きっと何者にもなれない
●カクリヨ・インサニティ
学園というものは閉鎖的な空間である。
言ってしまえば、現代の幽世。永久に変わらぬ神域。されど、常に流動しているものでもある。
構造が変わらず。
体制が変わらず。
いずれも不変のごとき年月の流れだけが堆積していく場所。
それが学園、学校というものだ。
その学園は『流星学園』と呼ばれていた。
呼ばれていた、と過去形であるのはすでに『流星学園』が存在していないからだ。いや、そもそもそんな学校があったことすら人々の口には上がらない。
なぜなら、それはUDC組織によって厳重に封印され、完全隠蔽された情報だからだ。
時を遡ること二十数年。
平成元号にして西暦の節目をまたごうと言う年に『流星学園』は、UDCアースのいずれの情報媒体から姿を消し、関連した人々の生命を奪って『なかったこと』にされた。
なぜ、そんな事態に陥ったのかをUDC組織も知らない。
『知ってはいけない』ことだった。
もしも、『それ』を知ってしまえば、必ずや人は虜になってしまう。
『正しい』ことは好きだろうか。
『正義』は好ましいことか。
『善性』であることを望むか。
――当然である。
人は正しさを愛する生き物だ。
純粋なる人は『善性』そのものだ。美しく尊いものだ。
赤子の無垢たるを見るがいい。
あれこそが『正しい』人の在り方だ。汚れなく。穢れなく。ただ真っ白な意志を持って生きていくのならば、それこそが人に与えられた『正しい』生き方だ。
「故に、私は教育する」
一人の男は穏やかに告げる。
『先生』と呼ばれる彼は、存在しないはずの『流星学園』の教壇に立つ。
背には黒板があり、目の前には整然とならんだ机と椅子に座り、背筋を伸ばす老若男女たち。
彼らをみやり『先生』と呼ばれる彼は満足げに頷く。
「皆さん、良いですね。眼から淀んだ穢れが洗い流されて言っているようですよ。違います。本当に違いますね。此処に入学した時の皆さんとは別人のようです。『先生』はとても嬉しい」
「はい、『先生』!」
彼の言葉に『学生』である老若男女たちは皆一様に返事をする。
だが、おかしなことに教室内の席は空席が目立っていた。
「一足先に『卒業』した皆さんに追いつけるように、私も授業をしっかりと行っていきます。無事『卒業』できるようにがんばりましょうね!」
「はい、『先生』!」
何かがおかしい。
老若男女たる学生たち。
年齢があまりにもバラバラだった。年若い少年もいれば、主婦をしているような女性もいる。
それどころか、明らかに老体と言って良いほどの御仁もいる。
学園、と呼ぶにはあまりにも奇妙な『ごっこ遊び』めいた空間。そういう意味では『先生』と呼ばれる男の雰囲気も何処かおかしかった。
まるで『先生』という役割を演じているかのような胡散臭さ。
だが、『学生』たてゃ誰も疑問に思わない。いや、思えないのだろう。
「さあ、授業をはじめますよ。皆さんが人生から『卒業』できるように!」
その言葉と共に教室の天井や壁、窓、あらゆる箇所にブラウン管めいた画面が写し出され、それらが眼球のように『学生』たちを査定していく。
そう、『卒業』とは即ち『死』である。
目立つ空席は、すでにこの『流星学園』という幽世に食われた者たちの存在を示すものだった。
彼らは狂気に囚われている。
止めようがない。何故なら、そう、此処は既に『カクリヨ・インサニティ』なのだから――。
●UDCアース
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアース。かつてUDCアースは昭和から平成初期にかけて、世界各地では『集団発狂事件』が頻発していました」
それは学校や村落、宗教団体といった一つの地域に所属する『全員』が発狂し、外部へと襲撃を敢行し、暴力事件へと発展することが常であった。
だが、UDCアースに残されたメディアや記録を遡っても、これらの事件は周知されていない。
そう、UDC組織によって厳重に情報を抹消され、完全隠蔽されていたのだ。
「此処二十年程は発声していなかった、これらの事象……『カクリヨ・インサニティ』ですが、私の予知による再び起こり得ることが判明いたしました」
ナイアルテの言葉に猟兵達が息を呑む。
「どうやらその地域にはかつて『流星学園』という学園施設があり、『カクリヨ・インサニティ』が発生していたのです。その『流星学園』に一人の『先生』と呼ばれる『教祖』が現れ徐々に地域を『異形の異界』へと書き換え、狂気を伝播させて行っているようなのです」
これは由々しき事態である。
かつてのように情報媒体が新聞やテレビといったものに限定され、また情報の伝達が今より格段に劣っていた時代でさえ取り返しの付かない事態に発展していたのだ。
このSNS全盛の時代においてはどうなるかなど言うまでもない。
このままではUDC組織は『流星学園』に存在する一般人達全てを射殺しなければならなくなる。
「そんなことをさせるわけにはいきません。すでにUDC組織には伝達していることですが、皆さんが事件を解決するまでの間、実力行使を控える約束を取り付けてあります」
とは言え、猶予はない。
すぐさま猟兵たちは、この『流星学園』へと潜入しなければならない。
だが、今『流星学園』は『異形の異界』に堕している。
内部の学園では、異様なる光景が広がっている。
「学園内部はブラウン管テレビが無数設置され、画面には在籍している学生たちの姿がつぶさに映し出されている。
まるで査定しているかのように映し出される画面の中では、『学生』たちが次々とブラウン管テレビの画面から飛び出した無数の腕に引きずり込まれていく光景が広がっているのだ。
「恐らく、この画面から伸びる手に囚われては『カクリヨ・インサニティ』の中心にある『先生』の元にたどり着くことはできないでしょう。これらを躱し、『先生』の存在する場所へと向かわねばなりません」
ナイアルテは猟兵たちにそう説明すると、刻一刻と流れていく時間を惜しむように彼らを転移させるのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はUDCアースにて発生した『カクリヨ・インサニティ』の原因を探り、これを解決するシナリオになっております。
●第一章
冒険です。
『流星学園』へと『学生』として潜入した皆さんを迎え入れるのは無数のブラウン管テレビです。
学園内部の至るところに取り付けられており、その中には幾人もの学生たちが映し出され、『卒業』できるかどうかの査定を行っています。
『卒業』=『死』ですが、この学園に存在する『学生』たちは『卒業』を喜ばしいことだと認識しており、ブラウン管テレビから伸びる手によって引きずり込まれていく『学生』を祝福して送り出している様子が蔓延しています。
この狂気たる学園をかい潜り、この『カクリヨ・インサニティ』の中心たる『先生』を探し出しましょう。
●第二章
集団戦です。
第一章で判明した『先生』のいる場所へと向かわんとすると『カクリヨ・インサニティ』で力を得たUDCによって怪物が蠢き、通常ユーベルコードに加え、『ブラウン管テレビから伸びる無数の手』による拘束を行ってきます。
これらに対処することができれば、戦いを有利に運ぶことができるでしょう。
●第三章
ボス戦です。
『先生』と呼ばれる『カクリヨ・インサニティ』の中心にある一人の人間です。
彼は世界を異界化するユーベルコード『カクリヨ・インサニティ』を操る邪神に憑依されています。
『先生』の体から溢れる邪神は、彼の肉体を盾に皆さんを撃退しようとするでしょう。
この邪神を打倒すれば、幽世化は解除され、人々を冒していた狂気は『徐々に』癒やされていきます。
全てが帳消しにはなりませんし、すでに『卒業』した人々は戻ってくることはありません。
皆さんにできることは迅速に、この『カクリヨ・インサニティ』を止めることだけです。
それでは世界を書き換える異界化ユーベルコード『カクリヨ・インサニティ』を手繰る邪神の目論見を打破する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『絶望学園』
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POW : 私ですか?生徒デスヨ生徒
SPD : 隠密行動…隠れて探り廻る
WIZ : 何らかの身分(警官等)を名乗って調査(事実でも偽装でも…)
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
一歩踏み出せば、そこがもはや通常の世界ではないことを猟兵達は知るだろう。
『流星学園』。
それは現代的な学園の作りをしていなかった。
あえて言葉にするのならば一世代前の施設とでも言うべきか。
構内のあちこちに設置された無数のブラウン管テレビがそれを示しているようだった。液晶でもなく、薄型でもない。正方形めいた塊のような姿をしたテレビ画面が、まるで目のように無数に敷き詰められているのだ。
まるで査定されているような気分だっただろう。
そんな中、一人の女生徒がブラウン管テレビから這い出す無数の手に掴まれながら宙に浮かぶ。
明らかにそれは異常なる事態であったが、周囲にいた『学生』たちは皆、一様に拍手し、心からの言葉を彼女に送るのだ。
「おめでとう!『卒業』おめでとう!」
「おめでとう!『卒業』おめでとう!」
「おめでとう!『卒業』おめでとう!」
次々にはなむけの言葉が紡がれ、万雷のごとき拍手が周囲を埋め尽くしていく。
おかしい、とわかっているはずなのに。
これから女生徒がどうなるかなどわかっているはずなのに、狂気満ちる学内は、そこかしこで『卒業』が行われていく。
ブラウン管テレビの画面は小さい。
だが、それに見合うように『卒業』する『学生』たちは皆『折りたたまれていく』。
これは、おかしい。
絶対におかしい。
こんなことあってはならぬという確かな意志だけを頼りに猟兵達は己を査定し、あのブラウン管テレビへと引きずり込まんとする無数の手を躱しながら、『カクリヨ・インサニティ』を引き起こしている中心的人物『先生』を『流星学園』の何処にいるのかを探し当てなければならないのだった――。
イリスフィーナ・シェフィールド
正しいのは良いことですが正しさだけでは世の中回りません。
何故なら人間は清濁併せ持った生き物なので。
善性だけでいうならわたくしを甘えた人間にならないよう厳しく育てた両親は100%善人だったでしょう。
もっともわたくしはそんな厳しさより優しさを求めていたので破綻したわけですが。
望まない押し付けられる正しさなど迷惑なだけということですね。
清く正しく美しくで皆が生きられるなら素晴らしいことなのでしょうけども。
今まで禁足地に何度か足を運んだことありますがここは一際おぞましいですわ。
自ら死を望むとか正常な状態ではありませんから元凶は一刻も早く排除いたしませんと。
コードで透明化して見つからないよう進みます。
人は正しさを愛する。
正しくないことを断ずることに喜びを見出すように。
それは良いことだと思う。
正しいことを正しいと言えるだけの善性が人には存在することの証左であろうから。
「ですが、正しいのは良いことであっても、正しさだけでは世の中回りません」
『流星学園』の内部へとイリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)は踏み込んでいた。
だが、彼女の姿は誰にも見咎められることはなかった。
ブリザード・カモフラージュ。
彼女のユーベルコードは、光を反射せず、透過させる氷でもって身を覆うことによって彼女の姿を視聴嗅覚での感知を不可能としていた。
如何に此処、『流星学園』が異界に堕する領域であっても、彼女を見つけることはできない。
学園内部を見回す。
そこら中にブラウン管テレビが備え付けられ、まるで目のように……それこそ、ハニカム構造のように整然と並んでいるのだ。
奇妙なまでの整然さ。
雑多さは何処にもない。
まるで蜂の巣の中にいるようにさえイリスフィーナは感じたことだろう。
人間とは清濁併せ持つ生き物だ。
もしも、善性だけが尊ばれるのならば、己を育て上げた両親は正しく善人だった。
この学園の内部に入り込むとイリスフィーナの脳裏に浮かぶのは両親との記憶ばかりだった。
此処が異界であるせいだろうか。
己の精神に干渉するかのように次々と彼女が求めた優しさを一切与えなかった両親の顔ばかりがチラつくのだ。
そう、彼らは正しい。
正しさを愛している。
だが、イリスフィーナは思うのだ。
あの時の自分に必要だったのは正しさじゃあなく。
「厳しさでもなく、優しさを求めていたのですわ」
だから、破綻したのだ。
家族というものが。己と両親の間にあったであろう肉親であるがゆえの絆というものが、きっと壊れたのだ。
ただの彼らの正しさは軛にしか思えなかった。
「望まない押し付けられる正しさなど迷惑なだけということですね。清く正しく美しくで皆が生きられるなら素晴らしいことなのでしょうけども」
それ故にイリスフィーナは教室内部で整然と授業を受け続ける『学生』たちの眼に狂気が宿っているのを認めるだろう。
自分であるからこそわかることだ。
此処はおかしい。
明らかにおかしい。
禁足地などに足を運んだことのある自分ですら、ここはあそこよりも一層おぞましいと感じる。
「素晴らしいですね、皆さん! 授業の成果が出ていますよ!」
感涙するように教師たちが黒板を叩いている。
だが、そこには何も板書されていない。それどころか、内容すらない。
ただ、素晴らしい。ただ、正しい。ただ、純粋だ、と喚き散らし、『学生』たちは皆、キラキラした瞳でもって教師たちの言葉にしきりと頷いている。
まるで洗脳教育めいた狂気がそこにはあった。
「早く私達も『卒業』したいです、先生!」
「穢れきったこの世界から、『卒業』して、人に誇れる自分になりたいです!」
彼らの言葉にイリスフィーナは呻く。
『卒業』とは即ち『死』である。
自ら死を望む『学生』達は正常であるとは言えない。
この事態の元凶を求め、イリスフィーナは不可視たる姿のまま学園内部の探索を続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
九頭龍・達也
「失敗したら全員射殺かあ。仕方ないとはいえ結構、物騒だね、UDC組織も」
『勇者の剣』を虚空から取り出して、無数に伸びる手ごとブラウン管テレビを破壊しながら『先生』の場所に進もう。
(手の出る起点であるTVを残しておく必要はないよね?)
そこら辺に居る生徒が邪魔ならば『闘気波』で洗脳解除。自力で逃げれそうなら逃げる様に促し、無理そうならどっか安全な場所(TVを壊した後の場所)に隠れている様に指示。
心情的には特に正義感とかではなくUDC組織からの報酬目当て。
どちらかと言えば善人だけど、平和の為に無償奉仕しようとかの精神はないです。
UDC組織は常に揺れる天秤である。
刻一刻と時間は流れ、事態は目まぐるしく変遷していく。常識は通じず、さりとて怪異は止まらず。変容していく世界の中で狂気に侵される前に何が正しく、何が誤ちであるのかを判断しなければならない。
そうしたことをUDCエージェントたちは常に選択として求められるのだ。
「失敗したら全員射殺かあ」
事の顛末を九頭龍・達也(大宇宙帰りの勇者・f39481)は知る。
『流星学園』――それはすでに知られることのないかつて在りし残滓めいたものだっただろう。
だが、今再びUDCアースに『流星学園』が現れている。
過去の記録は既に厳重に封印されている。誰の目にも触れてはならないといわんばかりである。
だが、同時に達也は思っただろう。
事態を収めることができなければ、関連した人間を全て封じるために問答無用で処理するというUDCアースの組織の物騒さを。
「とは言え、『これ』は要らないよね」
彼は虚空より『勇者の剣』を抜き払う。
すでに踏み込んだ『流星学園』の構内は異界だ。
そして、己を見定めるようにして校内に溢れかえっている無数のブラウン管テレビ。
そう、それこそ不要であると彼は一瞬でブラウン管テレビを切り裂く。
悲鳴が上がる。
「あ、あなた一体何をしているの!?」
妙齢の女性がわなわなと唇を震わせながら達也を指さしている。
彼にとって、それは当然のことだった。
ブラウン管テレビが起点となって『卒業』という名の殺戮を為しているのならば、それをあえて残す理由など無いと言わんばかりである。
「何って……ああ、『先生』に言いつけたりするのかな。そうだとしたら、走って呼んできてもらえると嬉しいけど」
「こんなことをして居直るなんて! なんて人なの!」
妙齢の女性はしかし動けない。
この異常なる状況にあってなお、達也が『勇者の剣』という名のむき身の刃を持っていることに怯えているのだろう。
ある種当然の反応である。
だが、チグハグだ。己の『勇者の剣』を見て、本物の剣だと認識できる程度の常識はあるのに、無数のブラウン管テレビが居並ぶ校内には違和感を覚えていない。
それどころか、破壊している様を見て、何かとんでもないことをしでかした青年を咎めるような様子すら見て取れるのだ。
「やっぱり、これが異界の狂気ってやつかな」
達也は一瞬で妙齢の女性の懐に飛び込み、闘気でもって彼女の侵された狂気を払おうとする。
だが、気絶するばかりだ。
きっと彼女が目を覚ませば、また狂気に呑まれて己を弾劾しようとするだろう。
「ふぅむ……当て身で洗脳が解除できると思ったけど、これは相当に根が深いみたいだな。洗脳魅了や憑依はどうにかできても、この空間にいること自体が問題なのか」
となると、と達也は彼女を廊下の隅にもたれ掛からせながら、廊下に戻る。
「このテレビ画面は悪魔で『査定』用ってことか。でも情報だと手が伸びてくるって話だったよな」
首を傾げる。
何かトリガーがあるのか。
それとも利用するものがいなければ作用しないのか。
ともあれ、達也は次々と騒ぎを聞きつけて集まってくる『学生』たちをユーベルコードで持って気絶させ、仮に此処が戦いの場になったとしても邪魔にならぬようにと追いやっていく。
「ふぅむ……UDC組織は本当にこんなのを毎回毎回処理してるっていうのか。これは相当に手がかかる事件ってことだな」
これは相当に手当をもらわないとやっていられない。
というか、これだけの状況である。エージェントたちも関われば無事ではすまないだろう。なんとも難儀なことだと辟易しながらも達也は虚空より引き抜いた剣を片手にブラウン管テレビを見上げる。
そして、さらに『流星学園』の奥……『学生』たちではないものが集う場所へと歩んでいくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
私の住む世界と似ているのに敵の雰囲気。そしてゴーストタウンともまた違う空間…一般の方をみすみす見殺しにするわけにも行きません。微力ながら尽力させていただきます
身分を偽装して学生として学園に潜入してみましょう。…|学校《銀誓館学園》を今年卒業したばかりなのにもう一度学生になるとは
学園に入ったら学園内の雰囲気や構造などを調査。あらかた調査が終わったらお茶を淹れつつ、在学生に『先生』がどこにいるのかを聞いて向かいます
しかし、卒業ですか。この学園の卒業の基準と何なのでしょうね。これも調査で分かるのでしょうか
UDCアースの光景。
それは己のよく知る世界の光景と似通ったものであっただろう。だが、本質的に異なることは勿論、己が知る異常事態とも似つかわしいものであると知ることができた。
それが猟兵という存在である証左であるというのならば、ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)はゆっくりと息を吐きだし、『流星学園』を見上げる。
銀の雨降る世界と似ていると感じる。
敵の雰囲気もそうだ。
またこの異界もまたゴーストタウンと呼ばれる領域とも異なることを肌で感じる。
理屈ではない。
これは存在させていては行けない領域であると知る。
「……一般の方をみすみす見殺しにするわけにもいきません」
微力であってもできることがあるとディルは思う。
それは謙遜であることだろう。
「それにしても……|学校《銀誓館学園》を今年卒業したばかりなのに、もう一度学生になるとは」
『流星学園』にディルは足を踏み出す。
身分を偽装する、というのならば今の彼ほど適したものもいないだろう。
何せ、本当に昨年度までは学生だったのだから。
とは言え、肌で感じる違和感に彼は眉根を寄せる。
一歩踏み出した校内の至るところにはブラウン管テレビが備え付けられている。
壁。
天井。
時には床面すらブラウン管テレビであることが伺い知れる。
この異様なる光景の中で老若男女の学生たちが当然のように学園生活を送っているのだ。何一つ疑問に思うことなく。
そうであることが当然であると認識しているかのように。
そして、『卒業』と言う名の『死』さえ受け入れ、あまつさえは祝福するという異常。
