夏のある日。
リズは初めて訪れたエルグランデの世界をウキウキで楽しんでいる。
青い空、広い海がある街に出向いてみたいと燦斗に聞いてみたところ、港町マリネロが1番良いだろうということで案内する。
しかし燦斗は司令官補佐。高位な立場上、セクレト機関を離れる訳にはいかない。
そこで今回マリネロの街に外出する予定があった高位研究員、フェルゼン・ガグ・ヴェレットがリズのお供をすることになった。
最初は「なんで私が……?」と疑問を持っていたようだが、まあ仕事のついでで休みがもらえると思えばいいか、の精神でリズに案内をすることになった。
「では、行きましょうフェルゼン様。どちらに向かえば良いのでしょうか?」
「まずは水着だったか。あちらの方に確か売っていたはずだが……」
スタスタと足早に道を決めるフェルゼン。その後ろをリズがついていくという形で2人は街を楽しんでいた。
今現在、マリネロの街は夏真っ盛りなので海水浴場が大賑わいだ。水着を購入していく人々もちらほらと見受けられ、試着したまま海へ向かう人もいた。
「まあ、見てくださいフェルゼン様! こちらの水着素敵ですわ!」
「ん……そうだな。キミのような素敵なレディにはとても良く似合うよ」
「ありがとうございます! ……ああ、でもどうしましょう。こちらの水着も捨てがたいですわ……」
「おぉう、長くなる予感がするぞ? 私はそちらの水着で良いと思うよ」
「まあ、でしたらこちらの水着で!」
ニコニコとした笑顔で水着を購入したリズ。フェルゼンが選んでくれたのならば間違いないだろうと、水着を包んでもらってそのまま外へ。
日差しの暑い中、マリネロの街を練り歩いている2人は次は何処へ行こうか、と話し合っていた。
港町ならではの食事をしてから海を楽しみたいとリズが提案したので、それならば、とフェルゼンはあるレストランへと連れて行く。
「ここは私の弟が紹介してくれた店でね。いつか行きたいと思っていたところなんだ」
「まあ、弟様がいらっしゃるのですね? よろしければ、お話など伺っても?」
「では食事でもしながら、弟……ルナの話をしようか」
そういうとフェルゼンは先にレストランへと入り、席を確保してくれた。
揃ってメニューをぺらりぺらりと捲ってみると、メニューは港町ならではの海鮮料理が多い。
他、デザートも可愛らしい品々が並んでいるためリズの視線はデザートメニューから動くことがない。
「ふふ。今回は司令官からいくらか資金を貰っているから、好きに頼んでどうぞ」
「本当ですか! では、まず……」
メニュー表に並んでいた可愛らしいデザートを数種類ほど選び、運ばれるのを待つリズ。それと同じく、フェルゼンは紅茶とパンケーキが来るのを待つ。
その間に2人の間には楽しい会話が広がっていた。
今はマリネロの街の何処かに住んでいるというフェルゼンの弟、ルナール。彼の話を中心に2人の話は少しずつ盛り上がっていく。
「ルナは少し前に問題を引き起こしてしまってね。それでセクレト機関にいられなくなって、この街にいるんだ」
「まあ……それだとフェルゼン様とお会いするのも大変なのでは?」
「ああ、難しいな。私の立場上、こうして外出するのも大変でね」
少々寂しそうな表情を浮かべるフェルゼン。高位研究員という立場上セクレト機関の本部から出ることはほとんど許されず、許可がなければこうしてマリネロの街にも出ることさえ出来ない身分故に、余計に弟と会えないのが寂しいのだろう。
それをかき消すように紅茶を一口喉に通すと、ふと、自分の話ばかりしているが大丈夫だろうか? という表情を浮かべ、リズに問うが……リズはむしろ彼の話の聞き手になりたいからと答えを返した。
「そうかい。では、そうだな……」
話の続きをしようとフェルゼンが考えたところで、リズが最後に頼んだ『にゃんだふるプリン』が届けられる。
にゃんだふるプリン。それはマリネロの街に住んでいる猫ちゃん達のポーズを模したプリンであり、届けられる猫ちゃんにも個体差があるというちょっとした楽しい要素のあるデザート。
ぷるぷると震えるつぶらな瞳で座っている猫ちゃんのプリン。そのあまりの可愛さに、リズの目がキラキラ輝いた。
「見てください、フェルゼン様! こちらのプリン、とても可愛いですわ!」
「ほう、これは見事な形だ。下手をするとプリンは形が崩れるというのに……」
「はっ……! フェルゼン様、この子、かぎしっぽです!」
「おぉ……プリンでこの形を再現するとは、なかなかやるな!」
にゃんだふるプリンの可愛さに見惚れているリズと、にゃんだふるプリンの形を褒めまくるフェルゼン。
そのうち本物が見たくなった2人は、型の元となった猫を探しに行こう! と躍起になって外に出ていく。
――暑い夏。
宝探しをするには少し暑すぎるが、それでも2人にとっては楽しい夏となった。
成功
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