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開店! 真夏のうさみっちゆたんぽ屋さん!

#シルバーレイン #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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榎・うさみっち




 ある夏の日。銀誓館学園のプールサイドでは学生による出し物が並んでいた。
 様々な店が並ぶ以上、やはりどうしても客足の良し悪しの差は出てしまう。
「まじか……」
 今まさに困っている学生がここにいた。自信満々に作ったぬいぐるみの売れ行きが悪かったのだ。
「夜なべして作ったのに……何が悪かったんだ、『うさピーちゃん』……!」
 頑張って作ったぬいぐるみは残念ながら売れ残っている。友人に言ってお世辞で買われたくらいの売り上げしかない。正直それは恥ずかしい。このままでは店を畳まざるを得ない。
「あーあー誰か良い感じに店を手伝ってくれる人が突然現れないかなー。可愛い子なんて我が儘言わないから、例えばこう、メルヘンな妖精さんとかいればなー」

「可愛いかつメルヘンな妖精さんならここにいるぜ!」
 迷える青年の元へ現れたのはご存じ榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)! ピンポイントで呼ばれた気がしたのでイケイケな水着で登場してみせた!
「困ってるようだな! 事情はおおよそ予測できている! 俺に任せな!」
「うおぉ! 空気の読みが早い! 先生お願いしますッ!」
 話の流れはいつだってスピーディー。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

「で、どうしてくれるんでしょうか?」
「何、称号でネタバレしてるがこれで万事|解決《オッケー》よ」
 店を救う為うさみっちがバーンと用意したのは、自分の姿とそっくりなぬいぐるみ達。
「今からこの店は『うさみっちゆたんぽ屋さん』だ! これでモテモテだぜ!」
「……???」
 どうした少年。頭の上に『?』が大量に浮かんでいるぞ。
「……ゆたんぽです?」
「ゆたんぽだ!」
「今何月でしょうか」
「8月の夏真っ盛りだぜ!」
「なのにゆたんぽ?」
「そうだ!」
「なんか間違えてません?」
 青い。青いな。うさみっちは首を横に振る。
「『|湯《・》たんぽ』じゃなくて『|ゆ《・》たんぽ』だから!」
 うさみっちゆたんぽに注いだのはアツアツのお湯ではなくキンキンに冷えた水。そんなうさみっちゆたんぽを優しく抱いてみる。
「どうなった?」
「つ、冷たい! ひんやりして気持ちいい! 水のお陰で触り心地も柔らかい!」
「だろ?」
「俺が浅はかでした先生! 失礼しました!」
 実演販売に屈した少年。一つお買い上げした。
「おっと、お湯を使わないだけじゃないぜ。うさみっちに抜かりなどない。なんとうさみっちゆたんぽは『着せ替え可能』なのである!」
「な、ナンダッテー!?」
 魔法使い服、サムライ服、メイド服などなど。コスプレの数は無限大。お好みのうさみっちにカスタマイズできちゃう画期的システム!
「これで夏の暑さも軽減! それでいて外見は可愛いぬいぐるみ! マイうさみっちを連れて歩けばプールサイドでモテモテだぜ!」
「なるほど! ひんやりグッズだと感じさない系可愛いグッズ! 確かにアリ……!」
 うさみっちゆたんぽは即採用。早速ぬいぐるみ達を並べ、『うさみっちゆたんぽ屋さん』は華々しく開店した。

