エンドブレイカーの戦い⑩〜星の視る夢
●星降る砂漠の夜に
――砂月楼閣シャルムーン。
広大な砂漠にそびえ立つ、巨大な『爪』を中心とした都市国家。
砂漠の冷たい夜に、ふわりとひとつの星が舞い降りる。
巨大な指先にそっと跣で降り立ち、月影に照らし出されたそれは、人の形をした女だった。
女はそっと長い睫毛を伏せ、ゆっくりと瞬きをする。
虚ろな視線の先には、砂漠の砂と土で造られた乾いた都市の街並みが広がっていた。
静寂に包まれた街へ、女は舞うように降りてゆく。
眠りにつく人々の微睡む願いを聴き入れ、破滅へと導くために――。
●夢微睡み、黙して悟る
「砂の国、砂月楼閣シャルムーン。皆には早急にそこへ向かってもらいたい」
グリモアベースの一角で、ノヴァ・フォルモントは集った猟兵達へと状況を伝える。
エンドブレイカーの世界で、同時多発的にエリクシルの侵攻が始まった。
砂月楼閣シャルムーンはその名の通り、周囲を砂漠に覆われた都市国家のひとつだ。
「敵は深夜、人々が寝静まった頃に都市の上部から現れるようだな」
その時間、都市の住民たちは殆どが眠りについている頃だろう。
そして敵が目指そうとしている先は多くの人々が住む住宅街。
無防備に眠る人々へ近付き微睡みの中の願いを聴き入れ、代償として多くの犠牲を生み出すつもりだ。
「無論、そんな事をさせるわけにはいかない」
皆には敵――、エリクシルが街へ向かう前に喰い止めて欲しい。
ノヴァはそう告げた。
現れるエリクシルは若い女の姿で、後光を背負いまるで女神のような姿形をしている。
誰かが諦めた夢や憧憬が生んだエリクシルのようだが、詳しい事はわからない。
それは女自身に意思がなく、常に夢うつつ。微睡むような状態だからだ。
――ただ、願いと破滅を繰り返すだけの存在。
そして女は、対象の記憶や思い出に深く入り込む能力を持っている。
それは心に深く刻まれた、過ぎ去りし記憶の情景。
ある者は忘れられない者の姿を、
ある者は叶えられなかった夢を、
ある者は手放してしまった願いを、
きっと対峙すれば、夢や幻覚の中に囚われてしまうだろう。
それらを意思の力で振り払い、エリクシルを退けなければならない。
「――それと、最後に重要なことをもうひとつ」
ノヴァは神妙な面持ちで、最も注意すべき点を猟兵達へ伝える。
この戦場には特殊なユーベルコードが仕掛けられている。
それは”声”を発したものを無差別に殺す、という凶悪なものなのだ。
囁き声、小さな呟き一つでさえ、その対象となり得る。
「だから決して声を、言葉を発しないように気を付けて欲しい」
ノヴァは人差し指を口元に当て、黄昏色の眼差しを真っ直ぐに向けた。
想い出の光景や、大切な者が目の前に現れたとしても、言葉を零してはならない。
感情を声にしてはいけない、
呼びかけてはならない、
答えてはいけない、
それはただ単に想い出を巡るよりも辛いことかもしれない、けれど――。
「皆ならきっと、どんな障害も乗り越えてくれると信じているよ」
グリモアの淡い輝きが貴方を包み込む。
転移の先は、星降る砂漠の夜、砂月楼閣シャルムーンへ――。
朧月
こんにちは、朧月です。
エンドブレイカーより戦争シナリオのお届けです。
どうぞよろしくお願い致します。
●概要
舞台は広大な砂漠に聳え立つ都市国家、砂月楼閣シャルムーン。
夜の空に舞い降りた、女神紛いの姿形をしたエリクシルを退けてください。
過去の夢や想い出、幻影と対する静かな心情系を想定しておりますが、
リプレイはいただいたプレイング次第です。
皆さんの想うように行動してみてください。
●特殊ルール
『プレイングボーナス:一切声を出さずに戦う』
因みに、吐息などの生物が自然に発する音は対象外とします。
"言葉や何かのワード"と認識出来るものに限ります(朧月基準です)
意図的に声を発したい場合は「」付きでの表記をお願いします。
手痛い返しが来ることを想定のうえで、敢えての場合はどうぞ。
