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日々、平穏

#ダークセイヴァー #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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#猟兵達の夏休み2023


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朧・ユェー



ルーシー・ブルーベル




 早朝。
 ……といっても太陽がきちんと昇る世界であったなら、早起きの夏のおひさまはとっくに昇っている。そんな時刻。
 それでも、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)にとっては充分な早起きであった。表情に決意を滲ませながら、ルーシーはそっと部屋を出る。
「起こさないように。起こさないように……」
 呟く声音を、聞く人間はいない……と、ルーシーは思っていた。
「ああ……」
 しかしながら。勿論彼が。この朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が、それを見ていない、聞いていないはずはない。
 自分の部屋の扉をほっそりと開けて、足音たてぬように廊下を歩いていく娘の背中をはらはらと見やる。ユェーにとってはさして早くない時間だが、ルーシーにとっては早朝の大冒険、といったところであろう。なお、ユェーが本当は日の出前には起きていることもあるということはルーシーには内緒である。真似されると大変だからだ。主にユェーの心が。
「?」
 そんな視線に気づいたのか、ルーシーがふと足を止め一度振り返る。
「!」
 音も立てぬようユェーは彼女が振り返る直前で扉を閉めて息を殺す。
「うん、ゆぇパパのために、がんばらないといけないの!」
 気付かれてはいないだろう。決意新たに(あくまで表明は小声で)足早に歩きだすルーシー。それを見送り、ユェーはそっと部屋の扉を開けた。
「……」
 どうしよう。うちの子がかわいい。
 思わず表情が緩む。緩みながらも、ユェーは彼女を見守ることにした。……今日はいい休日になりそうな、そんな予感を感じながら。

 ……話は昨日にさかのぼる。
「ゆぇパパ、明日は一日お休みよ!」
 唐突に。団欒の中主張した愛娘に、ユェーは一つ瞬きをして首を傾げた。
「僕の夏休み?」
 不思議そうに聞き返したユェーに、ルーシーは胸を張る。とても得意げに、大事なことを教えるかのように、ルーシーは人差し指を一つ、立てた。
「いつも色々、みんなのためにして下さっているでしょ。ルーシーが代わりにがんばるから、安心してゆっくり休んでね!」
「うー……ん」
 その彼女の言葉にどうこたえるべきか。ユェーは一瞬、悩む。ユェーにとってルーシーは何よりもの宝である。故に、彼女のためにすることに何ら苦を感じていないのが現状だ。
 なので、休みといわれてもピンとこないものがあるのも事実である。何せ毎日好きなことをして存分に幸せを感じている身なので。毎日がハッピー夏休みであることは間違いない。
 だが、それを口に出すのは野暮だということも、もちろんユェーにも理解できる。そしてその気遣いがとても嬉しいのも事実。なので、「その言葉だけで充分幸せだよ」という言葉をユェーは寸前のところで飲み込んだ。
「ありがとうねぇ、ではお言葉に甘えてお願いしようかな?」
 娘の意気込みに応えるのもまた、幸せというものだろう。ユェーがうなずくと、ぱぁぁぁぁっ。とルーシーの表情が輝くので、やっぱりうちのルーシーは世界で一番かわいいな、と思いながら、
「うん! じゃあ、明日は大船に乗ったつもりでゆっくりしてね!」
 なんて言う彼女の言葉に、ユェーは笑顔で頷くのであった。

