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待ち続けた十三夜

#サムライエンパイア #戦後 #【Q】 #宿敵撃破

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 月の神様に豊作を願う十五夜。
 その約1月後に、秋の収穫に感謝をするのが、十三夜。
 サムライエンパイアにある、美しい月を愛でる風習に。
 さらり、と1つの影が訪れる。
 ――ずっとずっと、待っていた。
 雪の結晶にも花柄にも見える紋様が散るのは、黒い着物。
 長く真っ直ぐな銀髪を覆うのは、黒いレースのヴェール。
 ゆるりと進む足には、黒い足袋と黒い草履。
 闇に溶けてしまいそうな黒の中で、白く艶やかな肌が際立ち。
 そして、慈しみを湛えた薄青の瞳が、優しく微笑む。
 ――愛しい、大切な……誰を?
 浮かぶ疑問。少しだけ傾ぐ首。
 ――私は、何を待っていた?
 答えはもう、失われてしまった。
 覚えていることはできなかった。
 それでも、影は。
 ――ずっとずっと、待っている。
 何を待つのかも、分からないまま。

「どうしてやったらいいのか、私にもよく分からないんだがね」
 説明しながら首を傾げ、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は微妙な苦笑を見せた。
「サムライエンパイアのとある村である、十三夜の小さな祭り。
 そこにオブリビオンが現れると分かったよ」
 要点としてはこれだけ。祭りにオブリビオン。よくある依頼ではある。
 しかし夏梅が困惑しているのは。
「……そのオブリビオンが何をしに現れるのかがさっぱりなんだがね」
 人々を襲うでもなく、祭りを邪魔するでもなく。
 ただ、現れるだけのオブリビオン。
 分かっているのは『待っている』ということだけ、だという。
 誰をなのか、何をなのかは、分からない。
 ただただ『待っている』らしい。
 ゆえに、十三夜の月見祭りを心待ちにしていた村人達の思いに呼び寄せられたのか。
 現れる理由すらも、推測でしかないのだけれど。
「万が一、何かあってもいけないからね。
 その祭りに行ってほしい」
 オブリビオンをどうするかは、現地での判断に任せることになる。
 人々を襲わないなら、そのまま見過ごしてもいいし。
 今後の憂いを絶つために、問答無用で倒してもいい。
 その『待っている』という『心』に寄り添ってみるのも一手かもしれない。
 どうするにせよ。
「まずは祭りを楽しんできておくれよ」
 待ち望んだからこそ楽しいのが祭りなのだからと。
 夏梅は苦笑して、猟兵達を送り出した。


佐和
 こんにちは。サワです。
 十五夜と十三夜で二夜の月と呼ぶんだとか。

 第1章は小さな村の月見祭りです。
 十三夜なので、空には満月より少し欠けた月が輝いています。晴天です。
 屋台というほどのものではありませんが、家の軒先に秋の味覚がずらり。
 栗に葡萄、豆に芋と、収穫された果物や野菜を中心に振舞われています。
 川魚や牛豚鶏の肉を串焼きにしたり。
 月見団子もお供えされています。お供えしたら食べませんとね。
 家々を過ぎた先に神社があり、境内で休憩することができます。
 家の縁側を借りることもできます。
 食べ歩きもよし、ちょっと一休みもよし。
 神社や縁側にはススキが飾られています。

 せっかくだからと浴衣で参加される方はご指定ください。
 浴衣イェーガーカード参照します。
 複数お持ちの方はどれか分かるようにお願いします。
 こだわりの部分やアピールポイントがあれば是非お書き添えください。
 また、イェーガーカードはないけど浴衣指定、というのも大丈夫です。

 第2章は『待ち続けたもの』とのボス戦になります。
 ですが、『待ち続けたもの』は祭りを歩き見ているだけで、何もしません。
 放っておくと、いつの間にかどこかに去っていきます。
 引き続き月見祭りを楽しむもよし。
 あえて『待ち続けたもの』に関わってみるもよし。
 誰かの『待っている』『待っていた』話を聞くことで『待ち続けたもの』に何か変化が起きるかもしれません。

 それでは、月見のお祭りを、どうぞ。
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第1章 日常 『美しい景色』

POW   :    美しい景色を目に焼き付ける

SPD   :    美しい景色を写真に残す

WIZ   :    美しい景色を大切な人と廻る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 陽が傾き、空が茜色に染まっていく中で。
 早く昏くならないかと、そわそわした雰囲気が広まっていく。
 今夜はお祭り。月見の日。
 収穫したものを美味しく調理しながら。
 魚や肉を焼きながら。
 お団子を丸めて、13個ずつ重ねながら。
 ススキの穂を刈り、飾りながら。
 村人達は、今か今かと待ち望む。
 そして空が黒くなり。
 少し欠けた丸い月が空に輝くのを見て。
「さあ、祭りじゃ」
 村長の声に、楽しい時間が始まった。
 
鹿村・トーゴ
秋の夜長に十三夜の月を愛でるって風流だなー
こんばんは(と村人に
オレは飴行商のモンだけど良い月だね
お、祭り?ご一緒しても?

どーお?ユキエはもう眠い?
相棒のユキエ『まだユキエ、大丈夫よ』
そんじゃ村の月祭りに混ぜてもらお
すすきの穂を束ねて子供が抱きかかえられる大きさの梟や狸を幾つか作る
巫女さんに
売り物のはちみつ飴をお供えすると甘い干し栗と干し芋、お団子を貰った
栗はお土産に。
芋は境内でユキエと分けて食べよ
ん、甘い。美味しーねぇ、ユキエもご機嫌だな(おでこ撫でて
稲刈りの終わった田圃を帰りそびれた鷺が飛んでく
月の明るい夜は星は薄いが山の稜線は際立って
…待ち人が無くても物思いに耽りそ
いい夜だねェ

アドリブ可



 村の子供だろうか。5人程がわあっとこちらに駆けてくる。
「こんばんは。良い月だね」
 物珍し気な視線を受けて、鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)は子供らに話しかけた。
「おにーちゃん、行商のひと?」
「何売ってるの?」
 無邪気に無遠慮に囲んで来る可愛い好奇心に、売り物を少しだけ覗かせれば。
「飴だ!」
「はちみつ飴?」
「ん。正解」
 さらにわあっと盛り上がり、欲しいな、でも買えるかな、とそわそわしだす子供達。
 トーゴはふわっと笑って、少し賑やかな村の様子を眺め見る。
「この村は、祭り?」
「そうだよ」
「お月見のお祭りなの」
「ご一緒しても?」
「うん」
「おにーちゃんも遊ぼう」
 誘い誘われトーゴは月祭りに混ぜてもらった。
 子供達の先導で、小さな村を歩いて眺めて。それぞれの家の軒先に、月見団子や収穫した秋の味覚が並べられているのを見やる。
「どーお? ユキエはもう眠い?」
『まだユキエ、大丈夫よ』
「鳥がしゃべった!」
「知ってる。おうむ、って言うんだ」
「白くてきれいね。黄色いとさかもかわいいい」
 肩に留まっていた旅の連れに話しかければ、返ってきた言葉にまた子供達が騒ぎ出す。
 そんな賑やかな一行で、ゆっくり村を行くその間に、トーゴのオレンジの瞳が留まったのは、月見飾りのススキの穂。
 多く刈ったのを分けてもらい、束ねて縛って整えれば、興味津々の子供達の前で、ふわふわ大きな梟や狸が幾つも出来上がっていった。
「おにーちゃん、すごーい」
「かわいいね。ふわふわだね」
「ほら、お前、ともだちできたぞ」
 小さな手で嬉しそうに抱きかかえたり、相棒のオウムの隣にススキ梟を並べたりして、わいわいはしゃぐ子供達。
 1人1つ渡せたところで、トーゴは子供達と分かれ、ありがとー、と元気な見送りを受けながら、村外れにポツンとある神社へ向かった。
 出迎えてくれた巫女さんに、売り物のはちみつ飴をお供えしたいと申し出れば、それではと振る舞われたのは干し栗と干し芋、そして月見団子。
 境内で一休みすることにして、干し栗をお土産にと仕舞ってから、干し芋を相棒と分けて食べていく。
「ん、甘い。美味しーねぇ」
『ユキエ、美味しーねぇ』
「お、ユキエもご機嫌だな」
 相棒の白いおでこを撫でると、気持ち良さそうに目が細められ。
 揃って味わう素朴な秋の味覚。
 のんびり空を見上げれば、少し欠けた月がまあるく夜を照らしていて。
「秋の夜長に十三夜の月を愛でるって風流だなー」
 ぽつり呟いて、トーゴは静かに村を眺めた。
 稲刈りの終わった田圃を、帰りそびれた鷺が飛んでく。
 月の明るい夜は、星は薄いが、山の稜線は際立って。
 穏やかに吹く風は、冬へと向かうのか、少し肌寒いけれども。
 澄んだ空気は、村を歩き回って温まった身体に心地いい。
(「……待ち人が無くても物思いに耽りそ」)
 秋の虫の声も、遠くから流れてきた村人の楽しそうな声に重なってきて。
 肩に感じる相棒の慣れた重さと。口の中にまた広がる素朴な秋の甘さ。
「いい夜だねェ」
 トーゴは淡く照らす月をまた見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
弟分の朔兎(f43270)と参加

可愛い弟分の朔兎を大好きなサムライエンパイアの月見に連れてきた!!家族みんな立て込んでて二人しか出向く余裕がなかったともいう。

背の差だいぶあるんだけど、7歳も差あるし、朔兎は頑張り屋でいい子。だからお仕事おやすみしてゆっくりしてほしいと思ってね。

実は胃袋ブラックホールだし、朔兎巻き込んで川魚や豚鴨の焼き物を満喫しちゃおう。朔兎が遠慮するようなら鴨肉の串焼きを無理やり口に突っ込む。

遠慮しないで。私もこうして世話されて育ってきたからね。朔兎も食べる時は食べる!!育ち盛りなんだから。葡萄や栗もいただこう。

実は朔兎のような弟欲しかったんだ。これからも一緒にいてくれる?


