おいしいトウキビつかまえた
その日、三上・くぬぎ(アウトドア派・f35607)は初めて訪れる土地にその小さな瞳を大きく輝かせていた。
「くぬぎ、初北海道ですー!」
気温も湿度も、くぬぎの良く知る東北の空気とは似ている様で少し違う。植生も見つけた虫も違うのは津軽海峡を隔てた気候の差なのだろう。
北海道一の大都市である札幌市はこの国では五番目に人の多い都市、そして新しい都市でもあると言う。碁盤の目の様に整備された道路に区画。その中心となるのが大通公園。朱く塗られたテレビ塔が見下ろす札幌市民の憩いの場。
有名な時計台を観光していたら一生懸命働くミツバチさんを見かけたので追い掛けた所、くぬぎはその公園に辿り着いた。ガイドブックにもしっかり掲載されていた事を思い出しながら、ミツバチさんの働く綺麗な花壇や涼しげな噴水を眺めつつ散策していると。
深緑の香りに混じって流れて来る香ばしい良い香り。くぬぎの小さなお鼻に向けておいでおいでと手招き一つ。
「なんだかとってもいいにおいがするです!」
香りの発信源に近づけば、そこにあったのはワゴンの屋台。『とうきび』と大きく書かれた看板が道行く観光客の目を惹き付ける。
「とうきび……? あ、『きみ』のことですねっ!!」
「あら、その呼び方するって事は函館か青森のひと?」
黄色く艶やかな朝もぎのトウモロコシ。同じ北海道でも札幌圏では『とうきび』『きび』と呼ぶが、青森と海峡隔てた函館などの道南では『とうきみ』『きみ』と呼んでるらしい。
「おばあちゃんが函館でねー、そんな風に呼んでたの思い出したなぁ。お一つ如何? 今朝獲れたばかり。美味しくて甘いよ?」
ワゴン販売のお姉さんに勧められ、くぬぎは網の上で焼かれるトウモロコシを見つめた。薄らと醤油が塗られ、黒い焦げ目がこんがりと香ばしさを放っている。
「おいしそうですー!」
茹でたきみは食べた事があるけれど、焼いたのは未体験。そういえばテレビで見た事ある気がするし、ガイドブックにも載っていた。
「一本ください!」
茹でトウキビにじゃがバターも心惹かれたけど、やはりここは名物を頂くに限る。
「熱いから気を付けてねー」
お姉さんからビニール袋に包まれた焼きトウキビを一本受け取ったくぬぎ。あちちと思わず両手の間を行き来させながら、木陰のベンチにチョコンと座る。
「焼いたきみはこんなにいいにおいになるんですね」
フーフー息を吹いて冷ましながら、まずは一口齧り付く。
「ん~~っ!!!!」
――甘い。一粒一粒にたっぷり旨味と甘味の汁が詰まっている。今まで食べたトウモロコシよりずっと美味しく、ほんのり醤油が更に素材の美味しさを際立たせている。炙られ黒く焦げた部分を囓れば、茹でた粒とは違う食感がまた楽しい。
ご主人にお土産にして食べさせてあげたいけど、きっとこれはここでしか楽しめない味だ。つまり――。
「今度、一緒にこなきゃですね……!」
小さな身体ながら一本ペロリと言う勢いで食べるくぬぎは、ふと自分に向けられる複数の視線に気が付いた。
「くるっぽー」
「ハトさん達もたべたいです……?」
でも。その向こうには立て看板にこんな文字が書かれている。『鳥に餌を与えないでください』と。
「……ごめんなさい、これはくぬぎのきみですよっ」
「ぽっぽー」
欲張りハト君の視線を受けながらも食べきったくぬぎ。さてとベンチから降りると、向こうに気になるものを発見。
「ソフトクリームの看板がみえます……!」
北海道の牛乳はとても美味しいって聞いている。美味しいがいっぱいな北海道の夏を満喫するなら欠かせない。
足取り軽やかに向かうくぬぎの食欲は、きっと止まることを知らない。
成功
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