エンドブレイカーの戦い⑰〜Witch-Hunting
もうすぐ……私は以前の力を取り戻す。
過去を何度でもやり直せる究極の能力、『エンドテイカー』を!
私の力は既に他の魔女や往時のイヴを凌駕する。この戦争を全て最初から「やり直し」してくれよう。
私こそが、世界の全て。
私に勝てるものなど、この世にありはしないのだ……!
――帝竜「ワーム」、帝竜戦役において猟兵と相対したそれは、11の怪物の一柱、ラハムと合体するに至った。傲慢と凶暴を司るその存在を呑み込み、ついに、彼女が再誕する。
●Re
「いつかこんな日が来るとは思っていたが――意外と早かったな」
猟兵であり、同時にエンドブレイカーの一人であるヴィトレル・ラムビー(斧の狩猟者・f38902)は、そう言って口の端を吊り上げた。
経緯の正確なところまでは把握できていないが、『分かる』のだと彼は言う。
「間違いない、あれは大魔女スリーピング・ビューティだ」
この世界全てを相手取り、冒し狂わせ破滅の一歩手前まで持ち込んだのがあの魔女だ。長い長い戦いの後、15年前に討ち取られたはずだが、オブリビオンとして、さらには怪物ラハムと一体化して戻ってきたものらしい。
彼女の持つ能力は「エンドテイカー」、「自身の望む未来を得られるまで、何度でも過去をやり直す」という凶悪なものだ。本来は別の目的のために在った力だが、この大魔女はそれを己の欲望の為だけに、躊躇いなく使ってくる。
「この能力についてはまあ……無茶苦茶としか言いようがないな。万全のあれとやりあうことになったらどうにもならんだろう」
エンドブレイカー世界における伝説の勇者達、ラズワルドをはじめとした彼等もまた、この能力の前には勝機を見いだせず、時間稼ぎしかできなかった。だが、再孵化を経たばかりの大魔女は、まだこの能力を完全には取り戻してはいない。
「やりなおし」の利く時間は60秒前までがせいぜいだ。それでも凄まじい能力であることに変わりはないが、そこにはきっと、隙があるはず。
「いけそうか? ならば――頼んだぞ」
活路を見出した者達の瞳を見て、ヴィトレルは彼等を送り出した。
●PlanB
「……で、だ。何も対策が思い付かなかった者は居るか?」
ちなみに私もそうなんだが、と言いながら、残った者達へと笑みを向ける。
「それでも戦う気概があるなら、手を貸してくれ。敵の先制攻撃を捌き、出来る限り強烈な一撃を入れる――そう、とにかく目の前のことにだけ必死になってくれれば良い」
本来ならばそれでは足りない、大魔女はエンドテイカーで試行錯誤し、どこかで勝ちの目を掴んでしまうだろう。だが、一人ではなく複数でかかれば、60秒制限のある大魔女相手ならば、いずれ『詰ませる』ことができる――かも、しれない。
「賭けの域は出ないが、そうだな。やってみる価値はあると思わないか?」
挑発的に、意地悪く笑って、ヴィトレルは一同を誘う。
つじ
●プレイングボーナス
「エンドテイカー」への対抗策を考える(敵は必ず先制攻撃してきます)。
●それとは別の連携枠
オープニングの後ろの方を参照してください。
プレイングの集まり方次第では、もしかしたらどうにかなるかもしれません。ならないかもしれません。
正直どうなるかわかりませんが、それでも構わないという方、あとそういうのがお好きな方は是非。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。
第1章 ボス戦
『ラハム・ジ・エンドテイカー』
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POW : 遺失魔術パワーワードキル
【過去をやり直すエンドテイカー能力】を使い、予め設置しておいた【内部の敵の命を奪う『死の魔法円』】を起爆する。同時に何個でも、どんな遠距離からでも起爆可能。
SPD : 遺失魔術メテオスウォーム
自身が【勝利への意志を失わずに】いる間、レベルm半径内の対象全てに【降り注ぐ隕石】によるダメージか【過去をやり直すエンドテイカー能力】による治癒を与え続ける。
WIZ : 私こそが、世界の全て。
【エンドテイカー能力により繰り返される戦闘】の継続時間に比例して、自身の移動力・攻撃力・身体硬度・勝負勘が上昇する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アルクス・ストレンジ
敵は先制攻撃をしてくる
「やりなおし」の利く時間は60秒前まで
…ハメられるか、やるだけやってみるか
先制攻撃への防御として
【黒鎖反鏡陣】使用
『結界術』と『オーラ防御』の合わせ技で
61秒防御に専念し…仕込み完了
遺失魔術メテオスウォーム
使わせてもらうぞ
敵&隕石には隕石で対抗
オレ含む味方はエンドテイカー能力で治癒
効果時間切れも考えなくていいな
オレのレベルは140弱
効果時間内の間で60秒巻き戻し続ければ
永遠に術を継続できる
先制攻撃前には巻き戻せねえぞ
さあ、どうするよ。大魔女サマ?
