる友がいることだろうか。
あるいは、“猟兵”であるというだけでここにいる面々はもはや『普通』ではないのかもしれない。
「…UDCアースで不可解な失踪事件が増加しています」
失踪する者は皆、『普通』ではない人々。
アイドル。タレント。俳優に女優。
いわゆる芸能人といった顔ぶれだけではない。
若くして両親を失った少女。極貧生活を送る学生。秀才と呼ばれる孤高の天才。
UDC組織の調査によると、彼らは一様にしてとある山奥にある廃村へ向かい行方知れずとなったらしい。
「安心してください。彼らは生きています。しかし…」
彼らはその廃村で、“夢”を見ているようだ。
望んでやまない『普通』の生活を送る夢を。
「もちろんこれは邪神による精神汚染です。」
彼らの“普通を願うささやかで無二の願い”から抽出された精神エネルギーを糧に、邪神本体が復活しようとしている。
「この精神汚染は非常に強力で、猟兵の皆さんといえど抗うことは難しいでしょう」
転送先は、件の廃村だ。
精神汚染を避けることはできない。
かつて失った大切な人が平然と目の前に現れて声をかけてくるかもしれない。
誰しもに疎まれたその呪われた力が消え去り、誰かと共に歩む平和な日常を見ることになるかもしれない。
“猟兵”になったことで壊れてしまった日常が、帰ってくるかもしれない。
「精神汚染は非常に強力です…心を飲まれてしまっても無理はありません。でも…どうか負けないでください。ボクにはこんなことを言うことしかできませんが…あなた方ならきっと勝てるはずです」
彼の白濁した瞳は真っ直ぐ猟兵達を見た。
グリモアは輝き転移が始まる。
そのさきに待っていたのは────────『普通』の日常風景だった。
ミヒツ・ウランバナ
オープニングをご覧いただき有難うございます。
こんにちは。初めまして。ミヒツ・ウランバナと申します。
『普通』とは猟兵の皆様から最も遠い存在かもしれませんね。
第一章:日常。
誰もが例外なく“普通”で“当たり障りない”そんな“日常”の夢を見ることになります。
どうぞ、心ゆくまで“日常”をお楽しみください。
第二章:抗い、溺れる。
自らとはかけ離れたそんな“普通”という白昼夢に抗ってください。
もしも───その“普通”を手放したくない。抗いたくないというのならば……。
詳細は第二章断章にて。
第三章:●●●との戦い。
夢と未来と“のぞみ”をつかさどる不完全に復活した邪神との戦いです。
貴方の精神を汚染し、|狂気《ふつう》の世界へと引き摺り込もうとするでしょう。
※全ての章は断章追加後にプレイング受付を開始します。
※グループ参加は2名までとさせていただきます。ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけるとありがたいです。
皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『なにかがおかしい』
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POW : 自分の常識も書き換わっているから何も問題ないぜ、体力を生かして探索
SPD : 常識の変化を察知、違和感を持たれないように偽装し、素早く探索
WIZ : 常識の変化を知覚、うまく話を合わせて聞き込み、怪しい場所を推理
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●至って普通で当たり障りのない日常
何処かの家から香るシャンプーの香り
午後五時を知らせるスピーカーの音楽
明るい窓から漏れ出るバライティー番組の笑い声
転送されたその先は廃村であったはずなのに、それは猟兵達の身に確かに感じられた。
景色がぐるり
廃村から暗転する。
意識がほんの一瞬、しかし確かに、まるで強制終了されるかのように途切れる。
次の瞬間───────
ある者は、朝食の席に着いていた。
ある者は、友と通学路を歩んでいた。
ある者は、家族の為に夕食を調理していた。
まるでそれが当たり前かのように。
いや、元々それが当たり前だったじゃないか。
そうして目玉焼きにかける醤油を取ってと母に言う。
今日の放課後どこへ行こうかと友に尋ねた。
この味で大丈夫?と一口分のカレーを差し出す。
これが日常。普通の世界。
あまりにも近くにありすぎて取りこぼしてしまった“ソレ”
ふと、脳裏に猟兵の二文字と違和感がよぎる。
果たして、猟兵とは一体なんだっただろう。
まあ、なんでもいいか。直ぐに忘れることだ。
目玉焼きの黄身をブツリと割った。
────────────────────────────
⁂マスターより
この章では誰でも例外なく、各々が夢見る理想的かつ一般的な『普通』の日常を過ごす事になります。
貴方にとっての『普通』の日常とは、生まれながらに手に入らなかったものですか?
それとも誰かに──あなた自身によって葬られたものですか?
この章でこの夢に抗う事はできません。ご注意ください。
普通の生活を送りましょう。猟兵であることなんて忘れて。
天道・あや
(最近、テレビ局で会わないなーと思っていた人達がまさかUDC絡みの事件に巻き込まれていたとは)(なら、同業者として、いや、猟兵として助けに行かねばと今回志願した)
(そして村に着いた途端、そんな思いはーー)
ーー
ーーー
ーーアウチッ!? (痛みで目を覚ます。するとそこは自室で、足元にはギター、そして机には作りかけの歌が書かれた紙)
(ーーそうだ、自分は今は新曲の作っていた。でも息詰まって、そして悩んでる内に眠くなって舟を漕いでしまった……らしい)
いつつ、いけない、いけない。考えすぎて落ち書けてたぜっ(ギターを拾い、頭を振るって、作りかけの音色を奏でる)
(……何か忘れてる気もするけど……気のせいだよね)
●一番星を目指して…?
いつもニコニコ笑顔を携えて楽屋に挨拶に訪れるあのアイドルの女の子。
廊下の端でマネージャーと真剣にスケジュールを検討していた大御所俳優。
その他にもポツリ、ポツリとしばらく顔を見ないと思っていた。
(最近、テレビ局で会わないなーと思っていた人達がまさかUDC絡みの事件に巻き込まれていたとは)
なら、同業者として、いや、“猟兵”として助けに行かねばと天道・あや( |スタァーライト 《夢と未来照らす一番星!》・f12190)は進んでこの依頼に志願した。
グリモアの輝きをその紫色の瞳に写しながら、あやは転送先でのことを考えていた。
あやは猟兵になった当初は猟兵としての頂点を目指していたが、様々な世界、様々な人、そして猟兵としての様々な在り方を見て、自分がなりたいものは猟兵としての頂点ではないことに気づくことができた。
異世界との文化の違いに振り回される事も多いが、それでも様々な仲間との交流もあり猟兵としての活動は楽しい。
楽しいといえばアイドル活動だ。学生・猟兵・シンガーソングライターの三足の草鞋を履いた活動は時に忙しく大変なこともあるが、猪突猛進で前向きなあやの性格ゆえそれを辛いと思ったことは決してない。応援してくれるファンのことを思えばいつだって笑顔になれるし、自然と元気も湧いてくる。
(…みんなの事も、アイドルのことも忘れちゃうのかな)
自分がアイドルを目指すきっかけになったあのアイドルのことも、猟兵になったきっかけのあの事件も。
(それは少し…いやとっても────)
秒針の音がする。
規則正しく一秒という時を告げるそれの音がなぜか鮮明に聞こえてくる。
ああ、ここは─────────────あたしの部屋だ。
頭を支えていた手から力が抜け、ずりっと音を立て頬が机にぶつかる。
「アウチッ!?」
ヒリヒリと痛む頬を撫でる。
涙が滲む瞳を擦りながらなんの気もなくあたりを見回すと、そこは当然あやの部屋だ。
目の前にある時計は午後十一時過ぎを指している。
足元にはギター、そして机には作りかけの歌が書かれた紙。
(そうだ、自分は今は新曲の作っていた。でも息詰まって、そして悩んでる内に眠くなって舟を漕いでしまった……らしい)
「いつつ、いけない、いけない。考えすぎて落ち書けてたぜっ」
ヒリヒリと痛む頬を撫でつつ、眠気を覚ますためあえて大きな声でそう呟く。
くあり、と欠伸を噛み殺しつつ足元のギターに手を伸ばす。
「次のフレーズは…っと」
作りかけの音色を奏でては、紙に曲の続きを記していく。
あれ、なぜだろう。
さっきまで寝落ちかけるほどに煮詰まっていたはずなのに。
まるで決まった曲を奏でるようにあやの指はコードを押さえて、歌詞のフレーズも頭の中にスラスラと浮かんでくる。
時計の長針と短針が重なり十二時を示す前に作りかけていた曲はあっという間に完成してしまった。
「曲のタイトルは…」
顔を天井に向けて出来上がった曲のタイトルについて考える。
いや、考える事をせずとも頭には既にそれが浮かんでいた。
「やっぱり『一番星を目指して』…かな!」
他の題名をいくつも考えてみるもののどうもしっくりこない。
この曲にはこのタイトルなのだと、既に決まっていたのだというような妙な感覚。
さっきから、何かがおかしい。
曲がこんなにすんなりと出来上がるならば、先ほどまで頭を悩ませてついウトウトしてしまうはずもない。
それにせっかく曲が出来上がったというのに、なんだか達成感が無いような。
「うーん、なんだか変な感じ」
大切なものを忘れてしまっているような、頭にモヤがかかっているようなそんな“なにかがおかしい”変な感覚。
カチリ、時計の短針と長針が重なる。
「わっ!そろそろ寝ないと明日の学校に遅刻しちゃうよ!」
そう言って彼女はバタバタと寝るための支度を始める。
彼女は“普通”の学生だ。
明日だって学校に行く。
明後日だって。その次の日だって。
それが“普通”なのだから。
「あれ?出来上がった曲ってどうするんだっけ」
枕に頭を横たえるとふと思い浮かぶ疑問。
さっきから“なにかがおかしい”
それになんともいえない喪失感が、彼女の中にはあった。
(……何か忘れてる気もするけど……気のせいだよね)
気のせい気のせい。
頭の中でそう呟くと彼女は目を閉じる。
こういう日は寝てしまうに限る。
きっと明日にはこんな些細なこと全て忘れて、いつも通りの“日常”が待っているはずなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
「ここが事件が起こっているという廃村ですね……」
『気をつけるのじゃ、布都乃。
この気配は――』
式神の子狐の言葉にうなずこうとした瞬間――
私は神社に併設された家の居間にいました。
そこにはお父様とお母様がいて――
「――いえ、二人は私が幼い頃に亡くなっています。
これは幻――」
けれど。お父様とお母様が話しかけてくると、陰陽師であることも、未来視の魔眼の力のことも、家族同然の式神のことも忘れ――
「あ、ううん、なんでもないです。
お父様、お母様、学校に行ってきますね」
学校に通っていない現実では、一度も着たことがない制服に袖を通して学校に行き――
帰ってくると両親に迎えられるのでした。
「お父様、お母様、ただいま」
●これは“普通”の少女の“日常”
グリモア猟兵に送り届けられた先は山の深くにある廃村。
湿った土の匂いと、劣化した家々の埃っぽい匂い。
日中なのにどこか薄暗さを感じさせるような、そんな場所だった。
「ここが事件が起こっているという廃村ですね……」
『気をつけるのじゃ、布都乃。この気配は――』
天羽々斬・布都乃(神剣使いの陰陽師・f40613)は妖狐の式神の言葉に頷き慎重に一歩廃村の奥へ踏み込もうとした、その瞬間だった。
そこは、神社に併設された布都乃の家の居間だった。
「───あれ、私は…」
なんで家に帰っているのでしょう。
先ほどまでの薄暗い廃村は何処かへと消え去り、和室の畳の匂いが鼻をくすぐった。
だが、彼女にはすぐにそれがオブリビオンの影響によるものだとわかった。
だって目の前の光景は彼女にとって明らかに異常だったから。
────彼女の目の前には彼女の両親が彼女と向かい合うようにして座っていた。
思わず、お父様、お母様と口を開きそうになる。
「──いえ、二人は私が幼い頃に亡くなっています。これは幻──」
「布都乃、どうかしたの?」
「幻って…何か怖い夢でも見たのか?」
布都乃の母と父が心配そうに彼女の顔を覗き込む。
その瞬間、陰陽師であることも、未来視の魔眼の力のことも、家族同然の式神のことも忘れ──
「あ、ううん、なんでもないです。お父様、お母様、学校に行ってきますね」
彼女は“普通の女の子”になった。
目の前にある自分が食べた朝食の食器を下げて、自室へと向かう。
布団の上に畳んであったのは───学校指定の制服。
最近肌寒くなってきたから、今日から衣替えだ。
長袖の制服に着替えるとどこからどう見ても女子中学生だ。
鏡にその姿を写して見てみる。
なんとなく格好に違和感を感じるのは、衣替え初日だからだろう。うん、きっとそうに違いない。
行ってきます、と再び両親に声をかけると布都乃は石畳の階段を降りていく。
「布都乃ー!おはよう!」
「おはようございます。布都乃ちゃん」
階段を降りた先では同じクラスの友達が布都乃の事を待っていた。
(そうでした。私は彼女達と一緒に登校していたのでした。)
なんでこんな“普通”のことも忘れてしまっていたのだろうか。
今日は朝からなんだか“いつも”と違うような、なんとも言えない変な感じがする。
「皆さん、おはようございます。」
大きく手を振る友人に軽く手を振って返し、ペコリとお辞儀をする。
「あれ?布都乃ちゃん…リボンはどうしたんですか?」
友達の一人が布都乃の首元を指差す。
ハッと息を吸い、首元に手をやるとそこに学校指定の制服のリボンは無かった。
「わ、忘れてきてしまいました〜!」
「まったく、布都乃は相変わらずドジっ娘だな!」
つまづきそうになりながら、ついさっき降りてきたばかりの石の階段を駆け上る。
(お父様とお母様に呆れられてしまいます…!)
布都乃は猛スピードで家へと戻ると、玄関前にはお母様が立っていて布都乃の焦った姿を見ると苦笑してその手に持っていた制服のリボンを手渡すのだった。
学校生活はというと平和そのものだった。
得意の国語の時間では百人一首の一句をみんなの前で音読した。
数学の時間には抜き打ちテストに頭を悩ませたりした。
昼休みは友達みんなで席を合わせてお母様が作ってくれたお弁当を食べて、恋バナなどで盛り上がった。
英語の時間では新しく覚える英文に脳がショートしそうになったり。
放課後は、いつものメンバーと週末はどこに行って遊ぼうか、公園のベンチで作戦会議をして───
「バイバイ布都乃!また明日!」
友達に手を振って一礼をする。
そうして布都乃はゆっくりと石畳の階段を登り始めた。
太陽はもうすぐ沈んでしまうようで、辺りは夕焼けに照らされてはいるもののほんのりと薄暗かった。
家の方向から煮物の甘塩っぱく香ばしい匂いが立ち込めてくる。
(今日の夜ご飯は肉じゃがでしょうか?)
そうだったら少し嬉しい。
居間の窓から漏れる光。この時間なら、きっとお父様もそこにいるだろう。
布都乃は玄関の前で、ふと立ち止まる。
昨日だって、その前の日だって何度だって繰り返したことのはずなのに何故か玄関を開けてもお父様もお母様もそこにはいない気がして───キュッと心が締め付けられる。
短く息を吐いて玄関の扉を開く。
「お帰りなさい、布都乃。ご飯、ちょうどできたわよ」
「おかえり、布都乃。今日、学校はどうだった?」
そこにはちゃんと二人がいて、なんだか涙が出そうになって。
涙を堪えて布都乃は言う。
「お父様、お母様、ただいま」
普通の少女のように、輝かんばかりの笑顔で。
大成功
🔵🔵🔵
法華津・天
私の望む『普通』とは…
シルバーレインの普通の能力者として、奥座敷に封ざれず皆と過ごせた『もしも』…
家族にアビリティの手解きを受けて能力者としての実力を磨き…
幼馴染達と切磋琢磨して心を磨く日々
大変ですけれど、充実していると思います
そう言えば今日は銀誓館学園を名乗る他の能力者がやってきましたね
彼らはとても感じが良くて、皆も銀誓館学園に合流する事を決めた様です
一族の秘宝であるメガリスも安全に管理してくれる様ですね
正直扱いに困っていましたので皆にとっても渡りに船でしょう
嗚呼、何て幸せな時間なのでしょう
不思議な事に、今日は一段とそう感じます
なのにどうして…
皆を見ていると、コンナニオ腹ガ空クノデショウカ?
