彩結ビノ心中~Sacrament mori
――この想いを、どんな|彩《いろ》に喩えたらいいだろうか。
親愛を伝えるには橙にベージュや撫子などの、あたたかな雰囲気の色だろうか。感謝だったら、あの人の好きな色を選んで贈ろうか。夏の思い出を託すのなら、目の覚めるようなブルー? 青い海と入道雲と、それからそれから――、
(「紅」)
――今は亡きひとへ捧げる、焼け爛れそうに熱く、哭き叫ぶほどに激しく、声が枯れるくらいに深い想いならば。それにはきっと、炎のいろが相応しいだろう。
(「……紅蓮」)
そして。成す術もなく炎に呑まれ、無念のうちに死を迎えたものも、そう。彼らが抱いた怒りや悲しみには、もっともっと、燃えるような桜のいろが相応しい。
(「結ビ、届ケ、コノ想ヒ」)
――空を目指し、弔い火のように、天へと昇れ。
祭りの幻朧桜を飾る、色とりどりの帯。その結ばれた彩たちが、そこに籠められた想いの烈しさを糧として――桜ごと巻き込んで、一気に燃え上がった。
(「届ケ、届ケ」)
帝都でもひと際目を惹く鉄塔に、ぼっと火の手が上がる。祭りの桜、ではない。影朧と化した異形の桜が、その身を激しく燃やして鉄骨に絡みついていたのだ。
紅蓮の花びらは、揺らめく焔だった。街を燃やし、空を焦がし、決して届かない『何か』に手を伸ばすように、彼岸桜が燃えていた。
恨めしそうに、どこか愛おしさすら滲ませつつ。その枝と根をどこまでも這わせて、鉄塔とひとつになろうとあかあかと燃え続ける桜は――、
「――まるで、心中のようだ」
呆然とタワーを見上げた誰かが、そう呟いた。
今回、事件が予知されたのはサクラミラージュ――帝都港区に存在する『帝都タワー』。正式名称を『帝都電波塔』と言うらしいそれが、どうやら影朧に狙われているらしいと、篝・燈華(幻燈・f10370)は言った。
「と言うのも、『帝都タワー』はただの塔じゃなくて、通信の霊的な守護を担っているそうなんだよ。……『世界最大級の鎮守塔』なんだって! すごいねっ」
なので、もしこのタワーが破壊されるようなことがあれば、帝都はおろか世界全体がとんでもない混乱に陥ることは想像に難くないのだとか。
「影朧の力は強大で、普通に戦えば大変かもしれない……けど!」
しかし、幸いなことに、帝都タワーは絶大な霊力を纏っている。燈華が言うには、周辺の寺社や幻朧桜によって高められたその霊力の加護を受ければ、強力な影朧が相手でも有利に戦えるそうなのだ。
「なので、皆にはまず『儀式』を通じて、霊力を分けて貰うことから始めて欲しいんだよっ」
儀式、と言っても仰々しいものではない。港区にある幻朧桜の群生地のひとつで催されているお祭りに、楽しんで参加すればいいだけだ。
「……沢山の幻朧桜にね、思い思いに布を飾りつけるんだ」
布はリボン、ハンケチやスカアフ、手拭いや帯など何でもいい。それぞれが親しい人――家族や友人、恋人などを思い浮かべて、好みの色を選び、想いよ届けと桜に託すのだ。
元々は、嘗てその地域を襲った大火によって、大切なひとを喪った人々が、鎮魂のために始めた祭りなのだそうだ。その時は、捧げた布を弔い火として燃やしたりもしたそうだが、今はそのまま相手へプレゼントするなど変わってきたりしているらしい。
「舶来品を扱うお洒落な洋品店や、昔ながらの染物屋さん……お店も近くに色々あるから、どんな色のどんな布を贈るか、いろいろ考えるのも楽しそうだよねっ」
そう、結んだ彩があるのなら、影朧との決戦だって怖くない。敵がこちらに干渉しようとしてきたところで、その能力を打ち消すことも可能になるのだ。
「……|死の秘跡《サクラメント・モリ》を、どうか止めて。それぞれの彩を、桜に託して欲しいんだよ」
過去を無差別に再現し、大火の記憶に共鳴した桜たちが次々に燃え上がる未来――かぶりを振って予知の光景を打ち消した燈華は、ふにゃりと笑みを浮かべると猟兵たちを秋の帝都へ案内していった。
柚烏
戦争ぶりです、柚烏と申します。久しぶりの通常依頼は、サクラミラージュでの帝都タワーを巡る攻防になります。ゆったりペースで進行予定ですので、プレイングを送れそうだな、と思った時に参加をご検討ください。
●シナリオの流れ
帝都タワーを狙って強力な影朧が動き出しました。そのまま戦うと大変な相手ですが、お祭りに参加して幻朧桜の加護を得ることで有利になります。祭りを楽しんだのち、港区に現れた影朧が事件を起こしますので、そちらに対処しつつタワーへ向かいましょう。最後は帝都タワーでの決戦となります(1章に参加していた猟兵さん、タワーでの戦闘を考慮したプレイングにはボーナスがつきます)
第1章:日常『きみに飾るわたしの彩』
第2章:冒険『紅蓮桜花』
第3章:ボス戦『彼岸桜』
●第1章について
時刻は夕方~夜くらい。幻朧桜の群生地で行われている秋祭りになります。事前に布を買っていてもよし、会場の出店でも選べます。色と布に思いを籠めて、どんな人にどんな想いを贈るのか考えてみてください。布は桜に結びつけるのですが、同行者さんが一緒ならその場でプレゼントすることもできます。
●合同プレイングについて
もし、ご一緒に行動するPCさんがいらっしゃいましたら、【グループ名】もしくは、お相手の【名前】【ID】の記入をお願いします。
●プレイング受付につきまして
たぶん断章は設けませんので、プレイングを送れる時に送って大丈夫です。何かありましたらシナリオのタグやマスターページでお知らせします。
サポートさんも活用しつつ、期限内で書けるぶんだけ、リプレイをお返ししていく予定です(多くても大体10名様前後になりそうです)オーバーロードになされるかはお任せします。
プレイングボーナスがありますので、レベルなどは気にせずに、ご新規の猟兵さんでもお気軽にどうぞ。それではよろしくお願いします。
第1章 日常
『きみに飾るわたしの彩』
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POW : 友愛の彩を結ぶ
SPD : 愛情の彩を結ぶ
WIZ : 感謝の彩を結ぶ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジゼル・サンドル
ピンクと水色の紫陽花が描かれた紺色の浴衣姿。
…サクラミラージュ、そして炎というとどうしてもあのひとが浮かんでしまうのだが。
わたしの心になかなか消えない炎を灯したあの|悪魔《ダイモン》…とんだ放火魔だな、まったく。
淋しげに自嘲しつつ、でも飾り付ける布は大好きな親友へ。
とうに転生して何処にもいないあのひとへの想いは所詮わたしの一方通行なのだし…わたしに勇気をくれるのはいつだってわたしの王子様たる親友なのだから。
そうと決まれば目に入るのは親友の髪色にも似た青碧色のスカアフ。柔らかな光沢を放つそれを幻朧桜に結べばそよりと吹いた秋風がスカアフを揺らして。
この海色が、炎の熱を鎮めてくれるだろうか。
ぽつり、ぽつりと灯された提灯に誘われるように、ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)が桜並木を往く。
「……サクラミラージュ、か」
久しぶりに訪れた花の帝都、其処での秋祭りの喧騒を肌で感じていると、ジゼルの心も自然と浮き立つようだった。会場のあちこちでは、様々な色の布を手にした人々が、幻朧桜に祈りを捧げているのが見える。
(「この祭りも元々は、鎮魂の儀式だったそうだが」)
嘗てこの地域を襲った火災により、多くの犠牲者が出たそうだが、それも過去のものとなったのだろう。ジゼルが見た限り、その痕跡は無い。
(「……炎」)
その言葉を聞くと、どうしても思い浮かべてしまうひとがいた。焦がれるほどの、想いがあった。この世界で出会った、本当に美しいと思えたもの。彼女の心になかなか消えない炎を灯した、あの――、
「|悪魔《ダイモン》……とんだ放火魔だな、まったく」
比喩でも何でもなく相手をそう称すると、ジゼルは淋しげに、自嘲するかのようにため息を漏らした。
秋祭りの為に、彼女があつらえた浴衣は紺。そこに染め抜かれた二色の紫陽花が、落ち着いた雰囲気のなかで愛らしさを振りまいている。
「――……うん」
屋台の前、柔らかな光沢を放つスカアフを手に、少しだけ逡巡してから答えを出した。結ぶ彩は、大好きな親友へ――ジゼルの王子様たる、その髪色に似た青碧色を選んでみた。
(「わたしに勇気をくれるのは、いつだって彼女なのだから」)
あのひとへの想いは、所詮こちらの一方通行だ。向こうだってとうに転生しているだろうし、それに、
(「『君の|心《はな》を盗みにいく』……もし現れたところでそれは、わたしの出会ったあのひととは、全く違う存在なのだから」)
少し背伸びをして、幻朧桜にスカアフを結ぶ。と、そよりと吹いた秋の風が、結ばれたばかりのそれとジゼルの髪を揺らし、咄嗟に彼女は髪飾りを手で押さえていた。
――この海色が、炎の熱を鎮めてくれるだろうか、と願ってはみたけれど。
気がつけば、肌に感じる風もだいぶ涼しくなってきたようだった。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド
アドリブOK
先日新調したばかりの、桜の模様の浴衣で出かけます。
秋祭りで幻朧桜を飾り付けるなんて、帝都らしいですね。
「どんな布にしようかな…?」
幻朧桜と言うことは、もしかして桜の精が近くにいたりするのかな…?と思いつつ。
そう考えると、大切な人に服を贈るみたいですね。
「鈴鹿さんに贈るなら、紫色かな…?」
知り合いの桜の精(大切な人)を思い浮かべつつ。
わたしの髪の色に近い紫のリボンを出店で選んだら、桜の枝にかわいらしく、優しく結びつけます。
「いつも帝都を守ってくれて、ありがとう…」
この桜たちと、帝都に暮らす人々。
そして大切な人の笑顔を守るために、これからもがんばらないと!
