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玉響の國

#UDCアース

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#UDCアース


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●赤き鳥の囁き
 ——この地には、象徴が必要だ。
 国を纏め、国のように愛される象徴が。
 革命により得た勝利は、喝采と共に受け入れられても流した血の量は変わらない。事実というものは、後になって我々の前に立つ。
 これが貴様達の成したことだ、と。
「——あぁ、そうだとも。我等は革命を成した。この国の為に。そう、この国が国として歩み出す為に全て必要だったのだ」
 ドーム型の天井に男の声はよく響いていた。煤に汚れた天井画には最早天使の姿は無く、柱の女神たちはその顔を砕かれていた。
「だが、私達は、私はその全てを受け入れて来た。その上で、相応しき象徴が必要なのだ。ただ生き残っただけの奴よりは相応しき。——あぁ、君もそう思うだろう?」
 男は虚空に微笑む。影の向こう鳥の囀りとも、美しい女の囁きとも聞こえる「音」がする。——そう、声では無いのだ。聞き取れない、それを「言葉」として認識していたのは男だけであった。今し方、骸の山へと変えた同僚たちも、軍部の人間も男達も分かりはしなかったのだ。
『貴方の願いを。望みを叶えましょう。尊き願いを、尊き思いを叶えましょう』
「あぁ、この国は生まれ変わる。美しき象徴を得て、正しく生まれ変わるのだ。その為に……」
 骸の山を一瞥する。流れ落ちる赤が、檻の中に届く。
「お前には大統領を降りてもらうさ。最も劇的な形で。——彼女の、導きのままに」

●玉響の國
「革命が成功した国で、邪神復活の予兆が確認されました。彼らはもう一度、国をひっくり返すつもりのようです」
 ルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)はそう言って、猟兵達を見た。
 独裁国家であったその国が革命を成して数ヶ月。嘗てを思えば、革命時に流れた血は少ない——と海外から評された国は、再び平穏を破られようとしていたのだ。
「詳細は不明ですが、所謂反政府派——まぁ、現大統領を認めてはいない、という派閥に邪教が絡んでいるようです」
 邪神教団の信者に唆されたか、自らその道を選んだか。実際、負けが見えていた反対派は邪教の協力もあって息を吹き返している。
「多くは、自らの力と信じているでしょう。実際は、邪教集団の力であり、信者となった者は邪神を復活しようとしています。
 強い国になる為には必要なことである、と。
「国を纏め、国のように愛される象徴が必要だ。——それこそが、邪神であると信じて」
 唆したのは邪神側だろう。だが、魅入られたのは人だ。
「大統領を連れ去り、邪神復活の儀式の生け贄とするつもりです。何処に連れ去られたのか、儀式場の場所が何処なのかを探るために行って貰いたい場所があります」
 そう言ってルカが見せたのは白い便箋——招待状だ。
「パーティーが開かれます。表向き、大統領は革命時の怪我の療養中で欠席。お偉方は欠席も目立ちます」
 身分を偽って潜入するには持ってこいだろう。
「情報を収集してください。
 反対派と賛成派の存在は周知の事実ですが——誰も、反対派の中に邪教集団が潜んでいるとは知りません」
 信者となった者以外は。
 それと知らずに邪教集団の手助けをしていたり、何か情報を持っているかもしれない。
「——ですが、できる限り邪教の存在は彼らに知られないようにしてください。両派閥が激突する理由を与えることになりますから」
 血が流れれば、それこそ復活を狙う側のもくろみ通りだ。邪神の完全復活が、この国を苗床にして行われてしまうかもしれない。
「この国のことは、この国の方に。皆さんは秘密裏に事をなしてください」
 案内役のオラトリオが翼を広げ、グリモアの淡い光が灯る。
「では、行きましょうか。道は俺がつけます。ご武運を」


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
パーティー潜入したり情報収集したりスパイごっこな雰囲気です多分。

▼各章について
 各章、導入追加後のプレイング募集となります。
 プレイング募集期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。

 また、状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。
 まったり進行の予感です。

 第一章:緑の谷の独裁者
 第二章:詳細は不明。追跡したり追いかけっこしたり
 第三章:ボス戦。

▼第一章について
・パーティーに潜入し、情報を収集してください。

*行動によっては、敵を警戒させる結果になったり、良い情報を貰えたり世間話をしたりになります。


第一章はPOW、SPD、WIZは参考までに。

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。


それでは皆様、御武運を。
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第1章 冒険 『緑の谷の独裁者』

POW   :    圧制に抵抗を続ける人々を支援しよう。そうすれば自ずと協力者や情報が集まるだろう。

SPD   :    独裁者が座する大統領府に潜入し、ヤツと邪教集団の企みを探ろう。

WIZ   :    行方不明の大統領は今どこに? クーデター軍も血眼になって捜索しているのに見つからないとは。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●憂国は踊り
 革命を成した後、必要となるのは何であったのか。流した血への弔いも、過去への償いも形式的なものはとうに終えた。現実として残った喪失感が消える訳でも無いのは誰もが分かっていた。この地は、長く戦乱にあったのだから。
 ——だが、革命は成った。
 日々、前に向くべきだと誰もが思い出し、歩き出した。がむしゃらに駆け足に進む時が終わり、明日へと歩き出す。これより先に続く日常へと。日々を取り戻せば——当たり前のように不服が出た。

 ——まぁ、あの方は幸運だったのでしょう。革命の折に生き残って。
 苦笑交じりに男は告げる。反大統領派のいつもの言い分であった。
 革命の後、国の大統領となったのは革命に参加した政治家の内、生き残った男であった。革命に巻き込まれただけ、という者もいれば確固たる意思で参加したという者もいる。どちらの言い分が正しいにしろ、かの大統領は仮の名を持ちながら革命後の国を支え、今や名実ともにこの国の大統領となった。
「手を繋いで写真なんて撮りましたけどね、実際。あの日、空港では大騒ぎだったんですよ」
 囁くようにして息をつく。
 少しばかり情報に詳しい者であれば、この国の荒れようは理解していた。
 大統領派と、反大統領派。
 相変わらずのことだと、多くの人に言われるのはこの国の気質だ。喧嘩っ早いのも喧嘩越しもね、と言いながら——その言葉で、せめて踏みとどまろうとしている。限界にならぬようにと。
 春の名を持つ館で開かれたパーティーは、そんな両者のせめてもの歩み寄りを伝えるものであった。——最も、お偉方の姿は無い。大統領が出席しないという時点で彼らが姿を見せる気は無く、行方不明の理由も知るよしも無ければそれぞれ好きに過ごしているのだろう。
 ならば、今は好きな身分を演じてこのパーティーに入り込み、情報を収集すれば良い。立食形式のパーティーには、軍部、政治家、国の有力者の親戚達が参加しているのだ。
 彼らは邪教の存在は知らないが——何かは見ているかもしれない。知らないうちにそれを手伝わされているかもしれない。
 少し外に目をやれば、パーティーのスタッフもいるだろう。給仕から、清掃まで。
 どのような方法で、どんな情報をパーティーで手に入れるのか。
 全ては君達次第だ。
 行方不明の大統領と、儀式の場所への情報を掴む為に、秘密裏に情報を収集する為に。
◆――――――――――――――――――――――――――◆

プレイング受付期間:6月18日(木)~

*パーティー会場での情報収集になります。
 大統領派、反大統領派なメンバーの皆様(お仕事色々)や、パーティーのスタッフさん達がいます。

*邪教の存在が大統領派、反大統領派なメンバーの皆さんに知られた場合、苦戦、失敗の可能性があります。

*情報収集相手はご自由にどうぞ。〜な感じの人、みたいなのがあればそれっぽい人が出てきます。

*情報収集の結果、敵を警戒させる結果になったり、良い情報を貰えたり世間話をしたりになります。

◆――――――――――――――――――――――――――◆
八上・玖寂
欠席している適当なお偉方の養子(日本人との混血)ということにし、潜入しましょう。
最近養子を取った人とか、後継ぎがいない人とかがいたらいいですね。

話をする際は、【礼儀作法】に気を払い、
適宜【言いくるめ】たり、【誘惑】したりしつつ。

大統領はお怪我の具合が芳しくないとお聞きしていますが、大丈夫でしょうか。
まだこの国は革命直後で安定していない。大統領が正しいかどうかはまだ分からない。
養父の言うことは鵜呑みに出来ない。
…等と、少し含みや現政権への不信を持たせるような受け答えに。
これで反対派が、反対寄りの若造に口を滑らせてくれないかと期待して。


※アドリブ大歓迎です!




 美しい窓ガラスは平和の象徴だという。
 シャンデリアよりも、ガラス張りの、この街を見下ろせる程よく見えるフロアに集まっている事実が——……。
「平和の象徴のようなものだ。防弾ガラスより、街がよく見える窓ガラスが求められる日が来るとな。この国も変わった」
 そこまで言って男は、ふ、と息をついた。
「こんな話ばかりするから、叔父にも議員らしくしろと言われていたのだがね。癖は抜けないものだ」
 苦笑ひとつ、男——ヴァレリオ・トラッセッリは青年へと視線を向けた。
「君もこんな話に付き合わされて困っただろう」
「——いえ、勉強になります」
 吐息一つ零すようにして緩く、首を振る。黒髪が頬に触れ、眼鏡越しの瞳が僅かに伏せた。
「この国について、まだ知らないことも多く……」
 申し訳なさをひとつ言葉に乗せ、礼儀正しく青年——八上・玖寂(遮光・f00033)は告げた。
「未だ若輩者の身です」
「なに。私も良い話し相手を得たということさ」
 人の良い笑みを一つ浮かべ、ヴァレリオは笑った。
「それにこの国の未来を担う者に出会えたのも幸せだとも。カスコーネ殿も、君のような養子を得たのであれば自慢してくれれば良いものを」
 この国は、パーティー嫌いが多いからね。と肩を竦めて笑って見せたヴァレリオに、玖寂は微笑んで見せた。
「勿体ないお言葉です」
 ロランド・カスコーネ副長官の養子——というのが、玖寂の用いたカバーだった。
 養子を取ったのも最近で、カスコーネと親密な者も同じような『お偉方』も出席していないとなれば、養子の詳しい話を知る者はいない。
(「本物の養子を誰も見た事が無い以上、偽物も判断は付かない。まぁ、成人前の彼には申し訳ありませんが」)
 年齢が外に出ていれば、危うく学生服に袖を通すところだった。——最も、その時は相応のカバーを探し直すだけではあったが。
「大統領はお怪我の具合が芳しくないとお聞きしていますが、大丈夫でしょうか」
「——あぁ、君も聞いていたか。今日も顔を出されていないようだが……」
「……」
 今日も、とヴァレリオは言った。
 つまり、過去に何度か『姿を見せていても良い場所』でも大統領を見てはいないのだろう。体調を心配しているようでいて、言葉には棘が残る。恐らくは皮肉だろう。
(「体重の運び、視線……軍上がりでしょうね」)
 パーティーへの不服も、ガラス張りのフロアへの言葉も実際棘のある話だろう。最も、それを堂々と口にしているあたり軍人上がりをひけらかしているようにも見えるが。
「それは、やはり心配ですね」
 ——立ち位置というものが分かりやすい。
 穏やかな口調で頷きながら玖寂はゆるり、と視線を上げた。
「まだこの国は革命直後で安定していない。大統領が正しいかどうかはまだ分からない」
 グラスの中身は飲み干さぬまま、憂いを滲ませる。
「なに、平和の為に必要なものさ。あの政策もね。カスコーネ殿も随分とご苦労されていただろう」
「えぇ、平和な時代に必要な政策がある。この国を理解したもので……」
 少しばかり含みのある言い方をして、玖寂はヴァレリオに見える場所で一度、拳を握ってみせた。
「——養父の言うことは鵜呑みに出来ない」
 ぽつり、と零すように。だが、耐えきれずに紡ぎ落とす様を装えば小さくヴァレリオが息を飲み——やわく、笑った。
「カスコーネ殿は、良い養子を取られたな。彼には勿体ないほどの」
 私もだ。と短くヴァレリオは紡ぐ。
「私もこの国を真に憂いている」
 愛国者だと、ヴァレリオは告げた。
 玖寂の言葉を——カスコーネの養子の言葉を、ヴァレリオは素直に受け取ったらしい。現政権への不信感を持っている、と。
「安心すると良い、若者よ。この国は、正しき指針を得る。なに、武器は向けるが血なまぐさいことはしないさ」
 声を低め、パーティーの賑わいに紛れるようにしてヴァレリオは告げた。
「我らの覚悟を示す。その為の輸送も進んでいる。舞台に必要なものは全てね。……この時期に集めるには苦労したがね」
 後は、覚悟ある者が正しき場所につくだけだ。
「大統領には、自らの演説で降りてもらうのさ」

「——全ては新月の夜、我が国は生まれ変わる……ですか」
 賑わいの中、グラスに唇で触れ玖寂は息をうついた。ヴァレリオは、とうに姿を消していた。
(「大統領の不調は知っていても、行方不明なのは知らなかったようですし。……追うべきは、武器の輸送でしょうか」)
 舞台に必要なもの、というのも気になる。空になったグラスをボーイに返し、玖寂は賑わいに紛れる。手袋をつけたままの男の痕跡など、グラスには残ってはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キアラ・ドルチェ
海外に留学が長かった旧家の子女を装って、ドレス姿で参加
「皆さまごきげんよう、良いお日和ですね」と、海外帰りの少し雰囲気読めないお嬢様ぽく話しかけ、雑談の中から情報を得ようとします

出来れば反対派中心
口の軽そうな奥方様やヨイショで軽くなりそうな偉そうな方を狙って会話
「久しぶりに帰って来ましたが、近々何かお祭りのようなものはあるのでしょうか? 今日みたいに楽しい事、また参加したいですっ」
とイベント事を探りつつ、儀式に関連付けられそうな物があれば突っ込んで聞き取ります

あと、国の中でいつもと違うイベントがあるとか、今回は場所や内容が違うとかあれば、こちらも追求します
「そうなのですね、楽しみです~」




 白い扉は、革命の後も無事に残ったものだという。春の名を持つ館で行われたパーティーは美しい光に包まれていた。ガラス張りの大窓から見える街並みは、賑わいこそあれど轟音には程遠い。旧政府——革命以前のこの国の支配者たちが愛した美しさは芸術の意義を以て、守られたという。
『美しさに意味は無くとも、心を揺さぶるのだから』
 そう、言ったのはこの国の今の大統領だ——という話をキアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)が聞いたのは、話好きなマダム達の輪に入って1時間ほど経ってからのことだった。
『皆さまごきげんよう、良いお日和ですね』
 当初こそ、旧家の子女を装ってドレス姿でやってきたキアラを警戒していた女性陣も、海外留学が長かった、というキアラの話に納得したらしい。
「久しぶりに戻ってきましたの」
 明るく、微笑んだ娘と白いドレスはこの国の外を感じさせる。海外帰りでこの国の事情に疎く——その所為か、少しばかり雰囲気の読めない姿を装えば、女性陣はキアラの立ち位置が『どちらでも無い』と納得したようだった。
 つまり、大統領派か、反大統領派か。
 中立を謳う日和見か。
(「……と、随分と厳しい言い方でしたが……。実際、皆さんお喋りなんですよね……」)
 事情に疎い風を一度見せれば、最近の話など随分と出てきた。キアラの想像通り奥方たちは口が軽い。
「そもそも……ねぇ。このパーティーも何の為か」
「うちの人もこれじゃぁ、前政権と同じだと言うのよ? それなら開かなければ良いのにねぇ」
「でも、仲の良い所を見せておかないと……でしょう?」大統領候補は他にもいたのですから」
 ——反大統領派曰く、大統領となるべき候補たちは他にもいたのだという。
「貴女もご友人と会えないようじゃ心配よねぇ。こちらに戻って日も浅いのでしょう」
 水を向けたマダムの話に、キアラは頷くようにして微笑んだ。
「その分、今日はこのパーティーに参加出来て良かったです」 
 肯定も否定もしてはいない。話の中、お喋り好きのマダム達はキアラの友人関係を想像していく。
(「それにしても、姿が見えない人たちが結構いるんですね。反対派の中で何かに協力しているのか……普通に仕事で忙しいのか」)
 もう少し、踏み込んで聞いてみても良いのかもしれない。
「久しぶりに帰って来ましたが、近々何かお祭りのようなものはあるのでしょうか?」
 明るい少女の姿で、キアラは首を傾げてみせる。パチ、と瞬いたマダム達に、この国の現状に疎い振りをしたまま帰国子女の娘は問うた。
「今日みたいに楽しい事、また参加したいですっ」
 瞬きは二度、お喋りなマダムたちは微笑ましげに息をついた。
「ふふ、それは残念ねぇ。親交パーティーは今回で恐らく終わりだろうという話よ?」
「大統領も結局、姿をお見せになりませんものねぇ。セレモニーにの準備に忙しいから、という話ですけれど」
 大統領に近い方々も姿を見せないでしょう、とマダムの一人が息をつく。
「セレモニー、ですか?」
「えぇ。正式就任の挨拶よ」
 でもそれも、無事に開かれるかしら。とマダムは息をついた。未だ、場所も定まらないという噂もある、と。
「今までとは違う演出があるからって話だけれど、どうかしら。実際、何の準備も上手くいっていないだけな気もするわ」
 あぁ、でもそれならば。
「きっと、お祭りみたいな騒ぎになるでしょうね。セレモニーは中継されて、国民の皆が見るのだから」
「そうなのですね、楽しみです~」

