ダーティ・ゲイズコレクターは立ち止まらない
●走り続けること
エクサイト・テーラー。
それは幼馴染が掲げるテーラーの屋号であり、また同時に彼女の名でもあった。
ダーティ・ゲイズコレクター(Look at me・f31927)は悪魔にして魔王である。凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王。
そう、彼女こそが視線誘導の魔王。
あらゆる視線を集め、その隙に悪事を働くこと道を邁進している新気鋭の魔王なのである。
「いやほんとたすかったよ~」
のんびりとした口調のエクサイトの言葉にダーティは頭を振る。
「いいえ、いいえ! あなたの頼みとあらばお安い御用です! それにしても秋祭りのお陰で大盛況のようですね」
「ほんとだよ~猟兵さんに憧れて、みんな浴衣を着たいって悪魔が大殺到でさ~」
そうなのである。
悪魔とはワルの種族。
ワルければワルいほどにクールなのである。
だがまあ、基本的に良い子なので、言うことは聞いてしまうし、頼まれたら嫌と言えないのである。それはダーティも同じであったけれど。
そんなものだから、エクサイトは大量に発注された浴衣の仕立てに大忙しだったのだ。
そこにダーティがまとまった休みが出来たのでデビルキングワールドの幼馴染である彼女のもとに、次なる猟兵主体のイベントに着る衣装を相談しようとやってきて、大量発注にてんてこ舞いの彼女の願いを受けて、今、生地を裁断しているのである。
流されるまま、というか。
これが悪魔たる所以というべきか。
まあ、そんな悪魔の事情なんてなくってもダーティは幼馴染の彼女の願いを叶えるのだけれども。
「ちょっとひといきいれよ~」
「はい! こちらは終わっておりますから!」
「ありがと~! たすかったよ~!」
そんなふうにして二人は作業を一時中断してお茶を飲む。
忙しいのはわかるが、息を入れなければ倒れてしまう。二人はお茶菓子を囲んで、近況を語り合う。
「……というわけで、他世界での戦いで私はたくさん注目を浴びたんです!」
「そっか~……あのさ、ダーティちゃん」
「はい、どうされました?」
「さっきもおもったんだけど~……よかったら一緒に仕立て屋をしない~? 話を聞いていると猟兵さんのお仕事は大変だし、危ないでしょ~?」
だから、と此処ならば危険もない。
お給金だって出る。
さっきの仕事ぶりを見ていたら、向いているとさえ言えるだろう。
それに今までのダーティであったのならば、快諾していただろう。そう、猟兵になる前の、へっぽこ悪魔の自分だったのなら。
けれど、ダーティはいつもと違う顔を見せていた。
幼馴染であるエクサイトも知らない顔。
「ありがたいお話ですけど、お断りさせていただきます」
「な、なんで~……?」
「可能性があるのなら走り続けたいんです。嘗ての私には無理でも、今の私ならデビルキングになれるかもしれないから」
そこには嘗ての自信のなさげな悪魔はいない。
視線誘導の悪魔。
魔王を名乗るだけの自負を得たダーティの顔があったのだ。
知らない顔。
幼馴染でいつも一緒にいたのに。
いつのまにか知らない顔をするようになった彼女にエクサイトは、寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになってしまう。
でも、と思うのだ。
それがダーティだ。
自分だってそうだったのだ。同じようにへっぽこと言われていたのだ。けれど、ダーティの一言で今の自分がある。
なら。
「おうえんするよ~! ダーティちゃんなら、きっとデビルキングになれるよ~!」
あの日、自分に仕立て屋になれると断言してくれた彼女を思う。
だから、思い出したのだ。
あの日の彼女も同じ顔をしていた。
夢に邁進する彼女だからこそ、一緒に居たいと思ったのだから――。
成功
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