このままひたすら撃ち合うか?
上等だ、受けて立つぞ
だが、必ず戦況に揺らぎは生じる
テメェを倒そうとしてる猟兵は
オレだけじゃないからな
ファニファール・ビリュンケット
大魔女スリーピング・ビューティー!!
エリクシルも元と言えば貴女が招いた厄災の一つ。
ここで決着を付ける!
メテオストームは以前の経験から回避不能は分かっている。
故に、武器受けでジャストガードし受け流して、最小限のダメージで済ませつつ。
エンドブレイカーの力で、自身の破滅の終焉を終焉させる様に回避。
そこでカウンターを喰らわせて鎧無視の攻撃を与えたり、
鎧という名の防御を破り、追撃で傷口をえぐる一撃を。
60秒の巻き戻し、なら連携と継戦し続けるのが私の回答だ!
一度死に、そして猟兵との戦いを経てもまだ理解できていないか。
我らエンドブレイカーは悲劇の終焉を終焉させるものであり、猟兵はオブビリオンを討つ存在だ!
紫・藍
ソロでも連携どちらでも!
連携で畳み掛ける助けにもなれるかと!
大魔女さん、戻せる時間に制限がある以上、かつてと違い、時間を常に気にして戦わないといけないのは初めて味わうストレスかと。
辛い時間は長く感じるというように、時間を気にしてると時間感覚も狂うのでっす。
だったら更に狂わせちゃいましょう!
降り注ぐ隕石の中、歌うのでっす、歌い続けるのでっす!
魔女さんは自分が有利な間は時間を戻さないでっしょうからねー!
たっぷりお歌を聞いていてもらうのでっす!
この歌は認知機能を狂わせる催眠術なのでっす。
隕石は逃げ足でなんとか回避しつつも、時間を戻して命中させようと思わせないくらいにはちょくちょく食らっちゃいましょう!
まあ自然とそうなるでしょうし、オーラ防御で致命傷は避けるのでっすが!
そして反撃トドメとばかりの精神ダメージ!
敵対心こと勝利への意志を失うのもまずいですし時間を戻すでしょうが。
果たして60秒戻しても、思った通りの場面まで戻れてますかー?
精神負荷に苛まれまくった結果、時間感覚、狂いまくってませんかー?
霧沢・仁美
何度でもやり直しができるとか、まさに理不尽の極みって感じだね…
でも、やりようはあると思うから…やってみる!
【念動力】で敵の攻撃を逸らしつつ【衝撃波】で攻撃。
攻撃・防御とも、成功時のリターンよりは確実性の高い手段で対応。
何度やり直しても結果は同じ、と相手に思わせられれば、エンドテイカーの使用を躊躇わせることはできるはず。
UC発動可能になったら心弄念視を発動。
大魔女の「自分はエンドテイカー能力を持っている」記憶を奪ってみる。
持ってることを覚えてない能力なら、使うことはできないはず…!
うまく決まったらプラズマブーツの【推力移動】で一気に接近、バスターウェーブを至近距離で叩き込む!
ヴァニス・メアツ
死んでも直らぬ性根とはこの事か
そこまで世界を欲して何がしたかったのか…未だに疑問に思います
そんなだから彼女が勝利への意思を失う事など無いのでしょう
隕石は降り注ぐもの、なら注意すべきは上か
紫煙銃にて墜ちる隕石を撃って軌道逸らすなり破砕するなりしつつ落下地点予測して出来うる限りの回避を
忘れたのですか、眠れる美女
我々人類の魔女はやり直す力を捨て、それにより逞しく成長した人類が貴女に勝利した事実を
他の方が攻撃し、大魔女が手負いになったタイミングでUC発動
クロノスの力で彼女の時を止め、巻き戻しはさせない
結果は結果として受け止める潔さは大事です
失敗から得る成長ってヤツですが…貴女は学べなかった様ですね?
