●7/26
その日は幽霊の日だと定められている。
UDCアースにおいては、月日ごとに記念日というものが決められており、またそれは多くの人に認識されるものもあれば、されぬものもある。
時には勝手に言い張っているだけのものもあるだろう。
一言で言えば多種多様。
あまりにも雑多としていて、何がどう正しいのかもわからぬほどである。
それほどまでに記念日というのは人々にとって語呂合わせのような、心のゆとりを日々に見出すためのものであるとも言えよう。
そして、今日という日。
7月26日は『幽霊の日』だという。
「とは言われましてもねー」
「ぴゅきゅ!」
「くえー!」
「にゃーん」
三者三様の反応というか、ほぼ一緒であった。巨大クラゲである『陰海月』にヒポグリフの『霹靂』、二又尻尾の猫の『玉福』。
彼らが今日という日にちなんで何か話をしてほしいと馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は請われたのだ。
だが、本当にどうしたものであろうか。
この屋敷……つまるところ『馬県さんち』と呼ばれる屋敷は元々幽霊が出るという噂が広まっており、どうにも買い手が付かなくて物件の主がほとほとに困り果てていた経緯がある。
とは言え、この屋敷に隣接する土地は『邪神召喚の儀式跡』でもあるので、あながち間違いではない。というか、なんという物件に住んでいるのだろうと三匹は思った。
あれ、ということは『玉福』が縄張りを意識している場所も掛かっているのだろうかと少し考えたが、今はやめておく。
「まあ、そういうわけで困っていた家主さんのために私達が買い手に現れましてー。その時は大層驚かれましたし、本当にいいのかと念書まで欠かされる始末でありましたがー……」
ご覧のとおりである。
時に何も怪奇現象の怪奇の文字すらない有様である。
なんだ、冗談か噂に尾ひれがついたものであったのかと納得仕掛けたが、しかし、先程『邪神召喚の儀式跡』という物騒なワードが聞こえたような気がする。
嫌だなにそれ怖い。
「最初はですね。やはり多くの怪奇現象がございましてー。畳は裏返される。電球は明滅する。何もしていないのに戸棚がカタカタと揺れる。失せ物はしょっちゅうでしたがー」
まあ、なんていうか相手が悪いっすよね。
そう、馬県・義透は悪霊である。
それも四つの魂を呪詛でもって束ねて一つにして維持している存在なのだ。
正直言って今も呪詛というか、プレッシャーというか、そういうものが渦巻いているようにさえ思えるのだ。
半端ない存在である。
となれば、どんな怪奇現象がやってきたとて怖くない。
いや、怖いって。
どう考えたって、四悪霊の方が余程怖い。どういう理屈でそうなってるのか全然わからない。
それに中に居る一柱はもっとヤバい。
「ああ、そうですね。私達を相手にするのは悪かった、というのもありますが、『侵す者』がまたおかしくって」
「よせ。あれは若気の至りというやつでな……」
「まあ、いいじゃありませんか。そういうのを青春というのですよ」
「どういうことか、と? それは……」
「よせというとるに!」
ああ、四つに増えた。
目まぐるしく入れ替わる馬県・義透の表層。わちゃわちゃとしている様は三匹にとっては愉快な見世物みたいなコミカルさかもしれないが、傍から見ていると正直怖い。
「彼ってばね、若い頃に昼寝をしていたら地面から半透明な手があちこちから生えてくるという怪奇現象に見舞われたそうでしてー」
「いや、あれは合戦場跡で……」
「ですが、『侵す者』はゆっくり眠りたいからといって、引っこ抜いて投げては捨て投げては捨てを繰り返していたそうですよ」
なにそれ怖い。
どういう理屈? しかも生前ってこと? 生前からそんなのだったの?!
「いやまあ、そのな。ある日見るからにおかしな気配がするので目を凝らすと赤い手が伸びてきて、これは拙い、と流石に慌てたものよ」
「でも、それ引っこ抜いて投げたんですよね。しかも、相手が此方をつかめるのなら、此方も相手をつかめぬ道理はない! とか言いましてー」
「そうはならんであろう、と我等は笑ったものであるよ」
「そういう話になるからしとうなかった、この話!」
彼らの入れ替わる表層に三匹は笑っているように鳴く。
どうにも『おじいちゃんらしいなぁ』という雰囲気であろうか。
彼らはほのぼのとしているが、『疾き者』たちは気がついていた。
「ところで」
「ああ、そうだな。先程からワシも気なっていたのだが」
「『陰海月』たちの背後にいる……そう、あなた」
三匹は背後を振り返る。瞬間、彼らは先程までとは全く別種の鳴き声を上げることになる。
「君は一体どのような用向きで我等の屋敷へ? そうです、先程から私達の会話に混ざってしきりに頷いていた……そう、あなた――」
成功
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