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ティタニウム・マキアの丹祈

#サイバーザナドゥ #ノベル #巨大企業群『ティタニウム・マキア』

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#巨大企業群『ティタニウム・マキア』


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ステラ・タタリクス




●脱走
 サイバーザナドゥにおける警察機構というのは腐敗と汚職に塗れている。
 賄賂は当然のように必要になるが、金銭の持ち込みは当然のごとく禁止されている。またサイバースペースを経由したやりとりも禁止されている。
 外部との連絡を取るためには汚職刑務官を丸め込むしかない。
 亜麻色の髪の男『メリサ』は巨大企業群『ティタニウム・マキア』に関連した本社ビル破壊の容疑で拘束され、警察機構に勾留されている。
 明日にでも刑務所に移送される運びとなっていた。
「……正直に檻の中にいるのも悪くはないとは思ったんだが……」
「どの口で仰っておられます?」
『メリサ』は両手を上げている。
 彼の背後には紫の髪を揺らす一人のメイドがいた。後頭部に突きつけられた銃口。
 心当たりがないか、と言われたのならば『メリサ』は一人だけ居る、と答えるだろう。

 暗闇満ちる勾留所の塀の中、二人の男女が剣呑たる雰囲気を放っていた。
「あの場でした約束を違えるつもりはありませんが……少しメイドを舐めすぎでは?」
「いやぁ、おみそれしました。とでも言えば許してくれる? ていうか、なんでわかった?」
「貴方様が『あの場』と私から逃げ切るには、この方法しかありませんものね?」
「流石。よくわかっていることで」
 軽薄そうな口調のまま亜麻色の髪の男『メリサ』は手を上げたまま、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)に振り返る。
 その黒い瞳、星映す瞳をステラは見返して、息を吐き出す。
「……はぁ、もう。こちらです『メリサ』様」
 そう言って突きつけていた銃をおろしてステラは恭しくカーテシーを行い、道を示す。

「用意がいいことで。いや、本当に。どうやってこの退路を?」
「何でも出来るメイドですから。この程度のことなど朝飯前ということです」
 サーチライトが二人を照らす。
 亜麻色の髪の男『メリサ』の脱走が知れ渡ったのだろう。光に浮かび上がる二人へと加えられる銃撃。脱走は銃刑。生命の保証はされないのだ。
 火線引く闇夜の中、二人は駆け出す。
 息のあったコンビと言われたのならば、そう信じられるほどの颯爽たる速度で持って彼女達は塀の外へと飛び出し、一気にストリートの中を駆け抜けていく。
 並走するステラに『メリサ』は、なんとも言い難い表情になる。
 戦闘義体でもなんでもない生身の人間のように思えるステラが義体に換装している自分と同等の身体能力を発揮しているのだ。
「つくづく猟兵ってやつはさ」
「……ここまでくれば大丈夫でしょう。『メリサ』様、此方を」
「偽造ID! こんなものまで……アンタ、本当にどうして此処まで俺にしてくれる? 俺にはわからないな」
 その言葉にステラは首を傾げる。

「惚れた弱み?」
「冗談だろう?」
「いえ、本気です。というかですね、籠の中の蜂は怖くないというか、私の中のゾクゾク感に従った結果ですね」
「本気でヤベーじゃねーか」
「誰がヤベーメイドですか」
「いや、本当にヤベーのに見つかったって感じがする」
 そんな『メリサ』にステラはにま、と笑む。
「それにしても。焦りましたねぇ。今回の事件。ねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」
 今回の事件のことに対してステラは『メリサ』の思惑が最後の最後で上手く行かなかったことを煽るのだ。
 その様子に『メリサ』はステラの顎を掴んで顔を上げさせ、黒い瞳で赤い瞳を覗き込む。
「唇を塞ぐのでは? そういう流れでは?」
「やめておく」
「強情ですね。貴方様のために何でもする何でも出来る美少女メイドがいるのに。口づけ一つでお買い得ですよ?」
「分かたれた『俺』だか『僕』だかが、言うような気がするんだよ。そういうのは違うってな」
 その言葉にステラは目を見開く。

 そう、彼女の心にあるのは、あの青空の世界で出会った『エイル』のみ。
 多くの残滓か、はたまた分かたれたものか、そうした因子をステラは多く見てきた。本質的には同じ。だが、違うと彼女自身も理解しているのだろう。
 故に、それを『メリサ』から告げられるとは思ってもいなかったのだ。
「そういう物言いは、ずるい、というものです」
「しかたねーだろ。そーいうのが俺なのだから」
「本当に、もう。『メリサ』様? 貴方様は『女の私』が求めるただひとり」
 逃げ込んだストリートにまで警察車両が近づいてくる気配がする。
 そんな中、ステラは背を向ける『メリサ』に告げる。

「この胸のゾクゾク感を恋に昇華できるのも貴方様だけ。いつでもデートのお誘いはお待ちしております」
「……これは貸しってことだからな」
「ええ、お待ちしております。では」
 いってらっしゃいませ、とステラは完璧な所作でもって『メリサ』を送り出す。
 彼女を背にして走る『メリサ』は小さく呟く。
 おくびにも出せないけれど、良い女だとおもったのだ。けれど、それは叶わない。
 だから。
「ちぇ……惜しいことしたな」
 そう呟くしかないのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月28日


挿絵イラスト