Plamotion Jellyfish Actor
●ごきげんな足取り
『五月雨模型店』の面々と共に行ったキャンプの帰り道、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は巨大クラゲ『陰海月』と共にキャンプ地への行きがけに立ち寄った模型店に向かっていた。
共に『五月雨模型店』の面々たちも付いてきている。
なぜかって言われるとプラモデル関係のことであるのならば、なんにでも首を突っ込みたくなる性分なのである。わからないでもない。
だってホビーのことであるかね。
興味津々である。
「それにしてもすぐに作り上げちまうなんてなー! すごいぜ!」
『アイン』と呼ばれる少女が『陰海月』と何事か喋っているのを『疾き者』は後方で見ていた。
いや、普通に喋っている。
意思疎通ができているのだろうか。
『陰海月』はぷきゅぷきゅと鳴いているだけなのだが。
「え、ええっ、なんとなく、ですけど。はい」
『フィーア』と呼ばれる少女も『ドライ』と呼ばれる少年も頷いている。『ツヴァイ』と呼ばれる少女は些か頭が固いのか、まだわかりません、となんだか悔しそうだった。
そんな彼らと共に『陰海月』は行きがけに立ち寄った模型店の前にやってきていた。
また何か買い忘れたものがあったのだろうか。
いや、違う。
どうやら『陰海月』は購入した『幻想騎馬隊限定Ver.騎手クラゲ兵』が完成したのを、この模型店の店主に見せたかったようだった。
「こんちはー!」
「ぷきゅー!」
挨拶大事。
面々と共に『陰海月』が一礼して入店すると店主は顔を上げる。
そこまで愛想が良い店主であるとは言えなかったけれど、先日訪れた奇妙な客である『陰海月』のことを覚えていたのだろう。
というか、猟兵に属するものであるから違和感を与えないまでも、やはり印象に残るものえある。
「何か買い忘れでも?」
「ぷきゅー!」
「どうやら、この子が此方で購入した模型を完成させたので一度お見せしたいとのことで参った次第でしてー」
『疾き者』の言葉に店主が頷く。
老眼が始まっているのだろう。老眼鏡を外して、差し出された『騎手クラゲ兵』を見やる。
緊張の一瞬である。
褒めてもらえるだろうか。いや、褒めてもらおうという気持ちもないのかもしれない。
『陰海月』にとっては、ただ只管に楽しかったということを伝えたかっただけなのかもしれない。
けれど、自らの手で作り上げたものは、その作り手の意志が、思惑が如実に現れるものである。
一つ一つの作業に意味がある。
そして、その一つ一つに魂が宿るのである。
ゲートの処理。組み合わせ。塗装。工夫。技術。
そうしたものが染み込んで一つの完成になるのだ。そして、それは世界に一つだけの、君だけの模型になるのである。
「良い出来栄えだ。よく作ってある。坊っちゃん、楽しかったようだね」
「ぷきゅ! きゅ!」
「もちろん、楽しかった、と」
通訳をしている『疾き者』に店主は手で制する。通訳してもらわなくても伝わっているようだった。
「それはよかった。なら……」
店主が店先をしばし離れる。
何を、と首を『陰海月』と共にかしげていると店主が一つの箱を持って戻ってくるのだ。
「これも作って見たいとは思わんかね。いや、何、押し売りのような形になってしまうことは申し訳ないが」
「こ、これは……!」
『疾き者』は店主が持ってきた箱の正体を知っていた。
なぜなら、『疾き者』たちは『陰海月』が『クラゲ兵』を欲しがった時、インターネットを介して多くの転売価格というものを見てきた。
所謂プレミアム価格というものも。
だからこそ、その存在を目にしていたのだ。
それは『幻想飛空艇限定Ver. 操舵手クラゲ&落下傘クラゲ兵』であった。言うまでもなく超絶レア品である。
「て、店主、これの値段が今どれほどになっているのか……」
「知らんよ。値札の値段以上でも以下でもないだろう。これはそういうものだ」
「ぷ、ぷきゅー!!!」
店主の持ってきた箱に『陰海月』は興奮しきりであった。
言うまでもなく価格が高騰している一品である。意外にもクラゲ兵の造形が人気なのだ。しかし、昨今のインターネット事情を考えていれば、とっくに売り切れていても仕方ない商品。
なのに、と訝しむ『疾き者』たちを前に店主は破顔して言うのだ。
「なぁに、こんな田舎の模型店だ。見過ごされてきたのかもしれん。だがまあ、これも合縁奇縁。『欲しい』よりも『作りたい』と思われた方が、この模型も幸せだろう」
その言葉に『疾き者』は頷く。
「ぷきゅ!」
その言葉に『陰海月』が鳴く。
作り上げたのなら、また見せに来ると。
その約束だけで十分だと店主は笑っている。こうして様々な縁が紡がれていく。
触腕が震える。
興奮しているのだろう。ホビーを前にしては、何時まで経っても慣れぬことのない感動めいた心持ち。
それを経験した『陰海月』の姿に『疾き者』は柔らかく笑み、見守るのだった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