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🍨食物文化研究同好会~アイス編

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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#猟兵達の夏休み2023


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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝





 同じ夏は二度と来ない、とはよくいったもので。
 こっそり想いを寄せる相手と迎える夏は何度もあれど、そのどれもがかけがえのないものだ。
 一緒にスイカを食べた事だとか。プールに行ったことだとか。
「ミカ!」
 さて今年はどんな思い出が出来るだろうか、なんて思いを馳せていたところで、まさに意中の相手がアポなしピンポンしてきたものだから、さすがの一ノ瀬・帝も少しは驚いた。
「どうしたんだ、飛鳥」
 玄関を開けると、知花・飛鳥がとびきりの笑顔を見せてくれた。
(「今日も可愛いな」)
 つられて笑顔になりそうなくらい嬉しいわけだが、帝はいつもの無表情をキープしたまま続ける。
「宿題でも一緒にやろうってか?」
「そんなワケあれへんやろ、俺が夏休み初っ端から宿題片付けるタイプに見える?」
「いや、全く」
 他の奴なら自慢げに云うなと突っぱねていたところであるが、夏休み終盤に飛鳥の宿題を手伝う恒例行事もあれはあれで楽しいものなので、それ以上は言及しない。
「じゃあ何で……」
「あんな、アイス食いにいかへん?」
「アイス?」
 首を傾げる帝に、飛鳥はにっと白い歯を見せる。
「商店街にな、新しいアイス屋が出来たんやって。なんでも注文した奴をイメージしたアイスを作ってくれるんやって!」
「へえ……? なかなか面白い趣向だな」
「やろ?」
 ということは、飛鳥をイメージしたアイスというものが出来るのか。
(「それは確かに興味あるが、果たして飛鳥の魅力がアイスひとつで表現できるものか」)
 帝がそんな事をこっそり思っているとは露知らず、飛鳥はますます笑みを深めて云うのだった。
「ミカのアイス、どんなやろうな? 楽しみや!」
「かっ……」
「か?」
「何でもない。じゃあ確かめに行ってみるか」
「おう!」
 今ナチュラルに“可愛い”と云いかけた。あぶなかった。踏みとどまった。飛鳥が可愛すぎるのがいけない。
 うっかり云ってしまっても「そうか? あんがとな!」と喜んでもらえるのは目に見えているが。
「支度してくるから十分くらい待ってくれ、暑いし上がってくか?」
「ええよ、ミカ準備いつも早いさかい」
 そりゃあ、他ならぬ飛鳥を待たせるなんて許されないからな――と。
 今日もすぐさま着替えて、アイス屋へと向かうのだった。



