ニコと! うさみの! サマーバケーション2023
●約束の夏休み
「おいニコ! 夏になったらバーベキューな!」
「夏のバーベキューなら海はどうだろうか。俺は新しい水着を頼んであるしな」
「じゃあニュー水着祝いも兼ねて、ニコの奢りな!」
過日のある日、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)とニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)の間に、そんな約束が交わされたそうな。
そして季節は流れ、2023年、夏――。
2人の姿は炎天眩しい砂浜にあった。
かつて|海洋世界《グリードオーシャン》のとある事件で知遇を得た海賊『フィッシャーマンズ』に紹介して貰った、彼らの拠点に近い離れ小島だ。歩いても15分程度で一周できそうなほど小さな島で、他に人の姿はない。バーベキューには持ってこいのロケーション。
「うさみよ。今年の水着は……その、どうだったろうか」
「そうだな。ズバリ言うぞ」
そして砂浜に焚火台を組み立てるニコも、それを応援してるだけのうさみっちも、水着姿である。
発端である約束が『夏』と『水着』に端を発しており、ここは砂浜。当然と言えば当然だ。
「今年のニコの水着はやたらセクシーだな!」
まさにズバリと褒めるうさみっちの水着は、数年前と同じく横縞の上下一体型のスタイル。胸元のウサギマークがワンポイント。
「20代の時より30代の方が露出度が上がるとはさすニコだぜ!」
「っ!!!」
一方のニコは、当然、新しい水着なわけだが。ここでうさみっちに『露出度が上がった』と言わしめたニコ――ここから少し敢えてベルクシュタイン氏と呼ぼう――の水着の変遷を振り返ってみよう。
まず2019年のベルクシュタイン氏。
いわゆるルーズタイプの丈が短いものであった。
男性の水着としてはオーソドックスなスタイルと言えよう。
お次は少し飛んで2021年のベルクシュタイン氏。
この時は2年前よりも丈の長いルーズタイプだ。
腰に帯のようなものを巻き甚平の様な上着を羽織って、全体的に和風な印象であった。
そしてそして、今年!2023年は!!!
いわゆる、ブーメランである。
それも非常に攻めてる感じのブーメランである。
上着には丈の短いアロハを併せており、こいつ夏満喫してそうだな感を全体的に纏ってる印象だが、中でもブーメランのインパクトは強いと言っていいだろう。
仕立て屋さんにお任せしたら、こうなったらしい。
仕立て屋さんも、ベルクシュタイン氏の鍛えてるボディなら32歳だってまだまだ攻めていけると思ったのだろう。グッジョブ。
「ここにデビみっち軍団がいたらツンツンしまくってただろうな! こんな風に」
ニコの腰よりやや下を狙って、うさみっちがぶーんと飛び込んで行くのも仕方ないというものだ。
特に前回の水着と比べれば、大腿四頭筋や内転筋群辺りがマッサージし易そうなのだから。
「やめろ! 人体の急所をぺちぺちしようとするんじゃない!」
伸びて来るうさみっちの手を、ニコはやんわりとながらも必死に押し留めようとする。
実の所、ニコも感想を聞くまでもなく攻めてる水着だとは感じていたのだ。
それでもこれが人前であれば、ニコも平然と着こなして見せただろう。コンテスト会場では、|木箱に座って余裕の表情《調子乗りシュタイン》をしてたくらいだ。しかし今は、うさみっちの他に誰もいない。
うさみっちの前だと、色々と甘くなるニコだ。
内心照れくさいんだなってのが、割と駄々洩れである。
「良いではないか~ってやってる場合じゃねえな! バーベキューしようぜ!」
うさみっちもその辺を察してるのか、ニコを弄るのを適当に切り上げた。
●|バーベキュー《焼肉戦争》
「ニコと!」
「うさみの!」
「「サマークッキング~!」」
唐突に始まった、ニコうさのいつものコーナー夏編。やるのか、これ。
「まずはニコ! 火!」
「そう言うわけだ、精霊達よ。薪の量で火力は調整できるから、着火だけ頼む。焚火は自然現象だろう?」
慣れた様子でニコが精霊にお願いして、焚火にファイアー。
「そしたら焚火台の上に網を乗せて、焼いてきます! 以上、終わり!」
薪が赤々と燃えだした所でうさみっちが網を乗せたら、終わった。
だってバーベキューだし。
肉や魚、野菜など、焼いて美味しい食材を焼いて美味しく食べようという料理だから、あとは焼くだけである。
まずは牛タンをネギ塩で。
その次は豚トロを塩で焼いて、お好みでレモンベースのたれをつけて。
塩物で胃袋を覚醒させておいてからが、本番。
カルビにロースにヒレ、ハラミと言った定番部位から、トウガラシやイチボと言った希少部位も網の上に乗っている。
ニンニクを利かせた醤油ベースの甘辛いタレにつけながら焼いても良いし、何もつけずに焼いてから大根おろしとポン酢と言うのもさっぱりとした味わいの中に、肉本来の旨味をより感じられるだろう。