 ……さて。そういうわけで。
「うぅ……。起きるわ。頑張って早起きするわ……!」
 ルーシーにとってはうんと早朝。えいやとルーシーはベッドから起き上がった。
 さて。今日はすべきことがいっぱいある。完璧なレディとして、ゆぇパパに心置きなくゆっくりしてもらうために、頑張らなくては!
「まずはいつも通りに髪を……そう言えば毎日髪はパパが結って下さったっけ」
 うぅん、一人でできるかしら。と悩みながらもパジャマから着替えて洗面台へ向かう。途中でちらりとユェーのお部屋を見ると、きちんと扉は閉められていて、部屋は静かなようであった。……今日はゆっくり寝ていて欲しいな、と思いながらもルーシーは洗面に向かう。顔を洗って、髪の毛を整えて……、
(……ううん、うまくぴしっと二つに結えない……。いいや、今日は簡単にしましょう)
 自分一人で髪の毛を結うなんて慣れてないから、ルーシーはいつもの髪形を諦める。簡単に一つに結べば、さて次は。と朝の用事を確認する。……そう、料理だ。
「おや、ルーシーちゃん」
「あら? パパおはよう!」
 そんなとき、ちょうど起きてきた、という風体のユェーと顔を合わせる。ゆぇパパ、ゆっくり眠れたみたいでよかった。とルーシーはちょっと嬉しそうに内心微笑んだ。……見守られていることは、割と気付いていないようだ。そんなルーシーにユェーは素知らぬ顔で黒雛を差し出す。
「ルーシーちゃん、黒雛の毛の手入れもお願いしていいですか?」
「あら。黒ヒナさんを? もちろん喜んで!」
 黒雛を受け取り、ルーシーは再び洗面へ。鏡の前でせっせと手入れをする。それを見守り、うんうん、とユェーは頷いた。
「ルーシーちゃん、朝は早かったんですか?」
「ええ! パパはよく眠れまして?」
「うん、おかげさまで寝坊しちゃったよ~」
 ふわっ、と欠伸をするユェーに、ルーシーはご機嫌だ。
「たまにはお寝坊さんもいいものでしょう」
「えぇ。とても」
 会話をしながらも、どんどんルーシーの髪を結んでいた髪飾りが落ちていっていることにルーシーは気付かない。結び方が緩すぎるのだ。それだけ真剣に、黒雛の手入れをしているとも言える。
「ふわふわに……ふわふわに」
「ふふっ、気持ち良さそうですねぇ」
 そんなルーシーに気取られぬよう、相槌を打ちながらルーシーの髪の毛をすかさずユェーはポニーテールにしていく。きっちり落ちてこないように結ぶ、その動きはとても素早くて適格だ。
「できた!」
「はい、お疲れ様です」
 ぺかー。と黒雛を掲げるルーシーに、ユェーは拍手を送る。
「黒ヒナさんもルーシーの髪も……うん、大丈夫!」
 綺麗にできた! と嬉しそうに声をあげるルーシーに、ユェーも上手にできたねぇ。と嬉しそうな声。
「ほら、ゆぇパパ、朝ご飯作るから、顔を洗って頂戴ね!」
 完璧! と拳を握りしめる娘に、わかったわかった。とユェーは頷くのであった。

 さて、そんな一波乱あったようななかったような起床の後だが、
「まずは朝ごはんね……」
 決意も新たにルーシーは台所に立っていた。遠くでこっそりユェーがそれを見守っている。ルーシーにはわからないようにしているが、凄まじく心配そうな顔をしていた。
「……そうね。そうしましょう!」
 ぴん! と顔を上げて手を叩くルーシー。
「なるほど、朝ご飯はサンドイッチですか」
 それだけで何を作るか察したユェー。
 そんなユェーの視線に気づかず、ルーシーは野菜の用意をする。
「ええと……先ずはサラダ? ね! これは分かるわ。パパに教えてもらったもの!」
 包丁の扱いは慎重に。お手伝いをしながら基本はきちんと学んでいるはずだから大丈夫。いろんな野菜をたっぷり入れて、素敵なサラダにしよう。……なんて、ルーシーが包丁を振るい始めるのを、ユェーは本当に心配気味に見ている。ああ。刃物を使うなんて。でも頑張っている愛娘は本当に可愛い。火を使うとか言い出さなくてよかった。いろんな気持ちがあふれていた。
「……」
「ふう、緊張する」
「……!」
 凄まじく口を出したい。手を出したい。でも出しちゃダメ。それくらいわかってる。だからユェーができるのは、
「あっ、ルーシーちゃんそういえばフルーツはカットしてるのを買ってたと思うのでそれを使ってください。うっかりして忘れていたのですが、早めに使わなきゃいけないんですよね」
「う?」
 そう。ルーシーに見つからないように手早くフルーツの皮を剥いて綺麗にカットして市販品のような顔をしてお皿に盛ってしまっておくくらい……!
「あら本当、カットされたフルーツがもうある!」
「構いませんか?」
「勿論なの! なら後はクリームを泡立てるだけね!」
 上機嫌でクリームを泡立て始めるルーシーに、ユェーは満足げな顔であった。……と思ったら、
「……」
「おや、フルーツサンドには硬めが良いのを良く知ってますねぇ」
 すぐさま暗い顔をするルーシーの、その理由に気付いてユェーが声をあげる。
「あっ。そう……なの?」
「はい。一口味見して良いですか?」
「あ、うん、ちょっと待ってなの!」
 ささっ。と作ったサンドイッチを、はい、あーん。
「ん、とても美味しいです。きっと皆さん喜びますよ」
「……そう? なら、良かったー……」
 ほっとする表情のルーシーに、ユェーもまた、表情を緩める。
『本当にこの世で一番娘がかわいい』
 口には出さないが、どこからどう見てもそんなことを考えているような顔を、していた。

