エンドブレイカーの戦い③~惨劇のトリコロール
●斧よ、震えて沈め
斧抱く都市の空は高く、深い青を湛える。終焉を終焉させる者たちが歩み始めたこの地の空は、悲劇など似合わぬとばかり、突き抜けるように青い。
戦神海峡アクスヘイム。始祖ガンダッタ・アックスが切り拓いた都市国家は、エンドブレイカーと大魔女との戦いが終結を見た後も栄えに栄えた。
青に翳りが見えたのは、遠く滅びの大地で異形の観測されたのと同時刻だった。
――ぼうやよ ぼうや かわいいぼうや
――優しく 強く 賢いぼうや
昔日の歌を覚えていた自由農夫が、青ざめた表情で振り返る。
街が騒乱に包まれ巨大な|棘《ソーン》が萌芽したあの日、まさしく己はこの歌を聞いたのだ。
そんなはずはない。彼女は討ち取られたはずだ。だが……エリクシルなら、やりかねぬ。
敵襲を知らせる鐘の音は、爆風と破砕音に飲まれた。
続いていきり立つバルバの群れ、いまは人類と共に歩み始めたはずの豹頭の獣人『ジャグランツ』が、槍矛を手に街の人々を襲い、突き刺し、獰猛に嗤う。
ギルバニア――否、白婦人。あれがジャグランツを創造した魔女であると知ったのは、彼女を討ち取って随分後のことだ。
――あまねく命を 食らいなさい 次こそはつよく 生まれなさい
――ぼうやよ ぼうや わたしのぼうや
白い仮面をつけた魔女は肉塊より粘液を滴らせ、ジャグランツの足元に果てた亡骸を睥睨する。
その目に感情はない。悦びも、憐憫の欠片すらも。
農夫の摘み損ねたチェイストマトが、魔女の足元でぐちゃりと血だまりに合わさった。
●銀の髪
その日グリモアベースに現れた女性は、あなたたちが戸惑うのにも構わず滔々と語り出した。
「十一の怪物がついに押し寄せはじめたみたいね。私たちエンドブレイカーの力だけでは、とうとうどうしようもないみたい」
猟兵たちに助力を願うのも、この場所に立つのもはじめてのはずだ。ただ、語り部たる彼女は初対面にも関わらず慣れた様子で、臆するそぶりもなく語り続ける。
「エリクシルの輝きが、私たちのよからぬ記憶を呼び覚ましたわ。戦う理由なんてそれだけで十分……悲しみと惨劇の光景を再演しようだなんて、放っておけるわけないもの」
一人ひとりに意思を確かめるような眼差し。穏やかでいて力の籠った、過去に何人もを死地へ送り出した覚悟の目。
「あなたたちに依頼します。戦神海峡アクスヘイムに乗り込み、白婦人を討ち取って」
そうして女は討つべき敵の特徴を語りはじめた。
白婦人――かつてジャグランツ王『ギルバニア』と誤認されたその敵は、下半身に肉塊を携えた異形の魔女だ。正確には孕むその個体こそが生まれいづるギルバニアで、白婦人はジャグランツという種族そのものを創造した始祖である。
女の語るに、戦場に現れる白婦人は強大だが、エリクシルにより歪な再生を遂げたひとつ明確な弱点があった。
「白婦人は無数のジャグランツを生み出すけれど、腹の子、ギルバニアだけは孵ることのない亡骸よ。婦人は死骸からエネルギーを吸い上げ、動力としているみたい」
つまり、供給源を断てば一気に瓦解する可能性があるという算段だ。ただしそれには危険と困難が伴う。
「当たり前のことだけれど……腹の子を殺そうとする者に白婦人は容赦しないわ。彼女も一応は母なのね……ジャグランツの大群を抜けて近づくなら|槍襖《やりぶすま》に合うのはもちろん、接近経路も読まれて迎撃に動くはず」
猛攻をいかに凌ぐか、はたまた回避するか……事前の準備がものを言うだろう。
長らく隠居していた女は、居並ぶあなたたちの表情にかつての戦士たちと同じ輝きを見、目映さに目を伏せた。
けれどそれも束の間で、再び顔を上げた時、深い茶の瞳はまっすぐに見据えていた。
「さあ、目いっぱい抗いましょう。私たちの物語は、終わらせるべきではないのだから」
グリモアの転送光の輝きが増す中で、終焉語りの魔曲使い――ラリーサは、はにかむように笑った。
晴海悠
お世話になっております。晴海悠です。
ついに訪れたエンドブレイカー世界の戦い。
彼らの冒険が幕開けた都市国家「戦神海峡アクスヘイム」にて、
戦端を切り拓きましょう。
◇依頼概要
エリクシルに蘇らされた「白婦人」を倒す。
プレイングボーナス……敵の弱点を突く準備を万端に整える。
◇白婦人
かつてバルバ『ジャグランツ』を創造した始祖たる魔女の一人。
