Plamotion Demon Actor
●君が思い描き、君が作って、君が戦う
商店街のアーケードの入り口に存在する巨大モニターには、アスリートアースの非公式競技の一つ、『プラクト』のプロモーションムービーが流れていた。
まるでアニメーションのようにフィールドを駆け抜ける様々なプラスチックホビーたち。
そのモニターの前にふわりと舞うようにして、けれど、食い入るようにして見つめる者の姿があった。
銀髪揺れ、青い瞳。
じ、と見つめるモニターの中で入り乱れるようにして競い合うホビーに合わせて、ふわりふわりと体が揺れている。
「おーい! そこで何してんだー!?」
声が聞こえて、巨大モニターの前で浮かんでいた薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は眼下にて恐らく自分に声を投げかけている小さな少女の姿を認めた。
活発そうな少女だ。
年の頃はまだ十代だろうか。
見ず知らずの、それも空に浮かんでいる羽衣人である自分に声をかけてくる屈託の無さに彼女はゆっくりと地上に降り立つ。
「お、おお……?」
「こんにちは」
「こ、こんにちは?」
挨拶ってとっても大切なこと。静漓は挨拶をしてくれた少女に変わらぬ眼差しを向ける。
「私の名は薄翅・静漓。『プラクト』のチームがある『五月雨模型店』へ行きたいの」
「私は『アイン』! それなら話早いぜ! なんたって私が何を隠そう『五月雨模型店』の『エース』だからな!」
えへん、と胸を張る少女に静漓は頷く。
知っている。
試合動画を見ていたのだ。それに触発されて彼女も『プラクト』をやってみたーい、と思ったのだ。
しかし、静漓の表情は彼女の内面ほど揺れ動いていなかった。
「あっ、わかった! 試合したいんだろー? 大歓迎! 行こうぜ!」
早速、とばかりに『アイン』と呼ばれた少女は静漓の手を引いて『五月雨模型店』へと走っていくのだった――。
●五月雨模型店
「『プラクト』初めてなんだろ?」
そう言って『アイン』に引っ張られてやってきた『五月雨模型店』は静漓にとって目新しいものばかりだった。
「自分のプラスチックホビーは持ってきた?」
「ええ」
「んで、後は操縦パターンを選択な。最初はモーションタイプがやりやすいよ。自分の動きに追従するから。でもホビーの関節とか駆動域を意識しないといけないぜ」
あれやこれやと『アイン』は世話好きなのか静漓に説明してくれる。
今回は『アイン』とのワンオンワンの模擬試合になるそうだった。
何から何まで親切だった。
「どんなホビーか気になるけど……うー、フィールドで相見えようぜ!」
静漓は『アイン』がワクワクしているのを見て自分もそうだと頷く。
彼女はこの日のために自分の機体を作り上げてきたのだ。
悪魔の翼を持つ異形のクリーチャーモデル。
巨大な翼は折りたたむ事ができるし、巨腕めいた腕は力強い。それに体の表面には水晶花(スイショウカ)と呼ばれる無数の水晶が鱗のように覆っているのだ。
この子のことを『アイン』は気になっていたけど、喜んでくれるだろうか。
「ふふ、意気のいい子」
「よっし、こっちも準備完了だぜ! じゃあ……」
「ええ、一緒に楽しく遊びましょう」
「……! ああ、そうだよな!」
準備を終えた二人はパーティションに光が灯るのを見る。
「さあ『レッツ・アクト』よ。あなたの力、見せて頂戴」
その言葉は二つの意味を持っていただろう。
己のプラスチックホビー『孤月』と『アイン』の実力。
「望む所だぜ、静漓ねーちゃん!」
『アイン』の白いロボットホビーがフィールドに飛び込む。眼の前には悪魔の如き『孤月』の姿。
翼を広げ空に浮かぶ姿は正しく悪役そのものだったが、しかし、『アイン』の目は煌めくようだった。
「か、かっけー!! えー! なにそれっ! かっこよすぎだろ……!」
「そう。よかった。でも、あなたのも、かっこいいわ」
その言葉と共に水晶の花弁が『孤月』より放たれ、フィールドを埋め尽くしていく。
まるで月光煌めく湖面を歩くように、静漓は空中にありて『アイン』の機体を翻弄する。
しかし、その弾幕めいた攻勢を彼女は類稀なる身体能力で躱していく。
「すごいわ、あなた」
「そんなことねーよ! 静漓ねーちゃんの方が!」
二人の実力は拮抗していた。
いや、『プラクト』が初めての経験のはずの静漓が『エース』である『アイン』と此処まで拮抗した勝負をしていることのほうが凄まじいことだった。
だが、『アイン』は楽しそうに笑っている。
共に遊んでいるのだという感覚がある。静漓の表情には浮かぶことはなかったけれど、彼女もまたきっと楽しいと思っていることだろう。
顔にでなくても、己の動きをトレースする『孤月』が表現してくれる。それが『アイン』に伝わって、さらに感情を静漓の中に呼び起こす。
楽しい、と。
喜びに満ちた感情を籠め、二人は長らくフィールドの中で、言葉の要らぬコミュニケーション続けるのだった――。
成功
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