●“こどく”と無縁の世界で
法華津・天(『蠱毒の坩堝』のメガリス・アクティブ・f37762)の望む“普通”
それはシルバーレインの普通の能力者として、奥座敷に封ざれず皆と過ごせた『もしも』
彼女は何も最初から奥座敷に封じられていたのではない。
法華津の一族の末席として、彼女は確かに愛されていた。
“普通”の少女のはずだった。
『メガリス・アクティブ』
生まれつき特定のメガリスと高い親和性を持つ“普通”の人間。
メガリス・アクティブとメガリスは必ず巡り合う運命にあり、天もまたその例外では無かった。
一族の秘宝、『蟲毒の坩堝』
そのメガリスの持つ力は、一人の少女とその一族の命運を狂わせた。
一族はメガリスの持つその残虐なる力から天を引き離す為に、彼女を奥座敷に一人閉じ込めた。
それは確かに天への愛ゆえだったが、彼女がそれに気づくことはなくただひたすらに孤独に苛まれる日々を過ごしていた。
そうした日々は報われることはなかった。
一族は銀誓館への迎合を良しとはしなかったのだ。
一族の能力者としての力は周囲に災厄と無秩序な破壊を齎す力を持つメガリスを完璧に管理できるものではなかったのに、独立独歩を貫いた。
故に土地ごと法華津の一族は滅びの運命を辿る事となった。
『昔みたいにみんなで外で過ごせたら』
────その願いは、オブリビオンの精神汚染によって叶えられようとしていた。
「いいですか天、能力者としてどれだけ魔力を溜める事ができるかは、その行為にどれほど集中できるかが鍵を握ります。当たり前の事のようですが、非常に重要な事なのです。」
天の母はそう言うと意識を両手の中に集中させた。
一般人が見れば何も変化が起きているようには思えないが、能力者である天にはその両手の中にみるみるうちに魔力が溜まっていく事を感じ取ることができた。
「…やってみなさい」
母親からそう促されると天は母と同様に意識を両手の中に集中させた。
じわり、と少しずつだが魔力が自身の手の中に満ちていく感覚があった。
「あなたの年齢でそれだけできれば十分です。もっと鍛錬をつめば貴方もきっと良き能力者になれますよ」
そう言うと天の母は髪を梳くようにして彼女の頭を撫でた。
「…今日も“あの子”が来ていますよ。模擬戦など共に実践練習に励むといいでしょう」
“あの子”とは天の幼馴染のことだ。
天と同じ能力者であり、切磋琢磨してその能力を磨いている。
「では、彼女の元へ行ってきますね。ご指導ありがとうございました」
天は母親に向かって頭を下げると、母親もそれに頭を下げて返した。
「天!今日も練習、付き合ってくれる?」
「ええ、もちろん。喜んでお付き合いしますよ」
庭にある鍛錬用に作られた大きなスペースで天と彼女の模擬戦は始まった。
彼女は小さな紙の式神を操り、天の周りを一瞬にして囲む。
天は先ほど母親に教えてもらった要領で魔力を一瞬にして溜め、破魔と浄化の力をもって式神を吹き飛ばした。
紙でできた式神はその勢いでその身を裂かれ、まるで紙吹雪のように地面へと落ちていった。
「また腕を上げたみたいね、天」
「それほどでもないですよ」
模擬戦とはいえお互い全力でぶつかり合う。
正直、毎日こうやって訓練を行うのは大変だ。しかし、この時間を天は嫌ってはいなかった。
彼女の他の幼馴染ともほとんど毎日こうやって鍛錬を積んでいるが、自身の能力だけでなく心まで磨かれているようだと天はそう感じている。
「そういえばさ、さっき知らない人達が来てたみたいだけど誰だったの?」
縁側にてお茶とお茶菓子で模擬戦後の疲れを癒していると、彼女からそう問いかけられる。
「銀誓館学園を名乗る他の能力者の方達でしたね。とても感じの良い方達でしたよ。」
銀誓館学園は能力者の育成組織だ。訪れた彼らの人柄の良さと、学園での専門的な能力者の育成カリキュラムに感心した一族は銀誓館学園に合流する事を決めた様だった。
当然、天も銀誓館学園に通う事になる。
(一族の秘宝であるメガリスも安全に管理してくれる様でしたしね)
一族に伝わる残虐で殺傷能力の強いメガリスも銀誓館学園でならメガリスへの専門知識をもってして適切な対処ができるようだ。
(正直扱いに困っていましたので皆にとっても渡りに船でしょう)
緑茶を一口啜り、ぼんやりと空を見上げる。
秋風が彼女の頬をそっと撫でた。
(嗚呼、何て幸せな時間なのでしょう…不思議な事に、今日は一段とそう感じます)
───なのにどうして…
母との指導の際も、幼馴染と模擬戦をしている時も、その衝動は抑えられなかった。
───皆を見ていると、コンナニオ腹ガ空クノデショウカ?
大成功
🔵🔵🔵
ノーメン・ネスキオー
過去の記憶がないため、普段から『仙人』だとは意識していない
記憶喪失になる前の色も違ったりします
目の効力は、生まれつき
きっと薬師としての生業は変わらないけれど。その店の出し方が変わっている。
『決まった場所に店舗を出している』
…何を当たり前のことを。『昔からそこに住んでいたし、小さい頃から近所の人達と遊んだりしていた』
それに、目だって隠してない。この、『髪と同じオレンジ色をした目』
出していたって構わないや。だって、『何の変哲もない目』なんだから。
ん?この黒い布?ああ、緊急用の包帯だよ。
●ある“薬舗”の朝
楽浪郡のとある市。
朝を告げる小鳥が鳴き始める頃。朝露に濡れた葉が太陽の光で乾いていく頃。
ノーメン・ネスキオー(放浪薬師・f41453)はガラリと店の戸を開き、店前に暖簾を掲げた。
“薬舗『慈』”
「さて、今日も今日とて開店するとするかね」
朝の秋風の柔らかくも肌寒いそれが彼女のオレンジ色の髪を揺らした。
───元々、自分が“仙人”であるとは意識していなかった。
無理もない、彼女は“記憶喪失”なのだから。
自分の両親についてなんて微塵も知らないし、この“赤”と“黄”のオッドアイ|魔眼《魅魔之眼》が何に由来し、何故魅魔塞也でその力を封じなければいけないほど人を魅了する力をもつものなのかも知らない。
自身の出身地について知らなければ、生業としている薬学をどこで習得したのかさえ知らないのだった。
故に彼女の知識欲は旺盛で、様々な土地に赴いては現地の薬草効果を学び自らの薬学の知識の糧にしている。
そして“移動式薬師露店『慈』”
彼女の店だ。
普通の薬師露店と異なるのが、決まった出店場所を持たないこと。薬の対価がお金に限らないこと。
都市国家の露店が集う一角にふらりと立ち寄り店を出し、決まった期間だけ開かれる。
これが彼女の放浪する薬師としての生き方だった。
しかし、グリモア猟兵に転送させられたその先ではノーメンの在り方は何もかも違った。
お客が来る前に、椿油の染み込んだ木櫛でそのセミロングを梳いておく。
その髪色は紛れもなくオレンジ。元々は赤と黄色の縦半々の髪色だったはずなのに。
「うん、良い感じだね」
鏡に写して髪型の確認をする。その鏡を確認する目の色でさえもオレンジ色だった。
いや、目に関して最も大きな違いは魅魔塞也が巻かれていない事だろう。
「ん〜?でも何か目に違和感があるような…」
鏡の向こうの自分をじっと見つめる。
何かで塞がなければいけないような、そんな気がしたのだ。
(出していたって構わないや。だって、『何の変哲もない目』なんだから。)
気のせい気のせい。
そう思っているとちょうど、ガラリと店の扉が開く。
「やぁ、いつもどうも。今日はどんな薬をお探しかな?」
近所に住むおじいちゃんとその孫だった。
ここにはもう長い間…生まれてからずっと住んでいる。
このお爺ちゃんと孫も馴染みの客であり、昔はよく近所の空き地や公園で遊んでもらったものだ。孫とは、幼馴染と言って良いほど深い仲だ。
「最近おじいちゃん肺の調子がよくないみたいで…あと、僕も喉の調子が芳しくなくて」
「ふむ…それは流行病のせいかもしれないね。こっちに呼吸器系によく効く丸薬があって…」
勘定台の後ろの木製の戸棚を一つ開き、茶色の瓶を取り出す。
中にはノーメンお手製の小さな丸薬がコロコロと収められている。
「少し苦くて匂いもきついけど、これはよく効くよ。」
「ノーメンが言うなら間違いないね、おじいちゃん。」
「おお、そうだのう…いつも助けになっておる。いつもここに店を構えてくれていて本当にありがたいと思っておる…」
お爺ちゃんがノーメンに手を合わせようとしてきたので慌てて静止する。
「よしてくれ御老公。小さい頃にはよく遊んでもらった、そんな仲じゃないか」
「そうだよおじいちゃん、ノーメンなんかに手を合わせる必要はないよ」
「君、幼馴染とはいえそれは失礼じゃないかな?」
薬屋の中に笑い声が満ちる。
「じゃあ、お代はこれくらいで」
そう言って領収書に値段を書き記す。
何だかこれもおかしいような気がしたが、店が客に“金”を求めることに何もおかしいことはない。
「あいよ。それじゃあこれで…」
老人の皺が刻み込まれた手が紙幣を金盆の上にのせる。
「…うん、ちょうどだね。それじゃあこれを一日三回、食後に忘れずに飲むんだよ」
薬を紙袋に包むと幼馴染に手渡した。
「ありがとうノーメン。それじゃあこれで…って、この黒い布は何だい?」
勘定台の端に無造作に置かれた黒い布を彼は指差す。
「ん?この黒い布?ああ、緊急用の包帯だよ。」
「包帯って…普通白いものじゃないのか?」
「いやいや、これにはすごい力が込められているんだよ…確かね」
確かねって、と笑いながら老人と孫は店を後にした。
「本当なのにね」
そう言って、その黒い布を手に取る。
包帯として使えば傷の治りも早く痛みもよく取れるし───
「あれ、何故私はこれを目に?」
気がつけば慣れた手つきでその黒い布をくるくると目に巻いていた。
おかしなこともあるもんだ、と思いながらふと鏡に目をやる。
つけてないよりつけている方がしっくり来るなんておかしいものだ。
「今日は何だか変な気分だね」
次の客に見られないようにいそいそと黒い布を外した。
だって目には何も異常はないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
グラディス・プロトワン
※アドリブご自由に
『おい、出撃だぞ!』
同僚のウォーマシンの声が響く
俺の所属する戦闘部隊に出撃命令が出たようだ
“いつも通り”の日常…急いで出撃準備をしなくては
敵対勢力の排除
“いつも通り”の任務だが敵の数が多い
『埒が明かねぇ…アレ頼むわ。俺がフォローする』
味方を巻き込んでの範囲吸収攻撃…
他の部隊ならこんな指示をされる事は無いだろう
俺のような厄介者が多い部隊ならではだ
試験運用を終えたばかりの俺を迎え入れてくれたこの部隊には感謝している
だからこそ全力で応えなくてはな
同僚のフォローを受け、発動された俺の攻撃が無差別に襲いかかる
だが部隊の仲間達は慣れたもので、被害を最小限に抑えている
“いつも通り”の戦果だ
●はぐれもの集団“アンダードッグ”
「…ぃ…グラディス…」
誰かに呼ばれている気がする。
グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)の意識が泥濘の中から浮上していくような感覚、
ここはどこだろう。
この声の主は一体誰なんだろうか。
「おい、出撃だぞ!」
問いに答えるように声の主はグラディスのそばではっきりとその声を張り上げた。
ハッと意識が覚醒する。
そうだ、ここは格納庫。
そして“俺たち”のブリーフィングルームだ。
「聞いているのかグラディス!」
「…ああ、今準備するところだ」
ブリーフィングルームに設置された回転灯が赤くその存在を主張している。
その意味は───出撃命令。
グラディスの所属する戦闘部隊に出撃命令が出たようだ。
戦闘部隊…と言ってもグラディスの所属するそこはあまり規模の大きいものではない。
いわゆる“厄介者の寄せ集め集団”とでも言うべきだろうか。
「昼寝でもしていたのか?さっさと準備しろ」
頭が硬すぎてどこの部隊ともやっていけなかったリーダーに始まり
「グラディス遅〜い。ボク先に出ちゃおっかな〜?一番槍を貰ったらみんなの仕事、無くなっちゃうかもよ?」
作戦無視は当たり前、連携の取れない自分勝手でどこの部隊からも嫌われた手に負えないウォーマシン
「まぁまぁ、そう準備に時間はかからんじゃろうて。のう?グラディス。」
その他にも古すぎる機構で整備士の手を煩わせいろんな部隊をたらい回しにされた挙句ここへ流れ着いた時代遅れのウォーマシン。
「はぁ…また出撃ですか…」
|戦う機械《ウォーマシン》として致命的な欠陥、戦闘嫌いな彼。
「すぐに準備する。時間は取らせない」
そして試験運用を終えたばかりの危険すぎるエネルギー吸収機構を持つグラディス・プロトワン。
以上の五機がグラディスの所属するはぐれもの戦闘部隊のメンバーだった。
今回の任務は『敵対勢力の排除』
“いつも通り”の任務だ。
「待たせた。」
サイフォンソードを片手に、格納庫の扉の前に並び立つ。
「作戦はいつも通りだ。いいか?勝手な真似してみろ。敵機の亡骸の頂上に飾られるのはお前の機体だ。」
リーダーのありがたい忠告と扉の開く地響きが格納庫の中にこだまする。
果たしてこの忠告に意味はあるのだろうか。
ちらりと横を見ると、誰一人その言葉に返すことなく出陣していく。
(そういうチームだったな、ここは。)
はぐれもの戦闘部隊
通称“アンダードッグ”
“いつも通り”の|任務《日常》が始まろうとしていた。
────今日はやけに敵機が多い。
戦場に降り立ったチームメンバーの誰しもが思ったことだ。
「…へへっ、全部ボクのエモノだ」
なんて言っていた彼の動きも長期戦による疲れからか、ビームライフルのキレが悪くなり始めている。
だが、敵機の群れは減るどころか時間が経てば経つほどに増えていっているように感じられる。
(敵は俺達の消耗を狙っているのか…?)
