2
花と紡ぐ縁

#エンドブレイカー! #ノベル #猟兵達の夏休み2023

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#エンドブレイカー!
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2023


0



ルシエラ・アクアリンド




 都市間を移動しての生活をしていた頃――植物はプランターで育てていたことをルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)は思い返す。
 プランターで植物を育てるのも、癒しであったし楽しかった。けれど、何時かはしっかりと本格的な花壇を作る――ずっと持っていた夢の、その何時かは今。
 猟兵となった今、それが叶い、のんびりながらも趣味の庭いじりのために花の為の朝市があると聞いて、ルシエラは足を延ばした。
 夏の花々、それにこれから植えると丁度良いもの。そう言ったものも見たいし、質の良い肥料があればほしい。
 他にも、お庭グッズなものがあれば色々と見てみたいところ。
 噂では園芸は趣味の長老が、何かすごいものを出しているとかないとか――そんな話も聞いて、ラッドシティの花の朝市へ。
 もうすぐそんな朝市が行われている通りに――と、少し先を歩いている人物の姿に見覚えがある。
「あれは……レミィさん?」
 酒場でよくその姿を見かけていたレミィ・レミントン(紫煙銃の城塞騎士・f39069)、間違いなくその人だ。
 声をかけようか、どうしようか――声をかけるならなんと、とルシエラは考える。
 けれどここで出会ったのなら折角なのだ、声をかけようと歩み進める。
 視線を向けているせいもあったのかもしれない。レミィが立ち止ってぱっと振り返る。
 ルシエラはぱちりと瞬いて、ひらりと手を振ると。
「おはよう」
 そういってから――もっと何かほかにあったのでは、なんて思ってしまう。
「おはようございます。ふふ、何を考えてらしたの?」
「おはよう、であってたかなって」
 その言葉にレミィは瞬いて、正解ですよと微笑む。
 だって今は、朝なのだから――そういえばそうか、とルシエラは思い直す。
「レミィさんはどこかに?」
「わたくしは見回りです。ええと」
 酒場ではすれ違うこともありなんとなく見覚えはある。ルシエラはこのラッドシティで戦っていたレミィの事をしっているけれど、こうしてちゃんと言葉を交わすのは初めてのことではないだろうか。
 そう思いいたって、ルシエラは名を告げる。
「ルシエラさん改めて……初めまして?」
「初めましてって感じはしないけれど、初めまして」
 なんて言葉を躱せばどちらともなく笑みが零れた。
「ルシエラさんは朝早くにどちらに?」
「私は花の朝市へ」
「あら。今日のわたくしの見回りもそちらなのですよ」
 折角ですので一緒に参りません? と言うレミィに頷き一つ、ルシエラは返す。
 ひとりで回るのもきっと楽しいのだろうけれど、ふたりだともっと楽しそう。
「レミィさんは良く来るの?」
「朝市は夜勤帰りによって朝ごはんを買って帰ったりしますわ」
 わたくし、捜査官ですしとレミィは言う。そのまま、巡って気付けばお昼なんてこともと笑いながら。
 ルシエラはなるほどと頷いて、じゃあおすすめのお店とかある? と尋ねてみる。
「見かけたら絶対行った方が良いのは、フルーツサンドのお店ですわ!」
 今日はいつものところに店を出していなかった様子。
 そこのフルーツサンドは断面が花になるように作られていて見ていて楽しい。けれど人気なのですぐ売り切れてしまうらしい。
「それは買いに行かなきゃ」
「あとは……朝よりはお昼がおすすめ、という感じですが」
 あちらは美味しいですよと示したのはあげもの屋台。
 オニオンリングならぬ、オニオンフラワーなる屋台だ。たまねぎに切りこみを入れてあげれば、花のように開く。
「玉ねぎ……野菜を育ててみるのもいいかも」
「ということは何か育てるものをお探し?」
「そう。庭いじりが趣味なの」
 だから今日は、朝市にと改めて。でもまだ何をどうというのは決まっていないのだ。
「あっちに種や苗も色々ありますわ。もちろん、花なども」
