2

エンドブレイカーの戦い⑥〜水面に揺れる影

作者：真空。

　紫煙群塔ラッドシティ――世界の瞳と呼ばれる謎の超巨大遺跡と融合するように建築され、歯車機械文明に支えられた都市国家。ラッドシティの巨大歯車遺跡「クロノスメイズ」は、本来12月24日にしか扉が開くことは無いらしい。しかし、エリクシルの放ったモンスターの群れが、この扉を強引に破壊し、遺跡を支配しようとしているのだという。
　その遺跡は、半ば水の中に消えていた。簡素な建物と彼方此方についている歯車が奇妙に融合した、町一つが水没したようなそんな遺跡の中で何かが跳ねる。水音を立てて縦横無尽に泳ぎ回るのは――。

「おー、お疲れサン」
　ひらりと手を振った樹・怜惺（Guardiano della Dea Verde・f31737）が説明を始める。
「今回向かってもらうのは、ラッドシティの巨大歯車遺跡クロノスメイズだなァ。遺跡探索して、そこに入りこんじまったモンスターを退治すりゃオッケーって感じよ」
　遺跡を守護する「長老衆」はエンドブレイカーや猟兵に対して非常に好意的で、今回の戦いへの全面支援を約束してくれているそうですが、遺跡の中に入るのは猟兵のみ。一応情報は貰っているとの事。
「遺跡は何つーか水に浸かってる感じで、モンスターも魚とか貝とか水系が多いみてェ。元々は普通の生き物だったんを無理矢理モンスターにしてるから、倒すと元の姿に戻るっぽい」
　遺跡の中には罠もあるそうだ。違う所に通じている扉、踏むと抜ける床……定番だが致命傷になりかねないものが多い。
「そんなにハードな感じじゃないからまあ気楽に行ってきてくれや。よろしくな」
　グリモアを手の上に浮かせ、転移の用意をしながら怜惺が笑った。