サイフォンソードで敵を叩き切りながらグラディスは、機体の減らない敵機の群れをその赤い目で睨む。
「埒が明かねぇ…アレ頼むわ。」
リーダーがビームサーベルで敵を散開させながらグラディスの元へ降り立ち、そう指示した。
「アレって…」
「ああ、いつもの…俺たちを巻き込んでの範囲吸収攻撃だ」
チーム内に一瞬の緊張が走る。
他の部隊ならこんな指示をされる事は無いだろう。
だが、グラディスのような厄介者が多い部隊ならではだ。
「何?日和ってんの?ボクがお前の吸収機構なんかにやられる雑魚に見える?」
「ほっほっほ。そうじゃぞグラディス。わしも随分老いた機械じゃが、まだまだお前のよくわからん最新機構になんて負けはせんよ」
「悩んでいる暇があったらさっさとやってもらえないですか?私はこんなところから一刻も早く帰りたいのですよ」
「…俺がフォローする。お前に近づく敵機は皆払い退けてやる。グラディス、存分に“食事”しろ。」
そう言ってグラディスの肩を叩くとこちらに近づこうとする敵機をビームサーベルで一閃した。
誰もグラディスの特殊な機構を煙たがりはせず、むしろ受け入れてくれている。
戦力として、仲間として期待されているのだ。
「…だからこそ全力で応えなくてはな」
E.Dシステムが起動する唸り声をあげる。
グラディスはエネルギー超吸収モードに変形し、広範囲にいるありとあらゆる機体のエネルギーを吸収していく。
味方は自らのオーラ装甲でグラディスの吸収を防ぎ、またある者は敵機を盾にしその攻撃を防いだ。
先ほどまで、視界を埋め尽くさんばかりだった敵機は全て地に落ち機能を停止した。
「“いつも通り”の戦果だな。」
「ああ、全くだ。…さっさと帰るぞ」
「ボクたちはグラディスに吸収されて燃料不足寸前なんだから」
そう軽口を言いながら“アンダードッグ”のメンバーは帰路につく。
夕陽がグラディスの黒い機体を照らしている。
「…感謝しかないな、本当に」
そうポツリと呟いて、グラディスは|はぐれもの《“アンダードッグ”》たちの背を追った。
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィ・フォーアンサー
一応SPD。
『普通になれるとしたらなりたいか君』
んー……普通って言われてもわかんない。
見知らぬ人達と勉強やお仕事とかしなくちゃならないんでしょう、そんなの怖いし今のままで良いよ。
それにシルヴィはコレ(キャバリアの操縦)しかできないし。
『そうか、君がそれで良いならそれで良い』
気がつくと顔も知らない両親と名乗る存在とヨルの外部端末とそっくりな兄がいる状態。
学校に通って美味しい料理食べて女の子らしい綺麗な衣装で家族に溺愛される。
おかしい、気持ち悪いとこんな人達や物は知らないはずと記憶の奥底が訴える。
そんな違和感も何日も繰り返してるうちに消えていく。
なにか足りないと思いながらも普通の愛情に溺れていく。
●この心地の良い愛情に
『普通になれるとしたらなりたいか君』
グリモアの力によって件の廃村へと転送される前に、サポートAI“ヨルムンガンド”──通称“ヨル”はシルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)へと問いかけた。
「んー……普通って言われてもわかんない。」
彼女は肩をすくめ、首を傾げた。
彼女の生い立ちはいわゆる“普通”とは程遠かった。
人工子宮内で育った“アンサーヒューマン”の彼女は暖かい母の胎内というものをまず知らない。生まれてからは奴隷として扱われてきたので普通の家庭や普通の生活というものを知らない。
しかし、ヨルの問いかけに対して改めてよく考えてみることにした。
“普通”の人間は沢山の人間と関わり合って生きているらしい。
例えば学校。生まれも育ちもバラバラな人達が小さな部屋に詰め込まれ、同じことを学んでいるらしい。
学校を出た後も、またそれぞれの事なんて深く知りもしない人達が同じ場所で同じお仕事をするらしい。
お互いの素性も知らないのに、知らない人間同士なのに。
「見知らぬ人達と勉強やお仕事とかしなくちゃならないんでしょう、そんなの怖いし今のままで良いよ。」
奴隷だった過去もあったせいで、シルヴィは他の人間は嫌い…というか怖い。
見知らぬ人達と関わるくらいなら他人とは深く関わらない、今のままでいい。
「それにシルヴィは|キャバリアの操縦《コレ》しかできないし。」
『そうか、君がそれで良いならそれで良い』
AIであるはずなのにヨルは人間臭いところがある。
そんなヨルが“それで良い”と言っているのだから、それで良いのだろう。
───ふつりと意識が途切れるような、深い眠りに落ちるような、そんな感覚。
「…ルヴィ…シルヴィ!」
「んん…誰?」
ふと意識を取り戻すと、そこは知らない場所だった。
小鳥の囀る声、こんがりと焼けたトーストの匂い。そして目の前には知らない人達。
「“誰?”じゃないわよ。まったく、いつまで寝ぼけてるのかしらこの子は」
「まあまあ母さん。シルヴィも毎日学校で疲れてるんだ。」
ああ、これは“お母さん”と“お父さん”だ。
他人に見間違えるなんて、やっぱり寝ぼけていたのかもしれない。
ふと、目の前に視線をやるとそこにはキツネ色に焼けたカリカリのトースト。薄く白い湯気の立ち上るコーンポタージュ。黄身の艶やかな目玉焼きに、パリッと焼けたソーセージ。そして新鮮な野菜のサラダ。
“普通”の朝食がそこにはあった。
「いちごジャムとピーナッツバター、君はどちらがいい」
隣にはヨル…兄が座っていて、バターナイフを渡しながら問いかけてくる。
「…いちごジャム」
何かおかしい。まるで全てが初めてのような妙な感覚に襲われる。
初めてやることのように不器用にいちごジャムをトーストに塗ると、サクリ、一口頬張る。
「…美味しい」
「そうか、それはよかった」
兄も隣でコーンスープを口に運びながらそう言った。
「ほらほらシルヴィも、ヨルも、あんまりゆっくりしてると遅刻しちゃうわよ」
「心配性だな、母さんは」
穏やかな朝食のひと時が流れる。
遅刻…そうだ。この後は、ヨルと一緒に学校に行くんだった。
だからこんな服…セーラー服を着ているんだった。
「どうかしたか」
「ううん、なんでもない」
おかしい。記憶の奥底がそう訴えかけてくる。
その言葉をコーンスープで喉奥へと流し込んだ。
──────────午後五時のチャイムが鳴る。
「じゃあねシルヴィ!また明日!」
校門前で友人と別れ、ヨルを待つ。
今日も“普通”の一日だった。
普通に勉強して、普通に友達とお喋りして、そして学校が終わった。
「待たせたか」
「うん、待った」
ヨルと一緒に下校するのもいつも通り。
今日あった事とか、勉強についてとか、後は他愛もない話をして帰路に着く。
家にほど近くなると、美味しそうな匂いがしてきてお腹が鳴りそうになる。
夜ご飯はシチューらしい。母さんの作るシチューは美味しいんだ。
「ただいま」
玄関を開けてそう言うと、パタパタとキッチンから母の足音。
「シルヴィ、ヨル、お帰りなさい!夜ご飯、もうすぐだから先に制服着替えちゃって!」
それに頷き返すと、当たり前のように自分の部屋に足が向く。
部屋の中にはもふもふのぬいぐるみが沢山あって、いかにも女の子らしい部屋だ。
「シルヴィ、入っていい?」
「うん、いいよ」
母親の声にそう返す。
すると母は袋を持って部屋に入ってきた。
「シルヴィに似合うと思って買っちゃった」
そう言って袋から出したのはシフォン素材の柔らかなロングワンピース。
“着てみて!”という視線に押されて半ば強引にそれに着替える。
「可愛い〜!やっぱりシルヴィはお人形さんみたいね」
着替えた彼女の姿を見て、母親は目を輝かせて抱きついてくる。
玄関が開き、父のただいまという声。
父は…そしてヨルはこの服装を見てなんていうだろう。
気持ち悪い。
ほのぼのとした“日常”にあってはならない言葉が脳裏に浮かぶ。
こんな人達や物は知らないはずと記憶の奥底が訴える。
“何か足りない”
「シルヴィ、どうしたの?具合悪い?」
「ううん、なんでもない」
それでも。嗚呼それでも。
この心地よい愛情に溺れて仕舞えばいい。
どうせこの感覚もすぐに忘れるはずだ。
大成功
🔵🔵🔵
鳥羽・白夜
『普通でありたい』
それは、能力者であった頃からの願いで。
能力者を引退し、世界結界が修復され戦いの記憶を失ったことで図らずもその願いは叶えられた…はずだった。猟兵に覚醒するまでは…
夕方、スマホのアラームの音で目が覚める(夜勤のため生活は夜型)
低血圧のため寝起きは悪いがなんとか起きて、好物のトマトジュースだけ飲み最低限の身支度だけして自転車で勤め先の工場に向かい、淡々と仕事をこなし帰路につく。
24時間営業のスーパーで適当に買い物を済ませ、真っ暗なボロアパートに帰りベランダで一人、買ってきた本日何本か目のトマトジュースを飲みながらひと息。
あー今日も疲れた…また明日も仕事か…
でもまあ、うん、平和だ。
●とある一般人の普通の一日
『普通でありたい』
それは、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)が能力者であった頃からの願いだ。
能力者を引退し、世界結界が修復され戦いの記憶を失ったことで図らずもその願いは叶えられた…はずだった。
彼はまだ戦場に立っている。
猟兵へと覚醒した結果、全てを思い出したのだ。
銀誓館学園で過ごした死と隣り合わせの青春も、祖父から託された使命も。
記憶も戻り戦いに復帰したが、いつだってこう思っていた。
『…なんでこうなったんだ?』
────────────スマホがバイブレーションすると共に軽快なリズムを奏でる。
半覚醒の状態で唸り声をあげながら、手だけでスマホを探る。
ほぼルーティンのような手つきで目覚ましを停止させ、大きく息を吸ってため息を吐いた。
まだ寝ていたいというのに。
スマホを顔の近くに手繰り寄せ起動する。ブルーライトが眩しく目をさらに細める。
時刻は17時ちょうど。
本日何度目かの唸り声をあげながら、ごろりごろりとベッドの上で転がる。
ピタリと動きをやめ、もう一度スマホを確認する。
時刻は17時3分になろうとしていた。もう一度大きなため息を吐く。
腕に力を込めてなんとか起き上がると、ぎしり、とボロアパートの床が音を立てる。
真っ暗だった部屋に光を入れるためにカーテンを開く。夕焼けの空が明るすぎない光で室内を照らす。遠くでカラスが飛んでいる。
いつも通り最悪の目覚めで始まった彼の一日。
まず冷蔵庫へと向かい、好物のトマトジュースを胃に入れる。
朝食…否、夕食はこれで十分だ。
顔を洗い、歯を磨き、寝癖を整える。
寝巻きを着替えれば、最低限の支度は完了だ。
鞄にスマホと財布と作業着、昨日買っておいたおにぎりとトマトジュースのパックをいくつか入れて部屋を出る。
ドアの錆びかけた蝶番が嫌な金属音を立てた。
最近までこのくらいの時間だと自転車を漕ぎながら肌に受ける風がぬるい程度だったが、夏と秋の寒暖差は近年激しいものだ。今日は少し肌寒く感じる。
(でもまあ…このくらいなら大した事ないか)
住宅街を抜け、15分ほど漕げば工業地帯が見えてくる。
夜勤非正規工場勤務の仕事が始まる。
現在の彼の業務内容は複層ガラス製造…平たく言ってしまえば一般家庭の窓ガラスを作る仕事だ。
機械が運んできたガラスをマシンの上に乗せる。
指定のサイズを確認しながらレバーを動かせば、マシンのカッターが駆動しガラスに真っ直ぐな割れ目となる傷をつける。
マシンのボタンを押し、下から衝撃を与えるとガラスは砕け散る事なく指定のサイズに割れた。
白夜の仕事はこれを繰り返すだけだ。
マシンの上にガラスを乗せる。レバーを引く。ボタンを押す。再びマシンの上にガラスを乗せる。
数時間これを繰り返していると、回転灯がオレンジ色に光って回り休憩時間を知らせる。
非正規雇用なので休憩時間中に談笑する相手はいない。
他の従業員も各々スマホを見たり、仮眠を取ったり、何か食べていたりする。
白夜は本日二本目のトマトジュースを飲みつつスーパーのおにぎりを胃に入れた。
いつも通りの休憩時間だ。三本目のトマトジュースに手を伸ばす。
業務に従事して、時刻は午前2時。
本日の仕事は終了だ。
お疲れ様です、と責任者に簡潔に挨拶をして工場を出る。
数時間ぶりに外へ出ると流石に空は真っ暗で欠けた月がこちらを覗いている。
自転車に跨り、帰路につく。
工業地帯を離れればどこもかしこも、シンと静まり返っている。
住宅街の程近く、工場と家の間にある24時間営業のスーパーに自転車を停める。
この近くでコンビニの他に唯一この時間に開いている店で、白夜の行きつけだ。
買い物かごを手に取るとまず最初に向かうのは飲料コーナー。
トマトジュースのパックをガコガコと何個もカゴへ入れていく。トマトジュースは白夜のソウルフードだ。これがないとまずやっていけない。
惣菜やら弁当やらを物色し、会計する。
明日も来ることになるのだから、購入したものはそう多くない…トマトジュースを除いて。
白いビニール袋を前カゴに入れ、自宅への道を再び自転車で走り出す。
住宅街の窓は総じて暗く、点在する街灯だけが白夜を照らしていた。
ぎいぎいと鳴る階段を登り、最近調子の悪い自室の鍵を少し手こずりながら開ける。
真っ暗な自室で紐を引っ張り照明をつける。
鞄と買い物袋をとりあえず適当に置いて、買い物袋からトマトジュースを一パック取り出すと、ベランダに出てまずは一服。
無塩で無添加。トマト本来の旨味が口いっぱいに広がる感覚が堪らない。
空を見上げると夕方には見えなかった星がいくつも瞬いている。
ストローから口を離し、ふーっと長い息を吐く。
「あー今日も疲れた…また明日も仕事か…」
誰に言うわけでもなくポツリポツリと呟く。
「でもまあ、うん、平和だ。」
そう言うと残りのトマトジュースを一気に飲み干し、部屋の中に戻っていった。
能力も使命も何もない。
なんの変哲もない、とある一般人の普通の一日だった。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
本性は狂う程高尚な精神は持ち合わせてはいないウイルスであるが、現場の精神汚染《信仰》により妖怪として影響を受ける
『普通』はお化けなんていない
『普通』は吸血鬼なんていない
意識が切り替わる前に呼び出した友人のUDC職員と共に囚われる
自身の様相も白いワンピース姿の少女になる
『普通』なので日中も遊べる
『普通』なのでなんでも食べられる
『普通』なので水遊びもできる
十年前の夏の思い出の光景に似て非なる日常を過ごす
あの時は夜か家の中でしか交流はできなかったから
ブラミエからの恋愛感情はないが友愛に似た何かはある
それが何かは『普通』になった状態では判別できないが
元少年の青年と未だ少女な二人の何でもない日常を過ごす
青年もブラミエとは友人である認識は残る
吸血鬼で無くなるので一人称が少女めいた形になる
自身の中から声が聞こえる
それは間抜けな自身を嗤う声、怒る声、嘲る声、敵意と共に告げる呪詛
今は『普通』だから聞こえない
十年前、夏の始まり、月の綺麗な夜。少年は初めて恋をした。
ボーイミーツガール的にアレンジ歓迎
●月が綺麗な夜だった
果たして、ウイルスは精神汚染を受けるほど高尚な|精神《ソレ》を持ち合わせているのだろうか。
果たして妖怪は。
果たして吸血鬼は。
果たして御伽噺は。
果たして旧き致死性伝染病は。
答えは是。
信仰により汚染された廃村はブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)を“ウイルスの集合体”や“ウイルスそのもの”ではなく“妖怪”として迎え入れ、狂気の世界へと引き摺り込んだ。
意識が反転する瞬間、ブラミエはユーベルコードを発動し精神汚染を引き起こす廃村へと友人であるUDC職員を呼び寄せた。
人間の精神は高尚であり弱い。状況も理解できないまま意識を手放そうとしていた。
意識を手放す直前、青年はブラミエの方を見た。
─────その口元は確かに笑みを浮かべていた。
少年はハッと意識を取り戻す。
カナカナカナ、ひぐらしの鳴く声。書き途中の夏休みの宿題。麦茶の入ったガラスのコップは結露し、机の上に小さな水溜りを作っていた。
「どうした、少年」
どきりと心臓が跳ねる。
声の方に視線をやると、友人のブラミエが縁側に腰をかけこちらを緑色の瞳でじっと見つめていた。
少年は日頃からブラミエに驚かされることが多い。特に今のように急に少年の家へ上がり込んでは背後から声をかけるのだ。
少年が驚けばくつり、と喉を鳴らして笑う。揶揄われているのだ。
ブラミエは人を驚かすのが好きなのだ。特に少年を驚かすことが。
「今日も暑いな。」
ブラミエはそう言って太陽を見上げる。
今日も夏らしく暑くて日差しの強い当たり障りない夏日だった。
ジリジリと強い日差しがブラミエの肌を焼いてしまわないか、ふと少年は心配になった。
無理もない。彼女の肌は病的なまでに白く、真白のワンピースがよく似合っていたから。それが日に焼けてしまうのは勿体無いことだ。
「少年もこちらに来い。どうせそこも暑いのであろう。プールを持っていただろう?水でも張って、水浴びでもしようじゃないか」
目の前には書きかけの夏休みの宿題があった。
しかし、少年は今までも一度たりとしてこういったブラミエの誘いを断れずにいた。
それは友人だから?今の少年にはわからないことだった。
ホースから流れ出る水は冷たく、ビニール製のプールに静かに溜まっていく。
パシャリ、水の跳ねる音。ブラミエが水を少年の方へ蹴飛ばしたのだ。
「ぼさっと立っているだけでは涼を得ることはできぬぞ。ほら、ぼさっとするでない。次がいくぞ」
ブラミエは笑って両の手のひらで水を掬い、少年へと飛ばした。
太陽光に照らされて、水玉の一つ一つがキラキラと光る。
冷たい飛沫が少年を濡らす。
負けじと水ををかけ返そうと両手に水を掬うも、彼女の長い黒髪も、透き通るような肌も白いワンピースも濡らすには惜しい気がして、掬った水は彼女の脚ばかりを濡らした。
「少年は水遊びが下手だの」
そう言って彼女は笑った。
彼女が笑うときにだけちらりと見える長い犬歯が、少年の目に焼きついた。
夏の夜のぬるい風が、ブラミエと少年の頬を撫でる。
縁側に吊り下げられた風鈴がちりりと鳴り、その存在を主張した。
ブラミエと少年の間にはよく冷えた夏野菜が置かれていて、ブラミエはトマトを、少年はきゅうりを手に取り、ぼんやりと庭の風景を眺めながらそれらを口に運んでいた。
『普通』の“人間”だからなんだって食べることができる。
ブラミエの鋭い犬歯がぶつりとトマトの皮を破る。
甘酸っぱいトマトの水分が口内に流れ込む。大ぶりの果肉をブラミエの小さな口で、サクリ、サクリと咀嚼する。
三分の一ほど食べすすめてその果肉を飲み込むと、ほう、と息を吐いて目の前の庭を、そして夜空を眺める。
今夜は満月が綺麗だ。月光の明るさで星々が飲み込まれてしまうほどだ。
トマトを掴む手を膝に下ろし、ただただボンヤリとそれを眺めた。
“見よ、吸血鬼がトマトを喰らっておる”
“幻覚に惑わされ、日光を浴びてはしゃいでおった”
“滑稽だ”
“嗚呼、滑稽だ!”
ブラミエの中で沸々と声が湧き上がる。
“何を馬鹿なごっこ遊びに興じているのだ”
“そのまま、その幻影に、日常に飲まれて仕舞えばいい”
“恨めしい、嗚呼、恨めしいぞブラミエ・トゥカーズ”
“赤死病め”
“転移性血球腫瘍ウイルスめ”
“伝承に縛られ、名と体を得た旧き致死性伝染病め”
“滑稽だな、御伽噺の吸血鬼よ!”