戦場に現れる白婦人は非常に強力ながら、体内に孕む『ジャグランツ王ギルバニアの亡骸』を攻撃されると弱いという致命的な弱点があります。
ただしそれは彼女も承知しており、何者も寄せ付けぬ猛攻を護りとして戦うでしょう。特に接近戦を挑む場合、ジャグランツの大群を突破しての接近となり、接近経路が読まれやすくなります。
白婦人は皆様が使用するユーベルコードの「POW/SPD/WIZ」の種別に呼応し、いずれかの攻撃を放ってきます(二種以上のユーベルコード発動の場合はその数だけ反撃が追加されます)。対策もあわせてお書き添え下さい。
◇諸注意
一章のみの戦争シナリオとなります。
採用数はシナリオ成功に必要な最小人数+若干名を予定し、先着順ではなく、以下基準のいずれかを満たした方から順に執筆します。
「弱点を突く準備を十分におこなった/個性的だった/技能やアイテム、ユーベルコードの活用方法が的確だった」
プレイングに問題がなくとも締め切る場合もございます。あしからずご了承ください。
それでは、リプレイにてお会いしましょう。皆様のお越しをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『白婦人』
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POW : 魔女の護り
対象を【薔薇の蔓】で包む。[薔薇の蔓]は装甲と隠密力を増加し、敵を攻撃する【薔薇の棘】と、傷を癒やす【純白の果実】を生やす。
SPD : ジャグランツ・パレード
レベル×1体の【バルバ『ジャグランツ』】を召喚する。[バルバ『ジャグランツ』]は【猛獣】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
WIZ : マザーコール
自身が【危機意識】を感じると、レベル×1体の【バルバ『ジャグランツ』】が召喚される。バルバ『ジャグランツ』は危機意識を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:京作
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
赤の粘液に塗れた魔女は、太古に芽吹いた|棘《ソーン》の残滓を色濃く残すかのようであった。
無数の配下を携え、ずるずると引きずり行き去った後には息絶えた者の骸しか残るまい。
まだ辛うじて人的被害は出ていないが、交戦が始まれば時間の問題だ。
|罪深き刃《ユーベルコード》により呼び出されたジャグランツは、人類との友好の契りを知らぬ。
彼らにバルバの未来を見せてやれぬのは口惜しいが、どの道エリクシルの輝きに染まった彼らは救うことはできない。
物事には優先順位がある。敵性ジャグランツを相手に躊躇えば、それだけ街は破壊され屍山血河が築かれる。
故にあなたたちは剣をとる。ジャグランツの咆哮が、間近に聞こえた。
魔女の攻撃手段は三つ。
薔薇の蔓と純白の果実で、護りを固めながらの蹂躙。地を埋め尽くすジャグランツの大群での蹂躙。自らに危害を及ぼす相手に、執拗なまでにジャグランツを差し向けての蹂躙だ。
ジャグランツの母は成程、その気質までも子に受け継がせただけあり、徹底して容赦のない性分らしい。
交戦を控え、剣の鍔鳴りがそこかしこで響く中で。
――ぼうやよ ぼうや かわいい ぼうや
怖ろしく澄んだソプラノの歌声だけが、異彩を放っていた。
ワルター・ハント
ジャグランツ…昔、ヒトに敵対してた部族だな
アイツらの先達が好き勝手したお陰で
オレみたいなバルバが社会に混ざってやってくのに苦労すんだよ
母親ァ?それが何だ
オレからしたら諸悪の根源でしかねェ
ここで死んどけ
魔女だけあってその強大さはわかる
不用意に近づくわけにはいかねェ
つーか、周りのジャグランツをどうにかしないとヤベェ
幸い、打つ手はある
アルダワの火竜さんよ、力借りるぞ
【ドラゴンブレス】放射
戦場一面に延焼させて
雑魚も薔薇も焼き尽くす
オレと魔女の間にほんの少し隙間ができればいい
今回は斧じゃなく、弓を使うからなァ
束の間、高く炎の壁を造り
魔女の視界を遮った隙に、放つ
奴の腹に狙いを定めた、短弓での一射をなァ!
