●待ちぼうけ
「まだかなぁ……。来ないなぁ」
とある山の麓の河辺で大きな絵筆を美しい娘の姿をした化け狐がじーっと、川の向こうに存在する村を眺めていた。
「早く絵の続き……描きたいなぁ」
化け狐の手元にあるキャンパスには書きかけの少年の絵。
化け狐は絵のモデルとなった少年が帰ってくるのをずっと待っているのだった。
●グリモアベース
「今のはUDCアースの昔の光景です」
手元のグリモアで光景を投影していたグリモア猟兵、ムゲン・ワールド(愛に生きたナイトメア適合者・f36307)は言う。
「大前提として、過去にUDCアースに存在していた妖怪達は、みなカクリヨファンタズムに移動したはずでした」
UDCアースにおける妖怪。それは、人間に向けられた恐れや喜びなどの感情を食糧として生きる種族だった。だが、人間は文明の発達と共に、妖怪の姿が見えなくなってしまい、妖怪は飢餓による絶滅の危機に陥ってしまった。そこで妖怪はUDCアースに隣接するUDCアースと骸の海の狭間にある世界、カクリヨファンタズムに逃げ込み、生活している、はずなのだが。
「どうやら、過去にした約束を守るため、UDCアースに残る選択をした妖怪が残っているようです」
今回ムゲンが予知した妖怪もその一人、ということのようだ。
「今回の妖怪『|稲絵《いなえ》』には、とても仲の良い幼馴染のような少年がいたようです。お絵描きが趣味なので、絵を描いて遊んでいたようですね」
ところがある日、少年は親の都合で、都会に引っ越すことになったという。
「少年は彼女に約束をしたようです。必ず帰ってくるから、その時に絵を完成させてほしい、と」
だが、その約束は叶わなかった。
少年は結局、彼女の元へ戻る事が叶わなかった。
ムゲンが依頼してUDC組織に調べてもらったところ、この村へ帰る途中と道で崖崩れにあって死亡しているようだ。
「それ以来、彼女はいつまでも少年の帰りを待っているとのことです」
これだけなら単に哀れな話、で終わる。では何が問題なのか。
「人間からの感情なしで生きられない妖怪が、どうやってカクリヨファンタズムにも行かずにUDCアースで生きながらえているのか。どうやら、彼女はUDC怪物を食べて生きながらえているようなんです」
UDC怪物。UDCアースにおけるオブリビオンの呼称である。つまり、彼女はオブリビオンを食って生きているのだ。
「そして、彼女は今、カクリヨファンタズムでいうところの「骸魂に飲み込まれた」状態にあります」
骸魂はカクリヨファンタズムにおけるオブリビオンのことだ。妖怪に飲み込み暴走させる特徴を持つ。
要するに、彼女は今、どんどん暴走しつつあるのだ。
「このままでは彼女は約束のことも忘れ、ただ暴れるだけの怪異になってしまいます。その前に彼女を救わなくては」
そう言うと、ムゲンは再びグリモアを操作し、その手順を空中に映し出す。
「まずは、彼女が食事のために放っている「UDC怪物を誘う妖気」に誘い出されたUDC怪物を倒してください」
敵は蝋燭人間。ムゲンは敵の資料をグリモア空中に投影して猟兵達に説明した。
「そうすると、食事の邪魔をされたと理解した彼女が姿を現すはずです。ですが、私の予知によれば到着した時点で彼女の自我はほとんど残っていません。よく似た別の……『竜田』と呼ばれる妖怪のように振る舞っているようです」
ムゲンは『竜田』の資料をグリモアで空中に投影して猟兵達に説明した。
「骸魂と戦う時と同様に、倒せば元に戻るようです」
それから、とムゲンは補足する。
「元の自我もまだ僅かに残っているようですから、約束について声をかけたりしてみると、二つの自我が葛藤を起こして隙を狙えるかもしれません」
相手は長い間UDCアースにとどまり続けた「極めて強力な妖怪」。むしろそうしなければ勝てない可能性は高い。
「それが終わったら、妖怪さんと一緒にカクリヨファンタズムに渡る宴をしてください。彼女は狐達と一緒に宴をすることを望んでいるようなので、狐が出ることで有名なドッグランを予約しておいたので、そこでみんなで遊べばOKです」
遊ぶ内容は猟兵に委ねられる。ただ単に遊んで回ってもいいし、何か語り合っても構わない。
「説明は以上です。どうか、『稲絵』さんを救ってあげてください」
そう言うと、ムゲンはグリモアの光を纏った仕込み杖をスラリと抜き放つ。
その切先に合わせて空間が裂けるように転送ゲートが出現した。
メリーさんのアモル
こんばんは、この度はUDCアースにて新しいシナリオを出させていただきます。
●第一章
集団敵。『なんて事ない蝋燭人間』との戦いです。気をつけることは特にありません。全力で以って殲滅してあげてください。
ちなみに舞台は川辺です。
●第二章
ボス敵。『稲絵』を飲み込んでいる『竜田』との戦いです。
倒す=「『稲絵』を殺す」ではなく、倒す=「『稲絵』を『竜田』から救う」となります。
パーソナリティのほとんどは『竜田』に上書きされていますが、僅かに『稲絵』の自我が残っているようです。約束について揺さぶりをかけると、何か反応があるかもしれません。
●第三章
日常。ドッグランで遊びましょう。
ドッグランには狐もいます。というか、なんか分かりませんが、安全な狐がたくさんいるドッグランだと思ってください。自分で言っていてなんだそりゃ。
エキノコックスなどの心配もしなくていいようです。
人が狐と遊んでいるのを眺めるだけで、『稲絵』は満足なようですが、望むなら『稲絵』と遊んだり、語り合ったりすることも出来ます。
それでは、頑張っていきましょう。
第1章 集団戦
『なんて事ない蝋燭人間』
|
POW : 痛いィ!表皮が裂けるカら裂けナいデェ¡
【自身の体を切り裂き噴出する「冒涜的な炎」】が命中した対象を燃やす。放たれた【極彩色の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 息がァッ!出来なヒよヲ!
自身の【蝋燭部分】から【高濃度の一酸化炭素と二酸化炭素】を放出し、戦場内全ての【呼吸】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
WIZ : 熱いィ?苦しいィ?痛いィの苦苦苦苦苦
【蝋燭部分】から、戦場全体に「敵味方を識別する【理性を焼却する炎渦】」を放ち、ダメージと【消えない炎・狂気・発狂】の状態異常を与える。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ノキ・エスプレッソ
火、あれも色だ。赤色……
今は眺めている場合じゃありませんね。
エンジン始動。目標、UDC怪物。
目標に向けて、バイクを発進させます。
!