 にこにこと話を終えて、キアラは内心息をついた。姿を見せていないのは、別に反大統領派だけではない。大統領派で姿を見せていないのは——本当に、姿を見せていないだけだろうか。
『ぱったり見てないもの』
 つまらなさげに告げた理由。マダム達は詳細を知る訳では無い。ただ、真実を知らぬままにそれを見聞きしたのだ。
「反大統領派の一部に、邪教の関係者が出ているとなれば、大統領派での姿を見せていないのは行方不明になっているのかもしれませんね……」
 それにセレモニーだ。会場が定まっていないが、用意は進められているはずだ。その場所を探ってみる必要も、あるかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザハール・ルゥナー
革命か。
先刻まで荒れていた国がそれで纏まるはずもなく……か。
さりとて血を流し続けるのは不毛だろう。

正装軍服を来て会場に。
設定は新体制の地盤固めに呼ばれた他国の将校。
宴席に参加しつつ女性達に話を聴く。
何も知らされていなくとも女性は漠然と悟っていることはある。
逆も然り。マークされれば何かしら得られよう。

新しい武器や化学兵器の話から入り、重要な作戦の際には呪いなどに頼る事もあるとオカルトめいた話を冗談として語る。
この場には相応しくないなと、詳しい話は笑顔で誤魔化し、
この国ならではの挨拶などはあるのだろうか、などと話題を変え反応を見る。

周囲の気配にも注意は向けておこう。
む……この料理、美味いな。




 春の名を持つ館は、旧体制時代も煌びやかなパーティーが開かれたという。最も、当時の絢爛豪華な宴に比べれば、現政権が開いたこのパーティーはどちらかと言えば親睦会に近い。それでも、ドレスを着る機会があるのは良いことだわ、と微笑んだのは金色の髪を結い上げた娘であった。
「気兼ねなく、お話ができるもの」
「そうね。普段であれば父も祖父も、難しい話をしているんでしょうけれど」
 最近は忙しいのか家に戻らないことばかり、と赤髪の女がため息交じりに息を落とす。
「大統領か副大統領かって、もう……」
 唇を尖らせ、不服を紡いだ女は、そこで、ふいに申し訳なさそうに息をついた。
「あ、ごめんなさい。つまらない話ばかり。折角、この国の話を聞いてくださったのに」
 ほらまた始まった、と金髪の娘が眉を寄せるのを視界に、ザハール・ルゥナー(赫月・f14896)は静かに微笑んだ。
「——いや」
 言の葉を作る。吐息ひとつ、零す分だけの時間を使って、ザハールは白の軍帽を手に持ち直した。
「この国を支える方々の話も興味深い」
 ゆるり、と細められた瞳に話好きの女性陣達が頬を染めた。
 正装軍服で会場へと入れば、新体制の地盤固めにと呼ばれた他国の将校、というザハールのカバーはよく馴染んだ。軍関係者からは軽く声をかけられたきり——あちらも、お偉方の参加しないパーティーでは、政情に明るい者は多くても軍の作戦に詳しい者はいないようだった。
『この国は、新しく生まれ変わったばかりですから』
 和やかに応じた軍人は、革命を成したという事実にまだ酔っているようだった。
(「革命か。先刻まで荒れていた国がそれで纏まるはずもなく……か」)
 次の起きる障害の解消方法に、革命で現状を得た者が何を選ぶか。想像に難くない。
(「さりとて血を流し続けるのは不毛だろう」)
 パーティに参加している女性陣たちは、お偉方がいない分、随分と宴を楽しんでようだ。
(「何も知らされていなくとも女性は漠然と悟っていることはある」)
 ならば、と静かな笑みを浮かべてザハールは新しい武器の話を唇に乗せる。遠距離支援から、化学兵器に話を移し、まぁ、と瞬く女性陣が盛り上がる中、ふ、とザハールは笑みを見せた。
「重要な作戦の際には、呪いなどに頼る事もある」
 冗談めかしてひとつ告げてしまえば、女性陣が笑みを零す。面白いだとか、興味深いだとか告げる娘たちの中、そういえば、と赤髪の女——セリーヌが、ぽん、と手を打った。
「そういえば革命時にもありましたわ。紅い鳥の話。ふふ、この国も何かに頼りたくなる時があったのでしょうね」
 ふふ、と笑みを零したセリーヌに、ザハールは静かに笑みを返した。
「そうかもしれないな。その、紅い鳥とは?」
「革命の象徴で、この国の国鳥でもありましたのよ。紅き星の鳥。今でも軍の象徴ですの」
 絶滅して久しい鳥を、この国の革命の象徴として掲げたのは革命の中枢にいた者だという。
「まぁ、でも大統領は、軍旗からも外すというだったけれど……」
「あら、副大統領は残されるって話じゃなかったかしら。革命の象徴だもの」
 共に進んだ姿だと、と誇らしげに告げる娘は家族に革命を歩んだ者がいるのだろう。
「そういえば、義兄も最初は外す気でいたらしいけれど、最近になって紅い鳥が必要だ、とかで」
「あら、メランサの方もそうなの? うちの叔父も最近は必要だと言うんだもの」
 まぁ、今の大統領はねぇ、と口にしても、嫌な顔をする者がいない辺りセリーヌの一派は皆、反大統領派の家の者か。
(「大統領は、軍部を縮小する気でいる。軍関係者から不満がでるのは不思議では無い、か。最近になって、再び革命の象徴が受け入れられるようになったのは……」)
 もう一度、革命を起こす気か。
 ここまでは、凡そ、人の仕事だ。最近になって見えた変化をどう取るか。
 女性陣は再び何か話題を見つけたらしく新たな知り合いの元へ去って行った。あちらも猟兵か、将又出会いを求める一部の女性陣が狙っている誰かか。
「む……この料理、美味いな」
 鳥の皮をパリと焼いた、スパイスのよく利いた一品だ。立食形式のパーティーにしては、しっかりとした料理が多いのはこの国の伝統料理だからだろう。
(「菓子も甘いものが多いな。土地柄か」)
 ——さて、とザハールは近づいてくる気配にゆっくりと視線を上げる。金色の髪を結い上げた娘が、静かな瞳でザハールを見据えていた。
「呪いについて、やっぱりお詳しいのかしら? 例えば、呪われた者を元に戻す方法とか……」
 恋人が毎夜忙しく何処かに出かけているのだ、と娘は言った。
「えぇ忙しい人ではあるの。軍人だもの。紅い鳥をつけて。……でも、心変わりを願う呪いなんていうのも、あるのでしょう?」
 彼がそれが理由で、私の誕生日を忘れてしまったのかも知れないわ、と娘は物憂げに息をついた。 

成功 🔵​🔵​🔴​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
魔窟へ踏み込むのだ
半端な準備なぞ言語道断
子息と付き人を演ずるならば相応の装いを

堂々たる物腰で宴に臨みつつも
常に、周囲の様子には目を光らせる
全く、お前は何時まで経っても心配性だな
少しくらい大目に見ても…ううん
酔いが回った演技を見せ、ジジと共に医務室へ
医師からならば反対派や賛成派の情報にも
精通しているやも知れぬ

…お恥ずかしいをお見せしました
この国は革命の成功から日は未だ浅く
大統領の怪我も癒えぬと聞きます
今の平穏を齎した、国の象徴たる大統領
国を想う彼と是非お会いしたかったのですが…
斯様な大統領を良しとしない派閥の存在は
俄かには信じられませんが…
等とコミュ力を用いて誘導してみるか


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
若く美しき子息と
その付き人装って
怪しまれぬため果実酒を手に

打ち合わせた内容を脳内で何度か復唱
師父の呼び方…呼び方は、そう
…坊ちゃん、あまり飲み過ぎませんよう
うっかり地が出たら如何するのだ――とは小声で

だから言ったでしょうに
脇から支え、御用達の医師のもとへと
水など差し入れながら
師父と会話する医師、その助手らしき者を観察
さて、何処まで知っているのだろう

極力残念そうな声色を目指し、つっかえぬ様
…坊ちゃんも、いずれ人の上に立つ御方
お会いできれば、後学に良きお話が聞けたやも
ダイトウリョウが早く回復されると、良いのですが

問われれば己自身はどちら側でもなく
ただ身を案じていると答えて




 嘗てこの館は、オペラの上映も行われた歌劇場でもあったのだ、という。芸術というものを独占し、美しき館を以て旧政府はその権威を見つけ——その美しさを理由に、館は革命後も生き残った。この美しさへの新たな意味は、我々が齎すのだ、と。
「——いやぁ、あれは大統領の演説の中でも名演説でしたな」
「しかし、実際。取り壊すことができなかったともいえるでしょう」
「演説も優秀なライターを抱え込むことができるかどうかもありますからなぁ。ははは、腕の良い者がとどまったか、誰か拾ったのでしょう」
 ——パーティーは、とかく賑やかであった。絢爛豪華には遠く、国内外の親睦を目的としたパーティーではあったが、大統領派と反大統領派は話を聞くことができれば分かりやすい。革命後、漸く戻ってきた駐在大使や、国外の客たちもあの話には敢えて踏み込む気は無いらしい。
(「……どちらの派閥も公然と存在している関係で、会場で好きに話しても騒ぎを起こさない、か。それだけは利点かもしれんな」)
 唇に薔薇色輝石の指先をかけ、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、そっと息をついて見せる。
(「馬鹿騒ぎは見るに耐えん」)
 ——まぁ、子供の喧嘩じみた言い合いには発展しているのだが。
「果実酒とシャンパンは如何ですか?」
 この国では果実が良く取れるらしい。細工の施された美しいグラスが多いのは、酒を輸出している国の強みでもあるのだろう。春の館もガラス張りの美しい窓を持っている。あれが、平和の象徴だと何処かで声がした。狙撃も気にせずに、立っていられるのだから、と。
「あちらに、ワインもございますが」
「ふむ。ならば——……」
 空のままのグラスを手に、視線ひとつアルバが上げたところで、頭上を手が横切った。
「失礼……、坊ちゃんは」
 短く告げた長身に、ボーイが慌てて頭を下げる。酒に弱いと思ったのだろう。申し訳なさそうにしていくボーイを見送り、自分はしれっと果実酒を手にした長身の——今宵は付き人たるジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)をアルバは見上げた。
「……」
 気配に気がつくようにして、落ちてきた視線が息を落とす。
「……坊ちゃん、あまり飲み過ぎませんよう」
 若く美しき子息の付き人らしく、口を挟んだジャハルはそう言って——囁いた。
「うっかり地が出たら如何するのだ」
 打ち合わせた内容を脳内で何度か復唱して、間違えぬよう漸く、師父を「坊ちゃん」と言ったのだから。
「全く、お前は何時まで経っても心配性だな」
 たっぷりと開いた間の後、ひっそりと息をつく気配があったのは気のせいか。つま先の触れる距離にだけあった声は、周囲の客人達には届く筈もなく。美しい子息と、涼やかな付き人の姿は女性陣たちの目の保養となっているようだった。
(「動いてくる者はいないか」)
 主の傍らに立つことだけは変わらず、周りの動きを見ていたジャハルの耳に微笑ましいよりは美しい、と響く賛辞の果てに世情が混じる。煌びやかなシャンデリアを置くためにどれだけ、と息をついて見せたのだけは、どちらの派閥も同じだった。
「顔見知りの分、余計か」
 やれ、とアルバが息をつく。右だ、と静かに届く声は同じシャンデリアを見て話をしていた男たちだった。銀行家の男たちは、役人たちや軍人とも仲が良いのだろう。話が賑わいだした、と告げる声ひとつ、アルバがグラスを撫でる。——仕掛けの合図だ。
「少しくらい大目に見ても……ううん」
 くらり、アルバが身を揺らす。傾ぐ細身にいち早く慌てたのはグラスを進めたボーイだった。
「大丈夫ですか!」
 駆け寄ってくる青年は——善意のようだ。瞳で制止、ジャハルはアルバを受け止めた。
「だから言ったでしょうに」
 脇から支えるようにして、固まったボーイに「医務室はあるか?」と問えば、勢いよく青年は頷いた。

 ——館の医務室は、随分と豪華な部屋であった。柔らかなクッションに、座り心地の良いソファー。金縁の派手な刺繍が無ければ良かったか。医務室というよりは、嘗ての休憩室を改造した部屋で二人を出迎えた医師は「目にうるさいでしょう」と小さく笑った。
「どうにも、他に部屋が無くてね。それで、少しは楽になりましたかな?」
 灰色の髪が頬に残る傷を隠していた。医師の言葉に、ジャハルから水を受け取りながらアルバは頷いて見せた。
「……お恥ずかしいをお見せしました」
 ほう、と息を落とす。軽い診察を終えた医師に、アルバは瞳を伏せて見せた。
「この国は革命の成功から日は未だ浅く、大統領の怪我も癒えぬと聞きます」
「——あぁ、怪我とは言え甘く見てはいかん、という良い例でしょうね。……まったく、革命時に前線に出た人たちは血気盛んでいけない」
 ため息交じりの言葉は、知った顔がいるかのような言い分だった。この国の医師として、今もこの館で——大統領派と、反大統領派の集まるパーティー会場で医務室に詰めている医師の男が、革命とは無関係ということは無いようだ。
「受けた傷を、体は忘れんというのに」
 僅か、説教めいた言葉を紡ぐ医師には誰かが見えているのか。それとも、この国そのものを憂いているのか。ため息交じりの言葉の先、吐息ひとつ分の間を得てからアルバは言葉を作った。
「今の平穏を齎した、国の象徴たる大統領。国を想う彼と是非お会いしたかったのですが……」
 ひどく残念そうに告げたアルバの後ろ、水の入ったグラスを受け取ったジャハルが極力残念そうな声色で告げた。
「……坊ちゃんも、いずれ人の上に立つ御方
お会いできれば、後学に良きお話が聞けたやも
ダイトウリョウが早く回復されると、良いのですが」
「……」
 師である己からすれば、つっかえる事無く告げられただけで褒めてみせるべきか。残念そうな声の作り方から告げるべきか。——だが、医師が普段のジャハルとアルバを知る訳も無く、こういうものだと思っている男には、ひどく残念そうにしている主従の姿に見えたようだった。
「大統領にか……。君の目には、この国はどのように映るのでしょうね。派閥の話はご存じでしょう」
 苦笑交じりに語っていた医師の語り口調がふいに、変わる。苦々しい声で、一度落としたため息と共に視線が上がる。
「漸く、革命を以てこの国は変わったというのに。——……、君は、どう思っているんだ」
 水を向けられたのはジャハルであった。雄弁に告げるアルバに対し、従者の立場を確認するつもりか。
「ただ身を案じている」
 己自身はどちらでもない、と前置いて告げたジャハルに医師は納得したようだった。己の意見を告げられるのは良いことだと、笑みを零す。
「斯様な大統領を良しとしない派閥の存在は
俄かには信じられませんが……」
「奴らは、大統領候補でも無かった彼が、大統領になったのが気に食わないのでしょう。余裕が出てきた瞬間の派閥争いですよ。本来、次の候補となるべきだったのは副大統領の方だった、と言ってね」
 大統領は、嘗ての保健福祉長官で、副大統領は嘗ての総合参謀本部の副議長であった。革命の主導側にいたのは、副大統領であった、というのもあるだろう、と医師は言った。
「確かに、大統領は生き残っただけではありましょう。爆撃の中、偶然に。だが、そこに奇跡を見いだしたのも、その奇跡に乗ったのも我々なのです」
 それに、と医師は息をつき、見守っていたバーテンへと視線を向ける。
「あまりサボるな。給料が支払われなくなるぞ」
「——あ、すみません。では」
 ばたばたと青年が去って行く。知人でね、と息をついた医師はゆっくりと視線を上げた。
「君が、真に大統領を案じているのであれば、あまりそれを口に出さない方が良いかもしれない」
「喋らない方が、と……?」
 驚くようにしてアルバは口を開く。医師は大統領派か。
「なに、別にこれが真実かは分からないが……大統領は入院していないのでは無いか、という話もある」
 当初、入院しているという話であった病院にはいないのだという。
「腕の良い医者のいる場所へ向かった聞く。スピーチの前だ。急ぐ心も分からんでも無いが……、この国は革命の後だ」
 行ける病院など限られていて、国外に動けば分かるというのにそれも見えない。
「いや、もしかしたら派閥争いなぞ無く、全て大統領のお加減のための偽装かもしれん。だが——……。この国の秘密主義は今に始まったことでは無いが、今ひとつ気なくさい」
 国を出ることだ、と医師は静かに告げる。
「大統領の見舞いに行った者も体調を崩した。パーティー会場に人が少ないのも、最初はもう少し騒がしかったのですよ」
 殴り合いの喧嘩になることは無かったが、と医師は小さく笑った。
「互いの思想を語り合い、少しばかり和解する。僅かでも効果が無ければこんなパーティーをしているほど、我が国に余裕があるわけでもないですからね」
 だが、と医師は息をつく。大統領派の参加者が少ないのも、見舞いに行った者が体調を崩すのも、入院だと行って姿を消すのもどうにもおかしい。
「革命の後だ。故郷に療養に戻ったと言われればその程度ではあるのですがね。あれの、ジョンの兄もそれで今は家に戻っていないのですよ」
 大統領派であったボーイ、ジョンの年の離れた兄は書記官であったという。大統領の見舞いだと行って、病院に出かけたきり、後は調子を崩したと言われて入院しているという。
「流行病だと言われた方が納得がいく。まぁ、反対派は怪我をしているようだがね……」
 喧嘩と言うよりは、事故でも起こしたのか。
「何をしているのやら……。君、移動するのならば早めにしておくべきだ」
 それとこれを、と医師——ダリル・ウィッチャーはアルバたちに名刺を差し出した。
「また、調子が悪くなったら印を付けている病院では無い場所に行くことだ。もう動いていない病院も、移動であれば路線もこの地には多いからね」
 路線沿いにある病院のいくつかに「×」が刻まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
日本の外務省から、の肩書きで侵入っと。
海外から評価される程の革命なら、国情視察に来てもまぁ変じゃないだろ。
背の翼は邪魔だし引っ込め。スーツ姿に前髪上げて眼鏡かけときゃくそ真面目な日本人らしく。

