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ストライク・ハニー・カムは防がれる

#アポカリプスヘル #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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播州・クロリア



蜂須賀・美緒




●三蓮ハニカム印
 アポカリプスヘルの荒野に三つのハニカム模様が連なったデザインマークが翻る。
 風になびく、それは走行車両に掲げられた旗だった。
 その内部であくせくと働いているのは、蜂須賀・美緒(BeeHive・f24547)だった。
 彼女が今、額に汗しながら整備しているのはキャバリア『舞狂人形』であった。
 その所有者にして搭乗者である播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は修繕の助手をしながら、どこか身の入っていない様子であった。
「クロリア、伝達系統のパーツ」
「……」
「クロリア」
「……」
「ねぇってば! クロリア!」
 手をいくら差し出していても、美緒はパーツを手渡してこないクロリアに少し苛立って、潜り込んでいた『舞狂人形』のハッチから顔を出して、後ろに立っていたクロリアの顔を見つめる。

 あ、とクロリアが己に向き直った美緒の顔を見て漸く、その手にパーツを手渡す。
「ちょいちょいどうしたのよ。なんでぼーっとしてんの!『舞狂人形』の整備、今してないと事件が起こった時大変でしょ!」
「あ、はい。そうなのですが」
「そうでしょう、そうでしょうとも! だから修理整備して万全に今してんのよ! なのになーんで、そんなに上の空なわけ!?」
 美緒の怒りは尤もなことであったのだが、クロリアは己にも非があるため、なんともバツが悪そうな顔をしている。
 確かに落ち度は彼女にある。
 けれど、叱責するだけ、というのは上に立つものとしてどうなのかと美緒は思っているので、んー、とこめかみを指先でトントンと叩いてから問いかけるのだ。

 するとクロリアは、ええと、だか、その、だかよくわからない小さな声で呟く。
「え、なに?」
「その、ですね。私も水着がほしいんです。兄が、その水着を手に入れてはしゃいでいたものですから」
「つまり、羨ましくなったと」
「人間の言葉で言うのなら、そういうことになるかと思います。新しい水着。それはとても良い言葉の響きにしてリズム。あたらしいみずぎ。ほら、よい響きにリズムです。心が……」
「弾むんでしょ。わかるけど、去年買ったのがあるでしょ。シュシュもさ、可愛かったし」
 あれでいいじゃない、と美緒はそう告げて、はいおしまい、と言わんばかりに会話を切りあげようとする。
 けれど、クロリアはそれで終わりとしなかった。
「イヤです」
「は?」
「イヤです。新しいのが良いです」
「なんでよ! あるじゃない、水着! 一着も無いわけじゃないのよ? それに体型も変わってない。小憎らしい位にすらっとしちゃってるし!」
「えぇ~イヤです。新しいのがいいです。新しいの買ってくれないと、お仕事できません。ストライキします」

「あ、このっ、どこでそんな言葉覚えてきたの!?」
 美緒は焦った。
 此処はアポカリプスヘルの交易路の中継点である。とは言え、荒野の真ん中で立ち往生するような商人や、奪還者はトラブルでも起こらない限り立ち寄ることはない。
 とは言え、己たちがこうして走行車両を移動させながら行き来してるのは、その万が一のトラブルがあったときに備えてだ。
 だから、クロリアにストライキされようもんなら、一気に滞ってしまう。だから、なんとか美緒はクロリアを説得しようと試みたのだ。

「いい? あのね、今この拠点ってばとってもお金に苦しいわけ。戦いに行っては『舞狂人形』壊してくるでしょ」
「壊してないです」
「消耗するの! 色んなところが! それを交換したり修繕したり! つまりお金がいるの!」
「でも、ですよ。そういうのって猟兵として働いていたら解決できるレベルのお金です。水着くらい買えますよ。買えないわけないですよね?」
「あのねぇ。それでも足りないからダメって言ってるんでしょ?」
「じゃあ、人手が足りないっていうのなら、軍隊虫を使えばいいですし、お給金、グリモア猟兵の方にちょっと色を付けてもらえればいいです」
 クロリアの言葉に美緒はあっさり論破されてしまう。
 確かにお金も人手もどうにかできるだろう。ならば、と美緒は息を吐き出す。

「わかったわ。じゃあ、買っていいけど。でも、ちゃんとクロリア、あんたがお手伝いできたらよ。さっきみたいなことをしたら無しだからね!」
「はい!」
「ほんと返事だけは良いんだから」
 でも、と美緒は『いつ用意する、と期限を決めて約束していない』のだ。
 これでどうにか一、二年は誤魔化せる、と彼女は笑むのだが、それは全く持って通らない。
「じゃあ、明日買いに行きましょう!」
「ちょいまち! 明日!?」
「はい、善は急げって人はいいますもの」
 にこり、と笑む黒リアに美緒は、己の目論見が破綻した音を聞き、クロリアの弾むような、足音に変にごまかせると踏んでいた自分を恥じるように……。

「ほら、蜂須賀さま、びーはいゔですよ。びーはいゔ」
「クロリア、あなたねぇ!?」
 今日もBeeHiveStationは平和だった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月22日


挿絵イラスト