狩人はあたかもそうした星の下に生まれたように、狩ることを好んだ。荒野を往く魔獣、賞金首、定められた終焉に至るまで。息を潜め、悲劇をもたらさんとする獲物の動向を暴くことを、天より授かった鋭い眼力が可能とした。
「ジャグランツ……昔、ヒトに敵対してた部族か。アイツらの先達が好き勝手したお陰で、オレみたいのが社会に混ざってやってくのに苦労すんだよ」
ワルター・ハント(獣道・f38994)をはじめとするバルバが歩んだ道は、常に茨に満ちていた。人類と仲良く手を取り合うに至るまで、グレートウォールを砕いたバルバと人間との間には深い大穴が穿たれていた。
遠くに見ゆる白婦人の威容、恐ろしき鉄の仮面を睨む。
「母親ァ? それが何だ。オレからしたら諸悪の根源でしかねェ」
嘯いた言葉に気取られたか、ジャグランツの一体がこちらを見据え咆哮をあげた。構わない。それで人々が逃げる隙が生じ、己らバルバの地位が確立されるならば。
「……ここで死んどけ」
白婦人のはだけた胸元にエリクシルの輝きが散り、薔薇の蔓が主を護る重厚なドレスを幾重にも編み上げていく。
圧倒的なまでの軍勢を前に、勇ましく吼えたワルターは何も敵の力量を見誤ったわけではない。
(「あの数、くわえて精鋭揃いだ。不用意に近づくわけにはいかねェ。つーか、周りのジャグランツをどうにかしないとヤベェ……が」)
打つ手はここに。革製のベルトから火打石を取り出し触媒とする。狩猟者たるもの愚直なるべからず、獲物との知恵比べに長けていなければ|今日日《きょうび》まで生き残っている筈もない。
(「アルダワの火竜さんよ、力借りるぞ」)
空中に起こした火花に息を吹きかければ、それは伝承に残る竜を思わす巨大な火の息吹となって地を駆けた。獣は火を恐れる習性があり、ジャグランツもその軛からは逃れられない。散開しようとして思い止まり、魔女を護るべく終結したが、その逡巡こそ十分に命取りだった。
大火に飲まれるジャグランツ、煙にまかれバルバの噎せ返る中、白婦人の纏う薔薇のドレスが焼け落ちてたわわな胸元を露わにする。だがワルターが狙うのは心臓に非ず、それよりも下腹――生まれることなき命。
「あァ、ほんの少しの隙間でいいぜェ。なぜって……オレの|短弓《ゆみ》は針孔も通すからなァ!」
炎の壁に目を奪われた、僅かな隙。速射に秀でた弓に番えた矢は、バルバどもの頭上を駆け肉塊へと吸い込まれた。
哀しげな歌声と共に、魔力を伴う思念の波が押し寄せる。反撃を嫌って飛び退いたワルターは、己の一撃が確かに届いたと確信した。
大成功
🔵🔵🔵
キャスパー・クロス
エリクシル……エリクシル……!!
その名を頭に浮かべるだけで脳裡が鋭く赤く灼ける
その熱を身に纏う風に溶かして、私は暴風を駆る!
風のオーラによる【推力移動】からの【空中機動】で空中から接近
それを受けて大量のジャグランツを産み出すとて
如何な数を以ってしても、風を止めることはできない!
「瑠璃色──さあ、何千でも何万でも掛かって来てみろ!!」
UC《瑠璃色は清か》を発動!
身体を捩り、廻り、台風をも凌ぐ猛烈な突風を戦場全体に呼び起こし
横殴り縦殴り、追い風向い風、四方八方全方向から全ての敵へ空気の壁を叩きつけて行動自体を封じる
堅実に護りを固めていれば良かったものを
『何者も寄せ付けぬ猛攻を護りとして戦う』としたのが失敗だったな
攻撃自体ができなければ、何百何千のジャグランツが居ようともせいぜいが肉の壁……それすら【空中戦】を得意とする私には無意味に等しい
風よ、更に鋭く、鋭く!
廻る風を【斬撃波】として、白婦人の懐に、胎内の弱点に烈風を叩き込む!!