何者かも知れない、誰でもない声が、白いワンピースの少女の中でこんこんと湧き出る流水のように、心臓を貫く杭から流れ出る血液のようにとめどなく溢れ出ていく。
しかし、その声はブラミエに届くことはない。
だって彼女は『普通』の少女だから。
『普通』の少女には間抜けな自身を嗤う声、怒る声、嘲る声、敵意と共に告げる呪詛も聞こえることはない。
だって『普通』なのだから。
再びトマトを齧ろうとする。ふと、視線を感じる。
視線の元は見るまでもなくわかる。少年がこちらをじっと見つめているのだ。
「…私の顔に何かついているか?」
月光の眩い夜空を見つめたまま、ブラミエは笑うようにそう言った。
少年はモゴモゴと口ごもりながら否定して、ふいと視線をブラミエから逸らしてきゅうりを齧った。
少年にとってブラミエは友達のはずだ。
しかし、今日の彼女はどうも様子が違う。いや、様子が違うのは自分の方かもしれない。
昼間に見た、こちらをからかい笑う横顔。
白いワンピースが似合う、焼けてしまうのが惜しいと思えるほど真っ白な肌。
太陽光で輝き、冷たい水の飛沫。笑うとちらりと見える長い犬歯。
彼女の月光に照らされて透き通るように白い肌に触れてみたい。
漆のように艶やかで、烏の濡れ羽色のように真っ黒なその髪をこの手で梳いてみたい。
翡翠のように、エメラルドのように、深い緑のその目に────
────そんなことを思っていると、急にブラミエがこちらを向いた。深い緑のその瞳に真っ直ぐ射抜かれる。
少年には目を逸らすことができなかった。
翡翠の瞳と少年の目が見つめ合う時間は、一瞬にも、永遠にも感じた。
ぬるい風が吹く。風鈴の涼しげな音がその空間に響いた。
「月が綺麗な夜だな」
鈴の音のようなブラミエの声。
何気なく発された彼女の声が少年の脳を溶かして犯す。
十年前、夏の始まり、月の綺麗な夜。少年は初めて恋をした。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『君の私の説得力』
|
POW : 力に物を言わせて説得する
SPD : うまく言いくるめることで説得する
WIZ : 直接精神に働きかけることで説得する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●“ ”
雀の鳴く声で目を覚ます朝
友人と机をくっつけて食べるお昼ご飯。
ただいま。おかえり。
至って普通。これが日常。
なのに何故だろう。
この違和感は。この虚しさは。
ただいま。おかえり。
この『普通』は、果たして本当に普通なのだろうか。
ただいま。おかえり。
頭の中で何か思い出そうとしている。
“ ”よ、目を覚ませ。その力を以って“日常”を破壊しろ。
ただいま。おかえり。
猟兵よ、目を覚ませ。その力を以って“日常”を破壊しろ。 / 何も聞こえるはずがない。まだこの『普通』に浸らせてくれ。
※マスターより※
第二章です。
精神汚染に抗うためにはあなたの猟兵としての力で、その日常風景を破壊しなければなりません。
あなたのその刀で、銃で、魔力で、残酷にも日常を壊し、現実に戻る必要があります。
もしも、このまま日常に浸っていたいのならばプレイングの冒頭に✖︎の記載をお願いします。その場合の第三章での判定は第三章の断章でお知らせいたします。
なお、この章からの参加も歓迎しております。
皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
天羽々斬・布都乃
✖︎
『布都乃よ、目を覚ますのじゃ。未来視の瞳があればその世界から抜け出せるはずじゃ――』
「んー、狐に話しかけられる変な夢を見ちゃいました」
狐が喋るわけがないですよね。
けど、なんだか懐かしい声だったような――
「ああっ、いけませんっ、待ち合わせに遅れてしまいますっ!」
今日は日曜日。
友人たちと街に出かけてショッピングをしようと約束している日です。
私はずっと神社で修行をして育ったので街に出るなんて珍しくて――
あれ?
いくら電車をつかわないと街に出られないからって、今までも友人と街に何度も出かけてますよね。
今日はなんだかおかしいですね、私。
『おかしいのは、その日常じゃ布都乃――』
声を振り払い、家を出ます。
●普通の女の子の“普通”の日常
天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・f40613)はおかしな夢を見た。
廃れた村の中、自分は固く目を閉じて地面に横たわっている。
服装は巫女装束。
神社の手伝いで巫女装束を着ることはあるけれど、こんなに裾が短いものではない。
そして、自分の側には赤い布を首に巻いた狐がいて布都乃を前足で揺すっている。
『布都乃よ、目を覚ますのじゃ。未来視の瞳があればその世界から抜け出せるはずじゃ――』
目覚まし時計の音がジリリと鳴り、布都乃の意識が覚醒する。
手探りで目覚まし時計のスイッチを押してけたたましい音を鳴らす目覚まし時計の音を止める。
ちゅんちゅんとスズメが遊ぶ声が窓の外から聞こえる。
うーん、と上に伸びをするとあくびを一つ。
「んー、狐に話しかけられる変な夢を見ちゃいました」
むにゃむにゃと寝起きの声で、ポツリと呟く。
(狐が喋るわけがないですよね。)
『普通』人間以外が話すわけがない。ましてや狐が話すなんてまるで昔話の世界のようだ。
(けど、なんだか懐かしい声だったような――)
はて、狐の知り合いなんて自分にいただろうか。
違和感に首を捻ると、時計の文字盤が目に入る。
「ああっ、いけませんっ、待ち合わせに遅れてしまいますっ!」
今日は日曜日。
友人たちと街に出かけてショッピングをしようと約束している日だ。
跳ねるように布団から飛び起きて、急いで準備を始める。
今日はすごく楽しみにしていたお出かけの日だ。
街に出ていろんなお店に立ち寄って、服やいろんなものを買ったり、おしゃれなカフェで美味しいスイーツを食べたりしようと前々から友人と計画していたのだ。
(私はずっと神社で修行をして育ったので街に出るなんて珍しくて――)
あれ?
モヤっとした違和感が布都乃の胸の中に生まれる。
(いくら電車をつかわないと街に出られないからって、今までも友人と街に何度も出かけてますよね。)
それに神社の仕事を手伝うなど軽い修行をすることはあったが、友達と遊びに行く暇もないほどに、街に行くことがないほどに、修行漬けの毎日だっただろうか。
いいや、そんなことはない。
そんなに大層な修行をする理由もないし、そんな修行をさせるほど両親は厳しくない。
友人と今日のように街に出かけるのは初めてじゃない。何回も街に遊びに行った思い出が思い出そうとするとすぐに頭に浮かぶ。
「布都乃ー、今日は出かけるんじゃなかったの?」
部屋の外から母親の声が聞こえる。
朝食の匂いが鼻をくすぐるが、時間を確認すると食べている暇はなさそうだ。
街で美味しいものを色々食べるだろうし、お腹は空かせて行った方が逆に都合が良さそうだ。
パジャマから薄茶色のセーターに着替える。
短いパンツに黒いストッキング。
大きめのキャスケットを急いでかぶって、鏡で自分の姿を確認する。
見慣れないのは衣替えをしたばかりのせいだろうか。
こんな服、初めて着たような気がする。
(今日はなんだかおかしいですね、私。)
違和感やモヤモヤが胸の中から離れない。
『おかしいのは、その日常じゃ布都乃――』
ふと、誰かの声が聞こえたような気がする。
その声は夢の中で聞いた狐の声と同じ声で、やっぱり懐かしい気がして。
『布都乃ー!遅いよー!』
その懐かしい狐の声をかき消すように友達の声が聞こえるようだった。
(いつまでも友達を待たせるわけにはいけませんね)
肩掛けの鞄を身につけて急いで部屋を出る。
「お母様、すみません。朝ご飯は食べずに出ますね。」
「行ってらっしゃい布都乃。夜ご飯の前には帰るんですよ」
そんな他愛もない会話を交わして、急いで家を出る。
石畳の階段を降りればいつもの顔ぶれがそこには待っているはずだ。
「“久しぶり”に街に出るんですし、目一杯楽しみましょう!」
無意識に口に出た言葉。
脳裏に浮かぶ、あの狐の声。
『おかしいのは、その日常じゃ布都乃――』
その声を振り払うようにして、布都乃は石畳の階段を駆け降りて“日常”の中へと深く沈んでいった。
成功
🔵🔵🔴
シルヴィ・フォーアンサー
今日も幸せ、何しようかなー?
すっかり夢に飲まれて普通の感情豊かな女の子に。
友達と遊んで着飾って美味しいもの食べて家族に甘えてずっとこうして生きていく。
……などと考えてると身を焼くような衝撃と急速な覚醒感が訪れる。
現実のヨルがパイロットスーツを介して緊急時の生命維持用の電気ショックを最大で流した上に
脳の活動を早める薬品をパイロットスーツを介して注入したドーピングで強制覚醒させられた。
……もうちょっと優しく起こしてくれても良くない。
『いつまでも眠り姫でいる君が悪い、さっさと戻ってきたまえ』
嘆息しつつコードでミドガルズと合体した真の姿へ。
寂寥感を感じながらも戻らないとと夢を破壊、無意識に涙を流して。
●偽りの“日常”の終わり
「今日も幸せ、何しようかなー?」
お母さんの作ってくれたフレンチトースト。目玉焼きにサラダ。デザートのフルーツ。
朝ごはんを食べ終えて、シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は一人テレビの情報番組をぼんやりと見つつ、今日の予定について考えていた。
テレビの中の芸能人が発した小ボケにへらへらと笑う。
夢に飲まれて何日が経っただろうか。シルヴィは知る由もない。
ただ一つ言えるのは“今日もとても幸せ”だということだ。
テーブルの上に置いていたスマホが振動する。
友達からのメッセージだ。
昨日は友達と一緒に遊びに行った。
ゲームセンターに行ってみんなでプリクラを撮ったり、UFOキャッチャーでぬいぐるみを取ったりした。
大きなふわふわの犬のぬいぐるみ。
みんなで力を合わせて取ったそれをみんなはシルヴィにプレゼントしてくれた。
昨日はそれがとても嬉しくてふわふわのそれを抱きしめながら寝たのだった。
今日も、友達と遊びに行くのもいいな。
他愛のないメッセージを返しながらそう思う。
あるいは、家族と一緒に出かけるのもいいかもしれない。
幸いにも今日はみんな揃っておやすみだ。
お母さんも、お父さんも、|お兄ちゃん《ヨル》も、みんな予定がなく家にいる。
せっかくだからちょっと遠出して大型ショッピングモールに行ってもいいかもしれない。
それか、ちょっと甘えてみんなで遊園地に行くのもいいな。
こういうことを考えるだけで幸せだ。
友達と遊んで着飾って美味しいもの食べて家族に甘えてずっとこうして生きて────
────急速に鼓動が早まる。瞳孔が広がる。ハッハッと呼吸が短く荒くなる。
そして身を焼くような衝撃。脳髄まで響くような激痛がシルヴィを襲う。
痛いのは嫌いだ。
叫び出しそうな痛みのなかでシルヴィはあることを思い出す。
ああ、この感覚は。
緊急時の生命維持用の電気ショック。脳の活動を早める薬品。
「……もうちょっと優しく起こしてくれても良くない。」
『いつまでも眠り姫でいる君が悪い、さっさと戻ってきたまえ』
呆れるようなヨルの声が響く。当然優しい“お兄ちゃん”なんかではない。
現実のヨルがパイロットスーツを介して緊急時の生命維持用の電気ショックを最大で流した上に、脳の活動を早める薬品をパイロットスーツを介して注入したドーピングで強制覚醒させられたのだった。
“さっさと戻ってきたまえ”
それはこの平和な日常を破壊せよ、ということ。
美味しいご飯。フリフリのお洋服。仲のいい友達。そして、暖かな家族。
肺の中に溜まった重苦しい空気を溜息としてゆっくり吐き出す。
ユーベルコードを起動し、シルヴィの所持するキャバリアと装備品を纏った真の姿に変身した。
驚愕する家族の顔が視界の端に映る。無理やり目を逸らして操縦桿を握りしめる。
RS-Sミサイルポッドからミサイルが投下される。
家の中がめちゃくちゃになっていく。テーブルは吹き飛び燃えて、壁は崩壊し、天井には穴が開いた。
「…あ」
ちょうど天井の穴が空いた位置がシルヴィの部屋だった。
ふわふわの犬の大きなぬいぐるみが落ちてくる。シフォン素材の柔らかなロングワンピースがひらりはらりと落ちてくる。
炎に包まれる家の中、その二つが炎に焼べられて燃えていく。
“家族”の叫び声が聞こえる気がする。
偽物の、お母さんにお父さん、そして|お兄ちゃん《ヨル》。
夢の中でだけの、偽物の家族だったけど優しくて、暖かくて、愛してくれた。
寂寥感を感じながらシルヴィはミドガルズを駆動させ、両手持ちのRSガトリングキャノンを乱射する。
全てが、全てが、壊れていく。
偽物で幻で夢そのものだったけれど、確かにその“日常”は幸せだった。
(…戻らないと)
視界が濁る。涙が頬を伝ったあとが冷たい。涙はとめどなく幾重にも幾重にも落ちていく。
シルヴィはその涙に気づくことなく、ただ虚しさだけが胸を占めていた。
『……』
その様子を“サポートAI”のヨルは黙って見ていた。
成功
🔵🔵🔴
ノーメン・ネスキオー
オレンジ、幼馴染、金銭限定、固定の店舗、そして何の力もない目
ああ、立派に『平凡』だね?
けど…黒布の魅魔塞也は外れてるから、このままこのUCにてズタズタにしていこう
うん、やっぱりオッドアイは落ち着くなぁ。ズタズタにし終わったら、また巻いてさらに落ち着くように
魅了魔眼な目で苦労しないことはいいことなんだけどね
記憶にある方の『日常』って、こっちだから
オレンジ色は…まあ多分、神隠し以前…本来の故郷にいたときのなんだろうけど覚えてないからなぁ。そこは何とも
いやまあ、これで『元世界でも知人に気づかれない』可能性に気づいちゃったんだけどね?
悲観することもない。私も気づかないし、生きてるかもわからないからね
●彼女にとっての普通とは
オレンジ、幼馴染、金銭限定、固定の店舗、そして何の力もない目
「…ああ、立派に『平凡』だね?」
自分以外誰もいなくなった薬舗の中でノーメン・ネスキオー(放浪薬師・f41453)はひとりごちた。
こんなものは自分のスタイルに合っていない。
オレンジ色の髪も目も、見慣れない。
それに魔眼効果を封じている魅魔塞也が外れているのだから、もうこんな“平凡な日常”に惑わされたりしない。
偽りの“日常”風景、薬舗の店内をじっと見つめてから目を瞑り、そしてゆっくりと目を開く。
ノーメンのそれはもう“何の力もない目”ではなかった。
周囲の空気が彼女のその“目”に魅了される。
そうなればその場の空気は全て、ノーメン・ネスキオー、彼女のものだった。
周囲の空気は魅了されたことによって固まり、鋭い刃のようだった。
「さて、やってみようか」
鋭い空気の刃を操り、薬舗の店内をズタズタに切り裂いていく。
店内に薬品棚が破壊されて木片が散乱する。
陳列された薬が宙を舞い、薬独特の甘いような苦いような草のような匂いが空間に満ちていく。
扉や勘定台もみるみるうちにただの欠片へと変わっていく。
ふと、店舗に飾られていた鏡の破片がノーメンの足元に転がってきた。
「うん、やっぱりオッドアイは落ち着くなぁ。」
見下ろすように確認すると、彼女の目は赤と黄色のオッドアイに戻っていた。
髪の毛も先ほどまでのオレンジ色から赤と黄色の縦半々の髪色になっている。
『普通』ではない、いつも通りのノーメンだ。
おそらく偽りの“日常”が崩壊して瓦解寸前だという証拠だろう。
実際にボロボロに朽ちた薬舗へと振り下ろされる鋭い空気の刃は空間を、『普通』を切り裂いた。
その切り口から“現実”、実際にノーメンがいる廃村が見えている。
「もう少し強くやってみようかな?」
やった事はないけれど、多分できる気がする。
魅了された空気を一気に凝縮し、まるで大剣のように振り下ろす。
『普通』はその空気に掻き乱されるように、幻影のようにかき消えて、そこは一瞬にして薬舗から鬱屈とした廃村へと姿を変えた。
「さて、もう十分だね」
そう言うと魅魔塞也を巻いて、自身のオッドアイを隠す。
これでいつも通り。この黒い布で目を覆われているとやっぱり落ち着く。
「魅了魔眼な目で苦労しないことはいいことなんだけどね。記憶にある方の『日常』って、こっちだから。」
赤と黄色のオッドアイを『魅魔塞也』で視界を防ぐ。薬の露店は移動式。薬のお代は何でもいい。世界各地を放浪し、現地の薬学を学びながら放浪する。
これがノーメン・ネスキオーの『日常』、生き方なのだ。
ふと『普通』の世界に囚われていた時の自分の姿を思い返す。
(オレンジ色は…まあ多分、神隠し以前…本来の故郷にいたときのなんだろうけど覚えてないからなぁ。)
そこは何とも。
気がついたら記憶喪失で、オッドアイだったのだから。
そして気がついたら“エンドブレイカー!”世界に神隠しされていたのだから。
(あれ、これって…)
ノーメンはあることに気がつく。
「これだけ風貌が変わっていたら『元世界でも知人に気づかれない』可能性もあるんじゃないかな?」
オレンジ髪と、赤と黄色のツートーン。
そして目を覆い隠す黒い布。
これだけ自分の姿形が変わってしまっていたなんて初めて知ったけれど、元世界の知人が気づかなくてもしょうがないと思う。
彼女はそれを悲観する事はなかった。
(私も覚えてないから気づかないし、その知人が生きてるかもわからないからね)
|閑話休題《さて》
「ここからが本番かな?」
ぐるりと周囲を見渡す。
人一人いない廃れた村。『普通』の光景を見せる異常空間。
重く湿った空気を含んだ風がノーメンの肌を撫でる。木や草が風で音を鳴らす。
「そろそろ出てきてくれるかな」
自分の過去を見せてくれた“親切”なオブリビオンはそろそろ出てきてくれる頃だろうか。
成功
🔵🔵🔴
天道・あや
(学校から帰宅し、夕食後、何時も通り部屋で新曲作りの為にギターを鳴ら…してた手を止める)
…やっぱ何か違うんだよねぇ(何時もの1日、自分にとっての普通。その筈なのだが…違和感が絶えない。これが厨二?いや、高二というやつなのだろうか??)
うーん、分からん!(大の字になって天井を見ながら、持ってるギターを撫でる)
…?(撫でて違和感を感じる。はて、自分のギターは…これだっただろうか?いや、これも自分のギターだ。でも)
…最近は使ってなかったような?(立ち上がって部屋を出て、沢山の楽器が置いてある部屋へと向かう。そして部屋の中にある虹色に輝く其を見つけて)
うむ、思い出した
ーー目を覚ますほど一曲、行くぜ!