パーティに紛れ、現地の方々に挨拶して回っとく。
国交と経済支援の為にと、今この場に来ている主立った面子について確認。
お偉方の不在でもおられるなら今後国を背負う方々でしょう?と。
注目すべき人物には違いない。国交上重要な人物を知るのが仕事なもので。

折り見て煙草休憩しに会場の外へ。
喫煙所でやってきた清掃スタッフと世間話。
民衆の目から見て革命はどう映ったかとか知りたいし、と。
案外何か目撃してるかも知れないさよね。




 柱に背を預け、柘榴紅の瞳がパーティーの賑わいを追っていた。視線を遮る前髪を上げ、きっちりとスーツに身を包んだ長身は他の客達に生真面目な日本人に見えたらしい。物珍しげな視線にひとつ、ゆるり、と瞳を細め偶然を装って早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は微笑んだ。
(「二時の方向は議員の集まり、六時の方向は役人となれば……正面は軍人さね」)
 外務省から国情視察としてやってきた——という翼のカバーは、パーティーを楽しむ女性陣よりは議員たちの気を引いたらしい。親交パーティーに出てくるのも、無駄に派閥争いと言い合いをする為でも無いのだろう。
「——いや、失礼。やはり、日本の方は真面目ですな。我々もタキシードよりはスーツを引きずり出すべきでしたな」
「真面目すぎる、とも言われますが。その国ごと、場にあったルールというものもありますので。お名前は……」
「ん? 私は議員のトーニオ・ヴェーナだが……」
 眉を寄せた男——トーニオに、翼は生真面目に頷いて見せた。
「ありがとうございます。いえ、お名前が合っていたか心配で」
 失礼に当たりますので、と生真面目に告げた翼に、トーニオはぱち、と瞬いて笑った。
「はははは。さすが、やっぱり日本人は真面目だな。噂通りだ」
 ——噂、とトーニオは告げた。この反応を見る限り、この国にやってきた日本の役人はいないのだろう。
「だが、知っての通りお偉方は今日も出てきてはいないぞ。国交と経済支援の為に来ていただいたようだが……」
「お偉方の不在でもおられるなら今後国を背負う方々でしょう?」
 静かに言葉を返した翼に、トーニオが小さく瞬く。ふ、と零された笑みはいっそ、不敵だ。
「この国を背負うと?」
「注目すべき人物には違いない。国交上重要な人物を知るのが仕事なもので」
 己が不敵さを見せたのも分かっているのだろう。トーニオは機嫌良く笑った後に、あそこが政務官だと、あっちが上院議員たちだと饒舌に告げた。
「補佐官は……あぁ、あっちは養子殿が来ているとか言う話だったな。あそこで話に花を咲かせる女性陣は軍部の令嬢たちだ」
 親の目が無い分、名代の名目で遊び相手探しに忙しいのさ、とトーニオは笑う。
「国運輸省のメンバーは最近見ないかな。私は、家として中立なのだよ」
「そうでしたか」
 ——嫁の実家と、己と。両派閥に籍を置く結果の自称情報通のトーニオは、周りにあまり好かれていない事はよく分かった。

 賑わいの中を抜けてゆけば、美しい回廊の先に喫煙所はあった。旧政府時代からあった館の喫煙所は、やたらと豪華だ。ここしか場所が無いもので、と翼に断ったのは先に喫煙所に姿を見せていた清掃員の女だった。
「こんなところでじゃなくて、会場の中にだって喫煙所はあっただろう?」
 世間話も進めば、堅物を想像していた清掃スタッフのマダムも固めていた口調が崩れていた。
「あんたも変わってんねぇ」
「そうさね? んじゃ、仕事と行くさよ。民衆の目から見て革命はどう映ったかとか知りたいし」
 その為の国外出張だったから、とひとつ告げて、紫煙を燻らせる。トン、と灰を置いた翼に小麦だ、珈琲だと嗜好品がどうだったかと話をしていたマダム——サマンタ・ブレッサは煙草を手に息をついた。
「劇的だったさ。旧政府の連中が監禁していた政治家も救えた。軍部もクーデターに成功して……」
 うちの国は、情熱的なのが多いからね。とサマンタは煙草を揺らす。紫煙で描いた丸を吐息で崩す。
「革命が成功したのは、成功しそうな空気に乗っかった奴が多かったのよりは、もうこんな状況は嫌だって思った奴が多かったのさ」
 そうして、失敗するだろうと旧政府が甘く見ていた革命は成功した。
「死んだって構わない、なんてね。そんなことまで言って、駆け抜けちまったのさ」
「……詳しいさね」
 ややあって言葉を選んだ翼に、掃除屋のサマンタは薄い金色の髪をかき上げて笑う。
「こういう仕事してるとね、どうしたって詳しくなるのさ。掃除屋ってものはね」
 何処にだっていて、何処でも無いとなりたたないのさ。とサマンタは笑った。
「——けど。勢いで駆け抜けたのが良くなかったんだろうねぇ。歩けるようになったら、目的が出てきちまう。最近じゃ、私らでも出入り出来ない場所も増えてきたしね」
 片付けるもんばっか合った場所だろうに、とサマンタは息をついた。
「掃除もやめて廃棄する場所さね?」
「——さぁね。元々列車の墓場なんて言われてた場所さ。——だが、あたしの勘が正しけりゃ」
 きな臭いね、と告げてサマンタはひらり、と翼に手を振った。休憩時間はもう終わりだと告げて。
「——……随分と濃い人さよ」
 はぁ、と息を吐き出して、翼は煙草を咥える。
「列車の墓場、か……。出入りの規制は確かにきな臭いさよ」
 そこに知られたくない何かがあると言うようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
世界の加護で身形は怪しまれぬだろうが
最低限の礼儀作法と書で得た世界知識程しかない故
国民の声。過去の戦。各陣営の重要人物の顔、氏名等
現地へ赴く前にニュース等を見て行こう

会場ではまず影となり潜み、人々の話に聞き耳を
この場にいない者の話題は、よく弾むだろう

野生の勘で、
反大統領派の、功名心が逸っていそうな者を狙う
欠席した反体制派の支援者のていで、
近々大きなイベントがあると聞いているが、
他に支援が必要な物や場所はあるか?と誘惑し、探ろう
悪目立ちせぬよう、理解を示し油断を誘いたい

■心情
…流れた血。嘆きと、現実を。未来への展望を
背負い築いていくはこの国の方々
だが。邪神の影とあらば猟兵の領分
密かに事を成そうぞ




(「……ふむ。反大統領派は、軍部に多いのか」)
 己の身を影として、人々の話に耳を傾けていたドゥアン・ドゥマン(煙る猟葬・f27051)は、ひっそりと息をついた。事前に、ニュースでこの地の情報はある程度仕入れていた。国民の声。過去の戦。革命が他国に評価が高い理由は、旧政権時代、捉えられていた人々を無事に救出したことにあるという。
『軍部のクーデター、鎮圧により平和に殉じた政治家たちの中から真のヒーローが生まれたのです』
 力強い語り口は、大統領派の作成物だったのだろう。国外には確かに、両派閥の存在は知られているが、大統領の健在っぷりを伝えるものが多かった。
『この国は生まれ変わるのです。ランベルト・ダニエリ大統領の名の下に!』
 ファンファーレと共に番組は終わり、副大統領のテオ・アディノルフィの名が並ぶ。
(「反大統領派が掲げているのは、副大統領だったか」)
 出身が、軍部に近いのだろう。軍人家系の娘たちも仕切りに副大統領を褒めそやしていた。
「必要なのは平和な時代なのでしょう? とはいえ、今まで前線で戦ってきた軍の皆様に縮小しろだなんて……」
「武器の使用の制限も出ておりますな。ご自分は護衛があるから良いですが、あぁ、大統領は怪我の具合も良くないとか」
 ほう、と息をついて見せる。心配なのも分かりますが、と軍属らしい男は息をついた。
「交流の場と自らお決めになりながら、己の派閥の参加者も減っていくというのは、些か……」
 ——減っていく、と男は告げた。つまり、最初はもっと人数がいた、ということだ。確かに大統領派の参加者は多くは無い。大きな反論が無いのはそれが理由か。この場にいない者の話題は、よく弾む。
「……」
 影から影へと渡り、話を聞く。賑やかに話しつつも、大抵は話は愚痴で終わる。手段の話は遠く——だが、軍部で忙しくしている者も多いという話を聞き及んだ時、ふいに、拳を握る音をドゥアンは聞いた。
(「——あれは……」)
 感じたのは何処か悔しそうな気配だ。視線を向ければ金色の髪をした男が、低く呟く声が聞こえた。
「……れであれば」
 俺であれば、と。聞き取れた言葉に、ピン、とドゥアンは耳を立てる。影の中を辿るようにして身を起こし、賑わいの中から青年の姿を見せたかのように、ひらり、と手を振って見せた。
「どうも。今日は彼に会えれば良かったのだが、どうやら欠席であるか。そちらには会えて良かった」
「——あ、え。俺……いえ、自分にですか?」
 ぱち、と男が瞬く。あぁ、とドゥアンは静かに頷いて見せた。
「そちらも彼と同じであろう」
 選ぶ言葉は少ない。男側の解釈でどうとでもなるように選んでいく。
「近々大きなイベントがあると聞いているが、
他に支援が必要な物や場所はあるか?」
 問いかけより先に、そう言葉を先に紡いでしまえば、男は小さく息を飲んだ。
「叔父は、上官は今日は来れないみたいで。準備が忙しいからと……」
 言いながら男の瞳が泳ぐのをドゥアンは見た。戸惑いでは無い。功名心が逸り、続く言葉を選ぼうとしている。
「……」
 線の細い男だ。ドゥアンの瞳に男は、只の人に映る。邪神の影響を受けてはいない。ただ、革命の名残を引きずっているようには見えた。
『俺ならもっと良い方へ運べるはずだ』
 一度唇を引き結び、す、と息を吸った男は笑みを見せた。
「実は、少しばかり武器が必要だ。今から大型のものは…、いや、あれは叔父も喜ぶだろう。一度で全ての片が付くかもしれないからな」
 大統領の演説など、させる前から潰してしまえば良い。男はそう言って、ドゥアンを見た。
「会場は未だ決まっていないらしいが……なに、移動手段はある。使える場所も限られているからな」
「確かに。話をさせるよりは、その機会ごと封じるのが妙案であろう。大型の品は、運び込みで目立ちそうではあるが」
 ドゥアンの言葉に、男は問題ない、と告げた。
「元より移動は列車を使うつもりだ。ふん、運輸省の連中、自分たちばかりが必要だと言うように閉め切っているがな」
 用意が出来れば武器はここに、と男は名刺に走り書きを寄越す。
「紅い鳥を再び掲げ、我らは新しき象徴を得るのさ」
 古い列車の置かれている場所で、今、ここで準備が進められているのだと言った。

「古い列車置き場であるか。路線が生きていて、街中に続くようであれば何を運ぶにしても危険であるな」
 男は辿りついた先で己の名を告げろと言っていた。上官に引き合わせる、ということだろう。プラチド・ベルティーニは、反対派のある作戦に深くは関わることができていなかったようだ。
(「守られた、というよりは性格であろう。……しかし紅い鳥か。事前に見たニュースでも革命メンバーが身に纏っていた」)
 再び、革命を起こそうとしている人々がそれを纏うのは不思議では無い。だが、この国にある者が国を憂うだけではないことをドゥアンは知っている。
(「……流れた血。嘆きと、現実を。未来への展望を背負い築いていくはこの国の方々」)
 だが、と口の中、言葉を紡ぐ。
「邪神の影とあらば猟兵の領分」
 密かに事を成そうぞ。

成功 🔵​🔵​🔴​

クーナ・セラフィン
革命、か。大体碌でもない結末になるものだけどもさてね。
義憤とかまあまともな切っ掛けから始まっても途中でどこかで転んで後は皆仲良く念仏の時間…そうならないといいんだけど。
でもそれが邪教のアレコレに繋がっていい訳もなし、情報収集頑張ろうか。

参加者の子供と偽って潜入。
とりあえず過激そうじゃない人を催眠術で私が娘とか思い込ませてパーティへ。
難しいなら最初から通風口とか利用してパーティの裏から情報収集。
集める情報は大統領派から。
普通に子供を装いつつ当たり障りない感じで接触。
一人から集められる情報も限られてるだろうから広く浅く探り全体像を炙り出す感じで。
まあ、無理は市内の第一でね。


※アドリブ絡み等お任せ




 春の館は冬の宮殿の名残なのだという。王権など無いというのに旧政府は古式ゆかしい王政の再現を願った。絶対的な力の他に、己に神聖を見せようとしたのが、革命がよく起きた「騒ぎ」から革命として成立した理由だとも言う。
『革命だ。反抗でも反乱でも無い。正しく、革命の形を得てこの国は変わったのだ』
 我らの覚悟を旧政府は見誤ったのでしょうな、と語って見せたのは、最近、このパーティーに戻ってきたという元上院議員であった。饒舌に語ってみせる議員の不在の理由は腰を痛めたのが理由であった。
「クーデターでも何でも無くてね。だから、彼の話は半分程度に聞いておきなさい。——あまり、しつこいようであったらお父さんを呼びなさい」
 少しばかり疲れた顔をして頷いた男の、お父さん、という言葉に小さく瞬き、美しい灰色の毛並みを保つ騎士猫は頷いて見せた。
「分かった、お父さん」
 慣れぬ言葉を乗せた唇は、どうにもむず痒い。常よりは幾分か幼さを見せるように己を装ったクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は、ひっそりと息をついた。
(「催眠術は問題なくかかっているみたいだけど、過保護な人だったかな」)
 若しくは、革命後の国というのがそうさせるのか。
(「革命、か。大体碌でもない結末になるものだけどもさてね」)
 ゆるり、とクーナは賑わう会場へと目をやった。大統領派と反大統領派。国外でも、少しばかり情報を集めれば「分かる」ほど、両者の対立は知られていた。表だっての騒ぎになっていないのは、国内外から客を招いたパーティーがそうさせたのか——存外、言い合うタイプでは無いのか。隠す事無く大統領を批判する声と、構わず反大統領派が時勢さえ読めていない、と否定する声は周りに子供がいても関係は無いようだった。
(「こちらとしては情報が収集しやすいけどね」)
 ゆるり、と尻尾を揺らして、クーナは耳を立てる。催眠術をかけた政務官の男は、クーナを自分の娘と思ってあれこれと声をかけると「面倒な」相手を教えてくれた。
「あの辺りの席は、軍部の方々だ。話に巻き込まれればマダム達は子供相手でも容赦は無い。最近は、彼女たちが名代という話ではあるが……」
 実際、パーティーを満喫している方が大きい、と告げた。
「父君達が姿を見せていない分、自由度が高いのだろうな。……ああはなってくれるなよ。揃って軍部が姿を見せなくなる日が来ても不思議は無い」
 いずれ多くが反大統領派に変わるだろうからな、と父親——基、グラート・ジョルダーニ政務官は言った。
「大統領は、軍部の縮小を進めているから、か……。確かに、革命時、前線に立ったという彼らからしてみれば不服だろうね」
 軍部のクーデター。活動家達の運動。市民の動き。一部の政治家の離反。全てが重なり合って、この国の革命は成功し——今又、何者かがひっくり返そうとしている。
(「義憤とかまあまともな切っ掛けから始まっても途中でどこかで転んで後は皆仲良く念仏の時間……そうならないといいんだけど」)
 でもそれが邪教のアレコレに繋がっていい訳もなし。
 どちらが国をより正しく、と考えその為に動こうとするのと、全ての犠牲を利用され生贄として捧げられるのは話が違う。
「情報収集頑張ろうか」
 小さく、そう呟いてクーナはテーブルの一角へと歩き出した。
「——きょうは、大統領はいらっしゃらないのかな? お見舞いの花を渡したかったんだ」
 とん、とひとつ子供らしい唐突さで声を掛けた先は、大統領派であった。長身の青年はクーナの言葉にぱちぱち、と瞬いた後にふ、と笑った。
「これはこれは、大統領も未来のレディにも任期とは大変だ。ごめんね、お嬢さん。大統領は、今日はこのパーティーには来れていないんだ」
 妙に芝居がかった言い回しに、思わず足を止める。子供であれば、どう、と少し考えていれば、まったく、とグラスを片手に戻ってきた女が息をついた。
「お嬢さんを前に、そんな風に言っては驚かれるでしょう。ごめんなさいね、この人スピーチライターだからどうも大袈裟で」
 大統領の広報副部長だと告げたローザ・ベッルッチは、にっこりと笑みを見せた。
「大統領はまだ、入院中なの。ちょっと元気になって動き回ったら、すぐ痛くなってしまうでしょう? だからゆっくり、今は休んでもらっているの」
「そうなんだね。入院したままは心配だね……」
「えぇ。でも大丈夫。ちゃんと正式就任の挨拶は最高の演説になるから!」
 ぐ、と拳を握って言って見せたローザの瞳の奥、僅かに隠しきれない不安が残っていた。