「『卒業』、とは一体どのようなことを意味するのでしょうか」
学生たちは日常を生きるように学園生活を送っているようである。
このブラウン管テレビの向こう側に有る存在が、如何なる価値基準で持って選定しているのか、まるで不明だった。
ただ、『学生』たちは皆一様にキラキラとした目をしている。
いっそ不気味なくらいに輝く瞳で持って授業を受け、学友たる同級生や上級生、下級生とも積極的に繋がりを求めるようにして青春を謳歌しているように……ディルには思えなかった。
これは違う。
間違っても、これが善性であるとは思えなかった。
「私の知る学園生活とはあまりにもかけ離れている……」
彼はゆっくりとお茶を淹れる。
どんな時でも憩いと潤いを忘れてはならない。彼にとって、お茶とは人の心を癒やすものだ。人の笑顔を見たい。
誰かの疲れを、憂いを払って上げたいと思う。
それがティーソムリエというものだ。
「それで、『先生』は何処にいらっしゃるのでしょうか?」
眼の前に座る女学生を前にディルは微笑む。
明らかに『学生』である彼らはおかしい。けれど、善性である、というのならば、彼らは喜んで応えるだろう。
「はい、『先生』は職員室にいらっしゃると思います」
「ところで、お茶を召し上がられないのですか」
「はい、『先生』に与えられた時間以外の水分補給は禁じられていますので」
その言葉にディルは頭を振る。
自身が入れた紅茶の香りが確かに女学生を包んでいる。
香りだけでも楽しんでくれていることは嬉しいが、けれど、と思う。
「お茶のない時間なんて、それこそ人の心に余裕をもたらさないものです。やはり、この学園のおかしさは……」
言うまでもない。
ディルはティーセットを手に己の鼻腔をくすぐる香りを感じ、『善性』という名の狂気に侵された領域の中枢を見やるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
フォーネリアス・スカーレット
「知った事か。オブリビオンは皆殺しだ」
ナイフを投擲。刀で両断。槌で粉砕。散弾銃を接射。短機関銃を乱射。このテレビはオブリビオンに属する物である事は明らかだ。
「イヤーッ!」
先のレポートを見た様子では壊して問題無いらしい。ならば、見える範囲にあるテレビは全て壊しながら進む。
「正しさなど知らん。どうでもいい」
下らぬ問答をするなら多少は付き合ってやってもいい。
「私の正しさはオブリビオンを殺す事だけだ」
私の意志が揺らぐ事などない。
「やるか、やらないか。あるのはいつでもそれだけだ」
私はやり続ける。たとえそれが不利だろうが、無茶だろうが。
「オブリビオンは皆殺しだ」
最終的に全員殺せば問題無い。
『流星学園』――それはかつて存在した、『存在していない』領域である。
即ち、それはUDC組織の敗北の証明でもある。
何故なら、関係者の全てを警官隊によって射殺するしか解決策がなく、情報の全てを完全隠蔽するしかなかったからだ。
UDCの脅威を前にして人はあまりにも脆弱であり、無力である。
それを知らしめる事件であったというほかない。
その凄惨たる事件が再び起ころうとしている。
猟兵たちは再び現れた幽世の如き『流星学園』へと足を踏み出している。
もしも、猟兵たちがこの事件に対して時間を取られすぎることになれば、UDC組織はためらうことなく実力行使で、この学園の存在する一般人諸共射殺するだろう。
それが苦渋の決断であることは言うまでもない。
「知ったことか。オブリビオンは皆殺しだ」
だが、フォーネリアス・スカーレット(オブリビオンスレイヤー・f03411)には関係のないことだった。
彼女にとってオブリビオンの起こす事件は須く解決されるべきものであったし、そのために取れる選択肢に躊躇なく手を伸ばすものであった。
投擲されたナイフが校内の至るところに設置されたブラウン管テレビの画面を貫いて砕く。
さらに手にした槌を振るって筐体ごと叩き壊す。
その暴威を前にして『学生』たちは皆悲鳴をあげるだろう。
「な、なんてことをしているんだ。そんなことを『先生』はお許しにならない」
「知ったことか。イヤーッ!」
フォーネリアスはさらに散弾銃を構える。
剣呑なる輝きを放つ銃口を見た『学生』たちは蜘蛛の子を散らすようように射線上から逃れようと散り散りに逃げていく。
轟音が轟き、放たれた散弾が次々とブラウン管テレビを破壊していく。
さら短機関銃すら彼女は持ち出す徹底ぶりを示して見せる。
「壊して問題ないのであれば、見える範囲のテレビは全て壊させてもらおう」
「や、やめろ! こんなこと正しくはないはずだ!」
『学生』たちの悲鳴まじりの非難が飛ぶ。
けれど、フォーネリアスは甲冑の奥に揺らめく眼光を向けて続ける。
「正しさなど知らん。どうでもいい」
彼女にとって、その非難は非難ですらない。
問答をするつもりなど毛頭ない。だが、とフォーネリアスは揺らめく赤い眼光のままに『正しさ』を説く『学生』に向き直る。
「私の正しさはオブリビオンを殺すことだけだ」
「な、なにを……」
何を言っているのかわからないのだろう。それはそうだ。オブリビオンを知覚できるのは猟兵だけだ。
ならばこそ、フォーネリアスの言葉は正当性を彼らに与えない。
だが、それすら彼女にとっては無意味なことだった。
己の意志は揺らがない。
泰然自若としているのではない。ただ只管にそうであるべきという信念でもない執念でもない、妄執めいたものだけをフォーネリアスは支えにして立っている。
「やるか、やらないか。あるのはいつでもそれだけだ」
ブラウン管テレビの破壊の音が響く。
破片が舞い散り、彼女はその最中に見ただろう。
壊れたはずのブラウン管テレビの破片に反射する己のものではない眼光を。
だが、彼女はたじろぐことすらしない。
何故なら、そこには彼女の求めたて敵がいるからだ。
「オブリビオンは皆殺しだ」
最終的に全て殺せば問題ない。故に、彼女は己を認めるブラウン管テレビの破片に映る眼光を睨めつけ、踏み砕いて、さらに校内を破壊と共に進むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
どうやら今回の事件はとんでもなさそうだぜ、相棒。
「…『カクリヨ・インサニティ』、これ以上の被害が広がる前に止めないと。」
相棒の巫女服には狂気耐性が施されてるが、長居はしたくねえ空間だぜ。
目につくブラウン管テレビに『破魔弓』で【破魔の祓い矢】を撃ち込みながら進んで行くぜ。
怪異たる『手』を粉砕していけば少しは時間が稼げるだろ。
学生が何か文句いってきたら『結界霊符』を貼って結界術で閉じ込めるぜ。これは『手』から学生を護るって側面もあるがな。とはいえ長くは持たねえだろうな。
とっとと、元凶を叩かねえと。
「…早急に『先生』を見つけ出しませんと。」
【技能・狂気耐性、破魔、結界術】
【アドリブ歓迎】
神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は赤い鬼面をカタカタ揺らしながら目の前の領域の尋常ならざる雰囲気に相棒たる巫女、桜に呼びかける。
『どうやら今回の事件はとんでもなさそうだぜ、相棒』
「……『カクリヨ・インサニティ』、これ以上の被害が広がる前に止めないと」
踏み込んだ『流星学園』は異様な雰囲気だった。
眼の前に広がるのは学園生活。
『学生』達のキラキラした笑顔と眼が異質に見えてしまう。
UDCアース、現代たる世界の在り方を知っているのならば、これがフィクションか、または現実を知らぬものが生み出し、描いた世界であるように思えたことだろう。
事実、この『カクリヨ・インサニティ』たる『流星学園』を作り上げたものは知らないのだろう。
人というものを。
人の『善性』を知るのならば、『悪性』もまた知らねばならない。
なのに、信じているのは『善性』だけなのだ。
ならば、このような世界が広がるのも無理なからぬことである。
『狂気に耐性があるとは言え、長居はしたくねえ空間だぜ』
凶津は鬼面を揺らしながら吐き捨てるように言う。
「……ブラウン管テレビ……あれが人を『卒業』させる裁定者であるとううのなら」
桜が破魔弓を構える。
ユーベルコードに煌めく力。霊力を矢に込めて放つ一射は、破魔の祓い矢(ハマノハライヤ)を持ってブラウン管テレビを射抜き、粉砕する。
彼女の放った矢は、怪異のみを粉砕し浄化する霊力の矢である。
「……これは」
『どうやら、このブラウン管テレビ自体が怪異ってわけか。となると……』
「おい! 何をしているんだ! 学園の備品を壊すなんて!」
その声に桜は振り返る。
其処に居たのは学生服に身を包んだ中年の男性だった。それに高齢の女性もいる。
いずれも学生服が似合うとは思えない年頃であったし、そのような格好をしていることも、『学生』という身分であること自体おかしいことだった。
これが『流星学園』の、『カクリヨ・インサニティ』の狂気の賜物であるのだろう。
桜は掴みかかろうとする中年男性の手を躱し、手にした『結界霊符』を投げつけ、結界の中に閉じ込める。
「な、なんだこれは! 君! 馬鹿なことはやめるんだ! こんなことをしても『善い』ことじゃあない! 何かを壊すことで自分を表現できるわけないんだ!」
『……なんつーか、思いっきり誤解されてるみてーだなあ』
「……狂気に囚われているのでしょう。でも、これで」
桜は凶津と共に周囲を見やる。
怪異たるブラウン管テレビを破壊したことで、『学生』を『卒業』させる無数の手は出現していない。
これならば、『学生』たちを『卒業』という名の『死』から守ることができる。
それに『結界霊符』でもって彼らを閉じ込めたのは、無数の手から守るためであった。
『一先ず、対処はできるが、これも一時しのぎだぜ、相棒ッ』
「……わかっています。早急に『先生』を見つけ出しませんと」
二人は頷き、校内を走っていく。
今だ無数に存在するブラウン管テレビ。
その奥に凶津と桜を睨めつけるような眼光の煌めきがあるのを彼らは見ただろうか。いや、見ていなくても、肌で感じることだろう。
射抜くような敵意。
おおよそ、善性しかない学園にあってひときわ異質なる敵意。
それをたどるようにしながら凶津たちは元凶たる『先生』の姿を求めて校内を駆けていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
霞・沙夜
【路子さんと】
路子さま、トーストが足りません。
や、それは置いておくとして、
性善説、というものでしょうか。
わたしにはちょっと信じられないですね。
それに。
教育している『先生』とかいう人の善性は、だれが保証してくれてるのでしょう。
だいたい、卒業が死、って、それは善性なのでしょうか?
ま、信じたい人を無理に止めることは……。
路子さまなんでしょう? 止めないとダメ?
ブラウン管テレビを刻みながらいくことにしましょう。
かたっぱしから壊していけば、わたしたちも捕まらないし、
『生徒』さんたちが引き込まれる可能性も減りますよね。
『妖斬糸』で切り刻ませてもらいます。
路子さまも、捕まらないように気をつけてくださいね。
遠野・路子
【沙夜と】
ごめーん、ちこくちこくー(棒)
……無理はしない方が良い(こくり)
正しい事が押し通るなら私たちゴーストは滅んでいた
シルバーレインには|世界結界《正しさを押し通すもの》があったからね
でも私たちは『生きて』いる
正しさだけで世界が回るなんて絵空事だよ
沙夜
あなたは純粋すぎる
それもまた、諸刃の剣だね
沙夜の後ろを歩いていけば問題なさげ
てくてくと歩いていこう
沙夜カッコいい頑張って
捕まると面倒そうだけど
私を捕まえるなら聞いておかないと
そもそも死とは何?
生命を止める事なら生命無き私には通じない
殺すことなら猟兵には通じない
そんな曖昧な概念で私たちを倒せると思わない方が良い
【オロチ変化】で喰い破っていくよ
死と隣り合わせの青春。
それは霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)にとっては過ぎ去った時間である。けれど、と思う。瞳を閉じれば鮮明に思い出すことができる。
戦いが過ぎ去っても、新たな戦いが迫る。
それが能力者として生まれた者の宿命であったというのならば、それを嘆くだろうか。いや、沙夜は嘆くことはないだろう。
そんな彼女は『流星学園』の校門前に立って、待ち合わせ人が訪れるのを待っていた。
空の青さ。
銀の雨降る気配はない。
さりとて、雲の高さはどこまでも続く世界を思わせるものであった。
「ごめーん、ちこくちこくー」
そんなセンチメンタルさえ感じさせる空の青さを見上げていた沙夜の気分をぶち壊す棒読みが響き渡る。
ひどい。
「路子さま、トーストが足りません」
沙夜も何を言っているのだろうか。
「や、それは置いておくとして」
「……無理はしないほうがよい」
沙夜の言葉に遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は頷く。確かに。今はコントやっている場合ではないのだ。
彼女達は校門の先、『流星学園』たる『カクリヨ・インサニティ』の領域を見つめる。
この先はすでに異界そのものだ。
見やれば、『学生』達のキラキラとした表情が伺い知れる。あまりにも煌めく表情。いっそのこと作り物なのではないかと疑ってしまうほどの表情だった。
事実、彼らは狂気に冒されている。
正しいことを為す。
正しさこそ。
正義こそ。
善性こそが人の本質でると語るように『学生』たちは己の中から一切の穢れという名の『悪性』が洗い流されることを心待ちにしている。
「性善説、というものでしょうか。わたしにはちょっと信じられないですね」
「正しいことだけが押し通るなら、私達ゴーストは滅んでいた」
路子は思う。
正しさとは、と。もしも、正しいということだけを突き詰めていたのならば、能力者たちは己達ゴーストを赦しはしなかっただろう。
ただ、正しさのためだけに邁進するということは、即ち、己達の世界に存在した|世界結界《正しさを押し通すもの》を肯定することだ。
だが。
「私達は『生きて』いる。正しさだけで世界が廻るなんて絵空事だよ」
「ええ、それに教育している『先生』とかいう人の善性は、誰が保証してくれるのでしょう。大体、『卒業』が『死』って、それは善性なのでしょうか?」
沙夜が学園の中に入っていくのを路子は背を追う。
彼女の歩みは早かった。手に嵌めたリングから飛び出す妖斬糸(ヨウザンシ)が校内のブラウン管テレビとすれ違うたびに切り裂き、破壊していく。
ガラガラと音を立てて残骸へと成り果てていく光景に路子はカッコイイ、と応援する。
彼女の後をたどれば何の心配もないという信頼の現れであろう。
「でも、こんなに壊して大丈夫? 怒られない?」
「いえ、怒られるでしょう。でも、これをかたっぱしから壊していけば、わたしたちも伸びる手や、『卒業』と称して『死』を齎す手から『学生』のみなさんを守れます。間違っても引き込まれる可能性があってはなりませんから」
沙夜のこういう度胸の座り方というのは、これまで長く戦ってきた経験がものをいうのだろう。
ユーベルコードに輝き続ける彼女を前に『学生』達が徒党を組むようにして立ち塞がる。
「き、君たち、どうしてこんなことをするんだ!」
「そうよ! これは私達の『卒業』を見定めてくれるありがたい機械なのに!」
『学生』たちが沙夜達の前に立ちふさがり、声を荒らげている。
その様子に沙夜は息を吐き出す。
「信じたい人を無理に止めることはできないと思ったんですけど……」
「でも、だめ。止めないと」
路子が頭を振る。
「そもそも『死』とは何?」
その言葉は生命というものに対する問いかけであったことだろう。
路子たち新世代ゴーストは生命とは呼べないだろうか。今でも自分は『生きて』いると思える。
『生きて』いないのが『死』であるというのならば、おのれたちにそれは通用しない。
「生きていない、ということだ。生きている限り、世俗の穢れは身に溜まっていく。蓄積していく! だから!」
『学生』の言葉に路子は頷く。
「ていっ」
彼女の体が『土のオロチ』の頭部へと変形し、その手でもってブラウン管テレビをかみくだく。
「そんな曖昧な概念で私達を止められると思わない方がいい」
「そうですね。どうあってもここは『カクリヨ・インサニティ』。異界なのですから」
路子と沙夜は『学生』たちの言葉に目もくれず、ブラウン管テレビの破壊を咎めようとする彼らを押しのけるように次々と破壊を為しながら、さらに学園の中枢へと踏み込んでいくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
「わぁ、ここが学校なのですね!
通うのは初めてです!」
『布都乃は陰陽師の修行のため、学校に通っておらんからのう』
「ほらほら、見てください、制服可愛いですよっ」
嬉しくて、つい式神の子狐に向かって微笑んでしまいます。
『はしゃぎすぎて失敗せんようにな』
「――そうでした」
そう、転校生として『流星学園』に潜入した私は、この学園のおかしなところを探さないといけないのです。
おかしなところ――
「わぁ、どれもこれも見るの初めてですっ」
『――普通の学校を知らぬ布都乃が、学園の異常に気付けるはずもなかったのう』
興味深いものがたくさんある学園内を好奇心に任せて探検するのでした。
『まあ、これはこれで調査かもしれぬな』
ふわりと傍らに浮かぶ式神の子狐と共に天羽々斬・布都乃(神剣使いの陰陽師・f40613)は異界たる『カクリヨ・インサニティ』――『流星学園』の校舎を見上げて思わず声を発していた。
それは似つかわしい喜びの声であったが、しかし、『流星学園』に通う学生たちにとっては歓迎すべきものであった。
「わぁ、ここが学校なのですね! 通うのは初めです!」
彼女は喜びに溢れた表情を浮かべている。
その表情に『学生』たちもキラキラとした笑顔を向けて出迎える。
「おはよう! 良い天気だね!」
「今日も一緒にがんばろうね!」
彼らの声は必要以上に明るいものだった。だが、布都乃にとっては新鮮そのものだった。
同世代……とは言い難い年齢の者たち。
だが、彼らも『学生』である。学生服が似合っていない。不自然さしか感じさせない。
けれど、布都乃はおのれが着込んだ学生服の裾がふわりと揺らすようにその場で回転させて式神の子狐に微笑むのだ。
「ほらほら、見てください、制服可愛いですよっ」
彼女は陰陽師の修行のために学校に通うことがなかった。
憧れがなかったのかと問われれば、きっとあったのだろう。ない、ということがあるはずがない。
だから、子狐も必要以上に咎めようとはしなかった。
『はしゃぎすぎて失敗せんよにな』
「――そうでした」
そうだった、と布都乃は学生服を着れたことへの喜びで頭が一杯になっていたことを恥じるようにして『流星学園』の構内に潜入していることを思い出す。
「転校生として簡単に入り込めましたね」
『来る者拒まず、さりとて『卒業』という名の去ることは『死』意外を持って為すことは禁ずる、というところだな」
「そうです。ああ、でもどれもこれも見るの初めてですっ」
通常の学園と異なる違和感を感じろ、と言っても学校似通っていた過去の無い彼女にとっては、どれが違和感なのかわからない。
けれど、彼女は校内のいたるところに設置されたブラウン管テレビだけはおかしいと感じるだろう。
よしんば、これが普通の学校にも存在する備品だと言われて納得できるものであったとしても、この数はおかしい。
どう見たってこんなに必要であるとは思えないのだ。
「……うーん、こんなに必要なんでしょうか?」
『これが怪異の元になる、という情報は得ているであろう。となれば……』
式神の子狐の言葉に布都乃は頷く。
これが怪異の大元ではないのはわかる。けれど、『卒業』と云う名の現象、『死』を齎す装置であるのだ。
「この先に繋がっている、ということではないのですよね」
『妙な気配は感じるが、恐らく殺すためだけの装置なのだろう。如何なる基準からか、ある一定の水準を満たした、と判断された者から犠牲になっていく』
「やっぱり大元である元凶を倒さないといけませんねっ」
とは言え、と式神の子狐は首を傾げる。
その大元が何処にあるのかを探らねばならないのだが、布都乃は校内のあらゆるものに興味を示して近づいていくので、遅々として進まないのだ。
とは言え、彼女を咎めるのも気が進まない。
『まあ、これはこれで調査かもしれぬな』
そう己を言い聞かせ、布都乃の興味の赴くままに校内探検という名の調査は続いていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
さてね、彼らに言わせれば、『私たち』は『卒業』した『卒業生』なんでしょうけど。
あいにく、放っておけるものではなくてですねー。
というわけで、漆黒風を投擲してテレビ壊しながら行きましょう。伸びてくる手を減らす狙いもありますしー。
ところで…ブラウン管TVとは?