●|スタァーライト《夢と未来照らす一番星!》
「ただいまー!」
いつも通りの風景。
天道・あや( |スタァーライト《夢と未来照らす一番星!》 ・f12190)は帰宅すると、いつも通り美味しい夜ご飯に舌鼓を打ち、その後は自室にこもり、いつも通りギターを片手に新曲を作っていた。
“いつも通り”曲作りは順調で、おかしいくらいにスラスラとフレーズが湧き出てくる。
順調に新曲作りは続いていた、けれど彼女はピタリとギターを弾く手を止める。
「…やっぱ何か違うんだよねぇ」
何時もの1日、自分にとっての普通。
朝は普通に学校に行ってしっかりと授業を受ける。学校から帰ってきたらご飯を食べて曲作り。そして健康的な時間に布団に入る。
これが普通。疑いようのないはずの普通。
その筈なのだが…
違和感が絶えない。
────まさか
(これが厨二?いや、高二というやつなのだろうか??)
そのうち眼帯を付け出したり、右手が疼いたりしてきてしまうのだろうか?
作った曲の歌詞にも“漆黒”とか“堕天使”とか使ったり、曲名を|†《ダガー》で囲ったりするようになってしまうのだろうか?まあそれはそれでいい曲になるだろうけど!
「うーん、分からん!」
作曲を一時中断して、ゴローンと勢いよく大の字になって天井を見つめる。
天井を見つめても答えは出てこない。悩みは晴れない。
うーん、と思考の渦に唸りながら持っているギターを撫でる。
「…?」
何となく撫でているギターに違和感を感じる。
はて、自分のギターは…これだっただろうか?いや、これも自分のギターだ。でも…
「…最近は使ってなかったような?」
寝転んでいる体勢からスッと立ち上がり、導かれるように部屋を出る。
足が向いた先は、楽器をたくさん置いていて保管庫のようにしている部屋だ。
ドラムやキーボードはもちろん、普段使いしていないギターが何本もそこに並んでいる。
そのギター達を一つ一つ確認するまでもなく、あやは吸い寄せられるように真っ直ぐ一本のギターに手を伸ばした。
そう、虹色に輝く其に。
その瞬間─────
「うむ、思い出した」
自身が猟兵であることを。
あるアイドルを切っ掛けにアイドルを目指すようになった事を。
とある事件に巻き込まれ猟兵として活動する事になった事を。
様々な異世界での体験。沢山の仲間との数々の思い出。
全部全部、思い出した。
にぃっと口角を上げると、ギターのストラップを肩にかける。
チューニングはもちろんいつだって完璧。
「──目を覚ますほど一曲、行くぜ!」
空間が震えるほどに大きくギターのチューンを奏でる。
眠っている自分の頭に、全身に響くようにギターをかき鳴らす。
夢は素敵だと、未来は明るいものだと、彼女は歌う。
いつもはファンのみんなや仲間、時にオブリビオンにそう訴えかけるように、今日は自分に対して喉を震わせて歌う。
その演奏と歌唱力は自らの心まで震わせて、汚染されていた精神が浄化されていく。
すると、急に意識が覚醒していくような、眠気が冷めていくような感覚に身体が包まれ───
次に目が開くと、そこは自室などではなく山奥の鬱蒼とした廃村だった。
「…うん!やっぱりこれだね!」
そう言って虹色に輝くギターのボディを撫でる。
まるであやの言葉に応えるように、太陽光を反射しているかのように光輝いた。
曇天の下、あやはギターを手に構える。
「今度はみんなに聞こえるように…この村にも、山にも、ううん!世界中に響くように!曇り空も晴らすように!次の曲、いっくよー!」
七色に光るマイクを具現化し、彼女のライブステージの準備は完了だ。
───むしろ、これが彼女にとっての『普通』なのかもしれない。
学生として、猟兵として、そして一人のシンガーソングライターとして皆の進む、未来と夢を照らせる|星《スタァ》として輝き続けることこそが天道・あやの『普通』であり何よりの『望み』なのかもしれない。
成功
🔵🔵🔴
グラディス・プロトワン
✖︎
アドリブご自由に
…を覚…せ
……?
誰か俺を呼んだか?
気のせいか
先の戦いで機体が損傷したのかも知れないな
少しアイツらにメンテナンスを頼むか
自分では気づいていない機能不全があるかもしれん
いつも軽口を叩いてばかりだが同じウォーマシン同士な事もあり、案外お互いを気にかけているようだ
この中では新参者とはいえ、妙に心配されすぎても困るが……
ともあれ、助け合える仲間がいるというのはとても良い事だ
“普通”の事だがな
今後もこの“日常”が続いていくのだろう
多少トラブル等はあるだろうが、任務を受け、それを仲間達と共に遂行していく
“当たり前”のウォーマシンとしての生き方だ
何もおかしな事はない
そうだろう?“ ”
●“当たり前”のウォーマシンとしての生き方
…を覚…せ
「……?誰か俺を呼んだか?」
「何を言ってるんだお前は。戦果を上げたからといって腑抜けていると次はないぞ」
「新型機のくせにもうサウンドシステムにはお金かけてもらえなかったの〜?」
「ほっほっほ。グラディスにもわしと同じくボケが来たか」
「そんなわけないでしょう皆さん…おそらく先の戦鬪でサウンドシステムか重要な信号を発する中枢機関が損傷したのでしょう、可哀想に」
グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)と“アンダードッグ”のメンバー達はワイワイガヤガヤとブリーフィングルームへと戻ってきた。
確かに自分へと呼びかける声が聞こえたような気がしたのだったのだが。
それもどこの方向からとも言えぬような、そして頭の中に直接響くような、そんな声だった。
「気のせいか…。やはり、先の戦いで機体が損傷したのかも知れないな」
「でしたら、私が診てさしあげましょう。」
帰還中もグラディスの様子を気にかけて声をかけていた戦場嫌いの彼が喜んで工具の準備を始める。
「だね〜?ろくに戦果も上げられないウォーマシンもどきにできる事はメンテナンスくらいだもんね〜?」
「寝てる間に頭のネジ外しますよ?」
ちょっと目を離したらすぐに言い合いが始まる。
これで戦場では連携が取れているのだから一体仲がいいのか悪いのか。
「グラディス、貴方の装甲は漆黒の如く黒いので汚れは目立ちにくいですが汚れを放置してはいけませんよ。こういったところから我々は朽ちていくのですよ」
「ほほっ、またジジイのような小言を言いおって。今は疲れとるからこんなこと聞きたくないだろうに。のう、グラディス?」
「本当のおじいちゃんがなーに言ってんの。ねぇ〜グラディスEPエネルギーインゴット一緒に食べな〜い?リーダーのとこからくすねてきちゃった」
グラディスの周りでウォーマシン達がわちゃわちゃガチャガチャしていると、格納庫が揺れるほどの怒号が響いた。
「貴様らグラディスに構うのもいい加減にしろ!まずは自分の整備からだろうがこの脳無し共!」
グラディスの音声システムにキーンと響いて、これが原因で壊れてしまいそうだった。
仲間達は、は〜い、と生返事を返したり、ほっほっほ、とそれに対して笑ったり、私は整備しようとしただけなのに…とぶつくさ文句を言っている。
よく見ればみんな機体のあちらこちらに負傷があり、今すぐにとは言わないもののメンテナンスが必要な様子だった。
未だ立腹している彼はリーダーということもあり、みんなを気にかけているのだなと率直にグラディスは思った。
いつも軽口を叩いてばかりだが同じウォーマシン同士な事もあり、案外お互いを気にかけているようだった。
「ね〜グラディスがぼんやりしてる〜!壊れちゃった?」
「これこれ、ジジイより先に逝ってしまっては困るぞ」
「やはり私のメンテナンスが必要なようですね」
「やかましいぞ貴様ら!俺に二度も同じことを言わせる気か!」
新参者とはいえ、妙に心配されすぎても困るが……
(ともあれ、助け合える仲間がいるというのはとても良い事だ。“普通”の事だがな。)
戦鬪後の若干のピリついた雰囲気がようやく凪いで、落ち着いたブリーフィングルーム内で仲間達を見て思う。
今後もこの“日常”が続いていくのだろう。
多少トラブル等はあるだろうが、任務を受け、それを仲間達と共に遂行していく。
“当たり前”のウォーマシンとしての生き方だ。
何もおかしな事はない。
そしてこのはぐれ者達“アンダードッグ”の一員として、皆の仲間と胸を張って言えるようになって、自身の吸収機構も仲間と共に連携が取れる程度に扱えるようになるのだろう。
(そうだろう?“ ”)
ふ、と考える。
果たして今、自分は誰に向かって───
ブリーフィングルームに設置された回転灯が赤く光を放つ。
「おい!出撃だぞグラディス!」
「…ああ、今行くところだ」
“アンダードッグ”としての“日常”にグラディスは組み込まれ────呑まれる。
成功
🔵🔵🔴
鳥羽・白夜
夜風が赤いガラスの風鈴を鳴らす。
そういや仕舞うの忘れてた、と風鈴を手に取りふと思う。
…これどこで買ったんだっけ。たしか後輩と行った風鈴市で…でもあそこは…現代日本じゃない、江戸時代が続くサムライエンパイア…!
そうだ、俺猟兵だった…
猟兵覚醒時、一気に戦いの記憶が蘇ってきた時と同じ軽い絶望感。
なんだよ折角『普通』の日常を過ごしてたのにまた戦いに戻るのかよ。
もうこのまま日常に浸ってたって、と不貞腐れて寝転がる…本当にそれでいいのか?後輩に任せて自分は知らんぷりか?
胸に罪悪感が広がる…
あー、もう!やっぱこうするしかねーか、|起動《イグニッション》!
紅い刃の大鎌で目の前の光景を【切断】。
…さよなら平穏。
●日常は儚く消えゆくもの
時刻は三時半頃。
鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)は冷蔵庫を開け、本日何本目かのトマトジュースを手に取った時だった。
チリン、とベランダの方から涼を思わせるような高い音が響いた。
冷蔵庫をパタンと閉め、ストローをトマトジュースのパックに刺しながら一時間ぶりにベランダの扉に手をかけた。
ベランダでは冷たい秋の夜風に丸くて赤い風鈴が揺らされて、高い音を鳴らしていた。
(そういや仕舞うの忘れてた)
そう思いながら少し上の方に吊られている風鈴を落とさないように慎重に外して手に取った。
(…相変わらずトマトみたいだな)
丸くて、赤くて、白夜の好きなトマトのようだ。
白夜はやっぱり本物のトマトの方が好きだけれど。
「…風鈴って元は魔除けのために飾られたんだよな?」
これって誰に教えられたんだっけ…というか、そもそもこれどこで買ったんだっけ。
真っ赤な風鈴を片手に部屋に戻る。
(たしか後輩と行った風鈴市で…)
境内に連なった風鈴の情景が思い出される。
「でもあそこは…現代日本じゃない」
そこは日本の神社によく似ていたが“現代”の神社とは様相が異なっていたのを覚えている。
「江戸時代が続くサムライエンパイア…!」
一気に様々な光景がフラッシュバックする。
ごく平凡な家庭に生まれたはずだった。祖父から能力者だと告げられるまでは。
一度は失ったシルバーレインでの戦いの記憶。それは猟兵覚醒と共に思い出した。
その時と似たような感覚に陥り、白夜は全ての記憶を取り戻した。
「そうだ、俺猟兵だった…」
しかし、それは白夜にとって喜ばしいことではなかった。
猟兵覚醒時、一気に戦いの記憶が蘇ってきた時と同じ軽い絶望感。
普通に暮らしたい。
世界救うとか柄じゃない。
この偽りの『普通』の世界は白夜にとって酷く都合のいい世界だった。
オブリビオンも、ゴーストもいない。
特別な能力なんてない。
毎日普通に仕事に行って、普通の日常を過ごして。
(なんだよ折角『普通』の日常を過ごしてたのにまた戦いに戻るのかよ。)
一気にトマトジュースを飲み干して、ゴミ箱へ少し乱暴に投げ捨てる。
そして、はぁ、と長いため息を吐くとベッドサイドに力が抜けたようにストンと座り込み、そのまま横に倒れた。
グリモア猟兵曰く、この世界はオブリビオンの作り出した夢の世界。
白夜にとって心地が良くて都合のいい偽物の世界なのだ。
ぼんやりと天井を眺める。
(もうこのまま日常に浸ってたって)
不貞腐れながらごろりと寝転がる。
そうして目を閉じて、そのまま寝てしまおうとも思った。
明日はいつも通り仕事だ。
明日も、明後日も。それが“日常”なのだから。
何も起きない、無音の時間が部屋に流れる。
(…本当にそれでいいのか?後輩に任せて自分は知らんぷりか?)
瞼の裏に、あの黒髪の後輩の姿が浮かぶ。
自分がいなくなっても面倒見のいい彼女は戦いに赴くのだろうか。
胸に罪悪感が広がる…我欲と使命感の間でせめぎ合いになり、唸り声をあげながらジタバタと布団の上で転がる。
そのままの勢いでベッドから立ち上がり、ため息を吐く。
「あー、もう!やっぱこうするしかねーか、|起動《イグニッション》!」
その声に呼び寄せられるように彼の手元には学生時代から使用していて彼の手によく馴染む赤く染まった三日月型の刃を持つ大鎌が出現した。
大きく大鎌を振りかぶり、目の前の|光景《日常》を切断する。
まるで空間が削り取られたかのように大鎌に切られた部分だけ、自室が古びた廃村の風景に変わっている。
嗚呼、やはり現実はこっちだ。
空間の切断面から偽物の世界から飛び出し、現実世界へと戻る。
湿っぽい空気。曇り空。先ほどの風景と似ても似つかない朽ちた村だった。
背後を振り返るとそこにはもう“普通”も“日常”もどこにもなかった。
「…さよなら平穏。」
誰にも聞こえないようにポツリと呟くと、白夜は大鎌を強く握りしめた。
成功
🔵🔵🔴
法華津・天
…夢は、何時か覚めるもの
ですが、醒めるからこそ好いのですよ
私が此処を『幸福な光景』と感じるのならば…
幸福ではないこの場所を私は識っていると言う事です
そして、幸福な方が夢なのでしょうね
…メガリス・アクティブとメガリスは必ず引き合う
どれ程偽ろうとも、『蠱毒の坩堝』は私と共に在るのです
家族に手解きされる過去も…
幼馴染達と切磋琢磨する過去も…
銀誓館学園と合流する可能性も…
総ては儚き夢にけり
だって、『自由』の為に其れを壊したのは私なのですよ?
私は決して其の『味』を忘れない
酸っぱくて鹹くて辛くて苦くて甘い…
そんな『醍醐味』を
…其れを今一度味わわせてくれる、この夢に心から感謝を捧げましょう
では、イタダキマス
●儚き夢という極上の馳走
“シルバーレインの普通の能力者として、奥座敷に封ざれず皆と過ごせた『もしも』”
“家族にアビリティの手解きを受けて能力者としての実力を磨き…幼馴染達と切磋琢磨して心を磨く日々”
幸福な光景だ。
法華津・天(『蠱毒の坩堝』のメガリス・アクティブ・f37762)は素直にそう思う。
けれど…
(私が此処を『幸福な光景』と感じるのならば…幸福ではないこの場所を私は識っていると言う事です。)
『そして、幸福な方が夢なのでしょうね』
“…メガリス・アクティブとメガリスは必ず引き合う”
メガリス・アクティブ
普通の人間ながらも特定のメガリスと高い親和性を持ち、“必ず”巡り合う運命にある。
この幸福な夢の中でもその運命は覆ることはなかった。
(どれ程偽ろうとも、『蠱毒の坩堝』は私と共に在るのです)
事実、無意識下でもこの蠱毒のような空腹感からは逃れることはできなかった。
そのおかげでこれが夢であることが天には理解できたのだけれども。
りー、りー、と鳴く秋の蟲。
天はゆっくりと屋敷の中を歩いていた。
「…夢は、何時か覚めるもの。ですが、醒めるからこそ好いのですよ」
そうポツリと呟きながら、向かう先は“あの”奥座敷。
「嗚呼、やはり夢の中でも存在するのですね“ここ”は」
懐かしいようなそんな感じがして暗い奥座敷の中、襖を閉じて畳の上に腰を下ろす。
家族に手解きされる過去も…
幼馴染達と切磋琢磨する過去も…
銀誓館学園と合流する可能性も…
「…総ては儚き夢にけり」
そう言って彼女は双眸を閉じる。
「だって、『自由』の為に其れを壊したのは私なのですよ?」
法華津の一族は、銀誓館への迎合を良しとしなかった事により滅びの運命を辿った。
彼女と、蠱毒の坩堝によって。
「私は決して其の『味』を忘れない」
酸っぱくて鹹くて辛くて苦くて甘い…
「そんな『醍醐味』を」
彼女は唇を舌で濡らす。
「…其れを今一度味わわせてくれる、この夢に心から感謝を捧げましょう」
空腹感もそろそろ限界だ。
「では、イタダキマス」
両手を揃え、この『普通』という名の素晴らしい夢に敬意をもって頭を下げる。
『此土ハ地獄餓鬼畜生修羅ノ巷ニシテ、五蘊三毒ノ雲ニ覆ワレシ穢国也。我今、此処ニ巫蠱ヲ修シ奉リ、屍山血河ヲ以テ醒悟ヲ得シメント欲ス。』
ゆっくりと顔をあげると彼女の口角は上がっていた。
この『普通』の夢の世界が“閉ざされた蟲毒の世界”へと侵食され始める。
夜の闇よりも暗い黒燐蟲が奥座敷から屋敷へ、この世界へと這い擦っていく。
今に此処は惨状と化すだろう。
彼女の家族も、幼馴染も、誰も彼も殺し合いを避けることはできない。
たった一人になるまで。
それが蠱毒という地獄だ。
嗚呼、腹が満ちていく。
|蠱毒の坩堝《メガリス》が悦んでいる。
始まったようだ。
蠱毒の世界による無差別の殺戮が。
咆哮が、悲鳴が聞こえる。
殴る音。切り裂く音。
赤い鉄の匂いが鼻腔をくすぐる。
『普通』の世界が殺されていく。
夢の世界が蠱毒によって“喰らわれていく”
彼女はそんな光景に舌鼓を打つ。
酸っぱくて鹹くて辛くて苦くて甘い、そんなご馳走に。
「あら、もうお終いですか…」
紙魚に喰らわれた紙のように、夢という幻影が端からボロボロと崩壊していく。
そうして夢というご馳走は全てが食い尽くされて、夜の奥座敷は曇天の|廃村《現実》へと姿を変えた。
「御馳走様でした。」
ゴクリ、と彼女の喉が鳴った。
成功
🔵🔵🔴
ブラミエ・トゥカーズ
夏の日々を過ごす中、違和感が膨れ上がる
彼女はそんなに普通の人みたいだっただろうか?