源・朔兎
姉貴分の奏(f03210)と参加

世話になっている家族からサムライエンパイアの季節の祭りの素晴らしさは聞いていた。生まれ故郷とは違う十三夜。月は俺との関わりが深いから。流石奏さんは気配りができる人だ。まあ、自分がノリノリだし。その奏さんのノリの良さ、好きなんだよな。

奏さんは胃袋ブラックホールなんだよなあ。でも俺は一杯食べてもなんも問題ないぞ!!まあ、基本奏さんの奢りなので、ちょっと躊躇するが、奏さんにいい笑顔で串焼きをつっこまれて、ああ、おねだりしていいんだな、と思う。

できれば芋やおにぎりもほしいな、と。うん、家族を一度なくした俺は奏さんのようなお姉さんはずっと一緒にいたいと思ってるぞ!!



「ほら見て、朔兎。これがサムライエンパイアの月見よ」
 可愛い弟分を先導して、真宮・奏(絢爛の星・f03210)はにこにこと笑った。
 大好きな世界の素朴で楽しいお祭り。頑張り屋でいい子な弟分に、たまにはお仕事をお休みしてゆっくりしてほしくて、それに自分の大好きを知ってほしくて。
 本当は家族みんなで来たかったところだけれども、それぞれ立て込んでいて、結局2人きりになってしまったから。それでも寂しくなく楽しんでほしいと、奏は明るく笑顔を振りまいていく。
 まあ、そんな意識をしなくても、大好きな世界に自然と笑みが浮かぶのだけれど。
(「こういう奏さんのノリの良さ、好きなんだよな」)
 そんな奏のノリノリな様子に、源・朔兎(既望の彩光・f43270)もふんわりと微笑みを浮かべた。
 幾度も聞いた、サムライエンパイアの季節の祭りの素晴らしさ。それを実際に体験できることも嬉しいけれど。
(「月は俺との関わりが深いから」)
 生まれ故郷とは違う十三夜。貴族だけでなく、庶民が楽しむ宴。
 形は変われども、月に思いを託すのは一緒で。
 だからこそ奏が自分を連れて来てくれたのだと分かるから。
 朔兎はその気配りも嬉しく思う。
 それは本当なのだけれども。
「それ川魚ですか? 良い焼き加減だし、身が詰まってて美味しそう」
「あっ、このおにぎり栗おこわね」
「何でお芋は焼いただけでもこんなに美味しいんでしょう!」
「これは豚ですね。こっちの焼き串は……ああ、鴨なのね」
 あっちへこっちへ家々を回っては、奏の手に次々と秋の味覚が握られ、すぐになくなっていく。月を眺める暇もない、自他ともに認める胃袋ブラックホール。
 その食べっぷりに、村の人たちが少し驚いていたけれども、見知っている朔兎にはいつものことだし、むしろ見ていて気持ちがいい。
 それに朔兎自身も、食べ盛りな年頃の男の子。奏のように一杯食べたいところだが。
(「でも奏さんの奢り、なんだよな……」)
 身長は奏より大きいけれど、7歳も年下の『弟』だから。どうしても『姉』の手を煩わせてしまうと、ちょっと躊躇してしまう。
 でも、そんな遠慮を感じ取ってか。
 奏はにこっと笑うと朔兎の口に鴨肉の串焼きを突っ込んだ。
「むぐ!?」
「朔兎も食べる時は食べる! 育ち盛りなんだから」
 驚く朔兎の様子すら楽しむように、奏はひときわ輝く星のように笑い。
「遠慮しないで。私もこうして世話されて育ってきたからね」
 その優しい笑顔に、朔兎の肩の力が抜けていく。
 ああ、おねだりしていいんだ。
 甘えてもいいんだ、と。
 じんわり、家族の優しさが伝わってくる。
 一度失くした温もりが、形を変えて、今、ここにある。
 だから、朔兎も笑みを返して。
「芋やおにぎりもほしいな」
「うん。葡萄や栗もいただこう」
 2人は素朴な秋の美味しさを存分に味わっていった。
「実は朔兎のような弟欲しかったんだ。これからも一緒にいてくれる?」
「奏さんのようなお姉さんとずっと一緒にいたいと思ってるぞ!」
 素直に交わした姉弟の言葉を、少し欠けた月が明るく見下ろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
浴衣は2019年完成のもの

涙落とすような細い三日月から、日々月が満ちていくのも待ち遠しい。
柔らかな月の輝きは夜を美しく映えさせる。皆の姿もより美しいと評しよう。

サムライエンパイアの村祭り、花火上がるような派手さは無いようだが、素朴な様子も楽しめるものだ。金木犀もあれば香って季節を感じさせるだろう。
しかし何より食が期待できる。まずは月見団子を食しながら月夜を愉しみ、
村人に勧められた川魚の塩焼きと酒の相性について語ろう。

ああ、揃って兎耳を着た依頼も懐かしい、艶美ながらも可憐だったね。
詩乃の演奏に耳を傾けつつ、合わせてゆるりと踊れば、村人もつられて踊るだろう。


大町・詩乃
【神社猫】

(2020年9月完成の、笛を吹いている浴衣イラストにて参加します。)
村の自然な感じのお祭りというのも風情があって良いですよね~♪
十分な収穫があって、人々の心に余裕があるのを感じて嬉しいです。

綺麗な月が出ていますし、お団子を頂きながら、お月見をしてみましょう。

メンバーとのんびりおしゃべりを。
月というと兎というかバニーをついつい思い出してしまいますね~。
(ネフラさんとバニーガールになって潜入依頼に参加した経歴有り。)

時々、お祭りの場を盛り上げるように、響月で曲を奏でてみますよ(楽器演奏)。
ここに来る全ての方が楽しめれば良いですね♪



 大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)とネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は2人並んで村をゆるりと歩いていた。
 ネフラの浴衣は、淡い藤色の桔梗麻の葉文様。大きな花を飾って結い上げた緑色の髪がクリスタリアンゆえに輝くから、浴衣の文様も煌めきを描いているかのよう。トンボ舞う紺色の団扇を時折あおぎ、逆さづりにされたサメを可愛く象った巾着を揺らす。
 詩乃の浴衣には大きな椿の花が咲く。暗めの色合いでしっかりと描かれた枝ぶりと、結い上げた漆黒の髪が、浴衣の白地を引き立て、ゆえに月明かりの下で淡く輝いて見える。
 そんな美しい2人に、ちらちらと村人の視線が向けられる。見惚れる者、憧れる者、気後れする者。小さくも様々な反応は、だが2人にはまだ届かないから。ゆるり優雅な足取りは、静かに村を進んでいた。
「サムライエンパイアの村祭り、か」
 フフ、と微笑んだのはネフラ。
「花火上がるような派手さは無いようだが、素朴な様子も楽しめるものだ」
「ええ。村の自然な感じのお祭りというのも風情があって良いですよね~♪」
 こぼれた感想に詩乃もふわりと微笑み、頷く。
 少し肌寒さを感じるそよ風に乗って、どこからか届く甘い香りは金木犀か。小さく秋の虫の音も聞こえてきた。その中で村人たちが収穫物を手に家々に集っている。そしてその全てを、柔らかな月明かりが照らし出し、映えさせているから。
「皆の姿もより美しい」
 ネフラは辺りを見渡してから、隣の詩乃を見て評する。
 賛同するように頷いたそのうなじが、また白く美しい。
 その輝きの元を辿るように、ふと夜空を見上げれば。
 そこに輝くのは、僅かに欠けた月。涙落とすような細い三日月から、日々満ちていき、真円まであと少しというところ。満ちるのが待ち遠しくて、待ちきれなかったような。
「綺麗な月が出ていますね」
 詩乃も同じように月を見上げていたようで。声にまた詩乃を見れば、視線に気付いて振り向く藍色の瞳。
「でも、月というと、兎というかバニーをついつい思い出してしまいますね~」
「ああ、揃って兎耳を着た依頼も懐かしい」
 思い浮かべたのはサイバーザナドゥの裏カジノへ潜入した時の事。
「艶美ながらも可憐だったね」
「ネフラさんは凛々しくて、格好良くもありましたね」
 思い出話にも花を咲かせつつも、やっぱり今を見て楽しむ時だから。
 詩乃はまた一度夜空の月を見上げてから。
「さ、お月見をしてみましょう。お団子を頂きながら」
「フフ、食が期待できるからな」
 ちょっと悪戯っぽく微笑む詩乃に、ネフラも、月より団子、と遊ぶように笑みを返し。
 それでは、と村人へと近寄っていった。
「お団子を頂けますか?」
「ああ、もちろんだよ。これは芋を練り込んであるからね。甘いよ」
「よければ川魚もどうだい? 塩焼きには酒もいいぞ」
「おや、どんな酒が合うのかな?」
 振る舞われている収穫物を間に話も盛り上がり。楽しい時間と共に、2人の両手に、そしてもちろん口いっぱいに、広がっていく秋の味覚。
 素敵な秋のお裾分けをもらったならば。
 詩乃は、漆と金で装飾した龍笛『響月』をそっと手に取って。祭りを盛り上げるように曲を奏でてみせた。
 おお、とその場の村人たちが喜び、拍子を打ち始めるから。
 それではとネフラはゆるりと踊る。
 詩乃の奏でる音色に耳を傾けつつ、そのリズムに合わせて。そして誘うように。
 つられて踊り出した村人たちに、フフ、と満足気に微笑むと。
 そんなネフラに詩乃も笑みを称えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

劉・久遠
♪うーさぎうさぎ、何見て……ってこれは十五夜か
とりあえず神社さんにお参り目的でぶらぶらしよかな
浴衣姿で鼻歌混じりにのんびり村を歩きます

おばんですー、ええお月さん出てますねぇ
今日は月見祭りやってはるの?
ご一緒してもよろし?