「まじか……」
 一時間後、困っている学生がここにいた。ぬいぐるみ達の売れ行きが悪かったのだ。
「いやこの売れなさ、さっきも見た!」
 デジャヴを感じるのも仕方がない。『ゆたんぽ』という字でだけで客が遠のくのだ。いくらぬいぐるみが可愛くても『|湯《・》たんぽ』は季節外れなのだと。
「ヤベェっす先生! 失敗してます!」
「くそっ、マーケティングに失敗したくねぇ……! 仕方ない、だったら助っ人だ!」
 そう、足りないのは人手だ。きっとそれに違いない。うさみっちはパチンと指を鳴らした。
「カモン! デビみっち軍団!」
 ユーベルコードで勢いよく飛び出てきたのはデビみっち軍団。その数は約130体。ぶーんぶーんと飛び回る姿は――多すぎてなんかすごい。
「さぁ! うさみっちゆたんぽの宣伝をしてくるのだ! じゃんじゃん客寄せしていいぞ!」
「客寄せ? はぁ、いいですけど」
 命令を聞いたデビみっち軍団。だがあくまでも命令を|聞いただけ《・・・・・》。すると、うさみっちがこそこそとデビみっちに近付く。
「……あ、で、今回はいくら払えばいいです?」
「いやぁーこの暑さの中で客寄せのバイトって疲れるんですよねぇー」
「じゃあこれで……」
「……はぁーーー??これっぽっちで働けとかなめてるんですかぁーー??」
「ざぁこざぁこ♥」
「くっ! 俺は屈しない……! じゃあそこに足して屋台飯はいかがでしょうか!」
「うーーーん、まぁいいでしょう!」
 がしっと交される固い握手。交渉成立ということでデビみっち軍団は散らばり、うさみっちは一目散に屋台を目指した。そして秒で後悔した。
「130人以上の屋台飯ってどういうことだよ……!!」

 口の悪いデビみっち軍団でも仕事は完璧にこなした。実践販売、商品アピール、可愛さで|誘惑《堕とす》などなど。その手順はいくらでもあった。
 それもこれもうさみっちが美味しい屋台飯を用意してくれているお陰である。屋台をぶんぶん回りすぎてうさみっちバターになりそうだ。
「先生ッ! うさみっちゆたんぽが次々と売れてます!」
「おお!? やったぜ!」
 気付けばうさみっちゆたんぽ屋さんは行列ができていた。うさみっちゆたんぽは数を減らし、ついでに少年が夜なべで作ったうさピーちゃんも『キモカワ』と口コミが広がり売れていた。後者は喜んでいいのか分からない。
「で、でも売れてるのは素直に嬉しい……! 先生のお陰です! ありがとうございます!」
 嬉しそうな少年。うさみっちは鼻を擦る。
「へへ、俺が頑張ればこんなもんだぜ! 流石デビみっち軍団だ、侮れねぇ」
 店のバックヤードにはタコ焼き、お好み焼き、チョコバナナ、かき氷……ありったけ集めた食べ物がヤバいくらい並んでいる。店のために頑張った努力の結晶が今ここに集結している。圧巻の光景だ。いろんな意味で。
「にしても……なんでゆたんぽ売れ始めたんだ? 客寄せの数が多いだけでこんなに客増えるか? 極悪催眠術とか使ってます?」
 いや、極悪軍団とはいえそこまで悪いことはしないはず。休憩時間中のデビみっちに聞いてみた。
「ヘイヘイそこのお前! どうやって客呼んでるわけ?」
「簡単ですよ」
 デビみっちは答える。

「『ひんやり抱き枕ぐるみ』って宣伝してます」

「あ?」
「抱けばひんやり。冬になったらあったか枕。そんな二面性を持つ万能ぬいぐるみいかがですかって」
「お、お前……」
 ゆたんぽの妖精だろ。もっとプライド持てよ……!

 なんやかんやで店の商品は見事完売。残されたのは喜ぶ少年と疲れた妖精。
「ふふ……色々あったけど、無事|うさみっち《俺》をこの世界に放流できたな……!」
 少年の笑顔も守れ、自分の目標も達成した。これでミッションコンプリートだ。
「あとは儲かったお金で……ん?」
 そう言えば売上金は何処へ? 少年とはちゃんと財布を分けたはずだが。
「あ、ちーっすお疲れ様っしたー」
 仕事を終えて帰っていくデビみっち軍団。ぞろぞろと手に持っているのは、かき集めた屋台飯。
 ああ、そうか、と。うさみっちはすべてを思い出す。
「全部、屋台飯とバイト代に変わったんだ……」

 寂しい風。揺れる『うさみっちゆたんぽ屋さん』の看板。
「店の経営はもう懲り懲りだ~~~!!」
 セミファイナルを起こすうさみっち。とある夏の物語は、これでおしまい、おしまい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月12日


挿絵イラスト