●災厄、襲来
『一桜郷』と呼ばれる街がある。
四方を山に囲まれた湖の畔に佇むその街には、白壁の家々がずらりと並ぶ。
交通の肝は、湖から流れ出る川だ。巧みに水と生きる街ゆえに、映える白を択んだというのも、二つの理由のうちの一つ。
もう一つは、街の成り立ちが一本の桜にあるせいだ。
たった一本。凛と咲く桜に惚れて、此処に街を興した――語り継がれる伝承の正否は知れぬ。ただ街の中心に、立派な桜の樹があるのは事実。
幹の太さは、大の大人が六人で両手を繋いでようやく囲えるくらい。
高さは付近の家々の屋根を優に超え、その家々へまでも枝は伸びる。
枝の末端がぽきんと折れてしまわぬよう、つっかえ棒はそこかしこ。それを日常使いの物干し竿にしている家もあるほどだ。
つまり、桜の薄紅をより楽しむための白い壁。
人々の営みの中心に、桜がある街。
当然、開花の頃は人で賑わう。住人や近隣の者は勿論、遠方からも見事な桜を拝みに多くの人が足を運ぶ……ものだから。
「佳し、宜し。実に、吉し」
街を見下ろす高台に仁王立ち、十の得物を背負った武者が呵々と笑う。
「此れほど居れば、武を極めんとす我が道の糧になる者くらい、ひとりやふたり、いるであろう」
低く立ち込めた雲のように、街の中心部を覆う薄紅に、武者は両手を武者震わせる。
嗚呼、あの下にはどれ程の人間が居るだろう。
「ひとつくらい、我が好しとする武具もあろうか」
湧き出る歓喜に静かに心躍らせる武者は、ゆるりと己が背後を振り返った。
「まずは、征け。お前等如きを抜けられぬ者では話にならぬからな」
バチ、バチ、バチ。
其処には巨大な蜂が無数。
「弱者ばかりであるならば、焼き払ってしまって構わぬ」
バチ、バチ、バチ。
炎で象られた蜂たちは武者の命に、緑芽吹き始めた斜面に沿って街を目指す。
――花に誘われ、災厄襲来。
●花の季節
桜の巨木に守護された街がオブリビオンに襲われるのを視た、と。ウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)は口火を切った。
「ちょうど、満開なの。だから、ひともたくさん」
沢山、沢山。沢山の人々が桜の紅より濃い色の血に塗れ、家々を焼く炎に巻かれていた。
悲惨な、出来事。
だがそれは、食い止める事が出来るもの。
「まずは、おおきなハチが来るの。炎のハチ。はぜて、はじけて、火を飛ばしちゃう」
幸い、飛んだ火の粉が街へ類を及ぼすまでは、まだ暫し猶予がある。接近を許す前に、疾く炎の包囲網を抜け、蜂を嗾けた武者を倒せたならば、街はきっと救われる。
武者はもちろん、オブリビオン。武蔵坊弁慶を名乗る、武を極めんとする者。
「こういうの、ぶすい、っていうんだよね? うーは、キライ」
たすんたすんと赤い竜尾で地を叩き、不満を顕わにした少女は、「あ」と思い出した何かに銀の眼を輝かせた。
「街にはいろんなお店がならんでいたよ。えっと、そう……出店! さくら色のお菓子がいっぱい。あと、まっしろな門のところは特別なのかな? さくらの花びらの形の紙に、なにかを書いたりしていたみたい」
知らぬ言葉を補足する手の動きから推察するに、白い門とはおそらく鳥居。桜を崇める神社があるのだろう。桜の花弁型の紙とは、絵馬に類似するものか、はたまた御神籤か。
突き詰める必要は、今はない。
オブリビオンらを見事、退けられたなら。我が身で確かめにゆけばいいのだ。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
今回は大捕り物&花見のお届けに参上しました。
●シナリオ傾向
純戦&お遊び混在。
戦闘はスピード感と派手さを大事にしたいキモチ。
●シナリオの流れ
【第1章】集団戦。
倒す事も大事ですが、いち早くボスの所へ到達するのも大事。
苦戦すると街に被害が出る可能性も。
【第2章】ボス戦。
どかんとド派手に参りましょう。
【第3章】お花見。
第3章は無事にボスを撃破出来た場合のみ。
街が焼けてしまっていたら、復興しつつの花見になるかもしれません。
●同行者ありの場合
全ての章において、お連れ様がいる場合はプレイング内に【お相手の名前(+ID)】を明記下さい。
グループ(三人以下を推奨)の場合は【グループ名】でOKです。
記載がない場合は迷子になる可能性があります。
●その他
シナリオの進行速度、締め切り等の連絡は『マスターページ』にて随時行います。
ご確認の上、プレイングをお送り頂けますと幸いです。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 集団戦
『大火蜂』
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POW : 種火
【自身の身体】が命中した対象を爆破し、更に互いを【火事の炎】で繋ぐ。
SPD : 延焼
【周囲の炎が燃え広がること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【火事】で攻撃する。
WIZ : 不審火
自身が戦闘で瀕死になると【炎】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:白狼印けい
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
千桜・エリシャ
ネグルさん(f00099)と
桜と共に成り立つ街――なんて素敵なところなのかしら!
お花見のためにも力を尽くすといたしましょう
――血に染まる桜は私だけで十分ですもの
ネグルさんのバイクの後ろに乗せてもらって、ボスの元まで一気に駆け抜けますわ!
ふふ……私、バイクでドライブするのが夢でしたの!
近接戦ならお任せを
範囲攻撃の斬撃で薙ぎ払って差し上げましょう
集団で来られたら、傾世桜花で魅了して同士討ちするように仕向けますわ
無粋な害虫の首を狩る趣味はありませんの
御免遊ばせ
回避しきれなかった火の粉は花時雨を開いてオーラ防御しましょう
あら、私を誰だとお思いで?
あなたの背中はちゃんと守って差し上げますわ!
ネグル・ギュネス
千桜・エリシャ(f02565)と参戦
実に無粋。
実に不愉快。
まずは、自分の思い通りにならぬ現実を知って貰おうか。
バイク・SRファントムに【騎乗】し、【SPD】で一気に駆け抜ける
刀は使わず、障害になる敵を、ソリッドブラスターに、【氷の属性攻撃】の弾丸をこ込め、撃ち落とす
バイクはA.Iによるオートパイロットで走り抜け、ボスに向かって一気に突っ走る!
アクセス、ユーベルコード:【幻影疾走・速型】!
【衝撃波】を放ち、蜂をブッ散らせ!
近接されたら辛いのが難点だ。
───が、私の後ろには、其れを易々斬る、頼れる女将がいる。
振り落とされぬように気を払いながら、剣舞を間近で見物させて頂くか!
【連携・アドリブ大歓迎】
●疾走
春待つのどかな光景を、漆黒の風が吹き抜ける。
いや、風ではない。ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)が繰るバイク――S R・ファントムだ。
凄い、凄い、凄い!
周囲の景色があっという間に流れていく。自分までも風になった心地に、タンデムシートの後ろで千桜・エリシャ(春宵・f02565)は桜色の双眸に陽の煌めきを散らす。
「ふふ……私、バイクでドライブするのが夢でしたの!」
エリシャの華やかな歓声に、ネグルの能面じみた表情にも僅かの高揚が過る。が、それも一瞬のこと。
「実に、無粋」
バチ、バチと。
炎の群れが近付いている。
「実に、不愉快」
距離にして数十メートル。されど風に乗った熱気が、チリチリと肌を燻らせ焼き始める。
「オートパイロットモード始動」
――了解。
ネグルの指示に、女の声が応えた。搭載されたAIだ。彼女は主の求める儘に、軽やかに、自在に、疾く、大火蜂の群れへ突進する。
「まずは、自分の思い通りにならぬ現実を知ってもらおうか」
「えぇ、その通りですわ!」
背筋を伸ばし、氷の弾丸を込めた精霊銃を構えた男の言葉に、エリシャはシートの上へ器用に立ち上がった。
桜と共に成り立つ街。なんて素敵なところなのかしら!
花見の為の尽力を惜しむつもりはない。ましてや――血に染まる桜は己だけで十分。
「参ります」
先駆けのハチを、花弁のようにひらり踊ったエリシャが一刀の元に斬り捨てる。爆ぜた炎は細かに砕けた。だがその光景も、瞬く間に後方へ。
「――」
「あら、何を心配していらっしゃるのかしら? 私を誰だとお思いで?」
振り落とす懸念にネグルが投げた刹那の視線に、エリシャはくすすと楽し気な笑みを蠱惑的に唇に描く。
「確かに、要らぬ心配か。ならば女将の剣舞、間近で見物させて頂こう!」
「もう一つ、とっておきもご覧にいれましょう」
悪戯に嘯いて、エリシャは一際厚い紅蓮の群れを指差す。
「こんなにたくさん。無粋な害虫の首を狩る趣味はありませんの――蕩けて、溺れて、夢の涯」
意味深な吐息に混ぜた唱えに、エリシャを中心に桜吹雪が巻き起きた。それが何か知らず飛び込んで来たハチは愚かしくも――囚われる。
「さぁ、お互いを焼き合いなさい?」
魅了の罠に堕ちたハチが、一匹、また一匹と互いの体をぶつけあう。やがて巨大な火球となったそれは、大地を揺るがす轟音を響かせ爆ぜた。
「――御免遊ばせ?」
「成程、これもまた見事」
微かに喉を鳴らして鬼の少女が座り直した気配に、ネグルも負けじと次のオーダーを電子の女へ投げかける。
「アクセス、ユーベルコード【幻影疾走・速型】!」
――行こうか、相棒。我らが疾走、誰にも止められぬさ。
SRファントムは、更に加速。駆けて、駆けて、駆けて。放つ衝撃波に、大火蜂たちは次々と四散する。
ああ、まるで。炎の雨が降るが如し。
視界を染める程の火の粉へ、エリシャは月夜に舞う桜の和傘を開いてくるり。
「あなたの背中はちゃんと守って差し上げますわ!」
「ありがたい」
桜色のオーラに包まれて、漆黒の機体は炎の海を突き進む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天海空・奏楽
立ち止まったらダメってことだ。
絶望の福音で蜂の炎をかわして中央突破を目指す。
舞うように群がり来る蜂どもを優雅に引きつけ、
かわして大将のところまで! ……走るぜ!
あっちっち!
だけど、桜が、街が焼かれるぐらいなら俺の身なんかってやつ。
蜂が他の場所へと飛んで行きそうなら、挑発して俺に注意を向けさせる。
何なら大将のところまで追いかけっこだ。
炎を当てられないようジグザグに動き回り、
前へ進みながらも攻撃のタイミングは伺ってる。
至近距離で物理攻撃のチャンスが巡ってきたら、
羽根の付け根を狙って光の剣で叩き落とすんだぜ。
地に落として移動できなくする。
そんで、止め!
他に先に進むヤツがいれば、そいつの援護もするぜ。
迎・青
あうあう、コワくない、コワくない…!
(あたたかい灯は良いけれど、こんなにいっぱいの火は怖い
でも、町や人が燃えてしまうのはきっと、もっと怖い
自分の『さがしもの』が燃えてしまったら…それは考えるのも嫌なほど怖い)
(※他の猟兵との絡み・アドリブ等歓迎です)
「あう、痛いトコあったら、ボクにまかせて!」
周囲の猟兵と協力、負傷等に気を配る
負傷者は【生まれながらの光】を使用し治療
治療を重視するが、必要に応じ所持する杖から光を放って攻撃(【属性攻撃】)
戦いながら敵の動きや戦況を観察し
蜂の包囲網を突破するルートを【第六感】も利用して探り
周囲の仲間と情報を共有、素早い突破を試みる
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
折角の花見を邪魔するとは、かのオブリビオンは、本当にこの世界の出身か?
こういう催しを楽しむことも、この世界では「粋」と呼ぶのであろう。
そのくらいは私でも分かるぞ、全く。
ともあれ、大将首の前に、まずは鎮火だ鎮火!
ありったけの【呪詛】を送り込んで、死霊騎士の剣に載せよう。そのまま炎ごと薙ぎ払え!
死霊蛇竜は傍らへ。私の護衛に専念してもらおう。
寄ってくる連中は尾で叩き落とすよう命じておく。
こいつらの良いところは、幾ら倒れても呼び出せるところだが……。
その隙を狙われては敵わん。誰ぞ、近くにいるならフォローを願いたい。
間違っても炎を吐くなよ。これ以上燃やしては元も子もないからな!
●共闘
あたたかい灯は、良い。
けれど、こんなにいっぱいの火は怖い。
(「あうあう、コワくない……」)
でも、街や人が燃えてしまうのは、もっと怖い。
自分の『さがしもの』が燃えてしまう――なんていうのは、考えるのも嫌なくらい怖い!
――だから。
(「コワくない……コワく、ない!」)
「お、自分で超えたか。ならば、褒美だ」
「……え?」
炎への恐怖に頭を抱えて身を縮こまらせていた迎・青(アオイトリ・f01507)は、精一杯の気合で顔をあげて、きょとり。だって青がら見れば驚くほど背の高い男に、飴玉を放って寄越されたのだ。
「食わんのか? 美味いぞ」
「あうあう……ありが、とう」
どうやら気遣われたらしい。悟って青い色の飴玉を舌に乗せれば、爽やかな甘さが青の心を落ち着ける。そんな青の様子に、彼へ飴を放ったニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)はほんのり満足気。悪役めいた出で立ちをした男だが、幼子や妹の機嫌を取るための飴を常備しているくらいにはお人好し。
そんなニルズヘッグの目を、人が駆けるのとほぼ同じ速度で移動する大火蜂の群れが惹く。
「あっち、あっち、あっちっち!!」
立ち止まったらダメだ。
まるで少し先の未来を知るような動きでハチ達を躱し、なだらかな斜面を駆け上がっていた道士見習いを名乗る少年――天海空・奏楽(道士見習い・f13546)は、気付けば群れのど真ん中。
「くっ、来るなら来い! お前らまとめて、大将のとこまで運んでやるぜ!」
挑発に、また数匹の大火蜂が奏楽を襲う。
ぢり、ぢりと。舞う火の粉が奏楽を焼く。だが負けん気に溢れる少年の顔は、熱に頬を赤らめながらも果敢に笑った。
「桜が、街が、焼かれるぐらいなら! 俺の身なんか――」
さりとて、如何に敵の動きに先んじて対応しても、数が多い――それだけ奏楽が多くの大火蜂を引き付けるのに成功したということだが。
黒焦げまでのカウントダウンは待ったなし。
「その意気は買う! だが、一人で引き付けすぎだ。大将首の前に、鎮火が先だ、鎮火!」
「――あ」
唐突に開けた視界に、奏楽はぱちぱちと数度、黒い瞳を瞬かせた。
周囲を見遣れば、剣を振り払ったばかりと思しき死霊騎士。ニルズヘッグが喚び、ありったけの【呪詛】を送り込んだそれが、一帯の大火蜂を薙ぎ払ったのだ。
「おい、怪我は大丈夫か?」
「怪我なら、ボクに任せて」
言うが早いか、青は奏楽目掛けて眩い光を放つ。穏やかな陽だまりに包まれたような心地は一瞬、奏楽が負った火傷はたちどころに消え去る。
「ありがとう。助かったぜ」
肩をぐるりと回し、体から不調という不調が遠退いたのに、奏楽は素直な謝辞を告げると、青を背負い上げた。
「え、え?」
今度は青が驚く番。
「だって俺のせいで疲れただろ? なら、こうするのが当然!」
にかりと日焼けした肌に健康的な歯を覗かせ、奏楽が笑う。確かに青の治癒は、疲労を伴う。だが疲労を重ねれば重ねる程、高速治療も可能になる。つまり、こうして運んでもらえれば、正直とてもありがたい。
「成程、これは良いフォーメーションになりそうだな」
ふむ、と。顎を一撫でし、ニルズヘッグが頷く。自分が召喚する死霊騎士や死霊蛇竜は幾ら倒れようとその度に呼び出せる事もあり、戦力として申し分ない。
けれど大火蜂の群れを素早く抜ける機動力には欠ける。その点、奏楽の動きはどうだ。囲まれさえしなければ、かなり速い。しかも回復役まで味方につけた。
「先導を頼めるか」
「勿論だぜ! 大将んとこまで、まっしぐらだ!」
トリッキーな動きもお手の物。サシでの遣り合いなら、光の剣でなんとかなる。
「しっかりついて来いよ!」
「あうあう……っ!」
再び大火蜂の群れへ飛び込む奏楽の背へ、青は慌ててしがみつく。
「おい、間違っても炎はつけっぱなしにするなよ。背中が焦げては元も子もなくなる!」
「了解だぜ」
一度、ニルズヘッグを振り返り。襲い来た大火蜂を、奏楽は跳ねて躱す。狙われた着地は、ニルズヘッグの死霊騎士が露払い。
即席のチーム戦なれど、これならかなりの戦果と速度が期待できそうだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花見の邪魔に現れるなど、無粋の極み。
この地生まれの者でなくとも、『粋』でないのは知れる。
なれば早々に、退けるのが肝要。
猟兵たちは、疾く、疾く、進む。
白雪・小夜
【SPD】人見知り・対人不信の為、交流低
花にハチは付き物だけれど…燃えてしまうのはいけないわね。
花に炎は不要…陽の光なら良さそうだけれど。
…誘われるのは普通の蜂だけにしてちょうだいな。
さぁ…私が全部斬り落としてあげるわ。
妖刀による斬撃を繰り出しながら素早く戦闘。
『雪夜の一振』は使う場面を慎重に見極める。
攻撃を受けても『激痛耐性』で怯まないように出来ればいいのだけれど。
『殺気』立てて『恐怖を与える』事で敵を追い込む事が出来たなら。
多少なりとも敵の動きを『見切り』出来るといいのだけれど…。
他の猟兵が居たら協力しても…良いけれど
私、誰かと関わるのは…苦手なの。そこは勘弁してちょうだいね。
アドリブ歓迎
アイ・エイド
厄介だなァ…
しゃァねェ、ちょいと気合い入れて行きますかッ!
大火蜂に瞬時に近寄りその狂気に触れる!攻撃でも構わねェ、ちゃんとガードした状態で受けてやるぜ!
それに攻撃の狂気のがアレを発動させんのに1番手っ取り早い方法だからな!!
狂気に触れることが出来たら一旦飛びのいてすぐに【狂い満月】を発動するぜ!
光を放ち視認した大火蜂たちのユーベルコードを封印する!
…ッハァ…とりあえず、火事はなんとか
…よし!へばってる暇はねェな!
狙いくる大火蜂に向かって千本を投げつける!本命の攻撃は小刀で落とす!
【アドリブ・絡みお任せ】
メリー・メメリ
ハチだー!
ハチは友達の天敵でもあるから気を付けなきゃ!
それから村がたいへんなことになるまえに、いそぐぞー!
なかよしのふえをぴゅーっとふいて友達のライオンを召喚!
ライオンライドで敵をなぎたおしながらすすむよ!
ライオンライオン、村がねたいへんになる!
だからできるだけハチの少ないところとかハチの目を盗んで、じゅばばっと先に進んでほしいんだ!
できるかなー?ハチはいたくてこわいけどライオンならできる…!
仲間のみんなと協力して先にすすもうね!
ハチも沢山いるから一人にならないように気を付けなきゃ!
●旅は道連れ
バチ、バチ、バチ、と。
燃え盛る羽音五月蠅く、ハチが我が物顔で低空を征く。
落ちた火の粉に、萌える緑が燃えて焦げた。小さな羽虫は、炭も残さず一瞬で消える。
「厄介だなァ……」
まさに動く狂気。
大火蜂の動きを観察するアイ・エイド(腐れ人狼・f10621)の口ぶりは、発する言葉に反して語尾を弾ます。
大火蜂に狂気を見出すならば、アイには繰り出せる奥の手がある。
「しゃァねェ、ちょいと気合い入れて行きますかッ!」
気紛れに近付いて来た一匹へ、アイは走った。科学者として真面目に研究に勤しむ事が多い身なれど、元は暗殺を生業としていたアイ。獣じみたしなやかさで瞬く間に距離を詰め、手を伸ばす。
「――ッ!」
ジュ、と。掌が焙られた。だが触れれば熱いのは、百も承知。衝撃で爆ぜられなかっただけ、運が良い――それに。
「触れたいものには、触れさせてもらったからなァ!」
跳躍、からの宙返り。大火蜂の追跡を寸でで躱し、アイは満足げに口の端を吊り上げた。
「満月に込められた魔力が照らす、狂わす……なァ?」
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。眼球を忙しなく動かし、対象を視認する。
「鬱憤はらさせちゃァ、くれねェか」
そして、光。太陽のそれではなく、月に似たそれで大火蜂たちを包み、アイは紅蓮の炎を鎮め封じる。
「……とりあえず、火事はなんとか」
ハァ、ハァと。
大技の発動に、息が上がった。
「……よし! ヘバってる暇はねェ――」
「すっごおおい!」
笑いかけた膝を叱咤し、アイは再び走り出そうとし。至近距離で聞こえた歓声に、大火蜂にそうしてみせたよう、跳ねあがった。
「みた、みた? ライオン、ライオン。すごかったねぇ」
けれどそこに居たのは、そこたら中の元気を集めて濃縮したようなキマイラの少女――メリー・メメリ(らいおん・f00061)――と、彼女の身の丈二倍はある黄金のライオン。
「ハチは友達の天敵だから、気をつけなきゃって思ってたんだよ。けど、うろうろしてたら村がたいへんなことになっちゃう」
メリー、『なかよしのふえ』をぴゅーっと吹いて、ライオンを召喚したところまでは良かったが。大火蜂が『ハチ』であるのが、メリーにとってはとても気掛かり。
円らな瞳を目一杯見開いて、なるべく大火蜂の少ないルートをライオンにまたがり――途中で出くわした大火蜂へは、気合の体当たり。浴びた炎でライオンの毛並みが少しこんがりになってしまったのは申し訳ないと思っている――斜面を登ってきたわけだが。
目指すボスが近付けば近づく程に、大火蜂の層は厚くなる。抜け道が、なくなってくる。
そんな時、メリーは目にしたのだ。
一気に多くの大火蜂を無力化させたアイの奮戦を。
「あのね、あのね。いっしょに、行く?」
ライオンなら大きいし強いから、もう一人くらい乗せてもきっと大丈夫。あと、間合いを一気に詰めるのも、そこから素早く離脱するのも、ライオンならお手の物。
疲れた時は、ふかふか毛並みが癒してくれる――かもしれない。
「ハチも沢山いるから、一人にならないよう気を付けなきゃ!」
つまり、同行を申し出られているらしい。邪気のないメリーの求めは、アイにとっても渡りに船。
「それじゃァ、世話になることにするか!」
花が命を継いでゆくには、ハチなどの助力が欠かせない。
つまり、花にハチは付き物――しかし。
「……燃えてしまうのは、いけないわね」
しんしんと降り来る雪で全身を象るような、白き鬼――白雪・小夜(雪は狂い斬る・f14079)は髪に飾った花をそっと撫でて、憂いの息を冷たく吐く。
花に、炎は不要。
許せる炎は……そう、太陽。陽の光くらい。
「……誘われるのは、普通の蜂だけにしてちょうだいな」
無粋を詰り、小夜は「ん」と小さく零す。
途端、ぶわりと殺気が膨れ上がった。びくり、と野生の本能で小夜に襲い掛かりかけていた大火蜂が身を竦ませ、炎を弱める。
狙いは、そこ。
慎重に見極めた一瞬。多少の攻勢には身を晒してでも、待ち続けた好機。
「雪羅刹の一振り……」
数汰携える刃のうち、一振りを抜き。小夜は炎さえ凍らせる雪女へと転身を遂げると、舞うように妖刀を薙ぐ。
剣閃に、はらりはらりと雪が降る。
春が近づく丘陵へ、冬が舞い戻る。
バチ、バチ、と。五月蠅かった羽音が鳴りを潜めて、凍て散る。
されどそれは命を削る剣。
視界に収まる粗方を屠ったところで、小夜は『小夜』へ戻り――。
「ライオンライオン、みた、みた?! すごい、すごいすごい! あ、でもライオンは寒いの苦手? 平気?」
「…………」
賑やかな声から、小夜はすっと視線を逃がす。
他の猟兵との協力も、吝かではない。
けれど、小夜は。対人不信の重度人見知り。
「しかも角! あたしとおんなじ角のひと! ととさまとかかさまが、かっこいいって褒めてくれる角!」
年端もいかぬ子供へならば、態度を和らげる事も出来なくはないが。
「ライオン、もうひとり大丈夫?」
「オレがいったん、降りるってのも有りだぜ」
二十歳を超えた相手には、棘しか出せない。
「ね、ね! ハチも沢山いるから一人にならないように気を付けなきゃ!」
「……そう、ね。けれど私、誰かと関わるのは……苦手なの。そこは、勘弁してちょうだいね」
呟きで自己主張しながら、小夜は試案を巡らす。
早く進めれば進める程、敵は減り、共連れの時間は減る。
少しの我慢は必要になるが、小夜的に損は大きくない。
でもって。
「よかったね、ライオン! これでライオンがハチにチクってされる危険はなくなったよ」
メリー的には万々歳。
旅は道連れ、世は情け?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)と
✼アドリブ等歓迎
「櫻宵!桜。僕、桜が見たい」
けれどアレが邪魔だ
大切な桜や村が傷ついたら悲しい
炎も哀しみも斬り裂き散らす
君の剣舞を魅せておくれ
「僕と踊りたいなら相応しい舞台をつくってよ、櫻宵」
君が斬るなら僕は
君の舞に相応しい歌を歌おう
【歌唱】を活かして歌う君の為の序曲は「凱歌の歌」にしよう
君の桜が
より美しく吹き荒れる様に
相変わらず楽しそうだね
桜は潔く散るというけど
「駄目だよ、蜂。彼を燃やす炎は君の炎じゃない
僕の櫻は焼かせない」
彼の邪魔はさせないと
道を塞ぐ蜂に歌う、炎封じる「星縛の歌」
斬られ消える炎はまるで桜の花弁だね
行こう
血色の花嵐にのって災厄の元へ
アレの首を
獲るんだろ?
