目覚めよ、スイセイの意志の元に
走り屋マクベス――かつて、そう呼ばれていたときのことを思い出す。
何のしがらみもなく、ただただ、改造バイクで走り回って運び屋をしていた頃のことを。
それもつかの間。
今やマクベス……いや、クロムキャバリアに存在する小国家『アカホシ皇国』の第二皇子にして、皇家の所有するスーパーロボット『スターナイト』の現操縦者である幕部・スイセイ(走り屋マクベス・f40740)は、失意の底にいた。
先ほどの戦いで、皇国と敵対するバーナム庭王国の策略により、スイセイにとって大切な番能・クォーツの意識はまだ戻らぬままだからだ。
「……」
懐かしさを感じる児童養護施設の自室で、未だスターナイトを操縦出来ない無力さに、自責を重ねている様子。
「情けねえ……俺は結局、肝心なところで護られてるだけじゃねえか」
握りしめる拳から血がにじむのを感じた。かといって、その痛みはスイセイの気持ちを更に落ち込ませていく。
だからこそ、立ち上がり、近くの壁にその拳を叩きつけた。
「そのせいでクォーツまで……」
悲痛な面持ちで、スイセイは自分を責めることを止めない。
それが、今の彼には必要なのだ。大切な相手を失くしかけたときに気づく愚かさを償うには、それだけでは足りないと彼は思い込んでいた。
――そのときまでは。
突如、彼とクォーツの眠る部屋が、爆発音と共に揺れた。
外が騒がしい。
「ちょっと行ってくる」
並々ならぬ胸騒ぎを胸に、スイセイはそっとクォーツを頬に触れ、そして、部屋を後にした。
外に出ると、町を守る外壁を打ち破ろうとするキャバリアの姿を目撃した。
「……あ、あれはっ!!」
スイセイは目敏く見つけた。その肩部に、バーナム庭王国を示す国の刻印が記されていることに。
「……また、奪おうってのか」
先ほどの失意が、じわりじわりと怒りへと変わっていく。
「昔、この国とてめえらの間に何があったかなんざ、俺は知らねえ……だが!!」
吐き捨てるようにスイセイは、キッと敵のキャバリアを睨みつけた。
「これ以上、俺が護ると決めたモンを、奪おうってんなら!」
そのスイセイの胸に宿るは、熱き闘志。
「何より、戦う力のない奴さえ、戦いに巻き込もうってんなら!」
その曇りなき灰の瞳に、敵影が映り込む。
「てめえらを絶対に許さねえ!!」
ばんと、踏み込んだその足に呼応するかのように。
ズドオオオオオンンン……!!
何か巨大な物が、スイセイの側に飛来した。
思わず、あっけにとられるスイセイが見上げた|それ《・・》は。
――スターナイト。
皇家の所有するスーパーロボットが、スイセイの心に応えるべく、やってきたのだ。大柄な巨躯に無骨で簡素なフォルム、山吹色と黒で統一され、胸に掲げるのは輝く大きな星のシグナルコア。
しかもスターナイトは、倒すべき敵を強く睨みつけるかのように、見据えていた。足元にいるスイセイなど、見向きもしないで、だ。
そんなスターライトに思わず、スイセイの顔に笑みが浮かぶ。
「行くぞ、スターナイト!!」
スイセイの言葉に、スターナイトの目に明かりが灯る。慣れた所作で、するりとスターナイトに乗り込むと、スターナイトの胸にあるシグナルコアが翠色に発光してみせた。
『……聞こえるか、そこのスーパーロボットのパイロット』
と、そこに通信が入る。
「その声……もしかして、訓練の時の」
『その声は、マクベスか』
相手はキャバリア操縦の訓練で世話になったことのあるアス・ブリューゲルト(蒼銀の騎士・f13168)だった。見れば、敵から人々を守るためにキャバリアを繰って向かっているのが見える。
『ようやくそいつを動かせたのか……だが、初陣はかなり危険だ。俺も向かうから、絶対に無茶をするなよ』
「言われなくても分かってる!!」
二機のキャバリアが、襲い来る敵の方へと向かい、そして。
「天の道理に背こうと、道は自分で切り開くッ!!」
アマツストレートナックルだ。魂を込めたスターナイトの拳が敵の腕を破壊して見せる。
『前に出すぎだ……!!』
アスは後方から、スイセイのフォローをすべく、ブラスターで牽制をかけていく。敵は1体だけではないようだ。
「凶星さえも従えて、この|憤怒《いかり》で灼き尽くすッ!!」
咄嗟にスイセイは、カガセオヴォルテックレーザーを放って、雑魚のようなキャバリアを一掃してみせる。しかも、味方には攻撃力と防御力の強化も与えるという、優れものだ。
『マクベス、気をつけろ!!』
「くっ……!!」
突然、いくつものフォトンレーザーがスターナイトを襲った。どうやら、司令官機であるサイキックキャバリアが、スターナイトを見つけ攻撃してきたようだ。
『貴様!! スイセイだな!! 今度こそ貴様を倒し、王子に認められるのだ!!』
「女なのか!?」
突如、響いた女性の声に、スイセイは驚きながらも、二度目のレーザーを何とか躱して見せる。
『マクベス、油断するな!! 相手は女でも敵だ』
「……わかってるっ!!」
ちらつくのは、後方の施設で眠っているクォーツの顔。だからといって、譲るつもりもない。スイセイにとっても、背後のクォーツ、そして、人々を守ることは絶対なのだ。
「……やられて、たまるかっ!!」
スターナイトは、大きく飛び上がり、そして。
「爛々輝く翠星が、てめえの非道を打ち砕くッ!!」
一か八かの大勝負。それにスイセイは勝った。
スターナイトが放った全力を込めたミカボシライドキックが、敵のキャバリアを蹴りつぶしたのだ。
『お、覚えていろ、スイセイ!! この次は必ず、貴様を殺すっ!!』
幸いというか、敵は爆発する前にコクピット部分をパージして、行きていた模様。敵の仲間らと共に撤退していく。
「大丈夫か、マクベス!!」
外からアスの声が響く。最後はちょっと格好悪い形で終わった。キックを終えた後、少々態勢が崩れ、そのまましゃがみ込むかのように倒れてしまったのだ。
「ああ、ちょっとここから動けないけどな……」
そう呟きながら、コクピットを開けると、そこにはスイセイの無事を確認し、笑みを浮かべるアスが覗き込むのが分かった。
こうして、スイセイの初陣は、皇国のスーパーロボットを使って、町の被害を最小に守ったという結果に終わったのだった。
「早く目覚めてくれよ、クォーツ……」
そのスイセイの願いは、きっと近いうちに……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