 その後も。
「お掃除なら任せて! 慣れてるから! 慣れてる……」
 いくら慣れていたとしても、二人の住まいはすさまじく……広かった!
「大変。ハタキをかけてもモップをかけても全然終わらないわ!?」
 今日は一人。一人ということがまた館がいつもより大きく感じさせるのかもしれない。決してさぼることなく、てきぱきとこなしているのに、やってもやってもやってもやっても仕事が終わらない感。
「でも、頑張らないとなの……わっ!」
 それでも、へこたれている暇なんてない。そう気合を入れなおしたルーシーの目の前を、丸い何かがごろりと通り過ぎていった。
「あっ黒ヒナさんね。そこ転がってしまったら汚れちゃうよ」
 何をしているのか。黒雛は右へ左へ、ルーシーの目の前をころころと転がっている。そしてちらっ。とルーシーを見る。ので、
「……もしかして手伝おうとしてくれてる?」
 そういうこと? 思わずルーシーが尋ねたら、ぴっ! と黒雛は片手を挙げた。どうやら肯定しているようだ。
「ふふー、ありがとう」
 思わず表情が緩む。そんなルーシーの目を引くように、黒雛はあっちにころころ、こっちにころころ……。
 もちろんこれも、ユェーの計略(?)である。
 普通に考えてこの広い屋敷の掃除が一人で終わるはずがないと思ったユェーは、黒雛に掃除の手伝いをお願いしたのだ。
 勿論自分も休んでいたりなんてしない。黒雛に夢中なルーシーの目に入らぬよう、高いところや細いところ、うんと低いところなど、ルーシーには難しい場所の掃除を徹底的にユェーはこなしていった。
「おや、とても綺麗になりましたねぇ」
「パパ!」
 そして素知らぬ顔でルーシーの前に現われる。ユェーの声にルーシーは表情をぱっと輝かせて、両手を広げた。
「そうでしょう? 黒ヒナさんが手伝ってくれたのよ……、って」
 全身で自慢をするルーシー。得意げな顔であったが、その表情が一瞬で変わる。
「ひゃあ、もうお昼近い!」
「おや。本当だねぇ」
「パパ! お買い物、行ってくるね!」
 今気づいた、みたいな顔をするユェーに、ルーシーは焦る。お昼ご飯の準備をしなければ!
「行ってきます!」
「……行ってらっしゃい」
 初めての一人のお買い物。走り出すルーシーの背中をユェーは手を振って(内心では心配そうに)に見送り……、
「……」
 そしてやっぱりこっそり、追いかけるのであった。

