インヴァイト・ミー
●神のみぞ知る
くじ引きが吉兆を顕す、というのならば、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)にとってこれは幸運であることに変わりはない。
そう、目の前でひかれたくじ。
よくある三角くじである。
開かれた其処に書かれているのは『人気遊園地のペアチケット』を示す等級。
「おめでとうございま~す!」
大当たり~! という目の前の商店街のおっちゃんの言葉に飛鳥は漸く目を瞬かせることができた。
がらんがらんと重たい鈴の音が聞こえる。
え、と思った。
ペアチケット。
「彼女と行きなよ。ほら、おめでとう!」
そう言って手渡されるチケット二枚。
いやまあ、商店街で買い物ついでにもらった引換券。ちょうど一回分溜まっていたので、何か良いものが当たればええな~位に思っていた。
「え、でも、俺……」
彼女いたことない。
次に浮かんだのは三人の弟妹の顔だった。三人いるからペアチケットを誰に渡しても角が立つし、どうにもならない。
「えぇ……困ったことになったやん」
どないしよう。
こういう時に彼女のいない自分が恨めしい。彼女がいるのならば、ペアチケットが当選したことに喜ぶことも出来ただろう。
彼女の喜ぶ顔だって思い浮かべることだって出来たかも知れない。
けれど、そういうことから縁遠い。
彼は確かに朗らかで社交的な高校生である。友達だって男女問わず多い。そういう意味では誰にでもフレンドリーであるから、誘えばみんな喜んで遊園地に行ってくれるであろう。
けれど、だ。
友人が多い、ということはやはり弟妹たちのように角が立つ、というものである。
そうなると……。
「あかん。喧嘩の元やん。あーうー、でもなぁ。せっかくペアチケット当たったんやし……誰か誘って遊びに行くのがええやんなぁ」
チケットさんもせっかく自分の所に来てくれたんやし。
これを誰かに、はい、さいならとばかりに厄介払いするのはとても気が引ける。となれば、困った時の神頼みならぬ幼馴染頼みである。
取り出したスマホのロック画面に日時と時刻が記されている。
SNSとメールの通知が数件。
それらを飛鳥はひとまず置いておいて、電話機能をタップする。少し指が滑ったような気がした。
いや、別に緊張してるとかではない。
もしかしたら断られる可能性だってないわけではないのだ。
こういう時に頼み事をすれば、一言『いいぞ』と言って引き受けてくれる幼馴染の顔が思い浮かぶ。
「いっつもやけど、ようよく聞かんで引き受けてくれるんよなぁ……」
そういうところが自分にとって心地よいのだ。
あの背中をいつだって見てきたから。
泣き虫で気弱で、今とはぜんぜん違う自分でも彼は振りほどくでもなく、いつだって己の前に立って歩いてくれた。
寄る辺、というのなら彼のことを言うのだろう。
「迷惑やあらへんかな。いやでもなぁ。遊びの誘いやし」
ええい、と通話ボタンをタップする。
呼び出し音がもどかしい。早く出てほしいような、出てほしくないような。いやでも出てくれ、とも思う。
コールはワンコール。
言えるだろうか。上手く、ちゃんと言えるだろうか。
願わくば淀みなく頭に浮かべた言葉を紡げますようにと願いながら帝は一息に喋りだす。
「あっ、帝? 今ええ? うん? そうそう。さっきな、ええことあったんやけど。うん、でな。ペアチケット当たってん! すごいやろ? むふん。そうやで。一緒に行かへん?」
先約などなかっただろうか。
他の誰かと遊ぶ約束をしてやしないだろうか。
ああ、でも自分を選んでほしい。
そんな不安と期待のないまぜになった心に飛び込む返事は、やっぱりいつもの変わりない――。
成功
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