(猟兵になって来たとき、既に液晶TVだった)
そう、破壊しながら進みますから。批難されるでしょうが…まあ無視しましたねー。
遮るならば、『学生』には手刀での気絶攻撃しておきましょう。
『死』することが『卒業』であるというのならば、悪霊たるおのれたちは如何なるものであろうかという思考がある。
「さてね。彼らに言わせるのならば『私達』は『卒業』した『卒業生』なんでしょうけど」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は内に四つの悪霊を束ねる猟兵である。
確かに彼の――『疾き者』の言葉を借りるのならば、きっとそうなのだろう。
この場合は、OBとでも言えば良いのだろうか。
だがしかし、彼らはこの『流星学園』を『卒業』したわけではない。
忌まわしきオブリビオンによって『死』へと至らしめられた存在である。
それ故に、この異界たる『カクリヨ・インサニティ』、『流星学園』の雰囲気には馴染めるものではなかった。
構内にあるのは無数のブラウン管テレビ。
見慣れないものだ。
己達が猟兵となった時には、すでにUDCアースにおいてもテレビ、というものは基本的に薄型の板のような様相であったからだ。
レトロな、と感じる懐古主義にもなれない。
「とは言え、これを放っておこくことはできませんのでねー」
『疾き者』は己が握りしめた棒手裏剣を無数に設置されたブラウン管テレビへと投げ放ち、これを打ち砕く。
破片が飛び散る音が響いて、『学生』達が集まってくる。
「何をしてるんだ、君は!」
「こんなに備品を壊して! そんな暴力的なことをしてはならないと『先生』から教わってきただろう!」
次々に『学生』たちが『疾き者』を取り囲んで非難してくる。
なるほど、と『疾き者』は思う。
彼らはただ狂気に侵されただけの存在だ。UDC怪物でもなければ、力ある一般人でもない。ただの、本当に狂気に巻き込まれただけの一般人なのだろう。
「そうですね。まあ……」
理由を告げるつもりもなかった。
なんというか、間のとり方とでも言えばいいのだろうか。『疾き者』は手刀でもって次々と集まってきた『学生』たちを気絶させる。
「うっ……」
「な、なにを……」
「いえ、何。問答するのも時間が惜しいと感じまして。と、聞こえては居ませんよね」
そう言って『疾き者』は気絶させた『学生』たちを横たえ、棒手裏剣を投げ放つ。
己の行動を見ていたであろうブラウン管テレビの画面が再び砕け、飛び散る。
無数の手が溢れてくることはない。
恐らく他の猟兵たちもまたこれを壊しながら進んでいるのだろう。
となれば、次なる手は簡単だ。
「中枢に近づいてきた猟兵の排除、ということでしょうねー。まあ、ありきたりな手です。ですがー」
ありきたりであるからこそ、この異常な状況には似つかわしい。
相応しくない、とでも言うべきか。
『疾き者』は訝しむことをやめる。
時間が惜しい、と感じていたのは、この異界の状況を他の地域に漏らさぬためだ。時間が流れれば、必ず、この『流星学園』の惨状は、SNSなどを通じて他の地域へと伝播していくことだろう。
その後に訪れる悲劇など言うまでもない。
「それに、邪神共に良いようにされるというのも癪に障りますからねー」
『疾き者』はさらに校内へと踏み込んでいき、次々とブラウン管テレビを破壊し、中枢たる場所を目指すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
「正しい」ねぇ…
そんなもの、時代環境その他諸々でいくらでも変わるあやふやなモノだってのに。
とりあえず放っておく理由もないし、テレビは目につく端からブッ壊しちゃいましょうか。邪魔されても困るし、そこらへんの「生徒」は●圧殺で制圧しときましょ。一般人だし、○捕縛やら気絶攻撃やら組み合わせればそう難しくはないはずよねぇ。
…ド派手に暴れてるわけだし、あたしこの場では間違いなく「正しくない」側だとは思うんだけど。画面が「正しさを査定」して基準以上を引きずり込んでるんなら…ひょっとしてあたし、腕の対象にならなかったりするのかしらぁ?だったら楽なんだけど。
『正しさ』を愛する。
それは人間であれば、誰しもが持つ願いであったことだろう。
時に『正しさ』故に間違えることもあるだろう。
すれ違いも起こるだろう。
軋轢だって起こるだろう。
「『正しい』ねぇ……そんなもの、時代に環境にその他諸々でいくらでも変わるあやふやな
モノだってのに」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は異界『カクリヨ・インサニティ』である『流星学園』の校内に佇み呟く。
そう、この『流星学園』において最も重要視されるのは『正しさ』だ。
人の『善性』だ。
確かに言葉面は心地よいものだろう。耳障りだっていい。
けれど、ティオレンシアが言うように、それは変わるものだ。
相対する者全てに己が持つ『正しさ』がある。それ故に人は争い続ける。己が『正しい』と信じるからこそ、『悪性』に染まっていることを気がつけぬのだ。
「とりあえず、放っておく理由もないわよねぇ……」
彼女はルーンの文字を刻む。
目につくブラウン管テレビの尽くを破壊していく。目に付けばぶっ放す。
それはあまりにも粗暴な振る舞いだったことだろう。
「ど、どういうことだ! なんで備品を……!」
咎める『学生』達もいる。
けれど、圧殺(アレスト)たるユーベルコードは一瞬で、咎めようと詰め寄ってきた『学生』を沈黙させる。
それは肉体を傷つけるものではなく、その肉体を縛るユーベルコード。
彼らを傷つけることはティオレンシアも本意ではないのだ。
そうでなければ、時間の経過と共に強硬手段に出ようとするUDC組織に代わって猟兵として此処に来てはいない。
「ふぅん……やっぱりそう、なのかしらぁ?」
ティオレンシアは推測を立てる。
そう、あのブラウン管テレビは裁定者である。
一定の基準を満たした者を『卒業』させる腕を持って、否応なく『折りたたむ』という特性を持っているのならば。
「今のあたしって間違いなく『正しくない』側ってことよねぇ……?」
そう、推察は正しい。
『正しさ』を基準にして『卒業』させるかを決めているのならば。
今の己を襲う無数の腕は存在しない。
「だったら楽なんだけど、とは思ったけれど、そういうこと。悪辣であることを示すことなんて、状況次第でいくらでも変容するでしょ」
裁定者を気取ったブラウン管テレビの奥に潜むであろう存在において、己たちは間違いなく『正しくない』。
基準を他社に委ねている異常、己達の立ち振舞一つで、これが覆されるのだ。
「はん、『学生』に暴力を振るう。備品を壊す。なるほど、確かにあたしってはとんでもない不良学生に思えるでしょうねぇ」
むしろ、それは上等である。
ティオレンシアは甘やかな声色と共に笑みながら、目につくブラウン管テレビを壊しながら、破片飛び散る音とつめよる『学生』たちがうめき倒れていく音をBGMにして、さらに『流星学園』を異界たらしめている元凶の元へと足を運ぶのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
神野・志乃
放っておけば被害が広がるということもあるけれど
「……人を狂わせて騙し殺すなんて」
それ自体が黙って見過ごせない事態だから、迅速に……元凶を叩き潰しましょう
一人たりとも、見殺しになんてしたくないわ
「おいで、“くきつ”。皆で捜し物よ」
【失せ物探し】をLv100としたUC《くきつ》を召喚
『先生』を演じているなら、きっとスーツ姿なんでしょう
職員室とか準備室とか音楽室とか、教員が居そうな場所へ“くきつ”達を散開させ、人海戦術でそれらしい人物を探すわ
私自身は……調査の基本、聞き込みかしら
すれ違った生徒にさり気なく
「ねえ、先生が今どこに居るか分かる?」
と、軽い用事があるような、必要以上に取り繕わない言い方で質問して回りましょう
但し、もしも妄りに『先生』に近寄ろうとすること自体が禁忌……のような反応が返ってくるなら、“くきつ”達に任せるしかないわね
……それにしても、つくづく趣味の悪いやり口よね
何故こんなに回りくどいのかしら、『先生』とやらは
きっとこうしてる間にも……此方を見ているのでしょうね、テレビ越しに
人の善性を信じる。
それは尊きことであろう。けれど、善性が確かに人の中にあるというのならば、表裏たる悪性もまた存在することを知るべきであった。
学園生活の中で自ずと培われていくもの。
そういう場所なのだ。学び舎というものは。
少なくとも神野・志乃(落陽に泥む・f40390)は、『カクリヨ・インサニティ』たる異界、『流星学園』に囚われている人々を見殺しにすることはできなかった。
放置しておけば被害が広がっていく。
いや、それ以上に。
「……人を狂わせて騙し殺すなんて」
見過ごすことなどできようはずもない。
事を起こすのならば迅速に。
元凶たる存在を見つけ出さなければならない。誰一人として『学生』を、人々を見殺しになんてしたくはない。
その毅然とした態度、意志は彼女の心に宿った真芯の強固さを示すものであった。
「おいで、“くきつ”。皆で捜し物よ」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
くきつ(クキツ)と呼ばれた陽光を纏う小鳥たちが志乃の手にした魔境から一斉に飛び立つ。
突如として校内に現れた小鳥たちに『学生』たちは皆、驚き見上げ、また頭を抱えてしゃがみ込む。
ゆらり、と志乃の黒いセーラー服の裾が揺れる。
一歩を前に踏み出したのだ。
それだけで此処が異常なる領域であることを自覚させられる。
学園というガワを被っているだけの光景。視線を感じる。おぞましいと思う視線が、次々と志乃の体を射抜く。
「……見ているわね」
校内に無数に設置されたブラウン管テレビ。
あれは『学生』たちを査定する裁定者。如何なる基準からか、一定の水準に達した『学生』を『卒業」させる機構であるのだろう。
小鳥たちが校内を目まぐるしく飛び立っていく。
志乃は、ゆっくりと廊下を歩む。
小鳥たちが飛び立ったのに驚いた『学生』たちは、すぐに何事もなかったかのようにキラキラとした不自然ささえ感じさせる笑顔でもって学園生活を謳歌している。
その姿を認め、志乃は声をかける。
「ねえ、先生が今どこに居るかわかる?」
「『先生』? 『先生』なら職員室じゃないかな。そうでなければ、準備室だとか、そういう場所だと思うんだけど」
「そう。ならいいわ」
ああ、と志乃は首を傾げる。
「授業でわからないところがあったから、質問したいと思ったの。そういうことってよく、あるでしょ?」
何気ない会話。
取り繕うわけではない。ただ、軽い問答みたいなものだった。
『学生』ならば授業に対して疑問を持つことは真摯なる授業態度の一つとも言えるだろう。ならばこそ、『学生』たちの反応も同様のはず。
だが『学生』たちの反応は悪かった。いや、おかしかった。
「授業を受けているのにわからないところがあるなんておかしいことを言う。『先生』の授業は完璧だよ。何もわからないことがあるなんて思えない。わからないことがあるという原因は『先生』の授業ではなく、君自身にあるんじゃないのかい。いや、きっとそうだ。そうに違いない。君はまだ己の心の中の穢れを払うことができていないんだ」
息をつかせぬ言葉。
その言葉に志乃は息を呑む。
同時になるほど、と共思う。この学園に、『カクリヨ・インサニティ』において『先生』とは絶対者なのだ。
教えに疑いを持つことも、悩むことも、許容できぬということも許されていない。
其の教育が徹底されているのだ。
「……そう。そうね。きっとそうだわ」
志乃の言葉に『学生』は納得したようだった。
其の反応も奇妙だ。
同学年の、同じ学生に対しての反応ではなかった。もっと、無関心であるべきなのに、まるで『流星学園』の教義を体現した善行を積んだかのような、自信……いや、誇らしげな表情を浮かべているのだ。
「……つくづく趣味の悪いやり口よね」
志乃は『学生』から離れて、窓際によりかかり天を仰ぐ。
空はあんなにも青いのに。
この学園の中は淀んでいるように思えた。彼女の方に一羽の小鳥が留まる。
「……そう。やはり『先生』は職員室。でも、其処に至るまでに邪魔が入る、のね」
彼女は“くきつ”より得られた情報に頷く。
だが、わかっている。こうして自分たちが探っていることも、大元たる存在は、そこら中に設置されたブラウン管テレビを介して監視している。
ならば、と志乃はブラウン管テレビの画面の前に立ち、その漆黒の瞳を向けて言うのだ。
「……此方を見ているのでしょう」
ただ一言告げるだけでいい。
この異界は許されるものではない。己自身がそう感じたのだ。誰に教わったわけでもない。誰に命令されたのではない。
己が、間違っていると感じたからこそ、人々の犠牲を許さぬと立ち上がったのだ。
それ義憤と笑うものが、このブラウン管テレビの向こう側に居る。
だから、告げるのだ。
「今から征くわ――」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ジャガーノーツ』
|
POW : I'm JUGGERNAUT.
いま戦っている対象に有効な【能力を持つネームド個体のジャガーノート】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD : You are JUGGERNAUT.
自身が操縦する【子供に寄生する同族化装置(破壊で解除可)】の【寄生候補の探索力・捕獲力・洗脳力・操作力】と【ジャガーノート化完了迄のダウンロード速度】を増強する。
WIZ : We are JUGGERNAUTS.
【増援】を呼ぶ。【電子の亜空間】から【強力なネームド個体のジャガーノート】を放ち、【更に非ネームド個体の軍隊からの援護射撃】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:tel
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちは、この異界『カクリヨ・インサニティ』たる『流星学園』の元凶たる存在――『先生』と呼ばれる者が学園の職員室に座す事を知る。
時間の猶予は多くはない。
一刻も早く、この異界現象を止めなければならないのだ。
校内を走る。
ブラウン管テレビが不気味な輝きを放っている。
だが、職員室へと向かい、『先生』を倒せば、この現象は止まるのだ。ならば、ためらっている時間はない。
「――僕は、俺は『きっと何者にもなれない』残滓」
声が響く。
ブラウン管テレビからか?
いや、猟兵たちは知るだろう。職員室へと向かう廊下。その通路を埋め尽くすようにして無数のUDC怪物たちが溢れ出している。
『ジャガーノーツ』。
そう呼ばれる電脳UDCたちが無数の手を全身から生やしながら、一歩を踏み出す。
「願われた『平和』を実現できなかった数多の『願い』。それが俺、僕、俺、僕、たち……失敗した全て。成功した『誰』かを妬むわけじゃあないけれど」
無数の『ジャガーノーツ』たちは蠢きながら、言葉を発する。
彼らは『何者かになれなかった者』たち。
『しなければならないことを成せなかった者たち』
全ての生命に価値があって、何かを為すために生まれてきたというのならば、何も成せなかった、何者にもなれなかった者たちは無為であろうか。
無為と切り捨てられた者たちの残滓が『何者』かであろう者たちに牙を向く。
揺らめく残影めいた怪物たちは、名を持つ猟兵達を羨望と嫉妬でもって、無為に引きずり込まんと迫るのだった――。
イリスフィーナ・シェフィールド
親の敷いてくださったレールが我慢できなくて
打ち砕いたわたくしは自由です
しなければならない事はないし何をしても構いません
責任がついて回るので何をしてもいいわけではありませんが
……わたくしはただ深く愛されたい
こんな身勝手生物に価値はなく成すことなどありません
命に使命があるなら死ぬまで生きる事ぐらいでは
つまり卒業で命を奪う先生とやらは間違っているという事です
それを邪魔するあなた達も同じ
早く失くなったか長生きしたかぐらいでしょう、押しとおります
遠距離攻撃が不得手と弾丸やら爆発物やらをばらまいてきます、
届かないなら近づくまでとコードで飛翔、多少の被弾は覚悟の上
距離を積めたら叩き潰します、さて次はどなた?
正しさというものを自問する。
答えはない。
ただ、一つだけ言えることがある。眼の前に敷かれたレールが瞳に映る。
イリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)はスーパーヒーローである。
ならば、この眼の前に敷かれたレールを走れば、己はきっと己が思うスーパーヒーローになれただろうか、と問うのだ。
答えは否である。
眼の前にあるのは確かに己に課せられた試練なのかもしれない。
しなければならないこと。
それが今の己には枷に思えてならない。
だが、己は望んで、そのレールを砕いたのだ。
我慢してきたのだ。
多くを。そうであるべきという信念も理念も、彼女は必要としていなかった。己が欲したのは恐らく利己的なものであったのだろう。
愛されたいということ。
「わたくしは自由です」
「とても不自由に見える。縛られていないようで、縛られているように思える」
『ジャガーノーツ』たちの声が聞こえる。
イリスフィーナは瞳を前に向け、その輝きを灯す。
ユーベルコードの輝き。
ゴルディオン・オーラの黄金纏う彼女は言う。
レールを砕いた己は何処へでも行けるだろう。自由だろう。けれど、自由には責任という重石が伸し掛かる。当然だ。
律するものがない自由など自由ではない。
囲いなき自由はただの奔放であることの言い換えに過ぎない。
「……わたくしはただ深く愛されたい」
「願えば願うほどに、それはむしろ渇望に変わる」
振り下ろされる『ジャガーノーツ』の拳の一撃をイリスフィーナは黄金纏う拳で打ち合い、受け止める。
「そうでしょうとも。こんな身勝手な生物に価値はなく成すこともなどありません。生命に使命があるなら、死ぬまで生きることぐらいですわ、できることはっ!」
振り抜いた拳が『ジャガーノーツ』の拳を砕く。
破片が散るようにして電脳UDCである影がノイズ混じりに消えていく。
「つまり、『卒業』と語る『死』でもって生命うばう『先生』とやらは間違っているということです。それを邪魔する貴方達も同じ。早く失ったか、長生きしたかくらいの違いでしょう。ならば、圧し通ります!」
踏み込む。
足を踏み出す。
最初の一歩は酷く苦しい。
けれど、イリスフィーナは既に知っているのだ。最初の一歩を踏み出すことができたのなら、人間は更にもう一歩踏み出すことができる。
進むたびに体が軽くなっていく。
黄金のオーラ纏う拳と共にイリスフィーナは『ジャガーノーツ』の胴へと裂帛の気合と共に拳を放ち、その巨躯を穿つ。
「俺は、僕は、俺は、僕は……」
「問答はご無用ですわ! 押し通ると決めたのですから! ならば、ここでまとめて叩き潰して差し上げます!」
イリスフィーナは目の前の存在をレールと仮定する。
こうでなければならないという言葉がある。
しなければならないという囲う言葉がある。
けれど、その何れも己には不要である。身勝手であろうがなんであろうが、降りかかる重責を背負って進めずして何がヒーローか。
故にイリスフィーナは黄金のオーラ纏い、迫りくる『ジャガーノーツ』を打倒し続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
冴神・駿介
聞こえる声に不機嫌そうな様子を隠しもせず舌打ちする。
何かを成す為に何をどれだけ積み上げたか、それは当人にしかわからねぇし、テメェらがそれをしなかったからそうなったなんて当人じゃない俺がとやかく言うつもりはない。
ただ、だ。未来を決めるのも、そいつに責任を負えるのも自分だけだ。
悔しさ、憤り、そいつは全部テメェのもんで、成せなかったと決めたのもテメェだ。そいつを振り翳して、同類を作るのは違げぇだろうが。
……綺麗事でテメェを守ろうとしねぇで曝け出せよ。
タイマンチェーンで怒りを増幅させ、殴り合いに持ち込む。闘気での強化は攻撃力だ。
如何に有効な手段を用意するとは言え、冷静でなければ有用には扱えないだろう。
電脳UDC怪物『ジャガーノーツ』たちは言う。
己たちは『何者にもなれなかった』者であると。
己の非力、己の無力、己の無才たるを嘆くような、怒るような声に冴神・駿介(ゴーストハンター・f35755)は舌打ちした。
不機嫌だ。
そう、今己は不機嫌なのだ。
「何かを成す為に何をどれだけ積み上げたか、それは当人にしかわからねぇし、テメェらがそれをしなかったから、そうなったなんて当人じゃなけりゃあ、わかりようもねえ」
だから、と駿介は己の片腕から一瞬で『ジャガーノーツ』と繋がるチェーンを出現させる。
それはタイマンチェーン。
片腕から飛び出した鎖は、『ジャガーノーツ』の一体とつながり、互いを引き寄せ合う。
『ジャガーノーツ』の巨体から生み出される膂力は凄まじいものだた。
駿介は己の骨身が軋む音を聞いただろう。
「僕は、俺は、僕は、俺は、きっと『平和』を願われた。なのに、それを為し得なかった。失敗したし、敗北した。その多くは他の勝利する誰かに束ねられていく。僕が、俺が、僕が、俺が、敗北したことは、失敗したことは無意味ではないのかもしれないが」
だが、事実である。
『ジャガーノーツ』たちにとって『何者にもなれなかった』という因果は、狂おしいほどの怨恨となって残っているのだ。
「そうかよ。俺がとやかく言う権利なんてねぇんだろうな。ただ、だ」
ギシリ、と駿介の骨身ではない鎖が軋む音が響く。
それは『ジャガーノーツ』の巨体を引き寄せる鎖が擦れた音だった。
駿介の瞳がユーベルコードに輝く。
「ただ、だ――未来を決めるのも、そいつに責任を負えるのも自分だけだ」
引き寄せる。
凄まじい闘気が駿介の体からほとばしっている。