「はい、知花飛鳥さんと一ノ瀬帝さんですね」
 アイススタンドの店主は、二人の顔を順に見ながら感じのよい笑みを見せた。
「自分自身ではなく、相手をイメージしたアイスをご注文という形で?」
「はい」
「うんと格好いいミカアイスを頼むで!」
 並んでいる間に、二人で話して決めたのだ。
 アイスにしてもらうにも、自分で自分の事を説明するより相手に話して貰った方がかえって伝わりやすいのでは、という帝の提案に、飛鳥が賛成してくれた。
(「伝わりやすさも勿論だが、飛鳥が俺をどう思っているかも少しは判るかもしれないし」)
「そうしましたら、お互いの印象など話して頂けると助かります」
「はいはーい、じゃあまずは俺から!」
 元気に手を上げる飛鳥。
「ミカはなあ、表情筋動かんし自分からはあんま喋らんから、パッと見は冷たそうな感じがするんやけど、実際はめっちゃ優しくて頼りがいのあるええ男!」
「ほう」
「学校で俺と一緒に居る時以外のミカは、先生や生徒から何か頼まれていたり誰かを手伝ったりしてるとこ結構見かけるから、そういうオーラ出てるんやろなぁ。あと俺の受験勉強もずっと付き合ってくれたし、何かお願いしたらすぐ「いいぞ」って景気よく聞いてくれるし!」
 すらすら話す飛鳥の言葉を店主がメモに書きつけている。
(「……飛鳥以外にはそこまで何でも聞かないけどな」)
 人をよく見ているくせに、肝心のところには気づかないものだと、帝はこっそり嘆息する。
 嘆いているような、今の心地よい友人関係が壊れないようにこれでいいと思うような、いつもの感覚だ。
(「少なくとも、友人として信頼されているというのは確かだな。……安心した」)
「そちらの方は?」
「ああ、飛鳥は……一言で言うと天真爛漫、かな。誰に対しても別け隔てなく笑顔を向け、相手も笑顔にする力がある」
「照れるなぁ」
「飛鳥のもとには自然と人が集まるし、時に相手の手を引いてその輪の中に連れて行ってくれる。でも完璧超人というわけではなく、勉強面はダメダメだったり虫や怖いものが苦手といった弱点があるのもまたいい。守ってやりたくなる」
 最初はにこにこ聞いていた飛鳥が、途中から目を丸くし、赤面し、せわしなくきょろきょろし始めていた。
「……何や、褒められてんのかけなされてんのかようわからんなあ」
「そうか? 精一杯褒めたつもりなんだがな」
 嘘だ。実際には語り切れない程のあれやこれやそれがあるのを、どうにかこうにか引かれない程度に抑え込んだのだ。精一杯褒めたら今の軽く十倍は語れる。
「でもミカが守ってくれるなら安心やんなぁ」
 そんな二人の会話を、微笑ましそうに店主が聞いていた。



「へー、こうなるんや」
「何だか双子とか兄弟みたいだな」
 仲のいい二人に合わせ、アイスの基本の形は一緒だ。
 アイスに飾りを刺し、その下にグラニテと生のフルーツを合わせる。
「フルーツはコンポートなどにした方が馴染みやすいのですが、食感を楽しめるようにというのと、お若い二人に合わせてフレッシュフルーツを使用しました」とのことである。

 帝をイメージしたものは髪色をイメージした抹茶アイス、黒いココアクッキーをプラスしてさくさくと歯ごたえも楽しく。
 上に添えるのは飴細工の眼鏡。グラニテもほんのり緑色を帯びている。
「これも抹茶?」
「召し上がってみてください」
 店主の薦めに飛鳥が一口食べて見ると、抹茶よりももっと爽やかな香り――。
「紫蘇や!」
「紫蘇の香りには食欲を増進させる夏バテ知らずの効果があるんですよ。クールだけれど面倒見のいい一ノ瀬さんをイメージしています」
「成程なぁ」
 下に敷き詰めるのはマスカットで清涼感たっぷりだ。
 そして、飛鳥のイメージは……。
「やっぱり俺のより派手だな」
 紫芋の色鮮やかなアイスに、ピンク色のパチパチ弾けるキャンディが入っている。
 その上に飾るのはラズベリーピューレを織り交ぜて薄く焼いたチュイル。
「鮮やかさと食感のバリエーションで、知花さんの快活な性格をイメージしてみました」との事である。
 パンチの利いたアイスを邪魔しないように、グラニテは爽やかな林檎味。
 その下に風味豊かなブドウを添えて――。
「マスカットとブドウで、ここにもひとつ、お揃いやんな」
 相変わらず飛鳥が無防備にそんな事をいうものだから、帝は人知れず想いを押し込むのに莫大な苦労を賭す羽目になる。
「あ~、ミカのアイス美味いなあ。冷たくて爽やかなのに優しい感じで、まさにミカって感じ!」
「ん」
 素っ気ない相槌と共にスプーンを口に運んで。
「……甘いな」
「ふは、シンプルな感想やんな」
 おひさまみたいに眩しい笑顔に溶けてしまわないよう、冷たさを頬張るのだった。

 夏はまだ、始まったばかり。
 今年もいい事が、たくさんありますように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月26日


挿絵イラスト