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)と
アドリブ等歓迎
あたしも千年桜を守る者
放ってはおけないわ
それに可愛い歌姫様に、素敵な桜を見せると約束したもの
だからね?
邪魔なのよあなた達
弾ける前にその炎
千々に斬って払って消してあげる!
うふふ、あなたの為に舞いましょう
いいえ、あなたと躍る舞台をつくりましょう
最高に昂る歌をお願いね!
リルを庇うため前に出て
刀に宿らせる水属性
広範囲になぎ払い衝撃波を走らせて
星の歌が炎封じるその隙に
ダッシュで一気に踏み込んで躍るように鶱華で走る
炎散らし斬り刻み
桜嵐が通るわよ
邪魔よ!道をおあけなさい
ええ!突き進むわよ
ついておいで、リル
素敵な猛者が
素敵な首が
熱い血潮に
甘美な断末魔が
あたしを待ってるわ
●花嵐、血色
宵闇に、桜が舞う。
細やかに様々が施された和の衣は、誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)を千を生きる桜の精へと変える。
――否、変えられるのではない。
「あたしも千年桜を守る者。放ってないかおけないわ」
元より櫻宵は桜に縁を結ぶ者。桜を守る為に振るう刃は幾らでも。だがそれ以上に、今日の櫻宵には大切な約束がある。
「邪魔なのよ、あなた達」
――櫻宵! 桜。僕、桜が見たい。
可愛らしい歌姫様に強請られたなら、是を頷く以外、他になく。
大切な桜や村が傷付いたら悲しいと、薄花桜色の瞳が陰れば、全身全霊だって傾けたくなる。
「見ていて、リル。今日はあなたの為に舞いましょう」
爆ぜる間際の大火蜂へ、櫻宵は水の気配を纏わせた連撃を叩き込む。
「いいえ、あなたと躍る舞台をつくりましょう」
「僕と踊りたいなら相応しい舞台をつくってよ、櫻宵」
その応えに――リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)の求めに、櫻宵の心臓がどくんと高鳴る。
「ええ、わかったわ。最高に昂る歌をお願いね!」
「ああ、君の舞に相応しい歌を歌おう」
夢見る美しき人魚も、今日ばかりは胸躍らす。桜と櫻宵、共に在れるならば薄明の微睡みに沈む暇はない。
「――君の勝利を歌おうか」
リルを庇う為、前へ前へと出る櫻宵の背へ、大火蜂の羽音に負けぬよう届けようと、リルは喉を震わせる。
「希望の鐘を打ち鳴らす絢爛の凱旋を」
不意に、櫻宵の頭上を超えて大火蜂がリルへ迫った。けれどリルが焦ることはない。だって――。
「この歌が聴こえたならば、この歌が届いたならば――」
「リルに手出しをさせる筈ないでしょう?」
強い踏み込みから、反転。艶やかに袖を、裾を翻し、櫻宵が走る。
「さぁ、いっておいで」
「リルの歌を邪魔しないでちょうだいな。さっさと道をおあけなさい!」
一句一句、旋律の端から端まで。魂までをも鼓舞するリルの歌に、櫻宵は速さを、強さを、鋭さを得た。
――踊りましょう? 舞いましょう?
万の妖の血で鍛えた紅い刀を櫻宵は構える。
――斬って、裂いて、穿いて……。
宿る妖の怨念さえ、リルの守護を受けた今は心地よく。
「美しい血桜を咲かせましょう!」
酔い痴れて、櫻宵は目にも留まらぬ幾重もの斬撃と、そこから生まれる衝撃波で大火蜂を飲み干した。
「突き進むわよ、リル。ついておいで」
暫し途絶えた羽音に、櫻宵はリルへ手を差し伸べる。
「アレの首を獲るんだろ?」
白き肌を仄かな桜色に色付かせ、リルは桜の守り人の手を握り返す。
「勿論! 素敵な猛者が、素敵な首が。熱い血潮に甘美な断末魔が、あたしを待ってるわ」
行こう。
血色の花嵐にのって災厄の元へ。
二人ならば、如何様にも舞えるはず。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
岡森・椛
桜はすごく好きな花
咲くと世界がぱっと明るくなって、皆も笑顔になるもの
そんな桜が守護する街に哀しい物語は似合わないよ
必ず食い止めるからね
被害を出さない為に迅速に行動
精霊アウラも手を振り上げて気合い充分で頼もしいの
敵は無数…それならと【常初花】を使うね
春の中に咲く秋の花
可憐な共演
四季折々、どんな季節の花も綺麗で大好き
敵の火の粉が飛んで周囲を延焼させない様に、アウラの力を借りて風向きを上手くコントロールする
街だけじゃなくて周囲の自然も守りたいし、被害は最小限で防ぐ事が目標
周囲の猟兵達とも連携し、敵の隙を狙い包囲網を抜ける事を心掛ける
包囲の薄い所を見逃さず、状況を見極めて機は逃さないで一気に駆け抜ける
忠海・雷火
木々や街を焼かせるわけにもいかない
有効な手段を持っているとは言い難いけれど、頑張りましょう
まずはネクロオーブで死霊たちを呼び出し、街へ行かないよう蜂達を押し留めて
そうして動きが鈍くなった蜂に斬りかかる
炎の身体だというなら、刃を素早く振るって一瞬でも真空を作れば良い。核があるならそれを斬っても良いし、その辺りは様子を見ながら臨機応変に
瀕死で炎を呼び出すというなら、その前に一気に叩いて消火してみましょう
敵が弱ったら、ユーベルコードで呼び出した2体の死霊に命じ、全力で叩き潰す
倒せなければ召喚されるであろう炎へターゲットを切り替え
倒せたら一度ユーベルコードを解除。親玉を探しつつ、一連の流れを繰り返す
グリツィーニエ・オプファー
ハンス、貴方もそう思われますか
ええ、ええ、無粋は良く御座いません
嫋やかに咲く花の御前、戦は御法度に御座います
無数に蔓延る火蜂達
流石に此の侭相手していては大変でしょう
…ええ、分かっておりますとも
私もハンスと同じ意見に御座います
手に持つ鳥籠の扉から解放した青い蝶
――【母たる神の擒】にて幾らかの蜂の足止めを試みましょう
叶う限り広範囲へ放たれたならば、動きを止める蜂も少なくない筈
足止めするに至らなかった蜂から斃していく事で、恐らく時間短縮にも繋がるかと存じます
何より瀕死になった際の炎も厄介で御座います故
消耗した蜂を見かけた際は、率先してトドメを刺すべきでしょう
猟兵方と行動を合わせられそうならば積極的に
●掃討
熱を孕んだ風に紫黒の髪を遊ばせ、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)は手首を飾る装具に仕込む小粒のネクロオーブを指先でするりと撫でた。
すると、予兆の欠片さえなく死霊が顕現する。それらは雷火の意に沿い、炎の群れを目指して宙を滑る。
(「まずは、押し留める」)
広範囲へ及ぶ敵に対し、己があまり有効打を持たぬのを雷火は承知している。だからと言って、街が、桜が燃やされるのを、人々が殺められるのを見過ごせるわけがない。
(「瀕死で炎を呼び出すというなら、その前に――」)
一気に叩く。
死霊が壁となって行く手を阻む大火蜂一匹へ、雷火は駆けた。
眼前に炎が迫る。激しい熱に、顔の皮膚がチリっと痛む。しかし速度は殺さず、むしろ味方につけて、銘なき刀を横一文字に一閃。胴と頭が分かたれた大火蜂へ、更に死霊からの一撃を加える。
――ぷすん、と。気の抜けた音を残し、炎は滅す。
成程、今際の際の隙さえなく命の糸を断ち切ってしまえば、新手を残すことも能わぬようだ。
とは言え、元の数が元の数。
一体一体始末するのでは、骨も折れるし、時間もかかる。
「仕損じられた個体を潰すのなら……」
「彼女には、残敵排除をお願い出来たら事が速やかに進みそうですね」
ふっと。他意なく漏らした、自らの得手を活かす道。誰に聞かせるつもりもなかったのに、返った応えに雷火は声の主を探す。
求める相手は、存外近くに居た。
「おや、ハンス。貴方もそう思われますか」
雷火より、少し遅れて斜面を登ってきていたのだろう山羊の角の、美しい男。
「ええ、ええ、分かっておりますとも。私もハンスと同意見に御座います」
彼――グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は傍らの鴉と幾度か語らうと、もう一人の少女へ藤色の視線を向けた。
「では、先程と同じように」
「任せて」
浮世離れした男とは裏腹に、此方は何処にでもいそうな普通の少女。けれど名前に、生まれた日の父母の感激を継ぐ岡森・椛(秋望・f08841)の想いは、強固。
(「桜は、すごく好きな花」)
髪に紅葉を飾る椛は、四季の移ろいを好む。中でも桜は別格。冬に沈んだ世界を、明るく華やげ、皆に笑顔の花を咲かす。
しかも今日、守りたいのは街を守護する桜。笑顔が似合いの街に、哀しい物語など残したくはない。
「――お往きなさい」
「撫子、桔梗、秋桜」
すいと掲げた鳥籠の扉へグリツィーニエが指をかけた瞬間、椛も秋の彩を唱え始める。
まず先に、グリツィーニエの鳥籠から青い蝶が羽ばたいた。帯のように幾羽も幾羽も連なるそれらは、広く広く放たれ、大火蜂の飛行を阻む青き籠と成る。
バチ、バチ、バチ。
足を止められた大火蜂が、激しく炎を燃え上がらせ始めた。グリツィーニエの蝶を焼き尽くそうとしているのだ。
けれど、
「秋の訪れを告げる可憐な花達よ、思う存分咲き誇って」
蜂と蝶のせめぎ合いが決するより早く、椛が艶やかな秋を春待つ園へ呼び寄せた。
柔らな春とは趣を異にする鮮やかな色合いの花弁たちが、野を駆け上がる。十枚、百枚、千枚、万枚――数え切れぬそれらは華やかに舞い、グリツィーニエの青蝶によって堰き止められた大火蜂を次々に消し去ってゆく。
一人が囲い、一人が仕留める。
理に適った一網打尽の戦法だった。
されど端から零れるモノも居る。
「そういうことなら――」
任された役割を流れで悟った雷火が走り出す。走りながら騎士と蛇竜の死霊を喚び出し、己が追撃を任せた。
果たして、結末は。
「うん、上手くいったね」
精霊に願い吹かせた風で、火の粉の一つまでも空の高みへ舞い上げた椛が、嬉しそうに相好を崩す。
手が届く範疇の大火蜂は、一匹残らず掃討する事が出来た。
繰り返していけば、街へ危険が及ぶ可能性はかなり減らせるに違いない。広範囲へ効果を及ぼせるおかげで、道行きも随分と楽になる。
「咲く花の御前、戦は御法度に御座いましょう」
まだ眺め降ろすというには少し早い薄紅の雲を眼に収め、グリツィーニエは続く斜面を緩く仰ぐ。
「ええ、ええ、ハンス。無粋は良く御座いませんとも」
道行きを示すよう飛ぶ鴉を追い、一人の男と二人の女は再び走り始める。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
「無粋。ええ、ええ。その通り」
武に生きるもよいでしょう。花を愛でるもよいでしょう。
ですがお邪魔虫はいけません。悪餓鬼もね。
トリニティ・エンハンスで水の魔力を鋼糸に纏わせ攻撃力強化。
敵の種火は、視力を活かしてよく視て、見切りを。
蜂達の合間を縫うように、躍るように斜面を駆け登り。
目指すは奥に居そうな、これらの女王蜂(なんて雅な者ではないですね。武者でしたっけ?)
疾く。
でもただ疾いだけでは芸がない。
その翅、頸へと、鋼糸をくるり引っ掛け、振り向き様に一引き。
範囲攻撃で躰を、頭を、一気に落とします。
炎に水とはいえ、これで止まるか不明ですが、道が拓ける間を稼げたならそれで上々です。
(アドリブ・絡み歓迎です
月舘・夜彦
娯楽に街を襲うとは言語道断
人も桜もまだ助けられるならば、やる事は一つ
まずは火蜂を払い、先へ往かねばなりません
目立たないように行動して敵の配置を確認
手薄になっている所を見つけ、そこを先制攻撃し素早く倒して突破を目指す
攻撃は2回攻撃併せ、抜刀術『風斬』は攻撃回数を重視して多くの敵を倒す
躱され易い場合は命中精度を上げて攻撃
火事の炎で繋がれても覚悟を以て攻撃の手は止めない
瀕死状態になった際には必ず攻撃回数を重視して敵を一掃
敵からの攻撃は第六感で動きを感じ取り、残像、見切りにて回避重視
躱した後にカウンター、躱しきれないものは武器受けで流す
この程度の炎で、我が刃が鈍るはずも無し
必ずや奴の所へ
海月・びいどろ
蜂だものね、花に誘われて来てしまったの…?
この世界は紙と木で出来ているから
あっという間に、燃えてしまうよ
……硝子もデータも、熱に弱い、から
迷彩をまとわせた海月の兵士たちに、お願い
他の猟兵たちとも協力して
はやく、倒してしまおう、ね…
辺りに炎が舞う前に
フェイントで一撃必殺を避けながら
囲んでしまって、一気に行くよ
マヒの針、通ってくれる…?
海月たちが気を引いてくれている内に
にびいろのナイフに染み込ませた毒で
まさに捨て身の、一撃
もし、川とか近くに水を見つけたら
落っことして、しまおうかな
いたいの、わからないのに
熱いは、異常が出るの…
桜を見るの、たのしみにしてるのだけど
キミたちの大将は、どこ?
…道を、あけて
●突破
「娯楽に街を襲うとは言語道断」
「本当に無粋。ええ、ええ、その通り」
高い背丈に、長い黒髪。耳にするだけなら共に穏やかな響きの口調も、そう遠いものではない。
「人も桜もまだ助けられるならば、やる事は一つ」
「武に生きるもよいでしょう。花を愛でるもよいでしょう」
しかし月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)とクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の生き様は大きく異なる。片や一途な女の忘れ形見、片や生還のみを得手とする雇われ兵。
「まずは火蜂を払い、先へ往かねばなりません」
「ですがお邪魔虫はいけません。悪餓鬼もね」
(「おとな、って。ふしぎ」)
噛み合っているようで噛み合っていない夜彦とクロトの会話を耳に、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は水に浸した海月のぬいぐるみを掬い上げ、そのまま空へ放つ。
「お願い」
ぽたぽたと冬の名残の雫を滴らせ、ふよふよ海月が宙を泳ぐ。
硝子も、データも熱には弱い。つまり自分にとってあまり好ましくない敵を前に、電子のこどもは大人達と手を携えた。その大人二人も、この戦場で出くわしただけの繋がり。
だが猟兵として世界を渡る者ゆえ、知っている。
一人では成せない何かがあるなら、補い合う他者と征くのが得策ということを。
まして速やかな事態解決を求められるとあらば、尚の事。
「……行った、よ?」
ぬいぐるみに続き、炎の迷彩を施した海月の兵士たちを野に放ったびいどろは、大人二人を見上げる。
と、つい先ほどまで語らっていたのが嘘のような速さで、夜彦とクロトは走り出す。
ゆらゆら漂う海月たちへ、大火蜂たちが群がってゆく。密集が、解けた。手薄になった箇所こそ、夜彦とクロトの狙い目。
動きに気付き、襲い来る火鉢を夜彦は風さえ断つ抜刀術で斬り払う。早さは神速。一度、二度と重ねた剣閃に、炎が四散する。
しかし敵は無数。個では敵わぬのを悟ったか、互いの体をぶつけあい、夜彦を絡めとる炎の糸を編み上げた。
それでも夜彦は足を止めない。
「だいじょうぶ……任せて?」
「助かります」
大人二人の全力になるだけ遅れを取らぬよう、びいどろも懸命に駆けていた。駆けて、裡なる電子の海に呼び掛け、数汰の触れられぬスクリーンを夜彦の周囲へ展開する。
流れ出した心安らぐ映像と音楽が、夜彦を包む。齎されるのが癒しの効果なのを既に知る男は、絡めとられようとしている胴で燃える糸を引き千切り、身を翻すと同時に長く伸びた糸を刃で裂いて走った。
「この程度の炎で、我が刃が鈍るはずも無し」
捉え処のない筈の炎を、曇りを知らぬ刀が解いて散らす。その手際の良さと、剣技の冴えに、誰よりも疾く先を行くクロトが振り返る。
「実にお見事。僕も負けてはいられませんね」
眼鏡の奥の瞳を細め、暢気な体でクロトは笑う。
「そういえば、この先に待つのは女王蜂……では、ありませんでしたっけ」
そんな雅なものではありませんでしたね、と嘯く声は飄々。無論、大火蜂とてじっとしてはいない。
「ああ、そうです。何とかという武者でしたっけ」
足を止めたクロトへ、大火蜂が押し寄せる。
取り囲み、焼き殺そうと羽を震わせ――。
「桜とは不似合いな暑苦しさですね?」
――ズゥン。
地を轟かせ、炎のハチ達が一斉に爆発した。何が起きたかと言えば、開いていた両の手を、クロトが軽く握り込んだだけ。ただ、その指先から、水の魔力を帯びた鋼糸が幾本も伸びていた。
「疾いばかりでは、芸がないでしょう?」
バチバチと騒ぎ立てるハチ達は、気付かなかったろう。ただ駆けているだけに見えたクロトが仕掛けた罠に。胴と頭の継ぎ目を、細い糸で絡めとられていたことに。
「……あつい、ね」
立ち昇った火柱の揺らぎが消える頃を見計らい、夜彦の背に負われてびいどろも追いつく。「いたい」は分からないが、「熱」には身体が異常を訴えるのだ。
休憩は一時。次なる大火蜂の群れを前に、びいどろは己の足で焦げた地面に立つ。
「大丈夫ですか?」
「無理はしなくていいですよ」
窺う大人二人へ、こどもはふるりと首を横に振る。
「桜を見るの、たのしみだから」
進め、目指せ。屠るべき絶対は、多を越えた先の一。
「キミたちの大将は、どこ?」
儚げなようで、実は毒をも使いこなす子供の歩みに、夜彦とクロトは視線を交わす。
子供であっても、びいどろも少年。
男たちの道征きに、余計な気遣いは無用なようだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎
風に舞う花弁は斯様に穏やかで優美ですのに
見据える敵の何と忙しないこと
浮かべる笑みも符を掲げる所作も優雅にゆるり
然れど
先制攻撃、高速詠唱、範囲攻撃、二回攻撃を駆使した早業で
早期撃破と突破、皆の援護を目指す
死角、急襲に備えて研ぎ澄ます第六感
蜂数を凡そ把握し
仲間と声を掛け合い範囲分担、重ならぬ攻撃、疾駆を心掛ける
挙動を観察して見切り
但し街へ火の手が及ばぬように回避せず符で相殺
自他共にオーラ防御
水纏いの鳥葬で火蜂を一掃、鎮火
万一、街や桜樹へと踊る火粉があれば水属の鳥葬で消火
火元たる武者を討ちに駆けましょう
走るのは得手ですよ
縫にいつも「さっさとおきてはたらけ」と追い立てられているもので
ユルグ・オルド
退いた分まで火が回るんなら
遠くからちまちまやってる通りはねぇなァ
錬成カミヤドリで呼ばうはシャシュカ
そのうち一本手にして、さあ虫退治だ
地面を蹴って疾く近づいて
風を孕んで燃える前に振り抜こう
火の粉散らして花弁に見立て
鮮やかさに口笛囃し、笑おうか
周りで踊る刃が串刺して
背後の翅も切り落とそう
焦げるのが炎の熱さか、逸る熱だか、
――うっわ、焦げてら
ばさばさと黒い袖を払って一張羅は死守
焼野になる前に鎮めてやるよ
不敵に笑って手招いて、足元の火種は踏みつぶせ
駆けて駈けて火と踊ろう
冷たい脈が滾ると見紛う程に
(アドリブ、連携歓迎)
葦野・詞波
何処かでは火事と喧嘩こそが華、らしいが。
出来ることなら桜の花見の方が好ましいな。
火の回りは速い、愚図愚図してもいられないな。
火消しの基本は破壊、火元を潰すに限る。
鳶口も刺又も持ち合わせてはいないが
今回は槍が代わりだ。
敵の密集部に飛び込んで【人狼咆哮】。
火の勢いよりも強くだ。
火に囲まれてはさすがにお手上げだ。
味方の動きと連携しておこう。
敵を多く惹き付けるなら動きは派手に。
大将のいる所を目指しながら
出来るだけ多く串刺しだ。
大将を守るために向こうから寄って来るだろう。
だが出来ることなら湖畔、川寄りに
敵を誘導する事も意識はしておきたい。
町を焼かれては敵わないからな。
●発破
――退いた分まで火が回ると言うのならば。
「遠くからちまちまやってる道理はねぇなァ」
肩をクキと鳴らし、愉快げに喉を震わせたユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は、そのまま一気に風に為る。
金の髪を靡かせ、低く、低く。滑空する鳥を真似て両手を広げれば、十五と少しのシャシュカが形を成す。
うちの一本を握り、ユルグは大火蜂へ襲い掛かった。
「さあ、虫退治だ」
バチリとユルグの眼前で炎が爆ぜる。ぶわりと膨れ上がった紅蓮は、ユルグを飲み込もうとするよう。しかしやられるだけのつもりなら、敵の懐になぞ飛び込みはしない。
ぎりぎりまで引き付けて、軽やかにバックステップ。尚も伸ばされる炎の手へ――シャシュカを一閃。ぱっと火花が散った瞬間、意思の力で操る残りのシャシュカたちで串刺した。
――ヒュウ。
「いいねェ。花見の先取りだ」
炎の塊が、細かく細かく、無数に砕け散って風に流され逝く様は、さながら花吹雪。鮮やかな散り際をユルグは口笛で囃し――ニヤリ。
飛んで火に入る何とやら。
格好の獲物に定められたユルグへ、大火蜂が群がり来る。
己を焼き尽くしに来る炎を、しかしユルグは斜に構えた視線でゆうるりと見遣った。
恐怖はない。回避するつもりも、ない。何故なら――。
――オォオオオオォォッ!!
