「今日もええ天気やなあ」
梅雨も明けた7月のとある休日。洗濯物を干しながら、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)は空を見上げた。
ごく普通の高校二年生の飛鳥だが、こういった家事は慣れている。弟が二人、妹が一人いる飛鳥は、両親から弟妹たちの世話を任されることが多いため、自然と身についたともいえる。
今日も朝から両親がどちらも用事で家を空けているため、飛鳥はこうして家事をこなし、弟妹たちの面倒を見ているのだった。
「おにぃ、それ終わったらこっち来て一緒にゲームやろうやぁ」
テレビゲームを指差し、飛鳥を誘うのは次男の|澄春《すばる》だ。中学一年生の澄春は未だ反抗期を迎えていないのか、飛鳥をおにぃと呼び慕ってくれている。
「おう、ええけど……宿題は終わったんか?」
「それは後でやるねん」
「いやいやいや、それ先やらなあかんやろ。俺が見たるから、先済ましときぃ」
飛鳥の学校での成績はお世辞にも良いとは言えないが、それでもそう弟に諭すのは面倒見の良さの表れだろう。
そうして弟の宿題を見ているうちに、時刻は昼を迎えようとしていた。
「頭使ったらお腹すいてきたわ。おにぃ、昼飯はどうするん?」
「今日は俺が作るんやで」
「お腹いっぱいになるもんにしてや」
食べ盛りの子どもらしい澄春の言い分に、飛鳥は任せろと、にっと笑って見せる。
「今日のことは聞いとったから、何作るか部活中に考えとってん」
「おにぃの部活って、お菓子食べてるだけやろ?」
「そうそう毎日お菓子食べてるだけ……って違うわ!」
華麗なノリツッコミを見せた飛鳥が所属しているのは、『食物文化研究同好会』。特に入りたいと思える部がなかった飛鳥が一年生の時に作った同好会である。名前はなんだか真面目そうだが、活動としては部室でお菓子を食べたり、帰りに食べ歩きをしたりするゆるーいものなのだ。
「食べてるだけちゃうで。どのお菓子が美味しいかの情報交換とか季節限定お菓子のチェックに……この辺に出来た美味しいお店とか見つけたりもしてるねんで」
「……そんな変わらんやん」
何が違うのかと言いたげな澄春であったが、飛鳥としてはお菓子を食べてるだけ、は違うのだ。幼馴染の帝だけでなく、新しく入ってくれた全や大地と過ごすあの時間が飛鳥はとても好きなのだから。
「ともかく、今日はな……お好み焼きや!」
「おっ、ますますお腹空いてきたわ」
「食べ盛りの胃を満たすにはやっぱ粉もんやろ……さ、澄春、お前も手伝ぅて!」
「ええけどー。なんかお駄賃無いん?」
嫌とは言わないが、そう言って報酬を要求してくるところが実に中学生らしい。
「お前の好きなもん入ってるんは多めに食べてええから!」
「あとでゲームも付き合うてな」
「わかったわかった」
そうして飛鳥はキッチンで準備に取り掛かる。まずはお好み焼きに欠かせないキャベツ。食べ盛りな弟妹たちのためにも小ぶりのキャベツをまるまる一玉、粗みじん切りにしていく。
「せっかくやから色んな種類の作ったるからな。あ、澄春はこれ混ぜといてな」
市販のお好み焼き粉に卵やキャベツに天かすを加えてから、澄春にボウルを渡す。
「ざっくり、やで」
「え、こうか?」
「そうそう、空気を混ぜるようにしたらふわっと仕上がるねん」
事前に動画でも美味しいお好み焼きの作り方を確認していた飛鳥は、豚バラや海老やイカなどの材料も準備しておく。
「そんで今日はホットプレートで焼くで。みんなで出来たてを囲んで食べるんや」
「それはええなぁ」
ホットプレートの予熱を開始すれば、二人で一緒に遊んでいた小学四年生の弟と、その一つ下の妹もお腹を空かせてやってくる。
「おなかすいた~」