目標から有害な気体を検知。人工血液ポンプ停止の恐れあり。
……問題ありません。
コーベルコード「フリーダムブレイズ」発動
「呼吸」という行動を制限するものを……跳ね返します。
目標に呼吸が必要かどうかはわかりませんが、ボクの機能が止まらなければ問題ありません。
スピードを落とさず、目標の群れをバイクで轢き殺します……
群れるように集まった赤色も、悪くありません……いや、悪くない。
だけど……
ムゲンさんが言っていた少女の持つキャンパス。
あの完成品の色を……見てみたいな。
妖気に誘われた『なんて事ない蝋燭人間』達が体をくねらせながら前へ、前へ進んでいる。
「火、あれも色だ。赤色……」
それを見つめて呟くのはノキ・エスプレッソ(色を求めて走るレプリカント・f41050)だ。
ノキはサイバーザナドゥ出身のレプリカントだが、神隠しにあって今はUDCアースに身を寄せていた。猟兵となったので、グリモア猟兵に頼めば|サイバーザナドゥ《元の世界》に戻ることも出来るのだが、ノキはそうせず、UDCアースに留まっていた。
そんなわけで、猟兵としての初陣はここ、UDCアースでになったわけだ。
「今は眺めている場合じゃありませんね」
ノキは軽く頭を振って、思考を中断。思考を戦闘のために切り替える。
「エンジン始動。目標、UDC怪物」
ノキは相棒である『ハイスピードバイク』のエンジンをかけ、右手を動かしてスロットルを回す。センサがスロットル開度を検知して電気信号を送り、エンジンのインジェクションが開かれる。燃料と空気が混合し、燃焼を始め、バイクが一気に加速する。
しかし、バイクはその速さと引き換えに、大きな音を出すという欠点――それがバイクの魅力でもあるが――を持つ。
それゆえ、先手を取ったのは『蝋燭人間』の方だった。
『蝋燭人間』は怪しく体をくねらせながら、自身の蝋燭部分から高濃度の一酸化炭素と二酸化炭素を放出した。
「! 目標から有害な気体を検知。人工血液ポンプ停止の恐れあり」
一酸化炭素は酸素よりもヘモグロビンと結合しやすく、体内の酸素循環を低下させる有毒な気体。また、二酸化炭素もそれ自体は有害ではないが、空気中の二酸化炭素が多くなればその分酸素の割合は減るため、酸欠空気が出来て、人間は呼吸が出来なくなり、バイクも燃料を燃焼させて走ることが出来なくなる。
ノキ本人のみならず、バイクをも止めかねない、地味ながら、最適な攻撃だったと言えるだろう。
ノキが普通の人間だったなら、だが。
「……問題ありません」
自動的にノキを燃え盛る炎のオーラが覆い、一酸化炭素や酸欠空気が『蝋燭人間』の元へと反射されていく。
発動したのはユーベルコード『フリーダムブレイズ』。状態異常や行動制限を反射するものだ。
――目標に呼吸が必要かどうかはわかりませんが、ボクの機能が止まらなければ問題ありません。
とノキは考えていたが、実は蝋燭の燃焼にも空気が必要だ。蝋燭にキャップ状の火消しを被せることで火を消す方法を思い出せばイメージしやすいだろう。
それゆえ、『蝋燭人間』は酸欠空気を反射され、火が消えそうになって慌てていた。
対してノキはスピードを落とさず、混乱しきっている『蝋燭人間』の群れをバイクで轢いていく。
次々と吹き飛ばされる『蝋燭人間』達。
(群れるように集まった赤色も、悪くありません……いや、悪くない。だけど……)
その様を見ながら、静かにノキは独白した。
(ムゲンさんが言っていた少女の持つキャンパス。あの完成品の色を……見てみたいな)
もうモデルがいない以上、それは叶わない夢かもしれない。けれど、可能なら、見てみたい、と。
そのためにもこの敵達は通過点に過ぎない。ノキは容赦無く『蝋燭人間』達を轢き飛ばしていった。
成功
🔵🔵🔴
エン・ジャッカル
う~む、UDCを誘う妖気とはなかなか厄介どころではないですね。もしそれが食事の目的ではなく悪意の目的で使われたら災厄に成り得ます。それだけ『稲絵』は純粋だったということでしょうか…。
とりあえずUDCなら生身では厳しいので、相棒と合体して戦うことにします。幸い相棒の装甲は耐熱性が高いので直撃を受けても大丈夫かもしれませんが万が一もありますし、スラスターで相手の攻撃を回避しつつシールドガンの光線で射撃するなり斬るなりして攻撃します。
約束ですか…。決して果たされない約束はやがて呪いになってしまうので、少年が死んだことで『稲絵』は呪われてしまったと言えるかもしれません。
急いだほうが良さそうですね。
「う~む、UDCを誘う妖気とはなかなか厄介どころではないですね。もしそれが食事の目的ではなく悪意の目的で使われたら災厄に成り得ます」
そう、『稲絵』の妖気について評するのはエン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)だ。
まさしくその通りだろう。あるいは、仮に悪意がなかったとしても、例えば『稲絵』のいた場所が村から離れた河川敷ではなかったら? 村の中や、まして都会などであれば、集められたUDC怪物は人を襲い、大きな災害になっていたことだろう。
そうなっていないのは、『稲絵』があえて村から川一つ分離れた河川敷と言う、人とやや距離をとった場所にいたからであり、また当然、単に食事のためにだけ使っていて悪意がないと言うことでもあり。
「それだけ『稲絵』は純粋だったということでしょうか……」
最終的にエンはそう結論付けた。
だが、今この瞬間において、『稲絵』の悪意の有無や純粋さは重要ではない。
集まっているUDC怪物『なんて事ない蝋燭人間』を排除しなくては。
そう判断すると素早く自身の相棒である宇宙バイク『アヌビス号』と合体する。
エンは勿論、猟兵ではあるのだが、実はエン自身の戦闘力は邪神の眷属に辛勝する程度しかない。それゆえ、エンの基本戦術は相棒である『アヌビス号』の力を借りて戦うのが基本である。
そんなわけで、『アヌビス号』と合体したエンは、『アヌビス号』のエンジンを起動し、スロットルを一気に回す。『アヌビス号』の動力である鉱石の輝きが増し、『アヌビス号』を動かすための光波が生み出される。
同時、ユーベルコード発動。発動するのは『スラストマスター』。エンの『アヌビス号』のスラスター捌きを大幅に飛躍させるものだ。エンは長年の間、スラスターを使い続け、今や手足のように扱えるようになった。それを象徴するのがこのユーベルコードであると言えるだろう。
『アヌビス号』が走り出すと、先の猟兵のバイクほどではないものの、やはり音が鳴る。
すると当然、『蝋燭人間』達もそれに気付き、馬鹿の一つ覚えの如く、高濃度の一酸化炭素と二酸化炭素を蝋燭部分から放出する。
それらが戦場を満たすより早く、『アヌビス号』の両側に装着されているシールド『シールドガン』から光波を噴射して攻撃を開始する。
敵に向かって光波を噴射して攻撃しながら接近、再接近した暁には刃渡りが125mmの護身用サバイバルナイフ『ワイルドハンター』の斬撃が『蝋燭人間』を襲う。単なるナイフの一撃と考えるなかれ、十分に速度が乗ったその近接攻撃は簡単には防御出来ないだけのダメージがある。
切り結んでそのまま走り抜けたエンはスラスターをうまく使ってクイックターンし、再び攻撃を開始する。
だが、充満し始めた高濃度の一酸化炭素と二酸化炭素は簡単に攻撃を許してはくれない。
……はずだったのだが。
まず、『アヌビス号』の動力への影響はない。先に触れた通り、『アヌビス号』の動力は特殊な鉱石が生み出す光波であり、内燃機関ではない。このため一酸化炭素も二酸化炭素もなんら影響は与えない。
だが、合体しているエンには影響があるはずだ。一酸化炭素中毒は恐ろしく、最も濃度が高い状態では2~3回の呼吸で意識を失い、3分以内には死亡してしまうとさえ言われている。
では、なぜエンは今こうして、二度目の突撃を終え、クイックターンして三度目の攻撃に移ろうとしているのか、それは『アヌビス号の気密性』に秘密があった。
『アヌビス号』が宇宙バイクである。それは即ち宇宙で使われることもあると言うことだ。このため、『アヌビス号』の装甲には一切の隙間が無く、極めて気密性が高いのである。
故に、エンの元に有毒なガスが届くことはなかった。
しかしそれでは今度は『アヌビス号』内部が酸欠空気になってしまう恐れがあるのだが、それがあえて、即座にクイックターンせずに大きく距離をとっている理由。
距離をとっているのはそれだけ加速を乗せて突撃攻撃の威力を上げるためなのが一つだが、実はそれ以上に、距離を取るたびに内部を密かに換気する効果も持っていたのである。
こうして、スラスターの推進力を最大限に使い、戦場の中と外を行き来することで攻撃を回避したエンは、そのまま敵を殲滅していったのだった。
「約束ですか…。決して果たされない約束はやがて呪いになってしまうので、少年が死んだことで『稲絵』は呪われてしまったと言えるかもしれません。急いだほうが良さそうですね」
約束と呪いは似ている。その境目は実は紙一重と言ってもいいかもしれない。『稲絵』が少年とした約束はもはや呪いである、とエンは感じた。
その呪いが致命的に『稲絵』を蝕んでしまう前に、急がなくては。
エンはもう一度クイックターンし、再び敵に向かって突撃を開始した。
成功
🔵🔵🔴
蛇塚・レモン
◎
稲絵君、UDC怪物を食べてまで現世に留まり続けるって
凄い執念、いやもはや純愛だよねっ?