炎の壁を跳躍で越え、赤い頭巾を翻しユルグの傍らへと着地した人影が、空へ吼える。
オオ、オオ、オオン。高らかであり激しくもある獣の咆哮に、大火蜂たちの羽ばたきが止む。そのまま、赤い頭巾が水面に落ちた雫であったかの如く、ぼとんぼとんと波紋が広がるように大火蜂たちは地に落ちた。
「何処かでは、火事と喧嘩こそが華、らしいが」
出来ることなら桜の花見の方が好ましいな、と咆吼を収めた人狼の女――葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は静まりゆく羽音に耳を澄ます。
火の回りは早いもの。愚図愚図していては、瞬く間に全てが飲み干されてしまう。
火消しの基本は、破壊。延焼を防いで、火元を潰す。生憎と、鳶口も刺又も持ち合わせぬが、我が身と得物と、目的を同じくする仲間がいればどうとでもなる。
と、そこへ。
「お二方とも、そのまま草と一緒に焼かれるおつもりですか?」
雅な音色の声と雨が降った。
「いやァ、そこはほら」
「なんとかしてくれるだろうと思っていた」
丸投げのようでいて、信を預けるユルグと詞波の応えに、五行が一つ『水』を帯びさせた鳥で落ちた大火蜂の始末を終えた都槻・綾(夜宵の森・f01786)は、くふりと含んで笑む。
ユルグも詞波も、可能な限り敵を引き付けるのを好しとする性質。
派手に踊って、派手に咆哮を上げ、派手に得物を振るう。
「で、あれば」
――派手に参ると致しましょう。
「なら、今度は私が先に行かせて貰おう」
後陣を預かる綾の許しに、詞波が駆け出す。花の瞳は、既に新たな大火蜂の一団を捉えていた。
「炎の厚い方へ、どうぞ」
街を目掛けて野を下るハチの動きを注視していたから分かった事を、綾は少ない言の葉で伝える。
目指す大将は、炎の壁の向こう。
「望むところだ」
地を蹴った詞波が、槍を構える。突くのではなく、投じる為に。肘、手首の動きで角度を定め、短い気勢に乗せて放たれたたった一人の竜騎士のための槍は、空を裂き、炎を貫く。
命の終わりに、爆炎が上がった。
そこへ吸い寄せられるよう、バチバチと大火蜂たちが飛び集まる。
「その翅、切り落としたらどうなるのかねェ?」
熱、熱、熱。炎の熱だか、逸る熱だか。区別もつかぬ熱さに、ユルグは歓喜しシャシュカと共に踊る。冷たい脈が滾ると見紛う程に。
そんな男と女を、綾は中庸者の眼と立ち振る舞いで誘う。
風のように符を構え、歌うように呪を唱え、理をも超える勘で大火蜂たちの挙動を読む。
「――危ない、焦げてしまいますよ?」
「えっ、マジ!? これ一張羅なんだけどっ」
「ということでしたら、全身全霊を以てお守り致しましょう」
洒落を交え、撒いた符で綾は前へ前へと進むユルグらの背を守る――あくまで典雅な振る舞いで。
「ついてこれるか?」
振り返った女の気遣いに、えぇと綾は微笑む。
「こう見えて、走るのは得手ですよ」
――さっさとおきてはたらけ。
そう追い立ててくる世話焼き人形の声を脳裏に、全力――には見えぬ全力で、綾も斜面を駆け上がる。
炎の色も、美しきものなれど。
見頃を迎えた桜には到底、かなうまい。
愛でる粋を知らぬ武者など、武者の風上に置く訳にはゆかぬというもの。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
隠・イド
耀子様(f12822)と
なるほど、タイムアタックというやつですか
両手から放ったナイフは進路上の敵を貫くと、自ら意志を持つように周囲の敵を縦横無尽に刻み始める
それはさながら刃の結界のように
仕留めきれなんだ獲物に関しては耀子様にお任せしましょう
耀子様のご活躍には声援を送るも忘れずに
おっと、それは気が抜けませんね
と軽口を叩きながらも仕事は淡々と
それでも尚、向かってくる敵が居るなら身体の一部を変形させてムシャリと喰らう
捕食態がもごもごと咀嚼し、炎の一部をペッと吐き捨て
やはり大したものではない。興醒めです
喰らう価値もない、と以降の敵は生み出した刃で斬り捨てる
耀子の言葉に
かしこまりました、と速度を上げる
花剣・耀子
イドくん(f14583)と
正しく無粋な話だわ。
あたしも嫌い。
――だから、手早く終わらせましょう。
迂回する時間が惜しいわね。最短距離で向かうわ。
それでも、行く手の蜂くらいは掃討していきましょう。
イドくんが斬り落とした後に残ったもの、
見える限り、届く限りの敵へと【《花剣》】
……いいから集中して頂戴。
先鋒は任せたけれど、気を散らすときみの刃を追い抜いてしまうわよ。
爆発はなるべく避けるよう、蜂に触れる前に斬りましょう。
纏わりつく炎ごと、斬り払いながら奥へ。
嵐で道を開けていくわ。
お前たちは一足先に散りなさい。
捕食はちらりと横目に見るだけ。
大物は、この先に居るわ。
無粋のツケは払わせないとね。
急ぎましょう。
●花隠
正しく『無粋』な話。
――あたしも、嫌い。だから、手早く終わらせましょう。
と、花剣・耀子(Tempest・f12822)が言うから。御主人様へ恭しく頭を垂れる隠・イド(Hermit・f14583)は、疾く駆け出して縦横無尽にナイフを振るう。
「迂回する手間が惜しいわね。最短距離で向かうわ」
眼鏡越しの冴えた青い瞳が見つめる先は、花咲く街を始点に、大火蜂の群れを終点とした線を、更に伸ばしたその向こう。
バチバチと鬱陶しくばらつかれようと、起点を定めれば、全容を見通すのは存外なんとかなるものだ。
「全ては、耀子様の仰せの通りに」
最速で目的地へ至るだけなら、炎のハチなど無視してしまった方が早い。
されどそれでは街が焼かれてしまう。人が、桜が、死んでしまう。
「行き掛けの駄賃くらいは、貰っていこうかしら」
そう、耀子が言うから。イドは群がってくる大火蜂たちをひたすらに切り刻む。右に、左に、上に、斜めに。視界に入る全てを、無造作に。切って切って、切り刻む。
変容した炎が爆ぜるのも、気に留めない。立ち止まりさえしなければ、爆心に居合わせる事もない。当然、それだけの速度を維持するのだ。取りこぼしだって、出る。しかしそれさえもイドは顧みない。だってそこには、『耀子様』が居るのだ。
「散りなさい」
瑞々しい唇が、ぽつりと一言。
途端、舞った白刃が炎という炎を薙ぎ消してゆく。僅かの飛沫も残すまいと吹き荒れる様は、白と紅蓮が相俟り花の嵐と見紛う。その圧倒的さにハチが怯んだら、儲けもの。
「流石でございます、耀子様」
振り返らずとも顛末を知るのだろう。イドが奏じる賛辞に、しかして耀子はけんもほろろ。
「……いいから集中して頂戴。先鋒は任せたけれど、気を散らすときみの刃を追い抜いてしまうわよ」
「それは、気が抜けませんね」
などと言いつつ、無謀にも二人目掛けて飛び込んできた大火蜂を、イドは腕から先を『喰らう』形へ転じて――むしゃり。
もごもごと暫し蠢いたそれは、やがて炎の欠片をぺっと吐いて捨てる。
「やはり大したものではない、興醒めです」
「――」
気が抜けないのは、耀子に先を越されることだけ。押し寄せるハチなど物の数ではないと示すイドの『味見』は、横目で流し。落ちかけた速度を叱咤するよう、耀子は先を促す。
「大物は、この先に居るわ」
対UDC組織で育った耀子の本能が、猛々しい気配の片鱗を拾う。
「無粋のツケは払わせないとね」
大火蜂の群れは前哨戦。ほどよいウォーミングアップを終えたところが、真の戦いの始まり。
「急ぎましょう、イドくん」
接近を諦めたのか、一定の距離をあけて飛ぶ大火蜂から放られた視線を、耀子は駆けて置き去りにする。直後、一瞬前まで彼女らが足を置いた地面が爆音をたてて燃え上がるのを、気にも留めずに。
「かしこまりました」
そんな耀子にかしづき、イドは速度をますます上げる。
炎がそこかしこで爆ぜていた。
時に鎮められ、時に尽きるに任せられた轟は、やがて一点へと集約する。
無論、そこに待つのは――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『武を極める者『武蔵坊弁慶』』
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POW : 我が武に耐えられぬ道具など要らぬ、力を示せ
【装備武器の寿命】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【過負荷状態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 我が武に倒せぬ者など居らぬ、敵を滅せ
【十の蒐集武具で武装した姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ : 我が武に数の利など効かぬ、輩を排せ
【一騎打ちを高らかに謳う大音声】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
イラスト:猫背
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ファン・ティンタン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●武極
「好い、実に良い!!」
大火蜂の堤を越えた猟兵を、武者は喜々と出迎えた。
「大漁、大漁! これは吉い!!!」
腹の底から笑っているのだろう。大音声に、冬と春が混ざりあった大気がびりびりと震える。
いや、震えているのは声量のせいだけではない。
「面白き者らよ。折角だ、サシの勝負と洒落める者は居るか?」
殺気が漲っているのだ。
「無論、まとめてかかってくるのも宜い。それはそれでまた愉しめよう」
武者は――武蔵坊弁慶は己の勝利を信じて疑わない。疑わないから、戯れを欲す。
花を愛でぬ無粋な過去の残影だ。
言葉に乗ってやる必要はない。
しかし一対一で彼に『参った』と言わせられたなら、それはさぞかし痛快――粋なことではないだろうか。
「得物くらい、好きを選ばせてやろう。槍か、刀か、薙刀か? 弓も好かろう。棍もあるぞ」
天海空・奏楽
己が欲のみで動くは極め人にあらず!
■対POW
聖天審判で頭部を狙って目潰し
誰かを狙ってんなら、そちらを注視できないようにする
弁慶がこちらを見ていない時に使ったり、回避の動きに紛れて読まれないように自然な動きで指先を向ける
■対SPD
姿が変化したら自分は動きを止め、よく狙って聖天審判
がむしゃらにスピードに追いつこうったって、動きに無駄があるぜ!
隙を見て決める!
■対WIZ一騎打ち
誰かに命中したら見守るしかねぇけど、
俺なら望むところだ! 相手になるぜ!
光剣片手に低い姿勢から斬り込みに行く
足元から剣を振り上げて、武具で止められても燕返しで斬り返す!
十の武具かよ、やるじゃねえか。こちらも二連撃で迎え撃つ!
●一の撃
「俺なら望むところだ! 相手になるぜ!」
互いの出方を窺う静寂を、天海空・奏楽(道士見習い・f13546)の気勢が切り裂いた。
――己が欲のみで動くは極め人にあらず!
怖いもの知らずな年頃と掲げた理がもたらす高揚は、加算を超えて乗算を成す。
けれどその実、奏楽は王道よりも策略を好む。
「その意気や好し!」
一直線に駆け入るのは、素振り。武蔵坊弁慶が薙刀を構えた直後、切っ先が額に触れる間際で、軽々と身を翻した。
「ぬっ!?」
鍛え上げられた厚い筋肉は、謂わば全身鎧。動きは鈍重ではないけれど、瞬発力なら若く柔らかい奏楽に分がある。
半歩、右に逸らして。それから僅かに引いて。そこで踏み切り、奏楽は武者の頭上を超えてゆく。
転身は中空にて。仄かに花が香る風に身を任せ、奏楽はひらりと宙返り、音もなく若草の大地を踏んだ。
弁慶が、振り返る。薙刀が、振り上がる。
五歩の間合いを奏楽は走った。
「がむしゃらにスピードに追いつこうたって、動きに無駄があるぜ!」
――如律令!
口の中で短く唱え、奏楽は殴りかかるにみせかけ、指を突き出す。
一点集約された力が、天の光となって輝く。タイミングは、完璧だった。首筋を、捉えたと思った。
だが――。
薙刀を振り払う反動を活かして身を捻り、背に負った武具を盾とし武蔵坊弁慶は奏楽の攻撃を凌ぐ。
「筋は、良い」
柄の砕けた大剣を放り捨て、オブリビオンは満足気に喉を鳴らす。
別にそんな評価は欲しくもない。けれど悔しさを知られたくもなく、奏楽は不敵な笑顔のまま奥歯をギリと噛んだ。
力は僅かに及ばず。しかし得物の一つを使い物にならなくしたのは、続く者らの光となるはず。
苦戦
🔵🔴🔴
雷陣・通
父ちゃんが言っていたな
武を極めるのは男の本懐、されど武の意味知らぬ者こそ口にすると
来いよ、矛を止めると書いての武を以って
矛を持って進む意味の武を鎮めてやる
「紫電会、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以ってお前を倒さん」
ユーベルコード複数利用
『前羽の構え』による防御姿勢から、攻撃傾向を戦闘知識で把握
皆の時間を稼ぎつつ、殺気を込めた残像をフェイントに行動開始
二回攻撃で足元と肩を狙う
攻撃は基本動き回って側面狙い
相手の攻撃は見切りでギリギリの間合いに潜り込んでカウンターでパンチ二発
相手が左右に意識が行ったところでフェイントからスライディングで間合いを詰めて真正面から『雷刃』でたたっ切る
これが本命だ!
●二の撃
前羽の構えは、雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)にとって絶対防御。
今は武者修行に出た父親から、幼少より叩き込まれた空手の神髄。如何な武蔵坊弁慶の猛攻も、通に僅かのダメージを与えることは叶わず。だが同時に、通自身も僅かも動くこと叶わず。
「成程、これはこれで」
どれだけ打とうともびくともしない少年に、オブリビオンはどう猛に目をすがめた。
無敵の盾と言うなれば、砕いてみたくなるというもの。
闘争心に憑かれた武者は、刀、矛、弓と得物を次々に変え通を打ち据える。
(「父ちゃんが言ってたな……」)
鋼の像になったかの如く、斬られ、打たれ、射られてもびくともしない通は、父の言葉を耳の奥に響かせた。
――武を極めるのは、男の本懐。
――されどそれは、武の『真』の意味を知らぬ者こそ口にする。
つまり、眼前の敵はまことの武者に非ず。
「矛を止めると書いての武を以って」
繰り出された矛先を捕まえ、通はそれを左脇に抱え込む。
「!?」
ただ固いだけの的であったモノの突然の反旗に、武者が鑪を踏んでバランスを崩す。
「矛を持って進む意味の武を鎮めてやる」
小柄さを活かし、まずは足元へ拳を一撃。更によろめいた隙に、肩を打つ。
だが、二打の何れも本命ではない。
「紫電会、雷陣・通。治にいて乱を鎮める武を以ってお前を倒さん」
背に負った刃や飾りではない。これ以上、詰める事など不可能な間合いで、通はただただ重い斬撃を放った。
帯びさせた雷に、大気のみならず大地までもが鳴動する。
濛々と上がる土煙に、見守る者らが息を飲む。果たして結果は――。
「こんな隠し玉を持っていたか! 愉快、愉快。実に愉快!」
皮膚を焼け焦げさせて尚、狂乱の武者はクレーター状になった穴の中心で豪快な笑い声を上げていた。
成功
🔵🔵🔴
月舘・夜彦
武蔵坊弁慶、武器の数を見るに刀狩りと言うのも納得
……同じ物として、その扱いは目に余ります
ですが幾多の戦を重ねた武人とお見受けする
いざ、尋常に勝負
ダッシュにて距離を詰め先制攻撃
2回攻撃を主とし、敵の攻撃は残像と見切りにて回避
躱せないものは武器受け、その後はカウンターにて斬り返し
攻撃を受けようとも激痛耐性より怯まず間合いを保つ
奴の攻撃には武器の耐久を犠牲にするものがある
脆くなるのは刃だけでなく、恐らくは留め具や柄等も
カウンターの際に武器落としにて脆い部分を狙います
破壊した隙より抜刀術『静風』
我が師が私に教えたのは一振りで戦う術
強さは武器の数に非ず、闇雲に振るう刃は意味を成さぬ
真に込めるは一閃である
●三の撃
夜天を縒って紡いだような藍色の髪を靡かせ、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は戦場を無尽に駆る。
詰めた間合いは、敵の得物が振り下ろされる前に取り直す。それでもなお追いかけて来た突撃に貫かれた肩はじくじくと痛むが、怯む前に鍛えた耐性で抑え込んだ。
――武蔵坊弁慶。
今は九となった得物を数え、夜彦は彼にまつわる逸話を思い出す。
(「刀狩りと言うのも納得」)
だが納得なのは、対峙するオブリビオンの在り様のみ。その所業には一厘さえ得心ゆかぬ。
(「……同じ物、として。その扱いは目に余ります」)
たった一つ。大事に大事に、想い注がれ化身したヤドリガミとしての怒りが夜彦を焼く。
あまつさえ、この武者は。柄を砕かれただけで、得物を一つ放り捨てたのだ。
「ですが――幾多の戦を重ねた武人とお見受けする」
燻る想いは、夜彦の裡に確かに在る。されどそれに身を任すのを夜彦は好しとせず、どこまでも冷静に、凛然と武者と立ち合う。
「――良い、目だ」
夜彦の眼差しを褒める弁慶の目が据わる。
射殺さんとする視線を、夜彦は受け流した。
長期戦は、分が悪い。決めるなら、一瞬。
瞼を落とし、軽く吐いた息を飲み込んだ直後、開いた眼の中心に敵を据え、夜彦は疾駆した。
「速さを競うか!」
歓喜を吼えて、武蔵坊弁慶が槍を繰り出す。それを夜彦は、左腕で受ける。躱すつもりは、毛頭なかった。
――我が師が私に教えたのは一振りで戦う術。
先に仕掛けたからこそ生まれる隙。そこを逃さず、夜彦は銀月を思わす刃を抜く。
一振り目は、得物握る手頸へ。
「強さは武器の数に非ず、闇雲に振るう刃は意味を成さぬ」
そのまま瞬き一つ許さず、もう一度。
「真に込めるは一閃である――狙うは、刹那」
極限まで高めた集中力を、力に変えて解き放つ。呉れてやる先は、脇腹。十字の創が残るそこを斬り裂かれ、昂る武者の顔に苦痛が浮かんだ。
大成功
🔵🔵🔵
迎・青
あうあう!…が、がんばる、よぅ!
(相手の殺気に気圧される
でも、これ以上、つらいをいっぱいにするわけにはいかない
みんなの「楽しい」や「キレイ」が、こわれてしまうのはつらい)
(過負荷状態にされる武器を見て、「武器が辛そう」とか考えてしまう
このおじさんはどうして、武器にやさしくしてあげないんだろう
あんなにいっぱい持っていて、武器が好きなんじゃないのかなあ)
(他の猟兵との絡み・アドリブ歓迎です)
「一騎打ちに出ない猟兵」と協力
後方から敵の動きを窺い、仲間の状態を観察し
負傷した仲間は【生まれながらの光】使用で治療
治療優先で動くが、必要に応じ、杖から光を放って攻撃(【属性攻撃】)
加勢不要であれば後方で応援
メリー・メメリ
ぐぬー……喧嘩はだめっていわれたけどこれは喧嘩じゃないもんね!
勝負なら大丈夫だよね……!
かかさま特性のお肉を食べて強くなる!
大食いとフードファイト・ワイルドモードで元気もりもり!
武器は危ないからだめ!だから、えーい!ぐーぱんち!
恫喝でおりゃー!!ってしたら気合いもはいるかな?
負けないぞ!!
相手をしっかりみてよけるってととさまがいってた
だからあいつをしっかり見てよける!
連携もするよ!協力はたいせつ!
おりゃーってしてあいつの隙をつくれないかなー?
つくれたら良いな!
●四の連撃
ふんす、とメリー・メメリ(らいおん・f00061)は肩をいからせ、眉をひそめて唇を尖らせた。
「……喧嘩はだめっていわれたけど」
ぐぬぬぬ。言いつけを守らぬ悪い子にはなりたくない。でもでも、このままでは何もできない。ぐるぐる思考を巡らす少女の裡で、不意にぴこん。
「これは喧嘩じゃないもんね!」
そうだ、喧嘩じゃない。
「勝負なら大丈夫だよね……!」
降って沸いた怒られずに済む天啓に、メリーはおもむろに鞄の中から大量の肉を取り出す。
「ちょっと待ってね、いま準備するから」
「待たされよう」
――あれ? もしかしたらこの人、悪い人じゃないかも!?