菱川・彌三八
そりゃあ…時間差で切れ目なく仕掛けりゃあ六十を超えられる…ってェ話かい
若くは、巻き戻す前に倒しきっちまうとかヨ
何れにせよ、乗った
魔法円ってなァ直前迄見極めてかわすしか思いつかねえや
将又、俺の先がいりゃ爆破の位置を読むとかな
盾になりそうなモンがありゃ使うが、怯んじゃ始まらねえ
ちいとくれえは其の儘走る他あるめェよ
鳳凰なら、爆破の直後間一髪避けられるかもな
初手を捌いたら一気に間を詰める
間の爆破は飛んでかわす他あるめえ
此れも後続の力になるやもしれねえってんなら云う事ねェな
後は只管の暴力
”必死になれ”なんて云われちゃやらねえ訳にいくめえよ
無論、好きな方だ
二度と同じ事がしたくなくなるくれえ、拳をたたっこむ
ウーナ・グノーメ
痛ましい姿。|美女《ビューティー》の体を捨ててまで、あなたは何を欲しているの?
先制攻撃をある種の予知である第六感、そしてオーラ防御で全力で耐え凌ぐ。
次にわたしのUCで敵のUCをコピー、迷彩を駆使して61秒間姿を隠し、戦闘不能になったように偽装。
敵は自分の力に絶対の自信を持っている。そしてわたしは矮小な妖精。
たかだか羽虫だと思わせる。侮らせ、油断させ、慢心させる。
作戦が成功したなら、繰り返しの度にわたしも同じ強さを得る。
念動力で抑え付け、他の猟兵達に心が折れるまで攻撃して貰う。
ラハムは泥を司る神の名。美は汚泥に塗れ、失墜した。
あなたは融合する相手を間違えた。
何より、時はあなただけのものではない。
●Repeat
『ワーム』だった身体を抜け殻のように割り開き、大魔女がその身を覗かせる。これこそが、長く望んだ再誕の時であるというように、彼女は艶然と微笑んだ。青く輝く鱗と、棘持つ薔薇、それらに飾られたこの女こそが、大魔女スリーピング・ビューティーである。
「痛ましい姿、ね」
「一回死んでも、やっぱり性根は直らなかったようですね」
ウーナ・グノーメ(砂礫の先達・f22960)とヴァニス・メアツ(佳月兎・f38963)が口々にそう評する。そこまでして何を欲しているのか、世界を手中に収めて何を望むのか、そのおよそ数万年に及ぶ執着心には興味は湧くが、果たして彼女自身もそれを覚えているのだろうか。何にせよ確かなのは、勝利を渇望するその心が鈍ることは無いだろうという、その一点だ。
「ちなみに、大魔女ってえのは図体まででけェのかい」
「まぁ……前に戦った時もこのサイズでしたね」
感心したような菱川・彌三八(彌栄・f12195)の問いにバニスが頷く。ガルシェンで見た巨人よりも頭二つ分は大きい体躯、だが真に恐れるべきは、膂力ではなくその能力の方だろう。
「巻き戻しってェやつかい」
「何度でもやり直しができるとか、まさに理不尽の極みって感じだね……」
その恐ろしさは、言葉を聞くだけでもある程度は予想がつくが、しかし。霧沢・仁美(普通でありたい女子大生・f02862)に諦めた様子はない。
「でも、やりようはあると思うから……やってみる!」
そして同様に、ファニファール・ビリュンケット(緋炎蒼水・f39689)が敵へと向けて、槍の穂先を突きつける。
「行くぞ、大魔女スリーピング・ビューティー!!」
この世界を乱し続けるエリクシルも、元と言えば彼女が招いた厄災の一つ。だからこそ。
「ここで、決着を付ける!」
ファニファールはそう宣言した。
『威勢の良いこと。けれど……』
その手のものは聞き飽きている。大魔女は無感動に応じて、短く詠唱を始める。
大魔女の扱う魔術は、このエンドブレイカー世界の人々にとってはとうに失われた強力なもの。遺失魔術と呼ばれたそれは、この世界の魔術師の扱う術を圧倒的に凌駕する。
『――メテオスウォーム!』
掲げたその手に応えるように、空から巨大な火球が降り注いだ。
「上、ですね」
「それはもう知ってる!」
