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夏市遊山を三人で

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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#猟兵達の夏休み2023


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マオ・ロアノーク



メゥ・ダイアー



花牟礼・桜深




 まだ完全に太陽はのぼりきっていないけれど、それでも。
「うっはぁ、今日も暑い……ッ。残暑どころか、まだまだ猛暑だよー……」
 まだ朝早いというのにもう暑さの気配がひしひしと迫っている。
 マオ・ロアノーク(春疾風・f40501)は麦藁帽子をしっかりかぶり――すると、その角はずぼっと突き出てしまうのだけれど、気にせず。大き目のTシャツに動きやすいショートパンツ、そして足元は涼し気なサンダルはいてくるりと回って、二人へと笑いかける。
 今日、これからがとても楽しみというように。
「でもでもとってもいいお天気! お出掛け日和で良かったね!」
「僕もちょうど遊びに行きたかったんだ!」
 うんと花牟礼・桜深(桜の樹の下・f35453)は笑顔と共に。桜深はその髪色と同じ色味の水着を纏って、桜色の瞳を柔らかに、笑みの片茶に。
 そして、もう一人。
「誘ってくれてありがとうね。マオさん! メゥさんも今日は楽しい日になるといいな」
 ね、と桜深が視線を向けた先、一番小さなメゥ・ダイアー(|記憶喪失《わすれんぼ》・f37609)は二人を見上げて大きく頷く。
 その表情はきらきらとしていてとってもわくわくしているのは間違いないというところ。
「メゥ楽しい所を探しに行くのは大好きだけど、いっしょに行こうねってお約束して行くのははじめてかも!」
 また「はじめて」が出来たのうれしいなーときらきらの笑顔で嬉しそうに。メゥもセーラー風の水着に、頭には夏の花を飾ってお気に入りのカラフルビーズも一緒に。それにメゥの大事なタグは足につけて、わすれない。
 海辺の近くの花市は、そのまま海にだって遊びに行けてしまうのだ。
 今日は一日、なんでもできて、楽しくなる予感しかなくて、さっそく三人でお出掛け。
 暑いというのに、元気に咲き誇る花々。時折店先でしゅっしゅと霧吹きで水をかけてもらいクールタイムの姿も見られる。
 水をあびた花々はまた一層瑞々しく、きらきら輝いて見えた。
 色々な花が並んでいて、賑やかでなんとなく浮足立ってしまう心地。
「すごいっ……綺麗……! 圧巻だね!」
 マオは並ぶ花々に感嘆の声あげる。
「お花市、どんなお花があるかな!」
 メゥも楽しみとめいっぱい笑み浮かべる。元気な黄色、情熱の赤などなど、その色味も様々だ。
 さてどんな花々が並んでいるのか――目を向けるだけでも楽しい。
「『桜』は、マオさんと桜深さんがお名前教えてくれたんだよね」
「桜はさすがに今日はなさそう……ううん、あったね」
 マオとメゥは視線合わせて、そしてここにと桜深を示す。
「桜深さんのお水着は桜がいっぱいできれい!」
「ふふ、ありがと」
 ふわりと広がるその裾に舞う桜柄。桜深はふと、どこからか届く香りにすっと深く息吸いこんだ。
「色々な花があるね。ふふ、花の良い匂いがしてる。朝早くからこうして出かけるのもいいね」
 メゥも桜深が深呼吸しているのを見て真似っこ。
「ほんとだいい匂い!」
 これは初めての香り。これが夏の香り? と首傾げるけれど、いったいどの花からなのかはわからない。