むしゃあっと『かかさま特製』の肉にかぶりつくメリーは、求めに応じて仁王立ちで待つ武蔵坊弁慶のことを、そんな風に思ったりする。実際は、自身の回復と、メリーがより強くなるのを待っているだけなのだが。
けれどそんな事は、もりもりがぶがぶ肉を食べている間にメリーも忘れる。
ここから先は、フードファイターとしてのメリーの時間。めいっぱい食べた分、オブリビオンと正面から殴り合えるだけのパワーも漲っていた。
「おしゃー! 負けないぞー!」
「おお、幼子とは思えぬ気迫」
可愛らしい声に最大限のドスを効かせたメリーの恫喝に、武蔵坊弁慶は武者震う。
「拳で来るか。ならば我も拳で応えよう」
喧嘩じゃないけど、武器は危ないからと。ぐーぱんで襲い来る少女を、武者は全力で迎え撃つ。
(「……あうあう」)
ぐぎぃと鈍い音を立て、メリーと弁慶の拳が互いの頬に減り込むのを後方から見つめ、迎・青(アオイトリ・f01507)はがくがくと笑いそうな膝を叱咤する。
弁慶の発する殺気に気圧されていた。朗らかでありながら膨れ上がったメリーの闘志にも、引け目を感じてしまう。
自分は、メリーのようにはなれない。正面から、挑む勇気はまだ持てない。
でも。
(「これ以上、つらいをいっぱいにするわけには、いかない」)
きゅっと唇を噛み、体も気も小さいヤドリガミの少年はなけなしの勇気を奮い立たせる。
(「みんなの『楽しい』や『キレイ』がこわれてしまうのは……いやだ」)
自分の助力の申し出を、『協力はたいせつ!』とメリーは快く受けてくれた。即席のタッグを組む子らを、武蔵坊弁慶も全力で待ち受けている。
己ばかりが怯んでいる場合ではない。
「いっくぞー!」
今度は迂闊に敵の間合いへ飛び込まず、じぃっとオブリビオンの動きを観察したメリーが見上げる体躯の男の足へ縋りつく。
「相手をしっかりみてよけるって、ととさまが言ってた!」
「ぬおっ」
叩き下ろした拳の更に下をいかれ、足に取り付いた少女が己をひっくり返しにかかっている。その現実に、武者は驚愕し、高らかに笑った。
「実に好い!!」
がしゃんと派手に音を立て、九の武具が武蔵坊弁慶の下敷きになる。
(「……かわいそう」)
無造作に扱われるそれらに、青の胸がキリリと痛む。あんな使われ方をしては武器が可哀想。モノに心を宿し誕生した命ゆえ、青は弁慶に使われる武具を憐れむ。
――このおじさんは、どうして武器にやさしくしてあげないんだろう?
――あんなにいっぱい持っていて、武器が好きなんじゃないのかなあ?
「援護を、お願いするんだよ!」
「あうあう、ちょっとまってねっ」
胸裡で重ねた問いに応える声はなく。青はメリーの求めに、癒しの光を放つ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
白雪・小夜
【SPD】人見知り・対人不信の為、交流低
随分と戦い好きな親玉ね?…待った、なんて言わせられるかしら。
自信はないけれど、まぁサシの勝負も良いでしょう。
得物は勿論…この刀達で斬り刻んであげるわ!
とにかく妖刀による斬撃を繰り出しながら素早く戦闘。
『雪夜の一振』は使う場面を慎重に見極める。
攻撃を受けても『激痛耐性』で怯まないように出来ればいいのだけれど。
『殺気』立てて『恐怖を与える』事で敵を追い込む事が出来たなら。
多少なりとも敵の動きを『見切り』出来るといいのだけれど…。
他の猟兵が居たら協力しても…良いけれど
私、誰かと関わるのは…苦手なの。そこは勘弁してちょうだいね。
武人相手は疲れるわね?
アドリブ歓迎
●五の撃
存分に戦場を駆け廻り疲れた子らに替わって、白雪・小夜(雪は狂い斬る・f14079)は凛と戦場に立つ。
「ほう、白き鬼か」
髪も、装束も、刃も白き女に武蔵坊弁慶の口の端が上がる。
一帯の気配まで凍らせるような小夜の出で立ちに、過去の残影は邪さえ雪がれる心地にでもなったのだろうか。それとも血に塗れさせたいと貪欲に願ったのだろうか。
「随分と、戦い好きな親玉ね?」
武者の態度を後者と正しく読み、小夜は一気に加速した。
誰かと組むか、それともサシで試合うか。迷いは、一瞬。
「この刀達で斬り刻んであげるわ!」
自信はないが、望まれたままに小夜は一対一でオブリビオンへ挑む。
小夜切征華、小夜月国永、雪切丸に月下邦正。何れも麗しき銘を有する妖刀は、数えて十二。敵より多い得物を、小夜は器用に繰り、幾重もの斬撃を放ち続ける。
「まるで光が躍っているようではないか」
連撃の猛攻を刀一本で捌き、小夜が薙ぐ白刃が反射させる陽光に武蔵坊弁慶は感嘆を漏らした。
「だが、我が求めるものは美しさに非ず!」
大音声の一喝。
躱し損ねた一撃に腕に厚い筋肉を傷付けられ、弧を描き放った一刀に背を貫かれる痛みにこそ本望を見出す武者は、小夜の間合いへ正面から身を投じる。
迫る威圧に、小夜は一歩退く。
雪の化身となる隙を、小夜は慎重に窺う。だが歴戦の武者を名乗るオブリビオンは、それを小夜へ許さない。
――もしかしたら?
この豪放な武者は、大火蜂との戦いを観察していたのだろうか? 越えて来る者らの戦いざまを、見ていたのだろうか。
だとすれば。大火蜂らを屠った小夜の戦いぶりを、敵が警戒するのは得心もいく。
「……ですが私には、この妖刀たちがあります」
内心の焦りは露程も滲ませず、麗しき白き鬼女は虎視眈々と剣に舞う。
苦戦
🔵🔴🔴
岡森・椛
すごい威圧感
これが武に生きる者の気迫なんだと痛感する
私だって負ける訳にはいかないの
必ず勝つと心に決めてここまで駆けて来たのだから
ルールを破らずご希望の一騎打ちを受けて立つ
私みたいな子供相手だと物足りない?
その油断は命取りなの
【気合い】を入れて、【先制攻撃】で僅かな隙を逃さず精霊アウラと力を合わせて繰り出す【科戸の風】
吹き荒れる神の風をとくと味わって!
この風は悲しみも苦しみも全て吹き飛ばすよ
敵の一撃が重過ぎて危険な時は【巫覡載霊の舞】で神霊体となり攻撃
敵がSPDの無差別攻撃で素早く宙を舞うアウラを追い回す隙も逃さず衝撃波を放つ
例え命を削っても【勇気】を胸に戦い続けたい
私は花が大好き
だから戦うの
●六の撃
あぁ、と。
岡森・椛(秋望・f08841)は仄かに色づく唇から、畏怖を零す。
(「これが、武に生きる者の気迫……」)
ごく当たり前に、ごく普通に育った今の椛では到達しえない高みに『敵』は居る。
押し寄せて来る威圧の波に、肌が先ほどから泡立たって止まらない。睨み合うだけで、心の芯まで石にされてしまいそうだった――けれど。
「私だって、負ける訳にはいかないの」
鋭い眼光を気合いで跳ね返し、椛は一歩を踏み出す。
「必ず勝つと心に決めて、ここまで駆けて来たのだから」
「――ほう」
てっきり気圧されて逃げ出すとばかり思っていた少女の変化に、武蔵坊弁慶の口は、両端を吊り上げた歪な笑みを象る。
その余裕な態度こそ、椛がつけ入る隙。
たった一度きりの好機。
遠くに春を匂わせる風に背を押され、椛は走る速度を増してゆく。
武者たるオブリビオンからみれば、自分など手折るに容易い花のようなものだろう。しかし椛は儚いばかりの花ではない。愛でられるだけの、香るだけの存在ではない。
「私みたいな子供相手だと物足りない?」
未だ得物を構えぬ武者へ、椛は問いを放つ。
「なれこそ得物を構えておらぬではないか」
成程、道理だ。しかし椛がもっともらしい猛者ならば、多くの武具を携えたなら、武蔵坊弁慶はこれほど悠長に振る舞わなかったに違いない。
敢えて乗った一対一の勝負。
自己演出で作り出した最大限の『油断』を、椛は強かに利用する。
「アウラ!」
一言、名を呼び風色の精霊を招く。胸元と髪にリボンを飾る幼子のような精霊の反応は、極めて早い。
「術使いか!」
「悲しみや穢れに満ちた暗雲を吹き払い、空を、世界を、明るくするの――」
唱え続けて、力を移す。武者の反応に気を配っている時間はなかった。敵が格上なのは百も承知。勇気をもってしても、届かぬ極みに猛者はいるから。
「アウラ、お願い」
杖を向けた先――武蔵坊弁慶へ向けて、精霊が風を巻き起こす。武具での打ち合いならば、決して届かぬ間合い。だが椛にとっては十分な射程圏内。
「吹き荒れる神の風をとくと味わって! この風は悲しみも苦しみも全て吹き飛ばすよ」
荒ぶる風が、オブリビオンを地上から連れ去らんとする勢いで逆巻く。
「……姿形に惑わされた我が愚かであったか」
しかし、命の灯を消し去るまでには至らず。裂傷を全身に刻んだ武者は、取りこぼした命の量さえ歓喜するよう、目を爛々と輝かせる。
椛の脅威を正しく認識した武蔵坊弁慶には、もう微塵の隙もない。
「……! でも、負けないっ」
そうと理解しながら、椛は己が全霊を尽くす。
(「私は、花が大好き」)
だから花を愛でぬ無粋に、自ら膝を折ることはない。
成功
🔵🔵🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
延焼は避けたか。
ならば後は、かの首魁を討つのみか。
うむ、話が早くて良い。
好きな得物で良いのであろう?
ならばいつも通りに行くぞ。傍らの蛇竜を槍に変える。
纏うのは【死者の毒泉】、選ぶのは当然、攻撃力である。
正々堂々、貴様に葬られた者どもの怨みを晴らしてやろうではないか!
生半可な戯れで勝てると思うなよ。
死者の呪詛を取り込んだ、私の槍は重いぞ!
ふはは、桜の日和に討たれるとは、貴様もなかなか運が良い。
花を彩る養分には、無粋も粋も関係はないのだからな。
貴様のような無粋な輩も、等しく美しい花に変えてくれるであろうよ!
●七の撃
ひと、ふた、みの、よ。それから、いつと、む。
猟兵らと刃を交えた数だけ翳りは見えてきたが、未だ健在の武者を前にニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)はふんと鼻を鳴らす。
「延焼は避けたか」
振り返れば、点々と焦げた跡はあるが、概ね穏やかな光景が広がっている。猟兵らの猛攻を潜り抜けた炎もぽつぽつと燃え残っているものの、消え去った仲間の多さ故か、事の成り行きを見守るように暫し翅を休めている。
或いは、放たれ続ける闘気に恐れをなしているか。
――ならば後は、かの首魁を討つのみ。
「うむ、話が早くて良い」
強敵を前に、ニルズヘッグはどこまでも尊大だ。否、自信に溢れているだけ。例え根拠は見当たらずとも、ニルズヘッグの底抜けの前向きさが失われることはない。
「好きな得物で良いのであろう?」
応という返事を待たず、ニルズヘッグは傍らに寄り添う蛇竜に手を触れる。途端、主の意を汲み取ったそれは槍へと姿を変えて、ニルズヘッグの掌に収まった。
「面妖な武具だな」
「そうであるか? かわいいものであるぞ」
興味を持ったらしい武者の視線に、わざとらしく得物をひけらかし、ニルズヘッグは予備動作なく槍の切っ先を地面へ埋める。
「な!?」
「呪わば呪え!」
高らかに吼え、ニルズヘッグは怨嗟を招く。淀んだ空気が、槍を中心に集まっていく。常人であれば忌避したい黒い気配を、ニルズヘッグは喜々とまとっていく。
「正々堂々、貴様に葬られた者どもの恨みを晴らしてやろうではないか!」
――生半可な戯れで勝てると思うなよ。
今一度、鼻を鳴らし。ニルズヘッグは言い放ち、たっぷりの呪詛を蓄えた槍を引き抜く。
「私の槍は重いぞ!」
重いと言いながら、ニルズヘッグは軽やかに疾駆する。塗れた澱の矛先は、敵と定めた者へ向かう先鋭なる殺意に荒ぶる。
「ならば我も槍で応えよう!」
ニルズヘッグが突き付けた切っ先を、武蔵坊弁慶が同じく槍の切っ先で凌ぐ。ぶつかる衝撃に、両者の手が等しく痺れた。
「ふはは、桜の日和に討たれようとは、貴様もなかなか運が良い」
力で負けるのを察し、身を引くことで衝撃をいなしたニルズヘッグは後方へ飛ぶ。そこからもう一度、踏み込む。
「花を彩る養分には、無粋も粋も関係はないのだからな。貴様のような無粋な輩も、等しく美しい花に変えてくれるであろうよ!」
競り合う鋼と鋼が散らす火花を視界に、ニルズヘッグは乱れ咲く桜を想い。同時に、無粋な武者の粋な未来を予見した。
成功
🔵🔵🔴
忠海・雷火
気質は好ましい、けれど多くの命を巻き込もうとしたのは頂けない
大人しく骸の海に帰って貰う
「私達」は多重人格者、しかも召喚の技もある。最初から一対一はやれない
いずれにせよ振るうは刀。敵も刀で来るだろうか
戦闘知識と見切り、第六感を駆使し太刀筋を予測、受け流しつつ各関節や腱を狙って反撃していく
とはいえ途中から敵も見切ってくる筈。そうなるとジリ貧なので、攻撃の瞬間に人格を切り替え拍子をズラす騙し討ちを
それも効かなくなれば、敵の懐へ捨て身で飛び込む。攻撃は受ける覚悟、痛みは堪えて一撃を入れる事に集中
敵の胸元に左掌の刻印を押し付けユーベルコード発動
戦闘中だが、ジョブの関係上、噴き出す敵の血は食事として頂こう
●八の撃
定石ならば、次は一度引いて、右から斬り込んでくる。
蓄えた戦闘知識と自らの直感を信じ、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)は――今はおそらく『カイラ』は武者の太刀筋を見切って躱す。
気質は、悪くないと思った。
むしろ好ましいとさえ思う。
だが、多くの命を巻き込もうとするのは頂けない。
「大人しく骸の海に帰って貰おうか」
鍔迫り合いの最中、物憂げな真紅の瞳で見遣って言えば、武蔵坊弁慶は豪快に大口を開けた。
「興味深き女よのう」
ここは押し切る、とばかりに圧をかけ、好色の気配は微塵も含まぬ目線が雷火を値踏みする。
戦いの筋道を読む女。それだけなら、武蔵坊弁慶とて負けはせぬ。むしろ男の方に分がある。
だのに、思わぬ出来事が武者の読みを狂わせた。
人の礎ともいうべき人格が、変わったのだ。みせかけではなく、根底から。
当然、人が変われば戦い方も変わる。癖も変わる。予測が意味を成さなくなる。
「『私達』は多重人格者だと言った」
最初から一対一ではないのだと、一つの器に複数の人格を宿す女は、けんもほろろに武者の視線を袖にして、競り合いから半歩退く。
銘なき刃でオブリビオンの肉体に刻んだ傷は、十を超えた。
それでも武蔵坊弁慶に倒れる気配は、ない。個で比較するなら、己を遥かに上回る相手だ。早々に伸せるなどとは思っていない。
其の上で、オブリビオンの遊戯に付き合うのは。確実に、骸の海へ還す為。
(「とは言え」)
易々と戦いの舞台を降りてやるつもりもない女『達』は、削れる命の最大限を貰い受ける為に、刀を振るい続け。
――頃合いか。
そろそろカイラの戦い方にも慣れられるはずと、一度限りの賭けに出る。
「ぬ?」
器用に立ち回り、己が剣閃を極力躱していた女の直線的な動きに、武者が警戒に足を止めた。
そここそ、雷火たちの狙い目。
このまま肉薄すれば、渾身の一刀が振り下ろされるだろう。その一撃は、雷火の身体に致命的なダメージを与えるに違いない。
それでも、構わなかった。
「我が身に宿る餓犬よ」
飛び込んだ武者の間合い。予想通り、太刀が雷火を襲う。頭を割られるのだけは避ける為、体を僅かに傾けた。
「血道を辿り、」
「何、を」
深く斬り裂かれた肩が灼熱の痛みを訴えるのを気骨でいなし、雷火は分厚い筋肉に覆われた敵の胸へ左掌を押し付ける。
「内より喰い散らせ」
「っくう」
察した武者が退くより、雷火のユーベルコードが発動する方が早い。
左掌の刻印から、誘導用の血針が放たれ、武者の裡を侵す。転移させるのは、喰い破る為の術式。
意識を遠退かせながら、雷火は武蔵坊弁慶の内より噴き出した血を啜る。
大成功
🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
ふむ…その御姿、さぞや高名な武僧と御見受け致しました
つかぬ事を御伺い致しますが
――武僧殿は、花の類は御好きで御座いましょうか?
ハンス、宜しいですね
肩の鴉――精霊を花弁と変え、武僧殿を攻撃致しましょう
空に舞うは愛でるべき薄紅で御座いますが
此方は我が敵を疵付ける、黒き藤に御座います
ルール宣告を呪詛耐性で防御を試みるも
もし魔術を封じられたならば口惜しげに魔術を解除
後は一方的に嬲られるだけ
無念で御座います――なんて、言うと思いましたか?
振り下ろされた得物は黒剣で受けましょう
…ああ、黙っておりましたが
こう見えても私、剣術の心得も多少御座いまして
黒剣で斬り付け生命力を吸収
叶うならばカウンターも狙いましょう
●九の撃
ふむ、と。
新たに戦場に立ったグリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は、僅かに首を傾げた。
「……その御姿。さぞや高名な武僧とお見受け致しました」
傷にまみれても足元ひとつ乱れぬ姿は、敵乍らあっぱれと思わぬでない。
「つかぬ事を御伺い致しますが――武僧殿は、花の類は御好きで御座いましょうか?」
「か弱いばかりの花に用はない」
冷め遣らぬ戦いの高揚に水を差された武者は、言い捨てるようにグリツィーニエの問いに応え、
「問答はもう良いか? 来ぬなら、此方から征くぞ」
痺れを切らし、棍を手に弾丸の如く突進してくる。その姿だけで、グリツィーニエには十分だった。
「ハンス、宜しいですね」
グリツィーニエの声に、肩で翼を休めていた鴉が首をもたげる。是を告げる精霊の仕草に、グリツィーニエは口遊むように、唱える。
「――母の慈悲に御座います」
直後、黒い鴉が無数の黒藤の花弁へ姿を変えた。
「空に舞うは愛でるべき薄紅で御座いますが」
まるでグリツィーニエの肩で嵐が起きたように、花弁がオブリビオンを目指して吹き荒ぶ。
「此方は我が敵を疵付ける、黒き藤に御座います」
「なんの、これしきっ」
体の前方で棍を回転させて、仮初めの盾と成した武蔵坊弁慶は尚もグリツィーニエを目掛けて歩みを止めぬ。
鋭利な刃と化した黒い花弁が、鍛え上げられた肉体のそこかしこを裂いてゆく。血を滴らせてゆく。それでもなお、武に固執する男は愚直に前へ前へと進み――。
「獲ったぞ」
棍の先端をグリツィーニエの喉元に突き付け、くくと笑う。
「懐に入ってしまえば、術士もどうということはあるまい」
己が武を信じて疑わぬ男だった。花の雅さを介さぬ男でもあった。だが、グリツィーニエも艶やかなばかりの男ではない。
「無念で御座います――なんて、言うと思いましたか?」
携えるのは、飾りではない。薔薇を美しく咲かせんと欲す黒剣を、グリツィーニエは瞬時に抜き放つ。
思わぬ反撃に、武者が瞠目したのは刹那。厳つい顔は、見る間に歓喜に染まる。
「なれは剣も使うか」
「ええ。黙っておりましたが、こう見えて私。剣術の心得も多少御座いまして――」
「良し!」
武者は振り払われた棍を握り直すと、すかさず右から新たな一打を繰り出す。それを再び黒剣でいなし、グリツィーニエは間合いを取り直した。
戻った鴉が、グリツィーニエの上空で円を描いている。再びいつでも征ける構えの精霊に、グリツィーニエはふっくらと微笑み、
「まこと、無骨で無粋なばかりの武僧殿で御座います」
強かな棍の撃に剣で応え、暫し花のように舞う。
成功
🔵🔵🔴
ネグル・ギュネス
千桜・エリシャ(f02565)と参戦
支援開始、状況開始
一人でやっても良いが、私は謙虚でね
二人で行く
ユーベルコード:【勝利導く黄金の眼】で敵の武器動作、速度、癖を掌握
属性銃で氷の【属性攻撃】による、氷柱型弾丸を放つ
脚、手首、目元───とかく、動作の起点を潰しにいこう
女将が窮地ならば弾丸で阻害
此方に飛ばされて来たなら、受け止め投げ返す
主人に対する扱いでは、まあ…
さて、こちらに向かって来たならば、刀を抜いて相手仕る
【残像】を駆使し、防御に専念するが。
───何故?
嗚呼、悪いが、主役は主人に譲ったのでね
お膳立て完了
悪くはなかったが、…まあ、貴様以上の敵や無茶とは、もう経験済みだ
【アドリブ・連携歓迎】
千桜・エリシャ
ネグルさん(f00099)と
かの武蔵坊弁慶さんと戦えるなんて光栄ですこと
ネグルさんに支援を任せますわ
私が言わずとも、あなたは最善を尽くしてくれますもの
私はこの大太刀で受けて立ちましょう
やっと巡り会えた大将首…
――あなたの御首、頂戴致しますわ
先制攻撃で肉薄
くるり、ふわり、攻撃を見切って
その振り下ろした武器の切っ先へ降り立って見せましょう
ほほほ、身軽さでは私のほうが上ですわね
不意の一撃は怪力で受け太刀
この通り力だって負けませんわ!