以前の交戦経験から、ヴァニスとファニファールがすぐさまそれに反応する。紫煙銃が火を噴き、素早く振るわれた槍が迫る隕石弾を迎え撃つ。相殺とはいかないまでも崩し、逸らし、威力を削ぐ。さらには仁美の念動力が、火球の軌道を僅かに変えることに成功し、一行への直撃をぎりぎりで避けてみせた。
着弾点が穿たれ、破片が飛び散る戦場、完全に回避することは難しくとも、ダメージを抑える一手で凌いだ彼女等の前を、彌三八が駆ける。
『失せよ!!』
そこに叩きつけられるは、『力ある言葉』。それを契機に予め設置されていた魔法円が輝き――。
「――おっとォ!」
危うくそれを察知した彌三八は、飛び退って爆発を躱した。
降り注ぐ隕石、爆ぜる高威力の魔法陣、いかな強力な先制攻撃と言えど、その類の手合いと戦った経験の多い猟兵達ならば、対策の方も手慣れたもの。手傷を負いながらも、スリーピング・ビューティーの繰り出す攻撃を凌いで見せた猟兵達は、こうして反撃へと打って出た。
続く遺失魔術の攻撃を躱し、捌き、喰らい付く。だがそもそも、そんな勝負も、展開も、『彼女』が望むはずもない。
迫る猟兵達に一切構わず、スリーピング・ビューティはその悪辣なる能力、|やり直しの力《エンドテイカー》を発動する。
――先制攻撃の出目が悪い。ならばもう一度振りなおそう。世界に対してそんなわがままを通せる、それだけの能力と精神性を併せ持つのがこの女だ。
「――行くぞ、大魔女スリーピング・ビューティー!!」
僅かに、時間が巻き戻る。降り注いだ隕石も、爆発した魔法陣もそこには『まだ』存在しない。
猟兵達の同じ台詞を聴きながら、ただ一人やり直しの記憶を保持する大魔女は、先程とは違う形で魔術を編む。さて、今度はどんな目が出るか――。
大魔女と猟兵、その長い戦いが幕を開けた。
●Retake
「ここで、決着を付ける!」
隕石を真っ直ぐに叩き割り、飛び出すことに成功したファニファールのカウンターが、魔女の身体を刺し貫く。――やり直し。
「危っぶねェ!」
先程よりも一歩前に設置したはずの魔法円を、彌三八がスッ転ぶような勢いで間一髪突破する。――やり直し。
実力と対策、そして幸運による猟兵達の活躍を、大魔女は次々と無かったことにしていく。だが前回の展開を踏まえて対策を施そうとも、何度細かな条件を変えてやり直そうとも、魔女にとって『最高の結果』は出てこない。
続く追撃に対してもまた、|終焉に終焉をもたらす者《エンドブレイカー》たるファニファールは自らの負傷を予知したように身を躱し、鳳凰の入れ墨をその身に宿した彌三八は翼の一振りで加速し、範囲外へと逃れ切った。
「”必死になれ”なんて云われちゃやらねえ訳にいくめえよ!」
グリモア猟兵の告げたそれを、彌三八は面白がるようになぞる。その場しのぎと言わば言え、それでも思考と反応を止めた『決まった動き』は、やり直した大魔女に容易く狩られてしまうだろうから。魔女の無数のやり直しの中でも、最前線の二人は決して直撃という結果を渡さない。だが、そんな中で。
「ああ……!」
降り注ぐ隕石の雨の中で、ウーナがあえなく力尽き、地へと落ちる。対抗するように力ある歌声を響かせていた紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)も、隕石片を喰らってしまったのか苦鳴を滲ませていた。直撃を凌いだアルクス・ストレンジ(Hybrid Rainbow・f40862)もまた、ケルベロスチェインによる結界を張ったもののそこから動けない――。
他の猟兵にも届いたダメージを値踏みした大魔女は、『次』へと手を進めることを選択した。
(「着々と追い詰めている……とか思ってくれてるのいいのでっすが!」)
敵の動きを探り見ながら、藍は引き続き透る歌声を響かせていく。
求める最良の結果が出るまでやり直せるのが大魔女の能力だが、実はここには付け入る隙がある。目の前の結果が最良であるか、そしてやり直すか否かを判断するのは大魔女自身であるという点だ。