「おう、二人とも今から焼くからな。手ぇ洗って待っときぃ」
はーい、と素直に洗面所に手を洗いに行った弟妹たちが戻ってきてから、飛鳥はホットプレートに生地を投入する。
「この温度が大事らしいんや」
スプーンで生地を均等にならしていくと、弟妹たちも楽しそうにその様子を眺めている。作った料理を出すのも良いが、こうして目の前で焼いて食べるのもまた好奇心旺盛な子どもたちにとっては楽しいことだろう。
「よし、ここで豚バラ乗せるで」
熱が通り生地が固まりだしてから豚バラを上に並べていく。ホットプレートの温度を上げ、コテを二枚使ってひっくり返して蓋をする。
焼けるまでの間、飛鳥は弟妹たちの話に耳を傾ける。
「そういや澄春は何のゲームしたいんや? あ、ゾンビとか出てくるのはアカンからな!」
ホラーが苦手な飛鳥はそう言って釘を刺す。家にないゲームでも、澄春が友達から借りてきて遊んだりするので油断できないのだ。
話を聞けば、どうやら人気キャラクターたちが大乱闘するゲームだった。
「もうちょっと上手くなりたいんよなぁ」
「んー、全やったらコツとか教えてくれそうやけどなあ……今度聞いとくわ」
そんな風に話しているうちにお好み焼きは良い感じに火が通ってきて。
「よし、あとちょっとやで」
蓋を取ってひっくり返せば、豚バラに美味しそうに焼き色がつき、一気にお腹が減ってくる。もう少し焼いてから、お好みソースをたっぷりかけて青のりをふれば完成だ。
「まずは豚玉な。熱いから気ぃつけや」
お好み焼きをコテで四等分にして、それぞれの皿に取り分けていく。そうして次は海鮮ミックスの生地をホットプレートに投入しておいてから、みんなで豚玉をいただく。
いただきます、と声を合わせてからお好み焼きを口に運べばふわふわの生地にたっぷりのソース、カリッと焼けた豚バラが最高に美味しくて。
「おにぃ、めっちゃうまいで」
「お、そうか。澄春が手伝ぅてくれたからやな」
「へへ、当然やな」
素直に美味しいと口にしてくれる弟は純粋に可愛く、褒めればまた嬉しそうにドヤる様子も愛らしい。
「うん、すごくおいしい!」
「次は? 早く食べたいなぁ」
「次は海鮮ミックスや」
「おにぃ、それ多めにちょうだいな」
「わかったわかった」
そう言いながら次々とお好み焼きをホットプレートで焼いては食べ盛りな子どもたちの胃袋を満たしていく。
その次のツナとコーンとチーズは妹に大好評で、豚キムチは弟二人が喜んで食べていた。
「次はこれや」
そう言って飛鳥が作ったのは、お好みソースとトマトを絡めたものを上にかけたトマトのお好み焼き。
「えー、トマト? 合うん?」
「昨日な、商店街でキャベツ買うたらおまけや言うてトマトくれてん。サラダかなーって思ってたけど、調べたらお好み焼きにも合うらしいってネットにあってな」
出来上がったトマトお好み焼きをそれぞれの皿に配っていく。
「ええー合うかなぁ……お? 意外とイケる……?」
「うん、ええやん」
トマトの甘酸っぱさがソースと絡んでまるでデミグラスソースのようなコクを生み出している。飛鳥も唸ると、妹もこくこくと頷いている。
「わたし好き!」
「そうか、作って良かったわ!」
また商店街でお礼と感想言わなな、と思いながら飛鳥は弟妹たちが満足そうなことに一安心するのだった。
「いやー食べ盛りな子どもたちの満足するモン作るのって苦労するわぁ」
今日だけでも数日前からメニューを考えたりと準備してきたが、これを毎日こなす母親に改めて尊敬の念を抱く。
「おにぃ、すっかり立派なオカンやなぁ」
「おいそこはせめてオトンやろ!」
澄春の言葉に、素早くツッコみ返す飛鳥だった。
成功
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