人懐っこく村人に話しかけ、お団子などおよばれしつつ
祭りについて質問
雑談の中に噂話なんかあれへんかな?
まぁなくてもお話すんのは好きやからね
月見祭りにちなんだ歌とかニコニコ聞きます

さてそろそろお暇を、とお礼を告げ歩き出し
ほんのり冷えてきた夜風に肩のストールを巻き付けて
まんまるお月さんはうちの嫁さん思い出すけど、欠けた月か

……黒髪を金に染めたアイツの頭みたいやなぁ

ポツリ呟き、また鼻歌



「♪うーさぎうさぎ、何見て……ってこれは十五夜か」
 わらべ唄を口ずさみながら劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は村を歩く。
 藍地に群青で、縦縞2本の間を細い無数の横縞で繋いだ独特の縞模様を描いた、良く見ると面白い浴衣姿で。納戸色の縦縞なストールを左肩にだけかけて、袖よりも大きくひらりひらりと揺らしていた。
 十五夜じゃなくて十三夜、と自身にツッコミながらも、鼻歌として混じるのがやっぱりうさぎな唄なのは十三夜の唄を知らないから。というかあるのかねぇ、なんてことも思いながらのんびりと、とりあえず神社さんにお参りかね、と向かって行く。
 そうすれば祭りをしている村人を見かけるから。
「おばんですー。ええお月さん出てますねぇ」
 久遠は人懐っこく、小さな籠を抱えた女性に声をかけた。
「今日は月見祭りやってはるの? ご一緒してもよろし?」
「ええ、ええ。是非どうぞ。
 あ、これ、お芋を入れたお団子よ。よかったら」
 早速、籠の中のお団子に、礼と共に手を伸ばす。これから飾るところだったのか飾った残りだったのか、串もなにもないから、そっと1つ摘まみ上げて一口に。
「ん、おいし。おおきに」
「あっちには蒸かしたお芋と、栗ご飯のおにぎりもありますよ」
 久遠の笑顔に女性は近くの家を指し示し、どうぞと案内してくれた。
 集まっていたご近所さんらしき女性達が、あらあら、と嬉しそうに出迎えてくれて。これもあれもとそれぞれが作った料理を勧めてくる。
「遠慮せず食べてくださいね。それが豊作への感謝ですから」
 久遠は断ることなくありがたく頂いて。様々な秋の味覚をきっかけに、いろいろ話を引き出していく。
(「雑談の中に噂話なんかあれへんかな?」)
 そういった調査の意味合いもあったけれども。元々、話をするのは好きな方。何もなくても楽しめればとも思いながら、会話を弾ませた。
「これ、だいぶ昔からやってはる祭りなんやろか?」
「そうね。いつからやってるのかしら?」
「おばあさんも子供の頃からやってたって言ってたし」
「子供の頃は、本当にお祭りが待ち遠しくてねぇ」
「そうそう。美味しいものがたくさん食べられるし、夜更かししても怒られないし」
「今はいろいろお供えとか作らないといけないから大変なんだけど」
「でも楽しいのよねぇ」
「料理しながら祭り唄を歌ってたりね」
「へぇ。歌があるんです?」
 食べ物に話にそして唄に、ひとしきり盛り上がる雰囲気を久遠はにこにこ眺め聞く。
 穏やかな喜びの祭りを一緒に楽しんでいく。
「……さて、そろそろお暇を」
 月が高くなってきたのを見上げた久遠は、お礼を言ってその場を後にする。
 このままずっと話していてもいいのだけれども、神社にお参りくらいはしたいし、それに一応依頼でこの地に来ているから。
 ほんのり冷えてきた夜風に、左肩だけのストールを一旦解いて、今度は両肩に巻き付けて。改めて夜空の月を見上げた。
 真円ではない、少しだけ欠けた、丸っぽい月。
(「まんまるお月さんはうちの嫁さん思い出すけど」)
「……黒髪を金に染めたアイツの頭みたいやなぁ」
 欠けた月に、ぽつり呟けば、口元に小さく浮かぶ淡い笑み。
 久遠は、教わったばかりの祭り唄をそっと鼻歌で奏でながら、神社の方へとまたんびり歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえ?仕事だ、ってアヒルさん今はお祭りを楽しむ時ですよ。
ふええ、いつでも戦闘ができる準備ができてるって、今年の浴衣はケルベロスコート風に仕立ててもらいましたけど、戦闘の準備は出来てませんよ。
ほら、ナノナノさんのお面だってつけてますし、お祭りを楽しみましょうよ。
ふえ?それは大丈夫って何が大丈夫なんですか?
ふええ、アヒルさんがお祭りを楽しむから、私が見回りをしてろって、それはズルいですよ。



 月明かりに照らされた村を、フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)はおどおどちょっと挙動不審に歩いていく。
 人見知りなフリルにとって、人がいっぱいで大きなお祭りよりも、こういった素朴で静かなお祭りの方が好ましい。のだけれど。
「いらっしゃい娘さん。月見団子食べるかい?」
「今年も南瓜が良くできたよ。ホクホクだよ」
「栗はどうだい? 焼いたのも炊いたのもあるからどっちがいい?」
「ふええ……」
 お祭りだからか、世話好きが多いのか、家の前を通りかかるたびに村の人たちから温かな声がかけられるから、フリルは嬉しいと同時にあわあわしてしまい。ぺこりとお礼をして思わず逃げ出してしまったり。
 でも、この雰囲気は嫌いではない。急に声をかけられてビクビクしてしまったり、咄嗟にどうしていいか分からなくなったりはするけれど。
 淡い月明かりと、穏やかな秋の風。揺れるススキに、美味しい香り。
 フリルはフリルなりに、お祭りを楽しんでいた。
 そこに。
 ガア。
「ふえ? 仕事だ?」
 いつも一緒のアヒルちゃん型ガジェットが一声鳴いて。その言葉を唯一正確に理解するフリルは、でもこくんと首を傾げた。
「アヒルさん、今はお祭りを楽しむ時ですよ」
 遊びに来たのに仕事と言われても、と困惑するフリルに、ガジェットは続けて鳴き。
「いつでも戦闘ができる準備ができてる……って、確かに今年の浴衣はケルベロスコート風に仕立ててもらいましたけど、戦闘の準備は出来てませんよ」
 反論しながらフリルは自身の姿を改めて見下ろす。
 黒を基調としたその服は、確かに袖が長く、赤い帯で締めて、浴衣な要素がちゃんとあるけれども、大きな襟や鎖の飾り、右腕に巻いた腕章のような赤い布飾り、それにちょっとしっかりした生地が、やっぱりコートを思わせた。
 でも、後ろで1つに纏め、赤いリボンで飾った長い銀髪の頭には、ちょん、とお祭りなお面を被っているから。
「ほら、ナノナノさんのお面だってつけてますし、お祭りを楽しみましょうよ」
 これは浴衣、とアピールして、楽しい雰囲気へ戻ろうとするフリルだけれども。
 ガジェットは淡々と鳴く。
「ふえ? それは大丈夫……って何が大丈夫なんですか?」
 ガア。
「ふええ、アヒルさんがお祭りを楽しむから、私が見回りをしてろ、って……
 それはズルいですよ」
 完璧な役割分担とばかりに胸を張るガジェットに、フリルは情けない顔で頑張って抵抗するのですが。
 まあ、いつもの流れだと、ガジェットに勝てずに見回りさせられそうですよね。
 ガア。
「ふええ……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
今年(2024)の浴衣で参加です。
総レース仕立ての浴衣です。

十三夜、十五夜どちらかだけでは片見月でしたか。
ですがこの素朴な光景は帝都では見られないものですね。ですがどこか懐かしい気持ちも。
俗説にある日本人としての記憶かしら。
ゆっくりと村の様子を眺め、時折おすそ分けをいただきながら神社の方へ。こちらの神社はどなたを祭ってるのかしら?

経験が無いのに懐かしい。そんな不思議な光景。
そしてオブリビオンが出るようですが「待ってる」だけとは……。
少しだけ過去世を思い起こさせる言葉に、少し、心が騒めいて落ち着かなくなる気がします。



「十三夜、十五夜。どちらかだけでは片見月、でしたか」
 夜空に輝く月を見上げ、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はゆるりと呟いた。
 月明かりに照らされたその服装は、青い帯で締めた白地の浴衣。シンプルな無地かと思いきや、しっかり見るとその白は全て繊細で美しいレースで仕立て上げられていて。編み込み結い上げて尚、銀河のように煌めく藍晶石の銀髪と共に、淡く輝いていた。
 その美しい姿に、見かけた村人たちは、老若男女問わず思わず振り返り、目を奪われるものもしばしば。
 でも、小さな村ゆえに大きな騒ぎになるほどの人はおらず、また無粋なことをする無法者もいない穏やかな地方だったから。そっと藍を褒め称え、月明かりに照らし出された美しさを静かに愛でるくらい。
 それでもやはり、村を眺める藍と目が合えば。チャンスとばかりに声をかけ。
「お嬢さん、葡萄は如何?」
「月見団子、摘まんでいかないかい?」
「うちの縁側でよければ寄っていきなよ」
 強引なものはないけれど、誘いの声は引く手数多。
 そんな村人たちに、そして彼らの暮らす村に、藍は宙色の瞳を好意的に細めて。
(「この素朴な光景は帝都では見られないものですね」)
 生まれ育ったサクラミラージュとの違いをほんのりと楽しんでいた。
 華やかな御輿も賑やかな大道芸も威勢のいい屋台もないけれど、できうるご馳走を作り合って、豊かな収穫を喜び、それまでの互いの苦労をねぎらい合うような、自分達のための小さなお祝い。藍が知らないはずの、穏やかで質素な月見祭り。
 経験がないのに懐かしい。そんな不思議な光景。
(「俗説にある日本人としての記憶かしら」)
 初めて来たはずの村に感じる懐郷の念に首を傾げながらも、その感覚はどこか心地いいものだったから。藍は、村人からお裾分けを時折いただきながら、村の外れにあるという神社へと辿り着く。
「こちらの神社はどなたを祭ってるのかしら?」
「土地神様だよ。八幡さまだ」
「今年も豊かな実りをありがとうございます、とね。御礼を伝えるんだよ」
 奉納に来ていた村人が、収穫物を置きながら藍の問いに答えてくれる。
 小さな社は質素だけれど、ちゃんと手入れがされていて。豪奢さはないけれど、古いながらも綺麗で、大切にされているのが伝わってきた。
 まあ今はどっさりな農作物に埋もれそうだけれども。
 その信仰に、藍は好ましく微笑み。
 村人たちに倣うようにお参りをして。
 ふと、思う。
 この地に現れるというオブリビオンのことを。
「……『待ってる』だけとは……」
 それは藍にとって、少しだけ過去世を思い起こさせる言葉だったから。
 騒めく心を落ち着かせるように、藍は夜空の月を、見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩瑠・翼
2024浴衣着用