「メゥは夏2回目だけど、まだまだ『はじめて』いっぱいでうれしいなっ」
 さてさて夏の花といえば、とマオは示す。そこの水鉢にあるのは、蓮、睡蓮と。
 すると瞳輝かせて、メゥは尋ねる。
「ねえマオさんコレは! このお花はなんてお名前?」
「ダリア、朝顔」
「そしたら、次、こっちのお花は!」
「ハイビスカス……多いよ!!」
 次々と示される花の名前をぱっと紡いで。
「まだまだいっぱいある!!」
 それでも、まだ通りに花々が沢山あるのだ。
「メゥ、あとは『向日葵』のお名前はコンテストの時に教えてもらったよ」
 メゥの頭と、あそこにもある! と示して。メゥの指先追いかければ、元気いっぱいに咲いた向日葵が沢山咲いていた。
 その向日葵を大きな花束にして買った人が、三人の横を通りぬけていく。
「……あ、ほんとだ向日葵。早速見付けたね!」
 と、さまざまな花々を見て回って。あれこれとすぐマオの口から花の名前が零れてくることに気付いて桜深はふわと笑む。
「へぇー、マオさん色々花に詳しいね!!」
「詳しい……のかな?」
 その言葉にこてとマオは首傾げる。でも少し、思い至ることはあった。
「僕、よく知らない場所に迷い込んじゃうんだけど、そこで見かけたお花とかを、気になって後で調べてみたりしてるんだー。そのお陰……かな? あはは」
 照れたように、少し恥ずかしそうにマオは笑う。
「えーっと、次はこっちかなっ?」
 いろんなものに気を惹かれて――あっちへ、こっちへと人混みの中を渡っていく。
「あ、あっちにもすごいお花! ねえねえ、……あれ、どこに行っちゃったかな?」
 そしてメゥもきょろきょろ。いない……とふよふよと周りに浮かぶ白燐蟲と一緒に、あっちへ、こっちへ。
 惹かれるものをみつけたら、足はそちらへ向いてしまう。
 けれど――なんだか、ちくり。
 それは刻印の痛みとは別の――少し不思議な『はじめてのきもち』。
(「なんだろうこれ」)
 そう思って小さく首傾げて、でもメゥの耳にその声が届く。
「メゥさん、桜深さん、早く早くーー……ってアレ!? ……2人共……どこ……?」
 花を見ていたからもある。そして人が増えてきたからもある。
 はぐれてしまった――それに桜深も気付いてきょろきょろ。
「……ってあれ? 皆どこにいったの??」
 マオとメゥの姿が見えない。けれど、おーい! と声が聞こえてあっちかなと向かえばぴょんと跳ねる見覚えのある麦藁帽子と、角。
 桜深も人混みの中抜けて声のする方へ向かえばぴょんと、先にメゥが人混みから飛び出す姿が見えた。
「わーっ! よかった!」
「えへへ、マオさんの声聞こえたからっ」
「うん、あえてよかったね」
 マオの姿が見えて、メゥは笑顔でとててと走り寄る。桜深もふたりのもとへ。
 よかった~とマオは一安心。
 と――丁度、再び出会ったのは花を売っている店の前。けれど、他の物も並んでいるようだ。
 それに気づいて、花深は店を覗き込む。
「へぇ、ここはアクセサリーも売ってるんだ」
「んー、すごいな、かわいいなってなったお花いーっぱいのアクセサリーもいいなあ……」
 うう、どでもこれもかわいいとメゥは難しい顔。
 ひとつ選ぶならどれかなぁと、それはとても楽しい悩みでもあるのだ。
「そうだねメゥさん花が沢山付いてるアクセサリーはきっと似合うと思うよ。ネックレスやブローチも華やかだよね」
 ネックレス、ブローチと新たなアイテムの名にメゥはそれも見たいと視線はあっちへこっちへ大忙し。
 どれもこれもかわいいとなってしまうのだ。
「マオさんは自分でアクセサリーが作れたりするのかい?」
「アクセサリーかあ……どうなんだろ、作ったことないや」
 細かい細工も施されたアクセサリーみつつ、できるかなぁ、どうかなぁとマオは考える。
