ラクトパラディア我慢大会
流線型のウェットスーツに、氷の魔法で生み出した三叉槍、さながら海の狩人という出で立ちのチル・スケイル(氷鱗・f27327)が、滑らかに水中を舞う。冷たく心地良い水の中を優雅に泳ぎ、岸へと上がった彼女は。
「……暑っついですね」
思わずそう呟いて、照りつける日差しに目を細めた。今年の夏は何やら特別暑いようで、水着姿でも少々厳しい。
それならば――と、アリスラビリンスの氷菓の国まで足を伸ばしたチルを、ここに住まう愉快な仲間達が出迎えた。
『コンニチハー、猟兵サン』
『イラッシャイマセー』
氷点下の街を歩くのは、雪だるま風の住人達。のんびりと喋る彼等に、チルは目的の会場がどこか問うてみる。
「こちらで我慢大会が催されている、と伺ったのですが……」
『エッ、まじデスカ』『昨日やっちゃいマシタヨ』
もう人来ないし片付けるか、くらいの気分で居たピーノくん達は、互いに顔を見合わせた。
しかし、来客を歓待もせずに帰したとあれば不思議の国の名折れ、彼等は急いで、くたびれた広場の飾りつけを直し始めた。
ラクトパラディア我慢大会、そう書かれた旗が立ったところで、彼等は他に参加者が居ないことに気付く。
『エー、じゃあ僕等と勝負シマス?』
「構いませんよ」
快く申し出を受けたチルは、早速広場の氷の椅子に腰かけた。座り心地の悪いひんやりとした椅子ではあるが、彼女に動じた様子はない。
『それじゃ、行きマスヨー』
競技開始。広場の端に集まったピーノくん達が「ふーっ」と吐息を揃えると、零下の冷たい風が吹く。大抵の相手はそれで身を縮こませるところだが、チルは文字通り涼しい顔。『氷鱗』たる彼女からしてみれば、むしろこれくらいが心地良いらしく。
『コレは強敵みたいデスネー』
勝負は長期戦の様相を呈していった。
冷風も雪玉攻撃も効果はなく、差し入れのかき氷もむしろ喜んで食べられてしまった。休憩用にあたたかいお茶を淹れるタイミングだったが、急遽それを冷却してお出ししたところで、ピーノくん達はあっさりと妨害を諦めた。
『抹茶パフェといちごパフェならドッチが好きデスカ?』
「そうですねぇ……」
怠け者の彼等にしてみれば粘った方である。普通にお茶会の風情になった会場で、ピーノくん達は各々チルとの歓談に勤しみだした。
チルにとっても、涼しい空気の中で好きにアイスをつまめるこの時間は至福のものであるらしく、にこやかな笑顔を浮かべている。最近旅行した中でよかった宿は? スシ? なんですかそれ? などと緊張感のない雑談が続く内に、彼女の足元はぴきぴきと音を立てて凍り始めていた。
(「ちょっと冷たいですかね」)
チルに大して気にした様子は無い。だがしばしの後、その身体は完全に氷に包まれていた。
『……コレ大丈夫なやつデス?』『猟兵サーン、生きてマスカー?』
ピーノくんの一人がコンコンと氷の表面を叩いてみるが、返事がない。もしかしたら屍だろうか。
色々と反応を探りつつ、「ドウしましょーネ」と相談していた彼等だったが、特に妙案も出ないまま。
『モウ帰ってイイデス?』『ネムーイ』
睡眠の質は大事だからね、仕方ないね。そう言い合って、とりあえずこの場は解散とした。
時は流れて日は沈み、オーロラの舞う空に月が高く上った頃、氷の像の表面が割れる。
ばらばらと落ちる氷の中から出てきたチルは、凍えた様子もなく伸びを打った。
「ああ――とっても気持ちよかったです」
ところで、みなさんはどこに?
とにかくチル以外の参加者は皆広場を出てしまったので、この戦いは彼女の勝利。翌朝起き出してきたピーノくん達から、チルには氷の果実が山ほど贈られたという。
成功
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