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ティタニウム・マキアの懇祈

#サイバーザナドゥ #ノベル #猟兵達の夏休み2023 #巨大企業群『ティタニウム・マキア』

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#巨大企業群『ティタニウム・マキア』


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ステラ・タタリクス




●その日暮らし
 まったくもって日々生きるというのは重労働である。
 働くだけではダメで、金銭を得るだけでもダメで、かといって身の回りの雑事をするだけではダメな上に食べて、飲んで、眠らねばならぬと来ている。
 正直な所、生きることが此処まで億劫なのはヒトという生命があまりにも不完全であるからではないかと思うのも無理なからぬことだった。
 機械化義体――これが結局の所、人間の怠惰の極地に居たるものであるかとはもはや言うまでもないだろう。
 肉体は老いる。
 成長を経て、得るのは結局、老化劣化という名の必滅。
 故に機械化義体であれば、それを取り替えるだけでいい。

 つくづく――。

●イン・ザ・ナイトプール
「ってアンニュイな気分に俺なってんですけどぉ」
「はぁ、そうですか。はいあーん」
「聞いてないよな!?」
 亜麻色の髪の男『メリサ』は思わず呻いたし、喚いた。
 しかし、彼の様子とは裏腹に紫色の髪をナイトプールのなんともサイケデリックな照明に色づかせながらステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は水着姿のままビーチチェアに寝転んだ『メリサ』のもとに、にじり寄っている上に、これまた健康被害ありそうな着色のかき氷を掬って口元に運ぼうとしているのだ。

『メリサ』はどうしてこんなことになったのかと思った。
 あれ? 俺普通に逃げたよな?
 なんで、こんなことになってるんだっけ? 曲がりなりにも自身は脱獄した身である。こんなナイトプールの浮かれた場所に来て良いわけはないのである。
 しかしながら、目の前のメイド……うん、メイドプリムが頭上に揺れる紫色の髪をした猟兵ステラは笑むばかりだった。
「はいあーん」
「マジで聞いてない!」

 そうだった。
 己はこのメイドに潜伏場所の一室から連れ出されたのだ。
 デートだと言っていた。正気か?
「水着のメイドを見たくはありませんか。みたいですよね。はい、みたいと言いましたーもう、『メリサ』様の破廉恥さん♥」
 はーと、じゃないが。
 とかなんとかそんな感じで連れ出されたところまでは覚えている。
 どうして己の居場所がわかったのかと問いただしたかったが、返って来る返事は恐らく常識の埒外であったので『メリサ』は聞くのが怖かった。

 そう、ステラにはメイドのシックスセンスならぬ『メリサ様センサー』というものがある。
 マジでやべーメイドである。
 一度補足されたのならば、目標めがけてすっ飛んでいく。
 止まらない。止められない。止まるわけがない。
「愛の力と言っていただきましょうか」
 ステラは恐らく問われたのならば、そう答えるだろう。あと『エイル様センサー』と『メリサ様センサー』は別物であるという話である。
 本当にマジでどうなってんだ。
「あー……」
『メリサ』はもう諦めた。目の前のかき氷を口に加えなければ、もうずっとこの体勢のままなのだろうと理解したからである。

 というか、こんなにやべーメイドに執着されるなんて、己の分たれた存在は何をしたというのだろうか。
 末恐ろしい。
「あのさー、これって貸しが消えたってことでいいんだよな?」
「いえ、誘ってくださらないので私が突撃しただけですので貸しは消えません」
「理不尽が過ぎない? なんか俺いつのまにかナイトプールに打ち込まれたような気が済んだけど」
「あら、『メリサ』様からのアクションじゃないので。貸しというのは、積極的にお返しするものですよ。そういうわけで、はいあーん」
「まだやんの!?」
「かき氷が残っておりますので。あ、お腹冷えました? お腹ぽんぽんしてさしあげましょうか?」
「機械化義体のこと忘れてねぇかなぁ!?」
 傍目に見たらイチャイチャしているように見えただろう。
 旗から見たら、の話であるが。

 しかし、ステラは満足そうであった。
 はいあーん、としている回数だけステラのメイド欲が満たされていくような気がした。いや、気がした、というのは底に穴が開いているからである。
「ところで、『メリサ』様、何の為に『セラフィム』を?」
「唐突すぎる」
「だって、こういう機会でもなければ聞けませんでしょう?」
「……『あれ』が巨大企業群の要であり、急所でもあったからだ。別に『あれ』じゃなくてもよかったが、『あれ』が最も効率がよかった。そんだけだよ」
「他に隠していることありません?」」
「あるかもしれねーけど、『あれ』はもうないんだから、意味なくね? って話で」
「貴方様の求める『平和』は、この世界にあって『セラフィム』なくとも完結しそうなものですが」
「緩やかに滅びていくのを黙ってみているなんて、そういうのは性に合わねーの」
 っていうか、と『メリサ』はステラの体を押しのけるようにして身を起こす。
 そして、彼女の手を取るのだ。
「折角、プールに来たんだ。泳がねーっていうのは野暮じゃね?」
 話を切り上げるようにステラの手を引いてプールに飛び込むのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月01日


挿絵イラスト