負けるわけがない。負けられるわけがない。眼の前の存在を勝者にしてはならない。わかっていることだ。
UDCだから、怪物だから、オブリビオンだからではない。
今の己のうちに湧き上がる感情がいうのだ。
『何者にもなれなかった』と嘆くものを勝者でも、敗者にでもしてはならない。それは他者が決めることだからだ。
「悔しさ、憤り、そいつは全部テメェのもんで、成せなかったと決めたのもテメェだ。だがよ、そいつを振り翳して、同類を作るのは違ぇだろうが!」
駿介を襲う無数の手。
それを彼は振り払う。問題にすらなかった。眼の前の『ジャガーノーツ』はたしかに己に怒りを覚えているようだった。
何者かである駿介に対して、『何者でもない』何かが怒り狂う。
それによって駿介は闘気を燃やすようにして己の拳を握りしめる。
「僕は、俺は、僕は、俺は――!!!」
鉄槌のように振り下ろされる一撃を駿介はタイマンチェーンを引き付け、受け止める。
巨体からの一撃。
凄まじい衝撃が体を襲う。
強烈な一撃だった。意識が奪われそうでも在った。
だが、駿介は歯を鳴らしながら食いしばり、踏み込む。どれだけ強烈な一撃であろうと、己が敗北するいわれはない。
何故なら。
「……どれだけ言い繕おうが!」
踏み込む。
前に進む。そうすることでこれまでも進んできたのだ。
それを矜持と呼ぶことは駿介にはないだろう。
ただただ、この拳は敵を打ちのめすためにある。
「……綺麗事でテメェを護ろうとしねぇで曝け出せよ!」
裂帛の気合と共に撃ち抜いた拳が『ジャガーノーツ』の頭部を吹き飛ばす。
崩れるようにして膝をついた巨体が霧散していく。
互いを繋いでいた鎖が地面に落ちて、乾いた音を立てる。
駿介は、其の音を聞き、やはり不機嫌そうに舌打ちを響かせるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
九頭龍・達也
うーん、どんな反応を期待しているのか分からないけど、初対面の俺にそんなこと言われても困るなあ。
(そういうところじゃない、何者にもなれなかった理由とか思いつつもありていに言うと興味がない)
『|闘気《ムテキオーラ》』を纏ってスターマリオ状態になって前進あるのみ。
『勇者の剣』を振るって『ジャガーノーツ』も伸びてくる腕もどんどん斬り裂いていきましょう。
敵POWUCは有効な能力を持った敵ということなので観察、どんな能力が自分に効くのか、これからの鍛え方の参考にしたうえで『九頭龍の紋章』を顕在化させて限界突破。出力を上げて召喚されたソレごと本体も斬り裂きましょう。
アンチテーゼというものがある。
それは対照たる概念のぶつけ合い。故に九頭龍・達也(大宇宙帰りの勇者・f39481)は興味があったのだ。
眼の前の電脳UDC『ジャガーノーツ』。
彼らは己に対するアンチテーゼとなり得るのかと。
「うーん、どんな反応を期待しているのかわからないけれど、初対面の俺にそんなこと言われても困るなあ」
そういことではないのだが、彼にとってはそういうことだ。
対する敵がどのような過去を持っていようとも、今の己には関係がない。いや、有り体にいえば興味がない。
彼にとって興味があるのは、己に如何にして対抗してくるのかという一点であった。
ユーベルコードは己の体を闘気で覆う。
無敵化した肉体に伸びる無数の手は彼を高速できない。
無敵である、ということは敵対する者などいないということである。故に彼はどのような対抗手段を用いて己を攻撃するのかと『ジャガーノーツ』の様子を探る。
ノイズが走るようにして『ジャガーノーツ』の一体が踏み出す。
巨体であることはすぐに分かる。
けれど、巨体であるからということと体格差が物を言う段階にすでにない。
これは生命の埒外である猟兵とオブリビオンとの戦いなのだ。
体躯の大きさは戦いの優劣に直結しないことは、過去の戦いを見てもわかることだろう。
故に、如何にして対抗手段を持ち出すのかということを達也にこそ興味を持つのだ。
「何者かである者に何者でもないものの感情を理解して欲しいなどとは思わない。僕が、俺が、僕、俺が、必要なのは」
変容していく。
ノイズ走る体。
そして、達也は理解しただろう。『ジャガーノーツ』の体が変容する。
無敵へと至らしめる闘気(ムテキオーラ)に相対するのはなにか。
それは己の本質、体に脈々と流れる因子。
つまりこれは概念の戦いである。竜神の因子に目覚めた超人的な肉体を持つのが己であるのならば、今の『ジャガーノーツ』は竜殺しという概念を付与された存在へと変容している。
「なるほど。概念を攻撃する、ということか。因果を逆転させるユーベルコード。結果が既に決まっているのならば、それに該当する時点で俺の敗北は決定している、と」
達也は笑う。
己の肉体に浮かぶ九頭竜の紋章が唸りを上げる。
「なら、やってみてもらおうか」
「何者にもなれないがゆえに何者にもなれる。それが俺であり、僕であり、俺であり、僕である。だから」
激突する力。
単一の概念を有するのならば、達也が恐らく不利であろう。だが、達也は龍の因子を持ちながら勇者である。
最も効果的に達也を倒すというのならば。
「竜神へのアンチテーゼだけでは足りないってことだよ」
眼の前にあるのは勇者の剣持つ存在。
例え、因子と因果を手繰るのだとしても、それを切り裂くのが無敵たる存在。
振るう斬撃が『ジャガーノーツ』の躯体を切り裂く。
そして、闘気とは概念すら打撃せしめる力。
「言う慣れば『竜殺し』殺しってところかな!」
振るう一撃が『ジャガーノーツ』を吹き飛ばし、達也は己に対抗しうる何者かを即座に切り捨てるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
神野・志乃
私の友人がそんなこと言ってたら、相談に乗ってあげるところだけれど
思春期のモラトリアムみたいな誰しも一度は抱える程度の悩みで人を襲うほど嫉妬するなんて、自分がどれだけ優秀な人間の設定で生きてたのよ
耳障りの良い熱血な言葉で反論してあげたところで、事態が好転する訳でもなし
「……さっさと終わらせましょう」
魔鏡を構え、淡々と
その鬱屈した想い、【浄化】してやるわ
「如何な数でも、押し通りましょう……“おうり”」
UC《おうり》を発動
相手がどれだけの増援を呼ぼうが…実に千三百余の剣の包囲陣。突破できるかしら
「別に好きなだけ喋っててもいいけれど。お喋りしながら躱せる?」
陽光の剣を発光させ、非ネームドへ【目潰し】を放ち援護射撃を妨害
“おうり”の直接刺突に加え【武器から光線】を放ち、相手がどのように布陣して来ようが間隙無く攻撃する
何者かになりたいという気持ちが理解できないとは言わないわ
ただ、此方を勝手に優秀人間扱いして卑屈な未練のマトにしてくるのはちっとも意味が分からないのよね…私のことなんて何も知らないくせに
名を持つということは願い。
故にUDC怪物『ジャガーノーツ』は名前を持たない。総称ではない、個別の名を持たない。それ故に彼らは求めるのではなく、他者への羨望でもって行動する。
生命の埒外、猟兵。
世界に選ばれた戦士。
『ジャガーノーツ』にとって猟兵は滅ぼすべき存在であると同時に羨望の的でもあったのだ。
「僕は、俺は、僕が、俺が求めたものは、全て彼方にある。手を伸ばしても届かない。届いたと思った瞬間にそれは遠ざかっていく」
だから、と彼らは虚空より新たなる『ジャガーノーツ』を呼び寄せる。
名もなき生命の成れの果てを。
ノイズ走る巨躯と共に踏み出す彼らは職員室へと向かおうとする猟兵たちをこれ以上進ませぬと言わんばかりに迫ってきている。
「だから、俺は、僕は、僕たちは、俺たちは『何物にもなれない』……」
彼らのそれは慟哭めいていたが、しかし、相対する神野・志乃(落陽に泥む・f40390)は頭を振った。
「私の友人がそんなこと言ってたら、相談に乗って上げるところだけど」
己お狙う無数の指。
その指から煌めくユーベルコードの弾丸が自分を狙っているにも関わらず魔境構えた志乃の瞳に宿る感情は憐憫でもなければ怒りでもなかった。
「思春期のモラトリアムみたいな誰しも一度は抱える程度の悩みで人を襲うほど嫉妬するなんて、自分がどれだけ優秀な人間の設定で生きてたのよ」
誰もが己の価値を正しく理解できない。
己の価値は己が決めるのだとしても、そこには他者との比較が否応なしに存在知る。
そう、人は一人では存在できない。
他者という鏡があるからこそ、己の姿の輪郭を理解できるように、他者との比較なくして人は己を定められな生き物である。
だからこそ、志乃はいくら自分が耳障りの良い言葉をもって相対したとしても『ジャガーノーツ』たちが納得することもなければ、事態が好転することもないと断ずる。
再考すべきところなどない。
彼女の手にした魔境が証左である。
「わからないさ。僕の、俺の、僕たちの、俺たちの、この懊悩は」
「……さっさと終わらせましょう」
淡々と彼女は魔境にユーベルコードの輝きを宿す。
眼の前に迫るは鬱屈とした想いを抱えた存在の放つ弾丸。ならば、それを浄化するのが己である。
敵は数で己を圧殺しようとしている。
「如何な数でも、押し通りましょう……“おうり”」
煌めくは白き光。
幾何学模様を描くようにして走る閃光。
それは浄化の力を増幅させる陽光の剣。
眩いまでの光は、志乃にとって月よりも星よりも焦がれるものである。白く塗り潰すかのような光の強烈さは言うまでもない。
いや、それ以上に特筆すべきは、損数であった。
千を超える陽光の剣が居並ぶ包囲網。
『ジャガーノーツ』たちをぐるりと取り囲む剣の群れは一気に彼らへと襲いかかり、放たれるユーベルコードの弾丸を弾きながら、その巨体たる躯体を切り刻んでいく。
「名を持つ者の傲慢など」
「別に好きなだけ喋ってもいいけれど、おしゃべりしながら躱せる?」
造作もない、と新たに喚び出された有象無象たる『ジャガーノーツ』ではない、雰囲気の異なる『ジャガーノーツ』が踏み込んでくる。
躱している。
陽光の剣の包囲網をかい潜るように、一直線に志乃へと迫ってくる。
「……あなた」
魔境から放たれる光線の一撃が、明らかに様子のおかしい『ジャガーノーツ』を捉える。弾かれている。
どう考えても他の『ジャガーノーツ』と一線を画す存在であることが伺い知れるだろう。
「あなた、『名前』があるわね」
「そうだ。僕には、ある」
其の言葉に志乃は、ならばなぜ、と問いかける。
名を持つ、というのならば、なぜそれを捨てたのだと。眼の前の存在は、確かに一廉の存在であったのだろうと理解できる。
なのに。
「なぜ、捨てたの。何者かになりたいという気持ちが理解できないとは言わないわ。なのになぜ」
此方を優秀な人間扱いし、卑屈な未練に沈んでいるのだと志乃は言う。
「君たちが猟兵だからだ。世界を救うからだ。君たちにはなんでもないことなのかもしれないけれど、僕にとって、それは為すべきことだったんだ。だから」
「ちっとも意味がわからないわ……私のことなんて何も知らないくせに」
志乃が如何にして帰るべき家との決別を経て、一人で歩いているのかを知らないのだろう。
どのようにして彼女は今に至るのかを理解していないのだろう。
猟兵という役割の表面をなぞっただけの言葉に彼女の魔境は輝き、陽光の剣はそれを受けてただならぬ雰囲気を放つ『ジャガーノーツ』の体を貫き、押し切る。
「今日は、良い天気だから」
だから、と志乃は陽光照らす戦場に青空を見る――。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
「わあ、見てください、こんなにたくさんのクラスメイトの皆さんが!」
『いや、布都乃よ。さすがにあれはUDCじゃぞ?』
聞けば、どうやら「しなければならないことを成せなかった」と嘆いている様子。
ならば、私の未来視の瞳で願いを叶えてあげましょう!
未来を見通す金色の瞳。
その力を解放し、クラスメイトの皆さんに、|IF《もしも》の未来を体験していただきましょう。
『待つのじゃ、布都乃!
その能力――半人前のお主に制御できるものではない!
せいぜい相手に絶望の未来を視せることくらいしかできんぞ!』
「えっ、あっ、未来視の力が暴走してっ……」
強力な力を持つ未来視。
制御できなかった時には、それは絶望の未来を振りまきます。
迫るUDC怪物『ジャガーノーツ』の群れ。
戦場となった『流星学園』の校内に溢れる彼らは、この異界たる『カクリヨ・インサニティ』の中心たる存在がある職員室へと向かう猟兵たちを数でもって圧倒する。
指先から放たれる無数のユーベルコードの弾丸。
そして、喚び出された名を持つであろう『何者にもなれなかった者』。
陽光の剣に貫かれながらも、ただならぬ雰囲気を放つ『ジャガーノーツ』の個体が猟兵たちに迫るのだ。
「わあ、見てください。こんなにたくさんのクラスメイトの皆さんが!」
だが、天羽々斬・布都乃(神剣使いの陰陽師・f40613)は少々ズレた感想を抱いていた。
この状況を前にして、ここが学園であるという状況に彼女はどうしてか浸っていた。UDC怪物が迫ってくるのだとしても、彼らを生徒と同一している節があることを式神の子狐は理解したのだ。
『いや布都乃よ。さすがにあれはUDC怪物であると知れるであろう?』
猟兵はオブリビオンを認識できる。
どれだけ巧妙に隠すのだとしても、相対した瞬間にそれが滅ぼすべき存在であると知るkとができるのだ。
「でも、どうしてそんなに嘆いているのです?」
「何も成せなかったからだ。僕は何も成せなかった。しなければならなかったのに、それが為し得なかった。『平和』を願われながら、それを手にすることができなかった。だから」
だから、彼らは自分たちに羨望の眼差しを向けて襲いかかってくるのだろうか。
布都乃にとって、それは理解できないことだったのかもしれない。
けれど、彼らの嘆いていることだけはわかる。
「なら、私の未来視の瞳で願いを叶えてあげましょう!」
煌めくはユーベルコード。
右目が金色に輝く。
ユーベルコードにあるのは、望まぬ絶望の並行世界(アナザー・ストーリー)。
小さな可能性がある。
絶望の未来がある。
『待つのじゃ、布都乃! その能力――半人前のお主に制御できるものではない!』
式神の子狐が叫ぶ。
彼女のユーベルコードは絶望の未来を解き放つ。
それに触れたものはIFたる世界に吸い込まれる。その世界においてバッドエンドは確定された未来でしかない。
だから、止めたのだ。
「えっ、あっ……」
布都乃は見ただろう。
星の海。
明滅する火球。
火線が暗闇に引かれるたびに、生命が喪われていく世界を。
何処まで行っても争いしかない。戦い続けなければならない。それは『平和』とは最も遠い世界であったことだろう。
これが絶望の源。
争い続ける宿命にして宿縁。そして、そうあるべきと造られた者にしかない絶望。広がる世界の流入に布都乃のユーベルコードは絶望の未来を振りまく。
それらは、永劫たる苦悩の始まり。
「こんな……こんなに多く『平和』を願う人たちが居るというのに、それでも世界は平和にならないのですか?」
彼女は問う。
『ジャガーノーツ』たちは頷くだろう。
自らが辿ってきたバッドエンド。
触れることなく彼らが得てきた絶望の未来は、彼らの存在を切り裂いていく。
誰も手を差し伸べることのできないバッドエンドだけが、戦場に満ちていくのを布都乃は、その金色の瞳で見つめることしかできなかった――。
大成功
🔵🔵🔵
フォーネリアス・スカーレット
「何物でもないオブリビオンか」
相手によって戦い方を変え、適切な能力を選択する。それなりには厄介だな。
「ならば、毎回違う方法で殺し続けるだけだ」
床ギリギリの低姿勢からの抜刀。短剣の投擲。バックフリップで回避しながらヒールバンカー。短機関銃と短ショットガンを抜き左右にばら撒く。そのまま銃身を投擲。跳躍し空中から槍を投げる。着地と同時にチェーンブレードを抜き薙ぎ払う。
相手が武器を使うなら奪って使う。こちらの手を見られていなければ同じ手も使えるな。状況の対応を許さず常に違う手で殺し続ける。
無尽の鞘は便利な物だ。武器がいくらでも出せる。
「何者でもないオブリビオンか」
フォーネリアス・スカーレット(オブリビオンスレイヤー・f03411)は己達、猟兵が『カクリヨ・インサニティ』の中心たる存在の座す職員室へと向かうのを阻むようにして溢れるUDC怪物『ジャガーノーツ』たちを見やる。
そこに何の感情も浮かぶことはなかった。
嘆く声も。
おのれたちに対する羨望も。
何もかもフォーネリアスにとっては、オブリビオンである以上、意味のないものであった。
確かに厄介だとも思った。
敵対するおのれたちに対する有効な存在を呼び寄せる力。
猟兵に対するアンチテーゼ。
適切な能力を選択する知性があることがフォーネリアスにとっては厄介極まりないものだった。即ち、それは戦術というものであっただろうから。
「僕は、俺は、僕は、俺は、そうして願われた『平和』を実現しなければならなかった」
『ジャガーノーツ』は言う。
おのれたちはそういうものなのだと。
そうしなければならないという使命めいたものがあったのだと。だが、それを為し得なかった者達の残滓こそが『ジャガーノーツ』なのである。
フォーネリアスに迫る『ジャガーノーツ』の一撃が甲冑を撃つ。
目にも止まらぬ拳戟めいた一撃。
その一撃を受けて体が吹き飛ぶが、しかし、彼女の体は大げさに吹き飛んだことが伺い知れる。弧を描くようにして彼女の体が舞い、衝撃を殺す。
「なるほど。確かに私には有効だ。だが、私に有効だからといって、私がお前たちを殺せぬという道理はない。それにさえ対応するというのなら」
揺らめく赤い眼光が甲冑の隙間から垣間見える。
残光のように戦場に棚引く赤いユーベルコードの輝き。
廊下の床を舐めるようにしてフォーネリアスが低い姿勢から『ジャガーノーツ』に飛び込む。抜刀された剣と共に一瞬で投擲される短剣。
その一射が『ジャガーノーツ』の体へ食い込むのと同時に蹴り込んだ足甲の踵より放たれる杭の一撃が胴を穿つ。
さらに踏み込んで彼女は短機関銃とショットガンを抜き払う。
両腕に構えた火器は容赦なく弾丸をばらまく。
「私の武器が尽きるか、お前が死ぬか――どちらが先か試してやろう」
その動きは千変万殺(センペンマンサツ)。
己の手にした武器を使い潰すことを厭う暇すらない。
弾丸を撃ち尽くした火器など何の役にも立たない。できることと言えば殴打のみであろう。
「僕を、俺を、僕を、俺を、滅ぼすことなど」
「できるさ。私はそうしてきた。どんな存在であろうとオブリビオンである以上、私が殺す。それだけだ」
抜き原なったチェーンブレードが抜き払われ、唸る一撃が『ジャガーノーツ』の躯体を切り裂く。
武器を叩きつける。
砕けて壊れる。
斬撃など、数回打ち付ければ刃こぼれを起こして切れ味などなくなる。なら突き立てるまでである。
如何なる武器も手段でしかない。
愛着があるわけなどない。
必要なら、敵の武器さえ奪ってみせる。
「お前が千を殺すというのなら、私は万のお前たちを殺し続けてやる。いや、殺すべき存在ですら無い。お前たちはただの鞘だ」
フォーネリアスの尋常ならざる膂力が『ジャガーノーツ』の躯体を引きちぎり、その躯体そのものを武器と為して他の『ジャガーノーツ』を殴打する。
その戦神、鬼神たる戦いぶりは、この場から『ジャガーノーツ』が一体残らず消えるまで続くことだろう。
フォーネリアスはそれを特別とは思わない。
何故なら、それが己の『成さねばならぬこと』であるからだ。終わりがあるのならば、オブリビオンの存在がなくなるその時だ――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
はてねえ、『何者かになるために屍積み上げた私』に言われてもー。
(そうするしかなかった忍者)
あなた方が『何を積み重ねようとしたか』がわかりませんから、とやかくは言いませんけど。
それでもね、私は止めますよ。広げてはいけませんからー。
だから…UC付きで漆黒風を投擲していきますかー。
ああ、本当に…屍を積み重ねるのはここでも変わりませんねー。
そう、私がやることは、どこにいても変わらないことなのです。
子供を守るためにも、ね。
何者にもなれない。
それがUDC怪物『ジャガーノーツ』の抱える命題であったのかもしれない。
オブリビオンである以上、歪むことはあっても変わることはない。歪むことは変性とは異なることだ。
過去という体積。その圧力に存在は歪み、負ける。
故に目の前に存在する『ジャガーノーツ』たちが、生命の埒外たる猟兵に対して羨望を向けるのはある種当然であったのかも知れない。
けれど、それを受けて馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は首を傾げる。
「はてねえ、『何者かになるために屍積み上げてきた私』にそう言われてもー。そうするしかなかったとういう状況。自らを囲う環境に抗うことができなかっただけ、とも言い換えることができますがー」
それにさえも羨望の的なのだろうか、とそれ以外を与えられなかった己に向ける『ジャガーノーツ』たちの視線ならぬ視線を受け止める。
「僕は、俺は、僕は、俺は……ただ願われただけだ。そうであれ、と。けれど、それを為し得なかった。『何者にもなれない』残滓。だからこそ」
増殖していく。
破壊されたブラウン管テレビの中に納められていたであろう『卒業』した『学生』たちの躯を得て、新たな『ジャガーノーツ』たちが溢れかえっていく。
無数の手が這い出し、さらに『疾き者』へと襲いかかる。
正しく敵の津波めいた光景であったことだろう。
「あなた方が『何を積み重ねようとしたか』がわかりませんね。まあ、わかったとて、とやかく言うつもりはありません」
『疾き者』は津波のごとき攻勢を前にしても、たじろぐことはなかった。
何故なら、此処に立つ己こそが自己であると認めているからだ。
この異界広がる領域。『カクリヨ・インサニティ』が広がってはならない。この狂気を他者に与えてはならない。
正しいことを為す。