(月見上げ、そわそわとあたり見渡し)

姫桜姉、ちゃんと話してくれてるかなぁ

(サイハ世界の父とちゃんと会おう、と決めたまでは良かったけれど
でも、何も準備なしの出たとこ勝負はやっぱり怖かったから
すでに面識のある姉(f04489)にお願いして
待ってるって伝えてもらうことにした…けれど)

オブリビオンも、誰かを待ってるらしいけど
緊張しないのかな

…来なかったらどうしようとか
会えてもいい顔しなかったらとか…考えたりしないのかな
(一人だとどうしてもぐるぐるしてしまう)

でも、考えても仕方ないよね
(頷けばUCで妖精を召喚し)

ね、キミも一緒にお祭り楽しもう?
(お芋にお団子を半分こすれば微笑んで見せた)



 小さく静かな村が、月祭りにそわそわわくわく騒めいている。
 そんな中、違うそわそわで村の一角に佇む少年が1人。
「姫桜姉、ちゃんと話してくれてるかなぁ」
 楽しそうに行き来する村の人たちを眺めるように辺りを見渡し、そこに見知った姿がまだ見えないことにほっとしつつ、でもここに来るはずとまたそわそわして、落ち着こうと夜空の月を見上げて、再び村人へ視線を戻す。
 彩瑠・翼(希望の翼・f22017)は、待ち合わせのために月祭りへ来ていた。
 会う相手は、父親。
 しかし、翼の世界のではなく、サイキックハーツ世界での父親だった。
 顔は知っているし、人柄や性格も分かっている。だって父親なのだから。
 それに幾度かその姿を見に行ったこともある。
 でも、ちゃんと会うのは今日が初めて。
「……来なかったらどうしよう」
 会う、と覚悟を決めた。
 それでも、何も準備なしの出たとこ勝負はやっぱり怖かったから。
 既に面識がある姉に、自分の存在を説明してもらって、ここで待っていることを伝えてもらえるようにお願いしたけれど。
「会えても、いい顔しなかったら……」
 1人だと、どうしてもぐるぐる考えてしまう。
 だって、サイキックハーツ世界にまだ翼はいないから。これから会う父親には、まだ姉しか子供がいないから。急に、息子です、なんて受け入れてもらえないかもしれない。
 どうしても悪い方に考えが巡ってしまって。
「……オブリビオンも、誰かを待ってるんだっけ」
 ふと、思うのは、この地に現れると聞いた存在。
 ただ『待ってる』だけだと聞いた不思議なオブリビオン。
 でも翼は、その存在に、今の自身の気持ちを重ねて。
「緊張、しないのかな」
 何を待っているのかとか、どうして待っているのかとかよりも、待つ、というそのこと自体に思いを馳せる。
「会った後のことを、不安に思ったり、変に考えたりしないのかな」
 純粋に待っていられるのはすごいな、とまで思ってしまったり。
 会いたくない、とか。
 会わなきゃよかった、とか。
 翼の中では、いろんな悪い想像が、ぐるぐるぐるぐる回ってしまうから。
 オブリビオンはそうじゃないのかな、なんて少し羨ましくなったりもして。
「でも、考えても仕方ないよね」
 ぶんぶんと頭を左右に振った翼は、巡る思考を振り払うように、大きく1つ頷いた。
 そして発動させるユーベルコード『カップ一杯の友人』。
 召喚された妖精は、翼の話し相手として、ふわりと寄り添ってくれる。
「ね、キミも一緒にお祭り楽しもう?」
 ただ待っているだけじゃ、折角の月見祭りが勿体無い。
 吹っ切った翼は、妖精に微笑んで見せながら、近くにいた村人へ話しかけた。
「あの、オレもお団子もらっていいですか?」
 不安も美味しさも楽しさも。妖精と分け合って待っていよう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
【桜月】
2020年浴衣

(弟(f22017)に請われ、渋々引き受けた異世界の父との外出)

…デートじゃないわ
(父の言葉に反論するも
複雑そうに眉根寄せ
すでに面識はあるものの、戦い抜きの場では何を話していいのかさっぱりわからない)

…そういえば、パパの世界の私って、いくつなの?
(返答に、妹と弟はまだいないことを知れば、少し考え)

あのね、パパに会わせたい人がいるんだけど…って、か、彼氏?!
ち、違うわよ!
ていうか例えいたとしても(いないけど)
紹介なんてしないんだから…って、そこで寂しそうな顔しないで!?
(真っ赤になってわぁとなるも
月見団子渡されればしばし押し黙り)

(きょうだい、と、父の口から出た言葉にぽかんと)
え、知って…ああ、そうよね
(続く言葉で頬赤らめ
実父もこの父も、やっぱり同じなのだと妙な納得覚え
問われれば)

ええ、変わらず
私も、きょうだいも、もちろんママも
うんざりするくらいに愛情はもらってるわ

(面と向かっては恥ずかしい
視線逸らしてもごもごと)

今ここにはいないけど別場所で待ってる
…行けばわかるわ


彩瑠・さくらえ
【桜月】

ふふ、娘とお月見デートっていいよねぇ♪
(傍歩く姫桜の反論にもなんのその
照れる様子にくつくつ笑って月見上げ)

誕生日来たら2歳になるかな
もうほんとかわいくて…って、会わせたい人?
まさか彼氏とか言わないよね?(怪訝な顔)

…だって今の姫桜、うちのママと同じくらいだからつい
(自分の世界の娘は可愛い盛りではあるけれど
異世界の娘はもう年頃で、自分が結婚したのと大体同じくらいなものだから
ついそんな方向に思考が飛躍してしまう
違うと言われれば安堵はするも、いても紹介しないって言われると寂しいのは父心ってやつだ)

…僕よりもっと寂しいのは君んとこの世界の僕だと思うけどね?
(リアクションに苦笑するも
月見団子手渡し、自分も食べつつ)

会わせたい人って、姫桜のきょうだいだったりする?
(ぽかんとしてみやった娘にくすりと笑み)

僕とママの子供だよ?
一人っ子のはずないと思うんだよねぇ
君のところの僕も、僕と変わらずこんな感じでしょ?
(臆面もなくそう言い、照れる様子に微笑んで)

わかった
(行けばわかる、には頷いて見せた)



 彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は、微妙で複雑な表情で村を歩いていた。
 纏うのは、青地に桃色の桜や撫子などの花が散る浴衣。後ろで大きくリボンに縛った赤と橙の帯も、襟から覗く綺麗なうなじも、いつもは下ろしている長い金の後ろ髪を結い上げて牡丹を思わせる花で飾ってあるからよく見える。
 新しく仕立てたものではないけれども、気に入っている浴衣。それを着てのお出かけだから、楽しくない訳はない。
 それでも姫桜の眉根がきゅっと寄せられているのは。
「ふふ、娘とお月見デートっていいよねぇ♪」
 そんなことを呑気に言いながら隣を歩く彩瑠・さくらえ(望月桜・f44030)の存在が理由だった。
 同じ苗字、そしてさくらえの『娘』発言の通り、さくらえは姫桜の父親だ。ただし、サイキックハーツ世界の父親。UDCアースのさくらえと同じ存在だけれども違う相手。もちろんサイキックハーツ世界には姫桜と同じ存在だけれども違う『姫桜』がいる。
 そんな、親子だけれども他人でもある微妙な関係に、姫桜はどう対応していいやらと複雑な心境なのだ。既に面識はあるけれども、戦いもないこんな平穏な場で、何を話せばいいのやら。
 そもそも、実の父親(今目の前にいるさくらえもある意味実の父親なのだけれども)すらもちょっと苦手なのだ。姫桜を溺愛してくれる父親を、嫌いではないけれど、素直にその愛を受け返せないとでもいうか。照れ臭いとでもいうか。
「……デートじゃないわ」
 だから、さくらえに返した言葉も、反論するようなものになっていて。ちらりとその様子を見たけれども、またすぐに視線を逸らしてしまう。ちょっとだけ頬を赤く染めて。
 さくらえは、そんな『娘』に、どこか嬉しそうにくつくつと笑った。
「うん。月が綺麗だね」
 そして見上げる秋の夜空。少しだけ欠けた丸い月。
 淡く照らし出された優しい時間に、さくらえの笑みも柔らかくなる。
 そのまましばし、2人は無言で村を行き。
「……そういえば、パパの世界の私って、いくつなの?」
 ふと思い出したような姫桜の問いかけに、さくらえは視線を隣へと戻した。
「誕生日来たら2歳になるかな。もうほんとかわいくて……」
「それはいいから」
 サイキックハーツとUDCアースの時間軸はどうやらズレているらしく、ある意味で今姫桜の目の前にいるさくらえは『20年前の父親』のような存在らしい。
 成人している姫桜と違い、生まれてさほど時を経ていない、別世界の自分。そして、見た目はさほど変わらないのに、今の姫桜と年が近い『父親』。その微妙な差異に、不思議な感覚を抱く。
 そして、違う感覚はもう1つ。
(「サイキックハーツに妹と弟はまだいないのね」)
 もしかしたら妹は母のお腹に宿っている頃かもしれないけれど、弟が生まれるのはまだまだ先のことのよう。きっとさくらえは、存在を想像すらしていないだろう。
 でも、今回姫桜がさくらえを誘ったのは。こうして一緒に月夜の村を歩いているのは。その弟に頼まれたからで。
 ちゃんと会いたいと、面識のある姫桜に待ち合わせ場所までの案内をお願いしてきた、可愛い弟の必死な顔を思い出す。
 だから姫桜は、一度目を伏せ、大きく息を吸ってから、切り出した。
「あのね、パパに会わせたい人がいるんだけど……」
「会わせたい……まさか彼氏とか言わないよね?」
「か、彼氏!?」
 思わぬ推測と怪訝な顔に、一気に真っ赤になった姫桜は、素っ頓狂な声を出して。
「ち、違うわよ! 何でそうなるの!?」
「だって今の姫桜、うちのママと同じくらいだからつい」
「ていうか例えいたとしても、紹介なんてしないんだから……
 って、そこで寂しそうな顔しないで!?」
 慌てた姫桜の言葉に、さくらえはほっと安堵。でもすぐにしゅんとするから、さらに姫桜がわぁっと慌てる、繰り返し。
 そんな『娘』の様子に、ちょうどこの年頃で自分は結婚したからなぁ、なんて懐かしさと心配とで苦笑したさくらえは。でも、と思い至って答える。
「僕よりもっと寂しいのは君んとこの世界の僕だと思うけどね?」
 そして手渡すのは、無言の間に村人から貰っていた月見団子。
 差し出されたそれに、姫桜は青い瞳を見開いて、咄嗟に受け取り。
 まだ少し寂しそうに微笑みながら食べ始めたさくらえを見て。
 ちょっと目を逸らしながら、小さくかじった。
 そうして団子がもたらした、再びの無言の時間。
 でも今度は、それは長くは続かず。
「会わせたい人って、姫桜のきょうだいだったりする?」
 月見団子を食べ終えたさくらえのさらりとした問いかけに、姫桜は振り向いた。
「え、知って……」
 まだ半分残っている月見団子を手に、ぽかんとする姫桜。
 その表情に、嬉しそうに苦笑したさくらえは、知らないよと首を横に振ってから。
「僕とママの子供だよ? 1人っ子のはずないと思うんだよねぇ」
「あ、ああ……そうよね……」
 紡がれた推測は姫桜も納得できるもの。
「君のところの僕も、僕と変わらずこんな感じでしょ?」
 臆面もなく言うその姿は、姫桜の父親と全く同じだったから。
 仲睦まじい両親と、その愛に包まれた自分達きょうだいを思い出して。
「ええ、変わらず。
 私も、きょうだいも、もちろんママも、うんざりするくらいに愛情はもらってるわ」
 面と向かっては恥ずかしいから、照れた顔を隠すように視線を逸らして。もごもごと、少し聞き取り辛くなってしまったかと思ったけれど、さくらえにはちゃんと聞こえていたようで。優しい笑みが姫桜に向けられる。
 それをちらりとだけ見た姫桜は。いつの間にか止まってしまっていた足をまた進めながら、今はまだ見えない待ち合わせ場所の方へと視線を向けて。
「今ここにはいないけど別場所で待ってる」
 さくらえを見ずに、ちょっと冷たく言い放つ。
 でもさくらえには、それが照れ隠しだと気付かれているようで。
「それで、妹? 弟? ママに似てる? それとも僕に?」
 嬉しそうな問いかけに、姫桜はまた頬を染めて、振り向かないまま告げた。
「……行けばわかるわ」
「わかった」
 そして父娘は進む。待っている人がいる場所へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『待ち続けたもの』