願いを歪めて叶える、赤き第五実体。その名は歴戦のエンドブレイカーには聞き捨てならない、忌まわしきものだった。
「エリクシル……エリクシル……!!」
名を脳裏に浮かべるだけで、赤く|灼《や》けるように熱い感触が蘇る。都市国家を巡る戦いの果てに唐突に現れ、甘く囁く声で破滅を齎す知的生命体の敵。
空に恋し愛に生きるキャスパー・クロス(空色は雅やか・f38927)にとっては、空を嘆きの赤に染めるその存在は断固認められぬものだった。歳月を経て、少し大人びた格好をするようにはなったが、悲劇を許せぬ性分は微塵も捨てていない。
滾る思いを肉体突き動かす熱と変え、蒼穹の色したエアシューズのつま先で大きく円を舞う。
「羽は無くても、私は舞える。空の飛び方は知っている……!」
乙女の戦意を受け、ジャグランツの母は己がエリクシルに願って無数の配下を生み出した。ぼこりと|胎《はら》が膨れ、裂けた肉塊の中からおぞましき赤子が次々と生み出される。
「瑠璃色――さあ、何千でも何万でも掛かって来てみろ!」
スカイランナーとして編み出した我流の円舞、軸足を中心とした旋風脚で|疾風《はやて》を生む。ひゅんひゅんと風切る音はやがて万物を巻き込む竜巻となり、キャスパーを乗せたままふわりと宙に浮きあがった。
ジャグランツが吼える。単身突っ込む乙女を串刺しにせんと、槍を手に軍団が殺到する。
突き入れられる槍の|悉《ことごと》くを躱し、キャスパーのつま先が次々と槍の穂先をへし折った。乱れる烈風はバルバたちの体勢を打ち崩し、太刀打ちできないほどの乱気流が獣の本能に畏怖を刻む。
「キサマ……タカガ人間ゴトキガ!」
果敢にも立ち向かおうとした個体は槍諸共首をへし折られた。その有り様に恐怖し、周囲の個体が道を開ける。
「堅実に護りを固めていれば良かったものを。猛攻を護りとしたのが失敗だったな……身動きできなければ、どうという事もない!」
首元に巻き付けたオーラが青と白の二色に染まり、靡く風の中に螺旋を描く。風の刃が次々とジャグランツの喉笛を切り裂き、満ちる敵の群れのただ中を突き進む。
「風よ! 更に鋭く、鋭く……!」
廻る旋風は凝縮されたエネルギーの塊となり、白婦人に迫った。接近戦を不得手とする婦人に防ぐ術はなく、キャスパーの元から解き放たれた大気の刃が白婦人の下腹を深々と突き抜けた。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
一つの種族を生み出した始祖……どうにも途方もない存在だが
乗り越える必要があるなら、なんとかするだけだろ
利剣を片手にバイク【八咫烏】に騎乗して、ジャグランツの大群に接近
敵陣のやや手前で旋回しながら、近寄ってきた敵を軽く攻撃して離脱
これを攻撃の方向を変えながら何度か繰り返すことで、白婦人の周囲から少しだけ敵を引きはがしにいく
尤も、それでも護衛は大量にいるだろうが、婦人とジャグランツの間に少しだけ隙間ができればいい
八咫烏で突進。走行中のバイクを足場に大きくジャンプ。ジャグランツを飛び越えて、婦人の近く……生まれた隙間に着地
敵が状況に対応して動くより早く、澪式・拾の型【征伐】の歩法で接近して切り伏せる
戦いを常とする世界のかくも怖ろしきこと。華の帝都とて精鋭部隊の練度なら負けぬが、魔女の成すことは物差しからして違うと感じた。
(「一つの種族を生み出した始祖……どうにも途方もない存在だな」)
ごくりと唾を飲みながらも夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の腹は据わっていた。乗り越える必要があるならそうするまで。鏡介は与り知らぬことだが、現にこの世界の戦士たちは戦いの始まった初期の頃に、甚大な被害と生死不明者を出しながらも魔女を討ち倒していた。
淡紅色の刀剣をさげ、荒廃世界で見つけた無骨なオフロードバイクに跨る。聞き慣れぬエンジン音に警戒し、ジャグランツが一斉に雄叫びをあげる。
危機感を抱いた白婦人は即刻エリクシルの力でジャグランツを生み出した。不気味な胎から血塗れの成体が生まれ落ち、地にひしめく個体数はゆうに百を超えた。
アクセルを踏みこんだ鏡介は、敵陣手前まで来て急に車体を傾けた。同時に遠心力を乗せた刀でジャグランツの一体を斬り飛ばし、敵の槍の届かぬ圏外へ離脱する。
焦れた群れは鏡介を追い、女王守護の任を放棄した。彼らにそんな意識はなかったろうが、鏡介の思惑通りだ。襲撃のたび方角を変えれば、戻り損ねたジャグランツが次第に各所へ散らばり、本陣から遠ざかっていく。
(「しかし、数が……多いな」)