隙を見つけたならば呪詛載せた刃で2回攻撃をお見舞いしましょう
ねぇ、花散らす無粋なお方
あなたの首はどんな花を咲かせてくれるのかしら…
きっと私を昂らせる鮮烈な紅なのでしょうね
●十の連撃
とん、と。千段巻部に立った千桜・エリシャ(春宵・f02565)に、武蔵坊弁慶は「ほう」と素直な感嘆を零した。
華奢な少女だ。薙刀の一振りを腹へ呉れてやれば、蝶のように吹き飛ばされていった。だのに、舞い戻るまでの時間は僅か。
「……正直、主人に対する扱いではないと……思わなくも、ないですが……」
エリシャが放られる軌道を読み、地面に叩きつけられるより早く受け止めたネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は、力任せにエリシャを投げ返した事実を微妙に悔いる。
が、乱暴とも言える扱いを受けた筈のエリシャは余裕綽々。
「構いませんわ。むしろ望むところです」
武者との対決に於いて、支援に徹することを選んだ男へ、エリシャは揺るぎない信を置く。ネルグならば、その時々の最善を尽くしてくれると知っているのだ。
「かの武蔵坊弁慶さんと戦えるなんて光栄ですこと」
花房から飛び立った花弁のように、ひらりと地に立ったエリシャは、それにしてもと華やかに微笑み、
「女将、次は足元からだ」
ネグルが超高速演算で叩き出した数瞬先の未来に応じて、数歩の距離を退く。
果たしてネグルの黄金の眼の導きは正しく、下から襲い来た薙刀の刃は、エリシャの前髪を掠め、金色の蝶飾りを揺らし虚空のみを切り裂いた。
「――なぜ、なれはこの女に従う?」
その眼を以てすれば、直に挑んでくるのも可能であろう。武者の、ネグルの武才を惜しむような訊ねに、ネグルは精霊銃に氷の弾丸を込めながら、肩をすくませてみせる。
「何故? 嗚呼、悪いが主役は主人に譲ったのでね」
「あら、私もただ譲られるばかりではありませんわ」
なるほど、と。武者が頷くより先に、エリシャは敵との間合いを一気に詰めた。
やっと巡り会えた大将首に、鬼の少女の裡は炎のように燃え盛る。喰らった魂の数だけ黒く染まる大太刀も、格好の獲物を前に歓喜に震えてエリシャに振るわれるのを待っている。
くるり、ふわり。
突き出された薙刀の切っ先を、踊るような左右へのステップで躱し、エリシャはオブリビオンの間合いへ割り入った。
純粋な力比べでは、武蔵坊弁慶に利がある。しかしそこへスピードを加えれば、エリシャの一閃も歴戦の猛者に見劣りしない。
されど、ただ刃を閃かすだけでは味気ない。
どうせ戦うなら、麗しく、雅に。満開の桜が、悪戯な風へ一斉に花弁を乗せるように。
「女将!」
後方から飛んだネグルの呼び声に、エリシャは振り返ることなく半身を逸らす。そのわずかな空間を氷の弾丸が抜け、傷だらけの武者の肘を貫く。
「本当は脛を狙いたかったのだがな」
「まぁ、小粋」
ネグルのうそぶきにころりと笑み零し、エリシャは緩んだ猛攻の隙をついて大太刀を下から切り上げ、そのまま重力に任せて斬り落とす。
斬撃の名残は、武蔵坊弁慶の腹から血を滴らせ、肩の肉を覗かせる。されど猛き武者の顔は、変わらず笑む。
「良き連携だ」
むしろ狂気を湛え、表情を爛々と輝かす。
「だが、命を呉れてやるにはまだ足らぬ!」
没頭できる駆け引きに、武を追及する漢は負った得物らで体躯を覆うと、エリシャ目掛けて薙刀を振り払う。
「我が武に倒せぬ者など居らぬ、敵を滅せ」
空間ごと断ち切ろうとする一閃に、エリシャの珠の肌が裂け、とろりと紅い血を垂らす。
「女将!」
「えぇ、えぇ。構いませんわ、これくらい」
突如の変異に予知が一歩遅れたネグルの憂いを、エリシャは蠱惑的に払拭する。
これぞまさしに、求めた大将首。
理性を手放し、誰より早く動くエリシャのみを標的と定め振るわれる刃は、そう易々と凌ぎ切れるものではあるまい。
けれどもそれさえ、戦に興じる血を滾らせる媚薬。
「ねぇ、花散らす無粋なお方」
呼吸の暇も許さず襲い来る連撃を、幾つか躱し、幾つかは受け、エリシャはネグルの心配を他所に唇を血の色で染める。
「あなたの首はどんな花を咲かせてくれるのかしら……きっと私を昂らせる鮮烈な紅なのでしょうね」
(「まさに女将の独壇場、だな」)
斬り結ぶ度に紅い花を咲かせては散らすエリシャの剣舞に、ネグルは己が謙虚さを噛み締めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
隠・イド
耀子様(f12822)と
❤耀子様❤/斬り捨てて❤
のうちわを持ちながら観客席にて応援
桜の花弁を掻き集め散らすのも欠かさない
仮に負ければ、優しくお慰めして次の機会に私を使って頂けるよう刷り込めば良し
勝ったならば、主人の勝利を喜ばぬ道具など居りますまい
どうせなら手持ちの武器が全部折れるくらいしてくれても良いんですがね
特にあの忌々しい機械剣…(感情:恋敵)
こればかりは弁慶の力量に期待しましょう
棄てられた武器はひそりと回収し、喰らう
彼らの姿を見て、別に哀れとは思わない
『使い』棄てられたのなら、道具としては本望だろう
勝ったならば内心落胆
自分が必要とされていないので
より強敵との出逢いに、死線に想いを馳せる
花剣・耀子
イドくん(f14583)と
無粋を強いて酔狂を押し付けるなんて、いい根性をしているわ。
得物は好きに選べと言ったわね。
では、あたしはあたしの全てでお相手しましょう。
イドくんは好きにして。
……めちゃめちゃ好きにされてる気配がするわ……。
否、言った手前いいのだけれど。ぜったい振り返らないわよ。
まずは、目の前に集中しましょう。
お前が何を持っていても、それが武器なら相対できる。
幾つ持っているのかしら。一、五、十、それ以上?
嗚呼、――佳いわね、お前。
いいわ。全部出しなさい。
すべて斬り果たして、骨まで辿り着いてあげる。
戦場に粋も無粋も善悪もないわ。
残るのは只の結果、生死だけ。
お前はどちらになるかしら。
●十一の連撃
『❤耀子様❤』『斬り捨てて❤』――UDCアースの文化を「これでもか」と知らしめる派手にデコレーションした二本の団扇を手に、隠・イド(Hermit・f14583)は黄色くない声援を花剣・耀子(Tempest・f12822)の背へ飛ばす。
大火蜂戦で減らした腹を、武蔵坊弁慶は無造作に捨てた大剣を喰らって満たしたイドの応援ぶりは、余念なぞ欠片も無い。風に運ばれた桜色の花弁を搔き集めては、御主人様の戦いぶりに花を添えんと散らしてまわる。
「…………」
「あれなるを傾奇者と称するのだろうか?」
「…………っ」
自分の後方へまじまじと目をやっていた武者が発した言葉に、冷静を貫くつもりだった耀子の肩がほんの少し、跳ねた。
戦場に立つ側として、その役を譲ってくれたイドには「好きにして」と告げた。確かに、告げた。だが、意図した以上の「好き」をされている気がする。
告げた手前、咎めるつもりは毛頭ないが、振り返る気も微塵もない。むしろ振り返っては駄目だと、対峙した武者の態度が教えてくれる。
(「まずは、目の前に集中しましょう」)
一度、二度。心落ち着ける呼吸を繰り返し、耀子は改めてオブリビオンを見た。
無粋を強いた上に、酔狂まで押し付ける等、どれほど『いい』根性の持ち主なのか。開いた口が塞がらないとはこのことかもしれない。然して耀子も、その酔狂に乗ったクチ。
「じゃあ、始めましょうか」
淡々と宣戦布告し、耀子は帯びた鋼糸と刀に指をかける。
「ならば、参ろう」
待ち構える耀子の姿勢に応え、武者が戦鎚を握り締めると、未だ一つの傷も負っていないかの如き勢いで駆け出す。
重い得物だ。喰らえば齢十六の少女の身は、ただでは済まないだろう。さりとて耀子は、慄きさえせず、得物のスウィングに意識を注ぐ。
「お前が何を持っていても、それが武器なら相殺できる」
低い大気の唸りを伴い、鋼の塊が耀子へ迫る。その軌道へ、耀子は機械剣をぴたりと合わせた。
「幾つ持っているのかしら。一、五、十、それ以上?」
耀子の視線の高さで交錯した二つの鋼が、ギィンと低く鳴る。
「ほぅ、力は随分とあるようだな」
切り結んだ衝撃を掌に残し、武者が片頬を吊り上げた。
「それは此方の台詞――佳いわね、お前」
捉えたものならば、全て切断し得る耀子の剣技。武蔵坊弁慶の戦鎚が耐えたのは、彼の男の闘志を帯びるからか。それとも技自体、武者の方が上回るからか。
答は知れぬ。
されどそんな細かな事はどうでもいい。より長く戦えるのならば、楽しみようは幾らでもある。
「戦場に粋も無粋も、善悪もないわ。残るのは只の結果、生死だけ」
お前はどちらになるのかしら、と目を眇め、今度は耀子から打って出た。
「すべて斬り果たして、骨まで辿り着いてあげる」
あかあかと、背一面の花を耀かせ、戦に舞う耀子をイドはじぃと見つめる。
(「どうせなら、手持ちの武器が全部折れるくらいしてくれても良いんですがね」)
折れろ、と願うのは。オブリビオンのそれではない。耀子が振るうそれだ。
中でもあの駆動音をたてる機械剣は頂けない。いっそ武者の力量に期待したいくらいだ。何故ならヤドリガミたるイドにとって、耀子に使われる『モノ』は主人の寵愛を分かつ存在。一等、忌々しく思う一振りは、恋敵と呼べるほどに疎ましい。
自己主張の限りを尽くした団扇さえ、万一耀子が気に入ることあらば、イドは火へくべてしまう事だろう。その際も、『耀子』の文字だけは綺麗に型抜きして残すだろうが。
と、そこで。
武蔵坊弁慶が使い物にならぬと放った戦鎚が、イドの足元まで転がってきた。
主に手放されたそれを、イドは赤い瞳に無為に映す。
「『使い』棄てられたのなら、道具としては本望だろう」
哀れとは思わぬモノを、イドは人間性を代償にしてのそりと喰らい、人知れず始末をつけた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クロト・ラトキエ
一対一…
付き合う義理は無いといいますか。無駄な手間とも思えますが…
まぁ、どちらでもいいです。
僕は、仕事を、全う出来ればそれでいい。
一斉に仕掛けるなら援護に注力しますが。
皆さんサシの流れなら。
僕に大技があるとは言えませんし。あまり打たれ強くもないですし?
故に。敵の視線、手元、筋の動き、あらゆるを視て、見切りを試み。
隙を縫ってフックの刺突と鋼糸の斬撃。急所狙い、2回攻撃も積極的に。
ひらりひらりと遮那王のように…とは流石に参りませんか。
いざ此方が瀕死となったら、せめて一矢報いんと一撃を振るい
…とみせて、敵背後へ戦場の亡霊発動。
潜めた剣にて、額へ痛打をくれてやれれば一興。
慢心ならば…付け入るまでです。
●十二の撃
二人で舞う、か。或いは一人の声を背に、一人が舞うか。
何れにせよ息の合った者らの武を継ぎ、武蔵坊弁慶と相対したクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、内心で深々と溜め息を吐く。
一対一に付き合う義理は、どう考えても皆無。一斉に掛かった方が、無駄な手間は省ける気さえする。
さりとてサシの勝負を好み求める武者は、新たな戦いを求めることを、猟兵や無辜の人らの命よりも、今が盛りと咲く桜よりも優先している。つまり、相手の策に乗って損もないわけだが――。
「まぁ、どちらでもいいんです」
あれこれ思案してみたところで、クロトが至る結論は一つ。請け負った仕事が全うできればそれでいい――それだけの男は、はぁ、と今度はリアルで長い息を吐いてから走り出す。
「僕に大技があるとは言えませんし」
「あまり打たれ強くもないですし?」
間合いを詰めながら諦めたように漏らす男へ向けられる武者の目線は、先程までの高ぶりを忘れぬ分だけ、酷く冷たい。
しかし求めに応じ、単身で挑んで来るのだ。その気概だけは買わぬではない――実際は、それさえもクロトにとってはどうでもいいことなのだが――と、武蔵坊弁慶は刀を抜く。
「早々に、錆にしてくれよう」
「それはちょっとご遠慮願いたいでしょうか」
白刃のぎらつきを見せつけられて、クロトは躊躇したように走る速度を弛めた。途端、敵の方から飛び込んで来る。
「そんなムキにならなくても」
上段からの最初の一閃は走りから歩みへ、更にクロトが速度を落としたことで届かず空を斬った。
続けざまの切り返しは、クロトを捉える。確かに右脚を引き裂いた筈なのに、吹き出す血の少なさに、武蔵坊弁慶は眉を寄せ、意識して肩から力を抜く。
「ここで倒れる我ではない」
どうやらこれまでの疲労の蓄積が、技のキレを翳らせていると判断したのだろう。ついてもいない水滴を弾く素振りで、武者は握る刀の真価を解き放つ。
「なれ如きに命をくれてやるのは、惜しい一振りだが」
口ぶりだけで他者から奪った得物を惜しみ、その実、武者は剣気に酔い痴れた。鋭さを増した閃きに、クロトはたちうちできない。
巧みに鋼糸を、ワイヤーに繋いだフックを繰るが、それ以上の攻勢に晒される。
瞬く間に切り刻まれた男は、己が血を吸った大地にゆるく沈む。
「遮那王のように……とは、流石に参りませんでしたか」
頽れた男は、せめて一矢報いんと腕を上げ、鋼糸を波打たせた。しかし力を欠いた一撃は、武者に悠々と躱され――、
「な、」
躱したと思った一撃に身を縛られ、武蔵坊弁慶が目を見開き、振り返る。そこにはクロトと同じだけの戦闘力を有した戦場の亡霊が居た。
「――謀るも、武の一つか」
「まさ、か。好き好んで、痛い思いなんか、したくはあり、ま……せん」
そこに慢心が転がっていたから、突いたまで。
あくまで偶然を言い張り、自分ならざる自分が握ったフックが武者の額に突き刺さったのを見止めたクロトは、桜吹雪に攫われるよう意識を散らす。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
✼アドリブ等歓迎
「櫻宵、櫻宵。お願い、首なんていらない。だから。無理はしないで」
ピリピリする空気に、それを愉しむ木龍に
不安で心配で見上げる
喪いたくない、こわい、傷つかないで
僕は応援しか――君の勝利を祈って凱歌を歌うしかできない、無力感
けれど
それで君の力になれるなら
いくらでも
弱々しい言葉は君らしくない
君は僕の歌が美しいというけれど
同じ様に、君の剣技も――綺麗
醜くなんてない
血色の桜……綺麗だよ
君が生きる為に磨き
頑張った証だろ
何より美しい
一瞬も見逃さないように見てる
だから
無事に帰ってきて
馬鹿は君だ!
ま、まだ捕まってない!
捕まえたければ
アレを倒して見せてくれ
君の華を咲かせてみせて
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ等歓迎
サシ勝負なんて素敵!
かの武を極めし弁慶
その首を斬り落とすなんて
さぞや甘美な快楽
殺し合い(愛しあい)ましょ!
武器?あたしはこの屠桜で充分
狂気に似た陶酔に滾る想いに刀を抜いて
衝撃波込めなぎ払い、穿ち抉り、斬り合い
残像と見切りで躱しフェイントかけ斬りこんで
怪力を乗せ剣戟を
リル
見ないで
こんなあたしは美しくない
わかっててもどうしようもなく昂る血色の桜
守ると理由をつけ殺す
戦に悦びを見出す
あたしは醜い
馬鹿
だから悪い男に捕まるのよ
リルの想いを受けて
初めて貰った自分を認める言葉に微笑んで
刀にありったけの想いを込め
踏み込み絶華を放つ
幾らだって強くなれる
可愛いあなたの為ならば!
●十三の連撃
――嗚呼、嗚呼!
――嗚呼、嗚呼!!
期せずして、二つの歓喜が重なり、戦場を花嵐色に染め上げる。
蹴り上げるようにして裾を捌いて大胆な一歩を踏み込み、薙がれる刃を躱す暇さえ惜しんで上段から紅い刀を振り下ろす。
ぐっと柄を握る手へ、いつもの倍の力を込める事で常以上の破壊力を生み出すと、体格に勝る武者の膝がふっと沈む。そこを畳み込もうとすれば、脇腹に食らった筈の刃がすいと引かれ、ずいっと突き直して来た。
胃からせり上がってきた衝動に、血が混じる。
飲み下しきれなかったそれが、口の端から顎へつっと辿るのを、地面に片膝をついた武者がニマリと見た。
――愉しい、愉しい、愉しい!
――愉しくて仕方ない!!
切り結び合う武蔵坊弁慶と誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)の心は溶け合い、いずれがいずれであったか既に分からない。
『サシ勝負なんて素敵!』
しかも相手は、武を極めし猛者。その首を狙えるなんて、煮詰めた甘い蜜に身を浸すよう。
「さぁ、殺し合いましょ!」
『あい』の響きに『愛』を織り交ぜ、櫻宵は武蔵坊弁慶と命に戯れ、刃と踊る。
「どうせなら、万全の状態でお相手願いたかったわ!」
せがみながら残像を一つ残し、少し距離をあけたところから全力で妖の血で鍛えた刀を櫻宵は振り抜く。
生まれた衝撃波を正面から喰らった武者は、くつり。
「何の、我は戦えば戦う程強くなる!」
この上ない快哉を枯れた喉から絞り出し、真正面から櫻宵へ斬りかかった。
――早い。
捨てた血の分、体が軽くなったのだろうか。文字通りの目にも留まらぬ早業に、躱しきれなかった櫻宵の胸から朱が飛沫く。
「櫻宵、櫻宵。お願い、首なんていらない。だから。無理はしないで」
血濡れてゆく木龍を涙で潤みそうな目に、リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)は両手を強く握り合わせて祈り続ける。
本当は、胸を覆い尽くす不安に負けて、俯いてしまいたい。
――喪いたくない。
こわい、こわい、こわい。傷付かないで!
