薄っすら白みかけた夏空を見上げれば、まだ綺羅星たちの余韻は残っているが。
これからの空は目まぐるしくその彩を変えていくだろう。
そんな、ある夏の夜明け前であった。
橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)と月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)が、グリードオーシャンのこの島を訪れたのは。
いや、この島はあくまで入口に過ぎない。
「ユアさんは水の中とか、平気ですか?」
「うん! 全然大丈夫! 人並みに泳げると思うよ~」
ふたりが夏休みのひとときを過ごすべく向かうのは、そう。
「ふふ、なら良かった。では海中散策なんていかがでしょう?」
「いいねぇ~♪ 行こうか! 海中を散策できるなんてこういう時くらいだもんね?」
海の中――眼前に広がる海の底。
「入口は此処のようですね」
やって来た島の海岸から海に入れば、そこは美しき世界が広がっていると。
そう話は聞いていたが。
「ふふふ、どんな景色が広がっているのか、楽しみですねぇ」
ゆるゆら機嫌良く尾を揺らして歩んでいた千織の足が、ふいに止まって。
ユアがそれに並んだのは、ほんの一瞬。
ニッと笑いかければ刹那、身を投じる。
「じゃ。いざ夏の海中へ!」
そんな何の躊躇もなく嬉々と飛び込んだユアに、千織も続けば。
思わず、お耳がぴこり。
「はわぁ……すごいですねぇ。本当に海の中に花畑が広がっているのね……とても綺麗……」
とりどりの魔法の花たちが咲く、海中の景色に。
ユアも巡らせる金の瞳に花たちを咲かせつつ頷いて返す。
「わぁ……ホントだよね。海の中で……こんなにも生き生きと咲いている……」
呼吸も会話もできるのは、海中に咲く魔法の夏の花たちが空気を出すからだという。
それでもやはり、此処は海中であることに違いないから。
「周りもやはり普通のアクアリウムよりも迫力? があると言うんでしょうか……」
「そりゃもう海が織り成す天然のアクアリウム……」
眼前に広がるのは、天然アクアリウム。
いつもは水槽の外から見ている世界に入り込んだようで。
「ついぼうっと魅入ってしまいますねぇ」
「この世界の自然が創り上げる芸術だよね」
水底へと身を委ねながらも海の世界をただ見つめる千織の声に、ユアも紡ぎ落とす。
……きっと人の手で作るだなんて叶わない、と。
そして魔法の花咲く夏の海を泳ぐのは、此処に棲む住民たち。
小さな魚の群れに、カメやクラゲの姿も見えるけれども。
千織がふと視線向けた先にいたのは。
「あら、あそこにイルカがいますよ」
「……ん? ……お~! イルカもたくさん泳いでるじゃん! みんな仲良しで楽しそうだ♪」
無邪気に泳いでいる数頭のイルカたち。
そんな様子を千織はじいと見つめて。
「何だか楽しそうねぇ、一緒に泳げたりするかしら?」
尻尾をそわりと微か揺らしつつ言えば。
「……ふふっ。いってみる?」
「……へ? はわ!?」
瞬間――いくよ! って。
思いたったら実行あるのみ!
ユアは彼女の手を引いてすいっと向かう……仲間に入れて~って。
そう瞬く間に手を引かれた千織のすぐ目の前には、イルカたちの姿が。
それからユアは、自分達に興味を示した彼らに、そっと手を伸ばして戯れてみる。
……一緒に遊んでくれるかい? って。
そして。
「どうでしょう? 遊んでくださいますか?」
「OK♪」
ユアはそろり窺う千織にサムズアップ!