誓いを新たに桜を見上げます。
先日、新調したばかりの浴衣に袖を通し、薄明りに映えるよう紅を差す。桜模様の柄もあり、すっと背筋を伸ばしたフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)の佇まいは、正に桜の化身と言ったところだ。
その髪から覗く彼岸桜を目にすれば、桜の精かと見紛うものも居たかも知れない。しかし、天使の翼を持つフィーナはオラトリオで、彼女の持つ天性の美貌や華やかさも、そうそう隠し切れるものではないようだった。
「幻朧桜を飾り付けるお祭りなんて、帝都らしいですね」
もしかしたら、近くに桜の精がいたりするのかな――などと考えながら、草履を鳴らしてそぞろ歩きを始めたフィーナだったが、ちらちらと通りのひとがこちらの様子を窺っていることに気づく。
「あの人、もしかして……」
「えっ、まさかスタアの? 本物?」
そんな囁きが漏れ聞こえてくるところから、フィーナの正体に気づいたのだろう。しかし今の自分は歌手ではなく、ひとりの猟兵として此処にいるのだ。
「さて、どんな布にしようかな……?」
気を取り直し、常と変わらぬ微笑みを浮かべて出店に顔を出せば、近くにいた女学生がぽっと頬を赤らめるのが見えた。もしかしたらフィーナのフアンだったのかも知れないが、それはさておき。
(「こんな風に考えて選ぶなんて……何だか、大切な人に服を贈るみたいですね」)
女性客向けの可愛らしいリボンを、ひとつひとつ手に取って確かめつつ、大切な人にどんな色を贈ろうかと思案する。
「あの人になら、紫色かな……?」
選んだのは、自分の髪の色に近い紫のリボン。それに艶やかなシルクのものなら、桜の樹を傷めたりせずに優しく結ぶことが出来るだろう。
「……はい、完成!」
そんな訳で、可愛らしい蝶々結びを作り終えたフィーナは、ゆったりと辺りの幻朧桜を眺めてみる。色とりどりの布を託された桜たち――その中に、確かに自分の結んだ彩があることを認めると、胸の奥がふんわりあたたかくなった。
「いつも帝都を守ってくれて、ありがとう……」
祭りの提灯に照らされた夜の桜は、可憐でうつくしくもどこか艶やかだ。思えば、フィーナの大切な人――桜の精である彼女も、そんな不思議な美を湛えていた。
(「わたし、がんばりますね」)
――この桜たちと、帝都に暮らす人々。そして、大切な人の笑顔を守るため。紅蓮に染まる帝都の未来を振り払うようにして、フィーナは凛々しく顔を上げた。
大成功
🔵🔵🔵
琴平・琴子
うーん
何が良いでしょう…
市の新しいおリボンを仕立ててもいいのですがお飾り嫌がりますし…
子猫たちのおリボン…と思ってもあの子達いつの間にか居たり居なかったりするし…
それなら自分用に買っちゃってもいいですよね、おリボン
此処は白とか黒とか無難な色を…って思ってしまうのですが
目に付いたのは翠色のリボン
萌ゆる若葉の色は自分の瞳の色を映しているみたいで親近感が湧く
あの幼い頃から私は成長出来てるでしょうか
芽吹いて、蕾を、花咲いて…るとは思わないけれども
いつか自分だけの花を、私色の花を咲かせることができたのなら
私は堂々とあの人達に私は私に成れたよ、ってちゃんと言える気がする
だから何処かで見ててね
王子様、お姫様
――うーん。祭りで賑わう桜たちを横目に、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の愛らしいため息が聞こえてくる。
「何が良いでしょう……」
彩を結ぶ儀式は滞りなく行われているようで、こうして彼女が悩んでいる間にも、辺りの幻朧桜には次々と飾り布が結ばれていくのが見える。
「ここは……市、の新しいおリボンとか」
そう呟いて、傍らに居るはずの愛猫をちらりと見遣るも、お飾りを嫌がる元野良は、飼い主の気配を察して逃げてしまっていた。少し離れた木の根元で、黒いもこもこが「なぁん」と鳴くのが聞こえてきたから、祭りのお客さんに餌をねだっているのかも知れない。
「それがだめなら、子猫たちに……」
気を取り直し、連れてきたはずの猫たちに目を向けたが、そちらもいつの間にやら姿が見えなくなっている。居たり居なかったりの気まぐれは、いつものことなので心配ないけれど――それなら、
「自分用に買っちゃってもいいですよね」
あてどない迷子のようだった琴子の顔に、ふっと決意が滲むと、蝶が羽ばたくような足取りで一歩を踏み出す。無意識に口ずさむのは軽やかな|行進曲《マーチ》で、そんな少女の姿を目にした辺りの人たちは、微笑ましい様子で道を開けてくれた。
(「うん」)
ひとまずの目的地は、リボンを扱っているお店に決めて、浴衣の裾を気にしつつ並木道をゆく。お祭り用に売られているものは値段も手ごろだが、つい白や黒などの無難な色を選ぼうとしたところで、琴子の目が『それ』に吸い寄せられた。
「……あ」
――萌ゆる若葉を思わせる、その彩を見つめてちいさく瞬きをする。
自分の瞳の色を映したような、翠色のリボンに親近感を抱いていると、お店の人も彼女の様子に気づいたようで「お似合いの色ですね」と声を掛けてきた。
「あの、……このおリボンを」
そうして、買い物を済ませた琴子が幻朧桜の傍まで歩いていくと、いつの間にか子猫たちまで戻っていて、一緒に桜を見上げる形になっていた。
(「あの幼い頃から、私は成長出来てるでしょうか」)
リボンを手に、今までとこれからに想いを馳せる。
芽吹いて、蕾を、花咲いて――と、今はそこまでは思わないけれど。いつか自分だけの花を、私色の花を咲かせることができたのならいい、と琴子は願う。
(「……その時に、私は。堂々とあの人達に、“私は私に成れたよ”ってちゃんと言える気がする」)
もうお腹が空いたのか、「なぁん」と市の鳴き声が聞こえてくるなか、琴子は瞳を閉じて「大切な人」を瞼のうらに思い浮かべたのだった。
「だから、何処かで見ててね」
――王子様、お姫様。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、素敵なお祭りですね。
しかも、お祭りに参加するだけで儀式が行われるなんてお得ですね。
ふえ?この儀式が何の儀式かわかってるのかって、
そんなのは当然……あれ?何でしたっけ?
