大魔王外征録~海の家制圧戦
砂浜に寄せる波の音と、行き交う人々の喧騒。眩い陽の差す海水浴場の白砂に、我等が魔王、エステレラ・ピスカピスカ(ぜったいくんしゅ・f31386)が降り立った。
「あれがこんかいのエモノですね」
「その通りです、陛下」
深謀を宿すその金色の瞳を追って、傍らの従者がそう頷く。陛下、今年の水着もよくお似合いです。ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)は器用にカメラを構えながら言葉を継いだ。
「狙いはあれなる海の家、しかし陛下にかかれば――」
「くふふ! たやすくコウリャクしてみせましょう!」
そう、新たな|攻略装備《水着》に身を包んだ魔王様はまさに無敵、海の家ごとき落とせぬ筈がない。そうなると重要なのは、覇道の第一歩をどのように刻むのか、という問題だ。
「ちなみに、うみのいえとはどのようにコウリャクすればよいのです?」
こういう時こそ側近の出番、「恐れながら」とルクアスは主君へ進言する。
「ずばり、海の家完全攻略とは全メニューの制覇!」
「めにゅーにあるものをゼンシュたべればよい、と?」
左様です、さすが陛下。そう頷いて彼は続ける。
「そして開放感あふれるこの空間そのものも思う存分味わうことです!」
なるほど、それはじゅうようですね。エステレラは、それに納得した様子で頷いて。
「よろしい、まおうのしんずいをみせつけてあげるのです!」
こうして目的は定まった。海の家で楽しく遊――もといアクの限りを尽くし、恐怖のずんどこに叩き落とすべく、魔王一行は進軍を開始する。
「二名様ご案内でーす!」
やたらと元気の良い店員に案内され、大きなビーチパラソルのついた席に着く。そうして配られたメニューを手にして、エステレラはふっと不敵に笑んだ。
「みましたか、ルア。このぺらぺらのめにゅーを」
「ええ――」
所詮はこの程度、とルクアスが頷く。だがそこに仕組まれていた罠に、エステレラはすぐに勘付いた。
「こ、これは……!」
かき氷のフレーバーがなんかめちゃくちゃ多い。冷たくて美味しいかき氷だが、食べ過ぎれば牙を剥いてくることを、彼女もまた理解していた。
「なんてひれつな……このうみのいえはゆうしゃがケイエイしているにちがいありません」
おいたわしや魔王様、ぐぬぬってなってる顔も素敵です。そんな感じで撮影を続けているルクアスにとっても、それは他人事ではない。食べ過ぎは普通に頭と腹に効きそうだが。
「ルア、いけますね?」「勿論、いけますとも!」
主君にそう問われて首を横に振ることなどできようか。食い気味に答えた彼は、早速さっきの店員を呼びつけた。
かき氷を全色ください。
店員に「大丈夫ですか?」と二度念押しされたものの注文は果たした。そうして次々と届くかき氷に対し、両者はシャクシャクと攻略を開始する。
「おいしいですね」
魔王様が最初に選んだのは、黄色いレモン味。同時に下半身部分の頭達も、グレープやブルーハワイのものをモグモグとやっている。
「ルアはなにあじですか?」
「……ッ」
「ルア?」
「いえ、なんでもありません陛下。私は定番と言われるイチゴ味から攻めておりますよ」
|突然の頭痛《キーンってなるやつ》に襲われていたルクアスは、どうにか復帰してそう応えた。
「そうですか、いちごあじもおいしいですよね」
『かき氷のシロップは全部同じ味』などという話も耳にしたが、恐らくはそれも勇者の流したデマだろう。だって、こんなに美味しいのに。
「そういえばルア、かきごおりはしたのいろがかわるそうですよ」
「ふふ、そうですね、舌が染まると……」
どうですか? と首を傾げて、エステレラが舌を見せる。かわいらしいその仕草に、ルクアスの動きが止まった。
「わたくしもまおうらしいイゲンあるしたになっておりますか?」
「ぐっ、うぅっ、勿論ですともへいか……」
衝撃と感激とそのほかもろもろにやられた彼は、溢れる感動に咽び泣きながらカメラのシャッターを連打した。
「威厳あふれるお姿に、なっておりますとも……!」
そんな言葉に満足気に頷いて、彼女はかき氷をもう一口。
そうこうしている内にお皿が空いて、下の彼等も満足気に息を吐く。それなりの量をやっつけたが、勿論代償はある。我等が魔王様といえど、おなかのひえからは逃れられないのだ。
魔王として弱音を吐くわけにはいかないだろう。だが、今のエステレラには頼りになる配下が居る。
「ルア、あとはまかせますね」
「えっ」
「あとは、とうめいとみどりです」
ミゾレとメロン……つまりまだ二杯もあるのか?
苦しいところではあるが、決戦時に背中を任せられた時くらいのつもりで、ルクアスは首肯した。
「はい、お任せを……!」
闘いはまだ始まったばかり、もう一度メニューを開いて、うきうきと、しかし真剣に目を通すと、エステレラは攻略の続きに取り掛かった。
「わたくしはあたたかいものをせめます!」
やきそばをください!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