正義を得る。
そうしたことはたしかに必要なことなのかもしれない。
人の善性を信じるのならば、きっとそれが幸いなのだろうとさえ理解できる。
だが、この『流星学園』の光景を見る限り、それはない。
「僕が、俺が、僕が、俺が、為し得なかったことを、再び為し得るためには」
「いいえ、それはできません。あなた方がどれだけ悲哀に満ちた憐憫向けられるに値する存在であったとしても、私は止めますよ」
これは、広げてはいけないものだと理解する。
誰もが正しさを愛する。
そうであるべきだと思う。だが、正しさは千差万別。誰しもに正しさがあって、いずれもが異なるものであったのならば。
共通の正しさを持つことは、ただ危ういだけだ。
正しさという武器を得た者は、そうでないと断じる誰かの正しさを打ち据える。
故に、と煌めくユーベルコードでもって、放たれる棒手裏剣の一撃が『ジャガーノーツ』の頭部を捉え、吹き飛ばす。
「ああ、本当に……屍を積み重ねるのはここでも変わりませんねー」
次々と襲い来る『ジャガーノーツ』たちを相手取りながら『疾き者』は四更・風(シコウ・フウ)たる一撃を叩き込み続ける。
そうすることでしか証明できないものがある。
それは己やるべきことが、どこにいても変わらぬことである。
悪霊たる己達に成長はない。
これ以上の先がない。
だからこそ、未来の可能性たる子供らを守らねばならない。死という終着に至るまで『疾き者』たちにとって、生命とは子供そのものだ。
故に。
「子供を守るためにも、ね」
己は例え、この手が新たな屍を積み重ねることになろうとも、決して立ち止まらぬのだと手にした棒手裏剣を疾く放つのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
…私もお茶以外は成せぬ事が多い身、あなた達を憐れと思うのも失礼でしょう
あなた方の存在を否定はできません
ですが、まだ見ぬ様々な|可能性《未来》を持つ方々を救う道を塞ぐというのならば、こちらも引く道理はありませんよ
先に淹れたお茶からゴーストの友人を召喚(UC)。友人には彼らのお相手をお願いします
そして先のお茶でも召喚できるとはいえ淹れたても飲んでいただきたいところ。新しいお茶の準備もしつつ、余裕を見ながら戦闘のお手伝いを
ナイフとフォークを投擲して同族化機械の破壊を狙っていきます
溢れる怪物たちの言葉は嘆きに満ちているように思えた。
これを欺瞞と呼ぶ者もいるだろう。
偽善と謗る者だっているだろう。
わかっていることだ。己が信じる正しさは常に危ういものだ。昨日正しかったものが、今日は正しくなくなっていることもある。
不安定なのだ。
そして、ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)は自分にできることと、できないことを理解している。
「……私もお茶意外は成せぬ事が多い身。あなた達を憐れと思うのも失礼でしょう」
UDC怪物『ジャガーノーツ』たちは嘆いている。
名を持たぬ者。
何者にもなれない者。
彼らは破壊されたブラウン管テレビの中から嘗ての『卒業』した『学生』たちの亡骸を持って新たなUDC怪物を生み出していく。
無数の手がはびこるようにしてディルへと迫っている。
「僕は、俺は、僕は、俺は……いつだって『平和』を願っている。それ手を伸ばそうとする。だが、いずれも失敗する。失敗ばかりが積み重なっていく。失敗は重い。責任という名の重石がいつしか願いすら歪ませる体積と成り果てる」
それが己達だというように『ジャガーノーツ』たちがディルへと殺到する。
頭を振るほかなかった。
彼らの在り方は多くの願い敗れる残滓でしかないのだ。
「あなた方の存在を否定はできません。ですが」
ディルの瞳がユーベルコードに輝く。
手にしたティーポットから琥珀の色をした液体が注がれるは、ティーカップではない。飛沫がきらめいて、地面へと落ちていく。
誰にも味わわれることのない液体は、きっと『ジャガーノーツ』たちを暗示するものであったことだろう。
床にぶつかって飛び散っていく琥珀が球体を描き、その内側から現れるのは、無数のゴーストたちであった。
「まだ見ぬ様々な|可能性《未来》を持つ方々を救う道を塞ぐと言うならば、こちらも退く道理はありませんよ。皆様、そうでしょう?」
飛沫が逆再生のように戻っていく。
それは遡行するかのような光景であったことだろう。地面に注がれたはずの紅茶が、それだけが巻き戻されるようにしてディルの手にしたポットに戻っていくのだ。
地面に触れた、という事実さえ覆い隠すようにディルの瞳がユーベルコードに輝いている。
現れたゴーストたちが頷く。
迫る『ジャガーノーツ』たちを前にゴーストたちが一気に飛び立つ。
「茶葉が開くまで、しばし、あちらの方々とご歓談を」
恭しくディルが一礼し、逆巻くティーポットの中でゆっくりと茶葉が開いていく。
その最中、召喚されたゴーストたちが、ゴースト・ティーパーティさながらに戦場となった校舎の中を駆け巡り、『ジャガーノーツ』たちと組み合いながら激突していく。
「憐れみを、憐れみのままに受け止めることができるのは、幸いです」
ディルは思う。
『ジャガーノーツ』たちは、きっとそういう存在なのだろう。
羨望という感情に覆われてはいるが、元は誰かの憂いに、誰かの悲しみに沿うことのできる存在であったのだろうと。
だから、と嘆くのだ。
願われた『平和』を為し得なかった者たち。何者にもなれなかった者たちへと送るようにディルはティーカップに湯気立つお茶を注ぎ、手にしたカトラリーを片手に踏み込み、『ジャガーノーツ』の躯体の中心にあるであろう機械を破壊し、『生徒』の亡骸が、これ以上、何者でもないものに変容するのを防ぐのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
ステラさん、ダメです。ダメですって!
みなさんの目が『やべー』ってなってるじゃないですか!
やべーのはやべーであってるんですけども!
それと、どれだけシリアスなんですか、ここ。
ほら、もうこんなに蕁麻疹が!
いえ、聞いてくださいよ!
っていうか、エイルさんセンサーって鼻だけじゃなかったんですか?
なんかこう、今回はエイルさんとはあまり関係ない感じが……。
えっと……そ、そうなんですか? ソウナンデスネ。
(ステラさんの説明を聞けば聞くほどハテナマーク乱舞)
わたし的にはこんなエイルさん嫌ですねー。……当てたくない。
なんでもないです!
と、とりあえず浄化しちゃっていいんですよね!ね!
わたし、らいりーん!
ステラ・タタリクス
【ステルク】
|エイル様《主人様》の!香りがしまぁぁすっ!!
おっとUDCアースに私の存在は特異が過ぎたようです
誰がやべーメイドですか
エイル様センサーが捉えたのはあなた方ですね?
「願われた『平和』を実現できなかった数多の『願い』」
つまりは戦いの先にある平和に辿り着けなかった敗北者
エイル様の平和は戦いの先にありますから
ですが何者か、いえ、|エイル様《勝利者》になり切れなかったとして
あなた方がエイル様ではないとは言えないはず
何故なら平和を願う心こそがエイル様の大元
その為に戦いを引き起こそうともその点だけは
あなた方が歪んだのは別の理由
せめて骸の海で静かに眠らせてあげましょう
ルクス様今当てるっていった?
蠢くようにして電脳UDC『ジャガーノーツ』は校内にあふれていた。
彼らの歩みは、猟兵たちを前にしても止まることはなかった。彼らにとって猟兵とは羨望の的であり、また同時に嫉妬の対象でもあった。
何者かであること。
それを彼らは求めている。
そうでなければならないという感情だけが彼らを怪物にしているのだ。
「僕は、俺は、僕は、俺は」
「|『エイル』様《主人様》の! 香りがしまぁぁすっ!!」
だが、そんな彼らを前にしても遮るものがあった。
叫び。
いやまあ、なんていうか。
こういう逼迫した状況でも叫ぶことができるのは大したものである。
「ステラさん、ダメです。ダメですって!」
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は思わず、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の肩を掴んで揺さぶっていた。
周囲の視線がとんでもなく『やべー』って感じだったからである。
「おっとUDCアースに私の存在は特異が過ぎたようです」
「皆さん、やべーって思われてますってば!」
「誰がやべーメイドですか」
あなたのことなんですけど、とルクスは思った。というか、この状況を見て欲しい。どれだけシリアスなのだろうか。
すでにルクスの腕がむずむずしている。
めくってみせた袖の先にある肌をルクスはステラに見せつける。
「ほらっ、こんなに蕁麻疹が! めちゃくちゃシリアスですよ! ここは!」
「『エイル』様センサーが捉えたのはあなた方ですね?」
だが、そんなルクスをよそにステラは『ジャガーノーツ』に向きなおる。いやまあ、此処は戦場なのでステラが正しいのだが、ルクスの言葉もちょっと聞いて上げて欲しい。
「本当ですよ! 聞いてくださいよ! ていうか、『エイル』さんセンサーって鼻じゃないんですか!?」
「直感です。ピキキィン! ってあれです。なんかこう、あれです」
「説明できないなら無理に説明しなくてもいいですけど!?」
「ええい、今大切なのは眼の前のUDC怪物が……『願われた平和を実現できなかった数多の願いの残滓』であるということです」
ステラは『ジャガーノーツ』を見やる。
無数の手がブラウン管テレビから嘗ての『卒業』した『学生』達の躯を持って新たなる『ジャガーノーツ』を生み出していく。
「つまりは、戦いの先にある『平和』にたどり着けなかった敗北者。『エイル』様の平和は戦いの先にありますから」
ステラの言葉にルクスは首を傾げる。
「なんかこう、今回は『エイル』さんとはあまり関係ない感じが……」
するんですけど、とルクスは言葉を紡ぐがステラは遮った。
「いえ、|『エイル』様《勝利者》になりきれなかった何者かたち。あなた方は、きっとそう……『エイル』様ではないとは言えない。また逆も然り。私の『主人様』は、平和を願う者。その器」
故に、争いの中心にあるもの。
例え、それが争いを呼び込むための器であったとしても。歪められて叶えられた『願い』の結末だとしても。
「えっと……そ、そうなんですか? ソウナンデスネ」
ルクスはよくわかってなかった。
聞けば聞くほどにクエスチョンマークが頭の上に乱舞していたが、わかります、と相槌うっておけば大抵の事あhどうにかなるもんである。
というか、ルクス的にも『ジャガーノーツ』が『エイル』の成れの果てであるのは嫌だな、とおもった。
「これは当てたいって思わないです」
「ルクス様、今当てるっていった?」
ステラの冷ややかな眼光が走る。ルクスはビクッと肩を震わせた。
今、マジで余計なことを言った、という自覚を覚えた。
「な、なんでもないです! と、とりあえず、浄化しちゃっていいんですよね! ね!」
「ですが、確かに今、当てる、と」
ルクスは瞳孔開きっぱのステラから逃れるように『ジャガーノーツ』へと飛び出していく。
なんか後方から飛んでくる投げナイフがかすめるような距離で飛んでいる気がするのは気のせいか。気の所為だよ。
「|光の勇者、ここに来臨!(ユウシャトウジョウ)《わたし、らいりーん!》」
ルクスのユーベルコードが煌めく。
ヤケクソっていうか、誤魔化そう! という気満々のユーベルコードの発露。
その輝きを受けながら『ジャガーノーツ』たちが浄化サれていく光景をステラはみやりながら、絶対後で詰問してやろうと心を新たにするのだった。
勇者ルクスの運命は如何に――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霞・沙夜
【路子さんと】
『何者にもなれなかった』?
そう、ならば何になりたかったのですか?
『しなければならないことを成せなかった』?
なにをしなければならなかったでしょう?
それになにより、あなたたちは求めましたか?
ただ願っていただけで、いつか与えられると思っていたのではないですか?
それでは結局、何者になることも、何をすることもなかったでしょう。
路子さんも、わたしも、自ら求め、それを得たのです。
それを妬まれても困ります。
それに、特別なことを成せなければ、無為だと勘違いしていないでしょうか?
あなたを思う人がいること、それだけであなたは無為ではないのです。
それに気づけなかったこと、それがとても残念ですね。
遠野・路子
【沙夜と】
嫉妬だね
正しく嫉妬したならそれは前に進む力を産む
羨望もまた背中を押す力となる
でもあなた達はそうではないみたい
後ろに引きずり込むだけの存在なら
それは感情だけでは済まない
ここで終わりにしよう?
【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】
銀の雨があなた達を討つ
私たちを子供だからと狙ってきても
その前に万色の稲妻が装置を撃ち落とす
それこそ無駄だよ
何も為せなかったからといって
あなた達の生きた道が無くなったわけじゃない
周囲に無為と言われようとも
確かにあなた達が在ったという証左
それが後に続く者たちの道標になる
それを信じられないなら、悲しいことだね
ここで誰かを引きずり込んだところで何の解決になるというの?
何者にもなれなかったという嘆きが校内に満ちている。
それは怨嗟とは言えないものであった。
きっとその感情の名をなんと呼ぶのかを、遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は知っていたことだろう。
何者にもなれない者たち。
彼らが抱くのは。
「嫉妬だね」
路子はそう告げる。UDC怪物『ジャガーノーツ』。彼らは果たされなかった願いの残滓である。そうあるべきでありながら、そうならなかった者たち。
それを咎めることはできないだろう。
人は生きる限り失敗を冒す。
失敗無き人の路などない。人ではないものですら過ちを犯すのだから。
だからこそ、路子は言う。
「正しく嫉妬したなら、それは前に進む力を産む。羨望もまた背中を押す力になる。でも、貴方達はそうではないみたい」
「僕は、俺は、僕は、俺は、ただ、何者かになりたかった。そう願われたから、そうであるべきと思ったから。だけど」
そうはならなかったのだと嘆く声が響く。
しかし、その嘆きの声を切って捨てるように霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)の声が響く。
「『何者にもなれなかった』? そう、ならば、何になりたかったのですか?『しなければならないことを成せなかった』? 何をしなければ成らなかったのでしょう?」
彼女の言葉は『ジャガーノーツ』たちを撃つ。
「僕は、俺は、僕は、俺は……平和を願われたから」
「ならば、求めましたか。ただ願っていただけで、いつか与えられると思っていたのではないですか?」
沙夜の言葉は、『ジャガーノーツ』の核たる願いが誰かの願いを受け止めただけに過ぎないのだと知る。
歪んでいるのだ。
願いは正しくとも、器が歪んでいるのだ。受け止める器が歪めば、願いも歪む。
眼の前の『ジャガーノーツ』とはそういう存在なのだ。
「それでは結局、何者にもなることも、何をすることもなかったでしょう」
「そう、後ろに引きずり込むだけの存在。それは感情だけでは済まない。だから」
此処で終わりにしよう、と路子の瞳がユーベルコードに輝く。
ヘヴィンリィ・シルバー・ストーム。
戦場に満ちる銀色の雨は、嘗ての戦いを、青春の日々を想起させる。沙夜にとって、それはなんとも言い難い感情であったことだろう。
けれど、確かなことがある。
平和を共に求めていながらも、こんなにも異なる路があったのだ。
己たちと『ジャガーノーツ』を隔てたのは一体何だったのか。
その答えを沙夜は持っている。
「路子さんも、わたしも、自ら求め、それを得たのです。貴方達が妬むのは、それです。だから、困ります」
沙夜の瞳がユーベルコードに輝く。
万色の稲妻が迸る戦場にありて、優しい雨を身に受けながら、沙夜は紫電の舞(シデンノマイ)を舞う。
共に走るはからくり人形。そして大鎌の煌めき。
それらが『ジャガーノーツ』と迫りくる無数の手を切り裂き、霧散させていく。
「特別なことを成せなければ、無為だと勘違いしていませんか?」
「何も成せなかったからといって、貴方達の生きた路が無くなったわけじゃない」
そう、どれだけ無為とそしられるのだとしても。
それでも残るものがある。
本当に無為であったというのならば、過去の堆積として歪むこともない。確かに底に在ったという証左があるからこそ、今に残るものがあるのだと路子は言う。
「あなたを思う人がいること、それだけであなたは無為ではないのです」
「そう、後に続く者たちの導になったことを知ることもなく無為と己を定めた悲しい残滓……ここで誰かを引きずり込んだところで、何の解決になるというの?」
万色の稲妻がほとばしり、『ジャガーノーツ』の体を打ち据える。
凄まじい衝撃と共に沙夜の舞が彼らを次々と切り裂いていく。
「僕は、俺は……」
「それに気がつけなかったこと、それがとても残念ですね」
そして、悲しいことだ。
いくつものすれ違いが、いくつもの誤ちが、正しさを求める何かへと変容してしまったというのならば、こんな苦しみが世界に満ちていく。
せめて、と言うように優しい銀の雨が『ジャガーノーツ』たちの残骸を濡らす――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
ふぅん、そぉなのねえ。大変だったわねぇ、ご愁傷さま。
…感情籠ってないって?そりゃそうでしょ。身内知り合いならともかく、初対面でいきなり苦労話されても「はぁそうですか」としか言えないわぁ。
どのみち仕事の邪魔だからブッ散らさないといけないしねぇ。
こいつら電脳系のUDCなのよねぇ?それならそっち方面から崩しましょうか。
●黙殺・妨害と黙殺・砲列を同時起動、描くのは|帝釈天印・アンサズ・イサ《雷による情報凍結》。
電脳系ってことは情報そのものがカタチ持ってる類だし、強制フリーズ○ハッキング弾幕は覿面じゃないかしらぁ?
(為すべきを為せなかった…か。正直、アタシは他人のこと言えた義理じゃないしね)
『何者にもなれない』という感情はきっと苦しみに満ちていたものだろう。
どうして己がそうではないのかという懊悩。
なぜ、自分だけが劣等感に苛まれなければならないのかという葛藤。
いずれもが己一人で抱えねばならぬものであるが、しかし、それを抱えきれぬ者たちこそが『ジャガーノーツ』であった。
願いの成れの果て。
それがUDC怪物として今を生きる者たちへと牙を剥く。
その脅威を前にして打ち払うのが猟兵であったのならば、それはこれ以上無いほどに『何者』かであったことだろう。
「ふぅん、そぉなのねえ。大変だったわねぇ、ご愁傷さまぁ」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の甘やかな声が響く。
そこに感情は乗っていないようだった。
心にもないことを、と言う者がいたかもしれない。
けれど、ティオレンシアにとっては関係のないことだった。
「俺に、僕に、俺に、僕に、何の感情も抱いていない。わかっているとも」
「ええ、そうでしょうねぇ。そりゃそうでしょぉって言うしか無いわよねぇ。身内知り合いならともかく、初対面でいきなり苦労話めいた懊悩を口にされても」
答えは『はぁそうですか』としか出てこない。
真摯に向き合うべきだと言う者もいるかもしれないが、それが持たざる者の傲慢でしかない。
真摯に物事に向き合っていないほど、真摯に向き合うことを強要するし、己の懊悩を他者と共用したがる。
共感というものに重きを置くからこそ、そのような物言いができるのだ。
「どのみち仕事の邪魔だからぶっ散らさないといけないしねぇ」
だから、と彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
描く魔術文字。
帝釈天印とアンサズ、イサ。
それは雷による情報凍結。
意味を成す文字は、弾幕となって放たれ電脳怪物である『ジャガーノーツ』へと迸る。
どれだけ数を用意しているのだとしても、この黙殺・砲列(デザイア・バッテリー)からは逃れられない。
そして、同時に使用される黙殺・妨害(デザイア・ディスターブ)によって底上げされた弾幕の威力が『ジャガーノーツ』の躯体取り巻く情報と云う名の鎧を打ち砕いていくのだ。
「効果覿面って感じかしらぁ?」
弾幕に触れた者から動き阻害されていく。
すでに描かれた魔術文字は、その効果を十二文に発揮している。
恐らく、あの『ジャガーノーツ』という存在は、情報の集まりなのだろう。それが残滓という堆積によって歪んだ存在である。
あの存在の大元は、きっと多くの敗北にまみれているのだろう。
かつて、サイバーザナドゥで出会った亜麻色の髪の男と同じように。敗北という結果によって、今、此処に至る残滓。
「ま、手数の多さの前には結局滅びるしかないのよねぇ」
ティオレンシアは弾幕迸る戦場を悠々と歩く。
残骸と成り果てる『ジャガーノーツ』たち。
その光景をみやり、彼女は頭を振る。
彼らは為すべきことを成せなかった、と言った。
それが敗北したがゆえの結果であるのならば、わからないでもない。けれど、ティオレンシアはそれ以上言葉を紡がかなかった。
己もまた他者のことを言えた義理ではない。
如何なる過去があるのだとしても、それは彼女の中にだけ存在するものである。それをさらけ出すことはない。
きっと、それこそがティオレンシアが今此処にある理由なのだろうから――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
悪いがこっちは急いでるんでね。怨み言はあの世で呟いていてくれやッ!