 とはいえルーシーの足取りはほんの少し重かった。
 道は覚えている。父親と何度も行ったことがあるから。でも一人でのお使いは初めてだし、
 ましてや親しくない大人に一人で囲まれるなんて……。
 ちょっと困った風に立ち止まっていると、道端でふと困っている風に視線をさまよわせている老人(?)をルーシーは発見した。
 どういうわけかどことなく、安心できる雰囲気があるわ。なんて思いながらも何気なく老人を見ていたら、老人の方もルーシーの方を見た。
「……あら、おじいさんどうしたの?」
「ああ。そこのお嬢さん、買い物に行きたいのだが連れってくれんかのぅ?」
 もちろんこれが変装したユェーであるのだが、ルーシーは気付かずその言葉に得心がいったように微笑む。なんだかこの老人からは困ってそうな、心配そうなオーラが出ていると思っていたのだ。……実際のところ、ユェーからにじみ出ていたのは「道に迷ってないか、変な奴に攫われないかと心配」というオーラだったのだが、オーラの色まではルーシーにはわからない。
「いいよ、いっしょに行きましょう!」
「ありがとう。優しいねぇ」
「ううん。ルーシーも同じ所に行こうと思っていたの。疲れたらちゃんと言ってね、無理しないで」
 親切で手をつなぐ。手を引いているその姿に何度もお礼を言ってユェーはその手をつないだ。
「(優しい、嬉しい、とっても素敵なルーシーちゃんですけど……そんなに簡単に人を信じたら心配ですねぇ)」
「(なんだかこの人、ゆぇパパに似てる気がするわ! 手をつないでいると安心するの)」
 お互い心の内は言わないけれどもにっこにこで、八百屋とお肉屋に向かう。知らない大人たちに囲まれると、ルーシーはうっ、と足を竦ませる。
「……(そうか、いつもはパパといっしょだから……)」
 ぎゅっとつないだ手を握ると、確かに握り返してくれる手があって、ルーシーは一つ深呼吸した。
「(い、いえ、ここで止まっていられないわ……。パパにお休みしてもらうんだから)えっと、おススメ全部ください!!」
 何やら堪えるようなつらそうな顔。ユェーが声をかけようとした次の瞬間、しかしルーシーの瞳には決意が灯っていた。
「!?」
 そして次に放たれた剛毅な注文。その表情の変化を一部始終眺めていたユェーは、思わず吹き出しそうになるのをすんでのところで堪えた。
「ここでもう大丈夫。ありがとうのぅ、親切なお嬢さん。今日のご飯は何にするんだい?」
「いいえ、お気になさらないで! 今日は……カレーにするつもりなの!」
 そんなやり取りの後、手を振って別れる。別れ際に素早くユェーはルーシーの買い物をチェック。
「……」
 そっと買い物の中に、忘れていたカレールーを足すことも忘れなかったという。

「ただいまー」
「おかえりなさい」
 そして素知らぬ顔で家に戻っていたユェーは、帰ってきたルーシーに笑いかける。
「うう……買い過ぎたわ……」
「うん、いっぱいだねぇ」
 大荷物を抱えて帰ってきたルーシーに思わずそう返すユェー。そうなの! とルーシーは食事の準備をしながら出かけた先にあったことを話していく。勿論、おじいさんのことも添えて。「あのおじいさん、ちゃんと帰れたかしら」なんて言葉には、「きっと大事な家に帰ったと思うよ」なんてコメントを添えた。
 あれこれ話していくルーシーの話を、ソファーで休憩しながらユェーは相槌を打っていく。……と、
「……?」
 不意に会話が途切れた。不思議に思ってちらりと台所の方を顧みる。ルーシーは料理中だったはずだ。まさか指でも切ったのでは……と腰を浮かしかけたが、
「ニンジンは無しで! ……なしで……」
 ルーシーは真剣にニンジンを前に悩んでいるようであった。
「ううう、……でももし、ここでニンジンをルーシーが入れて、しかも食べたらパパ喜んでくれるかな……」
 すごく真剣に悩んでいた。ユェーはまた吹き出しそうになるのをかろうじて堪える。いけないいけない。咳払い。
「カレーの良い匂いがしますねぇ。……美味しい人参をルーシーちゃん食べてくれると嬉しいなぁ」
「ひえっ」
 聞こえるように言ったユェーの呟きに、ルーシーは身を竦ませる。それからぎゅっと目を閉じて、
「ううう、ええい、ままよ! ニンジン投入! いざゆかん!」
 だだだ、とニンジンを投入する、やけっぱち姿のルーシーをほほえましくユェーは見守る。
 ……ちょっと入れすぎじゃないかな? と、思ったけれども言わないでおくことにした。

