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逢う、魔が時の聲

#シルバーレイン #ノベル #猟兵達の秋祭り2023 #秋の世の夢

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御梅乃・藍斗




●それはきっと魔がさして
 シルバーレイン京都左京区。藍斗はひとり其処に居た。
 暮れない|紅《くれない》に染まる|紅葉《こうよう》が|一〇八《ひゃくはち》の禊階段に|紅《べに》差して、幾重にも並び在る灯篭が一寸先の暗闇を幽けき焔で照らし出す。誘われ進む一歩を踏み出して。
 かわりに消える焔が闇に閉ざした後ろの正面。退けぬ先から風に乗って耳に届くは、祭囃子と老若男女の嗤い聲、唄い聲。
 さて、この丑三つ刻に聞こえぬ筈の其れらは果たして誰らのものか。少なくとも只人ではあるまいと分かりはするものの。
(いっそ狂人の類であった方が気持ちは楽なんですけどね)
 当の藍斗自身が苦手とするのは|誰ら《・・》の方だった。万が一の方を切に願いつつ、進むしかできない道を進みたくなくても進む。後ろの正面に犇く悍ましい気配たちは先日の雨の日のソレに近かった。
 先日のことが気がかりだったからこそ、依頼に赴く前の備えと神の手すら借りたくなったのだ。こういうことに巻き込まれないように、と。稀な気まぐれこそは魔がさしたものだったのか、それともやはり間が悪いのか。
 先の焔は、まだ、灯らない。
「ぁい、と……」
 忘れていた筈の呼び聲は呼んで欲しげに名を紡ぎ、朧げな記憶の蓋が軋む。
 茫。肩を掴まれる前に一つ闇が払われた。また一歩禊の道を昇りて進み、そして退路が閉ざされる。
 ――背後に続く気配が、またひとつ、増えた。

 |一〇八《ひゃくはち》回の凌ぎを削る鬼ごっこは終ぞ終わりを迎え、たどり着いた鳥居に身を滑り込ませる。
 禊ぐ度に増え続けた気配は一〇八対の手を藍斗に伸ばせど、鳥居を越えては届かない。
 ――が、問題はそれだけではなかった。聞こえていた筈の聲がぱたりと止んでいた。
 境内に並ぶのはがらんどうのお祭り屋台。先まで人がいたと匂わせる痕跡が石砂利道に落ちていた。お面やヨーヨーだけならず脱げたような片方だけの下駄まで。
 痕跡だけ遺して消えた|誰ら《・・》に安堵混じりに違和感を覚える。まるで何かから逃げたようだ、と。其れが続くは奥宮。止せばいいのに、と理性で思えど避けても危険と身を以て知ったばかりだ。ならばのるまで、と震える足は自然と其方に進む。
 やがて足音に混ざって聞こえたのは悲鳴。恐怖を抑え駆けだしたのは、猟兵としての覚悟のせいか。其処には。
 斬り刻まれて重なり果てた|家族《・・》の遺体があった。
 紅葉のような赤が家族|だった《・・・》それらから広がって。 
 重なる、確かな過去の惨劇。その中に血濡れの少女が、居た。
 少女が振り返る。顔は見えない、が、口元だけは明瞭で。嗚呼、嘲笑って、いる。知らない筈の少女だ、しかし覚えていないだけだと、彼女が|切っ掛け《・・・・》だと知っている。
(なんの……っ!)
「罪の。そして其の経緯の」
 血濡れの少女が、応えた。息を呑む。身体が強張る。震える。聞きたくない。
 少女が空気で笑い、唇だけが音を紡ぐ。見開かれた藍斗の双眸は少女の口元を確りと捕らえて逸らせない。
 
 ――ホントウニ、ワスレテシマッタノ?セッカク、オシエテアゲタノニ。

「あ、あああああああああっ!!」
 何を、等と宣う前に藍斗はその場を駆けだしていた。響く絶叫は背後の少女の笑い声をかき消すように。ただ我武者羅に迫る手を掻い潜り、禊階段を震えて縺れる足で駆け下りて。
 そうして気付けば天頂の月は暮れ、静かに昇る陽が空を薄明に染めていた。
「どうしたんだい?」
 呆然と立ち尽くす藍斗に通りがかりの参拝客が声をかける。話題に困った藍斗は当たり障りないことを尋ねることにした。
「嗚呼、此処はねぇ」
 ――縁結びの、神社なんだよ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月26日


挿絵イラスト