声に出さないまま内心で独り言ちる。無論、鏡介とてすべてを引き剥がせるとは思っていない。狙うは己が着地できるだけの隙間……それさえあれば、事は成せる。
やがて群れと白婦人の間に降り立つ余地が生まれたのを見て、鏡介はそれまで一撃離脱を繰り返していたバイクのペダルを今度こそ踏み込む。ギアをトップに入れたままウイリー滑走を披露し、ジャグランツの鼻先を足蹴にしたバイクは群れの上方、空中へと乗り出した。
「ガッ……!」
悲鳴など構わず、宙を舞うバイクすらも足場として高々と跳躍する。狙いが自分たちの親玉だと悟った時にはあとの祭りだ。
「……是よりお前を斬る」
宣告した鏡介の歩みは変幻自在で捉えようもなく、気づけば間合いを詰められていた。咄嗟に婦人が魔術を唱えるも既に遅く、勢いよく振るわれた利剣の刃は反対側へと突き抜け、べしゃりと地面を鮮血に彩った。
大成功
🔵🔵🔵
烏護・ハル
親子。
尊いはずのものだけど。
……あれは違う。
秩序。線引き。
全く感じられない。
全てを狩り尽くすだけ。
……営みから外れ過ぎたわね、貴女たち。
式神さんを多数召喚。
集団で多重詠唱。UCを広域化。
ここら一帯が弾薬庫。
瓦礫に木片、石礫。何でも飛ぶわよ。
呪符自体も硬質化。刃の嵐に変えて斬り刻む。
ついでに炎の属性も付与しとく。
喰い込んだ傍から発火炎上するように。
お師さんも言ってたわ。獣避けには火を焚けって。
防御結界は最小限。
受け流し、敵を盾にして捌く。
激痛に耐えながら敵群の隙を窺う。
防御網を崩せたら高速詠唱。
彼女の胎。王の亡骸目掛けて撃ち込む。
あれも一つの親子。
でも、迷わない。
一線を越えたなら斃れてもらうわ。
幼き日に両親と死に別れた少女は、親という呼称を聞くたび胸の引き攣る感覚を覚えた。
ある者には当たり前のようにいて、陽だまりのように癒してくれる。たとえそのような理想的な関係でなくとも、存命であるだけでどれほど支えられただろう。
親子は尊い。この世において二つとない代えがたき絆……そう、信じてきたが。
(「……あれは違う」)
藤の色をした烏護・ハル(妖狐の陰陽師・f03121)の目は、不倶戴天の敵を見るかのように見開かれていた。略奪と鏖殺の限りを尽くす軍勢は、秩序、線引きはおろか、目的すらも欠いたように映る。
自然界に生きるものとて節度を知る。それを過ぎれば餌はなくなり、やがて己も飢え死ぬからだ。眼前の群れは明らかに、全てを狩り尽くしても満ち足りぬ性質のものであった。
「……営みから外れ過ぎたわね、貴女たち」
懐より引き出した連なる式札で式神を呼ぶ。ずらりと足元に満ちた式神たちは、ハルが請えば一斉に主と同じ呪言を唱え始めた。
広域に網の目状に広げた霊力に従い、建物の影や岩の表面、そこかしこに呪符が乱れ飛ぶ。殺到するジャグランツの群れもはじめは紙切れと侮っていたが、それが肌身を斬る性質を帯びていると気付いて苦鳴をあげだした。
そればかりでない。呪符に編みこまれたのは転移の術式。|歳破《さいは》、|大陰《だいおん》、|黄幡《おうばん》、方位を司る神々の力に、硬度を帯びた飛来物が次々と襲いかかる。
|濤式《とうしき》――元はハルの師が悪戯のために編み出したものだが、戦いに転用すれば局所的に災厄を降り注がせる術となる。
(「もう遅い。ここら一帯が弾薬庫……瓦礫に木片、石礫。何でも飛ぶわよ」)
混乱がみられたのを機に、式神と共に敵陣ただ中へと乗り込む。怒りの咆哮と共に槍を手にしたジャグランツが襲いかかるが、痛みを覚悟で手近な個体を盾にすれば、突き抜ける槍の痛みと引き換えに敵の一体が事切れた。
まだ襲ってくる個体の顔面には発火の呪殺札を貼り付け、眼球を焼く。耳を劈く獣の咆哮。効果があったと見て、次は炎上するほどの呪力を注ぎ込んだ。
(「お師さんも言ってたわ。獣避けには火を焚けって」)
やがて見えた白婦人の腹には、動かぬ王の亡骸。あれも一つの親子には違いないが、その性質はもはやこの世の理から外れている。
(「もう、迷わない。一線を越えたなら斃れてもらうわ!」)
ありったけの呪力を乗せた札はハルの手を離れ、そのまま吸い込まれるように魔女の胎へと消えた。どぱりと血液が溢れだし、嘆く白婦人の歌が甲高く響いた。
大成功
🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
命を
未来を食らわせやしない
エリクシルを砕く
白婦人を倒すぜ
戦闘
全身から地獄の炎を噴き出しながら突撃
ジャグランツの群れを燃やし消し炭へと変えながら
白婦人へと迫る
燃え損なった奴は焔摩天で薙ぎ払う
近づくほど熱くなるぜ?