「…押し通ります。」
全身のあの手は厄介だな。
遠距離から破魔弓で破魔の霊力を込めた矢を撃ち込んでいってやるぜ。
と、援軍を呼びやがったな?
強力なネームド個体を放ち非ネームド個体の援護射撃でこちらの動きを封じる腹か。
させるかよッ!【破魔の祓矢衾】ッ!
これで全員纏めて一網打尽だ。
破魔の矢の雨あられで浄化しちまいなッ!耐える敵がいるならもう一発、破魔の祓矢衾よッ!
元凶はもうすぐそこなんだ、こんな所で時間をかけてられないぜ。一気に切り開いて進んでやるッ!
【技能・スナイパー、破魔、浄化】
【アドリブ歓迎】
校内に広がるUDC怪物『ジャガーノーツ』の声。
それは『何者』かに対する羨望と嫉妬の声であったことだろう。絡みつくように五体に迫る声を前に神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は相棒たる桜と共に走り抜ける。
破壊されたブラウン管テレビの破片を蹴り、迫りくる『ジャガーノーツ』たちを前にし、その構えた破魔弓の弦をひきしぼる。
『悪いがこっちは急いでるんでね。怨み言はあの世で呟いてくれやッ!』
カタカタと鬼面が鳴る。
「僕は、俺は、僕は、俺は……ただ、願いを叶えたかっただけだ。それを失敗した。多くを失った。勝利の代価は敗北。なら、僕は、俺は、僕は、俺は……」
声が聞こえる。
何処かで聞いたような声。
だが、桜は頭を振る。
この聞いたことのあるような声でさえ、己たちを惑わす『ジャガーノーツ』の術策であるのかもしれないのだ。
故に彼女と凶津は踏み込む。
引き絞った破魔弓から放たれるは、霊力籠められた破魔の矢。
「……押し通ります」
その言葉と共にユーベルコードに凶津の鬼面の眼窩が煌めく。
『相棒ッ! あの手は厄介だぜッ! 手数で押し切られちまうッ!』
放たれた矢が複雑に企画模様を描いて天に飛ぶ。
その最中に無数の手が桜の体に絡みつき、その動きを止める。
「うっ……くっ!!」
『厄介だが……! させるかよッ!』
複雑な模様を描くように宙を走る破魔矢が分裂し、籠められた霊力が発露するようにして破魔の祓矢衾(ハマノハライヤブスマ)を降り注がせる。
桜の体を拘束していた無数の手が吹き飛ばされ、凶津と桜は顔を上げる。
迫るは無数の『ジャガーノーツ』たち。
『ここでまとめて一網打尽だッ!』
「……逃しません」
再び解き放たれる無数の矢。
霊力宿した矢は即座に分裂し、そのユーベルコードの名を示すかのように槍衾の如き光景を生み出す。
籠められた破魔は『ジャガーノーツ』たちに満ちる羨望と嫉妬の感情を洗い流すようにして凶津たちの前から霧散していく。
最後に残った一体。
その特異なる『ジャガーノーツ』の一体は、これまで猟兵達のユーベルコードを受けて、揺らぐノイズのような姿を示す。
ゆっくりと、その『ジャガーノーツ』が指差す先。
そこは職員室。
そう、そこにこそ今回の元凶が存在している。
『なんだ……? そこに元凶がいるってぇのか……?』
「……示されている、ということでしょうか。でも」
『ああ、時間をかけてられないぜ。一気に切り開いて進んでやるッ!』
その言葉と共に凶津と桜は最後の『ジャガーノーツ』へと飛び込む。放たれる破魔の矢が光条を引いて宙をかける。
分裂した矢は『ジャガーノーツ』に躱す暇を与えない。
降り注ぐ矢は確実に躯体に打ち込まれ、ノイズを更に走らせ、『ジャガーノーツ』の名を明滅させる。
「これで……!」
桜が踏み込む。
破魔の矢を至近距離で引く。
放たれた矢。
それは『ジャガーノーツ』の頭部を射抜き、一瞬何かが映し出されたような気がしたが……しかし、それがなんであるのかを知る術はない。
凶津と桜は最後の『ジャガーノーツ』を打倒し、元凶座す職員室へと踏み込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『青の狂信者』
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POW : カルマレガリア
技能名「【適応進化/自己再生/並列思考/高速演算】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : メルティングウェポン
【寄生体から体内に取り込んだ武器】で攻撃する。[寄生体から体内に取り込んだ武器]に施された【魔兵覚醒】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : クリスタルファージ
自身が操縦する【レベル×5体の、召喚「青の従者」】の【装備武器/使用能力】と【自立行動/連携/思考能力】を増強する。
イラスト:嵩地
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ナハト・ダァト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『ジャガーノーツ』を躱し、職員室へと至った猟兵達が見たのは、一人の男性教諭の姿であった。
折り目正しい、と形容されるかのようなスーツ姿。
穏やかな笑み。
亜麻色の髪。
そして、瞳の色は黒ではなく赤。
「おや、どうしました皆さん。何か質問ですか」
その笑顔と共に眼鏡のブリッジを指先で持ち上げて『彼』は立ち上がる。
「ああ、なるほど。質問ではなく――詰問というのが正しいのかもしれませんね。申し遅れました、猟兵の皆さん。『私』の『名』は『五濁悪世』。ああ、『彼』は『青の狂信者』と呼ばれる『私』の依代、と言えば通りが善いでしょうか?」
彼――『五濁悪世』と名乗った邪神……は、スーツ姿の『先生』と呼ばれていた『青の狂信者』の背後に揺らめく青い甲冑の巨人めいたオーラを見せつける。
発せられる言葉は自信に満ちあふれていた。
彼にとって、『青の狂信者』と呼ばれる存在は、生身の人間である。
オブリビオン、というのならば、この青い甲冑の巨人めいたオーラこそが本体なのだろう。
「ええ、これは盾ですね。この肉体は一般人のもの。まあ、狂気というものに冒されているので、恐らく『私』を打倒しても精神は助かりますまい。どうぞ傷つけるがよろしいでしょう」
その言葉に猟兵たちは歯噛みするだろう。
それをためらう良心がある。
オブリビオンを撃滅するのが己達猟兵である。一般人を犠牲にしてはならぬというからこそ、此処まで踏み込んできたのだ。
それを『私』と言う邪神『五濁悪世』は理解しているからこそ、『青の狂信者』たる一般人の肉体を盾に押し出すようにして進ませるのだ。
「『私』は『勝利』する。そのための才能も、そのための『願い』も、この手に」
オーラより生み出されるは青い大剣。
滴るような武装は体内に憑依した邪神『五濁悪世』のちからの発露であろう。
「さあ、『私』は『勝利』する。全ては、この世の『平和』のために」
迸る狂気と共に『青の狂信者』は凄まじい重圧と共に元凶たる力を示すように猟兵たちに襲いかかるのだった――。
イリスフィーナ・シェフィールド
そうですか、それでは遠慮なくとコードを使った拳を打ち込みます。
吹き飛ばしたらそのまま追撃、追撃、追撃ですわっ。
能力使われると厄介そうですからそのままお別れでよろしいでしょう。
どうせ理解も共感も納得もできないでしょうから聞くだけ無駄ですわ。
何か聞くなら人間体の方に聞けばよろしいでしょう。
……聞ければですけど、あ、記憶覗くならできますわ。
邪神憑依する『青の狂信者』は青き大剣を振るう。
その滴り落ちるような液体はオーラとなって『先生』と呼ばれていた者の肉体を覆っていく。
背後にあるのは青い鎧の巨人の如きオーラ。
名を『五濁悪世』。
邪神の一柱であり、『先生』と呼ばれた男はすでに狂気に侵され、己が意志か、それとも『五濁悪世』の意志かの判別さえ付かなくなっていた。
「では、参りましょう」
踏み込む。
躊躇いは不要だった。
確かに迫る『先生』と呼ばれた男性の肉体は一般人のもの。
だが、振るう力は邪神のもの。
言ってしまえば、一般人の肉体は盾。
「そうですか、それでは遠慮なく」
猟兵は一般人を盾にすればためらう。その損得めいた感覚をイリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)は一切振り払うようにして、その拳を叩き込む。
痛烈なる一撃が『青い狂信者』に憑依している邪神のオーラを捉え、吹き飛ばす。
「――なるほど」
「理解致しましたか?」
吹き飛ばされた体躯。
だが、そこにイリスフィーナはさらに踏み込む。
追撃の拳。
練り上げられたオーラは、拳に寄る一打でもって肉体を傷つけない。憑依した存在のみに打撃を与えるユーベルコードだった。
「ソウル・クラッシャー。破邪顕正たる拳のお味はどうです!」
「なかなか悪くはないと思いますよ。ですが、拳一つで何処まで戦えますか?」
「何処まででも、と申しましょう!」
撃ち合う拳と大剣。
どのみち、イリスフィーナには邪神と言葉をかわす趣味などなかった。何故なら、互いに理解も共感も納得もできはしないからだ。
敵は猟兵を滅ぼそうとしている。
猟兵は邪神を滅ぼそうとしている。
世界に仇為すからだ。ただそれだけの理由で、決定的にかけちがえた存在であるからこそ、イリスフィーナはためらわない。
己のユーベルコードは『青の狂信者』の肉体を傷つけない。
ここに憑依して猟兵に一般人を肉盾とせんとした『五濁悪世』のアドバンテージは皆無となったのだ。
「聞くだけ無駄でしょうけど」
「ええ、無駄でしょう。『私』はあなた方と馴れ合うつもりはない。どうあっても違う存在であり、滅ぼし、滅ぼされる間柄でしかないのですから」
大剣を弾きながらイリスフィーナは、さらに踏み込む。
「聞くだけであれば、一般人の、その男性を取り戻してから聞けばよろしいのですわ」
とは言え、『青の狂信者』たる男性は狂気に深く冒されている。
例え、救出できたとて、何かを聞き出すことはできなかったかもしれない。
だが、イリスフィーナはそれさえも些細なことだと拳を叩きつける。
「能力など使わせは致しませんわ! このまま一気に!」
ぶっ飛ばす、と彼女は拳を叩きつけ、その青い大剣をへし折らんとするかのような苛烈なる勢いで持って『青の狂信者』の体を吹き飛ばし続け、その背に負うようにして顕現する青い鎧の巨人のオーラを霧散させ続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
その手の脅しは聞き飽きたぜ。テメエみたいな輩は同じような事しか言えねえのか?
テメエのような一般人を盾にする外道は掃いて捨てる程、相手してきたんだよッ!
「…邪神祓いを始めます。」
『式神【ヤタ】』を放ち同時攻撃だ。とはいえヤタの攻撃は囮、本命はコイツよッ!
「…破魔の祓い矢。」
コイツは怪異のみを浄化し粉砕する怪異殺しの力、テメエみたいな一般人の体の奥で縮こまってる野郎に効果覿面って訳だ。
敵の範囲外から攻撃し続けるが何らかの手段で敵の体内に取り込んだ武器が届きそうなら『結界霊符』による結界術で防御しながら破魔の祓い矢を射り続けるぜ。
【技能・式神使い、スナイパー、破魔、浄化、結界術】
【アドリブ歓迎】
青い鎧の巨人の如きオーラが揺らめく。
それこそが『青の狂信者』の肉体に憑依した邪神『五濁悪世』の本体である。猟兵のユーベルコードによって揺らめいているのは、そのオーラの総量が即ち邪神のちからの及ぶ範囲であり、それを穿たれて弱まっている証左であった。
「『私』にとって肉体とは器でしかない。器が壊れれば、乗り換えれば良いだけのこと。『勝利』は我が手にある。それとも猟兵の皆さんは、この器がどうなっても善いと?」
『五濁悪世』の声色は穏やかであったが、しかし邪悪であることを知らしめるものであったことだろう。
その言葉に神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)はカタカタと鬼面を揺らしながら言い放つ。
『ハッ! その手の脅しは聞き飽きたぜ』
「『私』以外にも似たような手段を取った者がいたと? それはなんとも……二番煎じというわけですね。ですが、習性というものもありますからね。何度も何度も繰り返せば、穿つことのできるものものある。ああ、雨だれの一滴と云うやつでしょうか」
『同じようなことしか言えねえのか? そういう手合ってえのはな……外道と云うんだよ! 掃いて捨てるほどほど相手してきたんだよ! 相棒ッ!』
その言葉に桜の黒髪が揺れる。
霊力満たす矢をつがえた破魔弓の一射が『青の狂信者』へと放たれる。
「……邪神祓いを始めます」
その一撃を大剣で払う。
だが、凶津が放った一射はたやすく払われる。
「……やはり、『私』事態を狙い撃ちにしてくる、と」
『青の狂信者』に憑依している『五濁悪世』は笑む。
依代である肉体を傷つけまいと猟兵たちは明らかに選択の幅を狭められている。それだけでも収穫であると言わんばかりに『五濁悪世』は笑う。
さらに凶津は式神を解き放ち、さらに二重の攻撃を重ねていく。
「『私』も本腰を入れなければなりませんね」
青き大剣を掲げた『青の狂信者』はその切っ先を己へと向ける。その切っ先が腹部を貫く。
だが、切っ先が彼の背中から飛び出すことはなかった。
己の兵装を取り込むことによって解除される力。
オーラが肉体に、五体に満たされる。
『相棒ッ! こいつ、やばいぜッ!』
凶津の言葉が走った瞬間、『青の狂信者』の拳が桜の腹部を捉えていた。撃ち抜かれる、と思うばかりの一撃。
衝撃が体を走り抜け、五体が弾けそうになる。
桜は体をくの字に折り曲げるも、さらに横薙ぎに振るわれた襲撃の一撃が彼女の体を吹き飛ばす。
床を跳ねるようにして桜の体が跳ね飛ばされるも、彼女は体勢を整えるようにして床を手で抑える。
「……ッ……! うあっ……!」
『大丈夫か、相棒ッ! チッ、厄介だぜッ!』
「ふせがれましたか。何か結界のような感触でしたが……」
『青の狂信者』は己の五体より得られた感触に首を傾げている。彼にしてみれば、桜の体を今の二連撃で仕留めたつもりだったのだ。
なのに、桜の体は砕けていない。
そう、とっさに張り巡らせた結界霊符による結界で防御が間に合ったのだ。さらに式神が飛び、『青の狂信者』の振るった一撃で霧散する。
「これで……」
終わりだと言葉を告げようとした『青の狂信者』は見ただろう。
なぜ、ここまでして距離を取ったのか。
桜を打ち据えた一撃があれば、そのまま追撃すれば勝負は決まっていたのだ。だが、凶津の飛ばした式神に『五濁悪世』は気を取られた。
彼にしてみれば、猟兵の全てを引き出して、これを撃退することこそが猟兵に対する勝利だったのだろう。それは傲慢とも言うべきものだった。
そして、桜を全く警戒していなかったのだ。
ヒーローマスクの依代。
ともすれば己が操る『青の狂信者』と同じと考えていたのだ。
だが、実態は異なる。
桜と凶津は共に協力しあっている。そこが唯一にして最大の相違点だったのだ。
それを見誤ったものに勝利は訪れない。
「……祓いますッ!」
『ぶちかませ、相棒ッ!』
引き絞った破魔弓。
そのつがえられた一射が迸るようにして飛び、『青の狂信者』の背に負う青い鎧の巨人の如きオーラを捉え、霧散した巨大なる傷跡を穿つのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
九頭龍・達也
五濁悪世ね――まさかの仏教系邪神かな?