上記以外の台詞らしい文言は基本的に心の中の声として描写します。
●受付
プレイング受付期間はマスターページ、シナリオタグでご案内します。
お手数ですが都度ご確認いただきますようお願いします。
●採用
通常プレイング:失効期間内に執筆出来る分だけ。
オーバーロード:内容に問題なければ全て採用、お届けはゆっくりめです。
●共同プレイング
同伴者はご自身含めて2名様まで、でお願いします。
【相手のお名前(ID)】or【グループ名】をご明記ください。
送信日は可能な限り揃えていただけると助かります。
以上です。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『おさなごころの君』
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POW : 薔薇色の追憶
【対象の忘れられない者の姿】に変形し、自身の【最も近くに居る者の寿命】を代償に、自身の【かけられた願いを叶える力】を強化する。
SPD : 月下の約束
自身と対象1体を、最大でレベルmまで伸びる【月の光で編んだ鎖】で繋ぐ。繋がれた両者は、同時に死なない限り死なない。
WIZ : 星屑の憧憬
戦場全体に、【対象がかつて抱いた夢や憧憬と、その煌めき】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠チェーザレ・ヴェネーノ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
空澄・緋華
(目の前に現れた迷路は見覚えがあり)
ここは……かつてUDCアースにあった、竜神である僕を祀る社……!
幽世に再現されたもの(※旅団。かなりぼろぼろ)と違って、こちらはかつての姿のままだ
……僕は記憶が欠けているからぼんやりとしか思い出せないんだけどね
間取り自体は同じなので迷う事はなさそうだけど……
(出口付近で黒衣の二人組の幻影が現れる。その姿は何故か靄が掛かったようにぼやけている)
この二人は……かつての僕と弟……!
「……っ!」
危うく声を出すところだった
このままこの二人を見ていればかつての自分達の事がわかるかもしれない
けれど
立ち止まる訳にはいかないんでね……!
この場所も貴女も、焼き払わせていただくよ
――冷たい夜に、乾いた砂漠の風が吹く。
エリクシルの女を見上げた、空澄・緋華を惑わす砂塵。
思わず目を閉じ、そして再び開けば、目の前の光景は一瞬にして様変わりしていた。
(「ここは……」)
その風景に緋華は見覚えがあった。
障子に襖、木の床。厳かな雰囲気の屋内。
不思議と懐かしいような、けれど初めて見るような、不思議な感覚に緋華の赤い瞳が瞬く。
――そうだ、此処は。
かつてUDCアースにあった、竜神である自身を祀っていた社。
人々に信仰され、崇め祀られていた頃の居場所。
欠けた記憶。
断片的に残るそれらを繋ぎ合わせ、緋華はそう確信する。
ぼろぼろに朽ちた現在の社とは違い、無い筈の場所に壁や襖があったりと些細な違いはあるようだ。
少しばかり戸惑いつつも、間取り自体はほぼ同じで迷うことはない。
(「幽世に再現されたものと同じだ……。ということはやっぱり」)
緋華は冷えた木の廊下を歩み、社の出口を目指す。
すると先の方に薄暗い空間を照らす一筋の光が映った。
出口だ――。
緋華の足取りが早まる。
けれどもその足が、ふいにピタリと止まった。
社の出口に佇む人影。
似た背格好の二人組、おぼろげな黒い幻影が視える。
緋華は探るように目を細め、その二人組の正体に気付けば思わず息を詰まらせるた。
(「あの二人は……まさか、かつての僕と弟……!?」)
二人組のひとりがゆるりと振り返りそうになり、緋華は咄嗟に柱の陰へと身を潜めた。
「……っ!」
反射的に、危うく声を出すところだった。