ふええ、アヒルさん怒らないでください。
これだから、お得だと言ってる私は詐欺に引っかかるって、そんなことはないですよ。
それより、布を幻朧桜さんに結び付けましょうね。
私はアヒルさんらしく白のスカーフにしてみました。
アヒルさんはどんなのにしたんですか?
ふえ!?水色のって、今日私はサクラミラージュに合わせた桜の浴衣で来たのに、私のお気に入りの色を分かってくれたんですね。
水色の……鉢巻ですか?
ふええ、なんでこれを選んだんですか!!
「ふわぁ、素敵なお祭りですね……!」
不思議の国に迷い込んだ――訳ではないけれど、フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)を迎え入れてくれたのは、色とりどりの布でおめかしをした幻朧桜だった。
「しかも、お祭りに参加するだけで儀式が行われるなんて、お得なのです」
そんなフリルの装いも祭りにあわせての桜色で、いつもの大きな帽子の代わりはレトロモダンなミニハットだ。レエスがあしらわれた浴衣の袖からは、相棒のガジェットであるアヒルさんがひょこりと顔を出す。
「ふえ? この儀式が何の儀式かわかってるのか……って、」
ふわふわとした足取りで祭りを見て回っている主人を諫めようとでも言うのか、そのままフリルの肩に乗っかったアヒルさんは、つぶらな瞳で「じっ」と彼女を見つめてくる。
「そんなのは当然……あれ?」
桜を散らした銀色の髪を、可愛く揺らしてフリルが答えようとするも――お得な儀式、と言う情報だけが頭を回っていて、それから先が出てこない。
「何でしたっけ? ……って、ふええ、アヒルさん怒らないでくださいっ」
直後、しゃきーん、と音を立てて拷問モードに変形したアヒルさんが、嘴でフリルをつついてお仕置きを始めたところで、ようやく思い出した。
「鎮魂の儀式なのですよ! 幻朧桜さんから霊力を分けて貰って、影朧の力に対抗するのですっ」
一気にそこまで説明すると、やっとアヒルさんの嘴が止まってくれた。ふええ、と可愛らしい悲鳴を上げるフリルに対して、「お得だとしか知らないなら、いつか詐欺に引っかかるぞ」と戒めたのかも知れない。
「そ、そんなことはないですよ……!」
――そんなふたりのやり取りもいつものことなので、それはさておき、祭りの布を幻朧桜に結び付けるとしよう。
「私はアヒルさんらしく、白のスカーフにしてみました。アヒルさんのは……ふえ!?」
と、そこでガジェットが咥えていた色を見て、フリルが歓声をあげた。その水色はいつものフリルが身に着けているお気に入りの色で、今日は桜の浴衣で来たと言うのに、自分の好みをちゃんと分かっていたんだ――と感激してしまったのだけれど。
「……は、鉢巻ですか?」
それは――べらんめえ口調が似合いそうな、ちゃきちゃきの江戸っ子が締めていそうな、豪快なねじり鉢巻きだったのだ。
「ふええ、なんでこれを選んだんですか!!」
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「帝都タワーが此の地を護る要の1つである以上、影朧が狙うのは当然なのでしょうね。要である貴方に、貴方を要とした護国の志を持つ方に、敬意を」
ゆっくり帝都タワーへお辞儀
幻朧桜の花吹雪の顕紋紗を幻朧桜に結び幻朧桜に額をつけて祈る
此の世を護る今上帝が、此れからも|永久に《とこしえに》此の地を御守り下さいますよう
全てが貴方の|掌《たなごころ》の上だとしても
全ては貴方の御心の儘
御命じあれば私は全てを捨てて全てを敵としても貴方に従います
命ある間に貴方に|見える《まみえる》機会は、きっと頂けないのでしょうけれど
額を離し物思う
此の世のオブリビオン・フォーミュラは今上帝の可能性が高いと思うけれど
それでも幻朧桜を生み出したのも今上帝だろうと思うから
もしも本当にオブリビオン・フォーミュラが今上帝や其の血族だったなら
飽いた分世を壊し
フォーミュラで在り続ける為だけに此の世を護っている事になるけれど
其れでも此の世は他の世界よりずっと優しい世界だと思うから
そう言う共存はあっても良いと思う
「何時か…真実が分かりますよう」
帝都電波塔――通称『帝都タワー』と呼ばれる、鋼で造られた世界最大級の鎮守の塔。周囲の寺社や幻朧桜から絶大な加護を受けたこの建造物は、帝都のみならず世界の通信を霊的に守護している。
「このタワーが、此の地を護る要のひとつである以上――」
ふわりと花びらが舞うような、声がした。豊かに波打つ髪は、咲き零れる桜のようだった。
「影朧が狙うのは、当然なのでしょうね」
かすかに花冷えの気配を含んだ、吐息を落として。涼やかな秋の風をその身に受けながら、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は彼方にそびえる鉄塔を静かに見据えていた。
(「まずは、敬意を」)
桜の化身たる装いで、すっと背筋を正した桜花は、帝都タワーの方角へ向けてお辞儀をする。
(「要である貴方に。そして、貴方を要とした護国の志を持つ方に」)
厳かな雰囲気がこの場を支配しているせいか、祭りの喧騒もどこか遠い。
ざぁっ――と、そんな桜花に倣うかのように、辺りの木々がざわめいた。風が吹く、その衣擦れの如き音を響かせて、枯れることなき不滅の桜が一斉にこうべを垂れたようだった。
(「此の世を護る今上帝が、此れからも|永久に《とこしえに》、此の地を御守り下さいますよう――」)
――不死の帝、数百年の御世を誇る大正、巡り廻る生命、桜の癒し。泡沫のように、桜花の脳裏に浮かんでは消えていく、とりとめのない単語。
(「たとえ、全てが貴方の|掌《たなごころ》の上だとしても」)
と、それを軽く振り払ってから、桜花は儀式に相応しい仕草で顕紋紗を取り出した。織られているのは、幻朧桜の花吹雪――それを桜の枝に結びつけると、そっと額を幹につけて祈りを捧げる。
「……全ては、貴方の御心の儘」
鎮め、守る。その霊力が自身に注がれていくのを感じながら、桜花は誓いを言葉にして吐き出した。
「御命じあれば、私は全てを捨てて……全てを敵としても貴方に従います」
――命ある間に貴方に|見える《まみえる》機会は、きっと頂けないのでしょうけれど。そんな、引きずる想いは呑み込んで、額を離して物思う。
空転を続ける思考がふと、此の世界のオブリビオン・フォーミュラは何者なのか、と問いかけてくる。
(「可能性の話でしかないけれど……でも」)
決して口にはするまい、自らの出した答えを胸の裡に秘め、ちいさく深呼吸をしてから顏を上げる。幻朧桜を生み出した存在についても、彼女の中では考えが固まりつつあったが、その『もしも』が現実だったとしたら、恐ろしいことになる。
(「飽いた分世を壊す? ただ在り続けるために此の世を護っている……?」)
ああ、狂っているのは自分か、それとも此の世界なのか。だけど其れでも、此の世は他の世界よりずっと優しい世界だと思うから――それを桜花は、共存として受け入れるのだと思う。
何が正しくて、何が間違っているのか、まだ確かな答えはないけれど。でも――、
「何時か……真実が分かりますよう」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『紅蓮桜花』
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POW : 水をかけたり消火活動をする
SPD : 見物人に被害が出ないように警備する
WIZ : 原因となる影朧の魂を鎮める
イラスト:月都こーや
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――滞りなく、今年の祭りも終わるかに思えた。
桜に結ばれた思い思いの布が、ほのかな灯りに浮かび上がるようにして、秋の微風に揺れている。
と、そこへ、ふと違和感が生じた気がして、瞬きをする。何の色彩も纏わぬ桜が、紛れ込んでいた。
「おや、」
まるで、活動写真のフィルムが急に切り替わるかのようにノイズが走って、辺りの景色がセピア色に変わる。
(「あああああぁぁぁあああ……!!」)
遠くから聞こえてくる悲鳴、逃げ惑うひとびと、火柱となって燃え上がる幻朧桜。どこからか生じた火種が激しい炎となり、帝都の夜空を焦がしていた。
死、死死死死――|死を想え《メメント・モリ》。
嘗て、この地域を襲ったという大火が、目の前で再現されていた。慌てて瞬きを繰り返す。セピア色の景色は色彩を取り戻していたが、紅い炎のいろは鮮やかに、現実にくっきりと焼きついたまま――燃え続けていた。
「桜が、祭りの幻朧桜が――!」
大火の記憶に共鳴した桜たちが次々に炎を噴き上げていく様子を、周囲のひとびとは、ただ見ていることしか出来なかった。
結ばれた布たちが、それぞれの想いを塗り潰され、紅に染まる。
――紅蓮桜花の夜が、幕を開けた。
フィーナ・シェフィールド
幻朧桜が…すぐに火を消さないと!
