「宇宙に気軽に遊びに行けるの、やっぱりすごいよなぁ……」
「ね。この前のプラネットワルツもすごかったけど、ここも綺麗だよね!」
茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)とニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)は並んでプールサイドのビーチベッドに横たわり、広がる碧空と碧海――の如き水面をのんびり眺めていた。
ここは惑星『アンディヴェヌス』。そしてこの水の都と名高い星に存在するレジャー&リゾートホテル『シアヌス』の屋外プールだ。
光を受けて輝く水面は花を抱いて、空の色を鮮やかに映す。その懐で戯れる人々は、空を泳いでいるかのようだ。
そして、二人の横たわるベッドに備え付けられた白いサイドテーブルには、そんな空と水面の色を掬い取ったようなマロウブルーを閉じ込めたグラス。
一緒に運ばれてきた小皿には、スターレモンの輪切りとマシュマロが並び、色を変えるも甘味を楽しむのも自由なのだが――何だかそれも勿体ない気がして、二人ともまだ手をつけてはいなかった。
真昼の夏空の色したままのマロウブルーを、ニオはこくりと喉へ滑らせる。
「美味しい……あっ、アイスフロートにしたらもっと美味しいと思うけど先輩どう思う?」
「何がなんでもアイスに繋げるよなニオは」
「ええ? だってアイスは美味しい、美味しいは正義だよ先輩」
スタッフさんいないかなー、ときょろりプールサイドを見渡す後輩の姿を、ひびきは内心苦笑しながら見守る。
ゆるゆると、穏やかな時間が過ぎてゆく。
実際、これが普段の二人の空気感なのだ。大学生にしてUDC組織所属の先輩後輩。ニオはひびきに兄貴分として懐き、ひびきもニオを趣味の合う妹分として可愛がっている。
距離感は近いが、変に異性として意識しているわけでは――いや、ないと言えば嘘になる。なるが、互いに鈍感な性分なもので、今はまだ無自覚。それでも、共有する時間は心地よく、その終わりを二人が望んでいないゆえでもある。
波立つことなく凪いで、時折そよ風の吹くような、穏やかな関係だ。目の前に横たわる、風に揺らめく水面のように。
そんな中、蜂蜜アイスとレモンソルベを組み合わせたアイスをグラスの水面に浮かべて貰ったニオは上機嫌で。
「先輩先輩、スタッフさんにアイスフロート作ってもらったよー」
「おう、よかったな。……へえ、シャーベットが溶けると色が変わるのか」
「そうなの、とっても綺麗! 先輩も作ってもらったら?」
「俺は……まだこのままでいいかな。気が向いたら頼んでみる」
今は、ニオの楽しげな表情が見られるだけで満足だ。
ニオも満喫していたらいいと、ひびきは思う。
「うん、甘酸っぱくて美味しいよー。頼んでみてよかった!」
青に溶かしたアイスを笑顔で味わうニオを見ていたら、心配はなさそうだが。
「それにしても大学の夏休みって結構長いんだね、びっくりしちゃった」
「ああ、俺も一年の時は思ったな。流石にもう慣れたけどさ」
「先輩もう就活生だもんね。でも、もう就活は終わってるんだよね?」
「ああ、今の組織の関連会社に就職する予定だからな」
お陰でニオもひびきも、こうしてのんびり異世界旅行に出かける余裕が出来たわけだ。
このアンディヴェヌスもそうだが、折角時間に余裕があるのだ。もっと旅行を楽しみたい。
二人が好きな、美しい花の咲く場所を探して訪れてみるのもよさそうだ。ニオおすすめの、アイスの美味しい街で食べ歩きに興じるのだって夢がある。他にも、やりたいことを挙げればキリがないくらいで。
「夏休みまだまだ長いし、他にも色んなところに行きたいねー」
「そうだなぁ、他の世界でもUDCアースでも……色々行ってみようか」
「えへへ、いいねー。約束!」
「ああ、約束だ」
続く楽しい夏休みの予感に、期待に胸を膨らませて。
絶対に叶えようと、約束を交わして。
そうしてゆるりと時を過ごせば、空の色と水面の色にも変化が訪れる。
金色に沈む夕日に淡く照らされた空は、魔法のようなピンクへと彩られてゆき。
その色を、余すことなく映すようにして、揺れ動く水も紫の色を宿して波立った。
「わあ……先輩すごいよ! 綺麗だねー」
「本当に、魔法の時間……ってのも頷けるな」
至高の色を目の当たりにして、溜息混じりに言葉を紡ぐ。
ああ、来てよかったと素直に思った。絶景を共有出来るのが、どちらにとっても嬉しかった。
「空も綺麗で……泊まるところも綺麗だったよね、えへへ楽しみー」
「だな。ゆっくり休む為にも、ちょっと泳いでいくのもいいかもな。プールもすっごい綺麗だし」
「賛成!」
勿論、水着には着替えてある。本格的に泳ぐつもりではなかったが、最後に一度くらいは。
ひらり揺れる、フリルの水着が柔らかく揺蕩う。
上着を畳みながら、ひびきはニオの笑顔に向けて、小さく微笑みを返したのだった。
成功
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