再び柱の陰から様子を伺えば、黒衣の二人組は何かを話しながら社を出ていくようだ。
――このまま、あの二人について行けば。
わかるかも知れない、失くした自分達の記憶が。
(「……けれど、今は」)
立ち止まる訳にはいかない、この世界の危機が迫っている。
それにこの光景は、所詮エリクシルが見せているまぼろしに過ぎない。
本物の、自分の記憶かどうかも定かではないのだ。
緋華は自分を落ち着かせるようにそっと瞼を伏せると、懐から御幣を取り出した。
再び赤が開けば、視界にゆらりと炎が舞い踊る。
炎は竜の形となり周囲を、全てを包み込み、焼き払ってゆく。
(「この場所も、揺蕩う願い星の貴女も、焼き払わせていただくよ」)
全てが炎の赫に染まる頃、緋華はただひとり、静かに笑みを湛えていた。
大成功
🔵🔵🔵
コッペリウス・ソムヌス
それなり永く存在はあるけれど
沈黙選ぶ戦いは珍しい気もするね
本来の此の地に似たような伝承も
あるらしいのは片隅に留めて
オレなりにできる事をしよう
足を踏み入れた先は僅か煌めいて
立ち並ぶのは白亜の町並み、潮の香り
ふ、と吐息が零れそうになって
意味を成す音を立てなければ良いのだっけ?
中々に不可思議で面白い場所だなぁ
出口とやらを目指そうか
目に映っているのは嘗ての光景
旅立たなければならない夢の跡地で
ふと思い立ったから試してみようか
言葉噤む口だけでなく
耳をも塞いだ
鐘の音が響く先には
敵対者でもいる事になるのか
耳を塞いだ手で、音には澄まして
判断しきれなくても歩き続けるうちには
やがてはユメから覚めるものなのでしょう
――掟により「声を出すこと」を禁じられる。
此処、砂の国シャルムーンにも似たような伝承があっただろうか。
宛らあの女神紛いの女が伝承の姫君か。
声を封じられた己自身がその役なのか。
されど、これは恋のように甘く、葛藤のように苦くもない物語だろう。
――それなりに、永い時を巡ってきた。
その中でも、敢えて沈黙を選ぶ戦いは珍しい。
人の身で在りながら、言葉を紡げないのは不便といえば確かにそうだ。
けれども、このひとときだけ堅く結べばよいだけのこと。
砂色髪の青年、コッペリウス・ソムヌスはエリクシルの女の行く手を阻むように立ち塞がった。
対峙する女の瞳が意思も無く静かに瞬けば、周囲の景色が歪み始める。
コッペリウスは歪んだ景色の先へ、一歩足を踏み入れる。
すると世界の景色は眩くように一変した。
――太陽が燦々と照る、煌めく蒼と白の世界。
立ち並ぶ白亜の街並み。
青く透き通る海、潮の香り。
――ふ、と思わず吐息が零れ落ちる。
咄嗟に緩んだ口元へ、コッペリウスは軽く握った拳を当てた。
いや、意味を成す音を立てなければ問題は無かったはずだ。
もう一息、静かに息を吐きながら、銀の瞳を静かに瞬かせる。
(「……中々に、不可思議で面白い場所だなぁ」)
目の前に広がるのは嘗ての光景だった。
煌めく白に、聴こえる波音、羽ばたく海鳥達の声。
郷愁を誘うそれらは入り組んだ街並みと相俟って、確かに足を鈍らせるに値するだろう。
――けれども。
旅立たなければならない、この夢の跡地から。
コッペリウスは、ふと思い立ったように両の耳を手でそっと塞いだ。
これならば、波音も海鳥の囀りも聴こえては来ない。
変わりに響くのは、終焉を告げる鐘の音。
――カーン、――カーン、
塞いだ手はそのままに、鐘の音に耳澄ます。
音の先に居るであろう敵の存在を追っていけば、或いは――。
気が付けば、空は茜色に染まっていた。
夕陽の沈む海は明々と耀いて、道標のように一筋の光が海面に伸びる。
鐘の音の先は黄昏色の海。
あの光が、本当に導きなのかは判らない。
けれど。呼ばれている気がしたんだ、あの海の向こう側に。
おぼろげな足取りでも、歩み続けよう。
鐘の音を頼りに、光が導く先へ。
……そうすれば、やがては。
この懐かしきユメからも覚められる筈だから。
大成功
🔵🔵🔵
鬱塁・神荼
