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ティタニウム・マキアの赫焉

#クロムキャバリア #ノベル #巨大企業群『ティタニウム・マキア』 #ACE戦記外典

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カシム・ディーン




●クロムキャバリア
『フュンフ・ラーズグリーズ』という少年がいた。
 彼は小国家『グリプ5』における『エース』と呼ばれるキャバリアパイロットであった。
 数奇、というのならば確かにそうなのだろう。
 数字で呼ばれた兄弟たち。
 小国家『グリプ5』の前身である『憂国学徒兵』の最初の9人『ハイランダー・ナイン』のクローンである兄弟たちの中にあって、唯一クローンではない存在。
 彼は小国家『シーヴァスリー』との戦いの最中、サイキックロードの光の向こうへと消えた。

 その足跡はようとして知れない。

「あー……めんどくせー」
 カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は、やってらんねー、とも呟いていた。
『それなのにやるんだ?』
 銀髪の少女『メルシー』が首をかしげている。面倒ならやらなければいいのに、と疑問に思ったのだろう。
 その言葉にカシムは目を細めながらも言うのだ。
「一緒にサウナ楽しんだし? 松茸料理だって食ったし?」
『つまり?』
「乗りかかった船みてーなもんだろーが。ったくよー……これは彼奴らの物語だ。桃太郎だって鬼退治した後の話なんぞ探すのは野暮だろうによー……」
 めでたしめでたしの先。
 その先をねだるのは子供だけだろう。だから、カシムはどうしてこんなことをしているのだろうと『メルクリウス』のコクピットの中で呟く。
『でもでもさー? ブルーアルカディアの『アルカディア争奪戦』で、一瞬現れたって話もあるよねー』
『メルシー』の言葉は事実だった。

 超人皇帝……『パッセンジャー』との戦いの最中、赤い二体の『セラフィム』タイプがサイキックの光と共に現れたことが猟兵たちから報告されている。
「となるとやっぱり……『アイツ』を追うしかねーってことか」
『そうだよねー。現状メルシーたちが一番接触しやすいのって彼だもんね☆ あ、でも刑務所に打ち込まれてるんじゃなかったっけ?』
「そんなもん、『アイツ』すぐに脱獄でもなんでもしてるだろ。いくぞ」
 カシムはレポートの束をコクピットの後ろに投げて、『メルシー』と共に世界をまたぐ――。

●サイバーザナドゥ
『まずは何か調べよっか?』
「『アイツ』――『メリサ』がサイバーザナドゥでどうやって生きてきたかってことだな。アイツによって救われたもの。アイツによって破滅させられた者。アイツと関わった者たち……そこから見えるもんもあるだろ」
 カシムはユーベルコードに瞳を煌めかせる。
 この緩やかな破滅へと向かう世界。サイバーザナドゥのサイバースペースには多くの情報が氾濫している。
 そこから『メリサ』と呼ばれる亜麻色の髪の男を知ることができるはずだ。

「『フュンフ』の名。『エイル』の名。その名の何方も持たない『メリサ』。けどまあ、どう考えても関係性しかねぇよな……」
 カシムはサイバースペースから『メリサ』に関する情報が何一つ出てこないことに目をむく。
 痕跡がない。
 あるのは『メリサ』という正体不明の業界最高峰の殺し屋としての名だけだった。
 彼の素性、来歴。
 その全てが見当たらないのだ。

『どこにもないねー?』
「どういうことだ。出生歴も無い? 戸籍もない? このサイバーザナドゥで戸籍を偽造した形跡もない? まるで突然、ぽっと出てきたみてーじゃねーか、これじゃ」
 カシムの疑問も尤もだっただろう。
 このサイバーザナドゥにおいては、確かに非合法なことも公然と行われている。ドラッグや腐敗、法を守る者はいたとしても、それは利用するためであるし、法はその他大勢の弱者を守らず、強者の矛にしかならない。
 だからこそ、その存在の痕跡がない、ということと、業界最高峰の殺し屋として『メリサ』の名だけが独り歩きしている今に違和感しか感じないのだ。
 そうしていると建物の一角に隠すようにして膝付く『メリクリウス』の装甲を軽く叩く音が響く。
『んお?』
「よぉ。アンタなら、どうやら此処らへんかな、と思っていたが」
「オメー!『メリサ』!!」
 カシムがコクピットから見たのは亜麻色の髪の男『メリサ』だった。

 こっちがおどかしてやるつもりであったというのに、まさかこっちが驚かされることになるとは思いもしなかったのだろう。
「|脱獄《出てき》ちゃった」
「テヘペロみたいな言い方すんじゃあねー! 気色悪い! つーか、オメーのことを今調べたんだが1?」
 気配感知を行っていたというのに、『メリサ』は己に感知されなかった。
 そういう義体の性能なのか?
 いや、それは今は捨て置かねばならない。何故、己の前に姿を現したのか。
「ハハハ、なんだよ。俺のことを知ってどうするつもりだったんだ? まずはお友達からってことか? いやいや、俺はどっちかってーと女の子のほうが好きなんだけど」
「そーいうんじゃねー! あーくそ、野郎なんぞのことを調べるなんて性に合わねーって思ってたが!」
『だって、気になるからだよねご主人サマ☆ あ、『メリサ』君』はグンマ名物焼きまんじゅう食べる? 天然物だぞ☆』
「これはこれはどうもご丁寧に。あ、別に叫びはしないから。荒ぶりもしねーから」
『そ? ならお酒もどうぞ☆』
 お土産をたくさん『メリサ』に持たせながら『メルシー』は笑う。