(「つまり、自分が有利だと思っている間はやり直さないのではないかと!」)
まあ、半分は『避け切れるような攻撃じゃない』という事実のせいだが、とにかく。オーラ防御で致命傷だけは避けつつも、いくらか遺失魔術の攻撃を喰らった藍は、弱々しく振舞って敵を誘う。
『羽虫が、ちょろちょろと……!』
(「その調子で、舐めたままで居てほしい」)』
藍を取り囲むように魔法円が展開される中、先程撃ち落とされたはずのウーナが薄目で敵の様子を探る。彼女が地に落ちたのもまた、半分は藍と同様敵の油断や慢心を誘うためのものだった。「良い結果が出ている」と思わせることで、初めて時計の針が60秒を打つ。それを知ってか知らずか、大魔女が猟兵達をまとめて叩き伏せようとしたところに。
『潰れるが良い、遺失魔術――』
「――メテオスウォーム!!」
響いたのは、アルクスの声だった。
大魔女の紡ぐそれと同時に放たれた呪文、先程同様降り注ぐ隕石だが、今度は逆に、猟兵の側からも無数の火球が魔女の方へと振り、空中で両者が衝突した。凄まじい破砕音と共に辺りに破片が降り注ぎ、忌々し気な様子の大魔女の瞳がアルクスを睨む。
もちろん、これは見様見真似などではない。『黒鎖反鏡陣』、先程アルクスの張った結界は、敵のユーベルコードを受け止めることで、一時的にコピーすることが可能となるのだ。
「これで互角……か?」
不敵に笑った彼の表情を掻き消すように、大魔女は速やかにやり直しを図った。
――しかし、限界まで巻き戻されたはずのそこは、既に発動したメテオスウォームが、アルクスの結界によって軽減されるタイミングだった。そう、この時点でコピーの条件は整っていたのだが、アルクスはあえてそのことを伏せたまま、「敵の攻撃が激しくて身動きが取れない」体で60秒間防戦に徹していたのだ。
『小癪な真似を……!』
60秒が経過した以上、いくらやり直しの力を使おうと、メテオスウォームを打つ前には戻れない。
してやられた怒りを滲ませ、大魔女は速やかに遺失魔術を追加で展開する。アルクスの周りに魔法円が刻まれ、それが次々に爆ぜて彼を追い詰めていく。結界一つで大魔女の集中攻撃を凌ぎ切るなど至難の業、深手を負ったアルクスだったが、彼の眼は決して諦めてはいなかった。
「やり直し、だ」
それは、大魔女にとっては想定外であろう展開。スリーピング・ビューティー達魔女の能力であるエンドテイカーも、ユーベルコード化したことで一時的に他者が用いることも可能となっていた。
今度はアルクスの手によって時間が巻き戻され、先程の集中砲火で負った傷が消滅する。そこは先制攻撃を無事凌いで、コピーの条件が整ったタイミング。
『小癪な真似を……!』
そして先程と全く同じ台詞を大魔女が吐いて、アルクスの周囲で魔法円が輝く。先程同じ場所に放たれたそれから、アルクスは前もって身を躱し、爆破範囲から逃れて見せた。
「さあ、どうするよ。大魔女サマ?」
そう挑発的に彼は言う。
「このままひたすら撃ち合うか? 上等だ、受けて立つぞ」
当然、大魔女はエンドテイカーを発動し、時間を巻き戻す。アルクスの躱すはずの場所へと魔法円を移し――次はそれを見たアルクスが巻き戻しをかける。――凌がれた大魔女がもう一度時間を巻き戻す。
一時的とはいえ同じ力を得たことで、アルクスは敵と互角に渡り合える状況となった。だが、問題はここからだ。彼の場合はメテオスウォームとエンドテイカーを使えるのは140秒程度の間のみ。やり直しという保険が利くようになったものの、『140秒以内に大魔女がやり直す間もなく殺し切る』、という奇跡のような状況を引かない限り、アルクスは常に『やり直す』か『やり直さずに時間を進める』かの選択を迫られることになる。
常人ならば精神的にやられそうな状況だが、彼とて元は寿命を持たぬ種族の者、そう簡単に折れはしない。