大切な人が火に包まれたような錯覚を覚えて一瞬、気が動転しますが、すぐに切り替えて消火活動に入ります。
「悲しみを、すべて洗い流して…」
ただの火ではなく、影朧によるものならば、その影響も含めて祓いましょう。
イーリスを持って【悲しみを洗い流す慈しみの雨】の歌を歌い、周辺の空に雨雲を呼んで雨を降らせ、火を消していきます。
破魔の力を込めた雨によって、かつての大火の記憶を浄化。
影朧の魂を鎮めて、火の勢いを弱めていきます。
他の猟兵の皆さんの消火活動の助けになるようであれば破魔の力で火に対する防御力を上げ、雨が妨げになるようであれば適当な所で止めるか、小降りに調整しましょう。
フリル・インレアン
ふええ、幻朧桜が燃えてしまいます。
アヒルさん、どうにかできませんか?
ふえ?こんな時の為にこれを持ってきたって、それはさっきの水色の鉢巻ですよね?
それでどうするんですか?
鉢巻を私が付けて空いた帽子をバケツ代わりにして火を消火するって、私の帽子をそんなことに使わないでください。
それでしたら、アヒルさんが鉢巻を締めて水鉄砲でも出せばいいんですよ!
……えっと、どっちも火を消しきれないでしょうから恋?物語で雨を降らせますね。
軽い眩暈を覚えて額に手を当てた瞬間、フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)の目の前には、痛ましい光景が広がっていた。
「幻朧桜が……!」
――人も、桜も、全てが燃えていた。ノイズが混じるセピア色の光景は、嘗てこの地で起きたという大火の記憶に違いない。
「……あ、ああ」
映像は一瞬のこと。しかし、過去の光景が過ぎ去っても、炎は現実世界に侵蝕を続けていた。恐らくは、影朧のユーベルコヲドによるものだろう――記憶に共鳴した桜たちが、次々に哀しみの炎を噴き上げるなか、フィーナの青の瞳が不安げに揺れ動いた。
炎に包まれた幻朧桜。そこに、大切な人の姿が重なってしまって思わず取り乱しそうになったが、結んだ紫の想いを確かめて大きく深呼吸する。
「今やるべき事を……火を消さないと!」
すぐに気持ちを切り替えたフィーナは、素早く辺りの様子に目を配る。幸い異変が始まってまだ間もないため、人々や幻朧桜――それに祭りの布たちも、上手くやればさほど被害を出さずに済みそうだ。
(「これがただの火ではなく、影朧によるものならば……その影響ごと祓いましょう」)
イーリスと名づけられたマイクを手に、軽く調子を整えてから、フィーナは伸びやかな声を響かせる。
「悲しみを、すべて洗い流して――」
歌うのは、|悲しみを洗い流す慈しみの雨《ノーベンバー・レイン》。その、優しく雨を乞う詞に呼応するかのように、雲が湧いた。
見る間に夜空を覆い、月までをも隠してしまった雨雲からは、ぽつりぽつりと宝石のような雫が落ちてきて、いつしかそれは降り注ぐ慈雨へと変わっていったのだ。
「ふええ、幻朧桜さんが燃えてしまいます……!」
一方のフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)も、突如として起こった異変に悲鳴を上げていたが、お供のアヒルさんが何かを閃いたらしく、しきりにフリルを突っついていた。
「どうにかできませんか……って、ふぇ?」
こんな時の為のコレだ――と言わんばかりに、その嘴が咥えていたのは、祭りで桜に結ぼうとした水色の鉢巻きだ。
「確かに、さっき『何でコレを』って突っこんでから、そのままになっていましたけど……どうするんですか?」
フリルの好きな色をひらひらさせつつ、さらにアヒルさんのガジェットが懐から取り出したのは、彼女が普段かぶっている大きな帽子。一体どこに仕舞っていたのだろう、とそれはさて置き。
「えっと、この鉢巻を私が付けて、空いた帽子をバケツ代わりにして火を消火する……?」
――それでも何となく、彼がやらせようとしていることを理解したフリルは、そこで大きくため息を吐くと。
「……って、私の帽子をそんなことに使わないでください! それでしたら、アヒルさんが鉢巻を締めて水鉄砲でも出せばいいんですよ!」
アヒルさんから大事な帽子を奪い返そうと手を伸ばしたところで、先ほどから肌を濡らしているものの正体に気づいたのだった。
「ふわぁ、雨です!」
魔を祓い、邪気を滅する力を秘めた雨は、フィーナの歌が生み出したものだ。かつての大火の記憶を浄化するように、その場にいる者たちを炎から守るように、あくまでも穏やかに降り注ぐ雨。
「涙が消え去るまで、降り続いて――」
天上の歌声がうつくしく辺りに響けば、さらに火の勢いは弱まっていく。影朧の影響を祓い、哀しみの共鳴を洗い流していく、まさにそれは恵みの雨だった。
――そんな雨を見上げるひとりと一羽は、どちらからともなく顏を見合わせてから、そっと頷いた。
「……えっと、どっちも火を消しきれないでしょうから、私たちも雨を降らせましょうか」
雨を降らせるとなれば、フリルにも丁度いい能力がある。突然の大雨に、雨宿りがもたらすものと言えば、そう――恋物語の始まりだ。
「雨、止みませんね。……って、ふえええ!!」
直後、ざあああああ、と激しい音を立てて降ってきた雨のお陰で、辺りでしつこく燃えていた炎も一瞬で掻き消えてくれたのだけれど。
「雨、強すぎませんか――!」
――これは、恋? 物語と言うべきか、もうウォーターハザードだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
下原・知恵(サポート)
「話は聴かせてもらった。つまり……ここは|戦場《ジャングル》だな!」
◆口調
・一人称は俺、二人称はお前
・ハードボイルド調
◆癖・性質
・公正と平等を重んじ、己を厳しく律する理想主義者
・自分の現況を何かにつけてジャングルとこじつけたがる
◆行動傾向
・己を顧みず同志の安全と任務遂行を優先する(秩序/中立)
・UDC由来の人工心臓が巨大ゴリラの変身能力をもたらす
・ジャングルでの戦闘経験から過酷な環境を耐え抜く屈強な精神力と意表を突くゲリラ戦術を体得している
・とりあえず筋力で解決を試みる。力こそパワー
・手軽に効率よく栄養補給できるバナナは下原の必需品
・生真面目がたたり、意図せずとぼけた言動や態度をとることがある
陰日向・千明(サポート)
「正直ダルいんスけど、なんかほっとけないんで……」
◆口調
・一人称は「うち」、二人称は「あんた」、くだけた敬語をつかう
◆性質・特技
・インドア派で怠惰
・雨女
◆行動傾向
・特権階級者の車に轢かれた恨みで黄泉還った女子高生の悪霊。竜神の力と復讐心から受肉を果たす
・利己主義にして合理主義。その世界の秩序や慣習にとらわれない傾向にあるが、良心がいたむのかなんだかんだで面倒見はよい
・霊界通信販売サービス「天孫(あまそん)」でさまざまな道具を配送召喚できる神器スマホは異世界の必需品
・一度死んだ経験から傷付くことへの恐怖心が鈍っており、あえて窮地に飛び込むフットワークの軽さを発揮することだろう