でももう、彼女は……
だとしても、真実を伝えるべきだとあたいは思うから
これ以上の悲しいすれ違いは終わらせなくっちゃっ!
即座にユーベルコード発動
ダメージ軽減効果の黄金霊波動を爆発させて天高く飛翔!
放たれた炎禍は振り回す蛇腹剣と矛先神楽鈴から放たれる衝撃波で掻き消してゆくよっ!
同時にあたいの周囲をオーラ障壁でガード
炎禍を遮断するねっ!
近くに川があるなら利用する手はないよねっ!
念動力+全力魔法で川の水をスライムのように操作
蝋燭達を水球結界で飲み込んで封印
あとは蛇腹剣の衝撃波を乱射してバラバラに斬り刻んでみせるよっ!
「稲絵君、UDC怪物を食べてまで現世に留まり続けるって、凄い執念、いやもはや純愛だよねっ? でももう、彼は……」
そう、『稲絵』の運命と『稲絵』が待ち続ける少年の事を考えるのは蛇塚・レモン(白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152)だ。
だが、その逡巡は一瞬。
「だとしても、真実を伝えるべきだとあたいは思うから、これ以上の悲しいすれ違いは終わらせなくっちゃっ!」
レモンは自分の信念によって素早くその結論に達し、戦いの場に立った。
向かい合うは、『なんて事ない蝋燭人間』。目的を定めたレモンにとって、彼らなどもはやただの邪魔な障害でしかない。
「|憑装《ソウルユニゾン》、蛇塚シロオロチ神楽。お願い蛇神様、あたいと一緒に踊って……!」
そんなわけで、先手を取ったのはレモン。黄金の霊波動を纏った、白蛇神降ろしの巫女へと変身する。背後に蛇神様の霊体が浮かぶその姿は、それは人の身のまま神へと至ったが如く。
当然、これは攻撃の前段階にすぎない。レモンはそこから黄金の霊波動を爆発させ、一気に上空へ呼び上がる。
流石にそこまで派手に目立っては、『蝋燭人間』もレモンの存在に気付く。
『蝋燭人間』は自身の蝋燭部分から理性を焼却する炎渦を戦場全体に放つ。
だが、レモンは蛇腹剣『真・蛇腹剣クサナギ』を振り回して、攻撃を軽減する効果のある黄金の霊波動を周囲に散らして、炎を防御しつつ、さらにオーラも張って、残って飛んでくる流れ弾ならぬ流れ炎も防ぐ。
理性を焼却する炎渦は本来なら消えない上に、狂気と発狂を与える恐ろしいユーベルコードなのだが、防げさえすればなんの脅威にもならない。
そして、レモンの攻撃準備はまだ続く。
「近くに川があるなら利用する手はないよねっ!」
そう、ここは川辺。豊富な水源がそこにあるのだ。
レモンは全力で発動した魔法で周囲の水を操り、『蝋燭人間』に向けて放たれる。
さらにそれが念動力で練り上げられ水球と化して、『蝋燭人間』を拘束する。
『蝋燭人間』は慌てるがもはやどうしようもない。
いよいよ、レモンの攻撃が始まる。空中で繰り広げられるは蛇塚家一子相伝の剣舞神楽。
そこから放たれる衝撃波が『蝋燭人間』を飲み込む。
黄金の霊波動で攻撃を軽減し、武器から衝撃波を放って攻撃する。この一連の動きこそが、レモンのユーベルコード『|憑装《ソウルユニゾン》・蛇塚シロオロチ神楽』である。
その見事な一連の動きは、一帯の『蝋燭人間』を撃破し切った。
だが、まだ戦いは終わらない。妖気に誘われたUDC怪物はまだまだ湧いてくるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
悲しい話ですね。
これ以上の悲劇は防ぎたいですが……ロランさん(f04258)は復帰戦です、ご無理をなさらない様にして下さいね。
その分は私がフォローします。
まずは二人で駆けます。
ロランさんが結界術で炎とそれがもたらす狂気から守って下さるので、私も【オーラ防御】で手助けします。
ロランさんの解析が終わったら、この剣を振るって風を起こしましょう。
結界を焼く炎を敵ごと【吹き飛ばし】て共に敵の懐へ潜り込み、ロランさんにそのユーべルコードを相殺してもらいます。
後は私が風に乗ってレイピアでトドメを刺して回ります。
少し心配でしたが……いつもの連携に違和感がありません。
すっかり元気になりましたね、ロランさん!
ロラン・ヒュッテンブレナー
悲しくても、辛くても、進んだ先に幸せがあると思うよ、ハロちゃん(f13966)
ぼくは、そう信じてる
腐敗の王の死の循環を受けて寝込んで、これが復帰戦
リハビリはちゃんとしてきたけど、ちょっと不安で体の調子を確かめるね
行けるよ、ハロちゃん
いつもの動きで行こうか?
まずは近寄らないとね?
結界でぼくたちを囲んで、中には【魔符桃香】からの桃のにおいで満たして狂気を防ぐよ
狼の脚力を活かして、息を合わせて相手の中心に駆けながら、UCを解析していくよ
ハロちゃん、いくよ!
UC発動
蝋燭を吹き消す咆吼で炎を相殺して隙を作るの
ハロちゃん、任せたの!
