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観覧車は回る

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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#猟兵達の夏休み2023


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一ノ瀬・帝



知花・飛鳥




 ちまたで大人気の遊園地。キラキラした夏の陽射しの下、絶えなく歓声が響いていた夢の世界にも、夜の帳が下りて来る。
「やー、遊んだわー! 遊び疲れたわー!」
 辺りが夕闇に覆われてきた頃、どっかりと椅子に座り込んだ知花・飛鳥は、大満足の笑顔で告げた。
 朝から遊び通しで疲れているのは確かだろうけれども、それよりもまだまだ楽しさの方が勝っているようだったから。一ノ瀬・帝は心配することなく、向かいの席にそっと腰掛ける。
「ジェットコースターもゴーカートもおもろかったよなー! あれまた乗りたいわ!」
 指を折りながら言う飛鳥につられるように、帝も様々なアトラクションを思い出し。
 ふっと振り向けば、ジェットコースターのレールが真横に見え。ゴーカートのコースが小さく下に伺えた。
 そう、2人が休憩に選んだ場所は、観覧車。休みながらもまだまだ楽しめるアトラクションだったから。
 今日1日の思い出を、帝は感慨深く見下ろす。
 その顔はいつもの無表情。しかし、飛鳥のように分かりやすく表に出ないだけで、帝も同じように、いやもしかしたら飛鳥以上に楽しんでいた。
 のだけれども。
「ミカは今日ちゃんと楽しめたん?」
 気遣うような飛鳥の問いかけに、帝は向かい合う席へと視線を戻す。
 なにせ遊園地に来ることになった理由は、飛鳥が商店街のくじ引きで当てたペアチケットだったから。急な誘いが迷惑じゃなかったか、自分ばかり楽しんでいなかったか、優しいタレ目気味の紫瞳がこちらを見つめていた。
「ああ、もちろんだ」
 だから帝は、その不安を打ち消すために、即答に近い速さで頷いて。
「お化け屋敷での飛鳥のリアクションとか特に」
「そこ!? それは忘れて!」
 わざと飛鳥が恥ずかしがるアトラクションを挙げれば、その記憶を打ち消そうとするかのように、飛鳥はあわあわぶんぶん手を振る。
 でもそれは、帝の希望を聞いて、苦手なのに一緒に挑戦してくれたからこそ。自分を楽しませるために頑張ってくれた、その事実を思い出してもらえていると確信して。
「あとは、ウォーターライドの写真か。いい記念になった」
「俺の変顔も置いといて!
 ていうか、本当、何でミカは絶叫系でもいつもとおんなじ顔やねん!」
 さらに別の事件も重ねれば、飛鳥はぷんぷんと楽しそうに怒っていた。
 濡れた髪も服ももう乾いたけれど、一緒に過ごした時間は消えずに残っている。
 それを実感させてくれる写真が入っている鞄にそっと触れて、帝は、縁のないスクエア型の眼鏡の下で、伏し目がちな黒瞳を一度閉じた。
 ――飛鳥が誘ってくれて、嬉しかった。
 社交的で快活な飛鳥には友達が多い。その中からペアチケットの相手に自分を選んでくれた、それだけで、帝にとって今日は最高の1日になると決まっていたようなものだ。
 高校も部活も同じ幼馴染。
 誰よりも近くにいる一番の親友。
 そして……
「わぁ、夏なのにイルミネーションやっとるんやなここ!」
 思いを巡らせていた帝は、そんな飛鳥のはしゃぎ声に目を開ける。
 ゴンドラの窓ガラスにべったりくっついた飛鳥が見下ろす地上は、夕闇から夜闇へと変わっていた暗い空とは対照的に、明るく鮮やかだった。
 帝も、飛鳥が眺めるのと同じ、人工的な美しい光景を見て。
 でもすぐに、その視線は向かいの席へと戻る。
 イルミネーションは確かに綺麗だと思うけれども。それよりも、飛鳥の笑顔の輝きを見たかったから。
 地上からの光に照らされて笑う、愛おしい存在に目を細める。