「あ、でも、武具の軽微な修理ぐらいなら自分でやってるよ。これでも旅の吟遊詩人だからねっ」
 ふふんと得意げなマオに、武器の修理もしちゃうのか、すごいねと花深は紡ぎながら、色々見てふと思う。
「……そうだな、僕も何か花を買おうかな!」
 やはり、花市なのだから――さっき向日葵の花束抱えたのを見て、ちょっといいなと思ったところもある。
 部屋に飾るのは勿論いいけど、枯れる前に押し花にして栞とかにすれば今日の思い出にもなるしと桜深は紡いで。
「桜深さんは買ったお花を栞するんだね! そっかー、そうやってとっておくこともできるんだっ」
 それもとっても素敵な事。
 でも、とメゥはちょっとばかりしゅんとする。
「メゥは栞の作り方わかんないから……」
「……あっ、2人も作る? 作り方わかるから教えてあげれるから良ければ一緒に作ろう」
「わあ、桜深さんが先生してくれるの? やったー!」
 わぁいと嬉しさいっぱいの声。そしてメゥは、ひとつ良い事思いついて。
「そしたらメゥは、お花を買ったらドウェルグのお船に飾らせてもらえるかお願いしてみる! それでマオさんもいっしょにみんなで栞作ろ!」
「栞に……なるほど良いね、僕もおんなじにしよっと」
「メゥ、前からみんなと『楽しい』が作れたらいいなーって思ってたの」
 今日は『楽しい』がいっぱいあって。そしてまた、増えていく。それが嬉しくてメゥはにこにこの笑顔だ。
 その笑顔にマオもつられるように笑って、うんいいねと頷きどうしようかなと考える。そして、ふと。
「……あ」
 マオはひとつ、良い事を思いついて。思いついたならとぱっと二人に顔向ける。
「ねね、どうせならお揃いにしない? お花1つだけっ」
「お揃いかぁ……いいね、そうしよう」
 桜深は――じゃあ、お揃いはスターチスはどう? と提案する。
 同じ花だけれど、いろんな色がある。好きな色を選べるかなぁって、と提案。
 濃いめのピンクがなんだか目に着いたから、これかなと花深は手に取る。
 それからもうひとつは、ジニア――今日纏っている色と似た花弁の色がとても綺麗だったのだ。
「お花の色と、他のお花どうしようー…………うんっ、じゃあ僕は、店員さんにお任せで!」
 そういってお任せして――ならと合わせてくれたのは青紫色のスターチスにカスミソウの白。それが空色の台紙の上にあるものだ。
 その色を見て、じゃあとメゥが選んだのは白色のスターチスに、千日紅。
 スターチスの色は、マオの白と同じで。そして千日紅の色は、桜深のスターチスの色と同じ。
 二人の真ん中のような色合い選んで満足だ。それにまぁるくて、なんだか可愛い。
 そして花束抱えて歩く朝市――その中でひとが良く集まっている場所を見つけた。
 それは、アイスクリームの屋台。
 三人視線を合わせて、行かなきゃと足は自然とそちらへ。
「なに味があるかな、ソーダは食べたことあるよ!」
 メゥはいっぱいある! とアイスクリームケースの中を覗き込む。
「メゥはね、赤色がすきだけど、楽しそうな味がいいなー」
 そう言って見詰めた先――カラフルポップという名前のアイスクリーム。バニラと食べたことあるソーダ味のアイスが混ざっていて、その中に赤や黄色、いろんな色のつぶつぶが沢山。
 弾ける美味しさ――そんな説明に、これにしよ! とメゥは決める。
「僕ねえ、シャーベット!」
 お目当てのものは実はすでにあってマオは視線を巡らせる。
「ブルーラズベリー味、っていうの食べてみたいんだけど……あるかなあ……?」
 きょろきょろとあるかどうか目線動かして。マオはあったと瞳輝かせて決まるのはすぐ。
「うーん、どれにしよう? どれもすごく美味しそうだから迷っちゃうな」
 定番のバニラから、ちょっと変わり種のものまで。