ふぅ、上手くいったね
うん、体はもう大丈夫そうなの、と笑いかけるの
「悲しい話ですね。これ以上の悲劇は防ぎたいですが……」
グリモア猟兵の話を聞いて、そう呟きながら隣の猟兵に視線をやるのは黒い長髪が美しいハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)だ。
「悲しくても、辛くても、進んだ先に幸せがあると思うよ、ハロちゃん。ぼくは、そう信じてる」
その言葉と視線に返答を返す隣の猟兵は内気な少年ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)だ。「信じてる」そう告げる」ロランの視線は真っ直ぐだった。
「ロランさんは復帰戦です、ご無理をなさらない様にして下さいね。その分は私がフォローします」
「うん、リハビリはちゃんとしてきたけど、ちょっと不安で体の調子を確かめるね」
ロランはダークセイヴァーでの戦争『闇の救済者戦争』において、五卿六眼の一人、『腐敗の王』と戦って倒れ、寝込んでいた。これが復帰戦である。
なので、軽くジャンプしてみたり、体を左右に振ってみたり、そして何より魔術師なので、軽く魔力を操ってみたりして、自身の調子を確かめる。
「行けるよ、ハロちゃん」
結論として、ロランの体と魔力はロランの思った通りに動いた。もはやなんの不安もない。故にロランは強く頷く。
「いつもの動きで行こうか? まずは近寄らないとね?」
「はい。まずは二人で駆けます」
ハロのその言葉が言い終わる時には二人は既にシンクロしているかのように同時に駆け出していた。
その先にいるのは『なんて事ない蝋燭人間』の集団。
『蝋燭人間』は接近してくる二人に気付き、自身の蝋燭部分から理性を焼却する炎渦を放つ。それはみるみる範囲を広げ、この戦場全体を覆わんとするほどだった。
対するロランは一際優れた結界術で走る二人を覆う結界を形成する。空間を区切る結界は広く作れば作るほど強度も落ちるが、そこは、シンクロしたように走るナイスコンビネーションの二人。結界も最小限の大きさで済む。
さらにハロもオーラを放って結界の強度の向上に貢献する。
理性を焼却する災禍は結界に張り付き二人の精神を蝕まんとする。物理的ダメージは防げても、災禍の持つもう一つの効果である狂気・発狂を与える効果は残っているのだ。
だが、ロランも無策ではない。ロランが携行するのは何やら、花びらを入れたサシェ。この花びらは桃の精から授けられたもので、浄化と癒しの気と香りを立ち昇らせる。
それは、理性を焼却する炎渦が二人を蝕まんとする狂気・発狂に対して、強い耐性を与えてくれる。
現在存在している残敵の注意は完全に二人に集中しており、全員が一点に集中しつつある。
そして何より、二人はただ受けに回っていたわけではない。ひたすら敵のユーベルコードを受け止めている間、ロランはそのユーベルコードを分析していたのだ。
「ハロちゃん、いくよ!」
満月の魔力がロランの顔に集中し、魔術文字による隈取が発生し、ロランの姿を狼の様な見た目へと変じさせていく。
『うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!』
その魔力を乗せた咆哮はもはや分析され尽くした理性を焼却する災禍を相殺し、晴らしていく。ロランのユーベルコード『|超常を貪る人狼の咆哮《ヴォイド・ハウリング》』だ。
「ハロちゃん、任せたの!」
「この風に乗り、音速を超えて……!」
ハロのレイピア『リトルフォックス』から放たれる空を裂く一撃が暴風を引き起こし、まとめて『蝋燭人間』達を吹き飛ばす。
ユーベルコードを無力化され、空中に浮いて、無防備な『蝋燭人間』を守るものはもはや何もない。
ハロの妖狐の霊力と炎の力を放つレイピアが一息のうちに無防備な『蝋燭人間』達にトドメを刺す。
その見事な連携の前に、もはや立っている敵はいなかった。
「ふぅ、上手くいったね」
「少し心配でしたが……いつもの連携に違和感がありません。すっかり元気になりましたね、ロランさん!」
連携がうまく行ったこと、即ちロランがかつてのように動けるようになったことを、まるで自分の事のように喜んで見せるハロ。
「うん、体はもう大丈夫そうなの」
その様子に、ロランもまた嬉しそうに笑いかけた。
ここに妖気に惑わされたUDC怪物は殲滅された。
残るは……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『竜田』
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POW : 今『いんすぴれーしょん』が来てるから!
着弾点からレベルm半径内を爆破する【抵抗の意思を奪う妖力を籠めた岩絵具の塊】を放つ。着弾後、範囲内に【日本画調の狐の群れ】が現れ継続ダメージを与える。
SPD : 『もでる』は常時募集中だよ!
自身が装備する【巨大な絵筆】から【魅了効果のある色水】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【脱力】の状態異常を与える。
WIZ : 『あーと』の邪魔をするなら、こうだっ!
【芸術への情熱で邪魔者を排除するという意志】に覚醒して【人喰いの巨大な化け狐】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:元町
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠吉川・清志郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「お腹すいたなぁ……。まだかなぁ」
ゆらり、とUDC怪物を殲滅した猟兵達の前に一人の化け狐が姿を表す。
大きな絵筆を持った狐の耳と尻尾を持つ妖怪。彼女が『稲絵』だろう。
「約束のためにも、食べなきゃ。お腹いっぱい食べて、生きなきゃ……」
『稲絵』は約束のために生き続けているのだ。
……だが。
「あれ……約束って……なんだっけ?」
骸魂に飲み込まれた状態になりつつある彼女にはもはやほとんど『稲絵』としての理性は残されていない。
「そうだ。可愛い男の子を攫って、絵のモデルになってもらわなきゃ、永遠に、ね」
今この瞬間、彼女はもはや『稲絵』ではない。骸魂『竜田』だった。
彼女を倒し、骸魂から解放しなければならない。
ノキ・エスプレッソ
いた……!
あれが稲絵さん……いえ、竜田……!!
!!
色水を飛ばしてきた……
とても奇麗な……色……
ボクは……魅了されているのでしょうか……?
いや……これは……
……ワクワクしている。
ボクは……この色に、ワクワクしているんだ!!
再び、ユーベルコード「フリーダムブレイズ」発動。
飛ばしてくる色水を、炎のオーラではじき飛ばしながら進み……竜田に接近して……!!
直接バイクの後輪をぶつける!
思わず……笑みが浮かんで、口が開く。
この色水……とても奇麗だよ……ステキだよ! 稲絵!!
だから、見てみたい!! この色で描かれた、約束の絵を!
叶えられないとしても、願っていることは変わらないんだッ!!
「いた……! あれが稲絵さん……いえ、竜田……!!」
UDC怪物を殲滅した直後に現れた化け狐を見て、そう呟くのは先の戦闘でも一番槍を務めたノキ・エスプレッソ(色を求めて走るレプリカント・f41050)だ。
そう、彼女は『稲絵』であって『稲絵』でないもの、UDC怪物を取り込みすぎて|オブリビオンの妖怪《骸魂》が如き存在となったもの。故にその名前は『竜田』と呼ぶことが相応しい。
「あら、男の子じゃないみたいだけど……、でもちょっと可愛いし……、うん、『もでる』は常時募集中だよ!」
だって、大切な少年とのお絵描きを楽しんでいた『稲絵』ならこのようなことを言うはずはないのだから。
ノキが『ハイスピードバイク』のエンジンをイグニッションする僅かな隙に、先手を取ったのは、『竜田』。巨大な絵筆を振り回し、色のついた鮮やかな液体を飛ばす。
「!! 色水を飛ばしてきた……」
それはとても鮮やかな色で、ノキは思わずその色に見惚れてしまう。
「とても奇麗な……色……。ボクは……魅了されているのでしょうか……?」
かつて、長い間感情がなかったため、感情というものにまだ慣れていないノキはその感情に思わず困惑し、その意味を探る。
確か、グリモア猟兵から共有された情報によれば、この色のついた水には魅了効果があるとの事だったが……。ならば自分は今、この色水に魅了されてしまっているのだろうか?