「話は聴かせてもらった――」
紅蓮の桜花が狂い咲く戦場――そこへ、やたらと渋くて頼もしい声の主が、助っ人っぽい決め台詞とともに乗り込んできた。
「つまり……ここは|戦場《ジャングル》だな!」
――ついでに言うと、今は森林火災の真っ最中といった感じだろうか。
不敵に笑う、下原・知恵(ゴリラのゲリラ・f35109)は葉巻を燻らした後、それを燃え尽きた灰と一緒に携帯灰皿へねじ込んだ。タバコの火が桜に燃え移ったりでもしたら大変だからなと、こんな時でもマナーを忘れない知恵である。
「まー、うちは正直ダルいんスけど」
と、そんな彼の近くでスマホをぽちぽち弄っている陰日向・千明(きさらぎ市の悪霊・f35116)のほうは、アンニュイさを滲ませてため息を吐いているが、よくよく見れば周囲の情報を確認していたらしい。避難経路を割り出したところで、すっと顏を上げる。
「なんかほっとけないんで……って、何スか」
「バナナだ。栄養補給をしておかないと、いざと言う時に力が出ないからな」
――えっ、何でだろう。ゴリラみたいなおっさんがこっちにバナナを手渡してきた。つい受け取ってしまった千明がもぐもぐ言わせていると、頃合いだったらしく竜神の加護が発動し、一気に辺りを包んでいった。
「あー、降ってきたかー……こういう時には有難いっスけどね」
千明の竜神――カゲヒナタさまの降らせる雨は、敵へは呪詛を、味方へは癒しをもたらす雷混じりの激しい雨だ。
みるみる内に鎮火していく炎。それとパニックになっていた人々も落ち着きを取り戻したところで、怪我人が出ないよう警護を行っていた知恵が、天を仰いだ。
「まさにゴリラ――じゃない、ゲリラ豪雨だな」
「その……確かに、癒し効果はあるんスけどね」
――気のせいか、やたらに雨が粘っこかった。いや、確かジャングルも湿度が高いし、このくらいの雨になら知恵も降られたことがあった、かも知れない。
「まぁいい、あとは避難の誘導に専念すればいいか」
と、そこで、崩れた屋台が道を塞いでいるのを目にした彼は、とんと己の胸を叩く。
ここはゴリラの力に頼るとしよう――人工心臓に秘められた能力を解放し、瞬く間に巨大ゴリラに変身した知恵は、ドラミングからの連続殺人張り手をかまして雄叫びをあげる。
「ウッホホホォォォウ! 力こそパワー!!」
見事、邪魔な障害物を撤去した彼の元へ、粘つく雨がスコールの如く降り注いでいた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御園・桜花
「幻朧桜が、火が、あぁああぁああ!」
紅蓮桜花に共鳴して往来の真ん中で狂乱
逃げ惑う群衆にぶつかられ転がり踏まれ正気を取り戻す
「未だ、燃えていません…未だ間に合います!」
UC「精霊覚醒・桜」
上空飛行し高速・多重詠唱で水の精霊と氷の精霊召喚
燃え盛る紅蓮桜花に水球や氷弾の属性攻撃で消火を試みる
「桜學府所属のユーベルコヲド使いです!救助に来ました!」
逃げ遅れた人を見掛けたら飛び込んで抱え燃え広がっていない空き地迄ピストン輸送
「今上帝の住まう帝都の焼き討ちなんて、絶対許しません…完膚なきまで叩きのめして、心からの転生を望むようにして差し上げますとも!」
空中から水球や氷弾の消火続けながら泣き笑う
――燃えている。あれは赤だ。赤が赤赤熱いあつい苦しい紅、紅紅紅!!
「幻朧桜が、火が、あぁああぁああ!」
気がつけば、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の魂は、辺りの幻朧桜と共鳴していた。
鎮魂の儀式によって、彼らの霊力を分け与えられた影響もあったのかも知れない。己の皮膚が焼けていく苦痛、帝都の人々が抱いた怒りと哀しみ、それにも増して彼らを癒せない、桜たちの無念さが彼女の心を塗り潰していき、声を枯らして叫ぶことしか出来なかった。
「ああああぁぁあ、ああ――!」
普段のおっとりとした表情を、絶望と苦痛で歪ませたまま、桜花はなりふり構わず往来の真ん中で絶叫していた。このままだったら、幻朧桜と共鳴し過ぎて狂気に陥ってしまうだろう。しかし、周囲の混乱が幸いした。
「……っ、ううっ」
逃げ惑う群衆にぶつかられて、地面に転がる――そこを誰かの足に踏まれてようやく、桜花は正気を取り戻した。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、周囲を見る。大火の記憶に引きずられていた心が幾分落ち着き、その目には先ほど結んだ、桜吹雪の顕紋紗が飛び込んでくる。
「未だ、燃えていません……」
火の粉が辺りに飛び散るなかでも、その彩は静かに揺れていた。ぽつり、ぽつりと降り始めた優しい雨が、頬の涙を拭ってくれると、桜花の瞳に凛とした意志の光が宿っていく。
「未だ、間に合います!」
――決意を言葉にすると同時に、渦巻く桜吹雪が桜花を包み込んだ。
(「呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」)
精霊覚醒・桜――桜花精として覚醒した彼女は、一息で空へ舞い上がると、精霊召喚の詠唱を立て続けに行い、水と氷の弾丸を次々に炎目掛けて撃ち込んでいった。
「桜學府所属のユーベルコヲド使いです! 救助に来ました!」
逃げ遅れた人々が居ないか、あちこちに目を配りながら、迅速に消火活動を行う桜花。しかし、冷静さを取り戻したかに見えたその心の裡では、この事件を引き起こした影朧への憎悪が、激しく燃え盛っていたのだった。
「今上帝の住まう帝都の焼き討ちなんて、絶対許しません……」
水球と氷弾を交互に操る桜花の貌が、奇妙な泣き笑いのかたちに歪んで、あやうげな狂気を滲ませる。
「完膚なきまで叩きのめして、心からの転生を望むようにして差し上げますとも!」
大成功
🔵🔵🔵
アトシュ・スカーレット(サポート)
性格
悪ガキから少し成長したが、やっぱり戦うのは好き
大人に見られるように見た目的にも精神的にも背伸びしている
目の前で助けられる人がいるなら積極的に救おうとする
口調は「〜だな。」など男性的
戦闘
【呪詛(腐敗)】と「棘」を組み合わせ、万物を強引に腐敗させる方法をついに編み出した
前衛も後衛もやれる万能型だが、前衛の方が好き
複数の武器を同時に操ることも可能
高速戦闘も力任せの戦闘も状況に応じて使い分ける
(装備していれば)キャバリアにも対応可
光や聖属性は使えません
非戦闘
聞き耳などを駆使した情報収集を中心とする
化術で動物に化けて偵察することも
――呪詛の残り香、のようなものを嗅ぎ取った気がして、アトシュ・スカーレット(神擬の人擬・f00811)は微かに眉を顰めた。
(「これは……影朧のものか」)
付近の幻朧桜から発せられる、清浄な霊気とはまるで違う。むしろそれは、自身の持つ異質な力に近いような気さえして、アトシュは自嘲ぎみにため息を吐いた。