差し出した手に応えるように、口先でつんつんしてくれたから。
そんなユアのサムズアップにふふふと笑んでから。
くるりと自分達の周りをじゃれるように泳ぐ彼等へと、千織も優しく手を伸ばして。
「さあさ、みなさんで遊びましょう」
「乗せてくれるの? ……お~! 早い!」
「……はわ!? やはりイルカさんは、泳ぐのがとても速いのですねぇ」
背中に乗せてくれたイルカたちと暫し一緒に、海の冒険へ。
そして連れてきてくれたのは、さらに一面に花咲く、美しい海のお花畑。
向日葵にハイビスカスやプルメリア、ダリアやポーチュラカにマリーゴールド……夏の花が咲き誇り、その間を魚たちが気侭に泳いでいて。
ふと海底を歩きながらも、千織はこんな提案を。
「そういえば……この花畑、真珠貝が見つかるそうなんです。せっかくですし、今日の記念にひとつ探して交換しませんか?」
それに頷いて返しつつ、さらにユアはこう付け加える。
「お。ナイスアイディアだね♪ 真珠、一つもらってアクセサリーにでもするかい?」
……この夏が一等楽しかったって笑い合える形に作りたいな、って。
「あら、それも素敵ですねぇ。ぜひそうしましょう!」
……そうと決まれば気合いを入れて探さねばいけませんね、と。
千織がぐっと気合いを入れたなら、宝物探しのはじまり!
暫し互いに真珠を探すべく、海底の花畑を泳いで。花や葉陰を優しく覗いてみれば。
千織は花たちを傷つけぬよう、そうっとその手を伸ばす。
「あら……これは……ふふふ、良い色が見つかりましたねぇ」
ユアも、彼女に似合いの真珠が見つかればいい、と探索していれば。
柔く降り注ぐ陽光が照らす先に、見つける。
……その色はまるで彼女の穏やかな印象を思わせた、なんて。
思い描いた通りのいろをした、小さな輝きを。
そして、これをもらおう、って。優しく貝から真珠を受け取る。
それから再びふたり合流すれば、満を持して。
「じゃ。ボクはこの真珠を、キミにあげるよ。千織さん」
「はい、では私からはこちらを」
互いが見つけた宝物を、交換こ。
そっとユアが千織の手に転がすのは、太陽のように温かな橙色の真珠。
千織も、満月のようにまん丸のほんのり黄みがかったひとつをユアへ。
「ふふふ、ユアさんの瞳がとても綺麗な月色ですからねぇ」
「ははっ。それをいうならキミだって、とっても綺麗な太陽の色をしてる。その瞳は」
相手のために見つけた真珠はそう、互いの瞳を思わせるいろ。
そして、ころんと手のひらに転がる一粒と同じ色を千織は細めて。
「あらあら、まあまあ! ユアさんはとっても嬉しいことを仰ってくださいますねぇ」
瞳を褒められれば、くすぐったいわ、なんて、ふわふわ照れ笑い。
そんな姿に、ユアも笑み咲かせる。
「……ふふっ、喜んで頂けてなによりってね♪」
それから今度は、自分の手の中の真珠をお互い見つめて。
「どんなアクセサリーにしようかしら」
「そうだなぁ……。ネックレスやブレスレッドにするのがいいかな?」
「いいですねぇ。では私はブレスレットにしようかしら」
そう相談し合うのだって、とても楽しくて。
帰ってからのお楽しみにもまた、わくわく。
それから、薄紅に橙、白に青――暁の光に彩移ろう海底を並んで歩みながら。
「ユアさん、またお出かけ、お付き合いくださいな?」
「こちらこそ! また一緒に出かけよう」
千織が紡げば、ユアもにまりといつもより無邪気な笑顔を咲かせる。
……千織さんとのお出かけは綺麗なものがいっぱい見られて楽しいや♪ って。
そう、心からの本音を口にして。
そんな言葉や笑顔に、千織もふわほわ。
「ふふ、それはそれは。私もユアさんとのお出かけはとても楽しいですよ」
ゆるり機嫌良さげに尾が揺れれば、いつの間にかついてきている小さな魚たちも一緒にゆらり。
そんな楽しい海底の冒険は、まだもうちょっとだけ続きそう。
夏の思い出という、さらなるふたりだけのお宝を求めて。
成功
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