第1章 冒険 『クロノスメイズの冒険』

POW   :    発見したモンスターを撃破する SPD   :    遺跡の罠を察知し、回避または解除する WIZ   :    遺跡のパズルや謎掛けを解く イラスト：麦白子 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　水に沈んだ遺跡に、一筋の光が射したかと思うと舞い下りる光。こつり、とピンヒールの踵が床を叩くと、大きく開いた手を頭上に掲げて。
「UC華麗なる飛翔ブリリアント・フルバーニアン、速度よりも迎撃能力、罠に対応しましょう！」
　マシュマローネ・アラモード（第十二皇女『兎の皇女』・f38748）は兎耳のティアラをきらりと輝かせ、ブリリアント・フルバーニアドレスを身に纏う。ひらりと空へ舞い上がれば、遺跡の中を飛びながら進みだした。
　水面近くに高度を下げた時、何かが下から近付いてくるのが見える。鮫の様な――いや。ジャンプして飛び出した来たのは、濃い藍色をした、所謂ベタと呼ばれる魚がとても巨大化したもののように見える。飛び上がり、マシュマロ―ネを尻尾で叩き落そうとしたのだろうけれど。
「ひれ伏しなさい！」
　マシュマロ―ネの手から放たれた王気がベタを吹き飛ばす。近くの壁に叩きつけられた急拵えのモンスターは、その一撃でその姿を元のものへと戻してしまったようで。
「あら？」
　ひょいと覗き込むと、壁の割れ目に挟まりぴちぴちと跳ねる小さな姿。可哀想に思ったマシュマロ―ネはそっと拾い上げ水の中へと戻してやると、マシュマロ―ネの手の中で一度優雅に尾を揺らし、水没した建物の奥へと消えていった。
「こんな大掛かりな迷宮の造られた経緯、気にはなりますが、今はこの迷宮を解放する事！　エリクシルの思う通りにはならない事を教えて差し上げるべきですわね！」
　再び飛翔するマシュマロ―ネ。落とし穴は爪先で蹴って開け、回転壁扉は吹き飛ばしで見つけてしまう。
「さぁどんどん先に進みましょう！　撃ち漏らしのないように、でも楽しんでいきましょうか！　こんな大迷宮なかなか攻略できるものではありませんし！」
　光の尾を靡かせ、跳び回るマシュマロ―ネ。遺跡の中を照らす光はその後も暫くの間輝いていたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「水辺の遺跡なら……！」
　蛇塚・レモン（白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152）が術式を展開すると、掲げる蛇腹剣クサナギが敵の弱点を穿つ海神の黒槍へと姿を変える。レモン自身も額に角、長く伸びる尾が生え――開いた瞳の片方は琥珀色では無く鮮やかな血の赤へと。
　真の姿へと変化して、ひらりと舞い上がる姿は龍の加護持つ天女の如く。しかし、その速度は目にも止まらぬものへとなっていた。
「やる事は単純っ！」
　高速で飛び回り見つけた敵の側へと接近すると、槍を振るう。放たれた衝撃波が道を塞ぐように近くの壁を砕くと、破片を被った水中のモンスターが、苛ついた様子で飛び上がった。棘の生えた心なしか目つきも悪い巨大な亀が、レモンを追い駆け噛みつこうとするものの。
「追い付けるものなら追い付いてみなっ！」
　レモンは水中へと飛び込み歯車の集まった辺りを擦り抜けては、するっと空中へと飛び出し建物の上へ。一時的とはいえ高次元存在へと姿を変えているレモンは「其処に居るのに其処に居ない」存在となっているため建物に遮られる事も無く、攻撃すらもその身体を通り抜けていく。建物の高層階へと登っていくと、追いかけてきた亀が落とし穴を踏み抜いて下の階へと落ちていった。ごつんと鈍い音がした後、静かになった階下を覗くと小さくなった亀が慌てて水の中へと戻っていく様子が確認出来た。
　その後も敵をおびき寄せては罠にかけるという方法で、地道にモンスターを減らしていたのだが。
「……逃げ回るのも限度あるね」
　罠に誘い込むのに時間がかかるし、一度に複数潰すのは厳しい。手に持った槍をちらりと見て、水面近くを飛び回ると誘き寄せられたモンスターたちが集まりだす。
「それなら、纏めて叩いちゃえ！」
　槍だけを三次元化念動力で操り横薙ぎに切り払う。人の手では出来ない自由な動きで槍を振るうレモンは、その後も敵を翻弄し続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　ウルザ・ルーナマリア（月に泳ぐ白き獣・f39111）は何物の気配も無い場所から、音を立てず水の中へと飛び込んだ。
「水中なら得意だぜ！ ……水没遺跡だと勝手は違うかもだけどまあ何とかできるだろ」
　水に沈んだ建物の中を通り抜ける時は、壁に触れないように。時折呼吸の為に水上に顔を出すと、どれだけ進んだかを確認してまた潜る。
「……歯車が多いな。これうっかり触ったら大変な事になるだろうから注意しねえと。挟まれるのもヤバそう」
　何に使われていたのか想像もつかない、数多の歯車の側にはあまり寄らない。危険物を避けながら、ゆっくり進んで行くと行き止まりにぶつかる。慎重に辺りを探れば、一部の壁に不自然な罅割れ。
　銛の柄で少しずつ叩きながら確認すると、罅割れはカモフラージュでその隣の何も無さそうな壁が開く事が分かった。
「罠ってこういう事か」
　慎重に潜り抜けた先は大きく開けた――かつては大ホールだったらしい場所。崩れたらしい場所から、水上の光が射しこんでいて何処か荘厳な雰囲気を漂わせている。
　暫し風景に見惚れていると、下の方から何か蠢く影。のそりと進み出てきたのは、ウルザの大きさも超えた巨体のサンショウウオ。大きな口を開いて噛みつこうと迫ってくる。
「まずは止めてやるぜ！」　
　大型の三叉銛の先端から冷気を放ち、氷の網で包み込む。網は足止めと内側についている針での攻撃とでサンショウウオにダメージを与え続け――急激な温度の変化に固まっていたサンショウウオが、ふっとその大きさを縮めていく。氷の網を解くと、小さくなったサンショウウオが固まったままで沈んでいくのをウルザは優しく掬い上げて近くの物陰に放してやった。
　するすると隠れていくのを見届け、先へと進む為に道を探す。その後も出会ったモンスターを氷の網で捕らえては元に戻していった。生態系を壊さないのも漁師の使命、という事だろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ご主人サマー☆水の遺跡だよ☆水没した町とか神秘的だぞ☆」
　カシム・ディーン（小さな竜眼・f12217）は腕にぶら下がる界導神機『メルクリウス』――通称メルシーの言葉に小さく頷いた。
「珍しくおめーに同意だ、確かに圧巻だなこれ」
　半ば水に沈んだ、静かな町。時折何処かで何か跳ねる音が響く以外は、何一つ変化は無い。あちこちにくっつく歯車がある事で猶更異界感が漂いながらも、何処か美しくも思える景色にカシムは目を奪われた。
「此処は幼女まつ」
　唐突なメルシーの発言に我に返る。
「しねーよ！　これで我慢しろっての！」
　発動させたのは外典帝竜眼「パラダルク？」。力を解き放った瞬間。
「「ヒャッハー☆」」
　無数の……１００を超える水着姿のメルシー（ドラグナーのコスプレ＋キャバリア兵装）が遺跡内に飛び出していく。一気に散開し、探索が始まって。
「こっちに罠発見☆」
「あそこに、何かいるよー？」
　流れてくる情報を皆で共有し、モンスターは狩りに向かう。先に把握した罠の方向へと見つけたモンスター――多分鯉だろうトゲトゲの生えた大きな魚を追い込み水辺にあった移動扉の向こうへと追い立てる。
「ひと狩りいこうぜ☆」
　扉の向こうは何も無い部屋。そう、部屋。水が無くなってしまいびちびちと跳ねるだけの鯉に斬霊刀での連続攻撃。目にも止まらぬ速さの斬撃が鯉を切り刻み、気が付けばそこに残っていたのは普通サイズの鯉。ぽいっと、移動扉の向こうの水へと放り込んでメルシーを呼び現在位置を確認。
　次のモンスターを探して進みだす。本来なら存分に食材として狩りたい所だったのだが。
「いろいろトラブルになるかもね☆」
　という事で断念。その分は報酬に上乗せしてもらう事にしよう。その後もメルシーの探索を元にモンスターを狩り続け、全滅させる事に成功したようだ。
「帰る前にもうちょっと眺めていくか」
「せっかく来たんだもんねー」
　比較的高い建物の屋上に腰かけ、足に肘をついて風景を眺めるカシムと、隣に座ってあれこれと何か指差し話しかけるメルシー。楽しそうな二人の声が、遺跡に響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年09月09日