浄化の力が溢れている桜の聖域は、「棘」を喰らう身にはやや酷だったが、気がつけば彼は駆け出していた。まだ炎を上げている幻朧桜に向かって、必死にすがりつく子どもを抱きかかえると、襲いかかる炎へ手を翳す。
(「崩れ去れ……!」)
――腐敗の呪詛、そして「棘」。法則を書き換え、万物を強引に腐敗させるアトシュの能力は、炎という現象にすら作用して、「腐らせる」のだ。
「あっ……!」
驚くその子の目の前で、たちまち彩を失った炎がくすんで掻き消えていく。その、魔法のような力を目にした子どもは暫く呆然としていたが、ややあってから興奮した様子でアトシュに礼を述べた。
「すごい! お兄ちゃん、桜學府の人!?」
「……いや、」
たまたま現場に駆け付けただけだ、とアトシュが答えようとしたところで、その子は大切そうにハンケチを抱きしめて、泣きそうな顔で言う。
「燃えなくてよかった! ありがとう!」
自分の身も顧みず炎に向かって行ったのは、祭りで結んだ布を守ろうとしてのことだったらしい。よほど大切な相手に贈ろうとしたのだろうが、危ない所だった――そんな彼を軽く嗜めつつ、アトシュは自身の黒い髪を所在無さげに撫でた。
(「……お兄ちゃん、か」)
今だって救いたがりの癖が出て、つい咄嗟に動いてしまったのだけれど。この子にとって、自分は頼れる大人に見えているのだろうか。だとすれば――、
(「悪ガキの頃からオレも、少しは成長できているのかも知れないな」)
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『彼岸桜』
|
POW : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 【フレーム間干渉型UC】サクラメント・モリ
【各章に参加した猟兵達の分身を再現する。こ】【の分身は各章で猟兵達が使用した装備・技能】【・UC・戦法を使用し、複数人で連係する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:礎たちつ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
再現された大火を鎮めてから、影朧の向かった帝都タワーへ急行する。
彼方の空がうっすらと赤く染まっていた。タワーの鉄骨には、すでに影朧の根が蛇のごとく這い回り、天を目指そうとしきりに喘いでいた。
「こいつ、か……!」
祭りの時の違和感。そこに紛れ込んでいた、何の色彩も纏わぬ桜の正体が「これ」だった。
焼け落ちて炭と化していたその身は、過去の記憶である炎を纏い、次から次へと紅蓮の花びらを舞わせて闇夜を焦がす。
――|死を想え《メメント・モリ》、と辺りの空気が震える。
その影朧は、大火で消失した桜であった。余りにも烈しい感情に晒されたせいだろうか、それは無差別に過去を再現し、攻撃を行う存在と化していた。
(「ねえ、」)
――サクラメント・モリ。追いすがる猟兵たちへ向けて、「過去」が襲いかかってくる。時空に干渉し、いつかの誰かが笑いながら、彼岸桜とともに炎に包まれた腕を伸ばしてきた。
(「一緒に、死んで?」)
しかし、「それ」がこちらを抱きしめようとしたところで、辺りに色彩が弾けた。ああ、あの彩は覚えている、忘れたりなど、するものか――!
「……死には、しない」
幻朧桜の加護だった。鎮魂の祈りが、祭りで結ばれた彩が、影朧の干渉を断ち切っていく。
「この彩を、炎に包ませたりは、しない――!」
※「第1章に参加して霊力を得ている」または「タワーの鉄骨を飛び回り、上手く敵に応戦する」プレイングにはボーナスがつきます。
アニマ・ドラウグ
私自身は彩に託した想いなど無い
だが、生者らの彩が失われていい道理もない
さあ、化け物同士殺りあおう
お前は奪う者として
私は守る者として
『火炎耐性』『オーラ防御』で身を守りつつ
小柄な体格を活かし
『空中浮遊』で入り組んだ鉄骨の周りを飛び回り敵を翻弄
もっとも、既に死んでいる私に
敵がどれほど注意を向けてくれるかわからんが
やることは変わらない
其の樹の幹に竜爪より放った『斬撃波』の跡を刻むのみ
くれてやろう【連鎖する呪い】を
例えば、大火の代償で生まれた雲による大雨
或いは、操る分身らによる流れ弾
其の傷跡はけして癒えぬ
抱えて存在し続けられる程、お前は強くないだろう?
お前は死しか想えない
他者を想える生者らと違ってな
――鉄骨に絡みついた彼岸桜が、獲物を見つけた悦びにぶるりと震える。
狂い咲く花びらは、紅蓮の炎と化していた。無残にひび割れ、半ば炭と化したその樹皮が、崩れ落ちるのも厭わないと言うように――強大な力を持つ影朧は、アニマ・ドラウグ(御霊竜・f41506)に向けて手を伸ばす。
「随分な歓迎だな」
しかし、その枝から延ばされた紅蓮の炎を、アニマは纏う蒼炎で相殺した。轟、と揺らめく陽炎を羽ばたきひとつで掻き消すと、そのまま彼女は一気にタワーの上空へ飛び上がる。
「……既に私は、死んでいると言うのに」
小柄な体躯は、デウスエクスの不死性を捨てた証だった。しかし、死にきれなかったアニマは悪霊と化し、今もこうして現世に留まっている――重力に逆らうように、異界の空を舞っている。
(「私自身は、彩に託した想いなど無い」)
見下ろす帝都の灯りは、死闘を繰り広げるなかでも普段と変わらないように見えた。ひとびとの営みが生み出す灯、そのどこかで、彩結びの祭りも行われていたのだろう。
(「……だが、生者らの彩が失われていい道理もない」)
――いずれにせよ、自分のやることは変わらない。
アニマの瞳に静かな炎が灯り、戒めの鎖が冷たい音を鳴らす。託した想いが無くても、そこには確かな彩がある。覚悟を決めたアニマは、入り組んだ鉄骨のなかに身を滑らせると、影朧の動きを誘うべく咆哮した。
「さあ、化け物同士殺りあおう――」
身をくねらせるように、敵はどこまでも枝を伸ばして彼女を追いかけてくる。身体を支える根のお陰で、多少無理な体勢でも問題ないと思ったのだろうが――直後、無防備に晒されたその幹目掛けて、アニマは降魔の爪を振り下ろしていた。
「くれてやろう、『連鎖する呪い』を!」
斬撃派となって刻まれた爪痕から、立ち昇っていくのは呪詛の渦。その、決して癒えぬ傷がもたらす不慮の事故へ、アニマが思いを巡らせたところで空が翳った。
「……ふむ」
――例えばそれは、大火の代償で生まれた雲による大雨。或いは、操る分身らによる流れ弾か。
「だが、抱えて存在し続けられる程、お前は強くないだろう?」
雷が轟く音が聞こえてくるなかで、奪う者と守る者――それぞれの立場に立った異形が、静かに向き合う。
“今”だ、とアニマが思った瞬間、耳をつんざくような轟音がして、辺りが真っ白に染まった。落雷が、彼岸桜に直撃したらしい。
「お前は死しか想えない。……他者を想える生者らと違って、な」
大成功
🔵🔵🔵
琴平・琴子
燃えるのは心だけでよろしいのに
わざわざ体を燃やすことなんてしなくともいいのに
何が貴方をそうさせたの?何が貴方を燃やさせるの?