「必ず、戦況に揺らぎは生じる……!」
ある種確信を持ってアルクスは言う。間違いない、この大魔女を倒そうとしている猟兵は、自分一人ではないのだから。
状況を崩す発端となったのは、この繰り返す時間の中でずっと流れている、藍の歌声だった。
●Break
大魔女が傷を負った。展開される魔法円から、アルクスがファニファールを押し出したことによって、虚を突くように接敵した彼女が大魔女を切り裂いたのだ。
呆気に取られたような大魔女の顔に、今度は赤い翼を背負った彌三八の拳が突き刺さる。
「おいおい、どうした? 喧嘩は始まったばかりだろうがヨ」
『この、羽虫風情が……!』
さらに迫る彼を振り払い、大魔女は遺失魔術を展開して反撃に出る。そして混乱しながらの応酬での実りが無いと見ると、彼女はエンドテイカーで時を巻き戻した。
「――おいおい、どうした? 喧嘩は始まったばかりだろうがヨ」
だが、時を戻したはずのそこは、彌三八の拳が撃ち込まれた直後。
スリーピング・ビューティーの表情に戸惑いのようなものが浮かんで、次の瞬間に猟兵達も状況を理解する。敵の負傷を認識できているというこの時点で、魔女が『やり直し』をしくじったことになる。
『――どうなっている!?』
「あやー、もしかしてめちゃめちゃ効いてますかー?」
動揺を浮かべる大魔女に対して、藍が首を傾げて見せる。彼は終始攻撃を耐え、逃げながら歌うばかりだったが、それこそがこの瞬間のための仕込みである。
たっぷりと聴かせた藍の歌はユーベルコードによるもの。精神攻撃を加える上に、催眠効果で認知機能を狂わせるという特製の曲だ。
そもそも大魔女は『戻せる時間に制限がある』という全盛期からすればありえない弱体化を受けている。そのストレスの上で聴き続けたそれは、本人も気付かぬうちに彼女の認知を蝕んでいたのだろう。
「何回も巻き戻してるんでしょうがー、思った通りの場面まで戻れてますかー? 時間感覚、狂いまくってませんかー?」
『お前の仕業か……!』
狂わされた彼女の主観では、『60秒』を正確に認識することが出来なくなっている。
「こんな落とし穴があるとは、運が悪いというか……」
あの頃ならば考えもつかなかった方法だろう、だが手負いになったここが畳みかけるべき場面だと、ヴァニスは正しく状況を認識している。
「こういう趣向は如何ですか、眠れる美女よ」
星霊クロノス、兎型のそれがヴァニスの懐中時計から現れ、その力を揮う。大魔女に対して仕掛けたそれは、『時間停止』。他ならぬ彼女だけが、不変の状態で停止する。各人が追撃の構えを取って控えたそこで、星霊による縛りを無理矢理断ち切り、大魔女が動き出した。
「逃がさない……!」
続いて放たれるは『心弄念視』、時間停止から逃れた直後の大魔女に対し、仁美は視線と共に力を注ぐ。大魔女の持つ記憶の中へと働きかけると、ピンポイントに「自分はエンドテイカー能力を持っている」という記憶を奪い取った。そう、深奥なる知識と経験を持っていても、能力の有無自体を誤認していてはそれを使うどころではない。
敵の能力を一時的に封じるという意味では極めて有効な一手だが、ここまで温存してきたのには理由がある。
『おのれ、お前達ごときに害されてなるものか。私こそが、世界の全て――!』
そう、無闇に封じるとただただ全力で暴れてくるからだ。これまでエンドテイカー能力によって繰り返された戦闘時間に応じて、大魔女の戦闘能力が大幅に強化される。しかし、そう、今ならばそれに対抗する手段があるのだ。
「――ラハムは泥を司る神の名。美は汚泥に塗れ、失墜した。あなたは融合する相手を間違えた」
迷彩効果で隠れていたウーナが、敵の前へと浮かび上がる。
「何より、時はあなただけのものではない」