(「大統領の入院、あれだけ入院しているんだって言われると逆に怪しくなってくるね……。確かに、行方不明だから良いんだけど……」)
 行方不明な事実に気がついている様子は無い。あれじゃぁまるで、言い聞かせてもいるようだった。広く浅く、全体像をあぶり出すようにクーナが大統領派から話を聞いた限りでは、この手のパーティーは過去に何度か開かれ、国内外から多くの人々を招いたという。最初の頃は参加者も多く、噂の大統領も反大統領派が担ぎ上げている副大統領も姿を見せていたという。
「ある時から、副大統領が姿を見せなくなり、やがて大統領も姿を見せなくなった……か」
 今は、参加者で言えば大統領派が少ないらしい。忙しいのかもしれない、という話しぶりからすると、休みの理由も掴めていないのか。
(「反大統領派になった、という可能性もあるかな……だから、詳しい話をみんな知っていない感じはあったみたいだね」)
 誰かを疑うのは、あの頃だけで十分だ、と。
「その辺りの心情を、上手く邪教の方に利用されているか……、信者となった人に上手く使われちゃっている感じ、かな」
 ふぅ、と息をつく。
 革命だけなら良い。憂国だけであれば。だが、邪教の手によって大統領が攫われている以上、他の大統領派のメンバーが行方不明な事実も偶然とは思えなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『怪しげな積荷を追え』

POW   :    身体を使い虱潰しに街を捜索ないし追走する

SPD   :    速い移動手段や道具を用いて追走ないし追跡する

WIZ   :    情報を集めて移動ルートを予測し待ち伏せする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●革命の墓場
 紅き星の鳥。
 それは、この国にて絶滅した鳥の名であり、革命軍の象徴であった。
「ああ。我ら、燃え尽きるともこの地に太陽を取り戻す。……そう、燃え尽きるほどの覚悟が必要なのだ。守るばかりで何が成せる。牙をもぎ何が守れる」
 スーツに身を包んだ男が、空を仰いでいた。紅い空だと男は言う。吹き抜ける風が、囁きだと笑う。
「ランベルト・ダニエリ大統領。お前の時代は終わる。せめて劇的に散れ」
 踵を返した男の頬を、風が撫でた。銀色の髪が揺れれば、頬から首筋へと伸びた傷が晒される。
『もうすぐよ。もうすぐよ。
 もうすぐあなたの夢が叶いましょう』
「あぁ。もうすぐ、もうすぐだ」
 銀色の髪が紅く、紅く染まっていく。宙より現れた女が、男の顎を掬っていた。深紅の衣。美しいドレスの下は奇妙に蠢いていた。
「あぁ、美しき紅」
「全てはこの日の為に! 我が同士、テオ副大統領。残る舞台の準備を終えましょう」
 深紅の衣を纏う邪教の信徒達が次々と歓喜の声を上げる。
「あの日、貴方に声を掛けたのは間違いでは無かった」
 さぁ、と信徒達が誘う。姿を見せた軍人達の瞳に宿るのは、革命の熱狂か、邪神に狂ったそれか。
「我らの覚悟を示しましょうぞ! テオ副大統領——いえ、大統領!」
 やがて、足跡は遠ざかっていく。
「——み、は、それで」
 浅く、薄く落ちたランベルトの声など、最早副大統領には届いていない。何に向かって話、何の言葉を話しているのかさえも。
「いいのか、テオ・アディノルフィ——……!」

●金色の黎明
 列車の墓場、と言われる場所がこの国にはある。古い車両置き場は、革命時は旧政府側にあった施設であった。街中をぐるっと駆け抜ける線路自体は、未だに輸送に使われていた。
「……よし、武器の積み込みも進んでいるな」
 その列車の墓場には、今、多くの武器が詰め込まれたコンテナ車が着いていた。
「お前も随分やる気だな。紅い鳥を掲げるのは、間違いでは無いが……ん? 朝でも無いのに鳥の囀りが聞こえるな」
「なんだ。今まで聞こえてなかったのか? 紅き鳥の囀りさ」
 笑うように同輩が告げる。そうか、と若き将校は笑った。
「革命の印たる紅き鳥も俺たちを祝福しているのか……! あぁ、やはりテオ・アディノルフィこそ大統領に相応しい。ダニエリ大統領に退任を」
「我らが紅き鳥の羽ばたきと共に!」
 革命の意思に潜む邪神の狂気が、美しい鳥の声が鳴いた。

 ——古い列車置き場の場所を、猟兵達は知るに至った。パーティーで猟兵達が仕入れた情報によれば、多くの武器が列車に詰め込まれ輸送されるのだという。列車の使用そのものが不思議がられないのは、病院のほど近くを通り物資を運んでいたからだろう。
『なるほど、今回もまだ何か運んでいるのか』
 という程度だ。
 列車の墓場と言われるその場所の入り口は見えている。四方を囲む高い壁を越えていくか、将又何らかの方法を使い正面から入るか。中には多くの軍関係者の姿が見える。紅い鳥のマークがその印だろう。中に数人、様子がおかしいものがいれば注意すべきだ。
 此処には、邪神の気配がある。
 信者が数名、そして精神を支配された者がいるのが猟兵達には分かった。本体に準ずるものは、儀式会場だろう。
 ——目的は『列車の行く先』だ。
 バレることなく、あの列車に乗り込む必要がある。
 動き出した列車に乗り込むか、追いかけるか。
 詰め込まれた武器を下ろす場所こそ、パーティーで言われていた大統領の就任挨拶を行うセレモニーの場だ。
 この列車の墓場から乗り込んでも良いだろう。
 何らかの手段を用いて、動き出した列車を追跡するのも良いだろう。
 追跡の場合、何処から始めるかは君達の自由だ。
 上手い関係を築けていればパーティーで出会った誰かの手を借りることもできるだろう。

 さぁ、どうやってあの列車に乗り込み、ばれる事無く行き先を見つける?

◆――――――――――――――――――――――――――◆

プレイング受付期間:7月12日(日)〜7月15日(水)

*列車に任意のタイミングで乗り込み→儀式会場の場所を突き止める が目的となります。乗り込めれば成功です。

1)列車の墓場から侵入・乗り込み

2)任意のポイントから列車を追跡・乗り込み

 列車の墓場周辺情報
 →列車の墓場で武器の積み込みを行っている軍人がいっぱいいます。一部邪神の強い影響下にある軍人、邪教の信徒が数人潜んでいます

 列車の動き
 →街中をぐるっと移動するようです。複数の病院の横を抜けていきます。

*1章で得た人脈の使用も可能です。
 移動手段を用意してくれたり、潜入手段を整えてくれたりするかも知れません。
 人脈を使用した結果による、相手の死亡はありません
 (この依頼が失敗した場合、国が滅びるので死亡します) 
八上・玖寂
また大仰な運搬ですねえ。
しかし周囲から違和感を感じられずに行える、と。

列車の墓場から潜入しましょうか。
すり抜けられるならそうしたいですが、
厳しそうなので正面から堂々と行って、
ヴァレリオ・トラッセッリ氏の名前を出し【言いくるめ】ましょう。
相手が軍人なら効くかもしれません。
「国が生まれ変わる瞬間を見られると聞いたので」などと、
いかにも彼に招待されたような体を装います。

壁の内側に入ったら【目立たない】ように【忍び足】で【偵察】しつつ
目的の列車を探しましょう。
邪神の影響下にあると思しき様子の相手に接触する事は避けます。

さて、国も列車も、どこへ向かっていくのやら……。
まあ僕は、どこでも構わないのですが。



●知らぬものを人は探さず
 トタン屋根の目立つその場所は、古びた車両基地であった。列車の墓場と言われる通り、随分と古い車両が置かれている。雨ざらしになって長いのか随分とさび付いた車体もあれば、落書きも目立つ車体も見える。
「……」
 ——そう、普通に『見える』のだ。
 四方を高い壁に囲まれてはいるが、例外として正面の入り口からは中の状況が見て取れる。
 寂れた場所ではある。あまり治安も良くは無い印象の場所である分、軍人の姿があっても不思議はない。列車が動く事も、人々にとって日常であるからこそ、軍人の数が増えても、列車の行き来が変わっても『不思議はない』のだ。
 そういうこともあるだろう、という程度に。
(「また大仰な運搬ですねえ。しかし周囲から違和感を感じられずに行える、と」)
 列車の墓場のほど近く、通りの影に背を預けながら八上・玖寂(f00033)は息をついた。
 実際、反大統領派がやろうとしていることは「派手な仕事」だ。だが、街の人々にとって当たり前である移動手段を使ってしまえば不思議は無く——恐らく、この移動手段を有しているからこそ、この場所は彼らの拠点となったのだろう。
(「抑えるべきは足ということでしょうね」)
 邪教の信徒側にこの手の仕事に明るい者が居たか——それとも、最初に信徒としてこの国の人間が提示したか、将又偶然であったか。少なくとも、信徒側に手慣れた者がいる可能性は低いだろう。言いくるめるだけならば話は違うが——……。
(「入り口の警備は随分と緩い」)
 いるのは軍人が二人、だ。中の様子もそこからある程度は確認できるが、それが誘いかどうか考えるよりは正面から堂々と行く方が良さそうだ。
「……」
 一度、玖寂は息を落とす。影から一歩、踏み出した足で呼吸を変え、二歩目でパーティーで見せた青年の顔を纏い直した。
「——待て。君、ここから先は車両基地だ。一般人の出入りは禁止となる。戻りなさい」
「帰りなさい。ここは、遊びに来るような場所では無い」
 静かに告げられた言葉は、諭すようでいてあと一歩、玖寂が進めば警備兵は銃を持ち上げるのだろう。ひとり、マシンガンに手を掛けたままの兵士が警戒するようにこちらを見た所で、玖寂はにこり、と微笑んで見せた。
「こちらにヴァレリオ・トラッセッリさんはいらっしゃいますか?」
 その名前に、警備兵達が息を飲む。互いに顔を見合わせた彼らにその名前は効いているのだろう。
「——君は、何者だ。氏は今日は——……」
 言いかけた兵士を、年嵩の警備兵が抑える。
「トラッセッリ氏がいらっしゃるとして、君が何者か分からなければ我々とて君を通すわけにはいかない」
 明らかな警戒は、此処がただの列車の墓場では無いと示すようなものだ。そして何より、ヴァレリオ・トラッセッリ氏は『今此処には』いない。いれば警備兵が確認を取ればそれで終わりだ。
「えぇ。ご心配は最も」
 だからこそ、玖寂は悠然と微笑み告げた。
「国が生まれ変わる瞬間を見られると聞いたので」
 まるでヴァレリオ・トラッセッリに招待されたように。
 銃を構える警備兵に怯えぬ理由も、こんな場所、と彼らが言う『列車の墓場』に姿を見せる理由もこの言葉一つで説明がつくのだ。
「——……君は」
 ——警備兵たちの中では。
「いえ、貴方はトラッセッリ氏の御客人でしたか。これは失礼を。話がうまく伝わっていなかったようです」
「いえ、今は丁度、お忙しい時でしょう。氏はまだ?」
 微笑を浮かべたまま、問い返した玖寂に警備兵達が頷く。今日はもしかしたら会場の方の準備で忙しいのかもしれない、と。
「我々は会場の詳しい場所は認知していないんですが、こういうものは適材適所ですな」
 ご案内しましょうか? という警備兵達の言葉に緩く首を振って、玖寂は正面から壁の中へと入った。
「……」
 内側では忙しく積み込みの準備が行われていた。入り口での警備兵達の話を聞こえた者もいるのだろう、客人だという玖寂に軽く頭を下げてくる以外は準備に忙しくしている。
「なるほど、こういうことですか」
 物珍しそうに一度息をついて、積み上がった荷箱の横を歩いて行く。足音が三人分、抜けたところで、玖寂は己の進む足音を殺した。
(「——……あぁ、あれですか」)
 列車の墓場の中央、唯一、コンテナが閉められている列車があった。他は皆、何かと詰め込まれているというのに、後ろの車両がキッチリとしまり周囲の沈み方が違う。
「——……から、全ては紅い鳥の」
「あぁ。囀りが聞こえる。やはり、俺たちは間違ってなかったんだ」
「そういえば、出発を前に……さんが、話をするって聞いたか?」
 擦れるように聞こえる声に、玖寂は身を低める。コンテナの背に体を隠し、車輪で足を隠す。
(「このまま、回って来られると困りますね」)
 話からして、邪神の影響下にある軍人たちだろう。話し方が明らかに違う。
 隠れ鬼をして遊ぶ気も無し。
 こちら側へと回り込んでくる彼らと出会うより先に、玖寂は貨物列車のデッキへと手を伸ばす。タン、と一気に柵を跳び越えるようにして中に入り込めば、三人の軍人たちは玖寂に気がつく様子も無く何処ぞに消えていく。話を聞く限りでは邪教の信者による声かけが出発前に行われるのだろう。
「さて、国も列車も、どこへ向かっていくのやら……」
 三人は紅い鳥の紋章を身に纏っていた。誰もが革命に身を尽くしている筈が、その熱狂の理由が違っていることに誰も気がつきはしない。そんなこと、夢にも思わないからだろう。邪教も、邪神もそれを知らぬ者は探さず、故に気がつかない。不審に見える動きにも全てそれと分かるのは——猟兵だけだ。邪教の存在を知り仕事に来ている者だけが、この革命の裏にあるモノを知っている。彼らが日常だと説明してしまえる「もの」が「非日常」であるのだと。
「まあ僕は、どこでも構わないのですが」
 呟いて玖寂は、身を隠すようにコンテナを背に立った。火薬の匂いが僅かに風に乗り、玖寂の髪を揺らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
紅き星の鳥か
国の象徴が邪神に簒奪されているのか
名と形は重要だ。そこには力が宿る
邪神の能力にも関係していると見て、
列車に乗り込み、もう少し情報を集めたい

列車の墓場で
プラチド・ベルティーニ氏の名刺を見せよう
身分は武器の支援者のまま
囁骨釘を。己の元にも残しつ、
5本程別々に布に包み、積み込みを頼もう
「これは爆破装置で、地や建物に穿ち使う物。
使う時は、重要なポイントに刺すと良い」
彼らには得体のしれん物だろう。恐怖を煽れれば信憑性も増す筈
囁骨釘ならば我輩も気配を追える
上手くいけば、後の戦いの布石にもなろう