ひとりで燃ゆるならばいい
けれどもこれ以上誰かに、何かに被害が及ぶようなら
私はそれを鎮めるだけ
Piacevoleを取り出して注ぐは魔力の水
――沈めて、芽吹いて、命を咲かせましょう
昔の私だったら草木すら芽吹かせることはできなかったでしょう
でも今は違う
耳を澄まして、傾けて、何が欲しいのか、何をどうすればいいのか
―—咲かすことができるもの
一人だけ何もない植木鉢を抱えていた頃とは違うの
髪に揺れるリボンの色と同じ茨を芽吹かせ纏わせ
沈静化していく炎を見送る
この彩も最初は綺麗だったのにね
ジゼル・サンドル
消火活動には出遅れてしまったが、お祭りには参加しているから霊力は得られているはずだ。
想いを結ぶ彩を燃やさせはしないさ。
お祭りで得た霊力で【霊的防護】、先ほど結んだ青碧色の彩を纏い【オーラ防御】。【火炎耐性】を得る。
やはり涼しげな海色の親友の|彩《いろ》は炎の熱を鎮めてくれるようでありがたいな。
声と喉を霊力で熱波から守りつつ指定UC発動。
大火を再現してくる相手に手加減はしていられないから加減はなしで全力攻撃しつつも歌声に乗せて語りかける。
君は大火で燃えた桜だったのか…熱かっただろうな。でも心中は駄目だ。皆大切な人と生きたいのだから。
君に心があるのなら、もう苦しい過去の再現は終わりにしよう?
炎に包まれつつある帝都タワーへ、臆せず飛び込んでいく少女たちがいた。鉄骨に絡まる桜の根を追いかけ、辺りに舞い上がる火の粉をものともせず、纏う鮮やかな浴衣が夜風にひるがえる。
「……消火活動には出遅れてしまったが」
灰色の髪をゆるく振って、影朧の元へ向かうジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)の輪郭は、今や淡い光を放っていた。
その青碧色には見覚えがあった。祭りの時に結んだスカアフの彩だ――大好きな親友を思い浮かべつつジゼルが深呼吸すると、ちりちりと頬を炙る熱がすっと収まっていくような心地がした。
「大丈夫だ、想いを結ぶ|彩《いろ》を燃やさせはしないさ」
覚悟を決め、タワーの階段を小走りに駆け上がると、行く手を阻む炎がたちまち青碧色の光に呑まれて消えていく。やはりその涼しげな海色は、炎の厄災からジゼルを護ってくれたようだ。
(「……ありがたいな」)
これも、帝都を守護する霊力のたまものか。炎と熱でいつ崩れてもおかしくない鉄骨だが、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の歩みを妨げることはなく、響く足音はあくまで軽やかだった。
「燃えるのは、心だけでよろしいのに」
――かん、かん、と鉄骨に響くその音は半鐘のよう。少女の髪を飾るリボンが揺れるのにあわせて、辺りに舞う紅蓮の花びらが消えていく。加護の力だろうか。したたる緑の、土混じりの甘く湿った匂いがどこからか漂ってきて、階段を塞いでいた桜の木の根が悲鳴をあげるようにして後ずさった。
「わざわざ体を燃やすことなんて……しなくともいいのに」
かんっ――と最後の一段をのぼり終えると、タワーの展望台に辿り着いた。ひび割れた窓ガラスの向こうで息を潜める影朧は、琴子たちの様子を窺っているようだ。
「何が貴方をそうさせたの? 何が貴方を燃やさせるの?」
真っ直ぐな瞳で静かに問うが、彼岸桜からは何も伝わってこない。
――意思は無いのだ、と琴子は思った。あの燃えるような絶望や無念の|彩《いろ》は、全て過去の再現でしかなく、それだって影朧自身が抱いていたものでは無いのかもしれない。
「……ひとりで燃ゆるならばいい」
でも。これ以上誰かに、何かに被害が及ぶようならば。
白薔薇が寄り添う如雨露を取り出した琴子が、霊力をこめた水を注ぐ。影朧が再現する『過去』――押し寄せる業火の惨劇目掛けて、煌めく雫の雨が、茨の腕を芽吹かせていく。
「私はそれを、鎮めるだけ」
――沈めて、芽吹いて、命を咲かせていく。昔の自分だったら、草木すら芽吹かせることはできなかっただろうけど、今は違う。
(「耳を澄まして、傾けて、何が欲しいのか、何をどうすればいいのか――」)
その優しい雨を見上げ、馥郁たる花の香りを一杯に吸い込んだジゼルもまた、喉の調子を確かめるとユーベルコヲドを紡いだ。
「悪いが、加減はなしだ」
ずっと熱気に充てられていたが、歌うのに支障はない。『歌姫探偵』の二つ名に相応しい、|想い響く詠唱《センティメント・アリア》を披露してフィナーレと行こう。
(「君は大火で燃えた桜だったのか……熱かっただろうな、でも」)
自らの想いを乗せ、全力で歌い上げるアリアが影朧を揺さぶる。彼自身ももう覚えていない、傷ついた魂を深淵に見出し、そこへそっと癒しの手を差し伸べるように。
(「心中は駄目だ。皆大切な人と生きたいのだから」)
花が咲く。それは一人きりで、何もない植木鉢を抱えていた頃とは違う――誰かと結んだ、確かな|彩《いろ》をした、琴子の花だった。
(「君に心があるのなら、もう――」)
――もう、苦しい過去の再現は終わりにしよう?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、これがお得な儀式の加護なんですね。
消火活動を頑張りましょう。
ふえ?あれは私達ですか?
ふええ、私達がここまで使ってきたものを使ってくるなんて、大変じゃないですか!
ふえ?アヒルさんは余裕そうですけど、どうするんですか?
ふえ?ここまで私達がしてきた事を思い出してみろって、……あれ?お祭りに参加して火事を消して、全然戦闘らしいことはしてませんね。
ふえ?それに浴衣を来てきたからよく燃えるって。
ふええ、向こうの私の浴衣に火が燃え移ってます。
慌てて恋?物語で火を消してって、本当に私の分身ですか?
信じられません。
私はもっとしっかりしている筈です。
その証拠にお洗濯の魔法で強化効果は落としますよ。
「ふわぁ……」
影朧が操るユーベルコヲド――サクラメント・モリの干渉を跳ね除けるように、水色の霊力がフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)を包み、さざ波となって辺りに広がる。
「これが、お得な儀式の加護なんですね」
目の前で再現されている大火の光景も、どこか現実感が無く精彩を欠いている、と言ったところ。これなら、消火活動を行うことで敵を封殺できそうだと、お供のアヒルさんも判断したらしい。早く取り掛かるぞと言わんばかりに、びしっと鉢巻きを締めてフリルをせっつく。
「はい、頑張りましょう……って、ふぇ?」
――と、彼岸桜の前に立ちはだかる炎の壁、そこに浮かび上がった影に見覚えがあった。
「あれは私達ですか?」
炎に焼かれるようにゆらゆら漂うその影は、浴衣を着てしきりに身悶えしているように見える。てっきり火事に苦しんでいるのかと思ったが、よく見ればフリルの影はアヒルさんの影に突かれて「ふええ」と悲鳴をあげているようだった。
「ふええ、痛そうです……!」
自分のことのように痛みを感じ、ぎゅっと身をすくめてしまうフリルだったが、あれは過去の自分たちだ。今までに使った能力を再現してくるとなれば、大変な戦いになりそうだと思ったのだけど、彼女の肩に乗ったアヒルさんは余裕の表情だった。
「ふえ? どうするんですか? ……え、ここまで私達がしてきた事を思い出してみろって?」
アヒルさんの助言に従い、今までのことを思い返してみるフリル。まずお祭りに参加して「詐欺に引っかかるぞ」と突っ込まれて、それから火事に巻き込まれて、どうやって消火するかで揉めたりして――、
「……あれ? 全然戦闘らしいことはしてませんね」
そればかりか、浴衣を着てきたことも影響したらしい。そのうち本当にフリルの影に火が燃え移ってしまい、敵がわたわたしている。
「あ、向こうが火を消そうとしてます……って、ふええ!?」
――が、あろうことかフリルの影は、消火に使った|ユーベルコヲド《恋? 物語》で雨を降らせ、自分で自分の能力を掻き消してしまったのだった。
「……本当に私の分身ですか? 信じられませんっ」
こちらが何かをする前に、炎とともに消えていった影を呆然と見つめ、慌ててフリルは胸を張る。
「本物の私は、もっとしっかりしている筈ですよ!」
その証拠に、そう――|お洗濯の魔法《ドライクリーニング》を使って、辺りに残留した効果をしっかりはたき落としたフリルなのだった。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「貴方はきっと…未来の私の形の一つ、なのでしょう」
死を見送り
一人死ぬのはそんなに寂しかったですか?