叫んでしまいそうな弱気と、癒しの歌を届けるくらいしか出来ぬ己の無力感に、膝を抱えてしまいたくもある。
でも、でも、でも。櫻宵が戦っているのだ。
「リル、見ないで?」
「……?」
ほんの僅かでも助けになる事があるならば、と。必死に顔を上げ続けるリルの耳に届いた細い音色に、健気な人魚は見開いていた眼を瞬いた。
「こんなあたしは美しくない」
わかっていてもどうしようもなく昂る血色の桜。『守る』を理由に、つけ殺す。
戦に喜びを見出す魂は、対峙するオブリビオンのそれと同じ色。
「あたしは醜い」
「そんなこと、ないっ」
半ば反射で、リルは黄金の旋律を切なる訴えへと変えていた。
「弱々しい言葉は君らしくない! 君は僕の歌が美しいというけれど、同じ様に君の剣技も……綺麗」
醜くなんか、ない。
血色の桜は、とても綺麗。
だってそれは、君が生きる為に磨き、頑張った証だから。
「君は何より美しい。一瞬も見逃さないように見てる。だから、無事に帰ってきて」
泣き出しそうな顔をしているくせに。目を逸らさないと熱烈に告げられ、心揺れぬ者がどこにいようか。
もしそんな者がこの世に存在するなら、きっと怨念の塊のようなものに違いない――尚も切り結び続けている武者のように。
「……馬鹿ね、リル。そんなんだから、悪い男に捕まるのよ」
初めて貰った自己を肯定する言葉に櫻宵は晴れやかに微笑む。
「馬鹿は君だ! ま、まだ捕まってない!」
捕まえたければアレを倒してみせてくれ。
背を押すつもりか、心底の本音か。何れにせよ、愛らしい小鳥のさえずりのようなリルの求めに、櫻宵は武蔵坊弁慶の懐へ飛び込む。
「君の花を咲かせてみせて」
「ええ、ええ。私は幾らだって強くなれる。可愛いあなたの為ならば!」
――桜よ咲け。咲いて、散れ。潔く、美しく。
薙がれる刃は、不可視の速度。敵のお株を奪う一閃に、ぼとりと太い右腕が落ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
【発破】
五条橋の出逢いを再現との茶目っ気で
奏ずる篠笛は戦庭を彩る一陣の風
立ち向かう皆々に追い風の祈りを
火蜂斃せし縁の糸を紡いで縒れば三つで一つ
さぁ、一気呵成に畳み掛けましょうか
とは言え
私の得手は真言を紡ぐ事なれば
武が誉れの弁慶には御二方こそ相応しい
二つの背に疾風の翼を添えたく
先制攻撃、高速詠唱で放つ符の鳥葬
――いけ、
金烏の羽搏きで先駆け
眩く鮮烈に道を拓く
然れど
此れだけでは終われない
典雅な所作に隠れども
血が沸くのは二人と同じ
故に浮かぶ笑みは鮮やかに
懐へ踏み込んで抜刀、向う脛を打つ
冴える刃は至春をも凍て冬に還す冷徹
第六感で見切り
武器落としや残像で回避
動きの癖、眼差しの先を読んで素早く伝え
連携を編む
葦野・詞波
【発破】
前やうしろや右左
ここと思えば又あちら
燕のような早業に、か
どこの歌かは忘れたが
大見得を切ったな、弁慶
綾、ユルグ
誰があの素っ首を取っても恨みっこ無しだ
行くぞ。一番の得手で来い、弁慶
鳥の羽搏きを聞けば開戦の合図
ユルグや綾と別の方向から弁慶の臓目掛けて
槍を繰り出す
三方向からの絶え間のない剣戟を
見舞ってやろう
一騎打ちを望むは武人の誉れ
理解はするが今回は三人掛かりだ
まとめてかかってくるのも宜いと言った
己の迂闊を恨め
僅かな間でも、迫り合いが出来るのなら
応じてやらぬでもなく
そうして隙を作ったなら
綾とユルグは見逃さないだろう
首級を挙げること叶う局面なら
捨て身の一撃も躊躇わず
【揺光】、見事首を獲って来い
ユルグ・オルド
【発破】
絵物語さながらの古雅に喉の奥で小さく笑って
あとは扇と風を招いたならば一巻が始まる心地
選ばせてくれるなんざ優しいこって
どうせなら一番の得手で来いよ
笑えば詞波へ良い子でお返事
するが早いかともに駆けだして
綾の援けを借りれば一陣の風の如く
振りぬくのは自身の本体たるシャシュカを
千にしたいなら、折ってみなよ
逸らさず怯まず真直ぐに踏み入って
首を打ち取る気概でただ集中するのは一点
見切ってその身を反すこと
刃に沿う指先から滴らせブラッド・ガイストで呉れてやる
見返す一瞬、言葉より饒舌に先が知れる
預けるのに信頼ばかりの面々は心地好い
乞う春も冬の名残も怒号さえも今この時は
鋼にのる心には全部消え失せただ一振りと
●十四の撃・発破再編、首級
――いけ、と。
都槻・綾(夜宵の森・f01786)は金烏の羽搏きで、道を示す。
――誰があの素っ首を取っても恨みっこなしだ、と。
葦野・詞波(赤頭巾・f09892)が金色の風を追って駆け出せば、
――了解、と。
お行儀よく良い子なお返事をうそぶいたユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)も、負けじと並び走る。
ぴぃ、ひょろろ。
独特に掠れて響く篠笛を綾が奏じて戦庭へ踏み入れば、どこで憶えたのか定かでないわらべ歌を口遊ぶ詞波が続き、絵物語さながらの古雅さに小さく喉奥を鳴らしたユルグが二人に倣う。
敵は、武蔵坊弁慶。
どうせなら一番の得手で来いよと、ユルグは煽った。
大見得を切ったな、と詞波も口元のみで笑った。
洒落込んだ五条大橋での出会いの再現。あとは扇と風を招いたならば一巻始まる心地と、ユルグが言うから――綾は風を吹かせた。
その風に乗り舞い踊る扇に、詞波とユルグは化す。
「さぁ、一気呵成に畳み掛けましょうか」
大火蜂を共に屠った縁の糸を、紡いで縒れば『三』で『一』。
か細い刹那の結びつきを己らの意思で手繰り強め、一丸となった猟兵三人が春の嵐と吹き荒れる。
一等先に、武者へと伸びたのは詞波の槍の切っ先。
左から踏み込み、強かに臓を狙う。されど貫く間際、武蔵坊弁慶の薙刀が女の一撃を叩き落した。
「その気迫や、好し!」
「いつまで好し吉し言ってられるかなっ」
得物の蒐集。千にしたければ折ってみなよ、とユルグは詞波が身を退く間も惜しみ、己が本体であるシャシュカで真正面から斬り挑む。
「好きものは良きものなれば。いつまででも、言うてやろうぞ」
詞波の槍へ注いだ集中を戻しきれず、武者は薙刀振るう左手の甲をユルグへ呉れる。
肉を削がれることくらい、どうということはない。そう隻腕となった漢は、未だシャシュカの間合いに留まるユルグの腹を蹴り飛ばす。
重い一撃に、成人男性としてなんら遜色のないユルグの身体が宙へ浮く。そのまま後方へ飛び、ユルグは地面へ背を打ち付ける。
立ち上がるまで、一秒。舞い戻ってくるまで二秒。
その三秒の間に詞波を封じる――と、武者は考え。実行に移そうと詞波へ向き直った直後、背面から襲った衝撃に「かっ」と短く熱い息を吐いた。
「誰が刃は振るえぬと申しましたか?」
真骨頂は確かに真言にあれど、綾とていくさびと。ただ悪戯に武具を携えなどしない。先ほどの篠笛も、綾が吹けば天を鳴らし、地を響かせる得物となるのだ。秀でるのは智慧の奏でであろうとも。
「成程、三振りの剣か」
「まとめてかかってくるのも宜いと言った。己の迂闊を恨め」
容赦なく言い放ち、今度こそ詞波の槍が武蔵坊弁慶の左脇腹を深々と貫く。垂れ落ちた血に、武者の足が滑った。そこを見逃さず、ユルグは舞い戻る勢いのままにシャシュカをオブリビオンの脳天へと振り下ろす。
「っは!」
割れていた額から一層噴き出す鮮血に顔面を紅く染め、過去の残影たる武者は高らかに声を上げた。
「良し、好し。実に、吉し!」
大口を開けて吼えるように笑い、武蔵坊弁慶は薙刀を縦横無尽に振り回す。裂かれた大気がヴンと鳴き、巻き込まれた風がひゅうと震える。
目で追えぬ閃きを綾は勘でいなし、その動きに同調を果たしたユルグも辛うじて躱す。
伸びた衝撃の刃を詞波は槍で突き崩し、散った欠片に肌を切り裂かれながらなおも踏み込む。
然して鋼の先端は、鋼によって弾かれた。武蔵坊弁慶は今や、手にした薙刀以外を我が身にまとう、戦うだけの鬼神。同じ場に立つだけで背筋を凍らせんとする殺気に、しかし綾の口元に浮かぶのは鮮やかな笑み。
武の誉れたる弁慶に、似合いなのは詞波とユルグだと解している。さりとて支えるだけでは味気ない。血が沸くのは二人と同じ。舞って、舞って、舞い踊らねば、折角の花も萎れてしまう。
「詞波さん」
「ああ!」
「ユルグさん」
「わかった」
踏んだ場数の分だけ秀でる目で綾は二人を誘い、終幕までの道を直走る。
ここまで戦いに興じ続けた相手だ。猟兵たちの全力をぶつけられたオブリビオンに、長きを愉しむ余裕は残ってなどいない。
「時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ、」
最も早きを追う武者の視線を、綾が再び放った鳥の疾てなる羽搏きが攫う。ちら、と。瞳孔が動いた。ただそれだけの隙に、詞波は槍で薙刀を払う。
手放すまいとする執念が、柄を介し詞波へ伝わる。死にかけとは思えぬ力強さに、詞波は片眉を上げた。
武蔵坊弁慶との力勝負も、悪くない。
だが詞波が作った静止の時を、誰が見逃すだろうか。
「首級は呉れてやる!」
「――」
ありがとう、と告げるのは未だ早い。
漏れかけた謝意を飲み込み、ユルグはシャシュカの形を変える。
既に血は啜らせていた。殺め、戮し、喰らい尽くそうと刃は陽光にぎらつく。
――あぁ。
信を預ける面々との短い一時は、心地よかった。
だが何事にも終わりは有る。
乞う春も、冬の名残も、怒号さえも消え失せた世界にユルグは身を置き、そこから現実へと一気に浮上する。
未だ光を失わぬ眼と視線をぶつけ、弾くようにシャシュカを横一文字に薙ぐ。
――ごとり。
胴から分かたれた首が、猟兵たちが駆けた地面に転がった。
ごろんごろんと転がり、
「好シ」
カタリと、笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
海月・びいどろ
おとなのヒトたちに助けられて
ここまで来たけれど
…守られているだけのこどもじゃ、ダメ、だから
戦うなら、一騎打ちするよ
せめて、一矢報いる、というやつ
ボクは弓をとるよ
近くの攻撃は、力で負けてしまう、けど
すこしは傷を重ねておけるよね
鏃の先は硝子の色
行き先は分からないように
浮かび上がらせたスクリーンから
今度は、みんなの声を耳にする
そこに無くても、ここに在るもの
映像の中の声を聞けば
たくさんの矢に混ぜたフェイントに、軌道を隠しておこう
本命は、ひとつだけ
張り詰めた弓は天高く掲げて、放つ
星降るような、一撃を
あなたにとって、戦うとは
どんな意味を持つのかな
空気がビリビリとして
あついのは、さっきの熱?
…それとも、
●終いの撃
絶えたと思った命が、生へしがみつく。最後の砦に成ろうとするが如く。
全ての一騎打ちを果たさんと欲する儘に。
転げた首を拾った武者が、のしのしと歩み来る。
異様な光景に、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は身を震わす。
しかし、子供は退かない。
守られてばかりでは、ダメなのだ。
学び成長するこどもは、たった一人で残影と向かい合う。
――こういうのを、一矢報いる、っていうんだ。
握った弓の弦をぎりりと引き絞り、番えた矢の行く先をびいどろは定めようとして――あ、と。電子のスクリーンを無数に展開した。
一つ一つに、経た時を映す。
大火蜂との戦い。そして一から始まり、十四まで連なった撃の数々。
目にしてきた猟兵たちの戦いぶりが、発された声の数々が、びいどろへ力をくれる。
――そこに無くても、ここに在るもの。
消費された過去の光景だ。けれどびいどろの裡では、今この瞬間に熱を灯す。
「あなたにとって、戦うとは。どんな意味を、持っていたの、かな?」
答えてもらえると思っていない問いは、過去形。
燃え尽きかけた灰の武者は、ただびいどろ目指し歩むのみ。武具の一つも持たず、残された腕に己が首を抱え。
じりじりと寄る武者に、びいどろを包む空気がびりびりと戦慄く。
(「あつい……これは、さっきの熱?」)
――それとも、
肌を突き刺す感覚が意味する先を、びいどろは未だ知らず。けれど予感は胸に、少年は矢と弦を支えていた手をそっと開いた。
星降るように、矢は飛んだ。
そしてずぶりと、硝子色の鏃が武蔵坊弁慶の胸を穿ち、心の臓を潰す。
遂に地に伏した武者が、再び起き上がることはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『お花見』
|
POW : たくさん飲み食いしたり、お花見ついでに散策したり、めいいっぱい楽しもう!
SPD : 手作り料理や飲み物(買ってきた物もOK)を持ち寄ってお花見パーティ
WIZ : 咲き誇る花や周囲の風景を堪能しよう
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ほのかな塩気が食欲をそそる桜餡を包んだ餅は、つきたて熱々でよく伸びる。
桜色の団子を仲良く三つ連ねて刺した串には、甘く煮詰めたみたらし餡がとろぉり。
桜の花弁が泳ぐまぁるい寒天は、さわやかな甘さとつるんとした食感が自慢。
他にも桜を象る飴に、桜色の綿菓子。桜色の金平糖は、湖を模した硝子瓶の中できらきら光る。
酒の盃には花弁が浮かび、桜色の茶は甘いような酸っぱいような不思議な味わい。
「守ってくれてありがとうな!」
難を逃れた一の桜と街の人々は、猟兵たちを歓待する。
「安くしとくよ、ほら買った買った!」
並ぶ露店からはひっきりなしに声がかかり、行き交う人々からは笑顔の感謝が送られる。そんな活気が嬉しいのか、それとも自身も感謝を伝えようとしているのか。大きく古い桜も風に花をそよがせ、はらはらと薄紅色を降らせ猟兵たちの髪を飾る。
「穴場は湖の上よ。舟を出して貰えるから、ゆっくり花が見られるの」
他の一の桜近くは人でいっぱいよ、と小洒落た格好の女が教えてくれた。
「よかったらうちの座敷を貸すぜ。花の枝が目の前まで伸びて来てる特等席だ!」
ふくよかな腹を揺らす男は、人好きのする顔で手招く。
そして。
「一の桜の宮さまは。願いが叶うか教えてくれるの」
小さな少女が案内する先は、白い鳥居の白い社。そこで買い求めた掌大の花弁型の用紙に、専用の桜色の墨で願いを認め、湖へと流す。すぐに文字が溶けて消えれば、一の桜が願いを叶えてくれるという言い伝えがあるらしい。消えず暫く残った場合は、努力を続けよとの啓示だとか。
守った花は、今が盛り。
愛でよ愛でよと猟兵らを誘う。
もちろん、無粋は厳禁。
触れずに仰ぐのが、粋というもの。
メリー・メメリ
わあ、おいしそう!
ライオンライオン、なに食べる?
あ、このお団子おいしそう!えへへー、これたーべよ!
たくさんがんばったからたくさん食べる!
みんな無事でよかったねー。ねー、ライオン!
わあ、このお団子すごーくおいしいよ!
あのねあのね、ちょっぴりさくらの味がしてね、かかさまにもあげたいなあ。
もって帰れるかなあ?きっとよろこぶとおもう!
ねえねえ、このお団子おいしいねー!
近くにいただれかに話しかけてみるよ!
おいしいのはライオンと二人よりみんなお一緒にたべたらもーっとおいしい!
わいわいできたら良いな!
天海空・奏楽
朝から夜まで桜を楽しむ!
美味しそうな甘味ばかりで、どれか一つと決められない。
茶屋や屋台をゆっくり巡りながら食べ歩きといこう。
お酒は飲めないので甘酒や、桜の葉を使ったお茶、
桜茶など桜にちなんだものをいただくよ。
食べ歩きでいろんな場所を歩けば、桜もまたいろんな方向から見られると思う。花のみならず枝ぶりも楽しんで、眼に焼きつけておこう。
社にも参拝して、願いごとを…。…うん。
立派な仙人になれますように!(気合一閃。勢いのある筆運び。)
一の桜さんも見守っててくれたら嬉しいんだぜ。
賑やかなのは大いに歓迎、夜桜も綺麗だろうなあ。
桜の花散るは、これからの年月を想わせ。再びの約束と見る。
桜のご縁に感謝なんだぜ。
●桜紡
「へい、らっしゃい!」
「難しい顔をしてないで、寄っておいでよ」
屋台から次々にかかる声へ天海空・奏楽(道士見習い・f13546)は都度、笑顔を返すと、慌ててむむむっと眉根を寄せて顔を引き締める。
待ちに待った祭だ。
朝から夜まで一の桜を楽しむ気で満々だ。
屋台に並ぶ甘味はいずれも魅力的で、どれか一つなんて選べないし。選ぶ必要もないから、腹が許す限り味わい尽くすつもりでいるけれど。
それをするには時間がかかる。
あと、夢中になり過ぎて大事なことをうっかり忘れてしまい兼ねない。
「えぇと、お宮さんは……」
仙人を目指す奏楽だ。万が一にも詣で忘れがあってはならない。だから今すぐ食べ歩きの旅に出たいのをぐぐぐっと我慢して、一の桜の社を探しているのだ。
とは言っても。
一の桜を中心に栄えた街だけのことはあり、白い案内板はそこかしこ。
「はぁ……見事なもんだな」
近付くにつれ、華やかさを増す枝ぶりに心を奪われていたら、道のりはあっという間。辿り着いた白い鳥居を、神様の通り道を汚さぬよう、奏楽は端を潜る。
まず向かうは、大切なご挨拶。
降るように咲く桜を天井に鎮座する社は、やはり白。そこへ作法に則り、手を合わせ、頭を垂れて。
それから人が群がる、願掛けへ。
「願いごと、願いごと……うん」
うんうん頭を抱えた時間はきっと僅か。ぴんと閃いた「これだ」という願いに、奏楽は気合一閃。
――立派な仙人になれますように!
「よし」
勢いある筆運びで書き上げたそれは、奏楽渾身の出来。伸びやかな文字は、きっと一の桜の目にも留まるに違いない。
然して奏楽は桜紙を湖へ放ち、結果を見る前にひらりと街へとって返す。
叶うも叶わないも、努力の要不要も奏楽には関係ない。いずれ絶対、その高みへ辿り着くつもりだから。
道士見習い――自称ではあるが――は流石に肝の据わりが違う。決して、お社まで漂う甘い香りに痺れをきらしたわけではない。
それを証拠に、
「っ、ライオン?」
「う、わっ」
メリー・メメリ(らいおん・f00061)との衝突を、ぎりぎりで回避。まぁ、そこには。お団子に夢中なあまり、ちょっぴり前方不注意になっていたメリーの襟ぐりを、メリーのライオンがかぷっと噛んで留めてくれたというのもあるのだが。
「へぇ、賢いライオンだな」
気付いた奏楽がライオンを褒めると、メリーの顔は春爛漫の桜満開。
「そうんだよ! ライオンはあたまいいんだよー!」
自分の事のように小さなキマイラ少女に胸を張られ、奏楽もにこにこ。と、そこでメリーが手にした団子の串に気付く。
「それは、みたらし餡の……?」
「そうそう! このお団子、すごーくおいしいのー!」
守れた街の賑わいと、雨のようにはらはらと花弁を降り注がせる桜の歓待に、メリーの足取りは何処までも弾み。あれよこれよと覗いて回った屋台も、至福の極み。
ここはフードファイターとして、メリーの腕(?)の見せ所。オブリビオンとの戦いの最中に食べた、パワーアップの秘訣であるかかさまの特製肉でくちくなったお腹も、既に程よい空き具合であったし。
『ライオンライオン、なに食べる?』
たくさん頑張った分、たくさん食べちゃおーっとメリーは「おススメだよ」「絶対美味いから!」と呼び掛けられるままに食べ尽くし、味わい尽くし。
中でも気に入ったのが、桜色の団子がみっつ連ねられた串。
「あのねあのね、ちょっぴりさくらの味がしてね。かかさまにもあげたいなあっておもったの!」
団子の魅力を説いてくれるメリーの耀きぶりに、奏楽も顔も自然と綻ぶ。
「これもって帰れるとおもう? きっとかかさま、よろこぶの!」
口の端に餡をつけての熱弁は、美味ぶりと「かかさま」への慕わしさで満ちていて。まだ食べていない奏楽まで、幸福の湖に浸してゆく。
「きっと大丈夫だと思うぜ。土産を包んでもらいにいくか?」
「うん! メリーがあんないするねっ」
今にも自分にまたがって駆けだしそうなメリーを、ライオンが額をこつんと押し当てなだめる。
まだまだ今日は長い。
夜桜も、さぞや美しいことだろう。
時間もたっぷり、甘味もたっぷり。
「じゃ、案内よろしくだぜ」
桜が紡いでくれた縁に奏楽は感謝しつつ、
「えへへ、みんなで食べたほうがきっとおいしいね!」
メリーのスキップに導かれ、ライオンと並びゆっくりと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
岡森・椛
戦いが終わって、何の心配事もなく花を楽しめる
嬉しいな
ウトラさんもお花見をご一緒しませんかとお誘い
私達同い年だし、背丈も同じくらいで、誕生日も近いね
優しい春の中を一緒に歩きましょ
周囲を見回せば桜色のお菓子がいっぱい
お腹も空いたから買っちゃおう
桜色のお団子、下さいな
みたらしたっぷりでお願いします
はい、ウトラさんにも一本プレゼント
貰ってね
美味しいねって笑い合うともっと美味しくなる
私の肩に乗っている精霊アウラも興味深そうに桜を見つめ、落ちてくる花弁を風で引き寄せている
ふふ、私の周りに花弁の小さな渦が出来て楽しい
やっぱり桜っていいな
みんなを笑顔にしてくれる
だから桜は嬉しくて、ますます綺麗に咲くんだと思う
海月・びいどろ
ひらり、ひらり
舞い落ちる桜の花弁がきれいで
あーん、と口を開けて待ってみる
――ぱく、ん
あれ…花って、甘くないんだね…
あんなに甘そうな色をしてるのに
まぁるい桜色の寒天がきれいで
買っておいてよかった
これって、ももいろに似てる、よね
海月のぬいぐるみを抱えなおして
桜の木の下で春のひととき
金平糖も、つい、買ってしまったけど
……食べきれない、ね
ここに案内してくれたウトラの姿を見かけたら
おいでおいでって、手招き、お招き
よければ、キミの欲しいものを、好きなだけ
どう、かな…?
花より団子って、いうけれど
桜の香りと、あまいものと、平和な街の風景
どれも全部堪能しちゃう、ぜいたく、だね
うとうとまどろむ、はるうらら
●春麗
一片、また一片。
くるりくるりと踊りながら薄紅が降って来る。
それがあまりにも綺麗で、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は緋毛氈の敷かれたベンチに腰掛け花を仰ぎ――あーんと、口を開けた。
――ぱく、ん。
気紛れな風の、粋な計らい。
ひらりと鼻先をくすぐった花弁を、少しお尻を浮かせて捕まえ、びいどろはゆっくりと春を舌で味わい――ことりと首を傾げる。
「あれ……花って、甘くないんだね……」
電子の海に漂う無数の画像なら、幾らでも見たことがあった。データ化した香りをイメージし、鼻を鳴らしてみたこともある。
でも、実際に食べてみたのは初めて。
あんなにも甘そうな色をしているのに、ちっとも甘くないのが、びいどろにはとても不思議で。
今度は手を高く掲げて一枚、捕まえたそれを矯めつ眇めつして眺め、
「うん」
と「ふしぎ」な事に納得して、膝の上に鎮座している寒天へ興味を移す。
竹の器に盛られた桜色の寒天は、まぁるくて、つるんとして、ぷるん。
「買っておいてよかった」
人混みに紛れてしまわぬよう、海月のぬいぐるみをきゅっと抱え直し、びいどろは木の匙で寒天を一掬いすると、そろりと口へ運ぶ。
途端、いっぱいの甘さと、仄かな酸味がびいどろの内側に広がった。
「これは、あまい。あと、ももいろに似てる、よね」
甘い色といって浮かぶもう一つを引き合いに、びいどろは海月に春の違いを尋ねて、また首を傾げる。
似た色なのに、少し違って。甘そうなのに、甘くなくて。でもぷるんとつるんは、とても美味しい。
五感で味わう世界は、様々な出会いをびいどろにくれる。キラキラに惹かれて買ってしまった金平糖も、その一つだ。
「これも、春の色」
硝子瓶の蓋を捻り開け、指で摘まみ上げた春色のお星さまからは、甘い香りが漂っている。これは間違いなく甘いだろう――けれど。
「、あ」
食が細いびいどろ一人ではとても食べきれない量に、電子のこどもはまたまた首を傾げ、見かけた姿に短く声を上げた。
それはここへ案内してくれたウトラ。偶然も機会と手招きしかけ、彼女がもう一人の少女と連れ立っていることに気付く。
果たして声をかけたものか、否か。けれどびいどろが解をはじき出す前に、ウトラの方がびいどろに気付いた。
「びいどろちゃんだ!」
素足で地面をパタパタと駆け出すウトラは、もう一人の少女――岡森・椛(秋望・f08841)の手を引いている。
「こんにちは、なの!」
「お仕事、大変だったね」
あっという間に駆けて来た二人に、びいどろはほんの少し人慣れない笑顔を返すと、「二人は、ともだち、なの?」と尋ねてみた。
「ううん、折角だからって私が誘っ――」
「そう、おともだちになったの! あのねあのね、すごいのよ。椛ちゃんとわたし、としもおんなじで、たんじょうびも近いんだって! ほらほら、身長もならんでるんだよ!」
……どうやら勢いはウトラの方があるらしい。
さりとて、二人がここまで優しい春の時間を楽しく過ごしたのも事実。
――はい、ウトラさんにも一本プレゼント。
たくさんの桜色の菓子たちに目移りしつつ、空いたお腹に導かれ、椛が購入したのは桜色のお団子。
一人なのに二本も買ったのは、食いしん坊だからではなく、ウトラの為。
――貰ってね。
――ありがとう!
受け取り、二人そろってあーんと食べて。たっぷりかかった餡の甘さに同時に笑顔になれば、お団子の美味しさはさらに増し増し。
「でね、びいどろちゃんをみつけたの!」
「隣、いいかな?」
満面笑顔の少女らに語られ、訊ねられ、びいどろはこくりと首を縦に振り、
「いっしょに、たべる?」
キミが欲しいものを好きなだけ、と。金平糖の瓶を差し出した。
春の風が柔らかに吹く。
「すごいねぇ」
ウトラの感嘆に、椛も「そうだね」と目を細めた。
こんな大きな桜は、なかなかお目にかかれない。
椛の肩で、興味深そうに桜を眺めていた精霊のアウラも、そよ風を起こして花弁を引き寄せ戯れている。
「椛ちゃん、お花のようせいみたい」
椛の周りでくるくる回る花弁にウトラが目をパチリと瞬くと、椛もふふと声に出して笑う。
けれど、ボリュームは遠慮がち。
だっていつの間にか、うららかな春に誘われ、びいどろがくうくうと寝息をたてているのだ。
この穏やかさは、守り切った一の桜からの贈り物。
「やっぱり桜っていいな」
どこまでも枝を広げる桜を見上げ、椛は笑みを深める。
桜は皆を笑顔にしてくれる。それが嬉しくて、桜はますます綺麗に咲くのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
伍島・是清
ニルf01811と
ああ、綺麗だな、すごく
ニルの髪を飾る花びらを指先で摘み
けれど風が吹けばまた花びら
…きりがねェ、な
解るよ、空気が凛とすると諾って元気のよい傍らに引っ付いて歩く
独自の作法を持つ神社も有ると聞く
解ンねェけど、まァ、二礼二拍手一礼で善いかな
小銭が先ね(解る?と仰ぎながら首傾げ
腕を引かれれば少し笑って
花弁の紙に願いごとの方じゃなくていいの
聞きながら神籤には異もなく
──ニル、ニルは何だった?
