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ティタニウム・マキアの転動

#サイバーザナドゥ #ノベル #巨大企業群『ティタニウム・マキア』

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#巨大企業群『ティタニウム・マキア』


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ロニ・グィー




●ロニロニ教会
「――……なんで?」
 亜麻色の髪の男『メリサ』は愕然としていた。
 なんでか知らないが目の前にいる猟兵――ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)に捕まえられ、彼はどうしてかストリートの裏路地の更に裏へと入り組んだ道を辿って日が辛うじて届くか届かないかという立地にある建物の中に半ば強引に連れ込まれていた。
 正直、なんで拘束されているのかさっぱりわからない。
 嘘だ。
 わかっている。
 今の自分は猟兵の手引によって刑務所から脱獄している身である。
 指名手配されていてもおかしくないし、懸賞金があるのならば、どれくらいの金額が掛けられているのかちょっぴり興味もある。
「懸賞金? 何言っているのかわかんないけど。まあ、いいじゃない!『楽しいことはいまやろう! イヤなことは明日やろう! 毎日それの繰り返し!』がロニロニ教会の聖典にも記されているしね!」
「なんて?」
 ロニの言葉に『メリサ』は思わず聞き返していた。
 いや、本当に何を言っているのかさっぱりわからなかった。教会? なんで?
「俺、関係ある?」
「あるに決まってるじゃない! 君は胡散臭い神父でしょ!」
「初耳なんだけどな!?」
「わからないかなー?」

 首を傾げるロニの背後から『ケートス』がひょっこり顔を出す。
「おっと、アンタも捕まったのね。結構問答無用よ、この人。人? 人よね?」
「おーっと、ボクは神様だからね!」
「みんなそういうのよね」
「おねえちゃーん、これってどこに運び込めばいいのー?」
 さらにその後ろから『オルニーテス』が運び屋『ヘリドー』より、この建物の中に運び込んだ物資を示す。
「そっち。倉庫があるでしょ。っていうか、私ら集めて何がしたいわけ。この胡散臭い男をどうしようっていうの。煮るなり焼くなりしてもらって構わないんだけど」
「やー、そうはいかないよー。だって神父役は彼って決めていたからね」
 彼の言葉に誰一人として納得はしていなかった。
 けれど、ロニの剛腕ぷりにいつの間にか引き込まれて、巻き込まれていたのだ。

「ざまーないわね。少しは懲りたら?」
「そういうこと今言う?」
『ヘリドー』の言葉に『メリサ』は心底辟易しているようだった。まったくわからない。けれど、目の前の猟兵が何かをしようとしていることだけはわかる。
「いいかい、みんな。ロニロニ教会は養護、保護施設併設の素晴らしい教会なんだよ」
「どう考えても怪しいわよね」
「うん、怪しい」
「誰が見たって回れ右するわよ」
『ケートス』たちの散々な言葉にもロニは肩をすくめる程度しか感じることはなかったようである。逆に、君たち何もわかっていないなぁって頭を振る始末である。
「いいかい? こういうのは噂に尾ひれが付いて自分でひとりでに泳ぎ始めるまでが勝負なんだよ。だからさ、噂になるためにはどうするかって簡単でしょ!」
 ロニが指を鳴らす。

 すると、教会と言い張る建物の奥から少年少女たちが現れる。
「お前ら……!」
『メリサ』が見たのは、嘗て『クヌピ』と呼ばれたストリートチルドレンたちだった。
「そうさ、桜って言うやつ! 水増しともいうし、かさ増しって言ってもいいかもね! だけど、人間っていうのはマイノリティに価値を見出すけど、基本的にマジョリティであることに安心を見出すのさ。だから」
「だから、あいつらを使うって? なんか目が死んでるような気がするのは気のせいか?」
「そんなことないさ! 彼らの眼をしっかりよくごらんよ! ほら!」
 ほら! とぐいぐいと『クヌピ』の少年たちの目をしっかり開かせる。
 どう見ても目が死んでる気がする。
「ろにろにきょうかいはようご、ほごしせつへいせつのすばらしいきょうかいです」
「ほらね!」
「どう聞いても言わされてる感じしかしないんだけどな!」
「そこまでにしておけ」
 そんなやり取りをしていると、さらに人物が増える。
 其処に居たのはサイバーニンジャ『イェラキ』であった。彼もまたげんなりした顔をしていた。目が死んでる。

 なんだろう、と『メリサ』は思った。
 ロニという猟兵に関わると皆目が死ぬのだろうか。
「いやー、『イェラキ」くん! よかったよ。キミも気に入ってくれたんだね!」
「気に入っていないが」
「キミに対する理解が足りてなかったって反省したよ。完全に理解してるよ! キミは!」
「いや、聞いてくれ」
「シスターさんになりたかったんだね!」
「違う。待て。どう聞いても俺があらぬ視線を向けられている」
『イェラキ』の言葉に『メリサ』たちは、そうだったのかと乗り良く生ぬるい視線を送っている。

「こういう時だけお前たちは結託するな!」
「いや、わかってるって。うん」
「そうよね。わかってるわ」
「そうだよね、ここはサイバーザナドゥ……いや、ここに限らず生得やボディの性が心の性と一致しているとは限らないものね!」
「違うと言っている!」
「で、結局、教会ごっこがしたいわけ?」
『メリサ』の言葉にロニは頭を振る。
「ううん。考えてもみなよー。企業のネットが星を覆って、電子や光が駆け巡っても、それでもまだ全てがネットに繋がっているわけじゃあない。繋がらずに、誰とも触れずに生きている人達だっているんだ」
 その言葉に『ケートス』は頷く。

「猟兵っていう連中だってそうよね。噂でしか聞かなかったり、目撃したって連中の言葉も多くなっている。でも、ネットに情報はない」
「そういうこと! それらをつなぎ合わせる人の独自な情報網。ならさ、そういう隠れた、アンダーな情報を吸い上げられるのってメリットじゃない?」
「情報の信憑性は誰が担保するっていうんだ」
「それは皆さ。キミらみんな」
 ロニは手を広げる。

 目に映るものだけが正しいとは限らない。
 視界に在るものが真であると誰が証明するのだ。
 ならばこそ、ロニは己の教会で一つの虚構にさえ意味を生み出そうとしている。
「虚構からだって真実は生まれる。そう思わない?」
 そろり、と逃げようとしていた『メリサ』の肩をロニは掴む。
「大丈夫! 逃さない!」
 どうやら、逃げることはできないようだと『メリサ』は肩をすくめ、曖昧に笑って見せるのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月09日


挿絵イラスト