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目減りせぬ桁を知らぬ、海の月

#ケルベロスディバイド #ノベル

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馬県・義透




●戦いの代価
「ぷきゅ!」
 巨大クラゲ『陰海月』はごきげんだった。
 なんでごきげんだったのかというと、今日は趣味であるぬいぐるみ作りの材料の買い出しに出ているからである。
 此処はケルベロスディバイド。
 湾岸に面した決戦都市に馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』と共にやってきていた。
『霹靂』はお留守番である。
 デウスエクスとの戦いは、苛烈なものであった。
 だから、というわけではないのだろうが、頑張ったご褒美に、とこの世界の布や綿、糸などを勝ってもらうのだと手芸店を探し回っているのだ。
 ワクワクしている様が、その巨大な体から伝わってくるのを『疾き者』は微笑ましく思っていた。

 だが、しかし、である。

 彼はどうにも落ち着かない様子であった。
 何故かと問われたのならば、彼がこの世界で用意してもらった口座に刻まれた数字のせいである。
 なんだかよくわからない金額が振り込まれているのだ。
 正直に言って怖い。
「特務機関DIVIDE……と言いましたか……確かにデウスエクスの襲来はケルベロス……ユーベルコードを扱う者なしでは抵抗しきれぬもの。とは言え、この報酬は破格なのでは……?」
 いや、命がけで戦うのだから、この世界の関係者に言わせれば、打倒な数字である。
 けれど、もちなれぬ金額が振り込まれているとあってはどうにも腰が退けてしまう。それ以前に自分たちにはそう金銭を多く必要としていないのだ。
 持て余す、というのが正直な感想であった。
 とは言え、返す、というのは責任者である『エイル』博士に渋い顔をされてしまった。
 彼女いわく、『もらっておくべきものをもらっておいてくれないと』、ということであった。つまりは、そのために組まれた予算の否定になるからだ。
 そうなれば、次から予算が削られてしまうから受け取って置いて欲しい、とのことだった。なんとも世知辛い。

「ぷきゅ?」
「手芸店、見つかりませんね?」
 そう、このケルベロスディバイドの世界は地球が一丸となって急速に戦うための文明を引き上げた世界である。
 となれば、他の文化がおろそかになるのも頷ける。
 とは言え、この決戦都市においては、の話だ。他の決戦都市ではこうした事情はないかもしれない。
「ぷきゅ~……」
「困りましたね。折角来ましたのに……他の世界のものでは……はい、ダメですよね。うむ……ええと、確か此処にコールすれば」
「はい、ご用命頂きました。私はサポートAI『第9号』です。ご要件をお伝えください」
 ホログラムが目の前に浮かぶ。
 それはこの決戦都市にて暮らしをサポートするAIであった。

「少し困っておりまして。手芸の……糸や布を扱うお店を教えて頂きたいのですが」
『検索、該当件数はございません。ですが、布、糸、ということでしたら、『エイル』博士のラボへとお越しいただけたらと思います」
 その言葉にしたがって『疾き者』たちはラボへと向かう。
「やあ、よく来たね。布や糸が必要とのことだが、そこの倉庫を当たってくれたまえ。そこに多くの試作品やらなんやらが纏められている。会計は君の口座から引き落とせばいいのだろう? ああ、いい、いいよ。任せておいてくれたまえ。好きに選ぶといいよ」
『エイル』博士は何やらホログラムをタッチしたり、ヘッドマウントディスプレイで何やらやっているようである。
 疾き者』はそういうことなら、と『陰海月』に伝える。

 すると『陰海月』は飛ぶようにして倉庫の中へと入り込み、しこたま多くの布や糸を持ってくる。
「ぷきゅ」
 まだいいかな? と首を傾げる。
 けれど、『疾き者』は深く頷く。その様子にちょっとひっかかるものを覚えたのだが。
「いいのですよ。どの布も。好きなだけ持ってきなさい」
「ぷきゅ?」
 おかしい。
 いつもなら予算を伝えられるのに。ああ、もしかして、と『陰海月』は合点がいく。これってもしかして世に聞くボーナスっていうやつのなのかな、と。

 だが、『疾き者』たちは準備された口座の数字が、桁がまるで減っていないのを見てまた愕然とするのだ。
「……値引き、とかしておりませんよね?」
「する理由、あるかい? ちゃんと真っ当に引いてあるさ。何を疑っているんだい」
「いや、その」
 桁が減ってないからなんですけど、というこちらの言葉は届かない。というか、あまり意味をなしていないようだった。

 けれど、『陰海月』が喜び勇んでいるのを見れば、まあ良いかという気持ちになる。
「ぷきゅ!」
「……何? 玩具、土産? そうしたものはないのだが……ああ、そこの3Dプリンターを使うといい。なんだか最近の子らの流行りの玩具が出力されるだろうさ」
 その言葉にまた『陰海月』は興味津々。
 結構な値段のはずだが、しかしまるで口座の金額は一桁も減ることなく、お買い物というにはあまりにも盛大な……いわゆる爆買いを終えるのであった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月12日


挿絵イラスト