教会に立っている。
祭壇の奥でステンドグラスの窓は月の光を受けて白く輝いているのに、壁も扉も窓枠も全て黒い内装のお陰で暗かった。けれど空気まで暗いのはそれだけが理由ではなかった。自分は葬式に参列していた。
開かれた棺に参列者が花を納めていく。彼らの手元に一様に光るそれは白――否、銀の百合だった。特有の強く甘い、酩酊するような芳香はない。代わりに不変だ。枯れることなく咲き続ける永遠の花。それがいいことなのか悪いことなのか、この時の自分には判断がつかなかった。
いよいよ自分の番がやってきた。花を納めようと棺に手を伸ばし、けれど自分は声こそ挙げなかったが、胸中では確かに驚いてしまっていた。棺に納められた骸は既に白骨化していた。服こそ、寧ろ白骨化したそれとは不釣合、不自然なくらいに皺ひとつない清潔なものを身に着けてはいたが、血肉はもう腐食したそれすら残ってはいなかった。
気を取り直して、胸の上で組まれた手の中に銀の花をそっと挿し込んだ。どうやら男のようだと自分は理解した。服が男のそれであったこともそうだが、自分の中にすら理由が見つからない、謎めいた確信があった。
ステンドグラス越しの月光が、白い骸を花ごと照らしている。生命の気配など残されていないことは明らかなのに、今にも動き出しそうだった。
何処の誰ともつかないが、不憫だと思う。死とは孤独だ。この男に遺して逝く者がいたかは定かではない。それもひとつの孤独だ。孤独に死に、遺された者も孤独になる。
その点、自分は恵まれていると言える。最愛の人は常に傍らにいる。いる筈だった。しかし姿が見えないことに気づく。何処に行ったのだろうと考えた時、音を立てて骸が起き上がった。
骸は、■■■■へと姿を変えていた。いや、しかし冷静に考えてそれはおかしかった。■■■■はここにいるのだから。ならばこの男は誰だと言うのか。偽物だろうか。ならば本物の■■■■は何処に。
偽物の■■■■に肩を掴まれた。力は強かったが振り払うことは出来そうだった。けれど自分はそうしなかった。偽物の瞳が見開かれ、同時にその姿を変えていった。やはり偽物だったのだ。そうして、正体を現した。
そこにいたのは、自分だった。
「ほ ん と う に ?」
何が、と問おうとした瞬間だった。
ステンドグラスが、月の光を宿したまま割れた。
マリエ・ヘメトス(祈り・f39275)の見た、夢だ。
成功
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