邪神の影響強い者にはよく注意をしつ
野生の勘と聞き耳で、引き際見つ情報を引き出したい
情報は猟兵方と共有を



●紅き星の鳥/認識により齎されるもの
 ——頬を、熱を帯びた風が撫でた。車両置き場から零れてきたものだろう。さわさわと揺れた毛を前足で撫でながら、ドゥアン・ドゥマン(f27051)はひっそりと息をついた。
「紅き星の鳥か。国の象徴が邪神に簒奪されているのか」
 紅き星の鳥——紅き鳥。
 それは、この国にて絶滅した鳥の名であり、革命軍の象徴。熱狂と願いと祈り、時に絶望と怒りを捧げ、最後にはきっと希望と共に人々が抱いたもの。
(「名と形は重要だ。そこには力が宿る」)
 それは、墓守であり狩人であるドゥアンのよく知ることであった。名と形、その認識により齎されるもの。人々が願い、祈った紅き星の鳥は革命以前のこの国で絶滅するに至った鳥の姿であろう。その名を、わざわざ使ってきているのは——利用だろう。邪神の能力にも関係している可能性がある。
「此処は関係者以外立ち入り禁止だ。それとも、面会のご予定が?」
「——これを」
 四方を壁に囲まれた列車の墓場も、入り口は二人の警備兵を置いているだけであった。高い壁であっても、列車があるのは線路が続いている以上分かる。警備兵の肩越しに古びた列車を眺めると、ドゥアンはパーティー会場で出会った男——プラチド・ベルティーニの名刺を見せた。
「仕事で来たと言えば、伝わるであろう」
「分かりました。少々お待ちください。今確認を——……」
 施設内に連絡しようと警備兵が動いたそこで、壁の中から声がした。
「いや、構わない。通してくれるかな」
 プラチド・ベルティーニだ。
 最初に出会った時のように、幾分か柔らかな——気弱そうな男の顔をしてみせていた。
「叔父にも頼まれているんだ」
「あぁ、そうでしたか。これは失礼を。やはり、約束の日を前に忙しくなりますな」
 忙しくなる、と警備兵は言った。プラチドは然程不思議には思っていないようだが、恐らくドゥアンのように伝手を使って侵入した猟兵もいるのだろう。
(「そして、出入りがある事実を不思議がってはいない。他に出入りがしている者も普通にいるのか……もしくは」)
 約束の日なる決行日が近いからか。
 人の良い男の顔をしながら、プラチドがドゥアンを案内したのは街中へと向かう列車の前だった。
「本来なら、ちゃんとした部屋でもてなしでもすべきだったんだが……叔父も上官も、今は忙しくて見当たらなくてな。折角、良い出会いがあったっていうのに」
「——後に伝えると良い」
 警備兵の反応を見る限り、プラチドの叔父はそれなりの地位にいるのだろう。
「これを」
 放っておけば一人、語り出しそうな男を前にドゥアンは布に包んだ品を差し出した。
「これは爆破装置で、地や建物に穿ち使う物」
「こんな品が他国にはあるのか。見た事も無い。……これで爆破を?」
 布をとき、まじまじと差し出した品を見るプラチドにドゥアンは頷いた。
「使う時は、重要なポイントに刺すと良い」
「それだけのことで? 遠隔爆破装置にはまるで見えない……これだけで、それほどの力があるとは。……よし分かった。確実に積み込もう。俺が間違い無く使おう」
 見慣れぬ品を、恐る恐る包み直すとプラチドはドゥアンに礼を言って姿を消した。支払い用に受け取った小切手を思えば、彼だけでも自由にできる額がそれなりにあるのか。
「——あぁ。急ぐであろうな」
 自分の手で『あれ』を積み込む気だろう。片眼を伏せ、手渡した品の気配を追いながらドゥアンは息をついた。渡したのは囁骨釘だ。己の手元にも残しつつ、5本程別々の布に包んで渡したのだ。
(「彼らには得体のしれん物だろう」)
 その分、警戒と信憑性は十分であった。囁骨釘であればドゥアンも気配を追える。貴重な、希有な品と思ったのかプラチドは自分の傍に詰め込む気らしい。
「車両の真ん中であるか」
 何かと詰め込まれているのは、後ろの車両だ。見送りを兼ねるようにゆっくりと後ろに回りながら、ドゥアンは列車の乗り込み位置を確認しておく。二、三、気になる話を耳に挟んでいたのだ。
『——……から、やっぱり大統領は革命軍を恐れてて、未だに怖がってるって話だろう』
『紅き鳥の囁きが聞こえぬ者は、真の国の姿さえも見えていないんだろう』
『あぁ。やっぱり、紅き鳥は俺たちの象徴としてあり続けるべきなんだよ。何度だって立ち上がる。真なる国のために……!』
 紅き星の鳥——紅い鳥は、現在も軍旗に使用されていたらしい。だが、革命を象徴した為に大統領は紅き鳥を下ろそうとし、反大統領派——副大統領がこれに反対したという。
「革命の象徴であったが故の理由か、それとも、邪神が絡んだが故に……」
 外そうと——嘗ての象徴を守ろうとして、失敗したのか。邪神の影響が強い者達はみな『紅き鳥の囀り』が聞こえると言っていた。この場所に、祭壇らしきものが設置されている気配は無いが——、数人、出立前に話があると姿を消し、数十分で戻ってきていた。
「——あれは」
 その内の一人が持つ武器に、ドゥアンは繭を寄せた。武器が違うのだ。拳銃ではあったが、プラチドが持っていた品とも違い何より、最初に聞き耳で話を確認した時には無かった品だ。
「あぁ、やはり今日は最高の日になるな。紅き鳥の囀りが教えてくれている」
「あぁ。そうだろう」
 囀りが聞こえると、言い出したのは最初に見た時はそんな話をしていなかった青年であり、彼らが手にしていた武器からは微かに邪神の気配がしていた。
「……」
 この情報を、他の猟兵とも共有する為にドゥアンは列車に乗る。コンテナ車に身を隠すようにして息をつけばガコン、と発車を告げるように列車がうなり声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザハール・ルゥナー
紅い鳥か。
革命、否、戦争というのは呪いなのやもしれんな。

心変わりを疑う娘に、侵入経路を尋ねてみようか。
話を聴いてきてやろう、と情報を求める。
善は急げともいう。
何、こういうのは隙を突くのがよい。本心が聞き出せるからな。

情報を頼りに……まずはその辺の一員から紅い鳥のマークを借りよう。
無論、武力で無理矢理譲って貰うのだが、この時周囲に気をつけ慎重に。
影に連れ込み、一気に意識を奪う。峰打ちで。
マークさえ得れば、どんな軍服でも問題あるまい。

娘の恋人とやらに出会ったら、一応約束は果たす。
愛のために革命を信じるならば、安心させてやるべきでは?

まあ、その革命が正しいか――囚われたものたちには、判断できまいな。



●恋に連なる所以/秘密の理由
 ——だって、秘密は隠すものでしょう?
 開口一番、パーティーで出会った娘がザハール・ルゥナー(f14896)に言ったのはそんな話であった。心変わりを疑う娘にとっては、様々な見知らぬ武器を——それこそ、オカルトめいた武具まで扱うという他国の将校の言葉を得たのは、確信めいたものがあったのだろう。
「私も一度、近くまでは行ったことがありますの。……心配で。だって、軍には女性もおりますでしょう」
 何らかの理由で恋人の心変わりが引き起こされているのだ、と。
「でも、皆様入れてはくれませんでしたわ。危ないからと」
「——そうだな。話を聞く限り女性一人では、確かに危ない場所だろう」
 ほう、と息をつく娘に頷くようにして、ザハールは視線を上げた。恋人の心変わりが『何か』によって引き起こされたことを疑って、他国の将校にまで声をかける程の娘だ。近くに行っただけ、では無いだろう。
「でも私、秘密にされているんじゃないかと思って……。お父様も叔父様も、忙しいのは分かるわ。でも彼までそんなに忙しく出かけるなんて……」
「それはまた、心配だろう」
 予想以上に、娘は饒舌であった。何でも話すというよりは、話す先を見つけたに近いのだろう。それでも、一線を越えては来ない。軍に関する詳細や、父親や叔父の所属や階級については話して来ないのは娘の中でも線引きがあるのか、それとも噂の彼の方が心配なのか。
(「心変わりを心配しながら、他者では無く呪いを心配する、か……」)
 娘の性格か、惚気か。それとも——余程、おかしい変化であったのか。誕生日を忘れる以外にも、毎夜忙しく外に出る姿が呪いに見える程。
「えぇ、本当に心配で……、最近になってからいきなりで。……あぁ、ごめんなさい。初めてあったばかりの方に、こんな話……」
「あぁ、構わない。言っただろう、話を聴いてきてやろうと」
 そうして話を聞き出した先が秘密の話、だったのだ。善は急げとやって来た先、娘はひどく饒舌だが、欲しい情報からは遠い。
(「何、こういうのは隙を突くのがよい。本心が聞き出せるからな」)
 パーティーで見せた微笑に、将校らしい瞳でザハールは娘に問うた。
「貴殿の恋人のいる列車の墓場への侵入経路に心当たりは無いか?」
「——……、えぇ、やはり男性の方が話しやすいかもしれないものね……。昔、おじいさまから聞いたことがありますの、車両基地であった頃、過去の政権も使っていた場所には高官用の出入り口が南にあったと」
 革命時に鍵は壊され、以後、扉は封鎖されていないという。
「彼、無茶をする人ではあるの。私に相応しい男になるって……。私、彼がいてくれればそれで十分なのに」
 ふ、と涙を拭う姿は恋する乙女のそれか、少々暴走しがちな娘の姿か。だが、ふと落とされた寂しげな視線の奥には言い様もない不安が見て取れた。 
「でも、あんなに毎夜出かけるなんて。
 ……紅い鳥、紅い鳥って皆様言うけれどあれではまるで、変な人に誑かされているようだわ。悪い女のひとに」
 そうして家に帰って来なくなるのだと、告げる不安は浮気を疑うそれではなく革命時の国を知っている娘の憂いであった。

 郊外にある車両基地——通称、列車の墓場。四方を高い壁で囲まれたその施設には、確かに『扉』が残っていた。
 出入りの人数は少ない。この扉を知っている者は少ないのだろう。草木が随分と邪魔だが——別に通れない訳では無い。下草で足音を殺し、壁の中へと滑り込むとザハールは積み荷の影に身を隠した。
「……い鳥の囀りがさ、やっぱり成功を……」
「あぁ、俺も覚悟を決められるよ。紅い鳥を胸に抱いて……!」
 詰め込み作業を行っている軍人達だろう。年若い二人に、作業を監督しているのか小屋のような場所に年嵩の男が詰めている。
(「……一人か」)
 ならば、狙いは彼処だ。
 語り合う青年達が通りを抜け、施設の中に入ったのを見送りながら壁沿いにしゃがんで進む。扉の無い小屋まで辿りつけば、丁度男が無線を追えたところだった。
「積み込み作業は完了した。各員、配置に付け。こちらもすぐに向かう。は、漸くか。これで正し……」
 無線を置く。息をついた男が振り返るより先に——ぐっと、踏み込んだザハールが腕を引いた。
「——!」
「悪いが」
 口元を抑え、影に連れ込むと一気にザハールは男の意識を落とした。反撃も反論も出来ぬまま、ぐらり、と崩れてきた長身を受け止めて小屋の外、草むらへと寝かせて置けば主を失った無線機が覚えのある名前を告げていた。
「——ちら、ジョシュア・ノルベルト」
「……ふむ」
 無線機は応答を求めるものでは無い。作業用に使われていたそれは、娘の恋人が仕事を終えた事を告げる連絡で終わり、遠く小屋の外からは紅い鳥の話が耳に届く。
「紅い鳥か。革命、否、戦争というのは呪いなのやもしれんな」
 気絶させた男から奪ったマークを、己の軍服に付けながら、ザハールは息を落とした。ため息でも無く、ただ一つ息を落とし紫の瞳を伏せる。近づいてくる足音は四つ。二つは別れ、一つはこちらには——否、近づいては来ないか。発射の時刻も近づいている。足早に小屋を出ると、ゆっくりとザハールは歩き出した。紅い鳥のマークがあれば誰も彼の動きを咎めはしない。声をかけてくる者がいないのは忙しいからか、それとも——正常な判断が出来る者は、もう少ないのか。
『愛のために革命を信じるならば、安心させてやるべきでは?』
 出会った娘の恋人は、まだ意識が残っていた。紅い鳥の囀りが、と確かに話はしていたが、恋人の話を出せば一度、安心させてくると飛び出していった。
「革命のために必ず現場には戻る、だったか……」
 士官用の席は列車の中程にあるという。後部のコンテナには必要な積み荷が。案内をしてくれた年嵩の軍人を笑顔で交わしデッキに出れば異様なほどの熱狂を持つ瞳が列車を見送っていた。
「まあ、その革命が正しいか――囚われたものたちには、判断できまいな」
 全てが己の手からは遠く離れたことさえ知らぬまま。
 走り出した列車の風が、ゆっくりとザハールの髪を揺らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
侵入…よりは途中乗車させて貰う方が向いてるかな

マダム・サマンタ、貴女なら地元だし詳しいさよね
墓場より走り出す列車の幽霊を間近に見れそうな高い建物はない?
地図じゃ高さまでは解らなくてさ
え、連れてってくれるなら助かるさよ
言ったろ、ニンジャの国から視察に来たんだって
生憎、刀じゃなくてサーベルだけど

建物の屋上で列車が来るのを待ち
背の翼を出して大きく広げ、上空から列車の屋根目掛けて飛び降り滑空
サイコキネシスと天候操作で雲から射す光は調整
陽光を背負い、もし向こうが窓から見ててもイイ具合に逆光になるように

列車の屋根には音立てず降り立ち
身も低くしてどこかしがみついて、と
もしマダムが見てたら手でも振っておくさよ



●鋼鉄の意志/噂の所以
 積み荷を乗せた列車は、街をぐるり、と一週巡るのだという。列車の墓場——旧車両基地は古くは前政権にも使われた場所だ。街中に線路を張り巡らせるほど、結局この国は裕福では無かったのだと早乙女・翼(f15830)に告げたのはパーティーで出会ったサマンタ・ブレッサであった。
「古い分、どこを走っていても騒がしいけどね。——それで、頼みがあるってまさか……列車をどうにかしようってのかい?」
 眉を寄せたサマンタに翼は、ふ、と笑みを見せた。
「マダム・サマンタ、貴女なら地元だし詳しいさよね。墓場より走り出す列車の幽霊を間近に見れそうな高い建物はない?」
「列車を間近に見る……?」
 訝しむ、というよりはひどく不思議そうにサマンタは翼を見た。白に似てきた金色の髪を揺らす清掃員の女は、くわえた煙草に火を付けることも無いままに問いをのせた。
「何しようってんだい? あんた」
「地図じゃ高さまでは解らなくてさ」
 口の端に笑みを浮かべた翼とて、それがサマンタへの答えとして不十分なのは分かっている。だが、その不十分さが今、見せるべき「応え」であり「誠意」であった。
 ——全てを語ることは実際の所簡単だ。ただ、それが正しいとは限らない。
(「邪教も邪神も、猟兵が相手にするさよ。それからの日々は——……」)
 主の、と口の中、紡ぎかけた聖句は「まったく」と息をつくサマンタに制された。
「場所を言ったところで分かりゃしないだろう。待ってな、足を用意するから」
「え、連れてってくれるなら助かるさよ」
 ——足、というのが少しばかり気になるが、地元の人間の方が場所については詳しいだろう。列車の発車時刻については情報を仕入れられてはいない。侵入よりは途中乗車の方が良い分、アクセスポイントだけはしっかりと取っておきたかったのだ。
「そりゃ、列車はもうそろそろ動き出すだろうからねぇ。決まった時刻なんざ無いが、だいたい、後少しで動き出さなきゃ間に合わないさ」
 しかし、と結局火を付けることの無かった煙草をポケットにしまったサマンタは、息をつくようにして笑った。
「最近の海外出張は列車に変わった乗り方するもんだね」
「言ったろ、ニンジャの国から視察に来たんだって。生憎、刀じゃなくてサーベルだけど」
 肩を竦めて笑った翼が、パーティー用のきっちりとしたネクタイを緩める。眼鏡は——まぁ、その『時』になってから、外せば良い。
(「列車の動きが掴めるのはありがたいさよ」)
 サマンタの話に寄れば、病院をひとつ過ぎた当たりに丁度良いビルがあるという。出入りもそう難しくないらしい。
「いざとなれば、翼で一気に上に……」
「——待たせたね」
「——は」
 はい? と思わず、上げかけた声を飲み込む。其処に姿を見せたのはごつい大型バイクを操るサマンタであり、放り投げられたヘルメットがこいつで噂のビルへと向かう事を告げていた。
「かっ飛ばしていくよ」
「宜しく頼む、さよ」
 安全運転で頼むとは、流石に言えなかった。
 結論から言えば、サマンタの持ってきた大型バイクは彼女の私物で間違い無いらしい。懐かしい品さ、と笑った彼女は『なに、若い頃にちょっとね』と笑って、かっ飛ばしたバイクで川を飛び越えていった。——橋が壊れていた分、もしかしたら普通なのかもしれないが、うん。
(「相変わらずすごい人さよ……」)
 地元の人間らしく、話に詳しいのも事実だ。飛びかけた眼鏡を一先ずポケットに放り込んで、翼は目的地であるという古いラジオ局のビルへと目をやった。
「本当は、よく見えるんなら列車が止まる病院が良いんだけどね。どこの病院が大丈夫か、今ひとつ分からないのさ」
「駄目な病院があると?」
 考えるように眉を寄せた翼に、サマンタは頷くように告げた。
「あぁ。言っただろう? 私らみたいなのが入れない場所が増えたって」
 つまりね見せたくないもんを捨ててる奴がいるのさ。
 息をつくように低く、サマンタが告げる。古いラジオ局まではもうすぐであった。
「——……列車は、あぁ、あれさね」
 辿りついたラジオ局の屋上は、古びたアンテナが雨ざらしになって放置されていた。片付けが追いついていないのだと告げたサマンタのバイクで予想通り廃墟の中を滑走する羽目になった翼は、ヘルメットを返して、荒れたオールバックに指を通す。
「積み荷分の音はしてても、動きは随分速いさね。——まぁ」
 ばさり、と背の翼を出す。屋上の縁に足をかけると、一気に翼は身を空に投げた。
「追えない訳じゃないさよ?」
 トン、と軽くビルを蹴って身を落とす。飛ぶのではなく滑空の要領で翼は列車に向かって一気に空を滑り降りていく。
「さて、と」
 風を頬に受けながら、一度空を見る。空に風は無くとも雲が揺れた。差し込む日差しを調整するように陽光を背負えば、万が一こちらを見上げたものがいても——乗り込んだものがいるとは思わないはずだ。
「よっと、これで良いさね」
 音も無く降り立ち、コンテナの取っ手を掴む。身を低めるようにしてしがみついてしまえば、落とされる心配は無い。
「——マダム」
 傍らを見れば屋上近くまで送ってくれた人が見えた。ひらり、と翼は手を振る。飛び降りる瞬間、聞こえた彼女の声を思い出しながら。
『ほら、お前達、紅い鳥が行くよ』
 信徒では無い、恐らくただの祈りの言葉としてそれを紡いだ人に別れを告げにトン、と翼はデッキに降りた。錆びた鉄の匂いに混じって、僅かに火薬の匂いがしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
列車のルートに川に架かった橋がないかチェック。
あればそこの橋桁からの侵入を試みる。
なければルート上で線路近くに障害物が一番多い病院から身を隠しつつ侵入。
グラートお父さんは…迷惑かけるのも悪いし独力で。
助けてくるから待っててね。