 二人の正確は適当と適当が重なり合ってカシムの胃を直撃する。
「おめーは何言ってやがるんだ!?」
「まあまあ、大将。内助の功ってやつじゃねーの? そこは君が居てくれてよかったよ! 君がいないと僕な何もできないんだ! 愛してる! って言うトコじゃねーの?」
「馬鹿かおめーは! そんなこと言ってみろ、後々面倒だろうが!」
 その様子に『メリサ』は苦笑いしているようだった。
 とは言え、と彼は首をかしげる。
「で、何か大将が聞きたいようだったから、出張ってきたが」
 カシムは頷く。

 そうだ。
『メリサ』。彼に関連する事柄。それを知りたいと思って、こうやって世界さえ跨いできたのだ。
「そもそもおめーはなんで、あの『生ける屍』――『セラフィム』、『バイスタンダー』に拘るんだ。割りとあれは普及しまくってる機体じゃねーか」
『セラフィム』タイプ。
 クロムキャバリアでは『グリプ5』において確認された『セラフィム・リッパー』を初め、多くのバリエーションが確認されている。
『セラフィム』タイプ、『リッパー』、『オリジン』、『エクシア』、『プロト』、そして巨神として眠っていた『シックス』に、青い鎧の巨人『セラフィムV』。
 それらが無関係とは思えなかった。

「付け加えるのなら、星の海往く世界では、な。だが、それは第五世代までの話だろう」
「第五世代?」
「そういう兵器の第五世代。鋼鉄の巨人闊歩する世界に現れた……『熾盛』と呼ばれる機体は『セラフィム』第五世代だ。その後に第六世代も漂着したようだが『バイスタンダー』は……あれが恐らく最終世代だ」
『バイスタンダー』はサイキックを常に使っていた。
 同時にあの姿はフレームのみの状態。装甲や武装の全てが剥ぎ取られていた。
『メリサ』の言葉にカシムは猟兵の中にも時折存在する『神隠し』に似た事象を思い浮かべる。
 いや、グリードオーシャンのように他世界を侵略する世界も存在しているのだ。
 ならば、スペースシップワールドの進んだ科学技術を内包する兵器がクロムキャバリアに漂着してもおかしくはない。

「ちょ、ちょい待て。時系列おかしくねーか?」
「そうかい? アンタも気にはなっていたんだろう。なんで『セラフィム』がこっちにもあるのかと。しかも特別視されて、『ティタニウム・マキア』に隠匿されてんのかって」
「それも因子って奴が関連してんのか?」
「『エイル』因子のことを言うのならばノーだな。でも、アンタも心当たりがあるだろう」
 その言葉にカシムは頭を振る。
 いや、うなずける。自身も帝竜の目を奪いたくなる。衝動とも言って良いものが湧き上がるのを彼も自覚している。
 その事実に頷けるところもあるのだ。

「アンタも誰かの思惑通りに動くっていうのが癪に障るタイプだろう」
「そりゃ、そーだ。僕の存在全てが誰かの目的のためのコマだっていうのなら、ムカつきマックスだ」
「まあ、俺はアンタのムカつきマックスを向けられる側であるわけだが。とは言え、俺だって別に……ああ、そうだな。そういうアンタだからこそ教えよう。俺は『メリサ』という群体の一つ。全てが同じ。思考も、感情も、論理も、何もかも同一の存在『だった』。アンタらは自分たちが及ぼした影響を知る機会がないのかもしれないが」
 目の前の亜麻色の髪の男は告げる。
『此処』ではない此処で、全てが同じだった者の中から逸れた者。
 それが『メリサ』である。

「どういう、ことだ?」
「アンタたちなら知っていると思ったが。赤い宝石。あれはなんていうんだったか。俺はあれによって『平和』を願われたが故に分たれた存在。『平和』を齎すためには『争い』がなければならず。『争い』に必ず勝利するためだけに存在する者。だが、『平和』を齎すために『争い』を呼び込むなんて」
 馬鹿げているだろう? と『メリサ』は軽薄な笑みを浮かべて、ゆっくりと消えていく。
「ホログラム……! おい! まて!」
「ああ、そうだ。せっかくだから、その浮かれた姿格好にお似合いのスパ施設のコード送っておくから、行くと良い」
「今はサウナとかどーでもいいんだよ! っていうか、これはな!」
 毎年この時期猟兵たちは水着で人気を競うコンテストがあるのだ。
 そのための格好だとカシムは『メリサ』に叫ぶ。

 追いかけても、ホログラムである以上、どこかのサイバースペースのポータルからアクセスしてるのだろう。
『メルシー』の走査も追いつくことはできないはずだ。
「あぁ、もう、本当によぉ!」
『ドンマイだぞ、ご主人サマ☆』
『メルシー』の言葉にカシムは天を仰ぎ、掴みかけたものが未だ実態持たぬことを知るのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月30日


挿絵イラスト