1
太陽の下のアルバイト

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2023

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2023


0



九之矢・透




 灼熱、という形容詞が笑い話では済まないほどに、この地方では暑い日が続いている。ともすれば外に出るのも躊躇われるような気温ではあるが、それでもなお――いや、だからこそか、UDCアースの一角にあるこの海岸は、海水浴客でごった返していた。
「焼きそば二つとフライドポテトお持ちしましたー!」
 店員さんこっちも注文お願い、はいはいただいま、と海の家もまたそれに相応しい賑わいを見せており、こうしてアルバイトに勤しんでいる九之矢・透(赤鼠・f02203)も、それなりに忙しい時間を過ごしていた。
「うーん、でもなぁ……」
 注文をキッチンに伝えて少しの間が空き、透は思わずそう呟く。彼女の経験からすると、今年の海水浴場の賑わいに対し、この店の来客数は少々物足りない。
 周りを見渡せば、今年の海の家はどこも気合が入っており、競争が激化している。それゆえの苦戦、と言えなくもないが。
「……やっぱ、アレだよなあ」
 アレというのは勿論、隣の店舗に雇われている謎の新人バイトだ。身軽な動きであちこちを飛び回り、給仕どころか外での営業、さらに配達までこなす凄腕……というか時々明らかに空中を走っている。間違いなく猟兵だろう。上空を過っていったその影を見上げて、「反則じゃない?」と透は苦笑する。
 だが、猟兵には猟兵、こんなこともあろうかと、彼女はある種の助っ人を呼び寄せていた。
「ごきげんよう、透君。遊びに来たよ」
「よう、くくりサン! 元気してる?」
 赤い髪に浮かれたカラーサングラスを付けた彼女の名は八津崎・くくり、端的に言うと食欲の権化である。当然の流れとして、売り上げへの貢献も期待できるだろう。
「安心したまえ、ここ最近の給料を使い果たすつもりで来たからね」
 この人のエンゲル係数がどうなってるのか少し気になるところだが、これは間違いなく上客。
「さすがにタダとはいかないけどさ、大盛り分くらいはおまけするよ」
「ふむ、それはありがたい申し出だ。では――」
 焼きそば唐揚げかき氷、ばんばん注文されたものがテーブルを埋め尽くしていくのに応じて、彼女はちまちまとそれを口に運んでいく。一見食べるペースはとても遅いのだが、行儀の悪い|後ろ髪の怪物《UDC》が、隙を見ては盛られた料理を平らげていく。突然の大量注文にフル稼働を始めていたキッチンだが、あの速度についていくのは難しいようで。
「そうだ。くくりサン、BBQセットはどう?」
「ふうん? そんなものもあるのかね」
 透の働く海の家には焼き網を備え付けた席もある。食材を注文すれば、自由に焼いて食べられる、という趣向のものだ。
「ではそれもいただこうか」
 透の案内で焼き網の隣の席に移って、お肉や野菜、海産物を盛り合わせた大皿をくくりが受け取る。つまりこの場合、調理を自分でやってもらえて、さらに時間も稼げて一石二鳥という妙案である。
 うまくいったと拳を握る透の横で、トングを手にしたくくりは「で、これどうするの?」という表情を浮かべて固まった。やったことないのに何故頼んだ。
 見様見真似、おっかなびっくり食材を焼き網に乗せ始める彼女だが、UDCの方が明らかにナマのままいこうとしている。
「あーっ! ちょっと待って!!!」
 さすがに生肉生野菜など素材のまま食べられるのは店として体裁が悪い。急遽引き留めた透は、そこでくくりのBBQを手伝わされることになった。
「いやあ、すまないね」
「ああ、良いってこれくらい……」
「せっかくだし君も少しくらい食べていきたまえよ」
 手間賃代わりにご相伴に預かって、しばし談笑しながら食事を楽しむ。
 とはいえ、さすがに店員である透が付きっ切りで居るわけにはいかない。食材の皿も追加しないといけないし。頃合いを見て、彼女はくくりにトングを手渡した。
「じゃあ、アタシはちょっと離れるけど――」
「ああ、いってきたまえ」
 要領は掴めたからね、と手を振るくくりに頷いて、透は席を離れる。食欲旺盛な客の存在が呼び水になったか、この海の家も来客が増えてきているように見える。それならば、早く仕事に戻った方が良さそうだが。
「……ん?」
 心細そうな顔をした男の子を見かけて、足を止める。迷子か、と気が付いたところで、彼女は既にそちらに歩き出していた。
「浮かない顔してどうしたー?」
 びくりと身構える少年の肩に、透の帽子から抜け出たリスが飛び乗る。驚いた様子の少年だが、それで少しだけ緊張を解くことには成功したらしい。
 目線を合わせるようにしゃがんで、透は笑顔で事情を聴き出す。やはり、両親とはぐれてしまったようだが……。
「大丈夫だって、すぐ見つけてやるからさ」
 実際、そう遠くに行ってはいないだろう。少しは笑顔の戻った少年の手を引いて、透は小鳥達と共に周囲を見回し始めた。

 少年の保護者は、予想通りすぐに見つかった。「ありがとうお姉ちゃん」、と笑う少年に手を振り返して、透は満足気に踵を返す。さて、少しばかり仕事に穴を開けてしまったが、あの店長ならば事情を聞けば許してくれるだろう。とはいえ穴埋めも兼ねて、しっかり働かないといけなくなりそうだが――。
 そういえば店の方は、というか一人残してきたくくりの方はどうなっているだろう。海の家へと戻ったところで、彼女はそれを目撃する。

「その料理、私の頼んだものではないかな?」
「ワーッ! 何なんですかあなたは!?」

「エッ、他所のバイトを襲ってる!?」
 髪の毛を触手のようにうねらせたくくりが狙っているのは、隣店の新人バイトだろうか。相手が猟兵なのは不幸中の幸いかもしれないが。
「これは他のお客様の注文です! 渡す訳には行きません!!」
「ほう、『これが欲しければ自分を倒してからにしろ』と、そういうことだね?」
 絶対違う。しかしながら空腹を拗らせた彼女は見境が付いていないらしい。
「店長! あのお客サンの注文は!?」
「も、もうすぐできるが……」
「すぐに持ってきて!!」
 とりあえず口に食べ物を放り込めば大人しくなるだろう。店長の手から料理の並んだ皿を奪い取るようにして、透は駆ける。
 この一手が、海の家の平和を取り戻すと信じて――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月29日


挿絵イラスト