「いや……これは……」
だが、すぐそれは違うと気付く。
「……ワクワクしている。ボクは……この色に、ワクワクしているんだ!!」
それは図らずもノキが感情に目覚めた時と似ていた。彼女は異世界からやってきた――ということを理解したのは猟兵に目覚めてからだったが――ゴッドペインターの色使いを見て、「希望」という感情に目覚めたのだから。
そして、彼女の感情の整理がつくのを待っていたかのように、ノキの体を燃え盛る炎のオーラが纏う。
それは先ほどのUDC怪物と戦闘した時に発動したのと同じユーベルコード『フリーダムブレイズ』。
それは、『竜田』の放った色水による魅了とそれによる脱力を反射する。
「うっ、よく見ると……女の子だけど、君、結構男の子っぽくて好みかも……?」
まんまと効果を反射された『竜田』はキュンとした顔で、ノキを見つめる。
ノキは女性ではあるが、中性的な顔立ちに男性のような服装をしている。
それでも男の子好きの『竜田』としてはあくまで女性であるという溝は埋め難かったのだが、魅了効果を反射されたことにより、その溝が埋まってしまったらしい。
ノキの『ハイスピードバイク』が走り出し、『竜田』に向かって突き進む。
「『もでる』になってぇぇぇぇぇぇぇ!」
魅了された『竜田』は回避を選ばず、ひたすらに絵筆を振り回して、色彩鮮やかな色水を飛ばす。
それでノキが魅了されてくれれば、ノキにすっかり魅了された『竜田』の願いは叶うからだ。
だが、そのすべての色水はノキの放つ燃え盛る炎のオーラが弾き飛ばす。そして、それらの反射を喰らった『竜田』はより一層ヒートアップしていく。
ノキは『竜田』に肉薄すると同時、バイクの前輪に全荷重をかけてロックさせ、後輪を持ち上げる。前輪がロックされるが、慣性はそのままなので、車体が大きく回転し、『竜田』に対し、後輪が勢いよくぶつかる。
ジャックナイフ、と呼ばれるアクション・ライディングである。
ともかくそのジャックナイフを受けて吹き飛んだ、『竜田』に対して、ノキは自分でも自覚がないうちに笑顔へと表情を変え、声をかける。
「この色水……とても奇麗だよ……ステキだよ! 稲絵!! だから、見てみたい!! この色で描かれた、約束の絵を! 叶えられないとしても、願っていることは変わらないんだッ!!」
笑顔で捲し立てるノキ。その様子にはもはやとにかく自身が稼働し続けるために運び屋として活動していた感情がない頃の面影はなく、普通の人間のようですらあった。
「稲絵……? 約束……? ……そうだ、私……、約束を……、絵の続き……を」
その笑顔で語りかけるノキの言葉に、『竜田』は、僅かに『稲絵』の意識を取り戻した。
それ自体は嬉しかったが、だが、骸魂を祓わない限り、この状態がどうにもならないことを、ノキは理解している。
「違う。私は『竜田』! 可愛い男の子を、ううん、貴方を、攫って絵にしちゃう!」
だからノキは、『稲絵』の意識が取り戻している間に一気に距離を取り、『竜田』の意識が戻った隙だらけのその瞬間、より強烈な渾身のジャックナイフをお見舞いした。
大成功
🔵🔵🔵
エン・ジャッカル
約束の呪いで堕ちてしまいましたか…少年は約束を果たす気があった。しかし不運にも果たせなかった。その時点でその呪いを解く方法を失ってしまったと思っていいだろう。となればムゲンさんの言う通りに、私たちが出来ることは倒して解放させること。
そういう訳で、最初から全力を出すために真の姿を解放してから戦闘に突入します。
基本的には真の姿を解放したことによって大きく上がった敏捷性で相手の攻撃を回避しつつ射撃するヒットアンドアウェイ戦術で、相手の隙を伺います。
隙を見出したら、スラスターで急接近しUCで一撃を叩き込みます。
モデルならいつでも。ですが、そんな物騒なアートのモデルは残念ながら遠慮させていただきます。
「約束の呪いで堕ちてしまいましたか……」
『竜田』と化した『稲絵』の様子を見て、そう呟くのはエン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)だ。「決して果たされない約束はやがて呪いになってしまう」。UDC怪物との戦闘中に彼が呟いた言葉だが、いよいよそれが現実になろうとしていることを理解する。
「少年は約束を果たす気があった。しかし不運にも果たせなかった。その時点でその呪いを解く方法を失ってしまったと思っていいだろう」
少年は村へ帰る途中で命を落とした。誰も悪くないにも関わらず、この場にはどうしようもない呪いだけが残されていた。
「となればムゲンさんの言う通りに、私たちが出来ることは倒して解放させること」
故に、エンも覚悟を固め、真の姿へとその姿を変えていく。
相棒『アヌビス号』と合体した黒い装甲に白い光のラインの入った人型兵器のような姿へと変じたエンはその大きく上昇した敏捷性を活かして、一気に『竜田』に向けて接近する。
「うわぁ、『あばんぎゃるど』だ! 君も、『もでる』になって!!」
先の猟兵に振られ落ち込んでいた『竜田』出会ったが、新しい――それも『竜田』の常識にはない見た目――モデルが現れたことで、テンションを取り戻す。
そうなればやることは一つ。『竜田』は再び、巨大な絵筆を振り回し、エンに向けて鮮やかな色水を飛ばす。
だが、どれだけ恐ろしい攻撃でも、当たらなければ意味はない。敏捷性の上がったエンには、雑な狙いで飛んでくる色水など当たることはなく。
回避しながら的確に放たれる『シールドガン』から噴射される光波が、『竜田』を削っていく。
「んもう! なんで『モデル』になってくれないの!」
色水が当たらないことに不満を覚える『竜田』が地団駄を踏む。その僅かな隙を逃さず、光波が『竜田』を蝕む。
「こうなったら……こうだぁぁぁぁ!」
そして、『竜田』がついに動きに出た。
大きく絵筆を振り回し、広範囲に一気に色水を飛ばし散らしたのだ。
色鮮やかな色水が飛ぶその光景は、まるでそれ自体が一瞬だけのアートのようでもある。
だが、絵筆を大きく振り回し、その慣性に振り回された『竜田』は致命的とも言える隙を晒すことになる。
エンはその敏捷性を活かし、大きく散らばった色水を的確に回避しながら、接近。ついにユーベルコードを発動する。
「チャージ!」
その掌が『竜田』に触れる。
直後、圧縮された光波エネルギーが『竜田』に注ぎ込まれ、体がねじ切られるようにして爆発した。
「きゃーーーーーーーー!」
体がねじ切られたにも関わらず、すぐ元通りの姿をしているのは流石妖怪、流石骸魂と言ったところだろうか。
だが、確実に大きなダメージを蓄積させたはずだ。
「どうして、『もでる』になってくれないのーーーーー!」
「モデルならいつでも。ですが、そんな物騒なアートのモデルは残念ながら遠慮させていただきます」
痛みに思わず涙を流す『竜田』に、エンは静かに首を振った。
大成功
🔵🔵🔵
蛇塚・レモン
モデルにするべき相手を忘れちゃったのかな……?
あなたには大切な約束があったはずだよっ?
思い出して、稲絵さん!
大きな化け狐になってくれるのは好都合だねっ!
あたいは念動力で空を飛んで、竜田の跳躍が届かない高さまで上昇
それにしても今日も暑いね~っ!
全力魔法+神罰で空気の屈折率を操作して直射日光を竜田の巨体へ一点集中
毛皮を燃やして川辺へ避難させる
その瞬間にあたいのユーベルコードを発動!
1410本の霊光線の弾幕というか、もはや壁が竜田を奉仕して貫通攻撃!
ユーベルコード無効化と不運を付与っ!
すると竜田は川の中で人の姿に戻るから
流れに足を取られる不運で溺れちゃうかもねっ?
あ、トドメに蛇腹剣で衝撃波どーんっ!
「ありゃ、また女の子? 私は可愛い少年が描きたいんだけどなぁー」
次なる猟兵の登場に、『竜田』がぼやく。
「モデルにするべき相手を忘れちゃったのかな……?」
その言葉に真っ向から返事を返すのは先のUDC怪物との戦いでも派手に大立ち回った猟兵の一人、蛇塚・レモン(白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152)だ。
「あなたには大切な約束があったはずだよっ? 思い出して、稲絵さん!」
レモンは真っ向から『竜田』に語りかける。
「『稲絵』? 誰それ、私は『竜田』、約束なんて……、なんて……、そう……私が描きたいのは誰でもいい少年じゃない、あの人だけ。それに、誘拐なんてしない!」
すると、『竜田』は内側から呼び起こされる『稲絵』に意識に体が乗っ取られそうになる。厳密には『竜田』が現在進行形で乗っ取っている側なので、意識を取り戻されそうになる、というのが正確だろうか。
「そうそうっ、本当の自分を思い出してっ!」
レモンはさらに『竜田』に、『竜田』の中の『稲絵』に呼びかける。
「そうだ……私は……。ちがーう! 私は『竜田』! 可愛い男の子を誘拐して絵に描くの! 私の邪魔をするなら……『あーと』の邪魔をするなら、こうだっ!」
しかし、やはり言葉だけで『稲絵』を骸魂から救うには至らない。やはり倒して払う必要があるのだ。
邪魔者を排除するという意志に目覚めた『竜田』は、人喰いの巨大な化け狐へと姿を変えていく。
(好都合だねっ!)