薔薇の蔦も棘も
そして果実も片っ端から燃やし尽くす
紅蓮の炎は婦人へも延焼する
もちろんその腹にも、な
ちょいとえげつないかもだけど
腹を庇う素振りが好機だ
爆炎跳躍で一気に距離を詰め
獄炎纏う大剣で腹を狙う、と見せかけて
婦人の体を切り裂く
そしてその傷口から炎を迸らせて
婦人の内部から王の亡骸を焼却する
事後
鎮魂曲を奏でる
今度こそ仔と共に静かに眠れ
地獄の淵より溢れ出る焔は、罪や悪意へと向けられた。悲劇をもたらす性質のものならば、もはや憐憫さえもかけるに値しない。
「命を、未来を食らわせやしない」
まっすぐ顔を上げた木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は、これより戦う敵の姿をつぶさに見た。ジャグランツの群れは己が意志でこちらに向かってきているが、魔女に従うと擦り込まれた意識ならばどの道自由意志とは程遠い。
友好の契りを結ぶには、彼らの手は血に塗れすぎた。ならば諸悪の根源たる魔女諸共、悲劇を砕いてみせるまで。
「エリクシルを砕き、白婦人を倒すぜ」
ウタの握る大剣の刀身が赤熱し、焔摩天と穿たれた梵字の銘が煌々と光った。
駆け出すウタを、バルバの群れは吼え猛る武器の応酬で歓待した。
突き入れられる槍の数は夥しいが、地獄の炎を噴き出して初速を稼げば、触れたジャグランツの群れは炭へと置き換わる。すべてを焼き払えずとも、燃え残りは大剣で薙ぎ払えば容易く崩れた。
「近づくほど熱くなるぜ? 何で身を守ろうと、片っ端から燃やし尽くしてやる」
地獄の炎は己にも及ぶが、元より身体の欠損を炎で補える|炎の運び手《ブレイズキャリバー》たればその程度は痛みの範疇には入らない。あてられた槍や剣の痛みも、獄炎を満たして即座にかき消す。噴き上げる焔の勢いで距離を詰め、ひしめくジャグランツを煉獄にくべていく。
歌声と共に、魔女の全身が薔薇の蔓で覆われた。無差別に周囲を薙ぎ払う棘の蔓は確かに厄介だが、炎の前ではさしたる脅威ではない。
焔摩天を振るいながら周囲の者を相手取り、蔓植物の護りを次々と焼く。数本まとめて引き剥がすたび、延焼する地獄の炎は婦人の純白のドレスを悪臭と共に焦がした。
やがて見えた婦人の弱点、胎の子は二度と孵らぬ骸として魔女に活力を供給する。その亡骸めがけ突進するように跳躍したウタは、獄炎を纏わせた大剣を振り抜いた。
狙いは下腹部――そう読ませ、庇う手諸共白婦人の体を深々と切り裂く。耐えがたき痛みが全身に広がり、炎熱の余波は王の亡骸へも及んだ。
(「骸の海には帰らないんだったな……全て終わったらせめて|鎮魂曲《レクイエム》は奏でてやる」)
今度こそ仔と共に、静かに眠れるように。灼けるような痛みに後ずさる白婦人を残し、ウタは遥か戦線後方へと離脱した。
成功
🔵🔵🔴
ウルザ・ルーナマリア
ジャグランツの魔女…聞いた話だとバルバの魔女は姉妹全員大魔女に敗北して手駒にされたって。
今度はエリクシルに操られてんのはろくでもねえな!
人間にはまだ慣れないけども、ここで食い止めアクスヘイムを守るぜ!
斧槍ぶん回しジャグランツ遠ざけつつ建物の屋上や屋根に上る。
あれは…薔薇の蔓?守りを固めつつ棘を叩きつけてくる気か!
棘をよく見て勘も活かして障害物に身を隠し回避、三叉銛向けてUC起動!
あんだけ白婦人が大きければ十分狙いを定められる。
冷気をぶつけ氷の網で包み全身ぎゅっと縛り、腕を動かせないようにした上で三叉銛をギルバニアの骸目掛け投擲!
シーベアルグ舐めんな、ぶち抜いてやるぜ!