侵入の際はUC活用、橋桁なら列車が通過する瞬間連続ジャンプで飛び上がり列車の継目に飛び込み身を隠す。
病院なら地形をフルに活かしギリギリまで障害物で姿を隠し近づき一気に飛び込む。
着地の際、そしてその後の移動は音を立てぬように忍び足で。
小柄な体活かし狭くて普通の人間では確認し難い場所へ潜伏。
発見されたら目覚まし時計の催眠術で私を認識できないようにさせる。

※アドリブ絡み等お任せ



●境界の齎すもの/荘厳の名残
 ——街中は、静かな賑わいを見せていた。大通りを一本外れれば、人の姿も少なくはなるが、出歩けるという事実が彼らにとっては今も大きいのだろう。
「あぁ、川の多い街なんだね。列車のルートは……うん、あそこが良さそうだ」
 クレープを勧めてきた店員に微笑みだけを返して、クーナ・セラフィン(f10280)は街中を抜ける。人混みの中、奥へ奥へと進み——一度だけ、靴を直すようにしゃがむ。視線で一つ追いかけてきていたのは、別段追っ手の類いではなく街中にいる人々だ。パーティー会場で、グラートと共にいたクーナを見ていたのだろう。
「思ったより心配性だったし、グラートお父さんに頼まれて無くても……って感じかな」
 鈍色の懐中時計を手に、クーナは少しばかり考えて、耳をぺたり、と落とした。これを使う程のことでは無さそうだが、街中、人々の目に付く場所は避けた方が良いだろう。
 ——なにせこれから、列車に侵入するのだから。
(「グラートお父さんは……迷惑かけるのも悪いし」)
 郊外へと辿りつけば、年期の入った橋に出会う。荘厳な造りの橋は、嘗て列車のルートに合わせて作られたものだろう。旧政府を讃える文言が彫り込まれた彫刻こそ、一部破壊されているが大部分は残っている。
「……」
 周囲をゆるり、と確認をしてクーナはピン、と耳を立てる。遠く列車の音が聞こえてきていた。
(「近づいてくるのが早いね。……うん、それなら」)
 とん、と飛び越えるようにして橋桁に身を乗せる。ゴォオオ、と先んじて風が来た。コンテナ車の動きは重さもあってか、一度乗った加速が目立つ。
「——うん、それじゃぁ行こうか」
 飛びかけた帽子をそっと押さえて、運転手の視界からひとつ、外れていた騎士は息を吐き橋桁を——蹴った。一度目の踏み込みは加速だ。身を前に。空を蹴り出す。列車が通過するその瞬間、軽やかに飛び上がったクーナは列車の継ぎ目へと身を滑り込ませた。
 ヒュウウ、と風が唸るように通り抜ける。カン、と響いた音に、奥の車両から声が響いた。
「おい、何か音がしなかった?」
「——あぁ、橋を抜けたからだろう。あそこは古いからな。それに、今日の積み荷が重いからだろ」
「……そうか、まぁそうだよな」
 息をひとつ軍人が落とす。革命を前にした物憂げな様子というよりは、僅か、訝しむようなそれに似ていた。
「誰か乗ったんじゃないかと思ったんだが」
「おいおい、それこそお前が疲れてるんじゃないのか? お前が紅い鳥狂いの連中、気にしてるのは分かるけどちゃんと休むときに休んでおけよ?」
「——あぁ……。あぁ、そうだな。誰か来るんじゃないかって思う方がだしな」
 コンテナ車を一度見るように視線を向けた若い軍人二人がやがて、車内へと姿を消した。
「誰か来るんじゃ無いか、か。……来て欲しいみたいな言い方だね」
 あれだとまるで、とクーナはひっそりと息をついた。
 あの時響いた音は、本当に石を弾いただけの話だ。着地の際、クーナは足音を殺していた。鋼を弾いたのは石ころの方だった。侵入者より心配するのであれば積み荷の方だろうに。
「紅い鳥狂い、か……。革命を担う人達も一枚岩じゃないのかもしれないね」
 若しくは、まだ。
 この地にあるのはただの革命では無く、邪神の絡んだ仕事である以上、心を蝕むのも容易いのだから。
「——……ん、病院だね。あれは」
 止まるのだろうか。少しばかり速度を緩めながら列車はカーブに差し掛かる。小柄な身で、軽やかに移動をするとクーナは落ちていく陽にゆっくりと瞳を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
路線沿いの印――何事かと思えば
彼の医師め、そういう事であったか

ほれジジ、見よ
杖で聳える壁を指し示して
…ああ、『急いで』向かうとしよう
抱えられれば離さぬよう
【クリスタライズ】を用いて従者と共に透明化
音を立てぬよう細心の注意を払い
空より、華麗に列車へ降り立とうではないか

声を満足に出せずとも問題ない
我等の絆を甘く見られては困る
指先、目線の動きでジジの死角を補いつつ
我々に気付きかけた者が居れば宝石の欠片を取り出す
…案ずるな
一寸ばかし驚かせるだけよ
密やかに転がして…調度品の一つ位、壊して問題なかろう

久しいか…確かにそうさな
此度こそ寛ぎたいものであったが
…やれ全く、悪食め
然し悪くない


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
すーつ、というものは肩が凝るな
解放された腕を回しながら
…成る程、それであの忠告か
では『急いで』参ろうか、師父

空よりは低い壁仰げば
意を得て、師を抱える

うむ、承知
羽音や足音を極力立てぬよう
高度を上げてからの滑空
空けた片手で柱や突起物を掴んで停止

様子を窺い
離れた位置で積み込まれんとする荷物のひとつへ
見えぬ【星の仔】を向かわせ
運ぶ者の足元、若しくは物自体の平衡を崩させる
僅かな時間でも注意が其方へと向いたのを確認し
師の宝石と連動することで事故のように見せ
ささやかな混乱のうちに電車の屋根へと登る

…「列車」は久し振りだな
その印を眺め、指し
紅き鳥だそうだ、師父
黒き竜に喰らわれねば良いがな



●差異の消失
 緩やかなカーブを描きながら辿りついたのは、こ綺麗な病院であった。革命の後、改装されたというわけでもあるまい。真新しいその病院は、革命時——旧政権時代から、この国にあったのだろう。
(「そして今もあり続ける、か」)
 アルバ・アルフライラ(f00123)は、熱を帯びた風に息をついた。
「これで、印のあった病院の全てか」
 パーティーで出会った医師に『紹介された』病院だ。最も行かない方が良い、という意味で紹介された場所ではあったが——こうして、実情を見ればあの医師が訝しんでいたのも不思議は無い。
「——師父」
「あぁ、客が来たか?」
 街中を行く列車は、前方に少しと、後方にコンテナを多く積んだ以外は一般的な客車となっていた。豪奢な造りの場もあれば、街中に見る列車とも変わらぬものが混ざっているのは、それこそ列車の墓場から出たものだからだろう。古びた車両をつなぎ合わせ、動くものを上手く使う。
「それがこの惨状とはな」
 僅かばかり、馴染みのある内装に目をやり足を組み直したアルバの視線の先では、扉へと目をやったジャハル・アルムリフ(f00995)が緩く首を振っていた。
「……いや、入ってこないようだ」
 鋭く一度、扉の向こうへと向けられた瞳は「坊ちゃん」と慣れぬ言葉を紡いでいた時は随分と違う。そういえば、うっかり地が出ることも無かったか、と思いながらアルバは医師の手渡した名刺を見ていた。

 ——今より少し前、この列車が走り出す前、二人は医師の手渡した名刺の意味に辿りついていた。
 列車の墓場から動き出す車両が、立ち寄る病院だ。
「路線沿いの印――何事かと思えば、彼の医師め、そういう事であったか」
 街中の影に背を預けるようにして、アルバは列車の墓場と呼ばれるその場所に視線をやった。入り口は見える限りには正面にひとつ。四方を壁に囲まれた車両基地は——線路を街中に向けていた。
「随分と、派手な移動手段を持つ」
 反大統領派の有する移動手段。街中を駆ける列車が立ち寄っている病院があるとすれば——かの医師の憂いも理解はできる。
「……成る程、それであの忠告か」
 すーつ、というものは肩が凝るな、と解放された腕を回しながらジャハルは医師の話を思い出していた。
『また、調子が悪くなったら印を付けている病院では無い場所に行くことだ。もう動いていない病院も、移動であれば路線もこの地には多いからね』
 あれは医師としての心配では無く、この国の人間としての忠告だった。
「ほれジジ、見よ」
 街中を区切るように聳える壁を、アルバが杖で指し示す。墓場の名を持つ地をどれ程囲おうとも、天には分厚い壁は届かない。空よりは低い壁を仰ぐと、ジャハルは背の翼を広げた。
「では『急いで』参ろうか、師父」
 手を伸ばし、抱えれば離さぬように師の腕が背に回る。
「……ああ、『急いで』向かうとしよう」
 風に柔く揺れた髪の煌めきが——ふつり、と消えた。師と師の触れた先、抱きしめられたものは全て透明化するのだ。
「うむ、承知」
 短く頷いて、ジャハルは一度高く空を目指す。墓場を覆う分厚い壁を越え、列車の墓場と呼ばれる車両基地を見下ろす高さまで辿りつけば、動き出す車両がどれかは見て取れた。
「……」
 滑るようにジャハルは滑空する。建物の柱を空けた手で掴めば、丁度、荷詰めに忙しい反大統領派のメンバーを見ることが出来た。
「……ら、急げ。そろそろ、出発だ」
「追加の積み荷も来ていたからな。各員見落としはするなよ」
 透明となった体は、荷積みに忙しい軍人たちの目に付くことは無い。列車が唸るような音を上げているのを見る限り、もうすぐ動き出すのだろう。コンテナに忙しく荷を詰め込む軍人たちの姿もあれば、何事か話し合っている者たちもいる。
「……から、やっぱりテオ副大統領に早く就いてもらわないとな」
「でも、まずは退任だろ? 普通に降りるだけじゃ、国民はまた他の誰かが良いって話になっちまうからなぁ」
 それは抑えきれない熱狂のまま交わされる会話に似ていた。僅か、瞳を細めたジャハルに抱えられたまま、アルバが一点を見据えていた。
「その為に、演説を以て自ら退任させるんだろ? 全ては紅き鳥の導きでさ!」
 その先をジャハルも知る。
 あの軍人達の知人だろう。近しい距離にこそいるが、熱狂の度合いが違う。深いのか重いのか。ジャハルの感覚としては違和感だ。あれは、果たして人であるのか、という違和。警戒心が先にふつり、と湧き上がり——息を落とす。
(「ナジュム」)
 吐息ひとつ、姿を見せた透明な翅持つ蜥蜴が滑るように先に地についた。子犬ほどの大きさのナジュムが、ツン、と鼻先で触れたのはあの熱狂的に話している軍人達であった。
「——わ」
「……っと!? わ、あ、やっべ」
 足元、浚われた男達が荷箱をひっくり返す。慌てた二人と派手な音に、他の軍人達も目を剥く。
「おいおい大丈夫か?」
「積み荷を急げ。何をしている……!?」
 全く、と遠方から歩き出してきた長身に対応したのはアルバだ。するり、と伸ばされた指先の乗った宝石の欠片にジャハルが向けた視線に気がついたのか。
『……案ずるな。一寸ばかし驚かせるだけよ』
 視線ばかりでそう告げた師が、調度品のひとつを壊している間に、隠して二人は列車の屋根へと降り立ったのだ。

「——速度が変わってきたな、師父」
「あぁ」
 あれから二度ほど、列車は止まり病院から薬剤らしきものと人を運び込んでいた。人員ではなく恐らくは人質の類いだろう。目立たぬように、と客席に身を潜めていた二人はデッキへと目をやった。
「……「列車」は久し振りだな」
「久しいか……確かにそうさな。此度こそ寛ぎたいものであったが」
 ジャハルの言葉に、アルバはひっそりと息をついた。速度が落ちれば、再び屋根上が安全だろう。
「紅き鳥だそうだ、師父」
 コンテナに刻まれた印を眺め、指さすとジャハルは静かに告げた。
「黒き竜に喰らわれねば良いがな」
「……やれ全く、悪食め」
 然し悪くない。
 落とす息と共に列車が終着駅を告げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『灼紅の女王・ブラッドクィーン』

POW   :    敵から護る赤黒くおぞましきモノ
【敵対 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【絡みつく赤黒き触手の群れ】から、高命中力の【高粘着性の強酸溶液】を飛ばす。
SPD   :    解放されてはならない狂気の姿
【世界に隠匿された真の邪神の身姿 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    死しても逃さぬ邪悪なる降霊
【 自身に挑んで返り討ちにあい支配された敵】の霊を召喚する。これは【生前に使用したユーベルコード】や【得意としていた武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアイリス・スノーキャッスルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●灼紅の女王
 其れはひどく美しい鳴き声だった。鳥の囀りがいつしか「声」となって聞こえるようになった時、彼女の姿を見た。
『貴方の願いを。望みを叶えましょう。尊き願いを、尊き思いを叶えましょう』
 美しい金色の髪。赤きドレス。
 地に着くことが未だ敵わぬ美しき淑女。
「君に名を呼ばれた日の事を、忘れる事は無い」
 重い音をたて、列車が到着を告げていた。信者達の声を聞きながら反大統領派トップ——副大統領・テオ・アディノルフィは紅く染まった髪を揺らす。
「君の囀りと、君の羽ばたきでこの国に正しきものが漸く揃う。紅き星の鳥、君がこの国に蘇る」
『さぁ始めましょう。さぁ歌いましょう。
 あなたと囀りましょう。紅き星の鳥。あなたの鳥が』
 中空にて舞う彼女が紅いドレスを翻す。柔らかな口づけを受け、あぁ、とテオは微笑んだ。