実は、これこそがレモンの狙いだった。
これまで、『竜田』は、あくまで猟兵を絵のモデルとしてしか認識していなかった。これは厳密には好みとは大きくズレるレモンでさえそうだった。だから、絵のモデルにするために行動していた。
だが、レモンには『竜田』が人喰いの巨大な化け狐に変身することを前提にした作戦があった。
故に、こうして大きく『稲絵』の意識を呼び戻し、『竜田』に危機感を抱かせる必要があったのだ。
結果は成功。まんまと『竜田』は巨大な化け狐へと姿を変えた。
そして、レモンは優れた念動力で自身を持ち上げ、空中からその化け狐を見下げる。
化け狐は跳躍してレモンを狙うが、三次元を自在に浮遊するレモンにはかすりもしない。
「それにしても今日も暑いね~っ!」
なんて、呑気に呟きつつ、発動する魔法は空気の屈折率を変えるというシンプルだが恐ろしい魔法。屈折率の変化した空気達は、まるでレンズのように光を凝集し、化け狐の毛皮を炎上させた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
炎上に慌てた化け狐は慌てて、川に飛び込み、火を消そうとする。
それもまんまと、レモンの読み通り。
「蛇神様っ! ライムっ! お願い、一緒に踊ってっ!」
発動するのはユーベルコード『|憑装《ソウルユニゾン》・蛇塚ミツオロチ神楽』。
「3人の力を合わせて、あたい“たち”だけのお神楽を……っ!」
神楽とは名ばかりの激しい舞踊が空中で繰り広げられ、踊りに合わせて『白蛇神の鋒先神楽鈴』が鳴るたび、霊光線という名のビームが放たれる。
それは幾何学模様を描いて飛翔し、化け狐を包囲して逃げ場を奪いながら、攻撃していく。
しかも、それは単なるビームに非ず。ユーベルコードを無効化する効果を持つ。
「きゃああああああ!」
ユーベルコードの効果を解除された『竜田』は、気がつくと川の中に立っていた。
「きゃっ!?」
水の流れは早く、『竜田』は思わず足を取られる。
実はこれもビームの効果。相手に不運をもたらすものである。
「もがっ、んんっ」
川で足を取られた人型の生命体がどうなるかをあえて記述する必要もないかもしれない。溺れるのみである。
そして、レモンの攻撃はこれでは終わらないのである。
「あ、トドメに蛇腹剣で衝撃波どーんっ!」
さも、今思いついた、とばかりに、『真・蛇腹剣クサナギ』を振い、そこから衝撃波が放たれる。
それが溺れて身動きの取れない『竜田』に容赦なく命中し、大きな水飛沫を上げた。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
可愛い少年をモデルに……ロランさん(f04258)こそ狙われるはず、お気をつけて。
分かりました、まずは私が【かばう】事で敵を引き付けましょう。
邪魔をする訳ですから、敵の戦闘力は上がってしまうでしょうが……私も黙って立ってはいません。
稲絵と言う妖怪の過去の様子はグリモアベースで見ました。
この光景を見せ、稲絵さんの意識に訴えて動きを止めます。
さぁ、思い出して下さい。
したかった事、約束の事。
その間にロランさんに魔術の準備をしてもらいます。
ええ、やってみます。
ロランさんを幻術で絵のモデルの少年と錯覚させて【おびき寄せ】ましょう。
せめて幻の中で約束を果たさせて上げたい所ですが……ロランさん、今です!
ロラン・ヒュッテンブレナー
ハロちゃん(f13966)気をつけて
ぼくが狙われやすいの?うん、気をつけるね
あれが竜田さん…
(放つ妖力の大きさに毛並みが逆立って)
ぼくは、稲絵さんを取り戻してあげたい
力を貸して?
ハロちゃんが幻術で惹き付けてくれてる間に、レイピア型のルプスを複数生成
竜田さんを囲むように地面に突き立てて、ぼくの魔力を受けるアンテナにするの
お待たせ、ハロちゃん、お願いがあるの
ぼくを少年のように見せれる?
「稲絵さん、ぼくだよ!覚えてない?たくさん時間が掛かったけど、来たよ。だから、あの約束を思い出して、戻ってきて。絵を見せて!」
説得しながらルプスを繋いで魔術陣展開、全力魔術でUC発動なの
竜田さん、骸魂だけや攻撃なの
「あれが竜田さん……」
先の猟兵の攻撃も終わり、やっと川から這い出て来た『竜田』を見て、その放つ妖力の大きさに毛並みが逆立つのはロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)だ。
「ハロちゃん、気をつけて」
「可愛い少年をモデルに……ロランさんこそ狙われるはず、お気をつけて」
感じた妖力を根拠にロランが警告した相手はハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)。しかし、ハロはこれまでの『竜田』の言動から、ロランこそ危険だと考えていた。
「ぼくが狙われやすいの? うん、気をつけるね」
そして、ロランはその警告に素直に頷く。
「ぼくは、稲絵さんを取り戻してあげたい。力を貸して?」
そして、続けてロランは言う。『稲絵』という存在を取り戻したいのだ、と。
「分かりました」
当然とばかりに、ハロは頷く。
そして、二人は簡単なやり取りで作戦を決めて、行動を開始する。先ほども完璧なコンビネーションを披露した二人。コンビネーションに不安はない。
「あぁ! 可愛い男の子だ!!」
まず、先手を取った——厳密には取らせた——のは『竜田』だ。二人の想定通り、可愛い男の子であるロランを狙う。
「させません」
それに対し、ハロがロランとの間に入り込み、レイピア『リトルフォックス』を向ける。
「邪魔するの! 『あーと』の邪魔をするなら、こうだっ!」
そしてハロに邪魔されたのを見た『竜田』は単純に腹を立て、人喰いの巨大な化け狐へと変じていく。
(やはりこうなりましたか、しかし、私も黙って立ってはいません)
邪魔をすれば『竜田』の戦闘力が上昇するのはグリモア猟兵から聞いていた通りだ。
「夢と現の水面より出でよ」
対抗するため、ハロはユーベルコード『幻術』を発動する。
『リトルフォックス』から幻術が放たれる。
(稲絵と言う妖怪の過去の様子はグリモアベースで見ました)
見える光景はグリモアベースでグリモア猟兵が投影したまだ『稲絵』だった頃の様子。
「さぁ、思い出して下さい。したかった事、約束の事」
「あぁ……。約束……、絵を完成させる……。……だめ、この身体は私のもの、昔の少年なんて知らない、今、目の前のあの子を描くの! ……だめ、約束を……、絵を完成させないと……」
巨大な化け狐が頭を抑えて、悶え始める。その様子は『竜田』と『稲絵』が制御権を奪い合っているようだった。
そうしてハロが時間を稼いでいる間、ロランはレイピアの形をした『天狼の魔剣【ルプス】』を、『竜田』を取り囲むように地面に突き立てて設置していく。
幸い、人喰い化け狐は自身の目的を邪魔するハロのみをターゲットにしていた上、ハロのユーベルコードを使った時間稼ぎ策は極めてうまく行っており、ロランに攻撃の矛先が向かってしまうことは全くなかった。
「お待たせ、ハロちゃん、お願いがあるの。ぼくを少年のように見せれる?」
『竜田』を完全に囲い終わったロランはハロに合流し、声をかける。
「ええ、やってみます」
ロランに幻術が覆い被さる。その見た目は資料で見た少年の見た目。
「稲絵さん、ぼくだよ! 覚えてない? たくさん時間が掛かったけど、来たよ。だから、あの約束を思い出して、戻ってきて。絵を見せて!」
そして、少年に扮したロランは『竜田』に声をかける。
「少年!」
結果は劇的だった。少年の姿を見た、『竜田』は変身を解除し、ロランに駆け寄る。