(『対象の忘れられない者の姿』、か……製作者すら誰とも知れない|元企業AI《おれ》にそんな人いるのかな?もし居なかったら……どんな姿になるんだろうね)
(「アバターデータ」を弄って発声機能は一時的に封印済み)
それっぽい存在が現れたら、他の人の寿命を持っていかれないように至近距離にまで近づいて、詠唱を行わない略式でUCを発動。
一片の灰も残さず焼き尽くすつもりの火力で攻撃する。
倒しきれなきゃ逃げられるだろうけど……追うつもりはあんまりないかな。
(もしかしたら、己の|生みの親《せいさくしゃ》の顔くらいは拝めるかも、なんて思っていたなんて。この場でなくとも言える筈がなかった)
(ひっそりと、溜息を一つ)
電子の世界に産み落とされ、有象無象の言葉や話を聞かされてきた。
そうして出来上がった人格、鬱塁・神荼。
元企業の対話型AI、――つまり俺だ。
唯与えられる作業を熟していた鳥籠から逃れ、自由の身には成った。
使われるだけの存在だったあの頃の記憶が全く無いわけではないが。
(『忘れられない者の姿』、か……」)
自分を作った製作者、判るものなら会ってみたい。
けれども、ただ消費されるだけの凡庸なプログラムに熱を注いだものなど居るのだろうか。
よくある対話型AIの製作者が誰かなど、もはや知る由もないだろう。
(「もし居なかったら……、一体どんな姿になるんだろうね」)
神荼はエリクシルの女へ向き直ると、行く手を阻むように立ち塞がった。
女はそんな神荼を視界に捉え、ゆっくりと長い睫毛を瞬きさせる。
――すると、その姿にザザッとノイズが奔る。
ザアザアと音を立て、やがて女の姿はブロックノイズで構成された塊へと変化した。
其れは既に性別も、人かさえも判らない存在に。
(「――嗚呼、そうか。やっぱり分からないんだ……」)
もしかしたら、顔くらいは拝めるかも。
なんて少し期待はしていたかもしれない。
けれど、少なくとも自分の記憶のデータには其れが存在しないことが分かっただけだった。
神荼は、ひそりと小さな溜息を零す。
(「……まあ、自分の記憶から生み出されたコレを放っておくわけにはいかないね」)
他の人の寿命を持っていかれでもしたら俺も困ってしまうし、と。
神荼は音もなく、ノイズの塊に至近距離まで一気に迫った。
ふわりと神荼の傍に十手が浮かぶ。
それは電脳魔術で生成した黒炎を纏っていた。
(「存在しない筈の記憶もデータも、必要ないからね」)
エリクシルに向かって放たれれば、ノイズの塊は黒い炎に包まれ、悶えるようにその姿形を乱れさせる。
全て燃やして無へと返す。
一片の灰も残さず、焼き尽くすつもりで――。
黒炎に包まれた塊は段々と小さくなっていった。
だが最後の欠片が消え去る瞬間、するりとエリクシル本体の存在だけが抜け落ちた気がして。
神荼は、はっと攻撃の手を止めた。
(「あれ……逃した、かな。まあ追うつもりはあんまりないけど」)
夜の砂漠が再び姿を見せる。
しん、と静まり返った夜の空には、冷たい砂の風が吹いていた。
大成功
🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
…
夢や憧憬、か
俺を赤ん坊の時に引き取って、旅をしながら育ててくれた師匠がいた
此処出身らしい
ある日野宿して目が覚めたらいなかった
この世界に来たら会えるかなって、ほんの少し思ってたんだ
どうしていなくなったのか、聞きたかった
出てきた幻は、黙ったまま喋らない
姿も朧で…当たり前だ
だってあの人が何て言うか、想像もできない
今どんな顔をしているのかなんて、全然わからない
顔も、もう、遠過ぎて、はっきりとは…
俺自身も、何をしゃべっていいのかわからない
だから、喋らず淡々と戦う。……戦うしかない
どんな時でも感情に左右されなずに戦うよう、育てたのはあなただ
…顔をもうはっきりと思い出せないのは、ちょっとショックだった、な
――夢、憧憬。
俺が思い浮かべるものは一体なんだろう?