POW   :    ずっと一緒に
小さな【筥迫 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【常夜の匣庭】で、いつでも外に出られる。
SPD   :    共になくとも
【淡雪 】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
WIZ   :    春を待つ
【風花 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。

イラスト:亜積譲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は夜鳥・藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――ずっとずっと、待っていた。
 何を? 誰を?
 大切な何かだったと思う。愛しい誰かだったかもしれない。
 もう覚えていない。失われてしまった記憶。
 でも、残っている。
 ――ずっとずっと、待っている。
 何を待つのかも、分からないまま。
 オブリビオン『待ち続けたもの』は、月見祭りの村を、行く。
 
劉・久遠
……見た感じほんまに判断つかんね
まぁ話をしてみよか

待ち続けるいうんは、好意がないとできんよね
それが物であれ、誰かであれ
かく言うボクも待っとるんよ
お互い恋人が一番、愛や恋とは違う
でも逆の隣はお互いの場所やと語り合った
そんな大切な相棒からの連絡をずっと待っとる

期限のない歳月を待ち続けるのは苦しくて
幻覚相手に別れを告げて、気持ちを整理したこともあった
それでもいつか、と思うとやめることも出来んくて
……キミもそうなんやろか?
黒の花嫁衣裳は『一生添い遂げる』って意味もある
もしそうやとしたら……ボクには止められんね

待ち続けたものを見送り、欠けた月を見上げ
……うちの世界でアイツも月見てたりするんかな、と祭り唄



 鼻歌で祭り唄を小さく奏でながらのんびり歩くそのうちに、劉・久遠(f44175)の藍瞳に、とりあえず目的地にしてみていた神社が見えて来た。
 といっても見えたのはまだ鳥居だけ。開けた農地の中、木々に囲まれているらしい社や境内は、緑の向こうに隠れて見えない。
 その代わりに、というわけではないけれど、見つけたのは黒い着物を着た人影。
 オブリビオン『待ち続けたもの』。
(「……見た感じほんまに判断つかんね」)
 異形でもなく、武器も持たず、害意も悪意も感じられない。ただぼんやりと歩いているだけの女性にしか見えないその姿に、久遠は少し首を傾げて。
 僅かな思考の後に、話しかけてみようとその足を速め、隣に並んだ。
 しばらく同じ速度でゆるりと歩き。
「待ち続けるいうんは、好意がないとできんよね」
 合わせた歩みの中で、久遠はぽつりと語りかける。
 その名の通り、待ち続けているというオブリビオン。でもそれが何なのか、物なのか人なのかも分からないから。久遠は自身のことを、語る。
「かく言うボクも待っとるんよ。
 お互い恋人が一番、愛や恋とは違う。でも逆の隣はお互いの場所やと語り合った。
 そんな大切な相棒からの連絡をずっと待っとる」
 進む先を見て。でもその先に待つ者の姿はなくて。
 見えないその姿を、記憶の底から引き出し、思い描く。
 触れられない、語り合えない、でも忘れられない姿を。
 思い出して。久遠は口の端で苦笑する。
「期限のない歳月を待ち続けるのは苦しくて……幻覚相手に別れを告げて、気持ちを整理したこともあった。
 それでも、いつか、と思うとやめることも出来んくて……」
 一度目を伏せ、沈んだ藍色を隠してから。
 ふっと顔を上げると共に、隣へと振り向く。
「……キミもそうなんやろか?」
 問いかけに、隣の薄青の瞳もゆるりと久遠へと向いた。
 どこか自分と似たような色の瞳。黒いヴェールの下の髪も同じ銀髪。
 自分より背は低いし、顔立ちは全然似ていないけれども。
 何かを待ち続けている同じ色――。
「黒の花嫁衣裳は『一生添い遂げる』って意味もある。
 もしそうやとしたら……ボクには止められんね」
 引きずるほどに裾の長い着物と、長い髪全てを覆うヴェールを眺めてから、久遠は足を止める。ゆるりと歩き続ける『待ち続けたもの』を見送るかのように。
 そんな久遠に『待ち続けたもの』は視線を向けたまま。そっとその繊手を伸ばし。
 舞うは風花。微かなる眠りの雪。
 待ち続けるのが辛いなら、眠ってしまえばいいのだと。
 まるで自身がそうしてきたかのように。
 久遠を包む春待ちの白い花。
 そのユーベルコードに逆らわず、久遠は睡魔に身を委ね。
 道の端で、木に背中を預けて座り込む。
 見上げれば、去り行く黒い後姿と、夜空に輝く欠けた月が、見えた。
(「……うちの世界でアイツも月見てたりするんかな」)
 遠くに聞こえる祭り唄を、繰り返すようにぼんやりと口ずさみながら。
 久遠は短い銀髪の下でゆるりと藍瞳を閉じる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
神社の周囲を月を見ながらのんびり歩く

ふむ
そーいや酒の飲める歳になったけど
まだお酒より温かい飴湯の方がイイな
(相棒のユキエは)鳥目だしもう眠そ…てか外套のフードで寝ちゃったか
……?
あれが件のオブリビオンかー
つーても害が無いなら幽霊みたいなモンだしねェ…
少し離れた木に座り話すような独り言のような

さて別嬪さん
思い残しはこの村かそれとも月か
それとも関係ないものか
オレはもう待つ人も待たせる人も居ないけど…ん?
いや、待ち合わせはしてるかな
互いに25まで生きてりゃ所帯持とーか、なんて
待ち焦がれるよな仲でも無いけどね

別嬪さん
あんたの願いは多分叶わないだろーけど
穏やかに祈って待つ時間が持てると良いねェ

アドリブ可



 少し足りないまんまるな月を見ながら、鹿村・トーゴ(f14519)は神社の鳥居を逆にくぐる。お供えもしたし、境内で干し芋もいただいた。お土産の干し栗がちゃんと仕舞われていることを確かめてから、潜り出た鳥居に振り返り、ぺこりとお礼をする。
 そして神社の周囲を歩き出せば、また自然と視線は上へ向き。
 オレンジの瞳に映る、十三夜の月。
「やっぱり風流だねェ……」
 ぽつり呟き、淡く微笑む。
「なあ、ユキエ?
 ……あれ、寝ちゃったか……?」
 相棒に声をかけるも、応えはなく。外套のフードに感じる重みと温かさ。子供らと遊んで、干し芋でお腹も膨れて、安心できる相棒の傍で過ごす静かな秋の夜。眠りに誘う要素は揃い過ぎている。元々鳥目だし。
 背中側に感じる慣れたその感覚に、淡い笑みを保ったまま。トーゴは村の家々へと戻るように足を進め。
「あれが件のオブリビオンかー」
 こちらに向かって来る黒い人影に気付いて呟いた。
 黒い着物に黒いヴェール。そこからこぼれた長い銀髪と、白い顔に白い繊手が、月に照らされて浮かび上がるかのように輝いて見える。
 まるで幽霊のようだとも思いながら。
 害がないオブリビオンは似たようなものかとも考えて。
 近づいてくるその姿を眺めたトーゴは。
 歩いてくるその道の先を開けるように、脇の木に寄り、そこに座ることにした。
 そしてすぐ傍まで来た薄青の瞳は、トーゴを気にもせず、とはいえ何かを見ている感じもなく、ただぼんやりとしているようだったから。
「さて別嬪さん。
 思い残しはこの村か、それとも月か。それとも関係ないものか」
 トーゴは話しかけるように、でも独り言を呟くかのように、言葉を紡いだ。
「オレはもう待つ人も待たせる人も居ないけど……
 ん? いや、待ち合わせはしてるかな。
 互いに25まで生きてりゃ所帯持とーか、なんて。
 待ち焦がれるよな仲でも無いけどね」
 言葉は聞こえているだろうけれど、歩みは止まらず、薄青もトーゴを映さない。
「そーいや、酒の飲める歳にはなったのか。
 まだオレはお酒より温かい飴湯の方がイイけどな」
 振り返りもせず、ただただ歩く。
 ただただ、探す。
 何を? 誰を?
 当てのないその姿を、トーゴはゆっくりと目で追いかけて。
「別嬪さん」
 今一度、呼びかける。
「あんたの願いは多分叶わないだろーけど。
 穏やかに祈って待つ時間が持てると良いねェ」
 優しく願う。
 そこで初めて、薄青の瞳がトーゴに向いた。
 でもぼんやりと、見ているのか見ていないのかも分からないのは変わらず。何を思っているのかも読み取れない、ガラス玉のような瞳。
 トーゴはそれを見返して。
 ゆっくりと1つ頷いてみせると。
 辺りに淡雪がふわりと舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【神社猫】
オブリビオンとて害意なければ剣を持つ理由無し。
消滅を望むなら手助けはしようが。