(せめて幻の中で約束を果たさせて上げたい所ですが……)
だが、そうもいかない。
「だめ! 私が拉致して絵を描くの!!」
彼女の中に巣食う『竜田』が反抗するからだ。
「ロランさん、今です!」
「マジカスキャン、座標確定。各「マジカ反応」リンク。術式転送、転写。エネルギー充填、完了」
『竜田』を囲うように配置された『天狼の魔剣【ルプス】』がロランの魔力を受けるアンテナとなり、魔法陣が形成される。
そして、ユーベルコードが発動する。『過去の妄執祓う閃きの軌跡』、それは、事前に仕掛けた魔法陣や魔術行使の痕跡で囲んだ内側を攻撃するもの。
『天狼の魔剣【ルプス】』に囲われた『竜田』は完全に攻撃の対象だ。
黒い雷が落ち、『竜田』を焼く。
「きゃあああああああああああああ!」
その雷は、一見恐ろしいが、|骸魂《オブリビオン》の存在だけを浄化する『稲絵』に優しい一撃でもあった。
「あれ……ここは……? 私……さっきまで何をして……」
浄化された『竜田』は消滅し、『稲絵』が今度こそ眼を覚ます。
戦闘は終了。あとは彼女にカクリヨに渡ってもらうだけだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『ドッグランで遊ぼう!』
|
POW : 力勝負でワンコ達と戯れる。そしてモフる。
SPD : 常設アスレチックの踏破スピードをワンコ達と競う。そしてモフる。
WIZ : とにかくワンコ達をモフる。モフってモフってモフり倒す。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「まさか、あんなことになってしまうなんて、助けてくれてありがとうございました」
『稲絵』は謝罪した。『竜田』に意識を奪われている間も自分が何をしたのか覚えているのだ。
「少年のことは心残りだけど、私も少年のいるこの世界を傷つけたくない。だから、カクリヨに行くよ」
猟兵の説得を聞き、『稲絵』は頷く。
それはやはり少年が大好きだったからだった。
ところ変わって、キツネがたくさんいることで有名なドッグラン。
『稲絵』のカクリヨへ渡る「宴」はみんなで動物と戯れることだった。
あとは「宴」をして『稲絵』をカクリヨに行ってもらうだけだ。
けれど、猟兵が望むのであれば、『稲絵』と語り合っても構わない。まだ『稲絵』の知らない、少年の真実を伝えても構わない。
全ては猟兵の望むままに。
●マスターより
今回は、最初に来たプレイングを失効日まで待ってその間に来たプレイングをまとめてリプレイにさせて頂きます。
ただし、「少年のことを伝える」プレイングと「意図的に伝えない」プレイングは同時に採用出来ませんので、同時に来た場合プレイングの多い方を採用します。
(同数の場合、先に来ている方を優先とします)
(どちらとも書いていない場合はどちらとも扱わず採用します)
ノキ・エスプレッソ
あ、まってまって、逃げないでください。
オレンジ色のキツネの毛並みを観察するために、とにかく撫でます。
それにしても……
あの絵、やっぱり諦めきれない。
それに、絵を完成しないままであることが、鮮やかな色を出せる稲絵さんのためになるのかな。
……少年のことを、伝えます。
ごめんなさい。
ボクは感情のこと……悲しいという感情が、まだよくわかりません。
……でも、
その姿の記憶はずっと残っていると思うんです。
このキツネを初めて見て、この子はオレンジ色だって、記憶されるように。
完成しなくても、いいんです。だけど……
もしも、その絵が完成したのなら……その少年を忘れられないような、色がついたら……
ボクに、見せてほしいな。
蛇塚・レモン
……宴、の前に稲絵さんには伝えておかなきゃいけないことがある
参加者の様子を窺いながら、あたいは意を決して口にする。
稲絵さん、あの子の事なんだけど……
実は、あの子は事故に巻き込まれてしまって、もう此世にはいないんだよ
辛い現実を押し付けちゃうのは申し訳ないって思ってるよ
けど、やっぱり知らないままお見送りするのは、間違ってるとおもったから……
だから、宴と一緒にあの子の思い出も語ってほしいなって
もしかしたら……カクリヨの世界に紛れ込んでるかもしれないしっ!
あたい達は猟兵、界を渡る者だからねっ!
依頼の最中にその子と偶然出会ったら、稲絵さんの事を伝えておくよっ!
宴会はユーベルコードで勾玉からご馳走を出すね
エン・ジャッカル
稲絵さんが元に戻り、後遺症のようなものも無さそうで一安心です。カクリヨへ渡る宴とは動物たちと戯れることとは大変興味深いですね。是非その宴を体験してみたいと思います。
…え?常設アスレチック?ワンコたちと競うの?撫でて戯れるとかじゃなくて!?そして、なぜか相棒も乗り気な気配が!…分かった!相棒が乗り気なら付き合うさ!
という訳で、バイク形態の相棒と生身の私も競争に参加します。私はシーフとしての経験を生かして軽やかに突破していくに対して、相棒はスラスターやバイクの強みで突破していきます。
少年の真実を私は「伝えたい」に一票です。少年は約束を果たそうとしたのに果たせずに、呪いとなるのは悲しいことなので…。
「稲絵さんが元に戻り、後遺症のようなものも無さそうで一安心です」
キツネたちが多くいるドッグラン。キツネたちを様子を楽しげに眺める『稲絵』を見て、そう呟くのはエン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)だ。
『稲絵』を助けるための戦いを終え、あとはカクリヨに向かうための宴を残すのみ。
今、この場には『稲絵』を助けるために集まった猟兵のうち、三人がいた。
「カクリヨへ渡る宴が動物たちと戯れることとは大変興味深いですね。是非その宴を体験してみたいと思います」
そう言って、エンが宴に加わると、他の二人も思い思いの宴に散っていく。
「あ、まってまって、逃げないでください」
宴が始まってすぐ、キツネを追いかけまわし始めたのは、両方の戦いで、常に先陣を切って戦ったノキ・エスプレッソ(色を求めて走るレプリカント・f41050)だ。
ゴッドペインターの扱い色彩を見て感情を持った経緯ゆえに、「いろんな色を視てみたい」という感情に突き動かされ、当てのない旅を始めたノキは、それゆえ、色彩というこのに強く惹かれる。|人間型機械《レプリカント》としての性能・性質の話ではない。ノキ・エスプレッソという一人の|個《・》|人《・》としての性格の話だ。
そんなわけで、ノキはキツネのオレンジ色に強く心を惹かれ、今、キツネを追いかけているのだった。
レプリカントであり猟兵でもあるノキに追いかけっこで勝てるキツネはいない。
結局キツネはノキに捕まってしまい、ノキはご満悦で——表情はいつもの落ち着いた表情に見えるが——、キツネのオレンジ色の毛並みを観察しながら撫で始めて。
(それにしても……)
しかし、そんなノキの心には引っかかるものがあった。
(あの絵、やっぱり諦めきれない)
それは、『稲絵』の呪いにして約束であるあの絵のこと。
(それに、絵を完成しないままであることが、鮮やかな色を出せる稲絵さんのためになるのかな)
色に強い拘りを持つノキはあの絵をそのまま放置することを受け入れられず、人間でいう「もやもや」したような気持ちを抱いていた。
「……少年のことを、伝えます」
ノキはキツネを抱いたまま、二人の猟兵の元へ近づき、そう告げる。
「私も同じ気持ちです。少年は約束を果たそうとしたのに果たせずに、呪いとなるのは悲しいことなので……」
「あたいも宴の前に稲絵さんには伝えておかなきゃいけないと思うっ」