海賊たちからこれも持ってけと押し付けられた大海老は、豪快に真っ二つにしてバターを乗せて、遠火でじんわりと。
「肉うめー! エビもうめー!」
「うさみ。野菜も食べなさい、野菜も。カボチャが食べ頃だぞ」
タレ色に染まったうさみっちの口周りを拭ってやりながら、ニコはその皿に仄かに焦げ目の付いたカボチャを乗せてやる。
バーベキューは食べながらでも会話もし易い。
それでも、火加減が強すぎれば肉が黒焦げに、なんて事もあるのだから中々に忙しくもあるわけで。
「よし! そろそろ助っ人呼ぶか!」
「助っ人……だと……」
人手を増やそうと言い出したうさみっちに、ニコが怪訝な顔になった。
『みっち』シリーズのどれかだろう――と言う事は想像に難くない。問題は、どの『みっち』か、だ。
(「まあせみっちだけは無いだろうな……奴らが料理の役に立つとは思えない」)
この島の近海でせみっちが変異した鳥類に食われたのは、ニコの記憶に新しくもないが残っている。
(「仏様うさみっちの奇怪な動きも料理には役立ちそうにない。さっきデビみっち軍団がいたら――なんて言っていたから、デビみっちもなさそうだな。ワルみっちが案外行けるか……? そう言えば、昔、うさみと料理した時には、うさみっちゆたんぽシリーズを増やしたこともあったな」)
ニコの脳裏に、様々なみっちシリーズが浮かぶ。
うさみっちと何度も様々な世界で戦ってきたニコだからこそ、みっちシリーズの事も詳しい。
「今回の助っ人はこいつらだ! いでよやきゅみっち軍団!」
「なるほど、やきゅみっちか。確かに多秘邱の時は良い働きだったな」
だからうさみっちが野球服姿のみっちシリーズを召喚しても、ニコは驚きはしなかった
「それに今回は、なんてったって夏だからな!」
やきゅみっちとはその名の通り、野球で戦うみっちシリーズ。いわば球児である。
「で、野球と言えば甲子園。甲子園と言えば夏!」
「なるほど」
甲子園。その名はいくつかの世界に存在する球場。
そして存在する世界では大抵、夏に若き球児たちの大会が行われる場でもある。
つまり、夏はやきゅみっちの季節でもあるという事だ。
「やきゅみっちファイターズ! 俺とニコの為に肉を焼け! 3回に1回……いや、5回に1回くらいなら食っても許す!」
「うさみよ……俺が何も言わなくとも、やきゅみっちたちに分けてやることを覚えたのだな」
しれっとやきゅみっちたちが肉を食べても良い回数を減らすうさみっちだが、対面のニコはその言動に感動を覚えていた。
だが――うさみっちがそうと連想したように、やきゅみっちたちは球児なのだ。
焼き肉を前にして我慢出来るだろうか。
出来る筈がない。
『肉だー!』
『俺カルビー』
『ハラミもーらい』
『タン塩いくぜー!』
やきゅみっちたちは次々と肉を網に乗せては、まだ少し赤みが残ってるくらいでひっくり返して、また焼いて――その全てが、うさみっちが「ん」と差し出した皿の上には乗らず、やきゅみっち達の口の中へ消えていった。
「おいコラおめーら!」
『|ほはひにひっはひはいいんはほー《5回に1回はいいんだろー》!?』
「初回からとは言ってねー!」
割り箸を振り回すうさみっちから、肉を頬張ったまま逃げるやきゅみっち達。
それを視線で見送るニコは、小さく溜息を零した。いくつかの肉が奪われたとは言え、まだまだ網の上には肉が焼けているのに。
「うさみよ、やきゅみっちの相手も良いが、肉が焼けているぞ」
「おっとそうだった!」
その一言で我に返ったうさみっちが、くるっとUターン。
「うむうむ、いい感じに焼けてきたな。あと十秒ほど焼いて……」
肉の焼き時間は確かに大事だ。けれどこの状況でうさみっちがそこに拘ったのは、悪手だった。
「うさみよ、早く食べたほうが――」
『その肉、食わねえなら貰うぞ!』
ニコの注意もむなしく、|スピード自慢のやきゅみっち《守備はショートで打順は1番》が横から肉を掻っ攫って行った。
「あああああ!! 俺の肉!!!」
うさみっちが頭を抱えても、時すでに遅し。もぐもぐごっくんと、肉はやきゅみっちの腹の中へ消えている。
「おめーらそこになおれ!」
『やなこったー!』
肉の恨みで釘バットを振り回し、うさみっちがやきゅみっち達を追って飛んでいく。
「……仕方ないな」
炎天下で始まった追いかけっこ。
苦笑を浮かべてそれを見送ったニコは、パンを取った。横からナイフを入れ、切り開いた中に焼けた肉と野菜を並べて挟んで、アルミに包んで網の端で温めておく。
飽きたうさみっちが戻ってきたら、ホカホカの焼肉サンドを熱々を出してやろう、と。
「逃げんな! 順番にケツバットの刑だ!!」
『ケツバットならニコにしてればいいだろー!?』
尤も、まだしばらくは頭上の賑やかさは続きそうだが。
「何を言っているのやら」
そんな青空を眩しそうに見上げ、ニコは微笑んだ。
成功
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