次は菓子、御前、行動派だなァ
あァ、甘いものは好きだ(笑わないながら嬉しそう
俺だけならきっと花視て終わりだっただろうから
動き回るのに付いて回るの、愉しい
有難う、此方こそ、御前と花が視られて愉しかった
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
是清/f00473と
街を覆う桜とは、圧巻だ!
花弁を摘ままれれば、是清の桜を払い落として
はは、本当にきりがないな
まずは参拝か
神聖な気持ちにはなるが
作法はいまいち分からんのだよな
小銭が先で、ニレイニハクシュ…
…大人しく是清の真似をしよう
御神籤を見つけたら、軽く腕を引いて
折角だし引いていかないか?
こういうの、あると引きたくなるんだよなァ
結果は…年始よりは良いと苦笑を一つ
通りの店で桜の菓子を物色だ
満喫せねば勿体ない!
是清も、甘いものは平気だったよな?
色々買って、一緒に食おうな!
綺麗なものは、誰かと一緒に見たくなるが
一緒だとやりたいことが増えてしまう
連れ回してしまったな
付き合ってくれて、ありがとうな!
●道連
見上げれば、薄紅の空。
今にもしゃららと歌い出しそうな花房たちが、遥けき青を透かして地に柔らかな影を落とす。
「はぁ……聞いてはいたし、遠めに眺めてはいたが。これは圧巻だ!」
これぞまさに『街を覆う桜』とニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は頭上をそやし、散る一片を追いかけ――傍らの黒を彩る淡紅に気付くと、伍島・是清(骸の主・f00473)の髪を無造作に払う。
どうやら花弁がついていたらしい。
ニルズヘッグの所作の意味を悟った是清は、お礼とばかりにニルズヘッグの頭へ手を伸ばし、一片摘まんで「あ」と短く息を飲み、
「……きりがねェ、な」
ぼそりと呟く。
街を渡る風が、花を揺らす。その度に、はらはら、はらはら。是清の髪がまた一片くっつけたのに、是清の手が止まった理由を察したニルズヘッグは肩を竦めた。
「はは、本当にきりがないな」
微雨が如く降り止まぬ花弁は、儚くもあるが桜の景色に艶やかさを添えている。時折り吹く強い風は、薄紅のトンネルを作り上げ、そこへ踏み入り是清は「ああ」と感嘆を漏らす。
美しく、清らかで、素直に『綺麗』と言える世界であった。
そしてそれが最も極まる地は。
「神聖な気持ちにはなるが――」
「解るよ」
はぁ、と。少しばかり場慣れせぬ気配に、背筋を無駄に伸ばすニルズヘッグの、細く消える語尾に是清は「空気が凛とするからな」とうべない、足取りだけは元気な男に並んで歩く。
「そういや、参拝には作法とやらがあるのだよな? ほら、アレだ。ニレイニハクシュとか……いやその前に小銭か?」
辿り着いた一の桜の社。参拝客の列の後ろにつけ、ゆるゆる進みながら不安を漏らすニルズヘッグの横顔を是清は見上げ、落ち着けと言う代わりに肩を軽く叩いた。
作法は独自のものを有す神社もなきにしもあらずだが、前を眺める限り一般的なものなようだ。
「二礼二拍手一礼で善いらしい――小銭は先ね?」
ようやく至った自分たちの順番に、是清は「解る?」とニルズヘッグを仰ぎながら首を傾げ、大男の捨てられた子犬のような瞳に気付き、手本となるべくまずは小銭を賽銭箱へと投げ入れて。
続いて本坪鈴を鳴らし、腰から身体を折る礼を二度、それから柏手を二度。そのまま心の裡で願いを唱え、最後にもう一礼。
「…………」
なるほどそうすればいいのかと、薄目で是清の所作を確認しつつ、ニルズヘッグも何とか詣でる。
礼儀を尽くし終えれば、後は晴れて自由の身!
「花弁の紙に願いごとの方じゃなくていいの」
息を吹き返したかのように威勢を取り戻し、己の手を引くニルズヘッグの赴く先が、願いが叶うか否かの占いではなく、御神籤だと是清は気付いた。
「こういうのは、あると引きたくなるんだよなァ?」
言うが早いか、ニルズヘッグは桜色の装束に身を包んだ女の元へ是清を連れゆくと、初穂料とやらをお納めして、木箱の中へ手を突っ込んで――ぐい。
先ほどまでとは打って変わった豪快さに、今度は是清が倣う番。
さすがの一の桜のお宮様。御神籤まで桜の花弁型に畳んである。開くとこれまた桜の装い。
「──ニル、ニルは何だった?」
桜を透かす紙に記されたありがたい文言に是清は目を通し、何気なく問うと苦い笑顔。
「まぁ……年始よりは良い」
どうやらあまり芳しい結果ではなかったらしい。
しかし苦い物の後にこそ、甘さは際立つというもの。
「次は桜の菓子の物色だ。満喫せねば勿体ない」
「ニル、お前。行動派だなァ」
気分の切り替えの早いニルズヘッグの次なる一手に、是清は微かに口元上げ、
「是清も、甘い物は平気だったよな?」
「あァ。甘い物は好きだ」
笑みこそしないが、是の応えに嬉しさを滲ませる。
是清だけでこの街へ訪れたなら、きっと花を視るだけで終いであったろう。それがニルズヘッグと共にいるだけで、次から次へと視界は移ろい、触れるもの、感じるものが変わってゆく。
ただぐいぐいと歩く男の動きに付いて回るだけなのに、それがとても愉しい。
「色々買って、一緒に食おうな!」
綺麗なものも、美味いものも。誰かと分かち合う方が、豊かさを増す。無意識にそうと知るニルズヘッグは己の強引さを多少自覚しても、足も手も止めず。
「まずはあっちの餅屋へ行くとするか」
「わかった」
「その後は団子屋だ」
「――本当に食べ尽くすつもりだな?」
一頻り、腹を満たし。花も存分に愛で終えたなら。彼らは互いにこう言うだろう。
――付き合ってくれて、ありがとうな!
――有難う、此方こそ、御前と花が視られて愉しかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花剣・耀子
イドくん(f14583)と
最終的に斃せればそれで良い。
とはいえそれはそれとして、己の修行不足は腹立たしいのよ。
眉間に皺を寄せながらお餅を食べてお団子を食べて寒天を食べて、
今は綿菓子を手に漸く溜飲が下がった模様。
毀れた花片を積もらせたまま、桜を見上げながらお社へ。
さくらのはなびらの紙、一枚頂きましょうか。
イドくんもいる?
願い事はあるかしら。
筆の動きを見やり、息をひとつ。
あたしは、きみがそう在ることを肯定するけれど。
――でも。いつか、迷うようになってしまえば良いとも思うのよ。
ほんのすこし目を伏せて、常と変わらず淡とした声。
自分の紙には『息災』とだけ認めて筆を置く。
それじゃ、お伺いにいきましょう。
隠・イド
耀子様(f12822)と
今でも十分お強いとは思いますが、更にお強くなられるのでしたら、それも喜ばしいこと
応援いたしております
尤もそれは自分に対しても言えること
武器として、兵器として
その刃を研ぎ澄まさなければ、誰も好き好んで代償を支払ってまで自分に手は伸ばさないだろう
にこにこと耀子の後ろを歩きながら付き人をする
良いですね、頂きましょう
あまりこういった類の呪いは真に受けない事にしているが、それはそれ
私の願いなど決まっていますよ
『良き主人に巡り会えますように』
道具としての在り方
それは別に目の前の少女に限らずとも
誰だって構わぬのだ
はて、迷う…ですか?
言葉の真意は掴めずに
ええ、参りましょうか
と社へ向かう
●願い
「最終的に斃せればそれで良い」
熱々の餅にぱくんと齧り付き、んーと伸びるだけ伸ばすと、ぐぃっと首を捻って引き千切って、ごくん。
「良いのよ、えぇそうなの」
桜色の団子の串は、両手に一本ずつ。みたらし餡が垂れ落ちぬ間に、ぱくり、ぱくり。
「とはいえ、それはそれ、これはこれ」
まぁるい寒天は、丸呑みも出来なくはないサイズ――とはいえ、詰まってしまっては洒落にならないので、二口で喉の奥へ流し込み。
「己の修行不足は腹立たしいのよ」
そうしてようやく。桜色の綿菓子を手に、留飲を下げたらしい花剣・耀子(Tempest・f12822)は、眉間に深く刻んでしまった皺を、ゆるゆると指先マッサージで解す。
「私めは、今でも十分お強いと思っておりますよ」
そんな耀子へ桜の甘味を甲斐甲斐しく運び続けた隠・イド(Hermit・f14583)の言葉に嘘はない。
「更にお強くなられるのでしたら、それも喜ばしいこと」
嘘はないが、主が更なる高みを目指すと言うならば、使われる道具として異存は一切なく。緋毛氈の敷かれた縁台に座した耀子へ「応援いたしております」と恭しく頭を垂れ、「お次は如何致しましょう?」と新たな命を待つ。
「そうね……それじゃ、お社を参りましょうか」
立ち上がった主の頭に積もった花弁が、するりと黒い髪を滑り落ちる。
そこへまた新たに一片、そしてもう一片。毀れ続ける花弁は悪戯に耀子の頭に降り積もり、イドはそれを振り払うことなく主の後に付き従う。
果たしてイドにも思うことがないではない――耀子を主と仰ぐことではなく、耀子がより強くあらんとする姿勢の方――のだ。むしろ、道具たる己の方がより由々しき問題として捉えている。
武器として、兵器として。
その刃は常に研ぎ澄ませなければ、いったい誰が代償を支払ってまで自分に手を伸ばしてくれるというのだ。
されどそんな葛藤はおくびにも出さず、イドはにこにこと耀子の後ろを歩き、あれやこれやと付き人を満喫する。
「イドくんもいる?」
「良いですね、頂きましょう」
そうして辿り着いた一の桜のお膝元。さくらのはなびらを模す紙を、耀子は自分に一枚。そうしてイドへも一枚。受け取るイドは笑み顔のまま。あまりこういう類の呪いは、真に受けない事にしているけれど、耀子から下賜されたものならば話は別だ。
迷わず自分が差し出す用紙を受け取るイドへ、耀子はふと尋ねる。
「願い事はあるかしら?」
ごくごく普通の問いだった。
「私の願いなど決まっていますよ」
応えも端的。だがイドが書き連ねた文字に、耀子は細い息をひとつ。
『良き主人に巡り会えますように』
イドの『道具』としての在り方を、如実に表す願い。
彼は、道具。上手く使ってくれるなら、主は目の前の少女に限らずとも、誰であろうと構わぬのだ。
「……あたしは。きみがそう在ることを肯定するけど」
正しく道具たらんとするイドを、耀子は決して否定しない。
けれど。
「――でも。いつか、迷うようになってしまえば良いとも思うのよ」
ほんのすこし目を伏せて。常と変わらぬ平らな声で、淡と言い。耀子は己が手元の占う紙に『息災』とだけ短く認め筆を置いた。
「はて、迷う……ですか?」
耀子の言葉の真意を、イドは掴めない。しかし耀子に改めて告げる言葉はなく。
「それじゃ、お伺いにいきましょう」
何事もなかったように踵を返し、一の桜に願いの行く末を尋ねるべく水辺を目指して歩み出し。
「ええ、参りましょうか」
イドも倣って耀子の背を追う。
そのイドの顔に、既に先ほどの疑問の色はない。
果たしてイドが『迷い』を得る日が来るのか。それは耀子も、一の桜さえも知らぬ未来。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ等歓迎
リル
あたしを肯定する言葉
嬉しかった
桜の木を撫でリルに微笑む
あたしは不器用で術も不得手な出来損ない陰陽師
だからせめてと刀をとったの
敵を殺せば褒めて認めて貰えると思って
そのうちそれが楽しくなって
そうしてるうちにどんどん皆離れていって
家も追い出されて
殺し合いの中でしか生きてるって気がしなくなって
リルは怖がるかしら
何故か涙が零れ止まらない
リルに抱き締められて
誰かにそうされるのは初めてで
泣き笑い顔で抱き締め返す
顔も胸も熱いわ
馬鹿ねリル――ありがとう
あなたが愛おしくてたまらない
ええ
踊りましょ
剣舞以外のステップは下手くそで
笑われてしまいそう
ねぇ
歌って
とびきり甘い
恋の歌を
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
✼アドリブ等歓迎
「櫻宵、」
桜の下、儚く微笑む君はやっぱり綺麗
僕の櫻
語られる言葉に滲む哀しみに君の孤独を知った
桜の双眸から零れる桜雨
一雫を唇で受け止めて瞳に口付けを一つ落として抱きしめる
「櫻宵、頑張ったね。大丈夫、僕が見てる、そばにいる」
君がしりたい
もっとしりたい
ねぇ教えて
何だか照れくさくなり
僕のベールを櫻宵に被せ手を差し伸べる
約束通り踊ってあげる
僕は中々上手いんだ
君はダンスも下手なの?
なんて揶揄い笑う
けれどそんな君が好きで好きでたまらない
泡になったっていい
こんな気持ち初めてだ
そう
頑張った君にご褒美だ
でも歌う歌は決めてある
とびきり美しくて優しくて不器用な、一本の紅い櫻の歌だ
●初花
入り組んだ路地の果て。
街の空を覆う桜の枝の、その末が。地に立つ人の手にもようよう触れようかという陽だまりで。
誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)は花の重さに今にもぽきりと折れそうな細枝を、指先でそっと辿ると、
「リル、あたしを肯定する言葉……嬉しかった」
少し離れてゆらり佇むリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)へ微笑んだ。
「あたしは不器用で術も不得手な出来損ない陰陽師。だからせめてと刀をとったの」
語調は常通り。だのに今の櫻宵は桜吹雪に攫われていってしまいそうで、リルは引き留めるよう「櫻宵、」と名を呼ぶ。
しかし櫻宵は応えず、ただただ笑みを深める。
「敵を殺せば褒めて認めて貰えると思ったの」
風が吹いた。
「でも、そのうちそれが楽しくなって」
木龍の、髪が揺れる。散り際の桜の如き風情は、ただただ儚く美しく。リルは感嘆の息をほぅと吐く。
――僕の、櫻。
「そうしてるうちにどんどん皆離れていって」
――僕の、櫻。
「家も追い出されて」
――僕の、櫻。
「殺し合いの中でしか生きてるって気がしなくなって」
――櫻宵は、僕の櫻だ。
幾度も幾度も胸裡で繰り返し、リルは揺らぐ月光ヴェールの尾鰭ですいと泳いだ。
「……リ、」
「櫻宵、頑張ったね」
きっと櫻宵自身、泣き濡れているのに気付いていなかったのだろう。肩に華奢な腕がかけられたかと思うと、頬に寄せられた唇に桜の双眸を見開く。
「大丈夫、僕が見てる」
リルも怖がるだろうかと櫻宵は怯えていた。
しかしそうではなかった。
「僕が、そばにいる」
零れ続ける桜雨を掬った唇で、リルは櫻宵の瞳に口付けをひとつ落とし、全身で櫻宵を抱きしめた。
櫻宵の口から語られた『過去』で、音の端々に滲む悲哀で、リルは櫻宵の孤独を知った。
でも、櫻宵は一人じゃない。櫻宵には僕がいる。
――君がしりたい。
――もっとしりたい。
――ねぇ、教えて。
耳朶に吹いた春風に、櫻宵の魂が震えた。誰かに抱き締められたのも、初めてだった。
「馬鹿ね、リル」
涙はまだ止まらない。けれど自然と笑むことが出来て――その笑みは、先程までの自嘲めいたそれではない――、櫻宵はリルの背へ腕を回す。
「――ありがとう」
顔も、胸も熱かった。
リルを愛おしいという想いが溢れて、世界中を満たしていくようだった。
だが、抱き締め返されたことでリルの幼さが顔を出す。
「さ、櫻宵」
まだ十と六だ。感動より照れくささが勝つ程度には、リルは青い。でも、青いからこそ怯まない。
「約束通り、踊ってあげる」
自らが纏うヴェールを櫻宵へ被せ、抱擁を解いた少年は櫻宵へ両手を伸ばす。
「僕は中々上手いんだ。君はダンスも下手なの?」
煽る揶揄に櫻宵は口元を綻ばせ、櫻宵は自身を欲する手を取った。
「ええ、踊りましょ。言っておくけど、剣舞以外のステップは自信ないわよ?」
「構わないよ」
笑われてしまうかしら? なんて櫻宵の懸念を、リルの巧みなリードが払拭する。
櫻宵が笑う。
リルと踊って、朗らかに笑う。
涙を忘れて、笑っている。
――ああ。
そんな櫻宵をリルは、好きで好きでたまらないと思った。
泡になったっていいとさえ、思った。こんな気持ちになったのは、初めてだった。
「ねぇ、歌って。とびきり甘い、恋の歌を」
櫻宵に強請られ、リルはふわりと笑顔の花を咲かす。
「頑張った君にご褒美だ。でも、歌う歌は決めてある」
それはとびきり美しくて優しくて不器用な、一本の紅い櫻の歌。
変わらず舞い降る桜と櫻宵と踊りながら、リルは想いを銀細工の歌声に乗せて響かせる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
迎・青
(他の猟兵との絡み・アドリブ歓迎です)
キレイな桜に、キレイなお菓子、見て回るだけで楽しくて
人や桜を守れたことも、みんな楽しそうなのも嬉しくて
戦いの緊張が解けたのもあってはしゃいでしまう
…でも、ボク、やらないといけないことがあるんだよぅ
おかしもお花見も、あとでね!
花弁型の用紙に「双子の姉」に会えますようにと願いを書いて、【祈り】をこめて流す
流れる先を眺めているが、戦闘の疲れもあってその場で居眠り
(「双子の姉」はペアの首飾りの片割れ。ヤドリガミになっているかも不明)
「…ボク、ちゃんとみつけるから…がんばる、よぅ」
●祈念
幼く小柄な迎・青(アオイトリ・f01507)は、今にも人波に飲まれてしまいそう。
あうあう、と戸惑う姿が気にかかったのか、ウトラは竜の翼で青の元へひらりと舞い降りると、「いっしょにいく?」と手を繋いだ。
子供ふたり。
けれど一人よりは心強い。
生まれた余裕が、青の心を解し。戦いの余韻である緊張の欠片までを遠くへ追いやり、心を桜や街並へ解き放つ。
青から見ると、はるか頭上。たわわに揺れる花房は、まるで甘く色づく綿菓子だ。そして気紛れに露店へ視線を移すと、思い浮かんだ通りの綿菓子が売られている。
同じくらいの年頃の子供が親の袖を引き綿菓子を強請っている様に、青はくふりと頬を緩ませた。
だってだって。この賑わいと皆の笑顔は。猟兵たちが街と一の桜を守れたからだ。
そう思うと誇らしくて、嬉しくて。
気弱な子供の顔も、興奮と歓喜に赤らんでゆく。
「さくらはね、お舟の上でみるのがいちばんきれいそうよ」
「そうなんだ」
「それからね。お団子、とってもおいしかったの」
「ボクも食べたい!」
ウトラのあれよこれよな話に、青は瞳をきらきらと輝かせる。
キレイな桜に、キレイなお菓子。
眺めて歩くだけで、きっと一日が終わってしまうだろう。
しかし――。
「……あうあう。ボク、やらないといけないことがあるんだよぅ」
「そうなの?」
「うん。一の桜さんに、きかなきゃいけないことがあるんだぁ」
「そうなんだ!」
じゃあ、つれていってあげるね、と。ウトラは青の手をぐいぐい引っ張り、迷子にならぬよう白い鳥居まで案内を終えると、「またね!」と小さな背中を送り出す。
そう、お菓子もお花見も、またあとで。
あっという間に飛んで行った少女を見送り終えると、青は桜の用紙の元へ急いだ。
一の桜は、願いが叶うかどうか教えてくれると聞いてから、青にはどうしても尋ねたいことがあったのだ。
――『双子の姉』に会えますように。
書き上げた願いを、青は足早に湖の縁へ向かい、そっとそっと祈りを込めて水面へ浮かべた。
脳裏に描く顔には靄がかかる。なぜなら青はヤドリガミ。双子の姉は、揃いの首飾りの片割れ。命が宿ったかも、分からない。
だのに青は、惑いのない瞳で桜紙の様子をじぃっと見守り――。
「……くぅ」
水辺で膝を抱えたまま、うつらうつらと船を漕ぎ始める。
戦いの疲れもあっただろう。けれどそれ以上に、願掛けを達成した解放感が大きかったのだ。
「……ボク、ちゃんとみつけるから……がんばる、よぅ」
一の桜の見立ては如何に?
良い結果であろうとなかろうと。青は双子の姉を探し続けるだろう。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
団子と金平糖を買い、座敷を借りて花見をさせて頂きましょう
この地も無事に春を迎えられたのです
此処の美しい桜を楽しまなくては
何年経とうとも、桜の美しさには目を奪われます
そして花を愛でる者や活気溢れるままに商いをする者
変わらぬ人の営みでありながら、その些細な平和が愛おしい
彼等の為ならば、私は喜んで戦いに身を投じられる
……それでも今は穏やかな一時を過ごしたい
桜を愛でながら、甘味を楽しむくらいは悪い事ではないでしょう
もう暫し、もう暫し
この賑やかな街が眠り始める、その時までは
●平穏
障子窓の桟は、座した月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)が肘を預けるのにちょうど良い高さ。
頬杖をつくのは行儀が悪いでしょうか?
そんな逡巡は一瞬。借りた座敷は夜彦一人。しかも花の枝は目の前に。こんな春うららな特等席で肩ひじを張る必要もあるまい。
買い求めた団子と金平糖を、桜があしらわれた漆塗りの丸盆に乗せ、夜彦はゆるりとした時間を過ごす。
鈴なりの花の下は、人も鈴なり。
穏やかに降り注ぐ陽光も、片側に寄せた二枚の障子を経て、ちょうど良いくらいの眩しさだ。
「この地も無事に春を迎えられたのですね」
知らず口から洩れた安堵も、柔らかく春めく。
咲き誇る薄紅たちは、廻る季節の度に夜彦に新鮮な感動をくれる。
どれだけ長い年月を経ようとも、どうしたって桜の美しさには目を奪われてしまう。
――夜彦が人でなかった頃から。一人の女の元で見上げていた頃から、ずっと、ずっと。
同時に、春を迎え賑わう人の営みもまた夜彦は愛おしい。
花を見上げて顔を輝かせる者。陽気に飲んで頬を桜色に染める者。それらを相手に、商いに精を出す者。
時代が変わろうとも、人の在り様は大差ない。だからこそ、夜彦はそこに人の平穏を視る。
泰平の世は、きっかけ一つで脆く崩れてしまう。
故に、他者の目には些細な平和に映るやもしれぬ事であろうと、夜彦は全力を傾けられる。守る為にならば、喜んで戦いに身を投じられる。
「……とは言え、ですね」
ほぅ、と。
今度は少し間延びした息が、夜彦の口からするりと漏れた。
足は崩して久しく、懐紙の上に転がる金平糖をつまむ手つきも緩慢だ。
穏やかな日和、桜も満開。
――今は。ゆるりとした一時を過ごしたい。
桜を愛でながら、甘味を楽しむくらい、悪い事ではあるまい。
「もう暫し、」
もう暫し。
この賑やかな街が眠り始める、その時までは。
ぼんやりと窓の外へ視線を遣る夜彦の髪に、気紛れな風に飛ばされた花弁が、静かに静かに降り積もってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
僕の医術なんてのはあくまで応急処置の域を出ない、命繋ぐ為だけのその場凌ぎに過ぎなくて。
要するに。
痛いキツいシンドイ訳ですね、そりゃあもうとても!
