誰にとっての“正しき恋”か
平賀・廣葉
◆個別企画「図書館船ビブリオテークの探索」
そんなものがあるとは思っていないけど――
でも、わからないし知りたいから
時間もあるし、調べてみよう
「恋愛の正しいやり方ってあるのでしょうか」
っというわけでフレーム欲しさもあってリクエストさせて頂きます
古今東西色んな恋愛のハウツー本や物語に体験記、ティーンズ誌から古典まで
何でもかんでも見て読んで知って、ドギマギしつつ知識を深めます
知的種族は色んな知識を前例から学んでそれを参考にして進んで行くもの
なので何か得るものがあるのではないでしょうか
最終的には「結局皆手探りでやっていくのですね」みたいなことを知って帰って行く
そんな想定です
分量はとりあえず☆3ですが減らして頂いても構いません
よろしくお願いします
平賀・廣葉(ハコイリムスメ・f11925)は、恋を知っている。
だが、恋愛のやり方がわかるとは、胸を張っては言えまい。
何せ例題がない、指標がない、説明書がないし……なにより正解がない。
猟兵だって恋がしたい。
けど、肝心の恋愛には、感情と経験のみで立ち向かわなくてはならないのだ。
「恋愛の正しいやり方ってあるのでしょうか」
そうして、羅刹の少女は、図書館船の扉を叩いた。
📗
『お探しの本はこの辺に置いてあります』とだけ言われて送り出され辿り着いた書架には、なるほど古今東西、各世界の恋愛に関する本が並んでいた。
「むむ、これは……」
【正しい愛情表現】と書かれたタイトルの本を、なんとなく手に取ってみる。
かつて廣葉は恋をした。結果として、望んだ通りの結末にはならなかったが。
原因があるとすれば何だったのだろう、巡り合わせか、相性か、あるいは、やり方が違っていたのか。
自分が一種の堅物であることを、自覚していない訳では無い。
であれば、『表現の仕方』を覚えるのは、一つの手法だろう。
適当なページを開いて、一行目。
見出しは、こうだった。
『好きピにアピールするなら、隙を見せなきゃ駄目! 男の子は強い女が嫌いなの!』
「んぐ…………っ!」
強弱で言えば強いに分類される女こと平賀・廣葉の胸に、ポップなフォントで描かれたその一文は綺麗に突き刺さった。
守ってあげたくなる女子、対極である。君を守るなどと言われれば、いえいえ私が守りますと言い返しかねないのが廣葉である。
ところで好きピってなんだろう。
これ以上この本を読むと取り返しのつかないダメージを受けかねないと判断し、隣の本へ。
『彼を振り向かせたいなら、待ってちゃ駄目、ガンガン攻めなきゃ!』
「せ、攻めるのは良いのですか?」
戦うことしか知らぬ女である。ならば攻め手は得意と言えるだろう。
しかしそれは守ってあげたい女とは相反する概念であるようにも思える。
「こちらは……」
『女は三歩下がって男を立てよ、自己主張などもってのほか』
「ええと……」
『今は女性が活躍する時代! 男をグイグイ引っ張ってイケてる彼女になろう!』
「……ううむ」
『好きな人の為に自分を変えようとしていませんか? ありのままの貴女を愛してくれない男はダメです』
『好きな人がいるのなら、自分から変わっていくべきだ。好きな人のために変われないなんて本当の愛ではない』
今読んだ本の、隣の本で、真逆のことを語っていたりする。
脳がパンクしそうになったので、すべての本を叩き戻し。
「あっ」
その拍子に、一冊の本がこぼれおちた。
ばらりとページが広がって、いけないいけないと手を伸ばしたところで、見出し文が目に入る。
『 恋をする前と後で、人は変わる。昨日まで揺るがなかった自分が、こんなにも頼りなくなる 』
『 恋とは、毒だ。人を変える毒。そうなる前に戻れないというのであれば、以前の貴方は恋に殺されたとも言える 』
『 この本を開いたのであれば、君は恋に対する答えを求めているはずだ、ならば、隣にある別の本を見るといい 』
『 きっと、全く違うことが書いてある。この本は恋を毒と貶しているが、物によっては奇跡とも病とも記されているはずだ 』
「――――――」
その時点で、廣葉は本を閉じた。
丁寧に棚に戻すと、大きく息を吐いて、書架の、他の本の背表紙をざっと眺める。
異国の恋愛のやり方、誰でもモテるナンパ術、絶対にやってはいけない100の事。
手に取る気にならない理由は、薄々わかっていた。
……つまり、結局のところ。
恋愛とは人間関係の、ある意味で極地と言える。
人付き合いのやり方に正解など無いのだから、恋愛など言わずもがなだ。
唯一無二の正しい答えはなく、しかし、たった二人の関係性においては、間違いない“正解”がきっとある。
そしてそれは、一人では出せない答えなのだ。
だって、恋は一人ではできないのだから。
結局、最後は手探りで。
少しずつ、自分にあったやり方を探していくしか無いのだろう。
臆病で、でも意地っ張りな羅刹の姫を、ありのまま愛してくれる人がいるかも知れない。
あるいは、恋に落ちた己が、そのあり方を変えようとするのかも知れない。
その時が来るまで、『正しいやり方』はわからない。
「それがわかっただけでも、十分です」
つまり――――平賀・廣葉の失恋は、間違いではなく。
実らずとも、敗れようとも、正しい恋の形であったということだ。
それがわかっていれば、次の恋は、もう少しうまく立ち回れるだろう。
なにせ、羅刹の姫は負けず嫌いである。
二度の敗北など、あり得ない。
成功
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