違和感が増す度に夏の日々が終わりに近づく
そして彼女も日中外に出ることも少なくなり、偏食が酷くなる
当人は気にしていないが
違和感が限界に達し、口にしてしまう
吸血鬼みたいだな、と
その言葉を鍵に記憶の呪詛は解けるが二人の夏を終わらすには足りない
夏の終わりの扉を開くには鍵を刺さねばならない
彼は本当の日常《普通》のため白木の杭を握り、正体のバレた妖怪は思い出の中と同じ様に微笑みそれを受け入れる
人であれば懐かしい、と言うのかな。
貴公にとってはどのような夢であった?
さぁ、夏を終わらせようか。
十年前、夏の終わり、夕日の射す暑い夕暮れ。少年は吸血鬼を退治した。
普通を理解できぬ余だけではこの呪詛を超える事はできなかった
故に頼らせてもらった
貴公なら踏破できると確信していた
貴公は普通の為に戦える人だからな
吸血鬼とはいえ人の形をした者を、友人を殺せる人間が普通であるのかな?
揶揄いと親愛と呪詛を贈り青年は現世に還す
普通の吸血鬼が顕れた
●十年前、夏の終わり
ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)と少年の夏休みの日々はまだ終わらない。
と言っても何か特別なことが起きるわけではない。
蝉の鳴く声を背に、少年の家の庭で遊んだり、夜には共に星を見たり。
そんな『普通』の夏休みをブラミエと過ごす中、少年の中で違和感が少しずつ芽吹き始める。
“彼女はそんなに普通の人みたいだっただろうか?”
あんなに強い日光を浴びて外で遊ぶような子だっただろうか。
その疑問を少年は口には出さず、胸の内にしまっていた。
だがその違和感は日々増していく。夏休みは終わりへと向かっていく。
そんな中、ブラミエの様子に変化が現れ始めた。
日差しが弱くなり、日が落ちるのが早くなった。
しかし、まるで日陰を求めるように日中外に出ることも少なくなった。
その様子を見て、なんだか少年は安心するような、ホッとするようなそんな妙な感覚を覚えた。
これでブラミエの肌が焼けずにすむと、何故か思ってしまったのだ。
そして、彼女が日陰に籠るようになるようになった頃と同時期に、彼女は偏食を起こすようになった。
固形物を口にしなくなったのだ。
ほんの少しだけトマトを齧るとすぐに置いてしまう。
その代わりに口にするものといえばトマトジュースやアセロラドリンク。
液体ばかりなのだ。
朝晩に涼を感じるようになるようになった頃には、彼女は一切日光の元に出ることはなくなった。
固形物は一切口にしなくなった。
少年が体調を心配しても、ブラミエ当人は何も気にせず上品に日陰の中で座り込むのだった。
『普通』ではなくなった彼女の様子を見て、少年は逆にこれでいい、むしろこれが常の彼女の姿だとすら思うこともあった。
そんな自分の思考にすら、少年は違和感を感じて、日に日に“違和感”は増すばかりで遂には一人で抱えきれないほどになった。
風に吹かれ、風鈴の音が涼を呼ぶ。
もうそろそろ風鈴はしまう頃だろうか。
夏の夕方、風はぬるく二人の頬を撫でた。
ブラミエはあいも変わらず用意された野菜には手をつけず、トマトジュースで喉を潤していた。
そんなブラミエの横顔を、少年はじっと眺めていた。
ずっと感じていた違和感が、とある言葉になって溢れ出た。
「吸血鬼みたいだな」
その瞬間、二人は全てを思い出す。
此処が異常空間であること。
そして、彼女は本当に“吸血鬼”であること。
ブラミエはくつり、と笑うと残っていたトマトジュースを一気に飲み干した。
「余も貴公も、呪詛は溶けたようであるな」
少年はそれに頷いて返す。
しかし、二人の《普通》の夏を終わらせるには言葉だけでは足りない。
夏の終わりの扉を開くには鍵を刺さねばならない
その鍵とは。ブラミエも、少年も、それが何だかわかっていた。
机の上には、結露した麦茶のグラスと水鉄砲。
いつの間に現れたのだろうか、木製の十字架に、二つの大蒜、そして白木の杭。
少年は白木の杭を手に取るとブラミエに向かい合った。
彼は本当の日常《普通》のため白木の杭を握ったのだ。
ならば正体のバレた妖怪は思い出の中と同じ様に微笑みそれを受け入れるのみ。
「人であれば懐かしい、と言うのかな。」
そう言いながら、ブラミエは畳の上に静かに横たわる。
少年はブラミエに馬乗りになる。
その額にはあの時と同じように汗が滲んでいたが、その様子はあの時とは違って冷静を保っているようだった。
「貴公にとってはどのような夢であった?」
僅かな沈黙が部屋の中を包む。ブラミエが彼の下からその瞳を覗く。
少年は何も答えない。
その様子にブラミエは口角をあげる。鋭い牙が覗いて見えた。
「さぁ、夏を終わらせようか。」
その言葉を合図に、少年は白木の杭を彼女の胸に当てた。
そして一気に杭に体重をかける。
嗚呼、あの時と同じ感触だ。
白木の杭は彼女の胸をゆっくりと貫いて、トンとその背後の畳に当たった。
こぷり、彼女の口から血が溢れ出る。
じわりと、彼女によく似合っていた白いワンピースが赤黒い血液で染まっていく。
十年前、夏の終わり、夕日の射す暑い夕暮れ。少年は吸血鬼を退治した。
あの時の再現だ。
ブラミエは微笑みながら少年の首に手を回す。
そして、血を吐き出しながら少年にしか聞こえないようなか細い声で彼に言った。
「普通を理解できぬ余だけではこの呪詛を超える事はできなかった。故に頼らせてもらった。貴公なら踏破できると確信していた。貴公は普通の為に戦える人だからな。」
そう言うと軽く身体を持ち上げ、少年の耳元で囁いた。
「吸血鬼とはいえ人の形をした者を、友人を殺せる人間が普通であるのかな?」
その言葉には揶揄いと親愛と、夢を見せる異常空間よりも重く心を蝕むような呪詛が込められていた。
異常空間が歪む。蜃気楼のように目の前がぼやけていく。
しかし、最後までブラミエの血液の錆鉄のような匂いは彼の中に残っていた。
青年は現世に帰った。
ブラミエの服装は赤い血の染みた白いワンピースから、普段通りの男性のような凛々しい服装に戻っていた。
勿論、白木の杭によって傷つけられた胸の傷はない。
山奥の廃村。
普通の吸血鬼が顕れた。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『望』
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POW : 私にアナタの希望を教えて?
戦場内に【広範に、半透明な七色の細い糸】を放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れる。ただし、13秒ごとに自身の寿命を削る。
SPD : ひとりは、さびしいもの
自身と対象1体を、最大でレベルmまで伸びる【弱るほどに強度を増す、つよいつよい赫い糸】で繋ぐ。繋がれた両者は、同時に死なない限り死なない。
WIZ : 誰もが幸せ。理想でしょう?
戦場内に「ルール:【他者を害することなかれ】」を宣言し、違反者を【抗いきれるまで、幸福な夢の中】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。
イラスト:寛斎タケル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「クロト・ラトキエ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●今再びの安眠を
それを願ったのは貴方でしょう?
“普通”を願ったのは貴方でしょう?
なのにどうして自ら目を覚ましているのかしら。
彼女は小首を傾げながら何処からともなく現れた。
『幸せになりたいものね』
彼女は幸せを奪われた者達の残滓。
だからこそ、誰よりも“普通”である事の幸せを理解していた。
だからこそ想定外だったのだ。
この“猟兵”という存在は。
再び眠りなさい。
その|普通《幸せ》が壊れてしまう前に。
幸せな夢が見れるうちに。
─────────────────────
×夢か現か
他の猟兵の影響か。
それとも猟兵という埒外の故か。
いずれにせよ、お前は目を覚ました。
幸せな夢から切断され、現実へと引き戻された。
いや、果たしてこれは現実だろうか?
身体が鉛のように重い。思考がぶれてハッキリとしない。
まるで夢の中のようだ。
果たして今見ている光景とさっきまで見ていた夢、どちらが夢でどちらが現実か。
果たして手にした“普通”は現実ではなかったのか。
答えを導き出すのはお前の仕事だ|猟兵《イェーガー》。
夢から覚める時がきたんじゃないか?
天道・あや
……確かに、願わなかったと言えば……嘘になるね、うん
(……でも)
願っただけで叶えようとは思ってないんだよねぇ
ーー普通!確かにいいものだよね!普通の生活!普通の幸せ! 素晴らしいと思うよ!
(ーーでも!)
あたしが本当に願い、叶えたいことは別にある!
(ーーそれは)
| 星 《 スタァ 》に成って皆の未来への道を、夢を照らして導きたい!
(道中、辛いこと、後悔はあるかもしれない。でも!未来は明るい!夢は素晴らしい!一人で進むのが怖いならあたしがあなたを見つる!そして手を繋いで一緒に行こう!)
| 普通 《 幸せ 》を見せてくれてありがとう!
でもあたしの普通は、皆の普通は自分達でこれから見つけるんでよろしく!
●素晴らしき未来へ共に
それを願ったのは貴方でしょう?
“普通”を願ったのは貴方でしょう?
ピックを手に七色のギター“レインボーハート”をかき鳴らそうと腕を振り上げた天道・あや
( |スタァーライト《夢と未来照らす一番星!》 ・f12190)はその動きをピタリと止めた。
そうして、一度その腕を下ろして自らのギターをじっと見つめた。
「……確かに、願わなかったと言えば……嘘になるね、うん」
「でしょう?ならば、再び幸福な夢の中にその身を預けなさい」
“普通”の学生として学校に通いながら作曲活動。
確かに夢の中の生活は自分にとって幸せな生活だったかもしれない。
(……でも)
「願っただけで叶えようとは思ってないんだよねぇ」
目の前に浮かぶオブリビオンを見上げるとあやは、にいっと笑ってみせた。
再び腕を振り上げその七色のギターを鳴らす。
鬱屈とした廃村の空気をビリビリと震わせ、オブリビオンは目を丸くした。
彼女のライブが始まる。
あやは曲の前奏を奏でながらオブリビオンへ向かって真っ直ぐその目を見据えて叫ぶように語りかけた。
「──普通!確かにいいものだよね!普通の生活!普通の幸せ! 素晴らしいと思うよ!」
(──でも!)
「あたしが本当に願い、叶えたいことは別にある!」
(──それは)
「|星《スタァ》に成って皆の未来への道を、夢を照らして導きたい!」
それは自分が本当にやりたい事、なりたいものを自覚してから決して揺るがない彼女の心からの夢だった。
「…そんな漠然としていて高望みな願い、本当に叶うと思っているの?そんな眩い希望に満ちた願いは簡単に絶望に曝されてしまうのよ!」
オブリビオンはあやに向かって叫ぶ。
彼女は幸せを奪われた者達の残滓。だからこそ、彼女の願いは眩しすぎて胸が痛むのだ。
その言葉に答えるように彼女は夢は素晴らしいことを歌い、未来には無限の可能性があることを踊る。
「道中、辛いこと、後悔はあるかもしれない。でも!未来は明るい!夢は素晴らしい!」
一切の曇りのない笑顔であやは、幸せを奪われた者達の残滓へそう語りかける。
その笑顔と言葉に、オブリビオンの顔が曇り俯く。
その俯き顔には涙が浮かんでいるようにも見えた。
「嗚呼、羨ましい。貴方が羨ましい。未来を夢見ることができて。私は全て、奪われてしまったのに。私の未来に希望なんてないのに──」
「そんなことない!」
あやは一瞬の間もあけず、その言葉を否定する。
「未来には無限の可能性がある!あなたの未来も明るい!一人で進むのが怖いならあたしがあなたを見つける!そして手を繋いで一緒に行こう!」
俯いたオブリビオンの手を取り、繋ぐ。
そして目を合わせて笑う。
その笑顔には揺らぎない自信で満ち溢れていた。
それはまるで暗い夜空に光る一番星のようで───
「夢と未来が私達を待っているよ!」
全てを奪われ絶望に堕ちたオブリビオンも、何故かその言葉を信じることができた。
「|普通《幸せ》を見せてくれてありがとう!でもあたしの普通は、皆の普通は自分達でこれから見つけるんでよろしく!」
そう言ってあやは、オブリビオンに向かって繋いでいない手を使ってピースサインを掲げた。
そんなあやを見てオブリビオンはフッと笑った。
その笑みは彼女の言葉を嘲るようなものではなく、むしろ───
「…私が見せる夢は貴方に必要なさそうね。信じているわ、貴方が夢を叶えることを。楽しみにしているわ、あなたの未来…貴方たちが作り上げる未来を。」
あやの歌、踊り、そしてその言葉はオブリビオンの心を震わせた。
繋いだ手が解けていく、|彼女《オブリビオン》が消えていく。
しかし、あやが繋いだ手の温もりが彼女の中で消えることはなく、一筋見えた夢と未来への希望も彼女の中で消えることはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
グラディス・プロトワン
★アドリブ歓迎
………?
俺は部隊の任務中だったはずだ
まずいな、すぐに戻らなくては
あいつらに心配を掛けてしまう
あいつら?
……俺が部隊に所属?
俺は……“ ”だ
くっ、なんだこの違和感は
思い出せ、俺は……
“アンダードッグ”のグラディス
……違う
“猟兵”
そうか、俺は邪神の術中に……
俺が無意識に求めてしまった“普通”
よもや俺が邪神復活の手助けをしてしまうところだったとはな
随分と長い時間“普通の夢”を見てしまっていたようだ
この倦怠感は精神エネルギーの消耗によるものだろう
これ以上俺の“普通”を食い物にされるわけにはいかない
あいつらには悪いが……俺の夢はここまでだ
今まで世話になったな
ここからは俺一人の戦いだ
●幸せな夢の終わりに独り
システムが急激に書き換えられるような、焼き切れるような、そんな感覚に意識が覚醒する。
しかし、何故か頭の中がぼんやりと濁るような感覚。
自分の身体であるはずなのに機体が上手く動かすことができない。
(………?)
それにここはどこだろう。見慣れない場所だ。
山奥の廃村のようだが……?
(俺は部隊の任務中だったはずだ)
グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)は混乱していた。
先ほどまでいた荒野とはまるで景色が違う。
それに敵機と思われる機体がどこにも見当たらない。
「まずいな、すぐに戻らなくては。あいつらに心配を掛けてしまう」
───あいつら?
(……俺が部隊に所属?)