その姿は喪服のように見受けられる。
過去に囚われ待ち続けるか、私なら早々に見切りをつけるものだが。
強引に現状を変えるのは得意だがここではそぐわないだろう。
そうだね、味覚があるようなら戯れに月見団子でも食べさせてみようか。
愉しんでみるのも悪くない。五感で今を知る事が変化の端緒となろう。
詩乃の笛に合わせて、待ち続けるものの手を取って踊りに誘おう。


大町・詩乃
【神社猫】
ネフラさんと一緒に『待ち続けたもの』さんにお会いしましょう。
人を害するような存在ではないとの事ですから、無理に戦う事もないでしょう。

誰かを待ち続ける。
愛しい人や大切な友人であれば、その気持ちは自然と湧いてくるものなのでしょう。

永い時を経て忘れてしまっても、『大切な人がいた』という事実は永遠に残り続ける。
私はそれを知っています。

せめて貴女の心が安らぎますように。
響月にて楽器演奏。
在り続ける事の哀しみを優しく癒すような曲を吹奏いたします。



「こんばんは。『待ち続けたもの』さん」
 大町・詩乃(f17458)とネフラ・ノーヴァ(f04313)は、オブリビオン『待ち続けたもの』の前に立ち、声をかけた。
 オブリビオンと猟兵の対峙だが、互いに敵意や害意はない。
(「オブリビオンとて害意なければ剣を持つ理由無し」)
(「人を害するような存在ではないとの事ですから、無理に戦う事もないでしょう」)
 ネフラも詩乃も、その在り様をグリモア猟兵から聞いていたから。それならばと、戦うためではなく、ただ会うために、その姿を探していたのだ。
 行く手を阻まれ、彷徨っていた足を止める『待ち続けたもの』。
 長い銀髪を黒いヴェールで覆い、顔と繊手以外の白い肌を黒い着物で隠している、そんな黒づくめな和装を、ネフラはじっと見つめて。うむ、と頷くと。
「喪服のように見受けられるな」
 素直な感想を口にした。
 着物に散りばめられた雪のような花のような模様は美しく、袖や裾が長い引き振袖は祝い事に向いたデザインなのだが。格が高いとはいえ黒地で、しかも着ている当人がどこか寂し気で悲し気な微笑みを見せていれば、不祝儀な印象となるのは当然か。
「過去に囚われ待ち続ける、か……
 私なら早々に見切りをつけるものだが」
 不毛と切り捨てそうでいて、でも、そうできない者もいるのだろうと理解を示すようなネフラの口調に、詩乃はくすりと微笑むと。
「誰かを待ち続ける。
 愛しい人や大切な友人であれば、その気持ちは自然と湧いてくるものなのでしょう」
 優しく寄り添うかのように言葉を紡ぐ。
「永い時を経て忘れてしまっても、『大切な人がいた』という事実は永遠に残り続ける。
 私はそれを知っています」
 語りかける相手に、そして傍らのネフラにもちらりと視線を向けて。その繊手で自身の胸元を示しながら。詩乃は微笑み、ゆっくりと頷いて見せた。
 大切な人がいたならば。大切なものが心に残るのなら。
 待ち続けるだろう。
 待ち続けられるのだろう。
 そんな詩乃にネフラは緑瞳を細め、美しい宝石を見るかのように見つめてから。
 そうか、と考える仕草を見せる。
「強引に現状を変えるのは得意だがここではそぐわないだろう。
 そうだね……」
 そして『待ち続けたもの』に差し出したのは、先ほど村人から貰った――
「月見団子だ。
 愉しんでみるのも悪くない。五感で今を知る事が変化の端緒となろう」
 月見祭りを象徴するような、今この村に満ちている楽しい一時を共有できる、食べ物。
 手渡されたそれを、薄青の瞳がどこかぼんやりと見下ろした。
「では私は、せめて貴女の心が安らぎますように」
 詩乃は、村人にも披露した龍笛『響月』をまたそっと手にすると。ふっと息を吹き込んで、その音色を響かせる。
 神代に存在した不死の怪物の骨を漆と金で装飾した、と言われる龍笛。ゆえにかそれが奏でる旋律は魂に染み入るように響き渡る。
 村で吹奏した祭りを盛り上げる曲とは違う。それはまるで、在り続ける事の哀しみを優しく癒すような……
 その響きに聞き入っているのか。団子を手にしたまま、じっと詩乃を見つめ続ける『待ち続けたもの』に、ネフラは誘うような手を伸ばすと。
「食べぬのなら、踊ろうか?」
 白く冷たい手を取って、静かな曲に合わせてゆるりと動きだした。
 詩乃の音を聞き、ネフラの手に触れて、そして待ち歩く以外の動きをして。
 淡い月明かりの下、染み出た過去は今を感じていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
【星月の絆】で参加

朔兎の生まれ故郷ではじっくり神社みながら夜にお散歩なんて危なすぎてできないものね。まあ、並んであるいてると本当の姉弟だね。寒いので外套きよう。もふもふの羽織。

見えてきました。確かにオブリビオンだけど・・・待ち続けて過去の存在になって、また待ち続けているんだね。話しかけても大丈夫かな?なんか他人事じゃないような気がして。朔兎もそう思う?

こんばんは。月が綺麗ですね。ああ、隣にいる子は弟分です。月と縁がふかいんですよ。誰かを待ってるんですか?私と朔兎はあいたくてあえない人がいるんですよ。同じですね。

ええ、その人は空の彼方にいるんですよ。あ、もふもふなお友達が寝ちゃってます!?


源・朔兎
【星月の絆】で参加

俺の生まれ故郷は月見しながら歩くなんて危ないからな。ああ、月が綺麗だ。俺と奏さんが歩いてるところを見守っててくれるようだ。

最近急に寒くなったので暖かい羽織をしっかり着て、と。あ、あの人かな。うん、家族に薄い髪色の女性いないから。茶と黒。でも瞳の色は愛しい姫と同じ色だな。危ない存在だとはわかるけど、儚いな。話しかけていいのかな?あいさつは奏さん頼むな。

今夜は姉貴分と月見なんだ!!お姉さんは待ってるんだね。俺もあいたい人いる!!・・・顔もしらないけど。多分、(夜空の月を指差して)あの月の向こうにいる。

今夜は少し一緒にいていいかな?奏さんと俺とお姉さん、少しでも思い出作りたいんだ。



 美味しい祭りを楽しんで、お腹が落ち着いた真宮・奏(f03210)と源・朔兎(f43270)は、ゆっくり村を歩いていた。
 平凡で小さな村で、何をするでもないただの散歩。
 でも、世界が違えば価値観も違うもので。
「俺の生まれ故郷は月見しながら歩くなんて危ないからな」
「そうね。じっくり神社見ながら夜にお散歩なんて危なすぎてできないものね」
 平穏を実感して、何もないことを楽しむ朔兎に、奏も優しく微笑んだ。
「ああ、月が綺麗だ」
 こうしてただ夜空を見上げるのも、サムライエンパイアに来たからできること。じっくりと月を見て、まんまるからちょっとだけ欠けているのに気が付けるのも、奏が大好きな世界へ連れてきてくれたからこそ。
「俺と奏さんが歩いてるところを見守っててくれるようだ」
「ふふ。きっと月からは本当の姉弟に見えてるよね」
 穏やかな景色に朔兎が呟いた願望には、奏がさらに嬉しい思いを重ねてくれるから。
 朔兎はちょっと照れたように、でも喜びを溢れさせてはにかんで。
「寒くなってきた。羽織をしっかり着て」
「ええ。もふもふの羽織を、ね」
 照れ隠しのように奏を気遣えば、姉はユーベルコードでもふもふなお友達を召喚して。動物のもふもふな温かさに包まれる。
「朔兎も」
 さらに朔兎にももふもふ。
 弟の世話を焼いてくれる姉に、この関係が心地いいのだと朔兎は改めて感じ、身体だけでなく心にも感じた温もりに、また笑みを零した。
「……見えてきました」
 そんな最中、奏が指し示した道の先。散歩してきた神社へと逆に向かうように、こちらへと歩いてくる人影に、朔兎も目を向ける。
「あ、あの人かな」
 合流しようと来てくれた家族ではない。家族に薄い髪色の女性はいないから。
(「でも瞳の色は愛しい姫と同じ色だな」)
 銀髪の下の薄青の瞳に、ふと、大切な色を思い出すけれども。それでも、ぼんやりとしたどこか虚ろで彷徨う瞳は、やっぱり朔兎が知る色とは違うから。
 2人は足を止めず、ゆっくりと『待ち続けたもの』に近付いていく。
「確かにオブリビオンだけど……
 待ち続けて過去の存在になって、また待ち続けているんだね」
「儚いな。
 話しかけていいのかな?」
「話してみたいね。なんか他人事じゃないような気がして」
 意見を交わした姉弟は、頷き合って互いの思いを確認して。
 すれ違おうとするその時に、奏から声をかけた。
「こんばんは。月が綺麗ですね」
 足を止めて挨拶。そして傍らの朔兎を示すと。
「この子は弟分です。月と縁がふかいんですよ」
「今夜は姉貴分と月見なんだ!」
 しかし『待ち続けたもの』は2人にちらりとも視線を向けず。変わらず歩き、去ろうとしていたから。
「誰かを待ってるんですか?」
 奏は別の方向から話しかける。
「お姉さんも? 俺も会いたい人いる!
 ……顔も知らないけど」
 そこに朔兎も加わって、夜空に浮かぶ月を指差し。
「多分、あの月の向こうにいる」
 そこでようやく『待ち続けたもの』の足が止まり、薄青の視線が2人に向いた。
 何を言うでもなく、ただ朔兎を見つめるぼんやりとした瞳に、奏は微笑む。
「私と朔兎はあいたくてあえない人がいるんですよ」
 待ち続けている彼女も、きっとそうなのだろうと思って。
「同じですね」
 共感を示した。
 そんな奏に『待ち続けたもの』はゆるりと視線を移し。
 しかしその身から放たれたのは、雪。舞い散る白い風花。
 寒いわけだ、と朔兎が思うと。
「あっ! もふもふなお友達が寝ちゃってます!?」
 驚きの声を上げた奏に朔兎は振り向く。
 咄嗟に奏のことも心配し、その無事を確認。もふもふな動物たちも傷ついたりしたわけではなくただ寝ているだけだと分かってほっとして。
 あ、と思って視線を戻せば。
 そこにいたはずの『待ち続けたもの』の姿は、なくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、結局見回りをさせられました。
それにしても、オブリビオンさんは見つかった……というよりも何度もすれ違っているのですが、何もする様子がないんですよね。
ですけど、そんなことをアヒルさんに報告したら、絶対に怒られてしまいますよね。
どうしたら、いいんでしょう?
ふええ、雪まで降ってきましたし、私はどうしたらいいんでしょう?
このまま、ずっと悩んでいても結局アヒルさんに怒られてしまいますし、私の運命は結局どちらを選んでも同じなんですね。
それでも、私はどうしたらいいんですか?



