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修羅のココロエ

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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源・全




「お願いがあるの!! 全くんの力が必要なの!!」
 その言葉を聞いた時、源・全(地味目主人公系男子・f40236)は最早嫌な予感しかしなかった。
「……えーと、なに?」
 やりかけのゲームから、手を離さなかったのはせめてもの抵抗であった。「姉さんがその言い方する時、だいたいロクなことが無いんだけど」と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。だって言っても言わなくても結果は同じ事になりそうだったから。
「あのね、お盆に私と一緒にイベントに行ってくれない?」
 それで、姉から申し訳なさそうに言われた言葉に、全は一度、瞬きをする。
「……イベント?」
「そう。同人誌即売会なんだけど……」
「こないだ、一人で行ってなかった?」
 挙げられたイベント名に、全はそんなことを思い出しながら問い返す。結構前だった気も……するのでうろ覚えだけれども、なんだかやたら楽しそうに出かけていったのを覚えている。そしてやたら疲れた顔をしながらも満足げに帰ってきたことも覚えている。
 全はあんまり興味がないから、なんとなく即売会のイメージはわかるけれども、詳細な空気まではわからなかった。それでも、姉弟で一緒に行く類のものでないことは理解している。
「それなんだけど、一人で回りきれそうになくて……。お使い、頼んでいいかな?」
 両手を合わせて拝む姉。嘘を言っている気配はない。そもそも嘘をつく人ではない。そこはかとなく嫌な予感はするけれど……、
「……わかった」
「! ありがとう!」
 ぱあっと笑顔。うん、なんだかんだで姉のお願いは断れないのだ。まあ買い物に行くだけだし、何とかなるだろう。……なんて思っていたら、
「暑さ対策はやりすぎってくらいやっておいね。命に関わるから」
「待って待って。どんなやばい場所に連れて行く気なの!?」
 真顔で放たれた姉の言葉に、思わず全はそう突っ込むのであった。

「えっと、まずは壁サークル? の新刊確保が最優先で。次に、通販予定がない此処と此処のサークルに行って……えっ、此処は逆カプもあるから注意??」
 前日。渡された宝の地図とやらとパンフレットの地図を見て全はルート確認していた。
「値段、なるべくおつりは出ないように……」
 指さし確認、購入物を頭に叩き込む。
「持ち物リストはこれ。でもこんな、大げさな装備いるかなぁ」
 言いながらも、全はちょっとこれも楽しいな、と思った。なんだかゲームみたいだ。自分の歩く時間と会場の距離を計算して、所要時間を計算して、時間が余りそうなら自分もちょっと見て回りたい。なんて算段をしている。自分がやっているゲームの名前を見かけたからだ。そんな気楽な考えが全にはあった。
 当日、まさかあんなことになるなんて。……全は思ってもみなかったのである。

「……えっ、これ、な……」
「全、立ち止まっちゃだめよ!」
「!?」
 当日。
 会場前で全は悲鳴を上げていた。
「ほらこっち。急いで」
「え?? これ、何? なんかのイベント?」
「そうだよ、イベントだって!」
 あれ、なんか近くで芸能人とか来るから混んでるんじゃないの? 全部おんなじところ? そんな言いたい言葉をすべて飲み込んで、全は歩き出す。右を見ても人。左を見ても人。人。人! 人込み凄い。ていうか人凄い。そして気温もすごい。
 こんな山ほどの人間を見るのも、一緒の場所にいるのも、そしてみんなと一緒に同じ方向に歩くのも初めての全。
「知らなかった。人がいると気温って、上がるんだ……」
 揉まれる。立ち止まれない。人が流れるがままに全も流される。姉はとっくに「じゃあ、あとは宜しくね!」と立ち去ってしまった。地図(パンフレット)を広げている余裕なんてない。昨日の予習を頭の中で思い出す。予習していてよかった。ほんとに。
「す、すみません、これください……」
 押される。並ぶ。弾かれる。さらに並ぶ。そんなことを繰り返して、ようやくお目当てのサークルにたどり着く。幾つか並んでいる本から、目的の本を選ぶ。予習していてよかった、ほんとに(二度目)。
「はい、ありがとうございます!」
 渡された本は男性二人組が表紙の、あやしい雰囲気の本であった。しかしながら全は恥ずかしいとか、そういう思いはすでに持てない。頭の中では最初の本を買うまでの所要時間から計算した、今回のお使いにかかる時間を計算している。……やばい、間に合わない。
「……うぅ、どうしてこんなことに」
 呟く。呟いたってしょうがない。全に取れる選択肢は、諦めるか、頑張るかだ。……そしてなんというか、全は姉の頼みをなんだかんだで断れないのだ。

「……はい、これ」
「わーーーーーありがとう、全!!」
 そして。
 姉と合流した時、全は大量の同人誌を抱えていたのであった。重装備、あってよかった。もみくちゃにされて、暑さにへばりそうになる中、全はよく頑張った。
「すごいよ全! わー。頼んでたの全部ある」
「そりゃ、頼まれたから……」
 戦利品……いろんなものがぐちゃぐちゃになったがこれだけは何とか死守した……を確認しながらも、姉はとても嬉しそうだ。それを見ていると、今日の苦労も報われる気がする。人間、のど元過ぎれば熱さ忘れるものである。
「ね、次も……」
 ……が。
「もうやだ! もう頼まれても行かない!」
 忘れない熱さもある。今日のところは、いい経験をしたと良しとしよう! だが次は。次はない。絶対にダメだ。ゲームのモンスターハウスを攻略するのは楽しいが、リアルの人間とは話が違う。
「まったまた」
「……」
 だというのに、ひらひらと手を振る姉の姿に、全は肩を落とす。絶対行かないから。何があっても絶対断るから。そう、心に誓うのであった。
「ね、今日はありがとう!」
 そう……絶対だ。夕陽と、本当に嬉しそうな姉の笑顔をとともに、全はそう、強く心に誓った。
「……喜んでくれて、良かったよ」
 かろうじて絞り出した言葉。その言葉もまた、まぎれもない彼の本心ではあったけれど……。

 ……この時の彼はまだ知らない。
 冬になったらまた同じようなお願いをされて、結局断りきることができなくて同じように聞いてあげるはめになることを……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月16日


挿絵イラスト