転生に執着する私は
幻朧桜になれなければ
きっと影朧になるだろう
転生を促す為に
今上帝の御尊顔を拝する為に
帝都で人を殺すのだ
「次は共に手を取り逝く為に。転生して、もう一度此の世に戻っていらっしゃい」
UC「侵食・花霞」
自身を花霞に変え全ての彼岸桜に纏わり付く
物理攻撃無効
通電物質内移動
雷鳴電撃の能力により木々の中まで入り込み中から電撃で木々を焼き尽くす
「雷の…雷火に焼かれた地は豊穣になると聞きます。貴方自身を糧に、転生を…此の地にまた、生まれ変わっていらっしゃい」
木々を撫でるように纏わり付き鎮魂歌歌い送る
――|死を想え《メメント・モリ》。それは、死がすぐ隣にある現実を受け入れるための、救いの言葉。
その裏側に隠された、影朧の声なき叫びをすくい取った御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、桜色の髪をなびかせて鉄塔に舞い降りた。
「一人死ぬのは、そんなに寂しかったですか?」
――死ぬのならせめて、誰かとともに。それが影朧の、焼け落ちた桜の、最期に願ったことだったのかも知れない。過去を再現し、帝都タワーに攻めのぼり、望む死を得ようと業火を生んで。
(「……心中を」)
しかし、炎はすでに収まりつつある。桜花は静かに、その死を見送るだけだ。
今や数多の|彩《いろ》が、影朧の周りを取り巻いていた。そのなかに、自身の紡いだものが確かにあるのを確かめてから、桜花は唇を開く。
「貴方はきっと……未来の私の形の一つ、なのでしょう」
無残な炭と化した桜の幹、そこへ手を触れると同時に、桜花の指先が花びらに包まれた。まるで世界に溶けていくように、彼女の輪郭が曖昧になる。花吹雪に変わって、辺りを舞う。
「次は共に手を取り逝く為に。……転生して、もう一度此の世に戻っていらっしゃい」
稲妻の如く翻る花びらは、いつしか花霞と化していた。彼岸桜に纏わりついた花霞は、じわじわと木々の内側まで入り込み、愛撫するかの如く震えると、眩い光を放って次々に弾けていく。
「雷の……雷火に焼かれた地は、豊穣になると聞きます」
――侵食・花霞。無数の電撃に打たれた彼岸桜が、鉄骨から剥がれ落ちるようにして、力を失っていく。
「貴方自身を糧に、転生を――」
木々に寄り添い、労わるように纏わりつきながら、花霞となった桜花は鎮魂歌をうたい続けていた。
「此の地にまた、生まれ変わっていらっしゃい」
だけど。転生に執着する彼女自身は、一体どうなるのだろう。桜から生まれ、桜へ還りたいと願いつつ、それが叶わぬとなれば。
(「きっと、私は」)
転生を促す為に。今上帝の御尊顔を拝する為に。
――その、花霞に混じった暗い翳に、恐らく彼女自身も気づいてはいまい。
(「帝都で人を、殺すのだろう」)
大成功
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フィーナ・シェフィールド
彼岸桜。わたしの髪に咲く花と同じ、彼岸の頃に咲く桜。
わたしは桜の精ではないけれど、他人事とはどうしても思えません。
紫色のリボンに込めた誓いを思い出しながら、影朧に立ち向かいます。
彼岸桜の再現した猟兵の姿を見て警戒します。味方なら頼もしいですけど…
わたしの分身の使う『慈しみの雨』は範囲へのダメージと仲間の強化。破魔の力で傷つくことはないでしょうけど…人によるかな?分身が強化されるのはちょっとまずいかも。
シュッツエンゲルを展開してオーラ防御の結界を張って攻撃に備えつつ、みなさんに警戒を呼び掛けましょう。
「もうこれ以上誰も傷つけさせません。そして還します、幻朧桜の元へ!」
白い翼を羽ばたかせながらイーリスを両手に持って彼岸桜の正面に向き合い、猟兵の分身と彼岸桜の存在そのものに対して『輪廻の唄』を発動。
大火に消えた桜を鎮め、癒され、転生して欲しいとの祈りを、破魔と浄化の歌に乗せて届けます。
「いつかまた、この帝都で…」
やがて彼岸桜が消えて幻朧桜の元へ還っていっても、無事の転生を願って歌い続けます。
――彼岸桜。その名の通り、彼岸の頃に咲く桜だ。
他の桜たちよりひと足先に花を咲かせる、春のぬくもりを包んだような淡い花びらは、フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)の髪に咲くものと同じだった。
(「……わたしは、桜の精ではないけれど」)
神秘の花を咲かせ、天使の翼を持つ|御使い《オラトリオ》であるフィーナだったが、どうしても他人事とは思えなかった。
この世界で生まれ育ったのだ。桜の持つ癒しの力や転生という概念にも馴染んでいるし、彼女の歌声もしばしば、桜の神秘やうつくしさに喩えられたから。
仲間たちの奮闘によって、帝都タワーの炎は収まりつつあった。鉄骨に絡みついた影朧の根も、次々に崩壊してかたちを失っていくのが見える。
(「でも……まだ、終わっていません」)
――燐光に包まれ、花びらのように散っていくその姿は、フィーナに救いを予感させたが、なおも影朧は抗っていた。消える間際の蝋燭の灯が、ひと際激しく燃え上がるように、最後に残った桜の幹が決死のサクラメント・モリをフィーナにぶつける。
「―――っ!」
空間が歪み、辺りの景色がセピア色に変わる。すると、そのなかに現れた浴衣姿のフィーナが、哀しみを洗い流すように雨の歌をうたいはじめた。
「味方なら、頼もしいですけれどね……」
敵として現れた影が使うのならば、破魔の力を秘めた歌も、影朧を強化させてしまうのだ。しかし、こちらにだって加護はある。祭りの時、紫色のリボンに込めた誓いを思い出しながら、フィーナは「過去」に立ち向かう。
(「どうか、わたしに力を貸して下さい――」)
――思い浮かべたのは大切な人。屍誰桜の、桜の精。
勢いを盛り返していく炎に向かい、シュッツエンゲルのバリアを展開したフィーナは、そのまま白い翼を羽ばたかせると、一気に彼岸桜の近くまで距離を詰めた。
「もうこれ以上、誰も傷つけさせません!」
正面に向き合い、両手に持った楽器のボリュームを最大まで上げる。菖蒲の名を持つマイクに魂を乗せ、フィーナは輪廻の唄を高らかにうたう。
『運命が微笑みかけてくれたら――』
それは彼岸桜の、影朧としての存在そのものを揺さぶる、ソング・オブ・リィンカーネーション。大火に消えた桜を鎮め、癒され、転生して欲しいとの彼女の祈りが強ければ強いほど、その歌は届く。傷ついた魂の元へ、春を届けるように。
『いつかまた、きっと巡り合えるわ』
瞬く間に分身が掻き消えて、最後に残った彼岸桜の欠片も、花びらのように空へ散った。きっと幻朧桜の元へ還って、転生できるのだろう。その時はもしかしたら、彼岸の頃なのかも知れない。
「いつかまた、この帝都で……」
繰り返すリフレインは輪廻のようで、その歌声はいつまでも、いつまでも鉄塔に響いていた。
――焼け落ちた桜が再び芽吹く、その時を願いながら。
大成功
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