 こちらも村を歩くフリル・インレアン(f19557)。
 でも、月夜の村をのんびり散策、というわけではないようで。
「ふええ、結局見回りをさせられました」
 肩を落としてとぼとぼと、疲れた様子で足を進める。
 今年の浴衣をケルベロスコート風に仕立ててもらったばかりに、いつでも戦闘が出来る準備ができているのだからと、祭りを楽しむでなく、オブリビオンの襲撃を警戒させられたフリル。誰に? もちろん、いつも一緒の厳しい相棒、今は手元にいないアヒルちゃん型ガジェットにです。
 当のガジェットは、村の祭りを思いっきり満喫しているはずで。
 その事実がフリルの足取りをさらに重いものにしていたりする。
「それにしても、オブリビオンさんは見つかった……というよりも何度もすれ違っているのですが、何もする様子がないんですよね」
 びくびくしながらすれ違ったフリルに『待ち続けたもの』は攻撃しないどころか視線すら向けず、何の反応も示さず。他の猟兵が話しかけても害を及ぼしたりしていない。
 そういえば猟兵と一緒に踊っていたのも見かけたけれど、危ないことは何一つなさそうだった。楽しんでいるようにも見えなかったけれど。
 ただ、そこに在るだけのようなオブリビオン。
 そのまま何もしないで放置しておいていい気がする。
「ですけど、そんなことをアヒルさんに報告したら、絶対に怒られてしまいますよね」
 しかし、フリルのその考えを、想像の中のガジェットが突くから。
「どうしたら、いいんでしょう?」
 困惑し、夜空を見上げるフリル。
 少し欠けたまあるい月が、そんなフリルを静かに見下ろし。
「ふええ、雪まで降ってきました」
 そこにちらつく淡雪。月明かりにキラキラ輝きながら舞うその白色を映す赤い瞳は、困惑に揺れる。
「報告したら怒られますし、このままずっと悩んでいても……」
 きっと、何をのろのろぐずぐずしているんだと怒られますね。
 ユーベルコード『|運命に翻弄されし少女に決断を促す恋?物語《ターニングポイント》』が発動し、運命の2択を命中率50%にしたところで、結局どちらの50%も怒られる未来しか見えないから。
「私の運命は結局どちらを選んでも同じなんですね」
 月と雪とを哀し気に見上げて、フリルは呟く。
 どうしたらいいのか。答えの出ない問い。
 それは、待ち続けて待ち続けて、待つものに出会えないオブリビオンにも似て。
「どうしたら、いいんでしょう?」
 フリルの呟きは、雪と一緒に月夜に溶けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩瑠・さくらえ
【桜翼】

(彼人が待っているという場所へと着けば、周囲を見渡す)

(ふと目についたのは、月を眺める人物の後ろ姿
まるで鏡を見ているかのように自分とそっくりな背格好にふと笑み)

お待たせ

(思い出されたのは、いつかのクリスマスのヤドリギの下でのこと
あの時の相手はお嫁さんだったから全然状況は違う
でも、どちらも「待っている」のは同じ
だから自然と出てきたのはその言葉だった)

君は…

(名前を聞こうとして口を開いたところで、
ふいに自分の中に呼び起こされた「彼の名前」に
腑に落ちた様子で目を細め)

…翼、だね?

(弾かれたように振り向いた人物の顔を見つめ、くすくすと笑う)

ううん
姫桜からは聞いてない
君の世界の僕の記憶はないよ
でも
僕は、君の名を知ってるんだ

(胸にあるのは、娘と初めて顔を合わせた時に抱いた想いと同じ
どうしようもない愛おしさ)

君が、僕とママの子供であることも
ちゃんとね

(安堵の表情浮かべ泣き出した息子の肩をそっと抱き、背を叩いて)

本当に『未来は過去の想像なんて、遙かに越えてやってくる』よねぇ

(しみじみと言い)


彩瑠・翼
【桜翼】

(見上げるは十三夜の月
願いをかければ後に満ちて満願なると言われるという月
今日は願うだけにすればよかったかも、だなんて
今更そんなことを思ったのと同時、後ろに誰かの気配を感じた)

…っ!

(聞こえてきた、「お待たせ」と言う穏やかな声音に心が跳ねる
確かに待った、けど、勝手に待っていただけだから、待っていない
何かを言おうとして、でも言えなくて
思考だけがぐるぐるとして)

…え?!

(名を呼ばれて、ハッとして振り返る
いつか遠くから見ていた父の姿が間近にあるのを見つめ)

父さん、僕の名前知ってるの?!

(姉が伝えたのだろうか、とか
様々な疑問が浮かぶも口にはできず
けれど、表情にはありありと表れていたらしい)

…そう、なんだ

(父の言葉に
そういうこともあるんだ、と思い
続いて紡がれた「僕とママの子供」の言葉に
張り詰めていた何かが解けて)

…うん、

(落ち着くまでの間、父の肩を借り
しみじみと父の口から響く言葉には小さく頷く)

(やがて気持ちが落ち着いたところで顔をあげれば
遠くに『待ち続けたもの』の姿があったような気がした)