 シャーベットはしゃくっとした食感だろう。アイスクリームは見るからに舌ざわりよさそうで悩みどころ。
「うーん……バニラ……いちご……きなこ味?」
 と、桜深はどれにしようかなと悩みに悩んで。
「……よし、じゃあいちご味にしようかな」
 大粒のごろっとした果肉入り。それがとても魅力的だったのだ。
「二人は何にした?」
 桜深が問えばこれ! と二人は見せてくれる。
 思いのほか真っ青な、ブルーラズベリー味のマオと。
 カラフルポップという、なんだか楽しそうな色をしたメゥのアイスクリーム。
「うわお真っ青! 味は……ラズベリーとブルーベリーを合わせたみたいな感じだね」
 一口、食べればひんやりと。広がる甘さに幸せと笑み浮かべてもう一口。
「甘酸っぱくって美味しい~……! 火照った身体にひんやりが染み渡る~……」
 それぞれ自分のアイスを堪能したなら、他のふたりのものも気になってくる。
「良ければ僕のも食べてみない? 味比べだよ」
「わーい食べっこだ!」
「メゥのは、カラフルポップ! ぱちぱちするのっ」
「楽しそうな味にしたメゥさんのアイス気になる……!」
 とってもお口の中が楽しくなるのと言われて一口。
「メゥさんのは……あっはは! 面白い味っ! なんだろこれ……ねっ、もう一口もらっても良いかなっ?」
「もちろん!」
 しゅわしゅわっと弾ける味が不思議で面白くてマオはもらった一口でまた笑顔いっぱい。
 そして弾けるお味に桜深は、本当に楽しいと言って、次は僕のをどうぞと差し出す。
「桜深さんいちご味にしたんだね。……うんっ、こっちのも甘くて美味しいっ」
 半分ほどアイスクリームを食べて、そろそろいいころかなとマオはうずうず。
「見へみへーー! えっへへ。コレ、やってみたかったんだ~!」
 そのために探していたブルーラズベリー味。
 悪戯っぽく「れっ」と青くなった舌を見せるマオ。
「……わっ、マオさん、舌が真っ青だ」
「メゥもカラフルになってる?」
「うーん、メゥさんの舌はそのままかなぁ」
 残念、とちょっとだけしょんぼり。そんなメゥに、じゃあ青くしちゃお! とマオは自分のアイスをもう一口お裾分け。
「面白いね! 僕も苺味の舌かなぁ……」
 と、ペロッと舌を出してみるけれど、何も変わってないねとマオとメゥが告げる。
 だよねと笑い返してふふと笑み零す。
 アイスクリームを食べ終わって、また朝市を巡る。
 巡りながら、マオは伝えとかなきゃと言葉紡ぐ。
「今日は一緒に来てくれてありがとう」
 二人を誘って、こうして楽しい時間を過ごせて、僕はとっても楽しかったよ! とマオは紡ぐ。
「ふふふ、今日は楽しい一日ありがとう。僕もとっても満喫できたよ。またこうして遊べたら嬉しいな」
「おともだちとお出かけたのしいねっ」
「また来ようね、桜深くんっ、メゥちゃんっ!」
 桜深もメゥも頷いて――そして、メゥはちょっとどきどきしながらふたりの間にはいってそっと手をとる。
 それにさっき、マオが自分を呼んだ時の変化も嬉しくて。
「あ! あのね。こうやって手を繋いで」
 マオと桜深、どちらも見上げてふわと笑って。
「これできっと『マオちゃん』も迷子にならなくてすむねっ」
 手を繋いでいればどこに行くのだって一緒に行けるから。
 マオもまた、その呼び方の変化に笑み深める。心内からあふれる嬉しさと幸せがいっぱいだ。
「うん、ひとりじゃないから迷わないね!」
 それに、さっきみたいに人混みではぐれる事もない。
 まだ時間はある。だって朝早くから、出てきたのだから。
 さぁ次は何処に行こうか、何を見ようか――楽しい時間は、まだ終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月18日


挿絵イラスト