こんな事態で無かったなら、花見で一杯てのもオツだったんですけど…
花の彩には似ても似つかぬ紅の色など、やっぱり、無粋でしょうし。
今日ばかりは、花が見えて人の往来が少なくて、序でに背凭れでもあれば最高なんですが。
こんな場所ででも、ウトラにまた会えたなら。
「おじさん、頑張りました。ほめてほめて~」
なんて軽口を飛ばしてみたりして。
…うん、冗句ですよ?ご褒美が欲しいのも事実ではありますが!
傭兵稼業と猟兵稼業…勝手も報酬もそれぞれで。
人に花。
これはこれで、悪くない
●泰平
人の目がないのを良い事に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は大人げなく「ぶぅ」と頬を膨らませる。
せっかくの桜だ。しかも満開と来た。ならば花見で一杯、と洒落込んでこそ粋な――別に粋だろうがなかろうがクロトはどうでもいいだろうが――大人というものだろう。
実際クロトも、そうするつもりだった。
湖に浮かぶ舟で杯を傾ければ、さぞや心地よかったろう。
されど今のクロトは――。
「僕の医術なんてのは、あくまで応急処置の域を出ないわけで」
ふらりふらりと街を彷徨い、ようやく見つけた空き地。
「せいぜい、命を繋ぐ為のその場凌ぎに過ぎないんです」
建っていた家は取り壊されたばかりなのだろう。残る基礎は背を預けるに丁度よく。序にお隣さんの屋根の縁から桜も拝めるという好条件。
他を当たるという考えはクロトになかった。というより、その余裕がもうなかった。
強張る全身からどっと力を抜き、座るというよりへたり込む勢いで、クロトは『暫定一位』のポジションに己が身を投げ出した。
それほどに、戦の余韻は尾を引いていた。
むしろ人様に頼らず動けるだけで幸い。
つまり、全身が痛いのだ。キツいのだ。シンドイのだ。
決して年齢のせいじゃない。純粋に、被ったダメージのせい。そりゃあ、死にかけたのだ。当然と言えば、当然の結果だろう。
しかし誰かにあたるつもりも、現状を詰るつもりもない男は、せいぜいの愚痴をぶちぶち零し、人知れず桜を見上げる。
「ま、花の彩には似ても似つかぬ紅の色など、やっぱり無粋でしょうし」
鬼のような武者とサシでやりあった事に後悔はない。ただボロボロになった姿を人目に晒し、賑わいに水を差すのは気が引けた。
別に酒などなくても構いやしない。
人の輪に加われなくても、どうでもいい。
とは言え。
「おじさん、頑張りました。ほめてほめて~」
空中散歩で桜を眺めているのだろうウトラが視界に入ったものだから、声をかけてしまった。
「!?」
つい、の程度の、あくまで冗句。
されど聞きつけたウトラの反応は顕著。ぽやぽや桜色だった頬を遠目にも青褪めさせた少女は、そのままぴゃっと飛び去ってしまった。
「えー……」
血の痕を残し、諸所がほつれた衣を見遣って、クロトは「んー」とため息を吐く。
果たして、そんなに不審者ちっくであったろうか。
これで一応、彼女に送り出された猟兵なのだが。
オブリビオンにぼこぼこにされた以上の衝撃がクロトを襲う――けれどもそれは杞憂。
「おじちゃん、だいじょうぶ? いたいの? おなかもすいてる? あのね、これとってもおいしかったの! たべたらきっと元気がでるよ」
弾丸の勢いで舞い戻った少女は、髪に桜の花弁を山盛り飾り、団子に餅に、寒天、綿菓子にと急ぎ買い込ん甘味たちをクロトへ差し出した。
「い、いいのですか?」
「うん! おじちゃんがんばってくれたんでしょう? だからこれは……そう、ごほうびなの!」
確かにご褒美が欲しかったのは事実だが、まさかの展開にクロトは幾度か瞬き、ウトラの髪の花弁を払いのけてやる。
刹那、そこにだけ小さく桜吹雪。
「ではお言葉に甘えて。折角です、一緒に如何です?」
「いいの?」
傭兵家業と猟兵稼業。
勝手も報酬もそれぞれなれど。
人に花。
これはこれで、悪くない。
「おじちゃん、傷はもうへいき? おくすり買ってくる?」
自分で名乗っておきながら、「おじちゃん」と呼ばれる事には、先程までとは違う意味で胸が痛みもしたが……?
大成功
🔵🔵🔵
ネグル・ギュネス
千桜・エリシャ(f02565)と参加
戦は終わり、雅は残る。
さて全て無事だったし、私の役目は終わ───とと!
女将、引っ張るな、わかった、行く、行くから
共に白い鳥居のある社に向かう
途中、咲き誇る桜を愛で楽しみながら、半歩後ろをついて
願いを叶えるという用紙か
願いを神に告げる、…墨?
女将、どうやれば良いのだこれは?
あと願いと言っても、私はどうにも…むぅ
とりあえず、皆が五体満足健康であるようにとでもするか?サイボーグだが
そして文字が残るにせよ、消えるにせよ
私が守るから、問題ないとしておくか。
…呼び名?
別に、意味はないさ。
公衆の面前だから、従者を気取っただけだよ、エリシャ。
千桜・エリシャ
ネグルさん(f00099)と
私たちが守ったこの桜を満喫しませんと
宿で年中見れる桜もいいですけれど、ここの桜も美しいですわね
――でも、あんまりネグルさんが桜に夢中だと少し面白くないような…
桜はここにもおりますのよ?なんて、ね
手を引っ張ってお願いごとをしに行きますわ
あら、ネグルさんは初めて?
これは神様との約束であって、決して神頼みではありませんのよ
つまり神の御前で誓いを立てる――ということですの
私は『まだ見ぬ強敵とも渡り合えるよう、もっと強くなれますように』
としておきましょう
ええ、強くなるための誓いですわ
――そういえば
この間は名前で呼んでくださったのに、女将呼びに戻ってますわね
どうしてかしら?
●並歩
「ネ・グ・ル・さ・ん?」
一音一音、刻んで千桜・エリシャ(春宵・f02565)はネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)の名を呼ぶ。
終えた無粋な仕事。となれば、これより以降は無礼講。見事に守り抜いた一の桜を、ようやく心置きなく満喫できるというのに――だ。
――ネグルさん?
最初はいつも通りの声音で、傍らへ。
――ネグルさん?
ところが『居る』と思った男は其処へ居らず。視線を周囲へ廻らせると、つい先ほどまでいた場所にネグルは立ち尽くしていた。
どうやらエリシャは一人で、露店が軒を連ねる界隈を歩み進めてしまったらしい。
そして立ち止まった儘の男の瞳は、エリシャからは『一の桜』に夢中になっているように見えた。
エリシャが営む宿にては、通年で愛でられる桜は実に佳きもの。しかしこの『一の桜』も確かに、美しい――と、エリシャも感動を覚えたりもしたけれど。
どうしてだろう、ネグルの視線を独り占めされていると、胸に何かが閊えたような気分になる。率直に言うと、面白くない……ような、そんな感じ。
『気持ち』の出処はエリシャにも分からない。けれどこのままにしておけなくて、桜鬼の少女は元来た道を駆け戻り、男の名前をやや強めに呼ぶと、
「桜はここにもおりますのよ?」
と鈴を転がす音色で茶目っ気を発揮し、さぁさ「お願い事をしに行きますわ」とネグルの腕を引く。
「お、女将っ!?」
然して肝心の男は只の野暮天。桜に魂奪われていたのではなく、仕事を成し遂げた満足に浸っていただけ。
戦は終わり、雅は残る。己の役目は終わったと、そんな心地でいただけなのだ。
「とと、引っ張るな。わかった、行く、行くから」
だからどうしてエリシャが自らの手を引きゆくのかいまいちわからず、さりとて振りほどく理由も皆無なので、ネグルはエリシャの導きに身を委ねる。
果たして向かった先は、白い鳥居。一の桜の御許。途中、ネグルはようやく咲き誇る桜を楽しむことを思い出し、花を見上げては歩を弛め。都度、エリシャに引っ張られることになったのはご愛敬。
「願いを叶えるという用紙か?」
参道を進む頃にはエリシャの意を察した男は、女将と呼ぶ少女の半歩後ろを行っていた。
「願いを神に告げる、……墨?」
されど目的地へいざ辿り着くと、見慣れぬ道具に知らぬ作法ばかりでネグルの思考回路は疑問で埋め尽くされる。
「女将、どうやれば良いのだこれは?」
紙と筆を手に求められた助けに、エリシャは口元に穏やかな花をゆるりと咲かす。
「あら、ネグルさんは初めて?」
文化に通じる少女は、鋼の男へ語る。
これはあくまで『神様との約束』であって、決して神頼みではないのだと。つまり神の御前で誓いを立てるということなのだと。
「なるほど、誓いか――」
慣わしの意味は得心いった。だがそこでまたネグルは問題にぶち当たる。
誓い、願い。何れも自分にはどうにも、こう……似つかわしくないというか、毛色違いというか、何というか。
微妙に据わりの悪い心地を抱えつつも、せっかくだからとネグルは思案し。とりあえず、の答に辿り着く。
『皆が五体満足健康であるように』
「……」
サイボーグである自分が願うことなのだろうか、という一抹の不安のような躊躇のようなものがネグルの頭を掠めて過る。が、にこにこと楽しそうにエリシャが達筆で書き上げた『誓い』に目も心も奪われた。
『まだ見ぬ強敵とも渡り合えるよう、もっと強くなれますように』
「……」
エリシャらしいと言えば、エリシャらしいのだろう。きっとより高みを、強ささを目指す為の誓いだ。
さりとて幾ら強くても、エリシャはエリシャ。花も恥じらう麗しき乙女。
(「――私が守るから、問題ないということにしておくか」)
一の桜が何れを占うも、そこに尽きれば結果は同じとネグルはエリシャに悟られぬよう、我が裡に誓いを立てる。
はらはらと、淡く色づかせた花弁を祝福のように降らせながら、一の桜はエリシャとネグルをどのように見ているのだろう?
四方へ伸ばしに伸ばした枝で、咲かせた花で。二人の声をどう聞くのだろう?
「そういえば」
桜の紙を手に水辺を目指しながら、エリシャはふと思い出した事を桜色の唇に乗せる。
「この間は名前で呼んでくださったのに、女将呼びに戻ってますわね」
――どうしてかしら?
半歩前をゆく少女に振り仰がれて、ネグルは年相応の男の貌でエリシャを見返す。
「……呼び名?」
別に、意味などないとネグルはさらりと告げ。
「公衆の面前だから、従者を気取っただけだよ、エリシャ」
半歩の距離を縮めると、ネグルはエリシャの隣を並び歩く。
大成功
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葦野・詞波
【発破】
舟で穴場を捜し求めて湖へと
お疲れ様の言葉を掛けたなら
これくらいは、と清酒を二人の杯に注いで
綾にはその掩護の腕と視野の広さを
ユルグにはその胆力と首を断った一撃を
労い回り、揃ったならば乾杯
肴の山には驚きながらも舌鼓打ち
花に見惚れるよりも
酒と肴に見惚れてしまうなと冗句を零す
団子を受け取ればその蜜の香りを堪能し
三連の喩えには首肯して
再び共に戦いたいものだ、と咲み
長閑な景色には安堵を零して杯を傾け
散った花びらの舞う様を眺めては
気まぐれに手で受け止めてみるも
しばらくしたらそっと還るようにと
湖に桜流し
改めての乾杯には眦もよりやわく緩み
――また、酌み交そう。乾杯。
ユルグ・オルド
【発破】湖で
湖に浮かんで盃にも水面と
今なら世界を手にした気分
気遣いに目細め杯も返そう
そんじゃ紡いだ縁と、早咲きの桜に、乾杯
大勝利、と笑って口をづければ
花霞のよに広がる香りも華やかで
ああ、見立て通りの良い酒だ
そうして舟にも広がる花畑
差し出された団子には待ってましたとばかりに
三つ揃えば最強だと、言うが早いが消えるんだけども
緩やかに流れんのも満ちる春も、共に味わえる贅沢さ
春の光に交わす暖かさに、微睡む心地は酔ったよう
手伸べる所作を見送って其々に留まる一片に笑う
二人と繋いだ一時の縁が果たしても楽しいんだから僥倖と
何度交わしたっていいさ
ひとひら、杯に落ちた春ごと掲ぐ
次を願える贅沢に
――乾杯、
都槻・綾
【発破】舟で湖へ
其々の器を満たす瑞々しき甘露
澄み渡る清酒
音頭に合わせて
共闘の労いと祝勝の乾杯
口に含めば芳醇な米の香りに包まれる
さぁさぁ
頂きましょうか
満開の笑顔を咲かせつつ待ち兼ねた様子で広げたのは
街で調達した桜尽くしの肴の山
健啖家振りが覗く朗らかな聲で
我らにお誂え向きの三連のみたらし団子を二人へ差し出す
穏やかで長閑
気のおけぬひと時の何と温かなこと
舞う花弁を一片
地に落ちる前に掴むと願いが叶うという伝えを
ふと思い出し
陽に煌く花に掌を差し出すけれど
吐息のような笑みを零して、手を下ろす
まじないに頼むのではなく
私は自ら掴みに行きたい
二人との縁を此れから先も紡いでいく為に
改めて盃を掲げる
――よすがに、乾杯
●妙なる
舟を操る船頭の腕は確からしい。
湖面を静かに滑る舟は、揺らぎのような波だけ残して進み、戦いが縁を結んだ三人を薄紅の異界へ誘う。
「お疲れ様だ」
年長者である葦野・詞波(赤頭巾・f09892)が、都槻・綾(夜宵の森・f01786)、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の順に彼らが手にした盃へ清酒を傾ける。
「綾の掩護の腕と視野の広さには恐れ入った」
詞波の労いを綾は笑みで受け止め、とくとくとくと満ちていく瑞々しい甘露を眺め遣る。
時折り、つるりと滑り出て来る花弁は、酒を樽から瓶へ移す際に仕込んだものだろう。 頭上から降り来るそれより、紅の濃さが増している。
「ユルグの胆力と首を断った一撃は、実に見事だった」
「皆のお陰だ。ありがとう」
事実、一人では成し得なかった一撃だ。賛辞に目を細め礼を返したユルグは、こちらもとばかりに徳利を詞波から譲り受け、彼女の盃を満たし返す。
湖と、盃と。二つの凪いだ水面。花弁が浮くのも、揃いだ。
何やら世界を手にした気分とユルグは嘯き、くっと盃を掲げ。
「そんじゃあ紡いだ縁と、一の桜と、大勝利に――乾杯」
「「乾杯」」
揃いの唱和は、舟上での宴の始まり。
ぐぐっと煽った酒は、口いっぱいに花霞を思わす華やかな香りを広げる。
「ああ、見立て通りの良い酒だ」
ユルグの評に、綾も是を頷く。つるりと胃まで落ちた酒は、全身を芳醇な米の香りで包むようでもあり。このまま幾らでも杯を重ねてしまえそうだった。
が、その実、健啖家でもある綾の本命は酒より甘味。
「さぁさぁ、頂きましょうか」
急かす風でこそないものの、きらきらしい満面の笑顔は、待ちかねた子供のよう。その視線は、舟の真ん中。三人で囲う位置に盛られに盛られた甘味の山だ。
あるだけ全部、買い込んで来たのだろう。
おそらく舟に運び込む時に船頭も驚いたに違いない。だが綾――ひいては詞波もユルグも怯みはしない。
美味い酒には、沢山の肴が必要だ。それらを尽く堪能するだけの時間も十二分にある。
「まずはこれから如何でしょう?」
我らにお誂え向きではありませんか? と聲を朗らかに弾ませる綾から受け取る三連の団子に、「三つ揃えば最強だ」と頷くや否や、ユルグは遠慮なく齧り付く。
煮詰めたみたらし餡は、少し固めで。されど舌に乗った途端、するりと溶けて桜色の団子に絡み、得も言われぬ味わいと食感で楽しませてくれる。
「これは……花に見惚れるよりも、酒と肴に見惚れてしまうな」
はぁ、美味いと。感嘆の後に詞波が続けた冗句に、綾もユルグもしたり顔で頷く。
そんな男二人を前に、詞波はニヤリとユルグの喩えを繰り返した。
「確かに、三つ揃えば最強だったな。ぜひ、再び共に戦いたいものだ」
〆の笑顔は花咲くように。無論、男たちに否やはない。
良い戦いであったと振り返られる。同時に、好い輩に恵まれたと胸を張れる。
少しばかり不思議な気がしないでないが、共に過ごす時間は心地よい。贅沢だとさえ思え、春の光に交わる暖かさも手伝い、ユルグは微睡むが如く酔い痴れる――酒にではなく、この長閑な時間そのものに。
穏やかであった。
気のおけない一時でもあった。
風に吹かれて水面に落ちる花弁だけが、時を刻む。
ふと、詞波はその散り来る薄紅へ、盃を傾けていない方の手を伸べた。ひらり、舞い落ちてきた一片は偶然。されどそこに必然を見出した女は、しばしの邂逅を楽しんだ後に花弁を水面へそっと乗せる。
他の仲間の元へ還すよう、桜流し。
詞波の一連の所作に、綾は「そういえば」と一つの伝えを思い出す。
「地に落ちる前に、舞う花弁を一片掴まえられたら。願いが叶うらしいですよ」
そう口に出し、綾は陽と花の煌めきへ掌をかざす――も、吐息のような笑みを零すと、手を下ろした。
「いいのか?」
てっきり花弁を掴まえるのだと思った綾の移ろいに、ユルグは首を傾げる。それに対する綾の応えの声は、和やかでありながら一本の芯を真ん中にすっと通していた。
「えぇ。まじないに頼むのではなく、私は自ら掴みに行きたい性質ですので」
――お二人との、この先まで続く縁を。
嗚呼、なんと温かな願いだろう。裡に苛烈を秘めた、強き願いだろう。
「それは確かに。僥倖なこの縁、途絶えさせるのは惜しい」
二人と繋いだ一時の縁の楽しさを振り返り、噛み締めて、ユルグも笑む。
「では、改めてもう一度?」
いつの間にか空になっていた盃を掲げる綾の仕草に、詞波は眦をよりやわく弛め、再びの酒で満たす。詞波の盃も、ユルグが抜かりなく。
「――また、酌み交そう。乾杯」
音頭は詞波がとった。
「――乾杯、」
ユルグは重ね、締めを綾へと託し。委ねられた綾は、ご照覧あれと縁繋いだ一の桜へ盃を高々とかざし。
「――よすがに、乾杯」
縁は潰えぬ。
例え肴の甘味や酒が尽きようと。舟上での宴が終わろうとも。
紡いだ者たちが、続くことを望む限り。
大成功
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グリツィーニエ・オプファー
おやおや
戦の際も美しい彩と思っておりましたが
間近で見る薄紅は、目覚める様な美しさで御座いますね
ハンスもそう思いませんか?
あまり人が多い場所には慣れておりませぬ故
ゆらり、揺られる舟の上
ハンスと花を仰ぎ、静かに心奪われましょう
いつもは元気な肩の上の相棒も今ばかりは花の美の虜になっている様子…ええ、良き事です
戦の熱を忘れる風に乗る馨しい花の香
見上げる先には枝一杯に咲く花々
見下ろす湖面には零れ落ちた花弁が浮かんでおりましょう
…何でも桜は咲き誇ると直ぐに散ってしまうのだとか
これ程美しい姿が直ぐに見られぬ様になるのは寂しく御座いますが…
だからこそ、人々の心を惹いて止まぬのでしょう
それを実感した気が致します
●羽搏
ゆらりゆらりと舟の上。
ゆりかごに揺られるような微睡みに身を浸し、グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)はゆるりと桜を振り仰ぐ。
「おやおや。戦の際も美しい彩だと思っておりましたが」
遠目に薄紅の雲のようであったそれは、間近で頭上を覆う天そのものとなった。
そして目覚めるように美しい。
「ハンスもそう思いませんか?」
肩へ問いかけても、返事はなかった。
いつもは元気な鴉――精霊も、今ばかりは夢見心地で桜の虜。カァと短く鳴くことさえなく、円らな瞳で花を見上げている。
ハンスの目にこの光景はどのように映っているのだろう? 自分と同じように見えているのだろうか。それとも体が小さいだけ、もっと圧倒されているのだろうか。
微動だにしない姿はよく出来た彫像のようでもあるが、そう心を向けられるのも『良き事』だとグリツィーニエは目元を和らげた。
気の利く船頭は、風景にすっかり同化して、気配を完全に消している。
あまり人の多い場所には慣れていないとグリツィーニエが乗船間際に伝えたからだろう。その上で、他の舟がいない場所へとグリツィーニエとハンスを誘う。
其処は水際から随分と離れていた。
花天井も疎ら。けれど撓った枝は、湖面の近くまで花房を垂らしている。
そよと吹き渡った湿度を帯びた風に、馨しい花の香が添う。
戦の熱を忘れさせるそれに、グリツィーニエはハンスを肩に乗せたまま、僅かに体を揺らした。
心地よい。全身が、今にも世界へ溶けてしまいそう。
視線をついと上へ遣れば、毀れんばかりの花々。下へと遣れば、零れた花弁がゆらゆら漂う。
――だが。
「何でも、桜は咲き誇ると直ぐに散ってしまうのでしたか」
伝え聞いた話を反芻し、グリツィーニエは秀麗な貌を曇らす。
これほど美しい姿が、直ぐに見られなくなってしまうのは寂しいこと。
叶うなら、ずっとずっと。人々の営みと共にあれば良いのに。
果てしない望みを描きかけ、グリツィーニエは思い直す。
「いえ。だからこそ、人々の心を惹いて止まぬのでしょう」
長く留まらぬ故にこそ、一瞬はより鮮やかに目に、心に焼き付き。今一度を求めて、人は季節を巡る。
希望の春が待つから、厳しい冬も乗り越えられるのだ。
「桜は好きもので御座いますね」
実感を込めてグリツィーニエが小さく漏らすと、「その通り」とでも言うようにハンスが大きく羽ばたいた。
鬼は去り、春は進む。
今年はどんな年になるのだろう?
巡らす想いは様々に。
きっとその何れも一の桜は見守っている。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年03月14日
宿敵
『武を極める者『武蔵坊弁慶』』
を撃破!
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