夏はふわふわ、ぬいぐるみ喫茶
オレンジ色に緑のリボン。翼や尻尾と同じ白色のマーガレットの花が添えられた水着は、誰もが目を向けるほど可愛らしく、そして何処かはつらつとした姿で。
真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)がプールサイドを歩けば、猟兵だけでなく銀誓館学園の学生達にまで声を掛けられる。やはりその辺りはお祭り。縫もすぐに打ち解け仲良くなった。
「ねぇねぇ、その子に名前はあるの?」
「この子? この子はね、サジ太だよ」
「そっか、サジ太ちゃんって言うんだ!」
お揃いの花を付けたぬいぐるみのサジ太も今日はごきげんな様子。そんな雰囲気を感じた女学生は、縫にとある提案を持ち掛ける。
「あのね、私達、出し物で喫茶店をやってるの。よかったら来ない?」
「本当? ぬい、お邪魔していいの?」
耳と尻尾をふわふわさせ、縫は惹かれるように彼女達の後を追った。
プールの香りを運ぶ風から、ふと甘い匂いを感じた。パンケーキを焼いている匂いだ。
「ふわふわパンケーキとアイスのお店やってるの。かき氷とかも売ってるよ」
「ふわふわ、パンケーキ……!」
素敵ワードにときめきを隠せない。案内されるがままにテーブル席に座り、早速看板メニューをいただく。アイスが乗った二段重ねのパンケーキは見た目だけでも魅力があった。お客を呼ぶには十分なはず、なのに。
「……?」
きょろきょろと縫が店内を見回す限り、お客はぼちぼち。繫盛はしてなさそう。その理由は経営者も自覚しているらしい。
「お店、普通すぎちゃって目立たないんだよね……」
隠れた名店扱いもいいけど少し飾り気がない気がして、と。確かに小さい黒板に書かれたメニュー表、花の飾られたテーブル席。確かに飾ってはいるが物足りなさは感じるかもしれない。
「何かアドバイス……貰えたりしないかな?」
「ん? うーん……」
溶けかかった冷たいアイスを食べながら縫も考える。猟兵とて、そう簡単にいい案は出てこない。
どうしたらいいのかな、と隣の席に座るサジ太に顔を向け話し掛けようとした。
……話し掛けようとしたら、ピーンとひらめいた。
「……ぬいぐるみさん、いっぱい欲しい」
「え、ぬいぐるみ?」
「ぬいぐるみさん達と一緒に休憩できたら、すごくいいなぁって」
それは己の欲のまま願望のまま。だけど良い案だと思ってる。そんな笑顔を浮かべながら学生に話を持ち掛けてみると、花咲くように彼女もパッと目を輝かせ。
「ぬいぐるみと休憩……ぬいぐるみ喫茶! 可愛いかも!」
早速彼女は友人達を呼び集めると、自慢のぬいぐるみをありったけ集めてくるように伝令した。
「サジ太ちゃんのお友達、たくさん集めてくるね!」
大きな子から小さな子まで。喫茶店にはたくさんの動物のぬいぐるみ達が溢れ返っていた。受付には巨大な子がお出迎え。店内に入れば、相席している子からテーブルの上に座る子まで盛り沢山!
看板メニューはネコパンケーキ(選べるアイス付き!)。チョコペンで描かれた猫の顔と小さな羽は誰かにそっくりかもしれない。
「よかったね、サジ太!」
サジ太と一緒にぬいぐるみ達をぎゅうぎゅう。心も体も口の中も、縫にとっては幸せいっぱい!
ぬいぐるみのおもてなしを求めて、今はお客も大行列。忙しくなったけど、店員も経営者の学生達もなんだか楽しそう。
夏の太陽に照らされたぬいぐるみ達は、陽の香りをほんのり纏わせていた。
ふわふわもちもちになったその身体を素肌で感じられるのは水着の特権。縫とサジ太は彼らのおもてなしを思う存分堪能する。夏の思い出がまた一つ、増えた気がした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