『突発★野生のヒグマと触れ合おう!』
――そんなタイトルと共に配信された動画が、今キマイラフューチャーではちょっとした話題になっていた。
***
「はい、ここはUDCアース。日本って国の北海道って所に来てるわよ!!」
レパル・リオン(魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574)はフライトドローンのカメラに向かって軽くピースサインなど作りながら笑顔を見せた。AIで自動的に撮影してくれる為、彼女はリュック背負って両手を振って元気良く山道に入っていく。
レパル自身が告げた通り、此処は北海道。そのほぼ中央、標高2,000 m級の峰々がそびえ立つ大雪山系の山々は旭川市の東側に存在する。彼女は動画撮影と夏休みを兼ねた山登りとして、この北海道の大地を選んだのだ。
しかしその格好はペンギンの様な水着スタイル。途中の川や湖にそのまま飛び込めるスタイル。
――常人なら「山さ舐めとるべ??」と地元の山男に怒られても可笑しくないが。彼女は猟兵、しかも魔法猟兵でスーパーヒーローである。この格好もコスチュームの一環だと思えば全く問題無いのだ!
一年の殆どが冠雪していると言う北海道最高峰の山々。火山が故、高い樹などは生えていないが、短く僅かな夏だからこそ緑が地面を敷き詰める様に広がっているのが視界に飛び込んできた。
此処でしか見られない高山植物が色とりどりに咲き乱れる様子はまるで大地の息吹。夏である今だからこその光景。その豊かな自然や絶景を満喫しながらしかと映像に収めつつレパルは山を登っていく。
足取り軽やかに進むレパルはカメラに向かって動画配信用のコメントなどを残しつつ、南の方へと向かって行く。そこにはかつてアイヌの人々に|神々の庭《カムイミンタル》と称された地があると聞いたからだ。
自然信仰に生きたアイヌの人々にとって、大自然の脅威は即ち|神《カムイ》となる。そしてこの場合の脅威と言うのが……。
「グマアァァァァ!!!!」
あっ、やせいのヒグマがとびだしてきた!!
「あ! クマ! すごーい!!」
二足で立ったクマの高さは2mを軽く越えると言うのに。レパルは恐れる事も無く、まるで岩飛びペンギンの如くぴょんぴょんと近づいて行く。
「ッガァァァッッ!!!」
近付いてくる不届き者を追い払おうとする様に威嚇するクマ。しかし当のレパルは触れ合い感覚でその手をクマの身体に伸ばし、毛皮の感触を確かめる。
「うわぁ、固い! まるでタワシ触ってるみたい!!」
「…………ウガ??」
全く恐れる様子も無いレパルに流石のヒグマも戸惑いを見せている。クマの前脚にある肉球をプニプニしてみては「これもかたーい!」とか、その背中をよじ登ってみては「うわぁ、おおきいーっ!」とか。距離感が近すぎるコミュニケーション。ご無体にも程がある。
常人なら間違い無く最初の遭遇で死んでいるだろうが、そこはやはり己の|超人的《スーパー》気合&怪力に自信があるのだろう。レパルは自分よりずっと大きなヒグマ相手に全く恐れる様子を見せないのだ。
「キシャアアァァァッッ!!!」
ここで舐められては北海道最凶生物の名が廃る――とばかりに。ヒグマは背中によじ登っていたレパルを振り落とすと、そのまま振り返り様に前脚の爪を立てて力任せに振り下ろす!
「おっと、危ないわよ」
ペンギンの両手でその高速かつ重みの有るクマパンチをいとも容易く受け止めるレパル。
「ウガアァ!?」
幾ら力で押しても腕はそれ以上進まない。爪がレパルに届かない。このままでは勝てぬとみたクマは咄嗟に全身でタックルをかまし、レパルを吹き飛ばしてやろうと試みたのだが。
「甘い甘い♪」
彼女は身軽に身を捩ると、押さえていたクマの前脚をぐっと掴み――そのまま思い切り捻って地面に投げつける!
ずっどぉぉんっ!!!
《 決まり手:|腕捻《かいなひね》り 》
思い切り叩き付けられたヒグマは自分が何をされたのか解らない様で目を白黒させていたが。
「……まだおスモウする?」
にっこり笑顔で見下ろしてきたレパル。その微笑みに恐れを抱いたのか、クマは急ぎ立ち上がると大慌てで山の向こうに駆けていくのであった。
「あーあ、もう少し触れ合いたかったなぁ」
そう残念そうに言いながらも、ニコニコ笑顔で山頂を目指すレパルであった。
***
コメント欄:
「クマSUGEEEEEEE!!!」「それ倒すレパルさんもっとSUGEEEEEEEE!!!」
「投げ飛ばした時絶対大地揺れたよね」「震源地、クマ」
「クマ殺しレパル」「いや殺してないし」
「いいなぁクマ。さわってみたい」「レパルさんだから出来る荒業」
余談。
それ以来――人間の姿を見るや否や、慌てて逃げ出すクマがいると地元の人々の間で噂になった、とか。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