 行ってみましょうとそちらへと足を向ける。
 その途中もいろいろなものがあって、気になれば足を止めたりとゆったりとしたお散歩だ。
「この鋏は……ちょっと使いにくい」
「ルシエラさんは左利きなのですね」
「そう。だからスコップとかはともかく、鋏はなかなか」
「左利き用も尋ねればあるかもしれませんわ。そこのおじ様、鋏を探しているのですけれど」
 と、園芸用具も使いやすいものがないかと探してみたり。
 他にも、色々なものがあって見て歩くだけでも楽しい気持ちになる。
「この如雨露、お洒落……底に穴?」
「それは如雨露の形をした鉢ですわね」
「こういうのもあるんですね」
 大き目の、椅子の形をしたフラワースタンド。プランタースタンドも組み合わせ自由というような、このあたりは庭をお洒落に彩るためのグッズが多いようだ。
「あ、かわいい」
 見てくださいこれ、とレミィが示したのは素焼きの星霊たちの置物。
 クロノスにクリン、スピカたちが並んでいる。
「庭にいたら楽しそう、鷹や仔竜はいないのかな」
 ぱっとみた限りではいなくてちょっと残念。いたらうちの子の様と連れて帰っていたかもしれない。
 ルシエラはこういうのを置くのもいいかも、とちょっと思うのだ。
「お庭のものは沢山ありますのね。いつもさらっと眺めているので、おもしろいですわ」
「レミィさんは、好きなお花や植物はある?」
「わたくしの? そうですわね……大ぶりのお花も好きですし、小さめのお花も好きですし……」
 うーんと少し悩んで
「色で選ぶなら赤やピンクのものを自然と手に取っていることはあるかもしれませんわ」
 確かにそんなイメージがあるかもとルシエラが思っていると。
「ルシエラさんは? どのようなものがお好きなのです?」
 逆に問われて。
「何方と言えば小さな花が好きですが勿論大きなものも好きです」
 あとは、と思い浮かべるのは緑生い茂る樹木。その姿を思い浮かべるなら。
「あと、割とエルフヘイムの樹木も好きだったり」
 割と節操なしでいろんなもの好きかもと言いながら、ふとルシエラの目に留まったのは生花の並ぶところ。
 小さな、すでにできている選ぶだけの花束もあれば、好きな花を選んで纏めてくれるようでもある。
「組み合わせも色々できそうですわね」
 ひとつ買ってデスクに飾ろうかしらと、レミィが言っているのが聞こえて。
 それならとひとつ、ルシエラは花を選んで手に取る。
 小ぶりの薄いピンクのアガパンサスと白いジニアの花を、お願いして可愛らしい小さなブーケに。
 その花は、『知的な装い』『幸福』という花言葉を持っているのをルシエラは知っていたから。
「お土産ですか?」
「ええ、これは……レミィさんに」
「わたくしに?」
「お付き合い頂いたお礼に」
 その花をレミィはありがとうございますと受け取って。
「わたくしのデスクに飾らせていただきますわね!」
 今日もお仕事が頑張れますわと笑むレミィ。
「でもわたくしも楽しい時間をいただき……あっ! ちょっとお待ちくださいませ!」
 何かを見つけてレミィは少し離れて、そして戻ってくるとその手には。
「ふふ、件のサンドイッチ屋さんが、そこにいましたの!」
 いつもと場所を変えていたようですわねと言いながらルシエラへと差し上げますと紙袋ひとつ。
 その中をそっと見れば予想した通り花の断面のフルーツサンド。オレンジが花で葉っぱにはキウイだろうか。
「今日のおやつにしてくださいませ。わたくしも、おやつにいたします」
 と、ちゃっかり自分の分も買ってますのとレミィは見せる。
「わたくしはそろそろ詰所に戻らねばならないのですが……」
 本当は最後までご一緒したいのだけれど、とレミィは零す。ここで出会えたのも御縁ですしと紡ぐ姿は名残惜しそうだ。
 そういえばレミィは見回りの途中だったとルシエラも思い出して――確かに、なんだかここでさよならと終わるのはもったいなくて。
 ひらりと手を振りつつ、ルシエラは微笑んで。
「じゃあ――またね、レミィさん」
「! ええ、また、ルシエラさん」
 これはきっと、偶然の出会いからはじまる御縁。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月20日


挿絵イラスト