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移ろいゆく星彩の海にて、娘ふたりは華やいで

#スペースシップワールド #ノベル #猟兵達の夏休み2023 #ロサーリオ群星連合王国 #セレスティアルマロウに花は揺蕩う

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八坂・詩織




 水の星アンディヴェヌス。
 暮合のレジャー&リゾートホテル『シアヌス』では、屋外プールの輝く水面がその色を優しげに揺れる紫へと変えていた。
 空は黄金と淡い|薔薇色《バッコ》の共存するマジックアワーの訪れに、幻想的なひとときを演出する。
「色変わりするハーブの特性を活かしたプールとは面白いですね」
 八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は少し早い夜の黒を纏う。星座がビキニにパレオにとその姿を宿して瞬いていた。
 彼女に誘われて同行した虹目・カイ(未来は虹色・f36455)は鮮やかな青と眩しい白のセーラー風水着という出で立ちだ。この時間帯の空と水面に合わせてか、今日の瞳は紫色で。
 プールサイドのビーチベッドに並んで腰掛け、他愛ない会話に興じる。
「私ちょっと調べたんですけど、マシュマロのマロはマロウのマロから来てるとか……」
 天文学を好む詩織だが、中学理科教師として植物にも造詣は深い。何より興味の対象を調べ、学ぶことを楽しいと思える性質だった。生来、向学心が強いのだろう。
「同じアオイ科のウスベニタチアオイの根の部分を原料にしてたそうで。喉の薬だったそうですね」
「成程」
「今はゼラチンを使うのが一般的ですから知りませんでした……虹目さんはご存知でした?」
「雑学として聞き齧った程度には。しかしそれが根からのものであること、薬であったことは初耳でしたね」
 頷くカイに、ふと何気なく水出しマロウブルーのグラスを持ち上げ――ああ、と詩織は小さく声を上げた。
「だから水出しマロウブルーにマシュマロが添えられてるんですね。もしかしてマロウの根を使って作られてたりするんでしょうか?」
「ふふ、そうかも知れませんね」
 緩く笑むカイの声を聞きながら、詩織はマロウブルーにレモンを浮かべた。既に鮮やかな青から澄んだ紫へとその色を変えていた水面は、揺蕩う黄色を源にして淡いピンクへと移ろいゆく。空へと訪れた、魔法の時間のように。
「マロウブルーに含まれる青色色素のアントシアニンがレモンの酸性に反応して、アルカリ性から酸性に傾くことで色が変わる……私、こういう色変わり実験大好きです」
「流石は八坂様、博識でございますね」
 手放しで褒めてくれるカイだが、そう言えば彼女は根っからの文系人間で理数系が苦手らしかったと思い出す。学生時代の成績は悪くなかったとも言っていたので、地頭は悪くなさそうなものだが。
「バタフライピーも有名ですし、紫キャベツとかブルーベリーでも実験できるんですよ」
「ほう」
 折角なので理科に少しでも興味を持って貰えたら嬉しいと、詩織はそんな話を振ってみた。
 平素と変わらずニコニコしているカイが何を考えているのかは、相変わらず読み取りにくいけれども。それでもちゃんと話を聞いてくれている辺り、手応えはあったと思いたい。
「……アルカリ性のかんすいが入った焼きそば麺を使った色変わり焼きそばとか、いつか山立さんに作ってほしいですね」
「提案してみては? 食へのチャレンジャー精神は旺盛ですからね、彼は」
 二人の脳裏に、ストイックな後輩猟理師の顔が浮かぶ。確かに彼なら快く作ってくれそうだ。
 ひとつのものが幾つも色を変え、また別の姿を見せる。例えば空であったり、紅茶であったり、料理であったり……その神秘は案外、身近なところにも満ちているらしい。
「そういえば虹目さんもよくカラコンで瞳の色を変えてらっしゃいますよね」
「……ええ、そうですね」
 その時、カイの顔から表情が消えた。
 微笑んでは、いる。しかし何処か作り物のようだった。
「……瞳は少し色が薄くなっただけなので」
「はい?」
「いえ、何でもございませんよ」
 よく解らないが、余り深く話したくない内容なのだろうか。
 詩織は首を傾げつつも、話題を変えることにした。
「まあ私も|起動《イグニッション》すると瞳の色が変わるんですが……やっぱり瞳の色が変わると印象も変わりますよね」
「そうですね、色が持つイメージの力は図り知れませんから」
 ニコ、と笑うカイは、もういつもの彼女に戻っていた。
 対象的に、空はすっかり青藍へと染まり、満天の星が瞬いている。目の前に広がるプールも、ピンクへとその色を変えていた。
「折角ですし、ちょっと泳いでいきましょうか? ピンクのプールで星空を見上げながら泳ぐのも楽しそうです」
「ええ、ようございますね。滅多に出来る経験ではありませんから」
 ふたり、輝きの中へとその身を委ねて揺蕩う。
 星々が、その姿を微笑ましげに見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月19日


挿絵イラスト