●新生活
「そういうわけですから、どうか頼みましたよ」
「はい! お任せください! 誠心誠意! お猫様を御見守りさせていただきしゃす!」
「しゃし……?」
「ます!」
そんなやり取りをした馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)と、最後に噛んでしまった『夏夢』を二又尻尾の猫『玉福』は見上げていた。
どうやら自分に、この新入りの幽霊を任せたようである。
なるほど、わからないでもない。
ならば、先輩として一つこの屋敷を案内してやろうと言う気持ちにもなろうというものである。
「にゃあ」
一声鳴く。
そうすると幽霊『夏夢』は慌てて自分に浮かびながら付いてくるのだ。
しっかりと背を追うようにしているのは中々に後輩仕草というものが成っているものである。少し、自分も誇らしい気持ちになるような気がする。
「あ、あのーお猫様? 何方へ?」
「にゃあ」
いいから付いてこいというのだ。
さらに『夏夢』の後ろには巨大クラゲ『陰海月』とヒポグリフ『霹靂』がぴたりと付いてきている。
まったく、それではまるで尾行になっていない。
あの二人は確かに先輩でもあるが、どこか子供らしさが抜けきっていないようである。仕方ない。新入り幽霊のための屋敷案内のついでである。
尾行ごっこに付き合ってあげるとしよう。
「にゃあにゃあにゃあ」
こっちとあっちとそっち。
顎先で示す。
それに律儀に『夏夢』は顔を向ける。お猫様である『玉福』の言わんとしていることをしっかりと把握しようとしているのだろう。
関心なことである。
「ええと、こちらがプールで。あちらが修練場……こっちは台所、ですね!」
そうだ、と『夏夢』の言葉に『玉福』は頷く。
確かのこの屋敷は広い。
広いが故に初めてきた者にとっては、何処に何があるのかも把握するのが大変なのである。故に自分の縄張りを案内してやるのである。
こういうことはめったにするものではないから、感謝して欲しいものである。
「あっ、待ってください~!」
「にゃあ」
置いていくぞ。
ぴょんと軽快に『玉福』は跳ねるようにして屋敷の縁側から外に飛び出す。
この時間になると外の空気が涼しくなってくる。
日差しが出ている中を歩くのも悪くはないが、この季節の日差しというものは強烈そのものなのだ。
石のなど歩こうものなら自慢の肉球がヒリヒリしてしまうのだ。
夕暮れの後くらいがちょうどよいのである。
「にゃあ」
ここから。
「にゃあ」
ここまで、と『玉福』は『夏夢』を引き連れて外を案内していく。そう、これは己の縄張りである。
同じ猫と言えど、これほど大きな縄張りを持っている者もいないであろう。
これはちょっとした自慢であるけれど。
この凄さ、新入りには伝わっているだろうか。
「う……ここはなんだか寄り付きたくないけれど……こんなに広い範囲をお猫様は警らしているのですね~」
「にゃあ」
よくわかっているじゃあないか、と『玉福』は思う。
見どころがある。
やはり主の目はたしかなものだ。
一度案内しただけであの新入りは自分の縄張りの凄さに目をつけた。視る目がある者というのは、とても貴重なものである。
猫の身ながら、いや、猫であるがゆえに『玉福』は、その事をちゃんと理解している。
そのうち獲物を与えてやってもいいかもしれんと『玉福』は後輩になる『夏夢』のことをすっかり気に入ったようである。
「にゃあにゃあ」
水分補給をしっかりするんだぞ、と言うように水飲み場で一休みする。
ふわふわと漂ってくる『夏夢』のそばは涼しい。
ごろりと横になるにちょうどいい。
「……もしかして、これ、私……! お猫様に認められました――!?」
成功
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