その言葉にエンも、そしてもう一人の猟兵、先の戦いでも目覚ましく活躍した蛇塚・レモン(白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152)も、頷く。
特にレモンは、最初から伝えるつもり満々で、むしろ他の二人の動向をずっと気にしていたくらいだった。
かくして、三人は少し離れたところでこちらを眺めている『稲絵』の元を尋ねる。
「どうしたの? まだ宴は始まったばかりだよ?」
「あの、少年のことなんですが……」
首を傾げる『稲絵』に、ノキは結果的に言い出しっぺになったのもあり、率先して口を開いたが、逡巡してしまう。
ノキはまだ感情が目覚めたばかり。実はまだ「悲しい」という感情も十分に理解出来ていない。だから思ってしまったのだ。そんな自分が無神経に事実を伝えていいものか、と。
「稲絵さん、あの子の事なんだけど……」
ノキのその様子を見て、レモンが代わって口を開く。元より、『稲絵』に事実を伝えるつもりで完全に気持ちが固まっていた分、レモンの頭の中には言うべき言葉が出来上がっていた。
「実は、あの子は事故に巻き込まれてしまって、もう此世にはいないんだよ」
直球で真正面から、レモンは『稲絵』にそう伝えた。
「そ——」
『稲絵』はその言葉に思わず絶句する。
「辛い現実を押し付けちゃうのは申し訳ないって思ってるよ。けど、やっぱり知らないままお見送りするのは、間違ってるとおもったから……」
レモンはその様子を見て、さらに言葉を続ける。
「いや……、うん、やっぱりそう言うことなんだろうな、って。思ってた」
『稲絵』もただ能天気な妖怪ではない。長く生きてきただけあって、少しは頭も回る。
「だって、もし少年が生きていたら、君達は少年をここに連れてくるだけで解決したはずだもんね」
だから、実は『稲絵』はとっくにその覚悟を済ませていたのだ。
「伝えてくれてありがとう。これで今度こそ、心残りなくカクリヨに行けるよ」
実は少年は生きていて、行き違いになるのではないか。それは『稲絵』の本当に僅かに縋っていた可能性。だが、それは断ち切られた。けれど、それで良いのだ、と『稲絵』は笑う。それならカクリヨに行かない理由はもうないのだから、と。
「ごめんなさい。ボクは感情のこと……悲しいという感情が、まだよくわかりません」
そして話がまとまったところで、再度ノキが口を開いた。先ほどの葛藤の理由、それを素直に吐露した。
「……でも、その姿の記憶はずっと残っていると思うんです。このキツネを初めて見て、この子はオレンジ色だって、記憶されるように」
「記憶……」
思わぬ言葉に、『稲絵』は復唱する。
「完成しなくても、いいんです。だけど……。もしも、その絵が完成したのなら……その少年を忘れられないような、色がついたら……、ボクに、見せてほしいな」
「記憶で……絵を……完成させる?」
色に拘りを持つノキの言い回しは、『稲絵』には少しだけ難解ではあったが、一番伝わってほしい場所は伝わった。
「そうだよ、あたいも、宴と一緒にあの子の思い出も語ってほしいなって」
そこにレモンも援護する。
「もしかしたら……カクリヨの世界に紛れ込んでるかもしれないしっ! あたい達は猟兵、界を渡る者だからねっ! 依頼の最中にその子と偶然出会ったら、稲絵さんの事を伝えておくよっ!」
その可能性は低いだろう。けれど、力強いレモンの言葉には『稲絵』の気持ちを元気付ける力があった。
「そう……。そうだよ……! 私、一日も少年のことを忘れたことない! 絵にだって、描けるよ!」
『稲絵』がキャンパスを取り出す。そこに描かれているのは描きかけの少年。
「見ててね、みんなに、私の大好きな少年のこと、見せてあげる!」
『稲絵』が絵筆を手に持ち、振るいはじめる。それは『竜田』とは違う、『稲絵』だけの、鮮やかな色使いであった。
エンは『稲絵』は前向きになったのを見て、頷き、ふと振り向くとそこには。
「……え? 常設アスレチック? ワンコたちと競うの? 撫でて戯れるとかじゃなくて!?」
ワンコやキツネたちと人間が競い合える常設のアスレチックが目に入る。
エンの宇宙バイク『アヌビス号』もバイクの形態で景気良く駆動音を鳴らし始める。
「なぜか相棒も乗り気な気配が! ……分かった! 相棒が乗り気なら付き合うさ!」
その様子を見てエンは素早く自身の参加を決めた。
「わぁ、少年のことを見せたいけど、私を助けてくれたみなさんの活躍も見たいな!」
そのエンの様子に『稲絵』も嬉しそうに笑う。
「じゃあ、ボクも付き合います」
そう言って駐輪場から自身の『ハイスピードバイク』を持ち込むのはノキだ。
色以外に興味なさげなノキ、バイクに乗っているのも足と武器以上の意味を持っていないようにも感じられるが、果たして、走りにどの程度のこだわりがあるのかはその表情からは伺えない。けれど、少なくとも今回走ることを決めた理由は分かる。『稲絵』を喜ばせるためだろう。
「じゃあ、あたいと稲絵さんは美味しいものでも食べながら眺めてるねっ!」
そう言うと、レモンはユーベルコード『|戦術転移術式《タクティカルワープコード》『|蛇神温泉郷《オイデヨオンセンヤド》』』を発動。
勾玉の中に存在する温泉宿からたくさんのご馳走を運び出し、自分と『稲絵』の前に広げる。
「わぁ、美味しそう!」
美味しそうな食事の前に『稲絵』も嬉しそうだ。
そして、アスレチックから一斉にイヌとキツネ、エンと単独で走るバイク『ジャッカル号』、そして、バイクに乗ったノキがスタートする。
障害物は人間が使うのも想定しているだけあって、結構本格的。
だが、エンはシーフとしての経験を活かして軽やかに進んでいく。
一方、『ジャッカル号』はスラスターなどを活かして華麗に姿勢を制御し、障害物を乗り越えていく。
もちろん、ノキも負けていない。運び屋の生活で培われた様々なアクション・ライディングで乗り越えていく。
最終的な勝者は『ジャッカル号』となった。流石に生身の人間のテクニックだけでバイクに追い縋るには限界があった。また同じバイクでも、スラスターなどの追加装備の差をテクニックだけで埋めるのは難しかった。
早いものを讃える文化でもあるのか、イヌやキツネが『ジャッカル号』に群がる。
エンもイヌやキツネよりは早かったのもあり、エンやノキもたくさんのイヌやキツネに群がられることとなった。
「ふふふ、描けたよ、みんな」
そうして日が傾き始めた頃、そんな言葉で『稲絵』は三人を呼んだ。
奇妙なことにそこにはキャンバスが二つあった。その意味を現時点で理解しているのはキャンバスを用意するように頼まれて用意したレモンだけだ。
「じゃあ、あとはよろしくね」
そう言うと同時、『稲絵』の姿が瞬き、空中に浮かび上がり始めた。
「カクリヨに行く時が来たみたい。その二枚のキャンパスはあげる。私は、記憶に頼れば、また描けるから」
ね、とノキに向けて微笑む『稲絵』。
「みんなはカクリヨにも来れるんでしょ? また会おうね!」
空高く登って行った『稲絵』はやがて見えなくなった。
「キャンパス、見てみようよっ」
レモンが二人を促す。
二人がキャンパスを拾い上げる。
そこにあったのは、鮮やかに描かれた少年の絵と、そしてもう一枚は。
バイクに乗って走る少女とバイクと共に走る青年、そして、食べ物の真ん中で笑顔を見せる若い女性。
そう、自分たちを助けて宴に参加したノキ、エン、『ジャッカル号』、レモンの絵だった。
それはカクリヨに渡ってUDCアースからいなくなった『稲絵』の最後の痕跡であり、猟兵達との絆の証だった。
大成功
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