「あぁ、始めよう」
「……にを、何を始めると言うんだ。テオ、テオ・アディノルフィ……! 君は、これ程の血を流して、火薬など君が好んだやり方では無かったはずだろう?」
 声が枯れるほどに叫んだ。何度も呼んだ名は、足を打ち付けられるより先に擦れた。
 嘗ての総督府。旧政府の巣窟に転がった骸は、男の——現大統領・ランベルトの派閥の者であり、テオの彼の部下も多くいた。何故、その全てを殺し、あの異様な者達とつるむのか。
「それが、美しい女だというのか 其れが人だと!?」
 口づけを、と女は囁いた。上半身だけが女のそれだ。腰より下は幾多のおぞましい触手が揺れるだけの異形だ。
「その異形が君を狂わせたのか!? それとも、この国か、私なのか——……」
 紅い触手がテオの頬を撫でる。口づけ、と女が言うそれは触手による浸食であった。両の頬を撫でるのは白い手でも無い。
「ふふ、ははは」
 狂気に落ちたテオが笑う。口づけにより飲み干した何かでテオの瞳も紅く変じた。
『あぁ、混ざり物がいるわ。雛鳥たちを食い荒らす、獣がお出でよ』
 囀るように女が告げる。知らぬ間に集まっていた信徒達が、深紅の衣を揺らす。
「あぁ、美しき紅。全てあなたのお望みの侭に!」
「降臨の日の為に!」
 高らかに告げ、信徒達がその身を捧ぐ。吹き出した深紅が大理石を染め上げ、ずるり、と触手が血の海を滑った。
「——さぁ、雛鳥たちはお眠りなさい。獣を先に片付けましょう」
 其れは災厄をまき散らす存在。
 策謀陰謀を用い、人間世界に干渉し、この国に混沌を招こうとする美しき紅。流された血と嘆きで、不完全ながらもこの地に降臨した邪神。
「その後で、私の国を作りましょう」
 灼紅の女王・ブラッドクィーンが、傀儡とした男の頬を撫で、踏み込んだ猟兵たちを見据えていた。完全なる復活を、目指して。
◆――――――――――――――――――――――――――◆

プレイング受付期間:7月29日(水)〜8月1日(土)

灼紅の女王・ブラッドクィーンを前にした状態でスタート。

戦闘前、軍人達に介入する場合は、戦闘の後半に参加した、という処理になります。
(ご自由にどうぞ)

*戦場について
大統領の演説に使われる予定の、旧政権が使用していた施設のひとつ。
華美。広い。天井高い。戦うのに問題の無い広さです。

*狂信者・テオ
 副大統領テオの、信徒の姿。既に邪神の支配下にあり、身も心も捧げています。
 戦闘時は銃撃による援護を行います。攻撃能力としては低い。

*大統領
 拘束されています。負傷していますが、命に別状はありません。放っておいても戦闘には巻き込まれません。

*1〜2章の結果により、反大統領派、紅い鳥の印を付けた軍人の戦闘への介入はありません。
 邪教の信徒は皆、邪神のために命を捧げ死亡しています。

 軍人たちは、邪神との戦いに勝利した後、支配が解けます。
 また、持ち込まれた武器の場所も把握できています。爆発物。重火器です。


◆――――――――――――――――――――――――――◆
*追加*
大統領達を含むNPCの名前は、略してOKです。
リプレイ中、必要に応じてフルネームに変更いたします。
八上・玖寂
世に反乱も革命もよくあることです。
そして、女性や信仰によって破滅することも、暗殺で幕を閉じることも。

相手の優先順位は副大統領>女王。
人間相手の方が得意ですが、状況を見ながら臨機応変に行きましょう。

戦場の様子を見ながら【目立たない】ように【闇に紛れ】、
頃合いを見計らって『凶星、黄昏に瞬くとも』を使用。
とりあえず利き腕を潰しておけば銃は持てないでしょう。

愛も信仰も自他の目に見えず、暗殺に気づいた時には遅すぎる。
まあ、そういうものですよね。


※アドリブ大歓迎


ザハール・ルゥナー
はてさて、理想に殉じたかと思えば、野望に呑み込まれたか。
夢の果ての仕上げだ。

紅い鳥の印を千切り棄て、風の魔力を纏い仕掛ける。
堅牢な事だ。ただしレディと呼ぶべき気品はないな?
高速移動で注意を引き、またこちらも加速し、凌ぐ。
喰らうならば、斬撃を打ち付け威力を殺す。

幾度か結び、疵を付け、他の猟兵の支援となれば。
触手のひとつふたつ、再生を許さぬほどに破壊しておきたいところだな。

テオ某を狙ったところで、構いもせぬだろう。
最早その事実に本人が狼狽えることもあるまい。

ふむ、それにしても獣か。間違ってはいない。
貴殿の国を屠るためならば、獣でも人でも構わぬ。
ただし、国は人の元に。
邪神の傀儡などには過ぎた玩具だ。



●紅き鳥・憂国の途
 蕩けるように甘い声と共に、むせ返る程の血の匂いが広がる。蓋を開け、どろりと零れ落ちたように強く匂うのは蠢く触手が理由か。
「さぁ始めましょう。さぁ告げましょう」
 囀るように告げ『それ』は紅き瞳を光らせる。口元に敷くのが笑みであったとしても、上半身が美しい女の姿をしていたとしても——あまりに異常であった。下半身から幾多のおぞましい触手を生み出し、血を啜るように紅く艶めく。零れ落ちる血の匂いは、今に始まった訳ではあるまい。濃く、こびり付いたように重い血の匂いだ。
「貴方の願いを。貴方の望みを叶えましょう」
 囀りを纏い、遠く聞こえていた灼紅の女王・ブラッドクィーンの声は、今やこの血に正しく響いていた。不完全な形の復活は、女王にこの地に足をつくのは許さずとも——微笑み一つで、数多の人々を狂気に落とすのだろう。
「あぁ。願いを叶えよう」
 女王に従うテオ・アディノルフィのように。
 白くほっそりとした女王の手を恭しく取る。手首に痣を残すほどの触手がテオには何に見えているのか。迷いなく、向けられた銃口が2発猟兵達に叩き込まれた。
「雛鳥では無い獣には死を」
 だが、二発の銃弾は空を切った。軽く、顔を逸らしただけの男と一歩足を止めた男の指先が弾丸を両断していたのだ。白のグローブをつけた指先が、キリリ、と引き寄せた鋼糸を知覚したものはどれだけいたか。
「世に反乱も革命もよくあることです」
 眼鏡を外し、八上・玖寂(f00033)はひとつ息をついて見せた。
「そして、女性や信仰によって破滅することも、暗殺で幕を閉じることも」
 闇夜の内に葬られるばかりが歴史ではなく。瞬き一つで失われ、葬られ、歴史に影さえ残さぬのも——然程珍しくも無い。
 靴先を濡らす血に、足音だけを確認した玖寂に女王は蕩けるような笑みを見せた。
「まぁ。まぁ。
 混ざり物の嘶きが聞こえるわ。雛鳥を喰らう獣の遠吠えが聞こえるわ」
 ずるり、と触手が蠢く。大理石の床を拭ったそれは——だが、血が消えない。零れるように血が溢れる。女王が顕現しているのが所以か。
(「周囲に他の軍人達がいないのは正解でしたか」)
 容易く女王の影響下に落ちただろう。
 ——もっとも、そうだとしても玖寂の仕事に変わりは無いのだが。
「随分と、派手にしたがるものだな」
 はらり、と僅かに落ちた銀糸を見送りザハール・ルゥナー(f14896)は息を落とす。顔を逸らす程度で避けられた銃弾は、狙いの甘さか、傀儡としての能力の程度か。
「獣を。獣に死を」
「はてさて、理想に殉じたかと思えば、野望に呑み込まれたか」
 瞳の色は変じたか。紅く鈍い光を宿すテオの両眼は人の気配を感じさせぬ。だらり、と垂れた腕は、すぐに次を構えるか。
「——どちらを取る」
「そうですね。人間相手の方が得意ですが」
 女王と傀儡を見据えたまま、ザハールは問う。視線一つ交わさぬ事実に、何ひとつ気にした様子もないままに玖寂はそう言った。
「どちらでも、ご随意に」
「ならば、あちらを貰うとしよう」
 紅い鳥の印を千切り捨てれば、風が銀色の髪を揺らす。風はこの地に吹き込んだ物では無い。ただ、纏ったものだ。軍用ナイフであるが故に。ザハールが纏う風は、血の海さえ引き裂く。触れれば斬れる風と共に——身を、前に飛ばした。
「夢の果ての仕上げだ」
 静かに告げたザハールに、灼紅の女王は戦場へと広げた触手を揺らした。
「紅き星の鳥。わたしの国。
 国を憂う雛鳥だけを並べましょう。お喋りな獣など——いらないもわ」
 艶やかに、女王が笑った次の瞬間、赤黒い触手の群れが地から這い上がった。ザァアア、と落ちる水音は血か、それとも邪神の齎すものか。
「幕を閉じましょう。世界の幕を。
 瞳を開いて。全てを始めましょう」
「——」
 歌うような声が一瞬、囀りに似た音としてザハールの耳に届いた。ざぁあああ、と羽ばたきが耳に届き、次の瞬間灼紅の女王・ブラッドクィーンは世界に隠匿された真の邪神の身姿をこの地に晒す。
「さあ私を見て!」
 深紅のスカートを靡かせ、両の腕を伸ばした女王の触手が一斉にザハールへと向かった。
「——」
 その切っ先を、纏う風が斬り捨てる。破片さえ地に落ちることなく、どろりと淀んだ血さえ風は巻き上げる。
「あは。獣は元気ね」
 千切れた触手など気にしないのか。真なる姿を、一時とは言えこの地に見せた女王の触手がぐん、と迫る。束ね槍として穿つはもう飽いたのか。——だが、打ち下ろされるそれより先に、ザハールは身を飛ばす。低く、体を前に倒し、片手を地につく。獣のように一気に——飛んだ。
「掃除と行こう」
 踏み込む先は女王の間合い。打ち据える触手は、加速する男を捕らえるには足りない。後方、派手に響く音を聞きながら一気にザハールはナイフを振り上げた。喉を切り裂くように滑らせ——手に返る硬い感触に口の端を上げる。
「堅牢な事だ。ただしレディと呼ぶべき気品はないな?」
「あは。獣は随分とお喋りなことね」
 ひゅん、と真横から来た触手に、身を飛ばす。加速を叩き込み、女王の注意を引く。真なる姿など、そも、容易く晒せるものでも無いのだ。故に、灼紅の女王は速く動く物を無差別攻撃し続ける。そこに理性は無いままに。
 ——それを、この身であれば『隙』にできる。
「さあ、すり潰しましょう!」
「——理性か」
 そも、あのような神にあるものか。
 小さく笑い、ザハールは加速を叩き込む。体の裡、軋んでいるのは骨か——将又、器物たるナイフか。一撃、躱した先で触手が縋る。足を捕まれるより先に風が斬り捨て、だが、一心に気を引く分、束ねられた触手がザハールに迫った。
「捕まえたわ、獣」
「——」
 避けるには足りず。ならばと、踏み込む。懺悔機を叩き込み勢いを殺す。穿つ触手が裂け、ザハールを両断する力は肩を穿って終わる。
「ふむ、それにしても獣か。間違ってはいない」
 ばたばたと血が落ちる中、赤黒き触手を掴む。引き寄せられるより先に、斬り捨てる。
「貴殿の国を屠るためならば、獣でも人でも構わぬ」
 ただし、国は人の元に。
「邪神の傀儡などには過ぎた玩具だ」
「——獣風情が……!」
 轟音と共に灼紅の女王・ブラッドクィーンが吼えた。血濡れの床が震え、だらりと手を下ろしていたテオが地を蹴った。
「紅き鳥を、奪わせはしない」
 片足から、這い上がった紅き血がスーツを染め上げていた。ぐん、と踏み込みが加速する。凡そ、人の持つ限界を超えるように向けられた銃口がザハールに狙いを定める——筈だった。
「何事も、遅いか早いかの違いです」
「な——!?」
 腕が上がりきらない。指は撃鉄をひけない。
 その瞬間に、テオはこの戦場にいたあと一人を思い出す。姿を消していた事実に辿りつく。——それが、身を隠されていたということに。
「獣が、獣如きが……!」
 腕に、指に絡みついたは鋼糸。こちらに気がついていない相手を的確に狙うなど、玖寂には容易い仕事だ。糸として縛り上げ、闇に滑らせるように腕を引く。銃を握る利き腕から血が零れた。
「っく、ぁあ……」
 ゴトン、と拳銃が床に落ちた。片腕を押さえたままテオは呻く。
「とりあえず利き腕を潰しておけば銃は持てないでしょう」
 息を一つ落とし、邪神の知覚の外にさえ立って見せた男は視線を上げた。
「愛も信仰も自他の目に見えず、暗殺に気づいた時には遅すぎる」
 滑らせる鋼糸で、迫る触手を払い、首を飛ばすように落とす。
「まあ、そういうものですよね」
 女王の姿を視界に納める。己が見失っていた者に気がついた上位者に、この国を裏から支配しているつもりでいた女王の視線に、玖寂は悠然と微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
紅い鳥っていうから興味津々だったんだけど
何この醜悪な女。色しか合ってないだろ…

この国の人々の象徴の筈なんだろ、紅い鳥って
それになりすますとか胸糞悪い
紅い鳥もどきの俺としては許しがたいさね

背の翼を大きく広げる
俺の羽根を媒介に紅き炎の鳥が羽ばたく
副大統領さん、見えるか? こっちが本当の紅い鳥さよ
返事はどうであれ、不死鳥の羽ばたきより二色の炎放つ
白炎は癒やし。辛うじて息があれば負傷者は助かるだろう
狂気をも焼き尽くし浄化へ導く
朱炎は邪を灼く力。偽の鳥を焼き尽くそう
さぁ囀りはどうした? 鳥らしく鳴きやがれ
襲い来る触手は朱炎で焼き、剣で受け払い

この国はお前のものじゃない
民衆の――この地に生きる人々のものだ



●紅き星の鳥
 ——曰く、その鳥はこの地を救うために星となったという。
 伝承に伝わる紅き星の鳥。燃え尽きたこの地の太陽。燃え尽きるとも構わず、この地の為に羽ばたいた鳥は——けれどどうして、この国で失われたのか。
「紅い鳥っていうから興味津々だったんだけど」
 沸き立つ血よりは、この空間そのものをあの女は儀式上として成立させている。結界よりは、異界化さね、と早乙女・翼(f15830)は息をついた。
「何この醜悪な女。色しか合ってないだろ……」
 金色の髪に深紅のドレス。一刀、見知った顔が斬り伏せた触手を視界に捉え、翼は柘榴紅の瞳を異界の神へと向けた。
 紅き鳥。囀りと口にし、この国に混沌を招こうとする灼紅の女王。目が合えば、ひどく美しく笑ってみせる。
「まぁ。まぁ。
 獣風情が随分と」
 唇から声を零しているようでいて、女王のそれは頭の中に響くようだ。深紅の衣を揺らし、未だ地にはつけぬ身で灼紅の女王・ブラッドクィーンは白い指先を空に滑らせた。
「雛鳥を啄む獣は、目も無くしてお出でかしら」
 獣ね、と翼は柘榴紅の瞳を細める。こちらを獣というのであれば、女の姿とて鳥などからは遠いだろうに。
「この国の人々の象徴の筈なんだろ、紅い鳥って。それになりすますとか胸糞悪い」
 希望の象徴であったという。胸に抱き駆け抜けたという。——己の命さえかけて、この国の為に。生きる皆の、自分の為に。
「紅い鳥もどきの俺としては許しがたいさね」
 その時、掲げられた紅い鳥を踏みにじったのだ。数多の希望と願いを、己への供物に変えて。
『ほら、お前達、紅い鳥が行くよ』
 あの時、僅かに聞こえた声を思い出しながら、背の翼を大きく広げた。艶やかな赤。血のように染まった翼が、戦場に影を生む。大理石を染め上げる血の海に落ちた影は——だが、淡く光った。
「輪廻と生命の鳥――今ここに羽ばたき舞い上がれ」
 光を帯びしは背の翼。血のように赤き翼は——だが今、炎を呼ぶ。ばさりと広げた翼の向こうから羽ばたきが生まれたのだ。
「  」
 霊鳥フェニックスは高く鳴く。甲高き声は、異形の神への威嚇か。羽ばたきが招くのは朱炎と傷を癒やす白き——炎。
 ゴォオオ、と轟音と共に、霊鳥がせり上がった触手を焼き払う。身を庇うように女王が展開させた盾さえ焼き払う朱炎が走る。
「副大統領さん、見えるか?」
 戦場に赤き羽根が舞っていた。ひら、ひらと落ちていくそれは血の海にあって沈まず、飲み込まれず——触れた場所から変えていく。それこそ、邪を灼く炎であるとばかりに。
「こっちが本当の紅い鳥さよ」
 声を投げた先、玖寂の鋼糸で腕を潰されたまま茫然としていた副大統領が顔を上げる。
「——俺の、鳥は」
 ゆるり、と顔を上げる。血濡れの惨状に驚きも見せずに、赤く変じた瞳を一度、翼へと副大統領が向ければ「まぁ」と灼紅の女王が笑った。
「面白いこと。愉快だこと。
 全ては願い。全ては望み。覚悟と共に選ばれたのに」
 霊鳥の炎に、焼けただれた灼紅の女王の腕が紅く染まっていく。触手と同じ、赤黒い衣を纏い直した女王は、その身を副大統領へと滑らせた。
「あなたと囀りましょう。あなたと歌いましょう。紅き星の鳥。あなたの鳥」
「——あぁ」
 背から抱きしめるようにして回った腕に。副大統領が笑みを返す。狂信者の笑みは——だが、狂気に染まりきることなく、その手を重ねていた。腕に、足に、巻き付くのが赤黒くおぞましい触手であったとしても。
「副大統領さん」
「——あは。あなたは、希望になれて? 縋り付く者の神であれて?」
「——その神が」
 あんたで、と言いかけた先——僅か、翼は言葉を悩んだ。神。神様——主の膝元。われらをたすけ、と耳馴染みある聖歌が頭を過る。
(「……選んださね、副大統領さん。紅き星の鳥は、希望と救いを求めた先は——」)
 だとしても、あのまま取り込ませはしない。ぶわり、と羽を広げる。間合いを詰めるように、翼は床を蹴った。同時に聖鳥の朱炎が走った。
「さぁ囀りはどうした? 鳥らしく鳴きやがれ」
 炎に、女王が飛び退く。副大統領に絡みついていた赤黒い触手がほどけ、ぱしゃん、と落ちた。
「私の囀りは私の国のため。望むのであれば」
 笑う女王の声と共に、目の端で何かが光った。触手だ、と気がついて翼は身を横に振る。だが、触手から吐き出された粘液までは躱せない。
「——は」
 痛みより先に、熱が来る。かは、と吐き出した血を翼は雑に拭う。衝撃にぐらり、と身が傾ぐ。
「あは。
 羽の落ちた獣が、潰してあげるわ」
 風が、先に来た。無数の触手が迫り、翼を貫き、絡め取る——筈だった。
「——羽の落ちた、ね」
 飛べないのは分かっている。上への逃げ場は無い。召喚時にごっそりと持って行かれているのだから。——だが、それを分からずに使っているわけでは無い。
「この国はお前のものじゃない」
 だからこそ、翼は剣を抜き払っていたのだ。刃で受け止め、払った先で朱炎で焼く。
「民衆の――この地に生きる人々のものだ」
 迷いなく告げる声を、癒やしを受けた大統領が聞いていた。ゆるり、と視線を上げた先、飲み込めぬ事態に——だが、瞳だけは逸らすことなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ドゥアン・ドゥマン
良しも悪しも。平定は、力ある導者が齎すもの
願いに貴賤は無く。星の如き明かりも。血の嘆きも。尊きもの
故にこそ。現生を生く命が、征く先を選ぶのだと
我輩は、勝手に奉じている
四法の騎士として、その境界の一騎たらん