でも肉盾を主張ってのはちょっと邪神としてはしょぼいなぁ。
まあ、いいや。お仕事お仕事。
『闘気』を活性化して戦闘態勢へ。
勇者の剣術とゴッドハンドの体捌きで『勇者の剣』を振るって戦います。
敵のPOWUCによる強化はこちらも瞳に『九頭龍の紋章』を顕現させて対応。
青い大剣を打ち払い、『青の狂信者』ごと青い甲冑の巨人めいたオーラに渾身の『闘気波』を炸裂させて本体のみを弱らせていきましょう。
(達也は手段がなければ迷わず肉盾ごと叩き斬る精神性を有していますがこの場合、手段がある為にそっちを選択する、くらいの気持ちです。手段を増やす為に特殊な闘気を開発したとも言えます)
戦いにおいて、対する存在の情報というのは得難いものである。
正体不明の存在と戦うということは、想像を絶する不利であることは言うまでもない。対策を打ち立てることができるからこそ、戦いを優位に進めることができる。
そうして人間というものは自然界の弱者として脆弱な肉体を持ちながら、しかして霊長として君臨し続けているのだから。
「そういう意味では『五濁悪世』――まさか仏教系邪神とでも言うのかな? そんな存在が肉盾を主張ってのは、ちょっと邪神としてはしょぼいなぁ」
九頭龍・達也(大宇宙帰りの勇者・f39481)の言葉に『青の狂信者』を操る邪神『五濁悪世』は笑う。
「確かに『私』としてもなんとも下策を取ったものだと思っていますよ。『私』にとって『これ』はあってないようなもの。まあ、『器』というのならばそうなのでしょうが、そういう意味では足りないものが多すぎる気がします」
つらつらとよく語るものだと達也は思ったかも知れない。
眼の前の『青の狂信者』は、異界を生み出すユーベルコード『カクリヨ・インサニティ』を手繰る邪神『五濁悪世』によって操られた一般人である。
これを傷つけることを猟兵は厭う。
故に盾としていることは言うまでもない。
だが、『五濁悪世』の言葉を信じるのならば、どちらでもいい、ということのようだ。
「まあ、いいや。お仕事お仕事」
達也の瞳がユーベルコードに輝く。
「ほう、闘気。いつか見たような気がしますね。とは言え……」
「見たことがある?」
踏み込まれた、と達也は瞬時に理解しただろう。
『青の狂信者』の肉体としての限界はすでに超えている。寿命も相当擦り減らしているだろう。どうやら『五濁悪世』は器としての肉体を使い潰すつもりのようだ。
そうしなければ、猟兵たちに己の企みを打破されると知っているからだろう。
振るわれる大剣の一撃を勇者の剣で受け止める。
剣戟の音が響く。
打ち据え、切り払い、火花を散らす。
互いに打ち合った刃が交錯するようにして鍔迫り合い、達也の瞳はさらにユーベルコードに輝く。
「見た程度でわかるわけがないだろう。これには――ちょっとしたコツがいるんだよ」
勇者の剣が青の大剣を切り上げ、ガードを上げる。
だが剣と剣の間合いなのだ。
どう切り上げてもガードが間に合ってしまう。だからこそ、達也は己の手にした勇者の剣を投げ放ち、己の体内に練り上げられた闘気を拳に集約する。
剣が振り上げる、下ろす、という孤を描く軌道に即しているというのならば、どう在っても初速で劣る。
だが、拳は違う。
最速最短の拳。
打ち出す、という意味では恐らくこれに勝る打撃は存在しないだろう。
即ち。
「ジャブ、というものだ」
放つは腕を折りたたんだ状態から繰り出す最速の一打。
空気の壁を打抜く轟雷めいた音が響き渡り、拳が『青の狂信者』の頬……否、『五濁悪世』の青いオーラへと叩き込まれる。
「――!?」
「驚いた顔をしているな。見たことがあるんだろう。それよりもずっと速いことに困惑しているか」
連続して放たれる拳。
音速を越えた証明である轟雷めいた音が連続して響き渡る。
「これが闘気波(マインドブレイク)。俺の戦いの記憶では、お前のような輩は幾度となく見てきたんでな。対策なんてものは最初からあるんだよ」
達也の拳はまるで雨のように青いオーラへと叩き込まれていく。
己に肉盾という手段は通用しない。
恐らく他の猟兵に対してもそうだろう。どれだけ策を講じるのだとしても、それらの尽くを乗り越えてくるのが猟兵である。
「この程度の障害など、障害ではない、と?」
「そういうことだ。今回は諦めるんだな」
達也の拳がさらに加速して叩き込まれ、青いオーラごと『青の狂信者』の体が宙へと舞い上げられるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
冴神・駿介
ハッ、押し付けるなよ。
ソイツを殺したのはテメェだ。
テメェが器を得る事を選び、テメェがソイツを器に選んで狂気に取り込み魂を殺した。どうなってもいいも何も、もうどうにかなった後なんだよ。それを背負うのは俺達じゃなくテメェだろうが。
呵責は無い、前提からして違う話だからだ。『この拳届かせる為に』を使用。軽業、見切り、受け流しを軸に攻撃を捌き切り、グラップルでの拳を叩き込む。
人間を肉の盾にすること。
有史以来、それは遺骸を弄ぶことと並び立つほどに悪辣たる象徴。人は動揺する。どれだけおのれとは関係のない人間であったとしても。
モラル、倫理というものを持つ限り、人はためらう。
ためらうのならば、そこに隙が生まれる。
隙が生まれたのならば、それを突くのが戦いである。
生命の埒外たる猟兵においても、同様であろう。しかし、冴神・駿介(ゴーストハンター・f35755)は吐き捨てる。
「ハッ、押し付けるなよ。ソイツを殺したのはテメェだ」
一般人である『青の狂信者』。
その肉体に憑依した邪神『五濁悪世』は首を傾げる。
「そうでしょうか。生命活動を続けている、という意味では『これ』はまだ生きていますよ。脈々と血潮を送り出し、心臓は跳ねている。まあ、精神活動という意味では死んでいるのも同然ですが」
「テメェが器を得ることを選び、テメェがソイツを器に選んで狂気に取り込み魂を殺した。どうなってもいいも何も」
駿介の眼前に踏み込んでくる『青の狂信者』。
その踏み込みは尋常ならざる踏み込みであった。手にしていた青い大剣を取り込んだ躯体は、全身が武器。即ち徒手空拳であっても、その拳は容易に五体を粉砕する威力を持っていることが伺い知れる。
振るわれた拳の一撃を駿介は見切り、受け流す。
ビリビリと体にかすめただけでも響く衝撃に駿介は歯噛みする。
「もうどうにかなった後なんだよ。それを背負うのは俺たちじゃなくてテメェだろうが」
「背負うも何も。使い捨てるだけのものをどうして持ち続けなければならないのです?」
撃ち合う拳。
駿介と『青の狂信者』は互いに拳の距離で戦い続ける。
空を切る拳の音が破裂するように響き、一進一退たる攻防を繰り広げるのだ。
敵はおのれたちに良心の揺らぎを見出だしている。だが、駿介に呵責はない。何故なら、目の前の『青の狂信者』と『五濁悪世』、そして自身の間には問題に対する前提が異なるのだ。
駿介は生命を扱うのならば、対するおのれではなく。
器として肉体を扱う『五濁悪世』にこそ責があるとする。生かしたのも殺したのも、利用したのも、全ては『五濁悪世』が齎した結果である。
「そうかよ……テメェは、俺が、ぜってぇに」
この拳届かせる為に(コノコブシトドカセルタメニ)と願ったものがある。
それを願いと呼ぶにはあまりにも乱暴な物言いであったことだろう。
けれど、己の拳はユーベルコードの輝きに満ちている。
何故なら、目の前の敵はどうにも我慢のならない存在だからだ。言葉で人を弄する。弄び、使い捨て、ぞんざいに扱う。
生命とはそういうものではないはずだ。
生命は抗い続ける。多くのことに抗い続ける。そうして連綿と紡がれてきたからこそ、人の歴史があるのだ。
それを目の前の存在は否定してみせたのだ。
ならば。
「ブン殴る!」
振るう拳はいつだって矜持など乗らない。
ただ確実に仕留める。
誇りというものが力を与えるのならば、世界はもっとよくなっているはずだ。持ちたい者が持てば良い。駿介にとって、今必要なのは誇りではなく。
ただ只管に打倒すべき力。
打ち込まれた拳の一撃は『青の狂信者』の顔面を捉える――。
大成功
🔵🔵🔵
神野・志乃
別に目の前で盾にされたところで、やることは変わらないわ
一般人は助ける、敵は倒す。それだけよ
今日二回目の言葉を告げる
「さっさと終わらせましょう」
何か……このゴチャゴチャアクセサリー?みたいな名前の邪神、ああ言えばこう言うタイプみたいだから、会話するだけ時間の無駄と見たわ
「“せんか”。すべてを光で覆ってしまいなさい」
UC《せんか》を発動、魔鏡を無数の花弁へと変じる
“せんか”は『指定した対象』へ攻撃を加える|魔術《ユーベルコード》
敵の召喚してきた青の従者とやらと、それから本体の……何だったかしら、ガシャドクロ?みたいな名前の邪神を、UCの効果で強化した【浄化】の力持つ花刃で引き裂いてやりましょう
元より一般人への被害を避けるためのUC、人間を肉盾にしようなんて小物じみた浅知恵は掻い潜って攻撃できるけれど
それでも、無数の花弁の猛攻に更に【フェイント】をかけたり、鮮烈に発光させて【目潰し】したりして、肉盾に庇わせようとするのを防ぎ
汚職事件?みたいな名前の邪神を手抜かりなく集中砲火するように攻撃するわ
血潮が舞う。
顔面を打ち据えられた拳の一撃によって『青の狂信者』の鼻腔から血が噴出する。しかし、彼は笑う。いや、『青の狂信者』の人間が、ではない。
その背に負う青いオーラ、邪神『五濁悪世』が笑うのだ。
「結局、そういうところですよ、猟兵。猟兵は世界を救う。世界を救うために戦うのですから、人間のことは瑣末事でしょう。故に」
己が勝利するのだというように血潮を拭うこともなく『青の狂信者』は体内に取り込んだ青の大剣を抜き払い、床面へと突き立てる。
「眼の前で盾にされたところで、やることは変わらないわ。一般人は助ける、敵は倒す。それだけよ……ああ、そうね。今日二回目だわ、この言葉は」
神野・志乃(落陽に泥む・f40390)はユーベルコードの光満たす赤い眼光、『五濁悪世』のオーラを前にして言い放つ。
「さっさと終わらせましょう」
彼女にとって目の前の敵……『青の狂信者』を操る『五濁悪世』は胡乱な存在でしかない。
どう言葉を放ったとしても、ああ言えばこう言う、暖簾に腕押しのように立ち振る舞う存在なのだろう。
先んじて戦う猟兵達とのやり取りを見ていればわかる。
ごちゃごちゃアクセサリーのようの名前の邪神と会話するだけ無駄というものだ。
「できますかね、猟兵」
「できるできないじゃないのよ。やるのよ。“せんか”、すべてを光で覆ってしまいなさい」
手にした魔境が無数の花弁へと変じる。
志乃の瞳がユーベルコードに輝き、目の前に広がる『青の狂信者』が呼び出した『青の従者』たちを見据える。
「これだけの数です。猟兵としての個が勝るのだとしても、数で圧するのならば」
「いいえ、無駄というものよ。ええと、なんだったかしら、ガシャドクロ?」
名を呼ぶことなんてしてやらない。
覚えてなんてやらない。
浄化の陽光放つ金盞花の花弁が戦場に舞う。
志乃の中にあるのは失望だった。眼の前の邪神のやることなすこと全てが失望でしかなかった。どれだけ『青の従者』を召喚し、数で圧しようとするのだとしても、彼女のユーベルコードは己の瞳で見据えた者すべてを攻撃する。
花弁は無数の刃そのもの。
放たれた矢は彼女が指定する全ての『敵』へと放たれる。
『青の狂信者』の肉体は一般人。
されど、彼女が敵とみなすは、肉体に憑依している『五濁悪世』のみ。故に彼女は笑うこともなく、ただ憤るでもなく。
静かなる瞳で陽光纏う花弁の中に立つ。
「一般人を肉盾にしようだなんて、なんて小物じみた浅知恵なのかしら」
「『私』を小物、と」
「そうでしょう。三味線を弾くのならば、もう少しお上手にしてみせたらどうかしら。汚職事件? だったかしら、名前」
「もう一度申し上げましょう。『五濁悪世』と申します」
やっぱり、と志乃は笑むこともなく花弁と共に迫りくる無数の『青の従者』たちを切り裂き、見据える。
あの敵は結局、そういう者でしかない。
余裕部って見せている。
自分たちが『青の狂信者』を見殺しにしたという事実だけを欲している。それで心に傷を追わせようとしている。
始めから、『五濁悪世』の勝利の条件は猟兵を滅ぼすことでもなければ、『カクリヨ・インサニティ』による世界を異界に書き換えることでもなかったのだ。
「名前の通り、性格が悪いのね、あなた」
志乃は金盞花の花弁を纏う。
敵の狙いは、やはり猟兵達を失意に落とすこと。しかし、それが叶わないことを彼女は知っている。
何故なら、此処には既に陽光が輝いている。
どれだけ異界が世界を塗りつぶそうとするのだとしても、世界を照らす陽光がある。
「お褒めにあずかり、とは申しませんが」
「あなたの目論見、全て無駄だということを教えてあげるわ」
闇色に世界を塗りつぶさんとしても、自分が居る限り、世界は闇に沈まない。掲げた手に集まる花弁が陽光を放ち続けている。
それは燦然と輝くように。
己の胸を焦がす天にある日に手を伸ばすように。
強烈なる浄化の輝きでもって『青の従者』諸共に『五濁悪世』のオーラを吹き飛ばすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
「あ、五濁先生とおっしゃるのですね。
私、転校生の天羽々斬布都乃と申します。
転校の手続きと、このあとどうすればいいか聞きにまいりました」
『布都乃よ、奴がターゲットじゃ。もう転校生の芝居はよい!』
「――はっ、そうでした。転校生というのは邪神を倒すための手段だったのでした」
『今、思いっきり忘れとったじゃろ』
図星を突いてくる式神から目を逸らし、邪神と対峙します。
「学園の生徒の皆さんの未来を閉ざすのは間違っています。
なぜなら、学校とは生徒の未来を切り開くためにあるのですから!」
そして、私に与えられた未来視の力も未来を切り開くためのもの!
相手の思考や演算を読み切り、時の重みを乗せた拳で攻撃です。
浄化の光が戦場に満ちる。
『流星学園』の職員室における『先生』と呼ばれた『青の狂信者』――その肉体に憑依する邪神『五濁悪世』の力は猟兵たちをしてもなお、現世に留まるものだった。
彼にとっての『勝利』とは、異界によって世界を塗り潰すことではなかった。
ただ只管に猟兵という存在を堕とすこと。
一般人である『青の狂信者』の肉体を盾としているのは、救えなかったという無力を植え付けるためでしかなかったのだ。
「ですが、それをものともしないのもまた猟兵ですね」
『青の狂信者』の肉体を傷つけさせない。
猟兵達の戦いに『五濁悪世』は笑むようだった。そうでなくてはならない、とでも言うかのように笑っていたのだ。
「あ、五濁先生とおっしゃるのですね。私、転校生の天羽々斬・布都乃(神剣使いの陰陽師・f40613)と申します。転校の手続きと、このあとどうすればいいか聞きに参りました」
職員室というのは、目上の人々の集う場所である。
何か粗相があってはならないと布都乃は行儀よく一礼して戦場となった職員室の戸を叩いて足を踏み出す。
そんな彼女に青い大剣の切っ先が振り下ろされる。
『青の狂信者』の一撃。
複数の猟兵を相手取るには並列の思考が必要であり、また傷つけられた肉体を再生する必要があった。
それを難なく『青の狂信者』はやってのける。それが彼のユーベルコードであると式神の子狐は布都乃へと告げようとして、彼女のあまりにも間の抜けた声に思わず叫ぶ。
『布都乃よ、やつがターゲットじゃ。もう転校生の芝居はよい!』
さっきも『ジャガーノーツ』と戦ったというのに、まだ転校生気分が抜けていないのかと叱咤する。
「――はっ、そうでした。転校生というのは邪神を倒すための手段だったのでした」
『今、思いっきり忘れとったじゃろ』
「面白い方だ。役にのめり込み過ぎましたか。いえ、あなたは違いますね。憧憬めいた感情を感じます。自分がこうであったかもしれないという可能性に心が踊りましたか?」
子狐と邪神の言葉に布都乃は思わず顔を逸した。
図星だったからだ。
学園生活というものに憧れがなかったのかと言われたのならば、きっとあるのだろう。ないと言えば嘘になる。
一欠片もないわけがない。
同年代の学友というものに恵まれなかった自分にとって、流星学園での出来事は、僅かな時間であってもかけがえのないものであったのだ。
友達だって出来てほしかった。
けれど、布都乃には使命がある。猟兵であるという使命以上に、この学園で行われたであろう悲惨たる惨状を二度と繰り返させてはならないと決意しているのだ。
「学園の生徒の皆さんの未来を閉ざすのは間違っています。何故なら、学校とは生徒の未来を切り開くためにあるのですから!」
「本当にそうでしょうか。未来とは見通せぬ暗闇のようなもの。どうせ生きていても、ただいたずらに争い、他者を貶め、傷つけるだけの運命など『正しい』とは言えないのではないでしょうか?」
「それは詭弁というものです。学ぶことは、その暗闇の一寸先でも照らす智慧の光を己に灯すこと! それを!」
ユーベルコードに輝く金色の瞳。
時を束ねる金色の瞳(クロノ・フォーカス)は、未来を見通す。
それにより己の拳に流れる時間を凝縮する。
時は質量を得ている。
ならば、凝縮された時間は堆積し、彼女の拳を重たいものへと変えていくだろう。
「時を束ね、全てを打ち砕きます」
振るう一撃は振り下ろされる大剣と打ち合い、ユーベルコードの明滅を巻き起こす。
凄まじい衝撃波が戦場となった職員室に吹き荒れ、布都乃は己の意志こそが、未来見通す瞳の先をより良いものにするのだと信じて疑わず、正しさを疑う『青の狂信者』に憑依する邪神を、その言葉通り、粉砕するように吹き飛ばすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
え、えと。
わたし前回からステラさんが何言ってるのか、
あまり解ってなかったのですが……。
今回さらに混乱してきたんですが!
あれ、エイルさんなんですか?
それにしては禍々しいっていうか、あれ絶対平和目的でないなーっていうか、
ステラさんがあれに仕えちゃうのは嫌だなーっていうかー……。
え? いえ、ぜんぜんついていけてません!(どやぁ
でもでも、とりあえず演奏していいのは解りましたので、
ステラさんのリクエストに応えちゃいますね!
許可がでたからには全力です! 響け、【ツィゴイネルワイゼン】!
わたしの想いは耳栓だった貫きますよ!
あの、これからもステラさんについていけばいいですよね……?(子犬の瞳
ステラ・タタリクス
【ステルク】
青の狂信者、ですか
また新しいエイル様ワードが
いえ、サイザナのバイスタンダーを見た時から違和感はありました
|青《善性》は|V《ヴィー》様のような希望だけではないのだ、と
五濁悪世……その赤には人の悪性を感じますね?
貴方の平和は人の為になるのでしょう
ですが
あなた方は平和を願われ、その為に才能を活かし、そして勝利する存在
勝利の為に願いを求めては本末転倒というものです
|エイル様《何者》にもなれない
でも貴方を貴方として主人様と認めるメイドなら此処におります
主人様の間違いを正すのもまたメイドの役目
ステラ、参ります!
ルクス様?ついてきていますか勇者?
出番ですよ勇者
演奏していいから頑張りましょうね?
末世にこそ救世主は現れる。
争いだけの世界にも。滅びに瀕した空の世界にも。終末訪れた世界にも。緩やかな滅び得る世界にも。
いずれも怒り、あさましき人の性が顕になる。
人の心が弱れば苦しみが多く生まれ、誤った思想を選択してしまう。
故に正しさを求める。
人にとって正しさとは導だ。
歴史の中で何が正しいのかを決めるのは集合意識ではない。ただ一人の思想こそが正しさを決定せしめる。
故に邪神『五濁悪世』は言う。
「『私』の齎す『平和』こそが正しいのだと。人は成長していくからこそ、穢れていく。赤子の如く純白であればいいもの、成長というエゴが魂を汚していくのです。ですから」
『五濁悪世』は『青の狂信者』に憑依しながら、猟兵達の攻勢を前に呻くようにしながらも笑う。
「『私』こそが正しい」
「青、とは。希望ではないのですか」
『五濁悪世』の青きオーラに向かってステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は問う。
「なぜ、善性を希望と捉えるのでしょう。正しいこと。善きこと。希望がなぜ良きことであるとあなたは思うでしょう。半端な希望が人の心を絶望の落とすこともあるでしょう」
違和感が募っていく。
滅びゆく世界の|傍観者《バイスタンダー》。
あれは確かにある種の存在に対しては希望だったのだろう。だが、それ以外にとっては希望ではなかった。
その違和感を、その赤い瞳にステラは『青の狂信者』を写す。
「貴方のいう、その赤には人の悪性を感じますね?」
「悪性転じれば善性でありましょう。表裏一体でありますから。そして、『私』の齎す平和は画一的なものですよ。誰も彼も救いましょう。滅びではない『死』は救いですから」
笑む様子にステラは思う。
あれは。
あの存在は。
「え、えと。わたし前回からステラさんが何言ってるのか、あまり解ってなかったのですが……」
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は困惑した顔でステラと『青の狂信者』に憑依する『五濁悪世』を交互に見やる。
「さらに混乱してきたんですが! あれ!? あれって『エイル』さんなんですか? それにしては禍々しいっていうか、あれ絶対平和目的でないなーっていうか! ステラさんがあれに仕えちゃうのは嫌だなーっていうかー……!」
ルクスは一気に捲し立てた。
その様子に『五濁悪世』は笑み、己が操る『青の狂信者』の肉体を再生していく。そして、青の大剣を突き立てれば、瞬時に生み出される『青の亡者』たち。
「貴方の平和は確かに人の為になるのでしょう。人は『死』を恐れますから。いえ、生命体であれば、いずれも恐れるものでしょう。遠ざけようとするのでしょう」
「ええ、ですから恐れることはないものだとお伝えしているのです。どんな生命も平等に。上下なく」
「ですが、あなた方は『平和』を願われ、そのために才能を活かし、そして勝利する存在。あなたは」
「勝利を求めました。あなた方猟兵に勝利するということを」
「あくまで、勝利のためだというのなら、それは本末転倒というものです」
ステラと『五濁悪世』の問答にルクスはついていけなかった。
溢れるようにして『青の亡者』たちがルクスとステラに迫る。
もう何がなんだかわからない。
捲くった腕に蕁麻疹が浮き上がっているし、かゆみがとまらない。シリアスアレルギー此処に極まれりという感じだ。
「ルクス様? ついてきていますか勇者?」
「いえ! 全然ついていけてません!」
「どや顔で言うことではないでしょう。ですが、出番ですよ勇者」
ルクスはこういうときだけステラが頼りにしてくることを知っていた。今までもそうだった。彼女の双銃の捌き方は卓越したものであるが、しかし、万能ではない。
数という暴威を前には時として追いやられてしまうこともあるだろう。
故にルクスが居る。
「しかたありません。演奏していいですから、頑張りましょうね?」
「えー! 演奏していんですか! なら、全力でーす! 響け! 私の想い! ツィゴイネルワイゼン!!」
一にも二にもなくルクスはバイオリンを構える。
リクエストされたのだ。応えなければならない。まあ、リクエストされたのは演奏っていうか、広範囲攻撃って意味だけど。
ステラは耳栓を無言で装着した。
「もはや貴方が何を言おうとも……|『エイル』様《何者》にもなれない。でも、貴方を貴方として主人様と認めるメイドなら此処におります。主人様の間違いを正すのもまたメイドの役目」
「あのー、ステラさーん、聞いてますー?」
「強情な方だ。関係ないと切って捨ててしまえばよいものを後生大事に」
『青の亡者』と共に『青の狂信者』が走る。
ステラは見ただろう。迫る大剣のひらめきを。
その剣線は正しく己を切り裂くだろう。
けれど、彼女も退けないのだ。
「ステラ、参ります!」
双銃構えたステラが大剣を受け流しながら、密着する超近接戦闘を開始する。銃撃と剣戟打ち据える音が響き渡る中、ルクスの想い籠められた演奏が響き渡る。
次々と吹き飛ばされていく『青の亡者』たち。
それはステラと『青の狂信者』との戦いを邪魔だてさせぬための壁そのものだった。
「あのあの! わたしの想いは耳栓だって貫くんですからね!」
「ええ、鼓膜に甚大が被害です」
ステラは耳がキーンとなりながら『青の狂信者』と撃ち合う。
その苛烈なる戦いのさなかにルクスの瞳が映るだろう。
それは子犬の瞳。
これからもステラについていっていいんですよね? という不安な面持ちに、ステラは心配する必要などないのだと笑み、その紫炎たる髪を振り乱しながら『青の狂信者』と、いや、『五濁悪世』を打倒さんと奮戦するのだった――。
大成功
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霞・沙夜
【路子さんと】
特に聞きたいことなんてありません。
……聞かなくてもお話ししてくれましたしね。
相手の言葉には、行動でお答えしましょう。
ゆきちゃん!