思考が追いつかない。
まるで混沌な夢を見ているようだ。
『俺は……“ ”だ』
混沌とした思考の中、頭の中で誰かの声が響く。
『俺は……“アンダードッグ”のグラディス』
はぐれもの集団“アンダードッグ”
他のどの集団とも馴染めず、爪弾きにされた機体が集まってできた部隊。
個性豊かと言えば聞こえは良いだろうが、所詮除け者にされてきた者たちでできた部隊だ。
口喧嘩は絶えず、常に一触即発。
だが、いざという時は背中を預け合うことができる。
いくら|負け犬《アンダードッグ》と他に揶揄されようとグラディスはこの部隊に所属されたことに感謝し、そして仲間たちにも心から感謝し信頼していた。
『俺は……“ ”だ』
頭の中の声が何かを訴えかける。その記憶を否定するように。
何かを、思い出さなければいけない。だがその何かが、未だ思い出せない。
(くっ、なんだこの違和感は。思い出せ、俺は……)
グラディス・プロトワン
試験的に製造された人型ウォーマシン
(───開発中止)
そう、敵だけでなく味方のエネルギーや生命力まで奪うようになってしまったため開発中止になった。
試験運用の末、部隊になど所属されていない。
『“アンダードッグ”のグラディス』
「……違う」
“猟兵”
『俺は……“猟兵”だ』
頭の中で反響していたのは自分の声であった。
「そうか、俺は邪神の術中に……」
「あら、気がついてしまったの」
気がつけば目の前に|邪神《ソレ》は浮かんでいた。
邪神は細く半透明で七色の糸を放ちグラディスの身体へと繋げ、制御しているようだった。
グラディスが無意識に求めてしまった“普通”
部隊に所属し、仲間達と共に戦うという“|普通《幸せ》”
(よもや俺が邪神復活の手助けをしてしまうところだったとはな)
随分と長い時間“普通の夢”を見てしまっていたようだ。
(この倦怠感は精神エネルギーの消耗によるものだろう……これ以上俺の“普通”を食い物にされるわけにはいかない)
あいつらには悪いが……俺の夢はここまでだ。
「今まで世話になったな。ここからは俺一人の戦いだ」
虚空に向かってそう呟く。返事は返ってこない。
「あら、随分良い夢を見ていたようね。もう一度…夢の続きは如何かしら?」
「その未練は丁度今断ち切ったところだ。……それに今、俺は酷く空腹だ。そろそろ食事にさせてもらうぞ…!」
邪神の放つ糸に拘束されたまま吸収機構をフルパワーで起動する。
エネルギー超吸収モードに変形してしまえば、彼の“食事”から逃れることができるものはいない。
ましてや糸で直接グラディスの行動を操っていた邪神は直に生命エネルギーを吸われているような状態だろう。
慌てて糸を解いてももう遅い。既に身体からエネルギーのほとんどが吸い取られてしまっていて思うように逃げることができない。
邪神は断末魔も残さず、グラディスの腹を満たして消えた。
グラディスは敵の気配が消えたこと、そして己の腹が満ちたのを感じると、再び自分がただ独りであることを憶えた。
「…帰るか」
共に帰る仲間はいない。
グラディス・プロトワン
黒の機甲騎士
その性能故に孤独を強いられるのが現実だ。
だからこそ、あの幸せな夢の出来事を忘れることはできないだろう。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
「ここ……は?」
『布都乃よ、ようやく目覚めたか』
「――いなり?」
そうです、いなりは亡き両親に代わって私を育ててくれた、親代わりの大事な存在。
それをどうして忘れていたのでしょう。
「お父様、お母様――」
『夢の中で何があったかは知らぬ。
じゃが、それは夢じゃ。
布都乃、お主が生きていく場所ではない』
「――わかって……います」
涙を拭い右目を開きます。
私が生きるべき未来を映す未来視の魔眼。
――そこに映るのは。
「今は邪神を討つことが私の生きる道です」
霊力を込めた斬撃で邪神の結界を斬り裂きましょう。
「その結界は一度視ています。
二度は通じません。
――さようなら、お父様、お母様」
『布都乃にはつらい任務じゃったな』
●幸福な夢にさようなら
『布都乃…布都乃よ…』
天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・f40613)の肩が何者かによって揺さぶられる。
まだ眠っていたい、そんな思いが胸をしめる。
しかし、その何者かの声に懐かしさを憶え、どろりとはっきりしない思考の中辛うじてうっすらと目を開く。
「ここ……は?」
そこは布都乃の家ではなかった。
埃っぽく薄暗い、今にも雨が降り出してしまいそうな朽ちた村に布都乃はその身を横たえていた。
『布都乃よ、ようやく目覚めたか』
「――いなり?」
黄色い目をした狐が──そう、いなりが心配そうに布都乃の顔を覗き込んでいた。
(そうです、いなりは亡き両親に代わって私を育ててくれた、親代わりの大事な存在。それをどうして忘れていたのでしょう。)
そうして、布都乃は全てを思い出した。
猟兵としての任務でこの村に来たこと。
邪神の力により精神汚染を受け、夢を見ていたこと。
そう、友人との楽しい学校生活も。楽しい街でのショッピングも。
何よりも今は亡き両親との平穏な日常も。
全部、全部、夢だったのだ。
「お父様、お母様――」
はらり、はらり、自然と布都乃の頬を悲しみの涙がとめどなく流れ落ちる。
ポタポタと彼女の涙で乾いた地面が濡れる。
いなりはそのような様子の布都乃を見て、両耳を悲しそうに伏せる。
しかし、芯を持った声で布都乃へ向けて言った。
『夢の中で何があったかは知らぬ。じゃが、それは夢じゃ。布都乃、お主が生きていく場所ではない』
いくら幸せな夢だったといえど、悲しいことにそれが現実となることはない。
夢は夢でしかないのだから。
「――わかって……います」
流れ続ける涙を拭う。彼女が来ている巫女装束の袖が吸う涙の量は少なくない。
「そんなに悲しいのならまた眠ればいいじゃない」
いつから布都乃の様子を眺めていたのだろう。
涙を流す布都乃の様子を邪神は彼女の頭上でくすくすと目を細めて笑って見ていた。
もう一度眠れば、また両親に会うことができる。
また笑顔で布都乃のことを迎えてくれるはずだ。
邪神は布都乃へ甘い誘惑をかける。
しかし、彼女はゆっくりと立ち上がる。
涙を拭い去り開いた右目は金色に輝いていた。
布都乃が生きるべき未来を映す未来視の魔眼。
――そこに映るのは。
「今は邪神を討つことが私の生きる道です」
凛と力の籠った声でそう邪神に向かって言い放った。
「そう?残念ね。ならば『他者を害することなかれ』。無理矢理にでも眠らせてあげる」
邪神の放ったルールが、村全体に結界を形成する。
他者を害した違反者を無理矢理に夢の世界へ誘う強力な結界術だ。
「その結界は一度視ています。二度は通じません。」
布都乃の右目が強く輝く。未来視の力でその結界術は既に“視ている”。
天羽々斬剣に霊力を込め、破魔の力を以って結界を切り裂き相殺する。
パリン、とガラスの割れるような音。邪神は驚愕し目を見開く。
そのままの勢いで、布都乃はより強く霊力を込め邪神へと天羽々斬剣を振るう。
完璧なルールの元に作り上げた結界のはずだった。それゆえに邪神は布都乃の一撃を防ぐことができない。
「――さようなら、お父様、お母様」
そう小さい声で呟くと布都乃は天羽々斬剣で邪神の身体を切り裂いた。
邪神の身体は霞のように、まるで儚い夢のように切り裂かれた箇所からかき消えていった。
ポツリ、雨が一粒降ってきた。
そのままザアザアと勢いを増して、雨は布都乃を濡らす。
『布都乃にはつらい任務じゃったな』
いなりは布都乃を見上げて言った。
再び涙を流しそうになるのをグッと堪えて布都乃は天を仰ぎ見た。
その雨はしばらく降り続いた。
大成功
🔵🔵🔵
ノーメン・ネスキオー
私は依頼を引き受けたから、ここにいるだけで。
普通を願ったわけじゃないんだよ。
というか、今の生活が『普通』だからさぁ。気合で年齢どうにかする人々(エンドブレイカー)出てきてたんだし。
『不老で頑健な肉体の秘密を教えろ』って言われながら肉削ぎむち打ち骨を折られ、なんてかつての拷問の日々よりゃ普通だろ。
だから、ここであなたを退治する。
その細い糸に当たるわけにはいかない…仕方ない。また魅魔之眼露出させて、空気魅了して糸を自動的に弾けるようにしとこう。
UCで攻撃するけど…仙巡白槍は槍で間合いあるからね。一見遠くても、当たるんだよ。
武器がないように見せかけてたのも、まあ手管のうちってことで。
●さて、次はどこへ行こうか
それを願ったのは貴方でしょう?
“普通”を願ったのは貴方でしょう?
邪神は問う。それは貴方が始めたことだと。
それに異を唱えた者がいた。
「私は依頼を引き受けたから、ここにいるだけで。普通を願ったわけじゃないんだよ。」
ノーメン・ネスキオー(放浪薬師・f41453)だ。
確かにノーメンは一言も“普通”を願ってはいなかった。
ただ依頼を引き受けたからここに転送され、邪神の影響を受け夢を見た。
ただそれだけだった。
「というか、今の生活が『普通』だからさぁ。」
あらゆる世界を放浪し、時に薬を売り、時に現地の薬草効果を学ぶ。
そんな『|普通《当たり前》』を“願う”ということ自体、ノーメンには少しピンとこないことだった。
「気合で年齢どうにかする|人々《エンドブレイカー》出てきてたんだし。」
そもそもこの数多ある世界で様々存在する種族。むしろ年齢を気にしてる猟兵は案外少ないかもしれない。
そして次にノーメンが口にした言葉に邪神はギョッとした。
「『不老で頑健な肉体の秘密を教えろ』って言われながら肉削ぎむち打ち骨を折られ、なんてかつての拷問の日々よりゃ普通だろ。」
果たしてこれがノーメンが受けてきた仕打ちなのか。
黒い布で隠された奥の瞳は何も語らない。
だが、この邪神は幸せを奪われた者達の残滓。
その言葉に何か思うところがあるのか、ノーメンを見つめる瞳が揺れ、何か言おうとして口を開き、そのまま何も言うことが無いままその口を閉じた。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。
沈黙を打ち破ったのは邪神の方だった。
「……でも、いつまでもその普通が続くとは限らないじゃない。」
だから、永遠に『普通』の夢を見ていた方がいいじゃない。
いずれその『普通』が崩れ去る可能性を考えたら、ここで永遠を見ていた方がいいじゃない。
そう、邪神はノーメンに甘言を弄した。
ノーメンは表情を変えず、むしろ笑うように邪神に言った。
「一つの場所に留まるのは性に合わないんでね。あなたも見てただろ、夢の中で私が決まった場所に出した店舗を破壊していたところを。」
一つの場所に留まらない放浪の生活。この『普通』はどうやらこの邪神が支配する領域では許されてはいないようだ。
「だから、ここであなたを退治する。」
「残念だけど、戦うしか無いようね」
邪神はそう言うと、自らの身体からまるで細長い触手のように半透明な七色の細い糸を放った。
「その細い糸に当たるわけにはいかない…仕方ない。」
ノーメンはそう言うとするりと魅魔塞也を外し、魅魔之眼を露出させた。
穢れた廃村の空気が彼女の赤と黄のオッドアイに魅了されていく。
まるで手に取るように、まるで傅くように空気はノーメンの意志に従い、邪神の放った細い糸を彼女に近づけない。
「あなたに効くのはおそらく、こうだね」
ノーメンは体内を巡る仙巡白槍を手に取り、間合いを保ちながら邪神を貫いた。
その様はまるで奇術のようで、武器をその手に持っていなかったノーメンからの不意の一撃を邪神は予見することができなかった。身を翻し避けようとするも、槍の一撃は一見遠くても、当たる。完全に無防備な状態でその一撃を受けてしまった。
「貴方…!武器なんて…!」
「武器がないように見せかけてたのも、まあ手管のうちってことで。」
突き刺さった槍から魅了作用を付与した仙力が一気に邪神に流れ込み、槍を起点とした爆発を引き起こした。
邪神は叫び声をあげながら掻き消えるように、爆発に飲まれて消滅した。
「さて、と」
ノーメンは仙巡白槍を再び体内へ戻し、一息をついた。
「一応、ここは村だったようだけど…ここには薬学知識どころか、薬草の一本も生えていないようだね」
そう言うと彼女はその目を再び魅魔塞也で魔眼効果を封じて、悩むように、しかしそれを楽しむように首を傾げた。
「さて、次はどこへ行こうか」
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィ・フォーアンサー
……おはよう。
『お目覚めはいかがだ眠り姫』
最悪だね夢見が悪くて……だからあいつは焼き尽くすよ。
パラライズ・ミサイルを放ってバックダッシュ。
糸で繋がれたなら切り離すまで距離をとってシルエット・ミラージュからフレア・ブラスター。
長射程をいかして分身との持続射撃で骨の髄まで焼き尽くすっ。
……あれは夢だ、夢なんだよ。
だから悲しいことはないしこの流れる涙も偽物なんだ。
こんな悲しいなら普通なんていらない。
親も友達もシルヴィにはいないからっ、いらなかったのにっ。
シルヴィにはシルヴィとヨルがいればいい、それだけでよかったのにっ。
消えろ、消えちゃえ、お前なんていなくなれっ。
(未練たっぷりですがまた手にいれても失う恐怖が怖いので徹底拒絶する)
撃破して日常に戻って落ち着いた後。普通の生活っていうのも悪くはなかったね……でももういらない。
やっぱり一人が気楽でよいよ、ヨルとシルヴィは一心同体みたいなものだし。
(似たぬいぐるみとワンピースを購入してたり良い思い出とトラウマができて忘れたい程ではないが複雑な結果に)
●偽物ならば、壊れるならば
気がつくとシルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は埃っぽい廃村のざらついた土の上に身を横たえていた。
緩く風が吹けば頬が濡れている冷たい感覚。
嗚呼。“悪い夢”は破壊できたようだが、ソレを見ていていた…否、邪神の能力により見させられていたのはまぎれのない事実だったようだ。
未だにぼんやりとしている頭を働かせ、寝覚めの悪く重い身体を動かして半身を起こすと自身の隣にあったのは黒を基調とした愛機。
「……おはよう。」
それを言う相手は母親や父親や兄などの家族ではない。
しかし、シルヴィにとってかけがえのない|相棒《サポートAI》であった。
『お目覚めはいかがだ眠り姫』
サポートAIの“ヨルムンガンド”はキャバリアの内蔵スピーカー越しに彼女へと問いかける。
「最悪だね夢見が悪くて……だからあいつは焼き尽くすよ。」
そう言ってシルヴィは眼前を睨みつける。
そこにはクスクスと明らかに嘲笑うように元凶がこちらを見つめている。
シルヴィの精神を汚染しあの“幸福な夢”を見せた邪神が宙を漂っていた。
「夢見が悪い?そんなはずないわ。私が見せたのは貴方が望んだ|普通《幸福》…心地よかったはずでしょう?ねぇ、貴方はどうして起きてしまったの?」
無垢な子供のように問いを投げかける|邪神《彼女》。
だが、シルヴィの耳には嘲るようにその言葉は届いた。
邪神の問いを無視してキャバリア“ミドガルズ”へ乗り込む。
その機体は金属質で硬く冷たいが、柔らかなワンピースより彼女の身体によく馴染み、よく似合っていた。
邪神の攻撃が飛んでくる前に着弾地点に高圧電流を撒き散らすパラライズ・ミサイルを放ちバックダッシュで急速に距離を取る。土埃が廃村に舞う。
「あら、私を一人にするの?寂しいわ」
邪神はパラライズ・ミサイルの電流で身体を拘束され苦痛に顔を歪ませながら、フッと微笑みまるで触手のような赫い糸を放つ。
それはミドガルズへ絡みつくように繋がるが拘束力はなく、ただ邪神とミドガルズを繋ぐのみであった。
「この糸に繋がれた者は同時に死なない限り死なないわ。ねぇ、ひとりは寂しいわ。ここで永遠に夢を見ていましょうよ。」
その言葉に、シルヴィはポツリと言葉を零す。
邪神にも、ヨルにも聞こえないほどの、ただ自分へ言い聞かせるような、そんな言葉を口から零す。
「……あれは夢だ、夢なんだよ。だから悲しいことはないしこの流れる涙も偽物なんだ。」
邪神への攻撃へと精神を集中しているはずなのに、不思議と頭に浮かんでくるのはあの夢の光景。
家族はいつも優しかった。
家族みんなで食べる温かいご飯は美味しかった。
友達と一緒に行った初めてのゲームセンターは最初から最後までずっと楽しかった。
もう自分の手には届かない、紛い物の光景だ。
「こんな悲しいなら普通なんていらない。」
神経を鋭敏に。
ミドガルズの出力を最大にして勢いよく後退を続け、邪神との距離を驚異的な速度で離していく。
所詮は、赤い糸だ。幸いにもフィールドは広大だ。
ミドガルズの馬力で邪神の糸が千切れるまで、幸せな|夢《普通》からの距離が遠く、引きちぎれるまで距離を離し続ける。
ギリギリとまるで未練がましいように繋がり続ける赫い糸。
しかし、ミドガルズの動力も、キャバリア操作に特化したシルヴィの能力も卓越しているものだ。
ブチリ、と音を立てて邪神の放った糸は千切れて風に舞った。
「悲しいなら、普通なんていらない。」
シルヴィは再びそう言いながら“シルエット・ミラージュ”を発動し、十を超えるミドガルズの精巧な残像分身を召喚する。
残像と本体は一斉に超巨大荷電粒子ビーム砲ハイペリオンランチャーを未だ電流により身動きの取れない邪神に向かって構える。
基本無表情の彼女の眉間に皺が寄る。
赤い瞳は依然涙で濡れ続けている。
「……骨の髄まで焼き尽くすっ。」
その言葉とともに、彼女の悲しみ、恐怖、そして憎悪、全ての負の感情を込めて全機体から一斉に草の根一本も残さぬような超高温の炎属性のビームを放出する。
延焼と、炎上と、発火と言うには生ぬるいほど、邪神の身体は一瞬にして激しい炎に包まれた。
炎の中で黒い影が、悶え苦しむ姿がシルヴィには見えた。
だが、まだ足りない。
全ての機体の、全てのエネルギーを消費するまでこの攻撃は続く。
「親も友達もシルヴィにはいないからっ、いらなかったのにっ。シルヴィにはシルヴィとヨルがいればいい、それだけでよかったのにっ。」
しゃくり上げ、何度も唸り声をあげながら彼女は泣き叫ぶ。涙は止まるところを知らない。
炎の中の黒い影の動きが鈍くなり、そして動かなくなった。
それでも彼女は攻撃を止めることはない。
「消えろ、消えちゃえ、お前なんていなくなれっ。」
未練なんてないはずがない。またあそこに戻りたいと今でも思っている。
だが、シルヴィは知ってしまった。
普通とは、幸せとは、手に入れてもいずれ失ってしまうことを。
いつかまた手に入れた幸福も、きっとこのように崩れ去ってしまうことを。
その恐ろしさを。
だから邪神の見せる夢を、普通の幸せを徹底的に拒絶する。
シルヴィが気がついた頃にはミドガルズのエネルギーはとうに尽きていて、邪神の姿など何処にも見当たらず、ただ黒い灰が風に吹かれて飛んでいった。
「普通の生活っていうのも悪くはなかったね……でももういらない。」
あれからどれくらい経っただろう。
彼女は、彼女の日常を取り戻していた。
『本当に、もういいのか?』
サポートAIのヨルは人間臭いところがある。あの時のシルヴィの普通の生活への未練を察していたのだろう。
「やっぱり一人が気楽でよいよ、ヨルとシルヴィは一心同体みたいなものだし。」
「お客様ー、お待たせ致しました。こちらお品物になります。」
街を歩いていてふと目にとまったセレクトショップ。ショーウィンドウから中を覗くといつかの夢の光景によく似たふわふわの犬のぬいぐるみと白いワンピースがそこにはあった。
店から出ると紙袋の中から大きな犬のぬいぐるみを取り出す。
(……やっぱり、悪くなかったな)
再びあの夢の光景を思い出す。
しかし、今こうやっていることその行為があの時いらないと否定した普通の幸せの残滓を追い求める行為のような気がして。
崩れ去る幸せな風景も同時に思い出す。
あれ以来、ポッカリと胸に大きな穴が空いてしまったような、そんな感覚だ。
複雑な感情を覆い隠すようにふわふわのぬいぐるみを抱きしめ、頬をうずめた。
ぬいぐるみに隠された彼女の顔は、きっと無表情のはずだ。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
余だけでは貴公の元へは辿り着けぬのは道理であったな。
余は不幸をまき散らし人の幸福を壊すことが普通の行いのモノであるゆえな。
敵UCにより幸せな夢とやらに取り込まれる
妖怪として災厄や恐怖や驚きをばら撒き、人に、英雄に、知恵に退治される普通の怪異のお話
夢の中であるので他者の感情は摂取できないため吸血鬼として存在が弱くなり、殻が壊れる
真の姿
手枷足枷をした中世風村娘の形に凝縮したウイルスの集合体
他者を害するので夢から出られない
致死性伝染病の普通の生態行動を夢の中で行う
夢の中なので人は進歩しない
そして夢の中の人々は死滅し、【他者がいなくなる】
ルールの条件を無効化することで夢から脱する
嘗てのように普通に病が人の望みを絶つ
てめぇを生んだ不幸だった誰かの中にわしに殺されたヤツもいるかもしれねぇな。
今なら、普通に恨みを晴らせるかもしれねぇぞ?