そして、手にした砂時計を返す。黄金色の砂粒が落ち始めるのと同時に、ウーナは大魔女の使ったのと同じユーベルコードを発動した。『私こそが、世界の全て』。大魔女と同じ、繰り返しの時間に応じた凄まじい強化を受けて、ウーナは念動力の腕を伸ばす。
不可視のそれで大魔女の身体を掴むと、彼女はそれを押さえつけることに全力を注いだ。大魔女と互角の力で以て、時間を稼ぎ――。
「さあ、今の内に」
「藍ちゃんくんのお歌も聞き放題でっす!!」
ここぞとばかりに声量を上げて、敵対心を揺さぶる歌声を見舞う。
「オレの『やり直し』も、もう必要なさそうだな」
メテオスウォーム、オルクスの解き放ったそれにより、降り注ぐ隕石が大魔女を穿つ。140秒、制限時間を超えてその力を失うことを、彼は受け入れた。
『私に勝てるものなど、この世にありはしない! ラハムを喰らい「再孵化」した私が……!』
「一度死に、そして猟兵との戦いを経てもまだ理解できていないか」
切っ先と同じだけの鋭さを以て、ファニファールが宣言する。
「我らエンドブレイカーは悲劇の終焉を終焉させるものであり、猟兵はオブビリオンを討つ存在だ!」
連携と継戦、敵の能力を打ち破るために彼女の出した結論は、ついに実を結ぶ時を迎えていた。飛翔する彌三八と、プラズマブーツの一蹴りで一気に加速した仁美が同時に敵へと迫る。
「巻き戻しってえのが何回できるか、見ものだな?」
「でも、何度やり直しても結果は同じよ!」
ナイトランスと拳と、念動力による衝撃波、そしてヴァニスの紫煙銃から放たれる銃弾が、獲物へと突き立てられていく。
「終わりにしましょう、スリーピング・ビューティー!」
追い詰められた大魔女は、抵抗しながらもなおやり直しを願う。身動きできないままに猟兵達の攻撃を受け続け、その身は徐々に綻び始めた。
『認めない、私が、こんなところで終わるなど……!』
エンドテイカー。滅びゆく中で記憶を取り戻した大魔女は、もう一度時間を巻き戻した。
最大限に巻き戻しを行ったそこは、クロノスによって停止させられた時の中。60秒、万全の彼女からすればほんの僅かな、しかし極めて長いその時間は、猟兵達の連続攻撃によって埋め尽くされてしまっていた。
「――終わりにしましょう、スリーピング・ビューティー!」
そう、終わりだ、と。その台詞ももはや何度聞いただろうか。
しかしそれでも、心が折れることなどありはしない。エンドブレイカーの世界を手にするために、失敗を『なかったこと』にしながら何万年も準備に時間をかけたのがこの大魔女だ。こんな始まったばかりの戦いで、諦めるほど潔くできてはいないのだ。
そして、滅びいく大魔女は、ただやり直しを願う。
滅びいく大魔女は、ただやり直しを願う。
滅びいく大魔女は、ただやり直しを願う。
滅びいく大魔女は、ただやり直しを願う。
それは途方もない繰り返し。気の遠くなる試行の末、ついには今際の際に願うことさえできないほどの打撃を負う。心が折れるよりも前に、その執着心が捨てられるより前に、ただその願いは、猟兵達の手によって断ち切られた。
●Endtaking
かつては大魔女の居城であったその場所に、再び静寂が戻る。
「……なんでえ、大層な触れ込みの割に、あっさりいったじゃねェか」
そう、一部を除いた猟兵にとって、これはたった一度切りの応酬。
「――我々人類の魔女はやり直す力を捨て、それにより逞しく成長した人類が、貴女に勝利しました」
「じゃあ今回も、敗因は同じだったのかもな」
ヴァニスの言葉にアルクスがそう返す。その感覚はわからないでもない、と頷きながら。
一度切りだからこそ全力を尽くす、手探りでも最善を模索する、そういった在り方に、魔女はついに及ばなかったのだと。
「失敗から得る成長ってヤツですが……貴女は学べなかった様ですね?」
猟兵達の手により、大魔女は打ち倒された。それは長くて短い、戦いの帰結。
成功
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