男子高校生の正しい勝負の結果
一ヵ月以上あった夏休みもあっという間に過ぎ去って、新学期が始まると何があるのかといえば――そう、休み明けに行われるテストである。知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)と一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)が通う高校は、長期休暇明けにしっかりと復習ができているかというチェックを行うのだ。
さて、このテストで国語の点数で勝負をすると決めていた飛鳥と帝はテスト返しのあった日のうちに、点数を見せ合う為に部室へやってきていた。
「いよいよこの日が来たな、ミカ!」
「そうだな」
「せーので見せ合いするんやで、せーので!」
「わかった」
やや緊張気味な飛鳥に対し、勝っても負けても展開的に問題のない帝はいつも通り冷静だ。
「いくで……せーの!」
飛鳥の掛け声と共にテスト用紙を開いて出せば、一瞬の沈黙がその場に落ちる。結果は飛鳥が九十二点、帝が九十点という中々の好成績だ。
「は!? えっ!? 採点間違いちゃうんコレ!?」
二点差? 一問違いの誤差やん、と飛鳥が二人分の解答用紙を手に間違いがないのか見比べていく。
「なんで勝ったお前が採点間違いを疑っているんだ」
「そないゆうても、これは疑うやろ」
「頑張った結果じゃないか」
「いやいや、そうやけど……」
そう言いつつ、最後までチェックしても間違いは見つからない。これは俺の勝ち……? と、飛鳥が顔を上げた。
「おめでとう、すごいぞ飛鳥。やれば出来る奴だよ、お前は」
「コメントがオカンみたいなんやけど!? 不出来な息子ですまんかったな!?」
「産んだ覚えも育てた覚えもないが……」
「俺かてないわ! やー、でも……二点差でも勝ったんは俺やもんな」
まだ少し信じられないが、帝に勝てた事は素直に嬉しい。次第に表情を明るくしてにこにことし出す飛鳥を可愛いな、と思いながら帝はテストを鞄に仕舞う。余談だが、他の科目では帝が余裕で勝利を収めていたのは飛鳥には内緒の話である。
「で、命令はどうするんだ?」
「あ、そうやった。どないしよ……んーー」
勝つつもりで挑んだが、勝てるとは思っていなかったので考えていなかったのだ。うんうん唸りながら考えこみ、パッと顔を上げていい事を思いついたと飛鳥が笑う。
「決めた! 『ミカが俺の為に料理を作る』でどや!」
思いもよらない提案に、帝が瞳を瞬く。
「俺の料理……? 出来ないことはないが、飛鳥のほうがよっぽど上手く作れるだろう」
「上手い下手はええねん! ミカの作った飯を食ってみたいんや!」
「わかったわかった、なら今度の休みにうちに来い」
「よっしゃ! 楽しみにしてるからな!」
うきうきとはしゃぐ飛鳥を前に、帝は何を作ろうかと考えを巡らせるのだった。
週末はすぐにやってきて、飛鳥と約束をした日が訪れる。今日も共働きの両親は仕事でおらず、キッチンに立ちながら買った食材を確認していると玄関のチャイムが鳴った。
「お邪魔するでー」
「いらっしゃい、手洗ってこいよ」
「おー。あ、これアイスな! 冷凍庫入れといて、後で食べよ」
「わかった、ありがとう」
先にキッチンへ向かい、玉葱の皮を剥いていると飛鳥がやってきて椅子に座った。
「何作ってくれるん?」
「パスタにしようかと思ってな」
「パスタ! ええな~、うちやとあんまりせんからな」
弟妹の多い知花家では一度に作る量も多く、パスタを茹でようものなら七人前は当たり前。下手をすればそこから追加で三人前とかもザラである。リクエストされれば作るが、冷蔵庫の中身で簡単にと思うとキャベツと豚肉を炒めてめんつゆで味付けとかになりがちだ。
「楽しみやなぁ」
くふくふと笑いながら、飛鳥が何のパスタが出てくるのかと期待に満ちた瞳で帝に視線を向ける。飛鳥の位置からだと、対面型のキッチンになっている帝が何をしているのかまでは見えない。その視線を感じながら、帝が楽しみにしてろと玉葱を切った。
「飛鳥、どれくらい食べる?」
「めっちゃ腹空かしてきたからな、めっちゃ食う!」
鍋にたっぷりのお湯を沸かし、それならとパスタを四人前放り込む。タイマーをセットし、次はフライパンに火を入れ厚めに切ったベーコンを入れてカリカリになるまで炒め、玉葱を入れて炒めたらバターとパスタのゆで汁、それから牛乳を入れていく。
「なんかええ匂いしてきたわ~」
「もう少しだからな」
キッチンタイマーが鳴ったと同時に止め、パスタをザルにあげるとそのままフライパンへと入れ、混ぜ合わす。仕上げに溶いた卵とチーズを混ぜ入れて手早く絡めれば――カルボナーラの出来上がりだ。
「できたぞ」
皿に移した大盛りのカルボナーラを目にした飛鳥がキラッキラの瞳で帝を見る。
「カルボナーラや! 俺これ好きなんや~、いただきまぁす!」
「どうぞ」
カルボナーラが好きなのを帝は勿論知っているし、失敗しないようにと最近の夕飯はずっとこれだったのは内緒にしつつ、飛鳥の反応を窺いながら帝もフォークを手に取った。
「うっま! ミカの飯めっちゃうまいやん~!!」
「美味いか、それならよかった」
「えー、めっちゃうま……俺、これやったら毎日でもええかも」
「流石に飽きるんじゃないか?」
「んんん、そんなら週一で……!」
それくらいなら作ってもいいな、と帝が考えながらパスタを食べ進める。高校を卒業し、大学に進学して同棲することになったら、毎日がこんな感じなのだろうかと思うだけで思わず口元が緩みそうになるが、それを隠す様に黙って咀嚼する。
勿論、同棲なんて口にしたこともないのだが、その為には飛鳥の勉強を今以上にしっかりと見て同じ大学に進学するしかないと帝が決意を新たにしていると、飛鳥がすっかり空になったお皿を前にして満足そうに息を吐いた。
「ふー、ごっそさん! イケメンで頭良くて料理も出来るなんて最強やん! 旦那に欲しいわ~なんつって!」
「ぐ……っ」
あははは! と陽気に笑う飛鳥に、本当にこいつは……無邪気に煽ってくるなと思いつつ帝もパスタを完食する。
「お礼に俺が洗いもんしたるわ!」
「いや、片付けまでが料理だろう。俺がやるから座ってていいぞ」
「できた旦那やな~、そしたら食器拭くわ」
結局押し切られ、並んでキッチンに立つことになり、帝が洗った皿を飛鳥が拭くという流れになった。
これはこれで……同棲っぽさがあるな、と帝が黙々と洗い物をしながら思う。できれば同棲したら飛鳥に毎日味噌汁を作って貰いたい、なんて考えていたけれど自分が作ったご飯を食べて貰うのも悪くない。こうやって、一緒に並んで料理をするのだってきっと楽しいはず。願わくば、隣で揺れる桜色が何時までも自分の隣にいてくれるようにと帝は思う。
「よっしゃ、これで終わりや。ミカ、アイス食べよや」
「ああ、ありがとう」
冷凍庫からアイスを出して、二人で食べて。
いつか想いを告げる日がくるとしても、今はまだ、この距離のままで――。
成功
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