 ――飛鳥が誘ってくれたのは、幼馴染で親友だから。
 飛鳥にそれ以上の感情はないと、帝は理解している。
 帝が飛鳥を想う気持ちと、飛鳥が帝を思う気持ちが、違うことは分かっている。
 だから。
(「高校卒業までに、ちゃんと伝えられたら……」)
 何度目だろう。心に刻んだ目標を繰り返して、飛鳥を見つめ。
 その視線に応えるかのように、不意に、飛鳥が帝へと振り返った。
 どきり、と跳ねる心音。
 飛鳥は楽し気で無邪気な笑みのまま、席を立つと帝へと近づいてきて。
「俺もそっちで見てええ?」
「あ、ああ」
 帝の戸惑いを知る由もなく、遠慮なしに隣に座った。
「ほら、思った通りや! ミカの方からのが綺麗に見える!」
「……そうだな」
 肩が膝が触れる程近くではしゃぐ飛鳥。
 前を向いて、イルミネーションを見ていても、帝の視界の端に桜色の髪が映り込む。
 そして、向かいの空席がさらに隣を意識させた。
 2人に席が2つ用意されているのに、片方だけに並んで座るなんて。
(「まるで恋人同士みたいだな……なんて」)
 綺麗な景色。
 夜の観覧車。
 2人きりの空間。
 すぐ隣に感じる温もり。
 フィクションの世界なら、告白シーンが始まるところだろう。
 つまり、心に刻んだ目標を達成する絶好の機会。
 視界の端の桜色に、帝の胸が高鳴る。
 今なら伝えられる。
 誰にも邪魔されずに。
 膝の上に置いた帝の手に、ぐっと力が入って。
 イルミネーションより美しい未来を掴むように握りしめられて。
 ……でも。
 飛鳥は自分を、受け入れてくれる?
 気持ちを伝えることで、飛鳥との関係は変わるだろう。
 しかしそれが、帝の望んだ変化になるとは、限らない。
 拒絶されてしまったら?
 幻滅されてしまったら?
 友達にすら戻れないかもしれない。
 こうして隣に並ぶこともできなくなるかもしれない。
 それならば、このままで。親友のままで。
 一緒に居られる幸せな時を、続けていた方がいい。
 でも、想いを告げて。恋人になれたなら。
 より近くに居ることができれば、もっと幸せな時になる。
 しかしそれは、飛鳥が応えてくれたなら。
 嫌われてしまったら、2人で居ることはできなくなって……
 ぐるぐると、帝の中を迷いが巡る。
 愛している。
 その気持ちは変わらないのに。
 一緒に居たい。
 その願いが躊躇いを生む。
 ぐるぐる、ぐるぐると。
 回り続けて終わりのない観覧車のように。
 無表情の下で、帝は逡巡し続け。
 唐突に。
 隣の飛鳥が立ち上がり、帝から、離れた。
 帝は咄嗟に手を伸ばし、飛鳥を引き留めようとした、けれど。
「あー、イルミネーション見えんくなったわ。
 こんな低うなったし、もうすぐ終わりか。あっという間やな」
 飛鳥の言葉に、帝はようやく気付く。ゴンドラが随分低い位置まで降りてきて、もう外の景色が見下ろせないことに。飛鳥が帝の隣に来た理由がなくなっていたことに。
 だから帝は、さり気なく手を戻し。
 飛鳥は何も気づかぬまま、向かいの席に戻って座る。
「でも、ええ景色やったな! また乗りたいな!」
 にかっと輝く、無邪気で愛おしい笑顔。
 それを帝は、嬉しくも苦しく見つめて。
「……ああ」
 いつもの無表情のままに、頷いた。
 そして、ゴンドラの扉が開かれると、係員の誘導の声がかかる。
 笑顔でお礼を言いながらあっさりと降りる飛鳥の背を追い、帝も出口へと歩き出して。
 ふと、他の客を乗せて上っていくゴンドラに、振り返った。
 回り続ける観覧車。
 ぐるぐる、ぐるぐると。
 巡り続ける、想い。
(「……まだそのタイミングじゃない」)
 呟くように、というより、自身を弁護し、納得させるように言い聞かせながら。
 また今日も言えなかった、その事実に。勇気のない自分に。意気地なし、と恨めしくも思いながら。
 帝は、ゴンドラの中での時とは違う力で、ぐっと手を握りしめた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月04日


挿絵イラスト