黒猫と狼の|夏の夢の味《アイスデザート》
●どんな夢でも君となら、きっと楽しい
その森は熱気と甘い香りに満ちていた。
――モモ、ブドウ、マンゴー、ドラゴンフルーツ、etc。
樹々の枝をしならせる、様々な夏の果実。
「此処が夏の夢の国かー。まさに夏の夢って感じの光景だね」
スイカやメロンまで樹に生っていると言う不思議な光景に、夜久・灯火(キマイラの電脳魔術士・f04331)が声を弾ませる。
「そうなのですけど……」
そのすぐ後ろで、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は少し怪訝な顔をしていた。
『気にしなくていいんじゃナイ?』
その胸中を察したもう1人の有栖――オウガのオオカミさんがそっと肩を叩く。
『バカンスにはもってこいの場所なのは、変わらないヨ。今年は灯火も一緒だし、もっと楽しめそうダヨネ』
此処が嘗て訪れたのと少し異なる世界でも、いいじゃないかと。
その言葉に、有栖は驚いた様に目を瞬かせる。
「……そうですね。此処も素敵な場所です」
「有栖。こっちの果物が美味しいって」
小声で呟いて、有栖は少し先で手招きする灯火の元へ小走りに駆けて行った。
●冷たく甘い夏の夢の味
――こっちの実が甘いよ。
――瑞々しくて美味しいよ。
この|不思議な世界《アリスラビリンス》なら、何が喋ってもおかしくはない。
「じゃあ、これを幾つか……え、もっと良い?」
「私はこれと……あ、あとアレも」
光るトンボ達の声を信じて、灯火と有栖は思い思いに果実に手を伸ばす。
『有栖、私も、私も食べるヨー』
「わかってますよ。ちゃんとオオカミさんの分も採ってますから、水を汲んで来て下さいね」
もの欲し気なオオカミさんに採った果物を見せながら、有栖はおつかいを頼んだ。
道中にあった清涼な泉の水は、この後に欠かせないものだから。
「これは……凄いね」
森を出た所で、灯火が思わず息を呑んだ。
海が広がっている。その半分は少し先の底まで見える程に透明なのに、もう半分は夜の様に真っ暗だ。
その理由を探して視線を巡らせれば、暗い海の上には満天の星空が、透明な海の上には白い入道雲が山の様に聳えた夏の青空が、昼と夜の空が混ざらず同時に広がっている。
「おや、お客さんだ」
「いらっしゃい、夏の夢の国へ」
そんな空を映した海の中から、シロクマ型のかき氷機を背負ったシロクマの様な愉快な仲間達が姿を現した。
かき氷作れる?なんて聞くまでもない。
「これですか?」
「そうそう。甘くするなら、シュガーフィッシュだよ」
今年新調した黒い水着に着替えた有栖は、言われるままに炭酸水の海に手を入れる。
シュワシュワと水が弾けるくすぐったさに耐えて掬い上げた光る魚は、有栖の掌の上で輝く砂糖へ姿を変えた。
それを皮つきのままのブドウと一緒に不思議な瓶の中に入れて振れば、あっと言う間に紫色のシロップに。
『有栖、出来たヨー!』
「あっと言う間だった」
そこに、オオカミさんと灯火がやって来る。
去年と同じセパレートタイプの水着姿な灯火が持つお盆のには、細かく削られた雪の様に白くふわふわのかき氷が2つ――2つ?
「灯火さんのは……もしかしてマンゴーを?」
「うん、マンゴーを凍らせてかき氷にして貰ったんだ」
1つだけ色が違う事に気づいた有栖に、灯火が微笑み頷く。
白いかき氷は、泉の天然水を凍らせ削ったもの。一方、灯火が作って貰ったのは、マンゴーの実を凍らせ削ったもの。上から掛けたのは、ココナツの様な実から採れる、練乳の様な白く甘い樹液。
「こちらも最後の仕上げを」
白いかき氷にブドウのシロップをかけ、その上からマスカットで彩れば有栖のかき氷も完成だ。
冷たいかき氷を食べるなら、暑いくらいが良い。
3人は昼側の砂浜に立てておいたパラソルの下で、サク、と氷を掬って口に入れた。
「ん……冷たくておいしいです」
『マスカットを一緒に食べても美味しいヨ』
「うん、マンゴーの甘みが濃厚で美味しいよー♪」
3人の口から、歓喜の呟きが零れる。
ブドウをたっぷり使ったシロップと、マンゴーをそのまま削った氷。
果実の美味しさと氷の冷たさが、3人の舌の上で同時に溶けて広がっていく。どちらも美味しくない筈が無い。
「有栖ちゃんたちのもおいしそうだねぇ」
けれども、隣の芝生は青く見えると言うもので。
「良ければ一口いかがかな? 代わりにそっちのかき氷もちょっと貰えると嬉しいな♪」
「……くれるんですか? では、コチラのかき氷も一口どうぞです」
灯火と有栖は、互いに相手のかき氷をひと掬い。
口に広がるのは、自分が選んだのとは違う甘さ。それは些細な事かもしれないが、またひとつ、相手の事を知れた証。
「有栖ちゃん、誘ってくれてありがとうね♪」
「こちらこそ。来てくれてありがとうございます、灯火さん」
互いに笑みを交わす、灯火と有栖。
その横で、1人黙々とかき氷を食べ続けていたオオカミさんが、頭にキーンと来て思わず顔を顰めていた。
成功
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