「……ニンジンだった。すごくニンジンだったわ……」
 食事では案の定涙目でニンジンを食べることになったルーシーを、にこにこした顔で……しかしお残しは許さず……見守っていたユェー。
 明日の夕飯は、オムライスにしようと心に決める。彼女の大好きなケチャップで感謝を込めて……。その笑顔を想像するだけで、疲れなんて吹き飛んでいく気がする。……もっとも、彼女と過ごす毎日がつかれることなんて、あまりないのだけれど。
 そんなことを思いながらも、ユェーは淹れたてのミルクコーヒーをソファで伸びているルーシーに差し出す。
「えっ?」
「今日はありがとうねぇ」
 ちょっとびっくりしたルーシーに笑いかけると、ルーシーもぱあぁと笑顔になった。
「わっ、パパ、ありがとう」
「ありがとうはこちらの方ですよ。1日ゆっくり出来ました」
「本当? お休み出来た?」
「はい。ルーシーちゃんのおかげです」
 笑顔。何よりも欲しかった笑顔とその言葉。それがミルクコーヒーとともに、ルーシーの心の中にじんわりとしみわたっていく。
 今日のことを思い出す。大変だけれども楽しかったその一日を。
「えへへ……なら良かった。色々なこと、毎日こなしているパパは凄いわって、改めて思ったの」
「そうですか? 僕はルーシーちゃんと一緒なら、なんだってできちゃうんですよ」
 大変じゃない。そういう意味を込めてユェーはそう答える。そうね、とルーシーは小さく頷いた。
「今日はね。とっても大変だったの。けれどね、楽しかったの」
「ええ」
「でも……パパが一緒なら、もっと楽しくなる気がするの!」
「ふふっ。じゃあ明日のお買い物は、一緒に行きましょうか」
「うんっ。お料理もお掃除も、一緒にしましょう! ……あ、もちろん、パパが疲れた時は教えて頂戴ね。ルーシーがパパを休ませてあげるから!」
「ええ。その時はもちろん遠慮なく」
「……約束よ?」
「約束します」
 それで納得したのか、ルーシーは嬉しそうに膝の上に登ってきた黒雛を撫でる。
「黒ヒナさんも、お掃除お手伝いしてくれてありがとう……」
 暖かい。次第に声が小さく、空気に溶けるように消えていく。うとうとしている娘の頭をそっと撫でると、やわらかな笑い声がした。
 なんだかすごく、安心する。そんな風にまどろむルーシー。そんな彼女が心地よいのか、黒雛もルーシーのお腹の上でうとうとしていて、そのうち二人で寝てしまうだろう。
「おやおや、本当の姉弟の様ですね。……今日はたくさん頑張りましたね」
 お疲れさまでした。と、ユェーはルーシーを起こさないように抱き上げる。そっと、そっと、本当に大切に、ベッドに運ぶ。
 ルーシーは安心しきっていて、時々何か口の中でつぶやいては笑っている。きっと、今日のことを一生懸命ユェーに語り掛けているのだろう。そんな気がする。
 優しくユェーがベッドにルーシーを横たえれば、ふわっ、とルーシーはまた笑顔をユェーに向けた。そして、
「パパ、だいすきよ。いつもおつかれさま」
 口の中でつぶやいたけれども、その音だけはなんだかはっきりと聞き取れた。その笑顔に、ユェーは胸を打たれる。今日一日のことを思い出す。全部全部、彼女の一日はユェーの為だった。
「……こちらこそ。今日は本当にありがとう」
 頑張ったねぇ。と心の底から呟いた。そうしてそっといっしょに運んでいた黒雛を、ルーシーの顔の横に寝かせる。
「黒雛もありがとうねぇ」
 返事はない。こちらは完全に眠っている。それが面白いけれども、笑ってはいけない。起こさないように、一度ユェーは優しくルーシーの髪を撫でた。
「僕も大好きですよ。……僕の可愛い天使、良い夢を」
 返事はない。きっと彼女はもう夢の中だろう。楽しい夢を見ているに違いないというのは、その表情を見るだけでよくわかった。
「おやすみ」
 だからそれだけ、いつものようにユェーは挨拶をして部屋の明かりを消す。
 また明日。美味しいオムライスを食べようねぇ。なんて心の中で語りかけながら……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月09日


挿絵イラスト