※アドリブ絡み等お任せ
世界に満ちるバルバの中には海中に適応した種族もいた。シーバルバと呼ばれた彼らは独自の生態を持ち、一部はやがて人類と和議を結んで歴史を歩み始める。
ウルザ・ルーナマリア(月に泳ぐ白き獣・f39111)もそのうちの一人、シーベアルグと呼ばれる種族の末裔だ。新たな未来を担う者として言葉を学び、今は社会生活を営むまでになった。
人類とバルバ、そしてピュアリィ。今こそ手を取りあえる存在となったが、元を辿ればバルバもピュアリィも人類とは異なる魔女に生み出された者だ。それぞれの種族に始祖たる魔女がいて、|巻き直し《エンドテイカー》の能力で己が子らを庇護した。
ある伝承によれば、バルバの魔女は全員大魔女スリーピングビューティーに敗北し、手駒にされたという。真実か詐話かは確かめようもないが、もし本当ならば魔女も傀儡だったと言えよう。
「だからって……今度はエリクシルに操られてんのか、ろくでもねえな!」
軽く憤りこそ覚えたが、バルバの本能は憐憫をもたらすほどには複雑でなかった。ウルザにとって敵味方の区別は明確で、これを討ち倒せばバルバたちの地位が上がるとの高揚もある。
「おっしゃ! 人間にはまだ慣れないけども、ここで食い止めてアクスヘイムを守るぜ!」
深海の獣王の名を冠するアックススピアを振り翳し、民家の屋根に軽々と上る。眼下にはジャグランツの大群に護られ、薔薇の蔓でこちらへ攻撃を仕掛けようとする魔女の姿が見えた。
「薔薇の蔓……あれで守りを固めつつ棘を叩きつけてくる気か!」
スナップを利かせて放たれる茨の鞭は、先ほどまでウルザの立っていた屋根瓦をばきりと砕いた。その威力に舌を巻きながらも、動きが大味なだけに避けるのは造作もない。
「……あれだけ大きけりゃ、狙うには十分だ」
屋根の突端、出窓のようになった天井の明り取りに身を隠し、三叉の銛を魔女の方へ向ける。冷たい霜の貼りつく穂先から冷気が漏れ出し、猟師の用いる投げ網のように編まれた。
「そのまま張り付いて動けなくなっちまえ」
悪態と共に氷の網を投げれば、魔女はジャグランツ共々その場に身動きを封じられた。配下たちが苦しみ藻掻く中、魔女の胎にある亡骸だけは動くことはない。
泳力のために鍛えられたウルザの腕っぷしは、柄の長い銛であろうと軽々と片手で担げた。もはや避ける事もできない白婦人の下腹部へ、三叉の銛で狙いを定める。
「シーベアルグ舐めんな、ぶち抜いてやるぜ!」
勢いよく投じた銛は、白婦人の腹の仔を深々と地面に縫い止めた。おぞましい声と共に配下に動揺が広がり、濁った血だまりが大地に染みこんでいった。
大成功
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クヤク・サンガ
この都市、俺が住んでる場所なんだ
これ以上被害は出させないよ
老ゼペットの紋章で鳩?を召喚
初段階は奇襲を仕掛け、鳩=敵と認識し始めたら一定距離を保って街の外や袋小路へ
また、味方の罠があるならそちらへ誘導
敵の数を減らすとともに、ギルバニアへの道を開けるように動かす
使い捨ててもいい駒なら、棘から守る盾にだって蔓を剥がす弾丸にだってできる
元来力任せの戦い方の方が得意なんだ
大将に対峙したなら、鳩たちに援護を任せて遠慮なく急所を突かせていただこう
貴女は、ここにいるジャグランツたちのことはどう思っているんだろう
いつまで胎の「それ」を抱えて倒され続けなければいけないんだろうな
まあ、火の粉になるなら払うんだけどさ
ルシエラ・アクアリンド
アクスヘイムは私の故郷であり
大切な人々が暮らす場所
幕引きを早々にお願いしてもらうね
精神攻撃と結界術と併用でUC開幕使用
少しでも足枷となればいい
加え弓にて軽業で素早く距離を取り
二回攻撃や矢弾の雨、範囲攻撃で
ジャグランツを万一呼ばれたとしても対応出来る様備え
常に動き回りながら不意打ちを仕掛ける等で着実にダメージを与える
一定の距離を保ちつつも遠近共に対応出来る様、
街を破壊させぬ様誘導してしていく
急く気持ちも正直あるけれど仕損じるよりは
冷静に行動し確実さを取っていきたい
人々をま持つ為にも
回復効果はこの場にいる皆に及べばいい
正直残念な気持ちもあるけれど
エリクシルは放置できないから
ごめんね、おやすみなさい
絢爛たるアクスヘイムは、多くのエンドブレイカーにとって始まりの地であった。生まれ故郷でなくとも、特別な感情を抱く者もいる。
「……ここは、俺が住んでる場所だ」
