続・因習島バカンスにご注意を
――よもや、こんなことになろうとは。
終夜・嵐吾(灰青・f05366)は、ちょっぴり海風でかぴかぴになっている尻尾を、ゆうらり揺らす。
そしてふと隣を見れば、いつも通りしれっと尻尾をガン見している友の姿。
簡単に事のあらましを記しておけば、助けた際に怪我をしてしまった村人の代理で、因習島イベントに参加することになったのだが。
何故か、白無垢風の花嫁水着を着せられて。
追ってくる邪神から逃げろと言われて。
そしてその邪神役が何故か、隣でるるんとしている筧・清史郎(桜の君・f00502)で。
つまり、清史郎……いや、邪神せーさまから逃げないといけないわけで。
(「えっ、なんでこんなことに……?」)
改めて振り返ってみても、意味がわからない。
そして、隣のせーさまはといえば。
やはり花嫁に扮した多数の村の男達を捕まえる前座があったのだが、秒殺であった。
何せ友は、空気が読めない箱であるのだから。
だが、もう一度話せば、分かるかもしれない……。
そう懲りずに、そっと嵐吾は隣の清史郎へ小声で告げてみる。
「せーちゃん、やはり真剣にやらんでも、ここはひとつ話を合わせて……」
「らんらん」
清史郎は、こそっと裏で交渉を持ち掛けようと再度試みる嵐吾へと視線を向けて。
こう、微笑みと共に告げるのだった。
「今日の俺は、せーさまだ」
「アッ」
あー……これ、完全に何言ってもだめなやつ~。
るるんと、鬼ごっこにわくわく、邪神になりきっている。
なのでもう腹を括るしかない。そう覚悟を決めた、その時であった。
嵐吾のお耳が、大きくぴんっ。
だって、目の前には。
「おお、酒かの……?」
そう、盃に注がれた酒。
そんな嵐吾に、清史郎は小さく頷いて続ける。
「ああ。追いかけっこの催しの前に行う、三々九度の儀式だそうだ」
「……三々九度……」
そう、今自分は花嫁役なのだ。
そんな演出せんでもええじゃろ……とは思うものの、良い香りする酒は美味そうだ。
なので尻尾をゆらゆらさせながら、清史郎と共に三々九度する嵐吾であるが。
酒に口をつけた瞬間、お耳がぴこぴこっ。
「こ、これは……おいしいの」
「この因習島の地酒のようだ。らんらんが逃げ切れば、後の宴で存分に振舞ってもらえるのでは? 雲丹も特産物のようだしな」
「!!」
そう聞けば、先程まで気乗りしなかったのも一変、やる気にもなるというもので。
「……邪神せーちゃんから逃げ切って、美味い酒をたんまりもらうかの」
そうふんすと気合の入った尻尾が揺れるのを見ながら、清史郎はにこにこ。
「らんらんの番だぞ?」
花嫁へと三々九度の盃を手渡しつつ、邪神はにこやかにこう付け加えるのだった。
「それと今日はせーさまだ、らんらん」
ということで、謎の神前式風の儀式が終われば……いよいよ、因習島イベントの目玉。
花嫁と邪神の追いかけっこのはじまりである!
美味い酒のために、そう簡単には捕まらん、とは思ってはいるものの。
ちらりと見遣れば、何だか友から、うきうきやる気に満ちた魔王オーラが……?
それを見れば、また生じる不安。
――逃げるのめちゃくちゃ大変なやつでは?
――せーちゃん……いや、邪神せーさまが本気で追いかけてくるんじゃろ?
逃げ切れる気がせんのじゃけど……と思うも、しかし!
どん、と目の前に酒樽が置かれれば、また軽率にやる気に。
それに、そう簡単に捕まるのも癪と言うもの。
ここは覚悟を決めて、全力で逃げる……そう今度こそ大きく頷けば。
「ふふ、楽しみだな」
いざ、追いかけっこスタート!