 お団子を食べ終わり、彩瑠・翼(f22017)は1人夜空を見上げていた。
 淡く輝き浮かぶのはまんまるの月。いや、少しだけ欠けた十三夜。
 願いをかければ後に満ちて満願なると言われる月。
(「今日は願うだけにすればよかったかも……」)
 後に満ちて。それは願った今日じゃなかったのかもしれないと。
 今更そんなことを思いながら。
 でも会いたいから。自分を知ってほしいから。
 姉が叶えてくれる願いの成就を心待ちにして。
 でも信じてもらえないかもしれないし。会いたくないと思われたかもしれないから。
 やっぱり待っていないほうがよかったかもと不安になって。
「お待たせ」
 かけられた穏やかな声に、心が跳ねた。
 後ろに感じる人の気配。それは翼のよく知るものにとてもとても似ていて。
 聞こえた声も、聞き覚えがある声色。
 でも、その人とは違う、待ち人。
 そう。確かに待っていた。けれど、翼が勝手に待っていただけだから、待っていない。
 どう答えたらいいのだろう。
 そもそも、最初は何を言ったらいいのだろう。
 言いたいことは沢山あるはずなのに、言うべき言葉が見つからなくて。
 思考だけがぐるぐる回り、振り向くことすらできない。
 そんな翼の後ろ姿に、彩瑠・さくらえ(f44030)は赤い瞳を細めた。
(「そっくりだな」)
 まるで鏡を見ているような、よく似た背格好に微笑みが零れる。
(「息子、か」)
 この世界の『娘』から聞いたばかりの『きょうだい』の存在。どんな子かどころか、妹か弟かすらも教えてもらえなかったその答えの一端を目にして。
 思い出したのは、いつかのクリスマスのヤドリギの下でのこと。
 あの時待ってくれていた相手はお嫁さんだった。
 金髪でも長髪でもないし、男女で体格すら違う。それに待ち合わせた状況も。
 全然違うシチュエーション。
 だけれども、どちらもさくらえを『待って』いてくれたから。
 あの時と、同じ。
 だから自然と、同じ言葉をかけていた。
 それでも振り向かない相手に続けて呼びかけようとして、さくらえは、名前を聞かされていなかったことを思い出す。
「君は……」
 名前は、と聞こうとしたところで。不意に自分の中に呼び起こされた『名前』。
(「ああ、そうか」)
 酷く腑に落ちて。笑みを深くして。
「……翼、だね?」
「え!?」
 口にした名に、弾かれたように翼が振り向いた。
「父さん、僕の名前知ってるの!?」
 初めて会う少年。『この世界の自分』の息子。自分の世界ではまだ生まれてすらいない存在を、その顔を、さくらえはじっと見つめる。
 短い漆黒の髪は自分と同じ。大きな黒瞳が驚きに見開かれた顔立ちはどこか可愛らしくて女の子のようにも見えるから、お嫁さん似かなとも思う。身長は自分とそう変わらないけれど、感じる子供らしさに中学生か高校生か、なんて年齢も考えて。
 でもそれよりも何よりも、驚きと戸惑いと、そして紛れもない喜びが混じった翼の表情にさくらえは惹きつけられ、思わずくすりと笑っていた。
「だって会うのは初めて、だよ、ね? 『向こうの僕』はまだ生まれることが分かってもいないはずだし、父さんと『父さん』は別々の存在だから記憶も別々のはずだし……
 あ、姉さんから聞いた!?」
「ううん。姫桜からは聞いてない。
 それに、君の世界の僕の記憶はないよ」
 浮かんだ数多の疑問をそのまま表に出しているかのような素直な様子に、さくらえはくすくすと笑みを含みながら否定の動作を返す。
 驚愕と困惑に混乱し慌てながらも、確かに滲み出ている歓喜の感情が、とても嬉しくてどうしようもなく愛おしいから。
「でも僕は、君の名を知ってるんだ。
 君が、僕とママの子供であることも。ちゃんとね」
 さくらえは優しい眼差しを翼に向け、ゆっくりと、そしてしっかりと告げた。
 普通なら、1人娘しかいない自分に、娘より年上の少年が娘の弟だと現れたら、信じないものだろう。その前に、少年よりも年上に成長した『娘』と会っていたとしても。
 でもさくらえは確信していた。
 この子は確かに『息子』なのだと。
 なぜなら。
(「姫桜と初めて顔を合わせた時に抱いたのと、同じ想いだ」)
 小さい命と対面し、その温もりを感じた時のことを思い出して。
 あの時と同じ愛おしさが、今、確かにさくらえの中に満ちているのを感じたから。
「ね、翼?」
 微笑むさくらえの前で、翼の大きな黒瞳からぽろぽろと涙が零れる。
 ずっとずっと、会って話したかった。
 その存在を知った時からずっと。別の世界の『もう1人の父親』と。
 でも、ずっとずっと、不安だった。
 信じてもらえるのか。会えてよかったと言ってくれるのか。
 相反する思いで張り詰めていた気持ちが、さくらえの笑顔で、ふっと解けて。
 溢れた雫すらも受け止めるかのように、さくらえがそっと翼を抱き寄せた。
 その肩に顔を埋め、翼は思いを零す。
 泣きじゃくるほど子供ではない。
 でも、泣き止めるほど大人でもないから。
 静かに流れ出る涙。
 黙ってそれを受け止めてくれる『父親』。
「……うん」
 翼は、ただそう頷くだけしかできなかったけれども。
 さくらえには伝わったと感じる。
 自分の存在が。自分の思いが。
 そして、さくらえの気持ちが、翼の中に流れ込んできたような、そんな気がして。
 翼は『父』の大きな腕の中で、温かな安らぎの中で、気持ちを落ち着けていった。
「本当に『未来は過去の想像なんて、遙かに越えてやってくる』よねぇ」
 しみじみと呟くさくらえの声が、頭の上に降ってくる。
 そこに満ちた優しさと、そして嬉しさを感じて。
 翼は、ゆっくりと顔を上げ、そっとさくらえから身体を離す。
 改めて対面する親子。
 出会えた待ち人たち。
 これから紡がれていく時間に、翼は口元を緩めて――
 さくらえの笑顔の向こうに小さく『待ち続けたもの』の後ろ姿が見えた、気がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
できれば戦わずにオブリビオンとしての存在から解放したいです。

自分に似た面影の彼女に静かに近づきます。反応があるなしに関わらずお声をかけて。
少しお話をしませんか?
もし彼女が語る事があるのなら聞いてみたいと思いますが……。

私自身の話ではありませんが一つ。
その方は何かを待っておりました。今となってはその何かは人とも物ともわかりません。
ですがある時とうとう寿命はつきこの世を去りました。
でも消えるその時その人は安堵しておりました。
もう待つことをしなくていいと。身体も心も何もかも消え去ることができるのだと。
あなたの気持ちを変える事は出来ないのかもしれません。
でも待つ以外の道もあるのだと伝えたい。

私は占い師です。
いつもならばお話しを聞きカードからアドバイスをお伝えするのですが、でも彼女のはきっと読めない。
それはオブリビオンだからでもあるでしょうが、それ以上に占者は自分の事は読めない。
それは勘でしかありません。でもその面影は私と何かしらの縁があると不思議と確信があるのです。



 ――ずっとずっと、待っていた。
 何を? 誰を?
 大切な何かだったと思う。愛しい誰かだったかもしれない。
 もう覚えていない。失われてしまった記憶。
 でも、残っている。
 ――ずっとずっと、待っている。
 何を待つのかも、分からないまま。
 オブリビオン『待ち続けたもの』は、月見祭りの村を、行く。
 ゆっくりゆっくり歩くうちに。
「待ち続けるいうんは、好意がないとできんよね」
 銀髪の男性がぽつりと話しかけて来た。
「別嬪さん。あんたの願いは多分叶わないだろーけど。
 穏やかに祈って待つ時間が持てると良いねェ」
 白い鸚鵡を連れた赤髪の男性が優しく願い呼びかけてきた。
「永い時を経て忘れてしまっても、『大切な人がいた』という事実は永遠に残り続ける」
 長い黒髪の女性が語りかける傍らから団子が差し出されて。
「愉しんでみるのも悪くない。五感で今を知る事が変化の端緒となろう」
 宝石のように煌めく緑髪の女性が手を取り踊り出した。
「俺も会いたい人いる! 多分、あの月の向こうにいる」
 白い髪の男の子が満ちた月を明るく指差して。
「私と朔兎はあいたくてあえない人がいるんですよ」
 緩やかな茶髪の女性が穏やかにでも少し寂し気に共感を示した。
 大きな帽子を被った銀髪の女の子と何度かすれ違った『待ち続けたもの』は。
 村の外れで、その光景を見た。
 そわそわと落ち着きなく『待つ』黒髪の少年。
 そこに、何処か似た印象を持つ黒髪の男性が近寄って……
 ――ああ、会えたのね。
 大切な何かと。愛しい誰かと。
 ずっとずっと待っていた何かと。
 やっと、会えた。
 ――私は?
 遠目に見える2つの姿をぼうっと眺めながら『待ち続けたもの』はふと思い。
「こんばんは」
 静かにかけられた声にゆるりと振り向いた。
 そこにいたのは夜鳥・藍(f32891)。白地の浴衣を纏ったその姿は、結い上げた銀髪と白い肌も相まって、月明かりに照らされ浮かび上がっているかのように美しい。
 そして『待ち続けたもの』にとてもよく似ていた。
 喪服を思わせる黒い着物と、総レースの白い浴衣は対照的だけれども。背格好も、髪の銀色も、顔立ちも、鏡写しのようで。だからこそ、『待ち続けたもの』の長い長い髪と、意思の薄れたような穏やかな表情と、藍よりも薄い色の青瞳は、待ち続けた時間の長さを思わせるかのようだった。
 そんな写し身のような2人は見つめ合い。
 自身を見る『待ち続けたもの』にそれ以上の反応がないことを確認した藍は。
「少しお話をしませんか?」
 そう切り出した。
 しかし、『待ち続けたもの』からは賛同も拒絶もなく。
 頷くことも踵を返すことも、なんの反応も返らず。
 もし何か語ってくれるのなら聞きたいと思っていた藍だけれども。
 ただただ見つめ合うだけの時間がしばし流れ。
「私自身の話ではありませんが、1つ」
 だから藍から語り出す。
「その方は何かを待っておりました。
 今となってはその何かは人とも物ともわかりません」
 それは昔々の物語。
 転生した藍の中に微かに残る『誰か』の思い。
「ですがある時、とうとう寿命はつき、その方はこの世を去りました。
 でも消えるその時、その方は安堵しておりました。
 もう待つことをしなくていいと。身体も心も何もかも消え去ることができるのだと」
 訥々と語る藍を『待ち続けたもの』はぼんやりとした青瞳で見つめ。
 それを藍の宙色の瞳が真っ直ぐに見据える。
「あなたにも、待つ以外の道もあるのではないですか?」
 そして藍は問いかけた。
 いや、問いかけの形を取って、伝えようとしたのだ。
 もう待たなくてもいいのだと。
 待つことをやめていいのだと。
 だってもう『誰か』は待っていないのだから。
 でも、伝えながらも分かっていた。
 目の前の相手はオブリビオン。すなわち、染み出た過去。
 今から『待ち続けた過去』を変えることはできないから。
(「あなたの気持ちを変える事も……」)
 きっと、できない。
 それでも、変えられたらいいと思い。願って。
 藍は『待ち続けたもの』と向き合う。
 しかし。
「上手くアドバイスできませんね」
 変わらぬ様子に、藍は少し顔を曇らせ、目を伏せる。
「私は占い師です。お話を聞き、カードから読み取ったことをお伝えしています。
 でも、あなたのことは……」
 占えない。
 それは勘でしかないけれども。
 根拠は『待ち続けたもの』の面影だけという不確かなものだけだけれども。
 確信に近いくらいに強く思う。
(「きっとあなたは、私と何かしらの縁がある」)
 だから。
 選者は自分の事は読めないから。
 藍は『待ち続けたもの』の占い師にはなれない。
 アドバイスができない。
 ただできるのは。
「私はあなたを解放する術を持っています。
 私なら、待ち続けることを終わらせることができる」
 それだけ。
「きっと私だけが」
 終わりという変化をもたらすことができる。
 ただの勘。でも確信。
 そうしなければならないと思ったから。
 藍は、ここに来た。
 待ち続けたものに会いに来た。
 それを告げて。
 俯きかけていた顔を上げて。
 再び『待ち続けたもの』を見ると。
 そこには淡い笑顔が、あった。
 ――ああ、会えたのね。
 ぼんやりとしていた今までの微笑とは違う、安堵の混じった笑み。
 何も変わらなかった彼女の初めての確かな変化。
 ――やっと、会えた。
 その穏やかな微笑みに、藍は宙色の瞳を細める。
 やるべきことをやりとげるために。
「……|白銀《しろがね》」
 翼持つ銀狼を召喚して――

 十三夜の月が淡く輝く夜の下で。
 村の祭りは続き。
 待ち続けた1つの過去が、終わった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年02月04日
宿敵 『待ち続けたもの』 を撃破!


挿絵イラスト