雪斗の大鎌で最初から思い切り攻撃を仕掛けます。
申し訳ないけれど、傷つけることにためらいはないわ。
『あなたを打倒しても精神は助からない』のでしょう?
それなら、速やかに送ってあげるのが優しさというものよ。
もし助かったなら、それはそれで幸運だしね。
あなたは見誤ってる。猟兵は別に正義の味方ではないんですよ。
ただオブリビオンを滅する、そういう存在です。
それに伴う犠牲や責任も背負いますが、
それが1つ増えたところで、路子さんもわたしも、どうということもありません。
遠野・路子
【沙夜と】
どこかで会った事ある?ないか
でもその瞳の色は危険だね
見えざる狂気のような……危うさを感じる
沙夜?
うーん、何か琴線に触れたらしい
これは後ろをついていくのがいいかな
沙夜と雪斗の邪魔をしないように援護
【ゴーストイグニッション改】
あなたと戦うならこれ以外にあり得ないね
この地で死に、無念に囚われている霊と合体
「あなたは『先生』だったかもしれない。
でもこんなにも無念を撒き散らかして。
それが自分の勝利を得る為だけのものだとしたら
あなたは何の為に勝利を得ようとしている?」
私の今の力こそがその証左
残念ながら私も沙夜もそういうところはドライなんだ
ゴーストに縁があるっていうのはこういうことかもしれないね?
溢れる『青の亡者』たち。
それは『青の狂信者』を取り囲み、守るように出現していた。ここに来て猟兵たちに肉盾として『青の狂信者』が役に立たないことを憑依する邪神『五濁悪世』は悟ったのだろう。
「仕方ありませんね。結局物量で押し殺す方が速いようです」
彼は笑む。
邪神に憑依された『青の狂信者』の顔で『五濁悪世』は笑む。
余裕がある、というわけではないはずだ。
度重なる猟兵に寄るユーベルコードの攻撃によって消耗しているはずだ。なのに、彼は笑む。
その不気味な笑みに遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は訝しむ。
「どこかで会った事ある? ないか」
「ええ、ないでしょうが、あるかもしれません。『私』はそういうものですから」
赤く煌めく瞳。
揺らめく青い鎧の巨人の如きオーラ。それこそが『青の狂信者』に憑依した邪神の本体だ。
「『平和』あるところに『私』は居る。『平和』の後先にこそ争いが生まれるのです」
だから、己が居る、と。
その在り方に路子は危ういと感じるだろう。
見えざる狂気のような、それに似た感触を覚える。
「……違うね。これは、狂気じゃない。歪んでいるだけだ。歪められて叶えられた願いの……!」
「そうでしょうとも。万能宝石は『私』も生み出したと言えましょう」
「おしゃべりはそこまでにしましょう。聞かれずともべらべらとお話してくれましたしね」
その言葉を切り裂くようにして、霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)の瞳がユーベルコードに煌めく。
「ゆきちゃん!」
その言葉と共に沙夜は瞳を煌めかせる。
雪斗の手にした大鎌の一閃が『青の狂信者』の手にした青い大剣と打ち合い、火花を散らす。。
「申し訳ないけれど、傷つけることに躊躇いはないわ」
「思いきりがよいですが、しかし、それでいいのですか?」
「あなたが言ったことよ。『あなたを打倒しても精神は助からない』と。なら」
沙夜の振るう大鎌が『青の狂信者』の胴を切り裂く。
横一文字に切り裂かれた肉体から血潮が溢れるも、大剣から溢れる青いオーラが傷を塞いでいく。
「おっと……確かにそう言いましたね。ですが、本当だと思いますか? 欺瞞であるとは思いませんでしたか?」
邪神が真たる言葉を吐き出すものであろうか、と『五濁悪世』は笑む。
底意地が悪い、と路子は思ったことだろう。
「あなたと戦うのなら、これ以外にありえないね――ゴーストイグニッション改(ゴーストイグニッションカイ)!」
路子は断末魔の瞳でもって戦場を見やる。
ここには死が溢れている。
これを『卒業』と『五濁悪世』は宣った。だが、路子にとって、この戦場に残された無念は、到底、『卒業』といった言葉に置き換えられるものではなかった。
無念が溢れている。
それらを手繰り寄せ、彼女は合体し、膨れ上がる力が制御できないことを知る。
「こんなにも無念を生み出しておいて」
「後悔だってあるでしょう。まあ、死んだ後に後悔したところで、全て遅きに失するというものですが」
笑む顔が路子の、沙夜の逆鱗に触れる。
欺瞞を。偽善を。
その全てを嘲笑うかのように掌で己たちを転がそうと企む者を睨めつける。
「あなたは『先生』だったかもしれない。でも、こんなにも無念を撒き散らして。それが自分の勝利を得るためだけのものとしたら、あなたは何の為に勝利を得ようとしている?」
「『平和』の為でしょうとも。それを実現するために『私』は願われたのですから。『平和』というものの礎になるのです。ならば、後悔など本来はないはず」
「それでも、人は生きることを求める。例え、死に向かう生命であったとしても」
お優しいことだと、せせら笑う邪神を沙夜は冷ややかに見下ろす。
「あなたは見誤ってる。猟兵は別に正義の味方ではないんですよ。ただ、オブリビオンを滅する、そういう存在です」
だからこそ、沙夜は欺瞞を切り裂くようにして大鎌を雪斗に振るわせる。
溢れる『青の亡者』たちを切り捨て、道を開くのだ。
「犠牲や責任を負うことなど、もうずっと私達はしてきたのですから。選択に犠牲はつきもの。選ばれなかったものに贖うためには!」
戦い続けなければならない。
選んだものが誤ちではないのだと、いつの日にか咲くものがあると信じるために。
「もう一つの選択を切り捨てても、進む路に後悔なんてないよ」
例え、ドライだと言われても。
それでも路子と沙夜は、己が選んだものであると誇るだろう。
謗るのならば、謗ればいい。
例え、それが己が身を強く撃つものであったとしても、己たちは立ち止まらないだろう。
故に、大鎌が切り開いた道を一直線に飛ぶ無数の無念集めた雑霊弾の一射が『青の狂信者』を穿つのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
馬県・義透
さて…ここはあなたに交代しましょうかー。
これ、今だとあなたの方が向いてますしー。秘匿してましたし。
※人格交代
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎、四天霊障
ま、そうであろうな。ここはわしが持つ力を活用する場面である。
一般人が盾にならぬことを知るがよい。
UCによる追い込み猟よな…。
これが燃やすのは、オブリビオンたる邪神のみである!延焼もしかり。
そういうところは、間違えぬのよ!
ちなみにな、一般人たる従者は…黒燭炎の柄の部分で薙いで気絶させる…と見せかけて、見えぬ四天霊障での催眠呪詛で眠らせていく。
武器持ったの、この方が目立つからであるよ。
溢れる。
溢れる。
溢れこぼれてしまったものが、いくつもあっただろう。
この異界『カクリヨ・インサニティ』において失われた生命は無数。あまりにも多くの生命が喪われている。
それを知らしめるように『青の狂信者』が突き立てた青の大剣より溢れるは『蒼の亡者』たちであった。
生命有るものに対する怨恨。
どうして己達が生きていなくて、お前たちが生きているのだと弾劾するかのようなうめき声が溢れている。
それをみやり、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は『侵す者』と表層を切り替える。
「頼みましたよー」
「ああ、そうであろうな。ここはわしが受け持つ時よな!」
『侵す者』が振るう槍が唸りを上げる。
其の様を『青の狂信者』に憑依した邪神『五濁悪世』は見やる。猟兵たちによる攻勢によって憑依した肉体であり、器である『青の狂信者』の傷の再生を優先しているため、『青の亡者』による数による圧殺を目論んだのだ。
だが、それを『侵す者』は許さない。
「小手先よな、数など!」
踏み込む。
『青の亡者』たちは確かに数を頼みにしている。だが、己がたかが数で止まる程度の存在ではないことは、自身がよくしっていることだ。
「わしらを前にして一般人が盾にならぬことを知るがよい」
「無意味という意味でも、無為、という意味でも実感しておりますよ。ですが」
「ああ、故にチンケな手を出したな! これなるは、鷲に流るる力よ!」
煌めくユーベルコードと共に、無数の紅輝の魔断狼が戦場に解き放たれる。それらは一瞬で『青の亡者』たちの喉元に食らいつき、其の存在を霧散させていくのだ。
そして、その燃える体躯でもって戦場を切り裂いていく。
「これが燃やすはオブリビオンのみ! 邪神である主も例外ではないと知れ!」
「違えると思いは致しませんか? 万が一にでも、と」
「そういう所は間違えぬのよ!」
踏み込み槍と大剣が撃ち合う。
火花散る刃と刃。
邪神『五濁悪世』が猟兵に利するところは、一般人である『青の狂信者』という盾と数である。
だが、それらの尽くを猟兵たちは覆してきている。
万が一などない。
ただ只管に槍と狼の燃え盛る炎でもって『五濁悪世』を追い詰めていく。
「戦い、という意識すらそこにはないのよな。これは言うなれば追い込み猟とでもいうべきかの!」
「賢しい真似を」
「賢しくて結構! これが私に流れていた力よ、それを形にしたものでしかないのだ! 故に滅びよ、邪神!」
どれだけ『五濁悪世』が己達猟兵を追い詰めるのだとしても、謀るのだとしても、それでも踏み越えていく。
己たちは猟兵である。
確かに一般人を救おうと思う者いれば、敵を打倒することに注力するものもいるだろう。全ての思惑が違う。
けれど、だからこそ、共に戦うことができるのだ。
それを示すように吹き荒れる炎。
それはユーベルコード、四天境地・火(シテンキョウチ・ヒ)によって生み出された苛烈なる炎の狼の遠吠えのようでもあった。
「知るが良い。どれだけ策を弄するのだとしても、それをかみくだく者がいるのだと」
走る狼の炎が『青の狂信者』を取り囲み、その炎と共に放たれる槍の一撃が、『青の狂信者』に取り付く邪神のオーラを吹き飛ばすように穿つのだった――。
大成功
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ティオレンシア・シーディア
うーんいっそ清々しい|こいつの命が惜しければ《テンプレパターン》。
(あたし一人ならそのまま殺っちゃうけど…そうもいかないしねぇ)
ま、テンプレになるだけわかりやすい手ってことは、当然対処法くらいはあるのよねぇ。
●圧殺起動、刻むのは|イサ・ソーン・ニイド《遅延のルーン三種》に|アンサズ・ラグ・ティール《神言による浄化齎す勝利の剣》。煙幕や閃光弾も織り交ぜて○捕縛・目潰し・足止めでイヤガラセしつつ○破魔と浄化叩き込むわよぉ。…もちろん、妨害だと思って放置したら攻撃系のグレネードも飛ぶわけだけど。
やぁねえ…狂気ならともかく、たかが邪神ごときが悪意で人間に勝とうなんて、おこがましいと思わないかしらぁ?
いっそのこと清々しいとさえティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は思った。
異界たる『カクリヨ・インサニティ』の中心、職員室に座していた邪神『五濁悪世』が評した『青の狂信者』は盾である。
猟兵は多くが一般人を見殺しにすることはない。
故に邪神『五濁悪世』は『青の狂信者』をあえて狂気に染め上げ、己が憑依することによって猟兵の躊躇いを引き出そうとしていた。
いや、ためらわずとも良いと思っていたのだろう。
仮に器たる『青の狂信者』が殺されても、使い物にならなくなったとしても、『五濁悪世』は惜しいとは思わなかった。
万に一つにしても、猟兵がこの結果を受けて心に傷を負えばいいとさえ思っていたのだ。
だからこそ、ティオレンシアは鼻を鳴らして笑む。
「|こいつの生命が惜しければ《テンプレパターン》。なんて、そういうの、流行らないわよぉ、今更」
「そうでしょうか。ええ、たしかに。猟兵の反応を見るに、烈火の如く怒り狂うと思っていだけに冷静そのものであるようですね」
邪神『五濁悪世』の言葉にティオレンシアは内心――。
「ですが、あなたは自分一人だったのならば、そのまま、と思って居ませんか?」
「まさかぁ。ま、そういうカマかけもテンプレの一つってわかりすいわぁ?」
ティオレンシアは読心するかのような邪神の権能を前にしても揺らぐことはなかった。
今更だ。
言葉通り。
そう、今更なのだ。
この程度の揺さぶりで揺らぐようならば、猟兵として、いや、|ティオレンシア・シーディア《己自身》として存在などしていられようか。
故に細められた瞳の奥でユーベルコードが煌めく。
「圧殺(アレスト)、起動」
シトリンが描くは魔術文字。
遅延のルーンを三種瞬く間に空中に描き、さらに神言による浄化と勝利の剣たる意味。
刻まれた魔術文字は六連装リボルバーの弾倉にある弾丸に宿る。
銃口が跳ね上がり、その剣呑たる輝きが『青の狂信者』へと向けられる。
躊躇いはなかった。
引き金は軽い。
邪神『五濁悪世』は知っただろう。ティオレンシアという猟兵の存在を。彼女はためらわない。
例え、彼女のユーベルコードが運が悪ければ死に至るのだとしても、彼女は一向に構わない。
ただ只管にティオレンシアは邪神との戦いの勝利へと邁進していくのだ。
放たれる弾丸は煙幕と閃光が迸る。
それは織りなすブラフの積み重ねであった。妨害の弾丸だと思えば、身をグレネードの爆風が打ち据える。
二重三重に重ねられたイヤガラセが『青の狂信者』を翻弄し、演算の速度を鈍らせる。
「なんとも嫌らしい真似を」
「やぁねぇ……」
ティオレンシアは煙幕と閃光の最中を駆け抜ける。
此処は戦場だ。
敵のしたいことをさせず、己のしたいことを押し通すことができる者こそが勝利を掴むことができるのだ。
それが戦いにおける鉄則。
「あなた、『勝利』する才能を持っているようだけど、圧倒的に経験ってものが足りていないようねぇ?」
「どういう意味です」
これまで余裕を持っていた『五濁悪世』のオーラが揺らぐのをティオレンシアは見ただろう。
当たりだ、と彼女は笑む。
あの電脳技術発展する緩やかな終末に向かう世界に在りし者と同じだ、と。
あれもまたそうだった。
凄まじい能力を持ちながら、『勝利』すること以外の才能を持ち得ない。故に、敗北することを知らない。
だから、引っかかる。
「狂気ならともなく、たかが邪神ごときが悪意で人間に勝とうなんて、おこがましいと思わないのかしらぁ?」
瞬間、炸裂するグレネードが刻まれたルーンの意味を発露するように勝利の剣のような衝撃を持って、『青の狂信者』に憑依する青い鎧の巨人のごときオーラを吹き飛ばすのだった――。
大成功
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ディル・ウェッジウイッター
依り代の方を救出したとて何かを聞ける状態ではない様子。このまま倒すこのがよろしいかと
あなたが何を求めようと私の意見は変わりません。これからの可能性を費やすおつもりならば私はその願いを絶たせていただきます
おや、従者ですか。にぎやかですね。ではこちらも力を借りますか(古びたポットの中で眠るヤマネを起こしながら)
起きなさい、仕事ですよ。寝床に提供しているポットの家賃位は働いて返しなさいな
UCで眠らせて従者たちの連携を崩し、体勢を整える前にカトラリーを五濁悪世と狂信者へ攻撃します
さて五濁悪世と呼ばれるお方
『ご卒業』、おめでとうございます。卒業後はどうなるかは存じませんが『善き』門出をお迎え下さいね
閃光と煙幕が荒ぶ職員室こそ、この異界たる『カクリヨ・インサニティ』の中心。
揺らめくようにして『青の狂信者』の肉体を覆うのは青い鎧の巨人めいたオーラ。それこそが、世界を異界に塗り潰すユーベルコード『カクリヨ・インサニティ』を手繰る邪神『五濁悪世』であることをディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)は理解する。
「人質、など意味をなさない、ということですか? それはそれで構いませんが、しかし、どうなのでしょう。『私』がいなくても世は乱れて行くことでしょう。世界は加速度的に末世へと進んでいく」
故に、と邪神『五濁悪世』は願われた『平和』のために、この狂気たる世界でもって異界へと堕さんとしている。
それを前にディルは言い放つ。
「あなたが何を求めようと私の意見は変わりません」
「意見、とは?」
「これからの可能性を費やすおつもりならば、私のその願いを絶たせて頂きます」
生命を。
多くの生命を犠牲にして得られるのが『死』という救いだというのならば、それは誤ちである。
遅かれ早かれ人は死ぬ。遠かれ近かれ、人は必ず其処にたどり着いてしまう。
UDC組織が隠匿したかったのは、その終末的な、破滅的な思想である。知ってしまえば、甘美なる誘いであるからだ。
正しさを愛するのが人間である。
『死』が終着であり、誰もが到達するものであるのは『正しい』。ならばこそ、人は『正しさ』を愛するあまり、『死』を望んでしまう。
それを求めるからこそ、ディルは願いを絶ち切る。
「ならば、『私』は正しさの中にある、ということでしょうとも」
突き立てられた大剣から溢れるようにして『青の亡者』たちが飛び出し、ディルへと襲いかかる。
「起きなさい、仕事ですよ」
ディルは己のティーポットの中で眠るメガリスたちを揺するようにして起こす。
煌めくユーベルコードの輝き。
古いティーポットの中にあったのは、ヤマネ……齧歯類たちであった。
まるで寝床のようにティーポットの中で、それらは過ごしている。冬眠する彼らは黒い眼をパチクリとしばたかせながら飛び出す。
家賃くらいは払ってもらおう、とディルは賑やかに飛び出す彼らの背を見送る。
走る彼らは一気に『青の亡者』たちの間隙を縫うようにして走り抜ける。
次々と彼らは眠りに落ちるようにうなだれ、その場に突っ伏していく。動かない。いや、動けないのだ。
無数のヤマネたちが駆けてディルの手にするティーポットの中へと戻っていく。
眠りヤマネは夢を見る(ドーマウス・ランニング)が、邪神は夢を見ない。
「眠り……死の隣にある者……」
「ええ、『死』を感じたいのならば、一番近しいと言われる状態、それが眠り。さて、『五濁悪世』と呼ばれるお方」
カトラリーを手にディルは踏み出す。
交錯する大剣の青き閃光と彼の持つ銀の一閃が交錯する。
ディルは背にある『青の狂信者』が崩れ落ちる音を聞いただろう。
一瞬の交錯。
それはこれまで猟兵達が積み重ねてきた戦いの消耗があればこそ。
ディルは恭しく振り返り、一礼する。
「『ご卒業』、おめでとうございます」
慇懃無礼とはこの事であっただろう。ディルの所作は完璧だった。それ故に、邪神『五濁悪世』は、その青きオーラを『青の狂信者』から乖離させられるようにして浮かびゆく。
「卒業後はどうなるかは存じませんが……ええ、『善き』門出をお迎えくださいね」
霧散していく青きオーラが何事かを告げていたようだったが、ディルは構わなかった。
取り合う必要などない。
そう、異界は拭われた。
邪神の目論見。
世界を塗り潰すユーベルコードは、世界に甚大なる傷跡を残す。だが、それはまだ取り返しのつく傷跡である。
もしも、猟兵達が間に合わなかったのならば……取り返しの付かぬ事態になっていたことは想像に硬くない。
ディルはゆっくりとティーポットを揺らす。
中に眠るヤマネたちは居ない。
新しいティーポットを揺らし、茶葉の香りが狂気満ちた世界を塗りつぶしていく。
再び目覚めるであろう、今回の事件に巻き込まれた人々を目覚めのお茶でもてなす。それがディルに残された最後の仕事だった。
そして、『きっと何者にもなれない』と嘆く者たちは、その思いすら香りが忘れさせてくれるだろう。きっとそうだといい。
これは門出ではない。
区切りだ。
いつだってそうだけれど、これが『善き』ものでありますように、とディルは願い、ティーカップに注がれる音に瞳を伏せるのだった――。
大成功
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