今まさに荒らされている都市への思いを、クヤク・サンガ(徒人・f38921)は駆けながらそう表した。単なる事実であり、『大事な』などという形容は一切見られない。山岳部族の出自の彼ならではの心の表し方だと、友たる己はよく|識《し》っていた。
「……うん。そうだね。私にとっても、かけがえのない場所」
隣を走るルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)は、気の|逸《はや》る彼に危害が及ばないよう支える気でいた。ルシエラにとってもここは生まれ故郷で、今は友人や大切な人々の暮らす場所。
「これ以上被害は出させないよ」
「ええ……幕引きを、早々にお願いしないとね」
互いに武運を祈り、方々へ散る。長年の付き合いからどう動くかは、それとなしに読めていた。
ジャグランツのまだ動ける者たちが咆哮と共に槍を手にし、屍を踏み越え向かってくるのが見えた。その奥に座する白婦人は薔薇の蔓で全身を覆い、攻撃から身を護る算段でいるらしい。
敵の出方を見たクヤクはまず、護りを引き剥がすべしと判断した。魔想紋章士より学んだ紋章術で稀代の奇術師の紋を描き、鳩の形をした召喚存在を敵の群れへ飛ばす。奇襲に驚いたジャグランツが鳩もどきを追うが、仕留めたのはせいぜい数羽、残りは羽ばたき逃れていく。
(「そうだ、追え。離れるがいいさ」)
群れを引き剥がしにかかるクヤクだったが、如何せん敵の数が多い。鳩が尽きるのとどちらが早いか計りあぐねていた時、頬過ぎる風がふいに心地のいい魔力を帯びた。
ルシエラの指先が風をなぞる。飛び交う鷹のスピリットが風を集め、風の糸で編まれた蒼の帳を静かに降らす。
「どうか、力を貸して頂戴ね」
音もなく降りかかる蒼の天蓋は白婦人たちの肢体に纏わり、身動きを封じられたかのような錯覚を与えた。逃れようと藻掻く彼女らの頭上へ、矢の雨が放物線を描いて降り注ぐ。白婦人の近衛兵たるジャグランツが喉笛を突かれ、苦しげな末期の息を遺して息絶えた。
(「……っ」)
ともに歩み始めた者もいる中、辛くないといえば嘘になる。それでもルシエラは歩みを止めず、街に被害を出さぬよう居所を移しながら援護射撃に専念した。
涼やかな風に吹かれ、クヤクは力が|漲《みなぎ》るのを感じた。もう一度奇術師の紋章で鳩を飛ばせば、白婦人の下から離れたジャグランツが数体、蒼の帳の餌食となった。
紋章で彼が打ち出す鳩は、恐らくは命なき召喚存在。狩猟者の心通わせるスピリットと違い、使い捨ての手駒にするのにも抵抗はない。
(「貴女は、ここにいる彼らのことをどう思っているんだろうな。いつまで胎の「それ」を抱えて、倒され続けるつもりなのか」)
人類の魔女はあえて己が肚を斬り|巻き直し《エンドテイカー》の力を捨て去ったという。我が子に接する姿勢は厳しくもあったが、やり直しが効かぬという事実が人類の可能性を芽吹かせた。
母がこの有様では独り立ちできまい。配下のジャグランツのおかれた状況を、クヤクは少しだけ不憫に思ったが、火の粉になるなら払うまでとすぐに思考を割り切った。
残る鳩が一斉に群がり、薔薇の蔓を引き剥がす弾丸として散っていく。あるもの全てを使い切る合理的な戦術は、究めた武を戦いの道具とする武芸者たる証。
開けた道に、アックスソードを手にクヤクは吶喊した。阻もうとする残敵は、吹き荒ぶ嵐を以てルシエラが遠ざけた。
「……ごめんね、おやすみなさい」
ルシエラの見守る中で、白婦人は討たれた。アックスソードの穂先が突き入れられて間もなく、びくりと痙攣した婦人はそれきり動きを止めた。
◇ ◇ ◇
赤きエリクシルに願われた命は所詮、仮初だったのだろう。
骸は僅かな粘液を残して溶解し、ジャグランツ諸共大地に染みこんでいく。
彼らが過去の再現体であるなら、共に手を携え歩むことは不可能に等しい。ルシエラには心残りもあったが、今を生きる人々やバルバのためを思えばこれが最善なのだ。
戦いの喧騒が止み、街には平穏が舞い戻る。星霊建築のもたらす青の光が、建築物を元の色に染めていく。
アクスヘイムをはじめとした都市国家は未だ、危機の最中にある。この戦場で勝利を収めたことは確かな一歩だが、世界には今この瞬間も救援を必要とする人々の声が響いている。
しかし勝利は勝利で讃えるべきであろう。
なぜなら、民家の戸口には危機から救ってくれたあなたたちを見つめる、口元を綻ばせた人々が立っていて。
『――されど、世界には青空が戻っていた』
まるで伝承を結ぶ一節のように。白雲を浮かべた空は、深い青を湛えていた。
大成功
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