その囀りが呪詛と狂気なら。成すは、耐性持つ黒煙の鳥の群れ
疾く飛ばし、範囲攻撃と囮を兼ねる
猟兵方と連携し、四方釘を双剣に組み触手を斬り掃おう
渡した囁骨釘が刺されていれば、
その地に宿る生命力と願いに力を借りよう
紅き鳥の名を、民方の元へ返すべく

ベルティーニ氏から騙し取った小切手も、
…叶うなら後程、大統領に渡し。返却を頼みたい
金もまた力。…使い道を選ぶなら、
広く他者と接し、直に見聞してみてはと、思う故


クーナ・セラフィン
まあそうなるよね。
革命は生贄探し、不満が生えれば人は次を探すものさ。
前の革命の旗印なんか特に、ね。
だから邪神がいなくとも大統領は危なかったのかも。
…狂気と血と嘆きにこの国が塗れる前に、ヤツを潰す。

基本は大統領守るよう立ち回る。
さっきまでは横槍が不安だったけど今ならいける。
UC起動、革命の騎士と聖女を召喚。私の武器をパス。
悪しき支配者はあの邪神、それを討ち果たす革命の時間だ。
支配された霊に対し聖女猫が破魔と催眠の術で攪乱足止めしつつ、
騎士猫は真っ向から飛び込み蹴散らし突破、邪神に痛烈な一撃を叩き込んで貰う。
…私達は上手くできなかったけど、大統領さんが上手くやれる事を祈るよ。

※アドリブ絡み等お任せ



●星に祈るように、明日に願うように
 斬撃と炎が戦場に舞っていた。崩れ落ちた信徒達に骸は既に赤黒い触手に同化されたか。無事なのは贄として用意された大統領くらいか。
「まあそうなるよね。革命は生贄探し、不満が生えれば人は次を探すものさ」
 前の革命の旗印なんか特に、ね。
 革命、というものを知っているかのような口ぶりであった。吐息一つ零すようにそう言ってクーナ・セラフィン(f10280)は視線を上げた。
(「だから邪神がいなくとも大統領は危なかったのかも」)
 一度、革命が成功してしまえばそれは手段となり得る。容易い手段と思われてしまえば——それで最後だ。平和は、次の革命までの小休止に過ぎず、生贄を探し続けいずれ初まりの革命の意味さえ失われる。
「……狂気と血と嘆きにこの国が塗れる前に、ヤツを潰す」
 僅か、低くそう告げてクーナは銀槍を手にすると、傍らに声をかけた。
「大統領は任せて。守るように立ち回るよ。その分、少し任せていいかい」
 赤黒い触手に、血の海。大理石を汚すこれは、ただ濃い血の匂いを招くだけでは無い。
「……あぁ。あれの相手は任せて貰おう」
 ここは、血の匂いが濃い。
 ドゥアン・ドゥマン(f27051)はそう言って、片眼を伏せる。死の匂いではなく、血の匂いだ。生者の流すそれの匂いが濃く、気配が強い。生きたまま儀式に使われた命が——邪神の降臨の為、使われてきた命がどれだけあったのか。
「まあ。まぁ。
 話し合いね。獣さん。雛鳥を荒らす獣が賑やかね——」
 けれど、と灼紅の女王は指先を滑らせる。ず、と血濡れの大理石が蠢いた。
「今だ」
「——行くよ」
 二人、告げる声が重なった。
 た、と一気にクーナが前に出る。ブーツで床を掴み、叩き込んだ加速に騎士猫は一気に前に出た。ざぁあああ、と血の海から沸き立つように無数の触手が立ち上がる。波のように高く、影を作ったそれにクーナは地を高く蹴り上げた。
「失礼。上をもらうよ」
 涼やかに告げて、上を取る。空中で身を舞わし、舞うように避けたクーナが一気に大統領の傍まで向かえば、穿つように赤黒い触手たちが束ねられる。
「さあ。さあ。
 蹂躙しましょう。すり潰しましょう。
 私の国のために——……」
 高らかに歌う女王の赤黒い触手の前、だが、何かが舞った。
「これは——」
「良しも悪しも。平定は、力ある導者が齎すもの」
 はらはらとドゥアンの衣が揺れる。守番を示す骸の装具から、その奥からドゥアンは異界の神を見据えた。
「願いに貴賤は無く。星の如き明かりも。血の嘆きも。尊きもの」
 舞い踊りしは影。常闇の影ではなく、街を包む夜の暗さとも違う。嘗てこの地にあった暗部とも。
「故にこそ。現生を生く命が、征く先を選ぶのだと。我輩は、勝手に奉じている」
 墓守であり狩人たるケットシーは告げる。
「四法の騎士として、その境界の一騎たらん」
 それは猟葬の二つ名を持つドゥアンの宣誓。
「護法は背に在り――敵は前に在り」
 ゆっくりと瞳を上げる。舞い上がる風はドゥアンの姿を、敵を追う煙の獣骨従えた黒騎士へと変える。——変わる。
「この身猟兵として、騎士たらん」
 覚悟ひとつ、示すように。
 矜持ひとつ、告げるように。
 真の姿と同じ、黒騎士の姿をドゥアンは見せた。
「その囀りが呪詛と狂気なら」
 影たるものの正体は、黒煙の鳥の群れ。羽ばたきと共に一気に戦場を駆ければ、触手達の動きを容易く阻んだのだ。
 ピィイイイ、と甲高く鳴いたのは鳥の群れか、将又女王の紡ぐ触手たちか。穿つ触手を阻み、束ねたそれを羽ばたきが崩せばその奥から槍の如く一撃が来る。
「これなら、うん。払った方が早いね」
 ひゅん、と銀槍を振るい、クーナが払い上げる。せり上がる触手の根を迷わず、ドゥアンが斬り掃った。四方釘を双剣に組み、た、と地を蹴った。
「まあ。まあ。
 随分と素早いのね。雛鳥を啄む獣風情が」
 低く女王の声が響く。威嚇に近いそれに、触手が穿たれれば囮の鳥が飛ぶ。相手を見失わせる黒煙の鳥たちは邪神の囀りに狂気に侵されはしない。
「獣。獣か。好きに言っているみたいだけれど」
 目を離すことさえ出来ずに、だが、叫ぶ声も枯れたのか。きつく拳を握る大統領を庇うように立ったクーナが、触手を穿つ。
「この国を守る鳥の振りをしていたのもそっちだろう」
 破片さえ吹き飛ばし、射線を確保する。さっきまでは横槍が不安だったけど今なら——いける。
「二人揃えば成し遂げられない事はない――革命さえも、ね」
 告げるは誘いの声。騎士猫の憧憬。
 煌めきの中、姿を見せたのはケットシーの騎士とケットシーの聖女。騎士へとヴァン・フルールを手渡し、聖女へとオラクルをクーナは渡す。己の武器を。銀槍と美しい細剣を手渡して言った。
「悪しき支配者はあの邪神、それを討ち果たす革命の時間だ」
「あは。
 私を討ち果たすなんて……!」
 あぁ、それならばと剣を掲げた聖女の姿に、灼紅の女王は笑った。
「それなら私も呼びかけましょう。私の雛鳥に。この国を憂う者に。
 嘆きと共に血の底から湧き上がって」
 ふつり、ふつり。泡だった地面から、無数の影が立ち上がった。紅く血に濡れ、その瞳は最早何も捉えてはいない。——霊だ。
「——」
 この国で、女王の姿に気がつき、時に、異様さから副大統領を疑い——そして返り討ちにされた者達。
「私の国のために!」
 彼らが今、霊として引きずりだされていたのだ。
「……行こう」
 血濡れの行軍に、だが目を逸らすことなく、クーナは告げた。銃を手に向かい来る霊たちへと、ケットシーの聖女が相対する。振るう剣が、煌めきと共に破魔を纏った。
「——ァア、ア」
 霊が、呻く。
 僅か、この地に残された残滓だけが零れ落ちるようにしてぐらり、と揺れる。
「あは。
 私の雛鳥たちは、一人では無いのよ」
「知っているよ。それに、一人では無いのは——……」
 これは、何より大切だった人でなしのねえさんと未来に希望を持っていた愚かな過去の私の協奏曲。
「同じだ」
 騎士と聖女が今、揃っているのだから。
 真っ正面から飛び込んだケットシーの騎士が霊を蹴散らす。聖女へと向かった弾丸を銀槍で払い上げ、タン、と最後の加速を叩き込む。
「……」
 行こうとも、行って、とも告げずに。だが、目を離す事無くクーナはケットシーの騎士の突撃を見る。白雪と白百合の銀槍が触手を払い、灼紅の女王へと深く穿つ一撃を叩き込んだ。
「——ぁあ、あ。
 獣が、獣風情が。私の傷を……!」
 ぶわりと身を揺らす。赤黒い触手が再び束ね上げられる。ざぁああ、と響く水音は、だが、根より斬り伏せた影に沈められる。
「霊は、弔われるものである」
 静かにドゥアンは告げる。触手から受けた傷をそのままに、不完全なれど降臨した神に告げる。
「これ以上、踏み込ませぬ」
「まあ。まあ。
 境界を守る者が大層なことを!」
 あぁ、ならば、ならば。と灼紅の女王は笑い告げる。金色の髪を靡かせ、衣のように蠢く触手を揺らし、空に手を掲げた。
「蹂躙しましょう」
 それは世界に隠匿された真の邪神の身姿 。解放されてはならぬ狂気の姿。
「あは。さあ、跪きなさい。感涙に噎び泣きなさい」
 灼紅の女王・ブラッドクィーン。
 その真の姿が、この地に再び晒されたのだ。
「この地を捧げなさい」
 甘く蕩けるような言葉を合図に、ぐん、と灼紅の女王が踏み込んできた。動きが——早い。一瞬にして眼前に現れた灼紅の女王へと、ドゥアンは身を横に飛ばす。加速は体よりは、舞う黒煙の鳥たちへと。一瞬、早く動く方へと女王の意識が向く。振り下ろされる触手が、僅か射線をずらす。
「さあ。さあ。すり潰しましょう!」
「——」
 だが、一撃は届く。肩口、重く叩き付けられたそれにドゥアンは息を吐く。零れ落ちた血が大理石の血に混じり——だが、踏み込む足は。黒騎士の足元は残り続けている。この地に、正しく四法の騎士として。
(「……力を」)
 一度だけ目を伏せる。僅かな時間。あの時、手渡した囁骨釘が、刺されているのを知る。
「その地に宿る生命力と願いに力を借りよう」
 ゆっくりとドゥアンは視線を上げた。
「紅き鳥の名を、民方の元へ返すべく」
「あは。獣がよく吠えて!」
 ひゅん、と叩き付ける触手が来た。——だが、その一撃を、今度はドゥアンは受け止める。この地に辿りついた猟兵の全てを獣風情と嘲り笑った女王の触手を打ち上げる。
「——な」
「神とて、理性を失いし今……」
 この地に完全降臨してはいない邪神が、その真の姿を晒せば相応の枷がつく。それこそが、理性を奪う事実。速く動く物を、無差別攻撃し続けるのであれば——それを見てとれれば。
「払ってみせよう」
「行こう」
 ぶわり、とドゥアンの黒煙の鳥が舞った。疾く行く鳥たちに女王の視線が向く。一瞬。だがそれだけあれば、ドゥアンとクーナには十分だ。
「これで終わりだよ」
「返してもらおう」
 ケットシーの騎士が再び深く穿つ。触手を斬り捨てた先、たん、と間合い深く飛び込んだドゥアンの四方釘が灼紅の女王へと沈む。
「な……、私、が」
 ひらり、と手が揺れる。無数に蠢く触手は、だが最早起き上がることもなく。灼紅の女王・ブラッドクィーンは血の海の中へと崩れ落ち——消えた。

 むせ返る程の血の匂いが消えた。
 邪神の姿が消えれば、血に濡れた大理石の床も元の姿を取り戻していた。古びた建物の、少し埃っぽい匂いだけが残った空間から邪神の影響が消えていく。やがて、紅い鳥の印を身に纏っていた軍人たちも影響下から目を覚ますのだろう。
「……私達は上手くできなかったけど、大統領さんが上手くやれる事を祈るよ」
 拘束を外し、軽い手当をした先で、クーナはそう言った。今だ、飲み込みきれぬ状況をそれでもなんとか飲み込もうとする大統領は、掠れた声で感謝を告げた。きつく握られた拳は立ちすくんだ盟友が、崩れ落ちたのが理由だろう。
「——」
 狂信者・テオは一度だけ女王の名を呼び、その意識を落とした。恐らく、永遠に覚めることの無い眠りに。一連の事件の責を取るように——或いは、女王を追うように。
 副大統領の急病を理由に、革命は失敗した——ということになった。集められた武器の全ては、相応の理由をつけて、片付けられるのだろう。
「あいつにあまり、泥ばかりをかぶせる方法は使いたくはないんだが……、真実を知るのは結局数人ですからね」
 副大統領・テオが『引き入れた』と言われた信徒達も結局あの戦いで儀式の生贄となり消えたのだ。
「上手く、話を纏めるつもりです。集めていただけとでも言って」
「何をしても。何があっても」
「……そうであるか」
 ベルティーニから受け取った小切手を返しに、丁度ドゥアンは大統領を訪ねていたところだった。小さな、静かな墓地であった。小切手の金額に、純粋な驚きと僅かばかりの疲れた笑みを残す男に声をかけた。
「金もまた力。……使い道を選ぶなら、広く他者と接し、直に見聞してみては」
「——直、に」
 一人、背負い込むばかりでいたランベルト・ダニエリは瞬き、あぁ、と吐息を零すようにして頷いた。一人生き残った事実から、立ち止まることも、他者と接することも見失っていた男は深く頷いた。
 ——やがて、この国の名が届く。
 革命を成功した国ではなく、民と共に歩いた国としてその名が。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日


挿絵イラスト