10分後から追ってくるという邪神から少しでも離れるべく駆け出す。
この島の中であれば、自由に好きに逃げていいのだという。
隠れておくのもアリのようだが、嵐吾は駆けながらもふるりと首を振る。
「見つかったらお終いじゃからの……なんでか見つかる気しかせんし」
ならば、逃走経路が沢山ある方がいいじゃろ、と。
結構真剣に作戦を立てつつ、今は邪神から距離を取ることに専念する。
見つかったらまたその時だ。それに考えてみれば、この島は結構広い。
ワンチャン逃げ切れるかもしれん……なんて思った、その時だった。
「!!?」
びゅっと刹那風が鳴り、咄嗟に身を屈めたが。
何かの衝撃で、見れば、花嫁水着の組紐の先が斬り落とされている。
そう――現れたのは。
「えっ、なんでわしがここにおるのが……って、刀!?」
何だか禍々しさを感じる気がする刀を携えた、せーさまの姿がそこにはあった。
「ああ、この刀か? イベントの演出だと渡された」
よ、よけいな演出~~~!
空気が読めん箱に持たせたらいかんやつじゃろ! と全力で叫びかけるが。
それは無駄な訴えであるし、もう捕まって終わらせても……なんて頭に過ぎったが。
ふと近づいたせーさまが、こう嵐吾の耳元で囁く。
「……島民がみているぞ、らんらん」
「!」
これはきちんとやらねば、酒にありつけぬのでは……なんて思った瞬間。
「ということで、全力で捕まえるぞ、花嫁」
「え、ちょっとまっ……ぎゃっ!」
何せ空気を読むとか手加減するとか、そんなことなんて知らない箱。
丸腰の花嫁に躊躇なく刀を閃かせる邪神。
それを身を躱し避けながら、嵐吾は楽しそうなその顔を見て、やはり思うのだった。
――この箱~~~~! と。
だが嵐吾もそう簡単には捕まらない。
「……!」
炎を目晦ましに繰り出し、その隙に大きく跳躍して。
何とか、邪神の追従から逃れる。
とはいえ……また追ってくるのは目に見えているから。
「あの箱本当は邪神じゃろ? ヤドリガミじゃないじゃろ??」
そうぼやきつつ、とりあえずまたできるだけ遠くへと駆け出す嵐吾であった。
そして、どれくらいの時間逃げただろうか。
ふと眼前に見えるのは、島の酒屋。
そう、あの美味な酒の樽がたんまりと軒先に置いてあったのだ。
嵐吾はきょろりと周囲を見回し、そうっと酒屋へと足を向けて。
「あ、花嫁様……地酒、1杯いかがですか?」
そう勧められれば断るわけなどなく、遠慮なくうきうき盃を受け取るが。
酒に口をつける……その前に。
「ふふ、やはり花嫁は酒が好きだな」
「げっ、せ、せーちゃん! いつの間に!?」
そして、せーさまだ、としれっと訂正しつつも邪神は微笑む。
「此処に現れるだろうと待っていた。さぁ、捕まえようか」
「くっ、そうはいかん……あっ、わしの酒!」
迫る邪神を振り切り、再び急いで逃げようとした嵐吾だが。
まだ飲んでいない酒がこぼれそうになって、思わず動きを止めた――瞬間。
「捕まえたぞ、花嫁」
「あっ」
酒に気を取られた隙に、邪神に捕獲されてしまったのだった。
ということで、因習島の皆さんも大満足?
無事に締めの宴で、雲丹に酒にと、ご馳走を振舞われながらも。
「わしが逃げきれんかったんは、美味しい酒をちょろまかしてうっかりしたからじゃ!」
「ふふ、そうだな」
捕まった言い訳をする嵐吾に、まぁもう1杯、なんて清史郎はにこにこ酒を注いで。
それをぐびっと飲めば、すぐに文句も止んで、ふにゃりご機嫌に。
そんな単純な友と、酒を飲みながらも。
清史郎……いや、せーさまは雅に微笑むのだった。
もうそろそろへべれけになる頃だろうから。
そしたら存分に、極上の尻尾をもふもふするとしよう――と。
友との楽しい夏の因習島のひとときに、乾杯しながら。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