普通であることを止めたらな?
普通の人々を守るために戦った人々は普通であることを放棄し、災厄を普通の病にまで貶め、隔離世へと放逐せしめたのだ
アドアレその他もろもろ歓迎
●普通を捨てるということ
「余だけでは貴公の元へは辿り着けぬのは道理であったな。
余は不幸をまき散らし人の幸福を壊すことが普通の行いのモノであるゆえな。」
故にブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は、普通を理解できない吸血鬼は十年前に己を退治した青年を頼った。
普通を理解でき、普通のために戦える彼を。
「夢は普通一人で見るものよ。誰かを引き摺り込むなんて卑怯だとは思わないの?」
「そもそも余は御伽噺の吸血鬼である。余が見る夢を貴公が“人間の見る普通の夢”と同じと侮ったまでよ。」
それを聞いて邪神はほんの少し悔しそうな顔をしたが、フッとまた余裕そうに笑った。
「でも、助けてくれた彼はもういないみたいじゃない。」
その瞬間、ブラミエの意識が再び暗転する。
ブラミエに攻撃される前に邪神が先手を取って、再び彼女に精神汚染を仕掛けたのだ。
「次の夢では“他者を害してはいけない”わ。ふふ、大丈夫。きっとさっきよりも幸せな夢を見ることができるはずだから。」
意識が闇に浸かる寸前、邪神は嬉しそうにそう言った。
ブラミエが一人で取り込まれた“幸福な夢”
それは妖怪として災厄や恐怖や驚きをばら撒き、人に、英雄に、知恵に退治される普通の怪異のお話。
人間は暗闇を、夜を、《妖怪》ヴァンパイアを恐れた。
ブラミエは闇夜に紛れて人を恐怖に陥れ、生き血を啜った。
人々は十字架を、大蒜を、銀の弾丸を以って彼女を退治する。
ブラミエは御伽噺の吸血鬼だ。退治されて簡単に死ぬわけではない。
夢の中で何度も何度も人間を襲い、何度も何度も人間に退治された。
彼女にとってはそれが幸福そのものであった。
けれど、夢とは所詮紛い物だ。
彼女の夢の中で本物であるのは彼女ひとり。
ブラミエが恐怖をばら撒く人間も、彼女を退治する人間も実在しない幻覚である。
だからブラミエの糧である他者の感情は摂取できない。
人間が偽物ならば、その人間が発する恐怖も偽物に他ならない。
襲い退治されの繰り返しの中、御伽噺の吸血鬼ブラミエは徐々に存在が弱くなっていく。
夢の中を覗き見た邪神はその様子にほくそ笑んだ。
これから何が起きるとも知らずに。
何度同じことを繰り返しただろう。
ついに彼女の吸血鬼としての存在は極限まで弱まり、殻が壊れた。
彼女の姿が変わっていく。彼女の真の姿が現れる。
それは手枷足枷をした中世風の村娘。
しかしその実態は、凝縮したウイルスの集合体。
赤死病、転移性血球腫瘍ウイルス、旧き致死性伝染病。
『余は歌おう。嘗ての敗残者として。余は告げよう。未だ健在であることを。余は再び示そう。この赤き死の狂乱を。』
彼女は致死性伝染病として“普通”の生態行動を夢の中で行う。
感染の拡大、そして人間への文字通り死に至るまでの侵食だ。
空気が、人が、鼠が、鳥が、蚤が、ありとあらゆるものが彼女という病、ウイルスを媒介し感染を広げた。
死に至る貧血、飢餓感、幻覚、喘息等。そして誰も皆、最終的には必ず死に至った。
(…何をしているのかしら、彼女は。)
夢を覗き見る邪神は訝しげにそのパンデミックを眺めていた。
“他者を害してはいけない”
邪神が定めたルールだ。
このままでは永久に彼女は夢の中から出ることはできない。
邪神としては願ってもない状況ではあるのだが。
しかし、状況は変わりつつあった。
ここは夢の中だ。夢とは不変である。進歩もない。
全てが不変なブラミエにとって幸福な夢の中だ。
現実とは異なることが起き始めた。
赤死病、転移性血球腫瘍ウイルス、旧き致死性伝染病に侵される人間達は進歩をしなかった。感染源は見つからず、予防法は発見されず、効果的な薬やワクチンも作られなかった。
そうして人間達は恐ろしい速さで数を減らしていき、とうとう夢の中には病本体であるブラミエ・トゥカーズただ一人しか残らなかった。
嘗てのように普通に病が人の望みを絶った。
“他者を害してはいけない”
他者がいなくなった今、このルールは破綻し無効化された。
目を開いたブラミエの眼前にいたのは、おぞましいものを見るような目でこちらを見る邪神の姿であった。
「貴方…夢の中とはいえ、なんてことを…。」
「先に言っただろ?わしは不幸をまき散らし人の幸福を壊すことが普通の行いのモノ、だってな。」
手枷をジャラリと鳴らしながらブラミエはくつり、と笑ってその鋭い緑色の瞳で邪神を見据えた。その視線の鋭さは、それに射抜かれた邪神がゾッとしてしまうほどであった。
「てめぇを生んだ不幸だった誰かの中にわしに殺されたヤツもいるかもしれねぇな。」
邪神がはっと息を呑む。
幸せを奪われた者達の残滓。
奪われた悲しみ、苦しみ、絶望。
そして尽きぬ怨讐。
「今なら、普通に恨みを晴らせるかもしれねぇぞ?」
沸々と湧き上がる目の前の妖怪への、吸血鬼への、病原菌への憎悪。
残滓の集合体となってしまった今では個々の恨みの元など辿れはしないが、はっきりと目の前の存在への憎しみを自覚できる。
許さない、許さない、許さない、許さない、許さない!
「“普通”であることを止めたらな?」
憎しみに支配される思考の中、ブラミエの声が邪神の脳を刺した。
「普通であることを止める…?」
それは普遍という幸福を否定するということ。
それは不変という幸せを否定するということ。
「…そんなこと」
「できねぇ、って言うのか」
ブラミエという吸血鬼は、旧き致死性伝染病は、嘲るようにその邪神を見た。
「普通の人々を守るために戦った人々は普通であることを放棄し、災厄を普通の病にまで貶め、隔離世へと放逐せしめたのだ」
普通であるということは進歩もなく立ち向かいもせず、ただその状況を享受するということだ。
“災厄”であったブラミエにはわかる。
普通を捨て去った人間の脅威を。普通を捨て去った人間の強さを。
「真の姿を晒したわしが、かつてUDCアースで猛威を振るった致死性伝染病のわしが、普通なんてものさえ捨てきれねぇ臆病で矮小な存在に打ち倒せると思うなよ。」
目の前のブラミエ・トゥカーズという致死性伝染病の甚だしく強大な存在感に気圧され、邪神の息がどんどんと荒くなっていく。
いや、荒くなっていくというよりもこれは────
「喘息…!」
ぐらり、死に至る貧血で頭が重く揺れて邪神はその場に崩れ落ちる。
「時間切れみてぇだな。あばよ、普遍を捨てられなかった臆病で哀れな邪神よ。せめて、“幸福な夢”が見れるといいな」
邪神の意識がブラックアウトする。
永遠に普通の幸福に閉じ込める邪神は、十年前にごく普通の少年に退治された吸血鬼に、普通を捨て去った勇敢な|人間《英雄》達によって既にワクチンの開発された病に侵され眠りに着く事になったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
法華津・天
隣の芝生は青く見える…
可能性であるからこそ希求するのです
そして、未来へ向かう可能性なれば果てが無くとも…
過去に縋る、過去を覆す可能性で夢を見続けるのは限界があります
何故なら其処は現状への不満が打開された果ての『普通』である故に…
其れに染まれば色褪せて見えるものです
【除霊建築学・陰陽八卦】を発動致します
下流とするのは当然オブリビオンです
…此れは我が一族が『蠱毒の坩堝』を制御せんとした残滓…
夢の日常は夢幻でも、現実で決して零では無かった故に…
縋るのではなく、其れを傍らに携えて、私は歩んでいくのですよ
独りは寂しいものです
だからどうか、私が満たされるまでお付き合い下さいませ
【蟲使い】たる私が放つ【呪殺弾】と【音響弾】を受け切り…
【傷口をえぐる】【呪詛】が与える【継続ダメージ】と【生命力吸収】を…
私が貴女を【捕食】するのを永劫に亘って受け入れて下さい
だって、この糸が切れぬ限り、貴女は死ねないのですから…
私は貴女でコドクを充たす…
貴女は私にそんな夢の様な現実を提供してくれる…
互いに損は無いでしょう?
●“コドク”
「隣の芝生は青く見える…可能性であるからこそ希求するのです。そして、未来へ向かう可能性なれば果てが無くとも…。」
法華津・天(『蠱毒の坩堝』のメガリス・アクティブ・f37762)は常日頃思っていた。
『特別な能力者ではなく、凡百の猟兵である事が嬉しい。』
メガリスとの親和性の高さを一族から危険視され屋敷に封じられていた天だからこそ、普通を羨み、そして普通でいられる喜びを心から理解できる。
「あら、貴方には理解できるみたいね。手に入らなかった“普通”というものがいかに素晴らしく、それが誰しも喉から手が出るほど欲しくて欲しくて堪らないものだということを。」
にこり、邪神は心から嬉しそうに笑って言葉を続けた。
「私の見せた夢の中では“普通”の人間とは思えない、あんなに酷く残虐なことをしてみせたのに」
その邪神の言葉にあえて天は言葉を返さず、自らの所見を語り続けた。
「過去に縋る、過去を覆す可能性で夢を見続けるのは限界があります。」
「…結局貴方も私を否定するのね。何故?」
「何故なら其処は現状への不満が打開された果ての『普通』である故に…其れに染まれば色褪せて見えるものです」
過去に縋り夢を見て、結果その不満が解消され『普通』になれたとしてもいずれ|それ《『普通』》と同じ色に染まり色褪せて見えてしまう。
色褪せたその先にあるものは、自身の色艶が薄くなっていく事への虚無感か。
それともまた隣の青い芝を羨んでみせるのか。
「色褪せることの何がいけないの?不満が解消されて大いに結構じゃない。それが『普通』を夢見るということじゃないの」
嗚呼、話し合いで解決するものではない。
“あれ”は邪神だ。幸せを奪われた結果『普通』であることを夢見て、それに取り憑かれた存在だ。そう成ってしまった邪神だ。
「残念だわ。初めは貴方に期待していたのに。同じ『普通』というものを渇望する者として。でもきっと、時間をかければ貴方もわかってくれるわ。色が褪めて何色でもなくなること、その素晴らしさにね」
風が音を鳴らし、天の元へ赫い糸が迫る。邪神と天を繋ぐ赫い糸が。
天は敢えてそれを避けることはしなかった。
これまで見てきた|邪神《彼女》の振る舞いから見て、その糸は天を傷つけるものではないとわかっていたから。
(おそらく“これ”は私を永遠に捕らえるための…)
「いいですよ。孤独の切なさはよくわかりますもの。」
斯くして彼女は邪神と赫い糸で繋がれた。
「ふふ。この糸はね、私が弱るほどに強かになるのよ。そしてこの糸で繋がれた者達は同時に死なない限り死なないのよ。」
これで永遠に一緒ね!
まるで寂しがり屋の少女のように邪神は自身から伸びる赫い糸に頬擦りした。
「いいえ、これでは足りませんよ。貴方には|永久《とこしえ》に続くほど…私の孤独が満たされるまで此処に居てもらわなければなりませんもの」
天を上流として廃村の中に見えない陰陽の気が流れ込む。
「…此れは我が一族が『蠱毒の坩堝』を制御せんとした残滓…」
下流にいる邪神はたちまちに法華津の一族が『蠱毒の坩堝』を囚えようと編み出した八卦炉の結界に捕縛される。
その効力は邪神の伸ばす赫い糸よりも強大かもしれない。
それほどまでに『蠱毒の坩堝』というものの効力は絶大で法華津にとっての脅威だったのだ。
「独りは寂しいものです。だからどうか、私が満たされるまでお付き合い下さいませ…私が貴女を捕食するのを永劫に亘って受け入れて下さい。だって、この糸が切れぬ限り、貴女は死ねないのですから…」
幸いにも、先ほどから切なさを感じるほどに彼女は飢えていた。
体内で飼い慣らす黒燐虫は今にも飛び出し喰らい付きそうだ。
目の前の邪神を見つめて、こくりと喉を鳴らす。
ヒュ、と邪神の喉が鳴る。
彼女には天の桃色の目が不気味に光って見えた。
邪神は見ていた。天が見ていた夢の中での惨劇を。
『蠱毒の坩堝』というメガリスの“飢え”を。
天は呪殺弾を──自らが使役する黒燐蟲と呪詛が込められた弾を邪神に向かって放つ。
堪らず邪神は逃げようとするも此処は八卦炉結界の中。
逃げ場なんて何処にもないのだ。
『蠱毒の坩堝』の、天の、“捕食”が始まった。
黒燐蟲が邪神に群がり、その肌に齧り付く。その傷口を抉るように別の黒燐蟲が傷口に入り込み中へ中へと血肉を啜る。
堪らず邪神は地獄の底に響くような叫び声を上げた。
呪殺弾の当たった腕がみるみるうちに喰らわれていく。
黒燐蟲はその生態上、獲物を跡形も無く喰らい尽くす。ましてや、『蠱毒の坩堝』の適合者である天の使役する黒燐蟲だ。
その食欲、貪欲さは言うまでもない。
この邪神、その成り立ち故に他人を物理的に傷つける術を持っていない。
自身と他者を永遠に繋ぎ止める事を最も得意としていた。
だからこそ、邪神『望』は法華津・天との相性が致命的に悪かった。
天は孤独の切なさを知り、蠱毒の“切なさ”を知っているから。
嗚呼、切ない、切ない、|心憂《せつな》い。
だが天には嬉しいことに、そして邪神には惨憺たることに、まだ天は一発しか呪殺弾を放っていない。
「私は貴女でコドクを充たす…貴女は私にそんな夢の様な現実を提供してくれる…互いに損は無いでしょう?」
腹が、心が満たされていく感覚に天の頬が緩む。
|捕食《地獄》は始まったばかりだ。
それに気づいた邪神は悲観や絶望と言うには生ぬるい程の感情に覆われていた。
二発目、三発目、終わらない呪殺弾の猛攻。そして継続し蓄積されていくダメージ。
時間が経つにつれいつしか邪神はこの地獄が終わることを、自らがこと切れることを強く願うようになっていった。
だが、死ねない。喰らわれた身体はこと切れる寸前に再生する。自らが放った赫い糸のせいで。
死にたい。死にたい。死にたい死にたい死にたい!
弱るほどに強度を増す赫い糸。ましてや自らは捕食されている最中だ。
自分の能力ですら邪神はコントロールできず、黒燐蟲に喰われながら必死に“それ”を千切ろうと唸り声を上げながら強く引っ張り、捻り、時に歯で噛み切ろうとした。
どれほどの時間が経っただろう。邪神は少しずつ自ら放った赫い糸を細断していき、ようやくプツリと邪神を生へと繋ぎ止める忌まわしき“それ”は切れた。
その瞬間、黒燐蟲は邪神の文字通り“全て”を喰らい尽くした。
「あら…まだこんなにもコドクは満たされていないというのに…」
つい先ほどまで邪神がいた場所を見て天はそうポツリ呟く。
この邪神は夢の中でも、そして現実でも、天のコドクを満たす存在ではなかった。
黒燐蟲を体内に収めながら彼女は夢の中の風景を思い出していた。
「夢の日常は夢幻でも、現実で決して零では無かった故に…縋るのではなく、其れを傍らに携えて、私は歩んでいくのですよ」
確かな|孤独《蠱毒》を感じながら、彼女は独りその場を後にした。
大成功
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