砂漠の夜空を背に、星を抱くエリクシルの女が佇んでいる。
リュカ・エンキアンサスは女の前に立ち塞がり、口を噤んだまま青い瞳を静かに見据えた。
――ざあ、と砂を帯びた冷たい風が吹き抜ける。
あの日も確かこんな風に肌寒く、月が明るい夜だったろうか――。
俺には師匠と呼べる人が居た。
赤ん坊の時に自分を引き取り、旅をしながら育ててくれた人だ。
恩人、親代わり?
世間一般的に言えば、そういう存在なのかもしれない。
だけどある日の夜、野宿をして目が覚めた時、師匠は忽然と居なくなってしまった。
なぜ、どうして?
理由は何も告げないまま、それ以来ずっと行方知れずだった。
――ふと頭を過る。
この世界に来た時から片隅にずっとあったものだ。
師匠はこの世界の出身だと聴いた覚えがあった。
だからもしかしたら、此処に来ればまた何処かで逢えるんじゃないかって。
(「……そんなこと、考えているからかな」)
リュカの前に現れた幻は、おそらくは師匠だろう。
確証が持てないのは、その姿形が朧ではっきりと視認出来ないからだ。
師匠であろう幻は、靄を纏いゆらゆらと漂い、何も喋らない。
ただ静かにリュカの方を向き、佇むのみ。
どんな顔を表情をしているのか、何を考えているのか……。
(「わかんないな。だって俺自身、あの人が今此処で何て言うか、想像もできない」)
それほどに、リュカの記憶の中の師匠は曖昧な存在になっていた。
顔すらもうはっきりと思い出せないのは、我ながら少し落胆しそうになったけれど。
佇む幻は漸く動きを見せたかと思えば、静かに片手を差し出した。
その手首にはじゃらりと音を響かせた、月色の鎖が付けられている。
そして鎖の先を辿ると、もう片方の端はリュカの片手に繋がれていた。
(「まだ繋がっているってこと……?でも――、」)
リュカは零れそうな感情をぐっと飲み込んで、銃を構える。
どんな時でも感情に左右されず戦うように俺を育てたのは師匠、あなただよね。
星とリュカの想いが灯り木に込められる。
引き金を引く先は、輝く月色の鎖。
――パリンッ、と高く乾いた音が響き渡る。
あらゆる幻想を打ち破る星の弾丸が、リュカと幻を繋ぐ鎖を粉々に吹き飛ばした。
(「夢も、まぼろしも、もうおしまい。――それと、あなたも」)
師匠の幻は消え去り、エリクシルの女が膝をついて崩れ落ちる。
見上げた女の顔に相変わらず感情は無かったけれど。
消え逝く身体は夜の風と共にサラサラと散っていった。
――砂漠の街に、静寂が訪れる。
密かに迫っていたエリクシルの脅威は、退けられた。
人々の眠りは猟兵達によって守られたのだった。
大成功
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